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歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~  作者: なつきいろ
第7章 躍進 -乙女豹アルテミス編-
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第288歩目 私のどこが一番好きですか? 後編②


 前回までのあらすじ


 ねーねー(・ω・´*)

 私だけ参加できてないんですけどー(´・ω・`)



「えへへー! ありがとー、歩君☆」

「いえいえ。どういたしまして」


 とりあえず、ヘカテー様の追及を上手く躱すことには成功した。

 どう答えたかについては「ちっちゃくて可愛らしいお尻かな?」となった訳だが......。


 所謂、苦肉の策だ。


 知っているだろうか? 「ちっちゃくて可愛らしいお手手ですね」や「ちっちゃくて可愛らしいお尻ですね」は、()()()赤ちゃんを誉める時の常套句だということを。


 経験ある人も多いと思う。

 赤ちゃん披露をされた時に「猿みたいだな」とか「変な顔」と思ってしまったことが。


 それでも気を利かせて「可愛いですね」と誉めるのが大人の対応だ。わざわざ幸せに満ち溢れている相手に水を差す必要性はどこにもないし、正直に「YOU、YELL○W M○NKEネー! アーハハ!」とか、ぶっちゃける必要性もないのだから。


 だが、時に浮かれたリア充共は、そんなこちらの親切心さえぶち壊してくることがある。


 それが「ですよねー! ですよねー! ちなみにー、どこらへんが可愛いと思いますかー? 私はですね──」などと続くクソ質問──いや、微笑ましい(鬱陶しい)追及だ。


(爆ぜろ、リア充! こちとら童貞なんじゃいッ!)


 ......こほん。失礼。


 と、こういう時に使える常套句が「ちっちゃくて可愛らしいお手手ですね」や「ちっちゃくて可愛らしいお尻ですね」となる訳だ。具体的かつ嘘にならない範囲で、本当に誉められる場所が手やお尻ぐらいなものだからな。


 たとえば、これが自分の赤ちゃんだったら、たとえ猿顔でも可愛いと思えるのだろう。

 しかし、他人の赤ちゃんの場合は必ずしもそうなるとは限らない。


 それでも、他人の赤ちゃんのことを心の底から「可愛い」と愛でられるのは、出産という同じ苦労と幸せを共有できる女性だけか、余程子供好きな男性ぐらいなものだと思う。


「私のお尻はねー、プリンみたいにぷるぷるしてて食べちゃいたいだってー☆」

「プリン......お、おいしそうなのだ」

「いくらモーちゃんでもダメだからねー? 私のお尻なくなっちゃうんだからー☆」


 ヘカテー様には申し訳ないと思うが、喜んでいるようだし、これで問題ないだろう。

 実際、ヘカテー様(の体型)は赤ちゃんみたいなものだしな。うん。間違ってはいない。



 ■■■■■



「次はあたしの番だね」


 モリオンとヘカテー様を膝から下ろすと、待ってましたとばかりにアルテミス様が体を乗り出してきた。


(まだ誰とも指名してはいないのに......)


 この女神様(ヒト)は本当に察しが良いと言わざるを得ない。

 ニケさんが最後は、あくまで俺とニケさんの間で示された順番に過ぎないのだから。


「ところで、これはどうしようかね?」


 これとは当然アテナのことだ。

 実姉が実妹を『これ』扱いなのはどうかと思うが、実際はこれ扱いしたくなる不思議。


「( Φ ω Φ )」

 

 ただ、アテナの表情を見れば、アルテミス様が困り顔となるのも一目瞭然だ。

 明らかに脱出──もとい、俺の膝上に返り咲く気満々なのが窺える。

 恐らく、アルテミス様以外ならばどうとでもなると高を括っているのだろう。


(図に乗るなよ、駄女神。今からお前のその傲慢さをへし折ってやる)


 俺はこうなるであろうことを予見していたので、用意していた布石を打つことに──。


「ドールとモリオン、それからヘカテー様にお願いします」

「ニケちゃんじゃなく、この三人......? 本当に大丈夫かい?」

「えぇ、全く問題ありません」


 心配するアルテミス様に、俺は強く首肯した。

 今この場においてはニケさんではなく、この三人こそが適任だと確信している。


「ふーん。アユムっちがそこまで言うなら......狐に子竜、それからヘカテー、頼んだよ」

「うむ。任されたのじゃ」

「わかったのだ!」

「はーい! まっかせてー☆」


 見掛けは借りてきた猫状態のアテナが、そのままドール達へと雑に放り渡される。


 それを「もー! アル姉は適当過ぎー!」と口では文句を言いつつも、慌てた様子など一切見せることなくしっかり受け止め、その勢いでガッチリとアテナを羽交い締めに拘束するヘカテー様。


 拘束役はヘカテー様、サブ拘束役がモリオン、アテナの監視役がドールと、誰に指示される訳でもなく三人の中では暗黙の内に役割分担が決まっているようだ。


「ふっふーん。私を止められるなら止めてみなよーヽ(o・`3・o)ノ」


 調子こいているアテナの姿に、思わず「ふッ」と嘲笑(えみ)が溢れる。


 確かに、この三人だけでアテナを抑えるには無理があるだろう。アテナに噛み付かれ、泣き喚かれ、いじけるとこられたら、そのあまりの惨めさ故に解放してしまいたくもなるものだ。


 ......そう、()()()()()の三人だったらな?


「なんでー?(´;ω;`)」


 アテナもどうやら気付いたらしい。

 この三人もまたアルテミス様同様、一切の容赦がないことに。


(ぶぁーかが! 『幹事の舞日さん』とまで恐れられた俺を侮るんじゃねぇ!)


 今回はアルテミス様の機嫌も取らなければならないという接待(じょうけん)付きだ。

 故に、いつものようにアテナのわがままを許していたら失敗することなど目に見えている。

 だからこそ、事前に手を打っておくことは幹事として当然の努めなのである。


 よく言われることだが、人は心に余裕がある時にこそ他人を気遣える。

 逆に言えば、心に余裕がなくなれば他人のことなど知ったことではないのだ。

 

 今回はそれを利用させてもらった。


 今のドール達は俺に誉められたことで明らかに浮かれている。

 それも事前に「一番好きなところ」と大々的に告知されていたのだから尚更だ。

 故に、頭の中がお花畑状態で細かいことなどどうでもいい気分になっているのである。


 心の余裕を削ぐ方法は色々とある。

 たとえば、不安を煽りに煽った結果の闇落ちパターンなどなど。


 しかし、今回は『喜怒哀楽』の内、コントロールしやすい感情である『怒哀』のほうではなく、自発性を促せる『喜楽』の部分を利用させてもらったパターンだ。


「へぇ。やるねぇ」

「ですから、問題ないと言ったでしょう?」


 俺がドヤ顔するのもどうかと思うが、ここはアテナを抑えている為ドヤれずに頑張っているドール達の分まで代わりにドヤっておこう。


「それじゃあ、早速っと──」


 ドール達の確かな拘束力を確認したアルテミス様が、俺の膝上へと移るべく動き出した。

 のそりのそりと、まるで獲物を探す熊のようにゆっくりと近付いてくるアルテミス様。


 だが、俺のすぐそばまで来た途端──。


「ちょっ!?」


 熊から鷹への種族変化を初めて見た。

 アルテミス様は獲物を見定めたかの如く素早さで俺の膝上へと躍り出たのだ。


 しかも、普通の膝上抱っこ(対面に座る形)などではない。

 膝の上で横抱きになる形──所謂、【膝上お姫様抱っこver】だ。


「あ、あの、アルテミス様?」

「なんだい? 何か文句があるのかい?」


 この態度......始めから狙っていたな?


「い、いえ、そういうつもりはありません。ですが......」

「ですが? なんだい? 言ってごらんよ。どこにもおかしいところはないはずさ。なんたって、あたしは最初からそう提案していたしね」

「最初から?」

「そう、最初からさ。あひゃひゃひゃひゃひゃw」


 最初から......あぁ、なるほど。そういうことか。

 ようやくアルテミス様の真の狙いに気付くことができた。


(あの時点で、そこまで考えていたのか)


 俺は、アルテミス様が上手くニケさんを唆した時のことを思い出す。あの時の「今なら誰にも邪魔されずに堂々と、愛しのアユムっちに思う存分甘えられるんだよ?」とのアルテミス様のお言葉を──。


 確かに、アルテミス様の仰っていたことは何一つ間違ってなどいない。

 ニケさんは(前からの念願だった)皆の前で堂々と俺に甘えて良い大義名分を得られた。

 同時に甘えることに対して、俺に「否」を言わせないだけの正当な権利も得られている。

 まぁ、まだニケさんの出番が回ってきていないので()()()()()()()()


 この内容だけを見れば、ニケさんにとってデメリットなど全くないようにも思える。

 それどころか、ニケさんが諸手を挙げて賛同するようなメリットがてんこ盛りなのだ。


(本当、アルテミス様は意図的に相手を陥れるのが上手いよなぁ)


 そう、メリットばかりに意識を奪われずに気付くべきだった。

 アルテミス様が提案された内容は、何もニケさんだけに限った話ではないということを。


「......ッ!」


 俺は声にもならない悲鳴が上がった先に視線を向けた。

 すると、そこには顔面蒼白になっているニケさんの姿が......。


 俺同様、アルテミス様の真の狙いに気付いたという反応だ。

 しかし、気付けたところで止めるに止められないといった表情でもある。


(アテナに背いてまで了承したんだものなぁ、今更中止とは言えないよな)


 今中止を訴えでれば、アルテミス様を抑えることはできる。

 だが同時に、それはニケさんに与えられた権利の放棄を意味することにも等しい。

 つまり権利を得る為には、アルテミス様の行為を黙認する必要があるということだ。


 故の苦悩。故の葛藤。故の我慢。

 そんな様々な感情や思いが渦巻いているかのように、今のニケさんの姿からは想像できる。


 だが、激しく後悔しているニケさんをよそに、アルテミス様の悪戯(ついげき)は止まることを知らない。


「納得したならそれで良し。覚えてるかい? 前もこうして抱いてくれただろ? あたしがアユムっちの腕の中で爆睡した、あの時(※第89歩目・※第104歩目)さ」


 その時の状況を再現するかの如く、両腕を俺の首に情熱的に絡めてくるアルテミス様。

 気のせいか、声にも熱が帯びているように感じられる。


 そして、意図しているのかどうかは知らないが、アルテミス様は止めの一撃を放った。


「あの時の居心地良さが忘れられないんだよねぇ。こうしてアユムっちに抱かれるのが何気に気に入っちゃってさ。安心するというか特別な感じがするよ。あたしはアユムっちに大切にされている、女神であろうと一人の女性として愛されているって感じがしてさ」


「......」


 今にもどこかに消えてしまいそうな儚い笑みを浮かべた後、静かに俯いてしまったニケさん。


 あぁ、もう! ニケさんが泣きそうになってるじゃん!

 わざわざ特大級の爆弾を投下するのは止めてくれませんかねぇ!?



 ■■■■■



 俺だけそう感じているのかもしれないが、なんとなく場の空気が重い。

 失敗しようがない企画だと思っていただけに、まさかの展開で戸惑ってしまう。


 俺は「にししw」と気分良く笑っているアルテミス様にジト目を向けた。

 アルテミス様は最高潮なのかもしれないが、ニケさんが最低潮となっては意味がない。

 故に「やり過ぎですよ?」という批判の意味を込めて。


「ほらほら。アユムっち、早く始めておくれよ」


 だが、アルテミス様には届かない。響かない。

 どこ吹く風といった様子で気にすることもなく、反省の色も窺えない。


(いや、アルテミス様はこういう女神様(ヒト)だってのはわかっていたけどさ?)


 ハァ......と溜め息が漏れる。考えるだけ無駄なのだと改めて実感させられる。

 というか、もはやこういうものだと受け入れる他はないのだろう。堪えて、ニケさん!


 観念した俺はアルテミス様のご注文通り、早速品評を始めることにした。


「では、アルテミス様の一番好きなところですが──」


 アルテミス様の最大の魅力は誰がなんと言おうと『臭い』だ。異論は認めない。


 腐ったチーズを更に発酵させたかのような腐臭。

 あのシュールストレミングでさえフローラルな香りだと思ってしまいたくなるような激臭。

 そんな脳天を痺れさす強烈的かつ激烈的な、もはや殺人級と言っても過言ではないほどの汚臭をおいて他にない。


 ただ、それしきの回答でアルテミス様が満足されるとは到底思えない。

 誉めさえすればデレる、どこかのちょっろいお狐さんとは訳が違うのだ。


 俺は改めてアルテミス様の身体に視線を向ける。


 少し古いが、ボン・キュ・ボン(──いや、最後は誇張し過ぎか?)な肉体だ。

 アテナほどではないが、大きいと思わざるを得ない豊満な胸。

 鍛えているかどうかは知らないが、それでもキュッと引き締まったウエスト。


 出るところはしっかりと出つつも、絞まるところはキュッと締める。

 さすが狩猟の女神というだけあって、素晴らしいボディラインだと感嘆する。


 ......しかし、しかしだ。


(うーん。そうじゃないんだよなぁ)


 アルテミス様に求めるのは、そういう部分ではないのだ。

 そんなありきたりな場所など、求めたところで少しも面白しくないのである。


 これはあれだ。ラーメン屋に入ったのに、トンカツを注文するが如く。

 トンカツを食べたいなら、最初から洋食屋または定食屋にでも行けよという話だ。

 つまり端から求める箇所、注目する点が全く異なっているということになる。


 だから、俺は最初から洋食屋または定食屋に行くことにした。


「アルテミス様の一番好きなところですが、『うなじ』と『脇』ですかね」

「あ、主よ......おおよその趣旨は理解できるが、ちとマニアック過ぎぬか?」

「黙れ、ドール! 人の趣味にケチをつけるんじゃねぇ!」


 どうして好きなのかをいち早く理解したドールさん。

 そんなドールさんに、俺はモ○風の一喝をして黙らすことに。


「はぁ? 『うなじ』と『脇』だって?」

「そうですが、何か?」

「それはおかしくないかい?」


 アルテミス様が首を傾げてしまう気持ちもわからなくはない。


 アルテミス様はこう仰りたいのだろう。

 行動と言葉が一致していない、と。


 俺が今まで挙げてきた一番好きなところは、言わば触りまくっていた箇所──身体を洗ってあげる際に特に念入りに、それこそ楽しむように、慈しむように洗っていた場所だ。アテナの巨胸や巨尻、ドールのケモミミやケモシッポ、モリオンの竜翼や竜尾、ヘカテー様の幼児体型などなど全てがそうである。


 一番好きが故に、一番触りまくっていた場所なのだ。


「だったら、おかしいじゃないか。そうだろ? 洗体(あの)時、アユムっちはあたしの一番好きなところだっていう、うなじや脇にちっとも触れていなかったんだからさ。これはどういうことだい?」


 適当なって、どの口が......とは決して突っ込まない。


「いいえ、少しもおかしくはありませんよ」

「おかしくないだって?......アユムっちさぁ、適当なことを言ってると痛い目見るよ?」


 不満たらたらなアルテミス様に、俺は「適当ではない」と強くハッキリと首を横に振った。

 恐らく、キリッとした表情にもなっていたと思う。


「じゃあ、説明してごらんよ。納得いかなかったら承知しないよ?」

「簡単なことですよ。単に触りたくなかっただけ──いや、洗いたくなかっただけです」

「どうしてさ? 身綺麗にするために風呂に入れたんだろ?」

「いやいやいや。何を仰っているのやら。洗ったら、せっかくの臭いがなくなってしまうではないですか。さすがにそこまで愚かなことはしませんよ」

「はぁ???」


 理解不能とばかりに、呆けた表情で固まってしまったアルテミス様。

 俺としては、なぜそこまで理解に苦しまれるのか甚だ疑問でならない。


 相手先に失礼にならないよう配慮する。これは当然のことだ。

 しかし、配慮した結果、どうにもならない場合だって時にはある。

 それをどうにかすることは不可能なのだから、そこは割り切る必要があると思う。


「それが、あたしの臭いだっていうのかい?」

「その通りです。アルテミス様の臭いは(俺にとって)至宝ですからね。(俺の場合)王族への儀礼よりも優先されます」

「あ、主よ......理解する気はないのじゃが、さすがにちと度を越えておらぬか?」

「黙れ、ドール! 人の趣味にケチをつけるんじゃねぇ!」


 本日二度目のモ○さん登場。


「ただの臭いが王族への儀礼よりも優先だって?......あーひゃひゃひゃひゃひゃw アユムっちは相変わらずだねぇw なんというか、あたしはそういうアユムっちの面白い(ぶっ飛んだ)ところが好きだよw あひゃひゃひゃひゃひゃw」


「ど、どうも......」


 なんだろう? 

 誉められているはずなのに、バカにされているようなこの感覚......。


 とりあえず、アルテミス様のご機嫌と好感度を得られたのは確かだろう。

 それは俺の膝上で楽しそうにカラカラと笑っているアルテミス様の姿を見ても明らかだ。


 だが、ここで終わらせてしまったのでは「一番好きなところを挙げろ」の主旨に反する。

 要は「私達を誉めちぎって満足させろ」というのが、この企画の本来の主旨なのだから。


 故にもう一手、更なる一手にて、アルテミス様を骨抜きにしてみせる。


「そもそもですね。アルテミス様は前提を間違えているんですよ」

「前提を? どういう意味だい?」

「うなじや脇という部位は、端から触る場所ではないということです」

「いや、それはそうだろ。アユムっちは何を言ってるんだい?」

「いえいえ。アルテミス様、そういうことではないんですよ」


 アルテミス様が首を傾げた。

 さすがのドールも「主は何を言っておるのじゃ?」と小首を傾げる。


(なぜわからないのか?......いや、得てして女性には理解しづらいものなのかもしれないな)


 男性が女心をわからないように、女性もまた男心をわからないのは世の常だ。

 本当の意味で男性と女性がわかり合うことなど不可能に近いのかもしれない。


 そう悟りを開けた俺は説法でもするかの如く、この世の真理を説くことにした。


「いいですか? うなじや脇という部位は触る場所ではなく『舐める』場所なんです。こんな感じにですね」

「はぁ!?」


 驚くアルテミス様を横目に、俺はアルテミス様の脇にペロリッと舌を這わせた。


 思わず意識を失いそうになる、むせ返るようなキレッキレのアルテミス臭は健在だ。

 更には蒸れたせいか、お酢がきいたもじゃもじゃの密林が程好く奏でる絶妙なハーモニー。


(......くはッ! たまんねぇな!)


 これがアルテミス様だ。

 これこそがアルテミス様の真髄である。

 なんだったら、このまま一晩中脇舐めバタ○犬になっていいとさえ思う。


 だが、アルテミス様はそうではなかったようで──。


「きゃぁぁあああああ!」

「ぐふッ......」


 なんだか可愛い声が聞こえたな、と思った瞬間に訪れた激痛。

 俺の腹にはアルテミスの肘がめり込んでいた。


「ふっざけんじゃないよ! みんなの前で舐める奴があるかい、全く! アユムっちはどこまで変態なのさ! そもそも──」


 意識が徐々に遠退いていく。

 アルテミスが何やら仰っているが、それに耳を傾ける余裕はどこにもない。

 この後何か大切な用事があったはずなのに、それすらも思い出せそうにない。


 まるでこれから死にに行くような、そんな感じ。


 ただ、そうだな。

 それでも最後に何か言い残すとしたら......。


(照れた表情のアルテミス様も可愛いですよ?)


 そのまま俺はアルテミス様の豊満な胸の中に顔を埋めるような形で意識を手放した。



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