第287歩目 私のどこが一番好きですか? 後編①
前回までのあらすじ
えー? 後編はーってー?(・ω・´*)
あわてなーい、あわてなーい。一休み、一休み( ´∀` )
ドールの発情問題を無事解決したことで、いよいよ本題の品評会へと移っていく。
アテナを除くメンバー全員からは「早く早く」との熱き思いがひしひしと伝わる。
まるで人の告白を物陰から眺めているかのようなドキドキ感が伝わってくるようだ。
これは......思った以上に恥ずかしいというか、プレッシャーが掛かるぞ。
「......で、では、早速始めたいと思います」
「うむ。妾の魅力を存分に語るが良い」
発情モードは抑えられても、いまだ興奮冷めやらぬといった様子のドール。
今から一番好きなところを挙げてもらうのだから、さもありなんといったところか。
皆が注目する中、俺は静かにハッキリとした口調でドールの品評を開始した。
「えっと、ドールの一番好きなところなんですが」
「「「「「......」」」」」
皆の視線が俺からドールへと移る。
(......ヒェ!?)
気のせいか、アテナを除く皆の目がギラついているようにも見える。
これから告白されるドールに感情移入でもしているのだろうか。なんだか怖い。
まさかと思いきや、あのアルテミス様でもそうなのだ。
いや、アルテミス様の場合は単純に面白がっているだけかな?
どちらにしても、やはり女性という生き物は恋愛話が好きで好きで仕方がないのだろう。
とはいえ、些か盛り上がり過ぎているようにも思える。
ここは一旦ブレイクが必要だ。
「......っと、その前に一つだけ言っておきたいことがあります」
「「「「「はぁ!?」」」」」
意表を衝かれたと言わんばかりに一斉につんのめる皆の姿を見て、まるでコントでも見ているかのような気分だ。......しゃあ! ブレイク成功!
「アユムっちさぁ、それはないんじゃないのかい?」
さも恨めしそうにジト目を向けてくる皆に、一応謝罪の言葉を入れておく。
どこぞのアホのように「ズコーッだってー! あーははははは( ´∀` )」と一緒にバカ笑いしていたら、俺だけそのまま睨み殺されてしまいそうだ。
ただ、どうしても事前に言っておきたいことがある。
「なんだい? その言っておきたいことってのはさ」
「ドールについては──いや、ドールだけに限らず、モリオンもそうなのですが」
「我もなのだ?」
モリオンに「そうだ」との意味合いを込めて軽く頷いておいた。
そして、そのまま言葉を続ける。
「この二人の今から挙げる一番好きなところについては『No.1』ではなく『Only.1』だということです」
「Only.1ぅ? どういう意味だい?」
首を傾げるアルテミス様を始め、皆思い思いの反応を見せている。
たとえば、ニケさんはとても険しい表情だ。意味を理解していない可能性がある。
ドールは澄まし顔なところを見ると、俺の言いたいことを既に理解してはいそうだ。
モリオンとヘカテー様に至っては「凄いねー!」と、相変わらずの反応でほっこり。
アテナは......こいつはどうでもいいか。
「(´・ω・`)」と、よくわからない顔をしているしな。
「他と比べようがない、という意味です」
「それはアユムっちにとっての特別ってことでいいのかい? あたしの匂いみたいにさ」
「まぁ、そのように受け取って頂いていいかと」
ここで寂しそうに「特別......」と、ポツリと呟いたニケさんの様子をちらりと窺う。
すると、そこには感情という感情全てを削ぎ落とした能面状態のニケさんの姿があった。
ニケさんは如何にも「別に気にしていませんが、何か?」と俺の前では努めて平静を装いながらも、身に纏うオーラからは「不満です!」とご機嫌斜めな様子を全く隠しきれてはいない。
やはり先手を打っておいて正解だった。
先程ニケさんには「特別ですからね」と言ったばかりだからな。
他の娘に同じようなことを言えば、不満を露にされるのは予想の範囲内だ。
だからと言って、ドールとモリオンの二人に関しては特別なものは特別なのだからどうしようもない。敢えて嘘を吐く必要も、変に気を遣って隠す必要も全くないのだ。
いや、逆にそんな不自然なことをすればかえって、野生の勘が働くアルテミス様に気取られて「あ"ぁ"? あたしの悪戯に従えないっていうのかい?」みたいな体育会系の上司のようなパワハラ紛いなことをされた上、まず間違いなく「一番好きなところを挙げろって言っただろ?」とお叱りを受けるに違いない。
ニケさんのご機嫌を取りつつ、アルテミス様からも余計な不興を買わない。
そんなとても難しい舵取りを、今の俺は要求されていることになる。
故に『Only.1』発言はその為の布石、その為の保険、その為の前準備だったという訳だ。
ニケさんへのケアは早め早めの対応がとても重要だからな。俺の心の安寧の為にも。
「ふーん。特別ねぇ......あひゃひゃひゃひゃひゃw アユムっちも罪な男だねぇ、全く」
アルテミス様がどこか意味ありげに目を細めるも、俺にはその意図が全くわからない。
「俺が、ですか? それはどういう意味でしょう?」
「まぁ、いいさ。何はともあれ、さっさと始めておくれよ」
「はぁ......」
こうして、女の子品評会は本格的に幕を開けることとなった。
■■■■■
何度も言うが、今回の主目的はニケさんであり、副目的はアルテミス様である。
だから、その他のメンバーについては相手を喜ばせつつも、巻いていく感じを心掛ける。
まず一番手であるドールについてだが──。
この娘については、今更改めて言うまでもないだろう。
どこが、と問われれば『ケモミミ』と『ケモシッポ』をおいて他にはない。
「やはりか。つまらぬのじゃ」
「そう言うなって。俺は本当に大好きだぞ? ドールのもふもふはさ」
ドールのケモミミは状況によって状態が全く異なってくる。
普段はまるで天に向かってそびえ立つかのように雄大で凛々しい様を見せている。
だが、入浴中はケモミミの中にお湯が入るのを嫌うのか、へにゃりと伏せているのだ。
自分を大きく見せようとしている強いドール。
一方、嫌なことは徹底的に避けている弱いドール。
そのギャップが何とも可愛らしい。当然、触っても良しな点は言うまでもない。
また、ドールのケモシッポは脅威的と言わざるを得ない。
もふもふ感もさることながら、ドールの意思で自在に動かせるのだ。
それも湯船に浸かっていようとも、全くのお構い無しときたもんだから凄まじい。
事実、二本の尻尾の内一本は「もっと誉めるのじゃ!」とばかりに俺の膝をバシバシと叩いて要求している傍ら、もう一本の尻尾では小賢しくも痴態がニケさんにバレないよう上手く隠した上で、俺に怒られないギリギリの範囲を見計らうという器用な真似をしつつ、さすさすさすと静かに挑発してきている。
(こいつ......! あれだけ言ったのに、全く反省してねぇ!!)
ただ、答えがわかっていても誉められて悪い気はしないらしい。
俺の愛情たっぷりもふもふと全力の誉め言葉で、どうにか自尊心を擽ることに成功した。
今やドールさんはもう、もはや「当然であろう」と言わんばかりのドヤ顔対応だ。
(うーん。このもふもふ感......ドール、お前が『Only.1』だ!)
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ご満悦な様子のドールを膝上から下ろし、次なるメンバーへと切り替えていく。
「では、次ですが──」
俺がそう言った直後「ようやくキタッ!」とばかりに、僅かに体が反応したニケさん。
だが、すぐさま「そういえば、私は最後でした......」と思い直し、その場に止まった。
その姿が、まるで餌を前に「待て」をされた犬のようでとても微笑ましい。
猫派の俺が、思わず犬派になりかけた瞬間だった。いや、犬も可愛いけどさ?
俺はそんなニケさんに苦笑しつつも、次なるメンバーを指名した。
「モリオンとヘカテー様、お願いします」
「我はヘカテーお姉ちゃんと一緒なのだ?」
「んー? 私はモーちゃんと一緒なのー?」
俺はコクリッと首肯する。
今回は二人まとめて一気に終わらせる予定だ。
別に個別対応が面倒臭いからという訳ではない。これも後に向けた大事な布石である。
「モリオンは右に、ヘカテー様は左へどうぞ」
モリオンとヘカテー様の二人を、それぞれ片膝の上へと誘導する。
二人が膝上から落ちないよう、背中に手を回して体を支える。
二人も落ちないようにする為、自ずと俺の首に腕を巻き付けてきた。
もちろん、アテナやドールの時同様、それぞれ対面する形での座り方だ。
うん。これで子供達の中でも更にちんまいモリオンとヘカテー様だからこそできる、俺の膝も全く負担を感じることのない『ダブル膝上抱っこ』の完成である。
膝上で嬉しそうにはしゃぐ二人と軽く微笑みあった後、早速本題へと移っていく。
まずはモリオン。
この娘については『背中の小さな翼』と『体の割に大きな尻尾』がとてもチャーミング。
背中のそれはドラゴンモリオンになると、たちまち立派な翼へと早変わりする。
だが、普段の子供モリオン状態だと、羽と見間違えるばかりの小ささになるのだ。
そして、感情によってピコピコと動く様は見ていてとても癒される。
体の割に大きな尻尾は、皆の抱き枕として重宝されている。
あの全てを包むかの如く安心感は、昔お袋と一緒に寝ていた時を思い起こさせる。
ちなみに、俺が毎日(擽ったさからくる尻尾による反撃を喰らいながらも)丁寧に洗ってあげているから、モリオンの尻尾はしっとりつやつや滑らかで、触って良し、嗅いでも良し、噛んでも良しの三拍子となっているぞ。
そうそう、実はドールのお気に入りであったりもする。本人は頑なに否定しているが。
発情期を除くと、何食わぬ顔でモリオンの横を己の寝場所だと確保するのだから余程だ。
普段はモリオンに厳しいドールをして、優しい気持ちにさせてしまう魔法の尻尾なのだ。
「くぁー! ヘカテーお姉ちゃん、我はいーっぱい誉められたのだ!」
「うんうん。モーちゃんは凄いねー☆」
一番の友達である俺と一番大好きな姉に誉められたことで、モリオンは凄く嬉しそう。
興奮を抑えきれないのか、大きな尻尾でバシャバシャとお湯を叩きまくっている。
「「「......」」」
この行為には、さすがの皆も困惑顔。
ドールに至ってはつむじを曲げているほどだ。
(うーん。今は品評会中だし大目に見てやるか?......モリオン、お前も『Only.1』だ!)
それに、俺が怒らずとも──。
「ええい! 止めんか、バカトカゲ! 風呂の間は大人しくせい!」
「ド、ド......お姉ちゃん、ごめんなさい、なのだ」
厳しい姉の目もあることだしな。
勝って兜の緒を締めよ、ではないが、嬉しくても兜の緒は締めような? モリオン。
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鞭が与えられたのなら、飴も与えなければならない。
俺はドールに怒られて項垂れてしまったモリオンの頭を優しく撫でて慰めてあげた。
「アユム、ありがとうなのだ!」
「次からは気を付けような?」
「わかったのだ!」
よしよし。これでこそモリオン。この素直さがとても大事だ。
だから「反省はするけど、忘れてること多いよな?」との突っ込みはしないでおこう。
モリオンが元気印に戻ったことを確認した後、俺はヘカテー様へと視線を移した。
「ねーねー! 次は私だよねー? 歩君」
「そ、そうですね」
その通りだ。全くもってその通りである。
故に、その通り過ぎて辛い。心苦しい。申し訳ない気分になる。
ヘカテー様のワクワクしている様子やキラキラしている瞳が尚辛い。
正直、ヘカテー様については一番好きなところはないと言ってもいい。
いや、少し言葉を変えよう。
ここが一番好き、と言えるような明確な点が全く思い浮かばない。
仮に、これが「好きなところを挙げろ」なら幾つもある。
アテナの良い子版だし、素直で面倒見も良いし、意外と公私分別もできる。
そう、ただの好きなところなら幾らでも挙げることができるのだ。
だが、どれもこれも一番好きと言えるようなものではない。
それでも強いて挙げるとしたら「性格?」と言えなくもないのだが、果たしてそれが今回のお題である「一番好きなところを挙げろ」の答えに適しているかというと定かではないのだ。
「我がいーっぱい誉められたのだ! ヘカテーお姉ちゃんはもっともーっと誉められるのだ!」
「ありがとー、モーちゃん。私も楽しみなんだー☆」
「......」
こら、モリオン!
無駄にハードルを上げるんじゃありません!
(うーん。マジで困ったぞ......)
こういう場合、定番中の定番と言えば、適当に容姿を誉めておくことだ。
それなりのことを言っておけば、とりあえず場を凌ぐことができる。
ドールを引き合いに出す訳ではないが、誉められて喜ばない女性はいないのだから。
(けれど、見透かされるうんぬんは別として、果たしてそれが可能なのか......?)
俺は主催者であるアルテミス様をちらりと見た。
すると、「わかる。わかるよ」とでも言わんばかりに頷かれるアルテミス様。
どうやらアルテミス様も、ヘカテー様については俺と同じように感じているようだ。
突出したものこそないがバランスは非常に良い、所謂オールマイティ型である、と。
これはこれで一種の誉め言葉ではあると思う。『No.1』ではなく『Only.1』でもなく『Average.1』みたいな?......まぁ、それで喜んでもらえるかどうかはわからないけどさ。
というか、女性的にはどうなんだろう?
ここが特に好きではなく、総合的に好きというのは。
(ダメかな? ダメなのかな?)
ただ、それについて答えを得られそうにないのが非常に口惜しい。
俺の全てを肯定するニケさんは論外だし、悪戯好きなアルテミス様はもっとない。
冷静で忌憚ない意見を、第三者視点で物事を考えられる大人な人にぜひとも伺ってみたい。
だって、そうだろう? 今いるメンバーの中で一番まともな意見をもらえそうなドールでさえ、異様に高い自尊心が邪魔をして、ほぼ間違いなく「そんなもの嬉しい訳がなかろう」と言われること必至だろうし。
「歩君、歩君、はーやーくー!」
「う、うーん......」
急かすヘカテー様を前に、俺の苦悩はまだまだ続く。




