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壊れた希望のセカイ  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
閉塞のセカイ

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カナの結界 前編

「なぁ、カナとミサが街に入ったぞ」

「見えてるよ」

「あのさ、どうせこっちは見えてねぇんだろ?」

「だから、私達も街に入るって?」

「そうだよ。のっぱらで寝そべってるのは、悪くねぇけど飽きるんだよ」

「わかるけどさ」

「なぁ、行こうぜ」

「駄目よ」

「いいじゃねぇか、わかりっこねぇよ」

「カナちゃん達を侮らない方が良いよ」

「そうじゃねぇよ。下っ端連中だけずるいだろ!」

「下っ端って言わないで!」

「あぁ、もう! 悪かったよ」


 なんだよ、睨むんじゃねぇよ。どうせ「みんな悩んで苦しんで、それでも付いて来てくれてる」とでも言いてぇんだろ。そんな事わかってるよ。


 洗脳を解いて「さぁ、君達はこれから自由だ」なんて言った所で、何をしたらいいかわからねぇんだよ。そもそも自由なんてもんは存在するのか?

 だってよぉ、人間は動物とは違って獲物の獲り方を知らねぇんだ。飯を食うにしたって寝る場所を確保するんだって大変なんだ。

 働かされて金を貰って飯を食って寝て、また働かされる。そりゃあ、ガキと大人は同じ仕事を出来はしねぇよ。でも、そんな毎日を送ってから生きてこれたんだろ?


 洗脳から解かれたって、そのまま放置なんてしたら野垂れ死ぬだけだ。生まれたての赤ん坊に乳もやらずにほっぽらかすのと一緒だ。

 だからってなぁ、聞こえの良い言葉だけ吐いて従わせてるんなら、アレのしてる事と大差ねぇだろ。それよりもっと酷いのは、あいつ等にも殺す事を強制しなきゃならねぇって事だ。これから解放する奴等にもな。だって、アレが黙ってるはずがねぇだろ。そりゃあ戦争になるに決まってる。


 俺もパナケラも、勿論ソウマ達だって同じだ。何も知らずに蹂躙される方が良かったってなんて思わねぇ。俺達は『生き方』って奴をてめぇ自身で選んだんだ。だからどんな結果になったって、どんなに後悔したって、アレの言いなりのまま死ぬよりはマシだって思う。でも、他の奴等まで同じ様に考えるとは限らねぇだろ?


 だから、善意の協力者だけ残して、後の奴等は開放してやりゃあ良いんだよ。可哀想だとは思うけど、結局は命を狙われる。それから逃れる方法なんてねぇ。でも、一方的に殺されるのと抗った上で殺されるのは、全く違うだろ? 道を選ぶってなら、その時で充分なんだよ。


「ねぇ、ねぇってば。イゴーリ、聞いてる?」

「あぁ?」

「あのねぇ。港町は人の出入りが多いから他の所より慣れてる人が多いと思うけど、普通なら余所者ってだけで警戒されるよ」

「それなら余計に、連中を先に行かせたのは不味いじゃねねぇの?」

「それはいいの。みんなには、他の街にも慣れて貰いたいし、色んな事を経験して選択肢を増やして欲しいもん」

「お人好しだな」

「それより見て、カナちゃんがはしゃいでる。可愛いね」

「子供は可愛いんだよ。パナケラだって、カリスト様に頭を撫でて貰っただろ?」

「まぁ、そうだけどさ」

「それより良いのか? うちの職員にも声をかけてるぞ!」

「おっ、ちゃんと街の人達の真似が出来てるね。うんうん、自然な演技だよ」

「褒めてる場合かよ」


 それで良いんだよ。無視されるカナちゃんとミサちゃんは可哀想だけど、あの光景が普通なんだから。

 アレの支配から解放された人達と違って、ここで生きる人達の中に『異端のカナとミサ』は存在しない。だから、そこに居た所で視界には入らない。話しかけられても、それに答えるって選択肢が存在しない。


 だから考えて。あなた達はどうしたい? この街をどうしたい? この街の人達とどうなりたい?


 私達だけじゃ足りない、仮に全ての人を解放しても未だ足りない。あなた達の選択は大きな変革を齎す。だから希望なんだよ。


「それにしても呑気だな。あいつ等は知らねぇんだろ?」

「病気が蔓延してる事?」

「そうだよ。こんな所で覗きをしてる俺達が言えた台詞じゃねぇけどよ」

「大丈夫。あの子達は必ずみんなを助けるよ。あの子達が間に合わなくても、私がいるんだし」

「まぁ、医療局の連中は勤勉だからな。局長を除いてな」

「酷いよ!」

「おっ、近くで見ると以外と足早いな」

「あ~、走ってるね」

「あの先は埠頭だろ? おっ、あれに興味を持ったのか? 独り寂しく釣りをしてる奴」

「海自体が初めてだろうしね」

「にしても冴えない面してやがる。あいつで良いのか?」

「ふふっ、きっと面白くなるよ」

 

 他の人と同じ様に釣りをしてる男性からは無視をされてるけど、二人は諦めずに話しかけてる。あの子達の興味が釣りだけに向かなくてよかった。

 きっかけは何でもいい。この街の人と関わって現状を知れば、必ず二人は後先考えずにやらかす。私達はそれを待ってるんだ。


 この港町は、前に結界を作った村とは規模が違う。それに、局員のみんなが調べてくれた限りでは、半数以上の住民が病気に罹ってる。残念ながら既に死者が出ている。これ以上、死者を出す訳にはいかない。

 もし、あの子達が行動を起こさなければ、私と局員達で対応する。あの子達が行動した結果、前に張った結界程度の効果しかなければ、やっぱり私が処置しなくちゃ駄目だし、ソウマの計画自体を見直さなきゃいけなくなる。


 まぁ、そんな事にはならないと思うけどね。


「おい、ちゃっと見てみろよ。すげ~ぞ、あいつ等。あの冴えない奴に飯をくれてやったぞ」

「ほんと? お~、相当お腹が減ってたんだね」

「何か話しをしてるな。何だ? 異端だけが持つ特殊能力なのか?」

「そうかもね。二人が認識される事自体が異常なんだし」

「ミサは怪訝そうな顔してんな」

「賢い子よね」

「カナは騙されやすそうだな」

「ソウマの餌食になるわね」

「あの冴えない奴、意外とやるな」

「海の異変に気が付いてるのよね。ある意味、ああいう人も異端なのかも」

「流石に原因までは特定出来てねぇようだがな」


 何百万だか何千万だか正確の数はわかんねぇけど、増えれば増えるほど操る精度が低くなるのが出て来るんじゃないか。あのジジイだって単にボケた訳じゃねぇ、元から変で迷惑な奴だった。

 でも、それは特別なんかじゃねぇよな。周りと違うから排除され易い。かなり生きづらいだろうよ。多分あの冴えない面は、苦労した結果って所か?

 流石に可哀想だとは思うけどな。例え誰かに支配されてなくても、そういう奴が居なきゃ停滞した状況は変わらねぇ。


「カナちゃん達も一緒にご飯を食べるみたいね」

「全部食われちまったからな」

「あいつ等、飯をどっから出した?」

「鞄でしょ?」

「あんな小さな鞄に、材料だのがそんなに入るか? 面白れぇもん持ってるな。解析してぇ」

「もう! そんな事ばっかり!」


 釣りをしてた人が特殊だったのは少し予想外だった。これも異端の力なんだろうか。どちらにしても動き出した。ミサちゃんは、港町を取り巻く現状に気が付いたかな? 今回は結界を張るだけじゃあ対処は出来ないよ。


 謎の病気が蔓延してる、その原因は海に有る。あなた達は放って置くことなんて出来ないよね? さて、どうする? 何から手を付ける? 原因の特定かな? それをしていたら、患者の状態は酷くなっていく、死者を増やすだけ。だからって、海の異変を放って置いたら患者は減らない。


 さぁ、あなた達の決断を見せて? 希望の光を私に見せて!

次回もお楽しみに!

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