西東京第三地区スライム配管調査
『グヒャァァァァァァ!!!』
「いやぁぁぁぁぁぁあぁーー!!!!」
「ボス!何か策は?!」
「目当てのやつだが、とにかく逃げるぞ!!」
退化して目が無くなった大型の蛇型召喚獣の慟哭で揺れる半透明の弾性のある配管内にて、防護服に身に纏った時雨、玄道、才亮らはサンドワームのようなソレから全力逃げていた。
時は少し遡りお昼頃、いつもより静かな即応科棟の屋上にて、仮眠室のシーツや布団、スリッパなどが陽の光と風に浮かび波を打っていた。
「.....うむ」
朝から即応科周りの掃除と水回りの掃除、洗濯をしていた玄道は波打つ白いシーツに靡いている陽の光を見て満足気にしていた。
が、その余韻は長くは味わえなかった。
「玄道、出動だ」
「うむ」
彼は屋上に迎えにきた才亮に二つ返事で切り上げて向かった。
「ーーー・・スライム配管?!え、入って大丈夫なんですか?!」
ーーーースライム配管。
スライムで形成された配管の事で、光ファイバーも付随しておりその他インフラ機能を担っている。
「あぁ、どうも何かに食い破られたらしくてな、修繕は終わったらしいが、その調査を要請されてな」
「え...ドローンとかで良くないですか?」
「それは物理的に使えない。特殊な防護服を着て生身で行くしかない。」
「っ....」
プラプトルの快速に前髪を持ってかれている時雨は限られた物しか入れないところへの調査というのに尻込みしていた。
「時雨....」
才亮は何かそういうトラウマでもあるのか、いつものイヤイヤ期とは違う険しい顔をしている彼女の名を呼ぶ。
「また...私....フェロモン液とかでびしょびしょにされて囮にされませんよね?」
「...ふっ...今回はびしょった時点で全員溶けるだけだ。」
「ファッ?!」
思ったよりも大した心配をしていなかった時雨で、才亮はふっと息を吐いてそれをゆうに飛び越えた。
場所は総合水道局の支部内に入り、地下へ向かった所でウィンドシャワーを済ませてスライム配管へと続く扉に併設された一室で防護服に着替えることになった。
「....わっ、ピッタリです。」
着ぐるみくらいの大きさの防護服だったが、手首のボタンを押すと勝手に自身のスタイルに密着する形だった。
「これの耐久性は折り紙付きだから、スライム配管内で溶ける事もない。」
「うむ。」
「いや、今回がこれを溶かせる召喚獣だったら....」
「まぁ、なんとかなるだろ」
「うむ!」
才亮に絶大な信頼を寄せている玄道は小気味良く彼に同調していた。
「..すみません、私はここまでになります。数時間して帰って来ない場合は救出連絡を入れます。」
そして、一通りのレクチャーと防護服の着用確認を終えた水道局の女性はそう言って彼らを頑強な扉へと案内し、扉の前の中間室に彼らを残した。
『...10秒後に開きます。少し離れててください。』
扉近くの制御室へと入った女性はスピーカー越しにそういうと、ゼンマイ仕掛けになっている頑強な扉は一切の音も立てずにゆっくりと回転しながら開いた。
「っ...」
それは薄く透明な水色の腸壁のようなものが奥まで続いており、光ファイバーや他の機能もになっているためか数メートル先くらいは見通せるくらいの明るさであり、静かに胎動しながら光が配管ないを通っていく様は神秘的であった。
「時雨。入るぞ」
「あ...はい!」
校外学習でスライム配管の一部を見たことはあったが、まさかこんなものが通っていたとは知らず感動していた彼女は才亮に気付かされて、彼の後を追った。
「...あんまり詳しいわけじゃないですけど、召喚獣といえどもスライム配管に侵入なんてできるんですか?」
しばらく前へ進み30分程経ったところで、時雨は今回の事案について気になっている点を才亮に聞いた。
「侵入自体はそう難しくない。」
「え、そうなんですか?」
「あぁ、玄道くらいの召喚獣持ちなら人間2、3人分は配管に風穴を開けれる。」
「えー...それって不味くないですか?」
玄道のウロコノムシは即応科で最前線を張れるほど強力ではあるが、一個人でそれができてしまう程度の配管の耐久度へ懸念を抱いた。
「うむ、入るまでに地下を掘り進めた時点で必ず警察か水道局、鉄道機関が感知する。スライム配管に入ったとしても、防護服かこれに準ずるものを装備しなければ出る間にそのまま消化吸収され、開けられた穴を補填するエネルギーとなる。」
「.....」
玄道がその辺りを補足すると、時雨はスライム配管に人が立ち入ることへの紙一重具合に沈黙した。
「その代わり、スライムが逐次代謝すると共にメンテナンスはほぼ完了し、耐久年数もシステム的に半永久だから、アジアと日本は果てしない恩恵を享受している。」
「....なんとか、スライム配管と共生する召喚獣とかに、今回の事案代行させられませんかね」
システム的にも完璧な上下水道とゴミ収集、回線などの機能を一緒くたに完結しているスライム配管に、一つだけ批判するのであれば自分らが行かなくとも配管内の外敵とかを倒してくれる白血球みたいな召喚獣が共生してくれればと憂いた。
「「......」」
「え、まずいです?」
足を止めて静かに少し一考した彼らに、また...自分何かしちゃいました?と思った彼女は焦り気味にそう聞いた。
「....あー、一応はいるなそれ」
「うむ。」
才亮も玄道も前提知識なしでの彼女からの案には感心していた。
「ただ...まぁ....その辺は考え尽くしてそうではありますが...」
彼女自身もそこそこ有効な案だとは思っていたが、日本のトップインテリジェンスの極致であるスライム総合工学でその辺りは過去の議論になっていそうであった。
「.....一応、スライム配管への点検特化スライムはいるが、侵入した外敵へ攻撃するとかは...俺もそこまでは知らない。」
「え、才亮さんでも知らない事があるんですか?!」
「うむ、それには同意する。」
時雨はいつもは一部の人しか知らないような情報でもやんわり教えてくれる才亮が答えにあぐねている姿に驚いており、玄道も同じ感想を持っていた。
「....お前ら...俺は何でもは知らない。まぁ....知らない事は知ってるせいでわかっちまうが...」
「...???」
明確なようではっきりしない彼の反応に時雨はそれを消化しきれずにいた。




