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閑話 はじめての責任放棄!


前回の閑話のあらすじ


アルテミスの本性がついに現れ、好き放題!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


9/8 世界観の世界編!に一部追記をしました。

   追記箇所は、『神族系図』・『奴隷』の⑩となります。


side -デメテル-


□□□□ ~長女の苦悩~ □□□□


よかった。本当によかった。

これ以上無駄な出費をせずに済みそう。


アテナさんの付き神である勝利の女神ニケさんに破壊された『時の水晶』の数はゆうに100を越えている。

この『時の水晶』もタダではない。経費が掛かっている。それもかなりの値段・・・。

この時点でお給料の3ヶ月分は既になくなるとみて間違いない。


よかった。本当によかった。

これで付き神であるイアシオンとの結婚資金を・・・いや、逃亡資金を失わずに済む。


・・・。


私はこの神界から逃げ出したい。


イアシオンと結婚させてもらえないなら、一緒になれる自由な場所を求めたい。

自分の娘でありながら、性の対象として気持ち悪い視線で見てくる父から少しでも離れたい。

自分勝手で無責任な上、仕事は他人任せ。そのくせ何かあると私に全て放り投げてくる妹達から逃げ出したい。


私はこの神界から逃げ出したい。


神の力を失ってもいい。隣にイアシオンさえいてくれるのなら・・・

神としての地位を失ってもいい。嫌悪している父から逃げられるのなら・・・

神族との縁を失ってもいい。長女としてわがままな妹達の面倒を見なくて済むのなら・・・


私はこの神界から逃げ出したい。


富も栄誉も望まない。イアシオンと一緒にいれる幸せだけあればいい。

地位も権力も望まない。父の魔の手からこの体を守ることさえできればいい。

家族も血縁も望まない。厄介事しか運んでこない妹達から解放されるだけでいい。


私はこの神界から逃げ出したい。

私はこの神界から逃げ出したい。

私はこの神界から逃げ出したい。


「デメテル?どうかした?」

「.....なんでもない」


妹であるアルテミスが声を掛けてきた。


「あ~あ。せっかく面白そうな展開になりそうだったのにな~。

 男らしく強引に女の子も一緒に連れていけっての!全くアユムっちには期待して損した~」

「・・・」


アルテミスは心底残念といった表情をしている。

まるで遊ぶべきおもちゃを失ったかのように・・・



私は今すぐにでもイアシオンと一緒にこの神界から逃げ出したい。



□□□□ ~手のかかる妹アルテミス~ □□□□


私、豊穣の女神デメテルと妹である狩猟の女神アルテミスは、同じく妹である知慧の女神アテナさんの管理ルームにお邪魔をしている。

アルテミスがアテナさんの元へと遊びにいくと言うので、付き添っている。


私の仕事は幾つかの世界の管理と妹達の仕事の監督、そして、長女として妹達の世話を見ること。

私自身の仕事は常に完璧。ミスなどをして、無駄に父に会いたくはないのでいつも必死になっている。

妹達の仕事の監督も問題ない。妹達は基本付き神に任せっきりなので、むしろ順調なぐらい。


一番厄介なのが妹達の世話。

これが本当に大変。


次女である家庭の女神ヘスティアはいつも寝てばかり。

起きていることが滅多にないので、ヘスティアの分まで私が仕事をしないといけなくなる。

でも、面倒事を運んでこない辺り、まだマシな妹。


三女である愛と美の女神アフロディーテはいつも情事ばかり。

次男である戦争の神アレスのところに入り浸る日々。なんでも付き神エロースに唆されたのでは、との噂も。

三男である鍛冶の神ヘパイストスとの離婚問題には手を焼かされたけど、今は落ち着いている。


末っ子である知慧の女神アテナさんとは年が離れすぎている影響もあって親交は希薄。

父は今、アテナさんに夢中らしく秘かに感謝している。自由奔放で自分に素直なところは羨ましく思っている。

勝利の女神ニケさんがとても優秀な女神なので唯一面倒事を運んでこない妹。


そして最後は・・・


「アルテミス様?一応、歩様は泥棒猫の毒牙から難を逃れられたのでしょうか?」

「そうみたいだね~。でも安心しちゃいけないよ?泥棒猫は再会の約束をしていたからね」

「どういうことでしょうか?」

「次に会うことを匂わせることで、アユムっちへの印象操作を行ったんだよ。

 泥棒猫の事でアユムっちの頭の中をいっぱいにして、ニケちゃんへの愛を少しでも薄めようとする作戦」

「な、なんと下劣な作戦!許せません!やはり神罰を落としましょう!」

「あひゃひゃひゃひゃw」


さっきから、ニケさんに面白半分で有ることないことを好き勝手に言っている四女アルテミス。

この妹が一番目を離せない。だからこそこうしていつも行動を共にしているのだけれど・・・


本当にこの神界から逃げ出したい。


四女アルテミスはとにかく悪戯が大好き。一番神にしてはいけない存在だと思う。

面白ければいいらしく、その影響で幾つもの世界が崩壊している。その尻拭いはいつも私。


あまりにも平和で平穏な世界を退屈だという理由で、バトルロイヤルの世界に変貌させたり・・・

魔王討伐に成功した勇者を、面白半分で新たな魔王に仕立てあげ、世界中の標的にさせたり・・・

異世界迷子人などと題して、別の世界に人を無許可で転移させ、苦労している姿を眺めたり・・・


数え上げれば幾つもある。

それでもアルテミスが怒られないのは、世渡りならぬ神渡りが上手いから。


・・・。


今も今とて、アテナさんの付き人に任命された男と現地の女の間柄をアルテミスの都合のいいように解釈して、面白半分でニケさんをからかい、無駄な対立を煽ろうとしている。

自分の管理する世界ならともかく、人の、しかも妹の管理する世界にまで悪影響を及ぼそうとするのだからタチが悪い。


本当なら注意をして辞めさせるべきなんだろうけど・・・


「きた!きた!!きたあああああ!!!面白そうなおもちゃがまたきたよ!」


今度は新しいおもちゃ候補になりそうな狐に目を輝かせている。

少し前に加入したドワーフには目もくれずにいたのに・・・


こうなるともうどうしようもなくなる。

アルテミスの悪戯心が収まるまで、私が何を言っても止まることはない。止める術もない。


私とアルテミスは神格は同じだけれど、アルテミスのほうが圧倒的に神気量が多い。

だから力ずくで止めることができない。

今この場でそれが可能なのは、神格は私達よりも低いけれど、神気量に於いては神の中でも1、2を争うニケさんだけ。


しかし・・・


「ニケちゃん。さっきの件どうする?悠長に構えている暇はないよ?だってまた新しい盗人が登場したからね」

「ど、どういうことですか!?」

「今アユムっちと一緒にいる狐は明らかに好意を抱いているね。しかもこれは相当だよ」

「そ、それは本当ですか!?泥棒猫と比較してどれほどの脅威なのですか!?」

「もしかしたら、前一緒にいた女の子を凌ぐ勢い。しかも前の女の子にはない色仕掛けという特技もある。

 これは.....アユムっちは骨抜きにされるかもね~。ニケちゃんも大変だねwとんだ女狐が登場したもんだ」

「.....女狐。.....猫に狐と獣ばかり。神を畏れぬとはなんと不届きものなのでしょう!」


───パリンッ!


また無駄な出費が増えていく・・・。


アルテミスを抑えられる唯一の存在であるニケさんが、もはやアルテミスの傀儡状態になっている。


今までニケさんはとても優秀な女神だと思っていた。

けれど今回の一件で、生真面目というか、疑うことを知らないというか、純粋すぎて単純な女神であると思い知らされた。


狡猾なアルテミスとは水と油、最悪の相性だと思う。


「本当、アユムっちは期待を裏切らない。まだまだあたしを楽しませてくれそう!あひゃひゃひゃw」

「・・・」


本当にこの神界から逃げ出したい。


「女狐ごときがぁぁぁぁぁ!私の歩様に触れるなぁぁぁぁぁ!」


───パリンッ!

───パリンッ!

───パリンッ!

───パリンッ!

───パリンッ!


「あ~ひゃひゃひゃひゃひゃw」

「.....(泣)」


私の逃亡資金がなくなる・・・。


本当に一刻も早くこの神界から逃げ出したい!



□□□□ ~責任放棄~ □□□□


昔からどんな嫌なことでも我慢してきた。

長女という立場上、妹達の手本となるべく、いいお姉ちゃんを演じてきた。


妹達が自由を謳歌している時、私はただひたすら仕事に励んでいた。

だって長女として、妹達の手本とならないといけないから・・・


妹達が仕事で失敗をした時、私はただひたすらその失敗の穴埋めに尽力した。

だって長女として、妹達に頼られた(丸投げされた)から・・・


妹達が自由に恋愛に勤しんでいる時、私はただひたすら隠れて愛を育んでいた。

だって長女として、神格の低い付き神との結婚はふさわしくないと反対されたから・・・


今までずっと我慢してきた。

これからもずっと我慢していくんだと思う。

変わることなく永遠にずっと我慢していくんだと思う。


私はこの先ずっと完璧なお姉ちゃんを演じて生きていかなければいけない。

何年も.....何十年も.....何百年も.....何千年も.....何万年も.....


・・・。


そんな寂しくて、辛い心境を分かってくれたのはイアシオンだけだった。


彼だけが、私を理解してくれた。

彼だけが、私を慰めてくれた。

彼だけが、私の心の拠り所とだった。


そして・・・


彼だけが、私の全てになった。


・・・。


そんな彼の一言がきっかけで私は変わった。


『この神界から一緒に逃げよう』


思いもしなかった言葉だった。

常に完璧なお姉ちゃんを演じてきた私にとっては青天の霹靂だった。


この神界(監獄)から逃げてもいい・・・

長女の矜持を捨て、責任を放棄してもいい・・・

完璧でいようとする仮面を捨てて、自由に生きてもいい・・・


・・・。


そして私の中で何かが音を立てて崩れていくのがわかった。


全てはイアシオンのおかげ。

私は彼と共に生きることを決意した。

今あるもの全てを投げ出して彼とともに・・・


だから私は、私と彼に不利益が生じない範囲で仕事をするようになった。

どうせ捨てる神界。今更頑張ったところで、私達にはなんの関係もない場所となるのだから。


それでも仕事はそれなりに真面目にはこなした。ミスをすれば父に呼び出される。

それだけは本当に勘弁してもらいたい。会えば何をされるかわかったもんではない。


私は父を絶対に許さない。

あの日、あの時、父にされたことを今でも恨んでいる。


そのことを知って、ただただ嫉妬に狂った母も許さない。

私に迷惑ばかりかける妹達には最低限にしか関わり合いたくない。

父と同じ血が流れている弟達の顔なんてこれっぽちも見たくない。


私にはイアシオンさえ居てくれたらそれでいい。

彼が私の全てであり、彼が私の生きる目的なのだから。


・・・。


だからめんどくさいことには関わり合わない。それが今の私。

めんどくさそうと思ったら、責任を放棄すればいい。不利益が生じない範囲で。


「ほらほら~どうするの?ニケちゃん。さっきのはアテナっちのおかげで未遂で済んだけど、

 このままじゃ~、いずれアユムっちは女狐の餌食になるだろうね~。

 アユムっちがニケちゃんの為にと守ってくれている『初めて』は女狐のものになるのは時間の問題だよ?」


アルテミスはまた性懲りもなく、ニケさんを煽っている。

何か良からぬことを企んでいるのがバレバレでうんざりする。


「くっ!」


そして、そんな見栄すいた煽りに簡単に踊らされるニケさんは憐れでしかない。

アルテミスのいいおもちゃにされているのだから。


それでも生真面目なニケさんはさすがだと思う。

アルテミスの煽りにもめげず、ひたすら神界規定を守ろうとしている。

その生真面目さ故に、神の中でも絶大な力を有する勝利の女神の役割を与えられ、そして父のお気に入りであるアテナさんの付き神に選ばれたんだと思う。


しかし・・・


「ニケちゃんも頑なだね。でもそれはアユムっちの愛を確信しているからだよね?」

「そ、その通りです。私と歩様の間には確固たる絆がありますので」

「甘い、甘いよ、ニケちゃんは。万能であるニケちゃんとは違って、アユムっちは不完全な人間なんだよ?

 それでどうして気持ちが揺るがないと断言できるの?今までのアユムっちを誰よりも見てきたのはニケちゃんでしょ?」


ニケさんがたじろいでいる。

誰よりも嫉妬に狂い、誰よりも心配しているのは自分自身だとわかっているのだろう。


「経験豊富なあたしが断言してあげる」


アルテミスはまだ付き合った経験すらないでしょ。

本当、口と嘘、弓だけは上手いんだから。


「ニケちゃんがこのままだと、アユムっちは間違いなく泥棒猫か女狐に取られるよ」

「ど、どうしてですか!?」


「簡単だよ。アユムっちに対する気持ちが全然違う。

 今ニケちゃんがあの二人よりも愛されているのは、アユムっちがニケちゃんを好きなだけだから。

 もしなにかをきっかけに気持ちが揺らぐようなことがあったら間違いなくあの二人に遅れをとるよ」

「!?」


「だってそうでしょ?あの二人は全てを投げうってでもアユムっちの側にいようとしている。

 対してニケちゃんはどう?いつまでも、規定が、規定が、とくだらないことに執着している。

 あの二人とニケちゃんと、どちらがアユムっちのことを想っているんだろうね?」

「・・・」


もうダメかもしれない。

単純なニケさんに感情論をぶつけてきている。

ニケさんが陥落するのも時間の問題かもしれない。


「仕事と男、どちらを取るかだよ、ニケちゃん!」

「.....歩様か仕事」


「ニケちゃんはいつも頑張っているんだし、今回ぐらい規定を破っても誰にも文句は言われないよ!」

「.....そ、そうでしょうか?」


「いつも頑張っているご褒美と思えばいいじゃない!ニケちゃんにはその権利がある!」

「.....褒美.....頑張ったものには報いなければなりませんよね」


「その通り!それはあたし達、神にも適用されるんだよ!」

「.....神にも適用される」


「目の前にあるチャンスを掴み取らなきゃ!いつまでもそのチャンスがあると思ったら大間違いだよ!

 それは勝利を司るニケちゃんが一番わかっていることでしょ?」

「!!!」


ニケさんの顔つきが変わった。

もう確実に堕とされたとみていい。


・・・。


アルテミスとニケさんが何やらこそこそ話し合っている中、私はもう既に関心を失っていた。

ニケさんが堕とされた時点で、私はこの案件からは責任を放棄した。


今日も神界は、いつも通り、神の気まぐれが横行している。



早くイアシオンに会いたいな。



side -デメテル- 終了


次回、幕間!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


これで、ニケ・アルテミス・デメテルの3女神の人となりが、なんとなくですが描けたと思います。

本編のヒロイン達とどう関わっていくのか、今後を楽しみにして頂ければと思います。


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