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第32歩目 はじめてのピンチ①!雇用契約3日目


前回までのあらすじ


ニケさんに刺されるってマジ!?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


愛に生きるか、欲望に生きるか。


ダンジョン35階層


「驚きました。まさか一気にここまで攻略できるなんて」


ラズリさんが驚くのも無理はない。

昨日は20階層で引き上げてきたのだから。


「確かギルドの情報だと、この階層(35階層)まで攻略されてるんですよね?」

「はい、その通りです」


他のPTのダンジョン攻略速度が予想以上に早い。

一昨日までは20階層までだったのに、昨日だけで15階層も攻略されている。


「だったらのんびりしてる暇はないですね。俺の目的はダンジョンのクリアですし」


「ダンジョンのクリアって.....アユムさんはまだAランクになったばかりじゃないですか?なんでそんなに急がれるんです?アユムさんの実力ならいずれはクリアできますよ?」


そりゃあ、ニケさんに会えるかもしれないからだよ。

ラズリさんに知られるとめんどくさそうだから言わないけど。


「・・・」

「なにかよほどの事情がおありなんですね。わかりました。何も聞きません」


なんか勝手に納得してくれた!助かる!

空気が読めるって素晴らしいよね!さすがラズリさん!


しかし俺は忘れていた。

こいつがいる限り穏便に済むはずがなかったのだ。


「ラピスー。歩はねー、ただニケに会いたいだけだよー!」


そう、みんなご存知の駄女神ことアテナ。

せっかくラズリさんが空気を読んで、勝手に納得してくれたのに早々にバラしやがった。


「お前ふざけんな!?黙ってろ!」

「ふえ~~~~ん(´;ω;`)だだだだって間違ってないでしょー?」


間違ってないけど空気読めよ!


頬をつねられたアテナはかなり痛そうに喘いだ。

ただ慌ててつねったからか、力の加減を間違えてしまったようだ。


(痛かったか?悪い。でもニケさんのことはラズリさんには内緒だ)


俺はアテナの耳元で囁いた。


「歩、くすぐったいー!なんでひそひそなのー?」

(バカ!声がでかい!ラズリさんに聞こえるだろ!)

(うんー。でもなんでー?)

(なんでもいいんだよ。内緒にしてくれたら、お菓子いっぱい買ってやるから)

(ほんとー!?わかったー!約束だよー!)


───ギュッ!!


アテナに約束のハグをして、黙らせることにした。


「にへへー!歩、あったかいー!」

「う、うるせぇな!」


アテナがハグに対して嬉しそうに、にぱー☆と微笑んできた。

本当にこのにぱー☆には癒される。


「そのハグって.....アテナさんと約束される時のハグですよね?何を約束されたんです?」


鋭い!?

ラズリさんは俺達をよく見てるな。


「な、なんでもないですよ」

「(じ──────)」

「な、なんです?」


「アユムさん。アユムさんは嘘をつけないタイプみたいですね。気をつけたほうがいいですよ?」


───ゾクッ!!


その言葉を聞いた瞬間、背筋に恐ろしい戦慄が走った。


なんかこう浮気を問い詰められているような感覚。

この26年間彼女なんていた試しはないんだけどね。


「ニケさんって.....女性ですよね?」

「と、友達ですよ」

「友達かどうかなんて聞いてません。女性ですよね?」

「おと.....」

「アユムさん?嘘.....ですよね?」

「じょ、女性です」

「素直でよろしい」


ラズリさんがにこっと微笑む。

いつものラズリさんの笑顔できれいだけど、愛でる余裕はない。


「アテナさん。ニケさんって、アユムさんの彼女ですか?」

「私知らないよー!なーんにも知らないー!」

「・・・」


ナイスだ!アテナ!

バカなのに約束は守れるんだな!


「教えてくれたらアユムさんよりもたくさんお菓子あげますよ?」

「ほんとー!?で、でもー。約束したしー」


アテナを買収だと!?

汚い!汚すぎるよ!ラズリさん!


その後ラズリさんとアテナはこそこそ話し出した。

次第にアテナの瞳は輝き出して.....


もうダメだ。きっと買収されたな。


「ニケさんはアユムさんの彼女ですか?」

()()かなー?歩は一目惚れしたみたいだけどねー!」

「一目惚れ.....ですか。羨ましいです」


ラズリさんはシュンとなってしまった。


こういう時どうしたらいいのか、俺にはわからない。

あまりにもその手の経験がないからだ。


しばらくすると、


「.....抱きしめてくれないんですか?」

「なんで!?」

「彼女が落ち込んでたら、普通はそっと寄りそうに抱きしめるものですよ?」


な、なるほど。勉強になる。

世の男性はなかなかキザなんだな。


「で、でもいいんですか?」

「そういうのは聞かなくていいんです。今は私()彼女なんですから。たまには強引にいくのも優しさですよ」


そ、そうなのか。なんか色々難しいんだな.....


俺はラズリさんの言葉通り抱きしめる。


───ぎゅっ


ラズリさんから甘い匂いが鼻孔をくすぐる。

アテナもそうだが、なんでこう女の子っていい匂いがするだろう。


「こ、こうですか?」

「違います。もっと強くです」


抱きしめる腕に力を入れる。


───ぎゅっ!!


「.....ッ!」


ラズリさんの体が一緒跳ねたような気が.....


「だ、大丈夫ですか?」

「全然です!アテナさんみたいに!」


アテナみたいに?

女の子の体って、華奢でも意外と強くしても大丈夫なんだな。


───ギュッ!!


「くぅッ!」

「え!?」


おいおい。大丈夫なのか?


「い、痛かったですか?」

「す、少し.....」

「す、すいません」


ラズリさんを抱きしめている腕の力を緩めようとしたら、


「そのままでお願いします!」

「痛いんですよね?だったら.....」

「いいんです。幸せな痛みなんですから」


俺の胸の中に埋もれていたラズリさんはにこっと微笑みながら見上げてきた。


確かに幸せそうな笑顔で、すごくきれいだ。

その笑顔に俺の心が跳ねる。


ついラズリさんから顔を背向けてしまった。


「ふふっ。脈.....ありですかね?」

「そ、そんなことはないです」

「嘘ですよね?アユムさんの心臓すごいですよ?」

「・・・」


───ドキドキ、ドキドキ


確かに俺はさっきからドキドキしっぱなしだ。

ラズリさんの一挙手一投足に可愛いらしさを感じている。


「アユムさん、かわいい」


ラズリさんの顔が徐々に近づいてくる。

今まさに甘い吐息がかかりそうだ。


───ゴクッ。


かつて俺の人生で、女性の顔がこんなに近づいたことがあるだろうか。

いや、ない!母親以外だと歯医者ぐらいしか記憶がない。


それが今、婚活バカなラズリさんと言っても美女なのは確かだ。

心が跳ねないはずがない。


ラズリさんと目が合う。

もはやキスできそうなぐらいにお互いの顔が近い。


「アユムさん。キス.....しませんか?」

「キ、ス?」

「.....はい。私のファーストキス貰ってください」


そんな魅力的なことを言われたら頭がくらくらする。

俺の理性の中で、悪魔と天使がいい争う。


いいのか?このままキスしてしまっていいのか?

俺みたいな冴えない男が、ラズリさんみたいな美女とキスしていいのか?

と、悪魔が囁く。


.....でもこんなチャンスはきっとこの先二度とないはずだ。

してくれと言うんだから、してもいいんじゃないか?

と、天使が囁く。


躊躇する悪魔に、イケイケな天使。

お前ら逆だろ!と冷静にツッコミを入れることができないぐらい、頭がくらくらしていた。


「.....アユムさん。お願いします」


ラズリさんは目を閉じてキスを待っている。

よく見ると顔は赤い。

ラズリさんも決して余裕がある訳じゃないみたいだ。


こんな美女が俺を受け入れてくれてるんだ.....

男の俺が躊躇してる場合じゃないだろ!


俺はラズリさんと唇を重ねようと顔を近づけていく。


・・・。


そしてまさに唇と唇が触れようとした瞬間.....

ふとアテナが目に映った。


「アテ、ナ?」


俺はそう口にした瞬間、急速に頭が冷えていった。


アテナはなにもしていない。

アテナには珍しく、ただジッと成り行きを見守っている。

俺の行動に対して咎めることもなく、応援する訳でもなく、それでも興味がないという訳でもなく。

ただひたすらジッと見守っているのだ。


アテナがなにを考えているのかはわからない。

でも一つ言えることは、アテナのおかげで冷静になれた、ということだ。


俺は一息入れる。


「ラズリさん。気持ちは嬉しいのですができません」

「.....ニケさんに悪いからですか?」

「それもありますが、俺はいい加減な気持ちでラズリさんとそういう関係になりたくありません」


危うく雰囲気に流されるところだったから、説得力に欠けるが。


「アユムさんは私のことを好きなんですよね?」

「はい」

「でしたら問題ないのでは?私は本気ですよ?」

「俺の気持ちは恋とかではありません。それに.....」

「?」

「.....いえ、なんでもありません」


一つ気になっていることがある。

ラズリさんは無意識の内に気付いていないのかもしれない。

言ってもいいが、ラズリさん本人が気付いたほうがいいかもしれない。きっとそれは大切なことだから。


「とりあえず、こういうことは恋人になってからじゃないといけないことだと思います」

「.....アユムさんって意外とお硬いんですね。残念です」

「すいません。でもそれが俺ですから。無理なら諦めてください」

「そうですよね.....私が間違ってました」


ふぅ。とりあえずわかってくれたみたいだ。

険悪なムードでもないし、今後のPT事情に影響はないだろう。


「アユムさん。私、諦めます」

「そうですか。ラズリさんは素敵な方です。俺なんかよりもいい人がきっと見つかりますよ。応援してます」


ラズリさんは笑顔の似合う美女だ。

しかも優しくて、一生懸命で、料理上手。

きっといい恋に、人に、巡り会えるだろう。


ラズリさんの未来が素晴らしいものでありますように!


・・・。


「なんの話ですか?」

「へ?俺を諦めるんですよね?」

「違います。アユムさんの奥さんを一旦諦めたんです」

「ど、どういうことです?」


なんか嫌な予感がする。


「改めて.....私をアユムさんの本当の彼女にしてください!」

「ごめんなさい!」

「な~んでですか~!ちゃんと順を追ってるじゃないですか~!」


そういうことを言ってんじゃない!

全然わかってないじゃん!この人!



全然ブレないラズリさんに苦笑しつつも俺は思う。


今回はマジでやばかった.....

アテナありがとう。色々守れたよ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『アテナ』 レベル:3 危険度:極小


種族:女神

年齢:ーーー

性別:♀


職業:女神

称号:智慧の女神


体力:50

魔力:50

筋力:50

耐久:50

敏捷:50


女神ポイント:3000【↑700】


【一言】結局歩はラピスとちゅーしたのー?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

アユムの所持金:234000ルクア【±0】

冒険者のランク:A(クリア回数:1回)


このお話の歩数:約15600歩

ここまでの歩数:約1020600歩

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『アユム・マイニチ』 レベル:1428【↑11】


種族:人間

年齢:26

性別:♂


職業:凡人

称号:女神の付き人


体力:1438(+1428)【↑11】

魔力:1438(+1428)【↑11】

筋力:1433(+1428)【↑11】

耐久:1433(+1428)【↑11】

敏捷:1488(+1428)【↑11】


技能:言語理解/ステータス/詠唱省略


Lv.1:初級火魔法/初級水魔法/初級風魔法

   初級土魔法/初級光魔法/初級闇魔法


Lv.2:隠密/偽造/捜索/吸収/浄化魔法

   治癒魔法/共有


Lv.3:鑑定/剣術/体術/索敵/感知

   物理耐性/魔法耐性/状態異常耐性


共有:アイテムボックスLv.3

   パーティー編成Lv.1


固有:ウォーキングLv.1428 289/1429

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次回、本当にピンチ!


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今日のひとこま


「あの状況でよく流されませんでしたね」

「いや、マジでやばかったですから」

「ふふっ。やばかったんですか?嬉しいです」


くっ。悔しいがかわいい。


「それでも流されないなんて.....鋼の意思ですね」

「いや、なんかアテナが目に入ったら冷静になれたんです」

「.....え?ニケさんじゃないんですか?」

「.....あれ?言われてみればおかしい.....ですよね?」

「おかしいですよ。普通は好きな人を思い浮かべるものです」


「.....私の最大のライバルはアテナさんでしたか」


あんた、なに言ってんの!?勘違いも甚だしいから!


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