第286歩目 喜んで進呈するのじゃ!
前回までのあらすじ
歩の葛藤なんていらなーいヽ(`Д´#)ノ
なんだかんだ抗議しても、アルテミス様の提案が覆ることはないようだ。
正直面倒臭いと思いつつも、機嫌を損ねないよう受け入れる他はないだろう。
「えっと、一人ずつ言っていけば良いんですよね? でしたら、次は───」
そこまで言って、アルテミス様から「待った」が掛かる。
俺が首を傾げていると、アルテミス様の口角がニヤァと吊り上がった。
この不気味な仕草は何かを思い付いた時のアルテミス様の癖だ。
それも良いことではなく、まず間違いなく悪戯を思い付いた時の悪い笑顔である。
問題は、その標的が『俺』なのか『ニケさん』なのか、なのだが......。
「ただ言うだけじゃ面白くないねぇ。そうは思わないかい?」
「あの、面白さいります?」
「当然だろ? アユムっち渾身の告白なんだからさw これは場を整える必要があるねぇ。あひゃひゃひゃひゃひゃw」
渾身の告白とはなんぞや......?
というか、どうやら悪戯の対象は俺らしい。
いや、これから行うことを考えれば当然か。自然と溜め息が出る。
ただ、気になるのは「場を整える必要がある」の部分だ。たかだか一人ずつ一番好きなところを挙げていくだけのことなのに、それを渾身の告白だなんだと訳のわからないことを仰っているので、アルテミス様が何をされるつもりなのかが全く予想できない。
「......何をされるつもりですか?」
僅かに身構える。
アルテミス様の行動はいつも突飛だ。
警戒して警戒して、なお警戒するぐらいほどが丁度良い。
「なに、こうするのさ───アテナっち、ちょいと失礼するよ」
「な、なにー!? Σ(・ω・*ノ)ノ」
俺の目の前からアテナが消えた。
正確には、俺の膝上からアルテミス様の膝上へと移動した。
(おいおい。事情を知らないとはいえ、やっちまったよ、この女神様)
俺が「あちゃー」と呆れてる最中、アルテミス様は驚きの主旨を告げることに───。
「せっかくの機会だから、アテナっちと同じようにアユムっちの膝上に座ってさ、実際に一番好きなところを触ってもらいながら告ってもらおうじゃないか。他の連中も異論はないだろ? アユムっちに体を洗ってもらうぐらいなんだしさ」
「「「「「!?」」」」」
魔天温泉内に衝撃が走る。
膝上抱っこはアテナの特権。それは暗黙の了解となっていた。
時々ドールやモリオンなどにすることもあるが、機会自体そう多くはない。
アテナが独占したがるのもあるが、俺もなんとなく寂しいと思ってしまうからだ。
特にアテナが最も寛げる空間である温泉内では、俺の膝上はもはやアテナの独壇場ともなっていた。
実は温泉内だと、みんなも素直に甘えてきてくれることが多かったりする。
原因は恐らく、まったりと寛げる場所だからこそ、気がおおらかになるのだろう。
それは男としてとても名誉なことだと思うが、暴君であるアテナがそれを許さない。
信じられるか? 普段は能天気でアホのアテナが、絶対に譲ろうとしないんだぜ?
そればかりか、俺の膝上を隙あらばと狙っている最愛の妹ドールにすら噛み付く始末なんだから。
文字通り、本当に噛み付いて猛抗議するんだよ。女神のくせに醜くもさ。
噛み付いて、泣き喚いて、最後にはいじけるとくるもんだから手に負えない。
あの嫉妬深いニケさんですら、アテナの横暴を致し方なく黙認しているぐらいだ。
以前、アテナに少しだけ代わって欲しいと願い出た時、こっぴどく叱られた経験もあるから余計にそうなんだろう。
だから、温泉時の膝上抱っこ権はアテナのものと、みんな半ば諦め気味になっていた。
故に、温泉内に衝撃が走ったのも想像に難くはないだろう。
「いやぁぁぁあああああ! はなしてぇぇええええええええええ(´;ω;`)」
言うまでもないが、アテナが猛抗議するのはわかりきっていた。
温泉内に耳をつんざくようなガチの泣き声が響き渡る。
本来はその時点で、みんな敬遠してしまうものだ。
アテナのわがままさに呆れ果てて仕方がなく。
「キンキンキンキンうるさいねぇ。ちょっとだけだから我慢しな......ったく、どんだけアユムっちのことが好きなんだか」
しかし、悪戯心に支配されたアルテミス様には、そんな猛抗議は通用しなかった。
ジタバタと暴れるアテナをガッチリと羽交い締めにして逃がさない。
そこには姉としての温情も、妹への愛情の欠片も一切見受けられない。まさに問答無用だ。
「ニケぇぇえええ(´;ω;`)」
当然、くそ雑魚ナメクジのアテナではアルテミス様の呪縛から逃げおおせる手段はない。
「ニケちゃん、ここは我慢だよ。主の行き過ぎたわがままを諫めることも付き神の仕事だろ?」
「そ、それは仰る通りなのですが......」
はぁ!? 行き過ぎたわがまま、だと!?
自分の耳を疑った。
どの口が偉そうに言っているのだと思わざるを得ない。
この女神様は、なぜいきなりまともな神様っぽくなれるのだろうか......?
「それにさ、今なら誰にも邪魔されずに堂々と、愛しのアユムっちに思う存分甘えられるんだよ? 興味ないかい? いいや、興味あるだろ? あひゃひゃひゃひゃひゃw」
「......」
ニケさんから、ごくりッと息を呑む音が微かに聞こえてきた。
目も忙しなく泳いでいる。何か言葉を口にしようとして躊躇ってさえいる。
これは......誰の目から見ても、ニケさんの心が揺れ動いているように見えるのは明白だ。
そして気まずそうにしながらも、アテナからソッと目を逸らすニケさん。
「ニケ!?Σ(・ω・*ノ)ノ」
あぁ、遂にアルテミス様の誘惑に陥落しちゃったか。
普段はアテナの絶対的な味方であるニケさんですら、今は見て見ぬ振りを決め込むようだ。
これには少しばかり驚かされたが、すぐに残当だと思い直した。
(まぁ、仕方がないな。アテナの普段の行いが悪い)
となれば、アテナの次なる行動は決まってくる。
「あ、歩ぅ。助けてぇぇえええ(´;ω;`)」
意図せずとも、自然に目が合ってしまった。
アテナの瞳からは悲哀の色が、助けてくれるとの信頼の色が見て取れる。
だから、俺は───。
「では、誰から始めるとしましょうか」
「こらぁぁああああああああああ! 歩のうらぎりものーヽ(`Д´#)ノ」
誰が裏切り者だ、誰が!
お前の普段の行いが悪いせいだろ! 自業自得だ!!
■■■■■
さて、やかましいアテナは無視して女の子品評会に移るとしよう。
肝心の順番なのだが、それはアルテミス様より直々に「アユムっちの好きにしたらいいさ」と仰せつかっているので、そうさせてもらうつもりだ。
ぐるっと一巡してみると、みんな明らかにそわそわしていて落ち着きがない。
たとえば、ニケさんなんかは露骨に期待した目で見つめてきている。
ドールは全く関心がないという態度を取りつつも、ちらちらとこちらを窺っている。
モリオンとヘカテー様に至っては「楽しみだねー!」と、既に待ちきれないといった様子だ。
(うーん。順番はどうしようかな?)
と、その前に、目的を一旦整理してみよう。
まず、最大の目的はニケさんとの仲を深めることだ。これが大前提である。
次に、品評会を企画したアルテミス様を満足させること。これも忘れてはならない。
最後に、品評会なんてものをやるからには他のメンバーにも喜んでもらいたい。
まぁ、こんな感じだろうか。
その上で、効率的で効果的な審査方法を考えていきたい。
よく言われているのは『最初の人は評価の基準にされてしまい、高い評価を得にくいため、後のほうが有利』や『最初のほうは評価が辛口になりやすく、後半ほど印象に残りやすいため高い評価を得られやすい傾向が出る』などといったものであろうか。所謂、最後のほうが有利論だ。
実際、最後のほうが印象に残りやすいというのは確かなようだ。
なんでも、人は『親近効果』というものが働くらしい。
親近効果とは『最後に与えられた情報が最も印象に残りやすい』という心理効果で、最初に受けた第一印象よりも最後に受けた印象のほうが記憶に強く影響する場合がある、というものだ
但し、現実の面接などでは順番の如何で、そこまで合否に影響したりはしない。
当然といえば当然だが、最後のほうが有利などと知れ渡れば大問題になるからだ。
ともかく、結論としては『審査する側からすれば順番など適当で良い』ということになる。
ただ、審査される側からすれば、順番はとても大きな問題だ。
特に今回はマイナス要素の一切ない品評会である。
焦らしに焦らして期待値を大きく膨らませることができるのは、明らかに最後のほうが有利に決まっている。
以上の観点から、今回のメインであるニケさんは一番最後と決定した。
そして同時に、アルテミス様も最後から二番目であることが決定する。
......どうしてだって?
そりゃあ、いくらお遊びである品評会とはいえ、(思い込みが激しい)ニケさんが秘かに危険視しているアルテミス様を俺が誉めれば、ニケさんはまず間違いなく嫉妬の炎に身を焦がすからに決まっているからだ。
だからこそ、ニケさんの前はアルテミス様が一番良い。
ニケさんへのケアは早め早めの対応が重要だからな。
(俺も大分ニケさんの扱い方には慣れてきたよなぁ)
と、そこまで決まれば後は考える必要すらない。
アテナが「ぶー(。・´з`・)」と不満顔なので、早々に品評会を始めていこう。
俺がまず始めに指名したのは───。
「よし。ドール、来い」
「......なぜ妾が始めなのじゃ? ニケ様からのほうが良いのではないか?」
「いいから早く来いって」
「やれやれ、主ときたらどうしようもないのじゃ」
女心がわからぬ鈍感な主人だと、口では小言ばかりのドールさん。
しかし、俺は知っている。
一番始めに指名されて、実は飛び上がりたいほどに喜んでいることを。
負けん気の強い性格だからこそ、一番始めに指名されたという優越感に浸っていることを。
(ちょっろい、お狐さんだわー)
ドールの最も簡単な扱い方は『異様に高い自尊心を気持ちよく擽ってやること』だ。
そう意味では、ドールをおいて一番手は他にいない。
「そ、そんな......歩様、なぜ......」
ただ、いくら合理的な選択肢とはいえ、ニケさんへのフォローを疎かにして良い訳ではない。
俺はすかさず、一番に指名されずに落ち込んでいたニケさんの耳元で「ニケさんは特別ですからね。一番最後です」と某○密さん方式で、この難局を無事乗りきった。
(ふぅ......危ない危ない。順番なんか適当で良いと思うんだけどなぁ。それでも拘っちゃうのが女性の性ってやつか?)
ニケさんのご機嫌が取れたことで、改めてドールを膝上へと招く。
ドールはぶつぶつと何やら呟きながらも、いそいそと移動してきた。
だが、そこで「待った」を掛ける。
「お前さぁ......」
「なんじゃ?」
俺としては背面の膝上抱っこをさせるつもりだったのだが、なぜか対面という形でちゃっかりと座っているドールさん。俺の詰問に白々しくもとぼけるご様子だ。
「なんじゃ、じゃないだろ。逆だ、逆」
「はぁ? 主は何を言うておるのじゃ? アルテミス様は言うたではないか。姉さまと同じように座って、との。先程の姉さまはこう座っていたはずだがのぅ?」
「ぐぅ!?」
勝利を確信したかのようなドヤ顔の上、ふふんと鼻で笑うドールが小憎たらしい。
本当、口の減らないやつだ。賢いからこそ、厄介でもある。
(ハァ..................言い合いでは勝ち目がないな。さっさと終わらせるか)
そう思っていたら、股間の辺りに妙な違和感が───。
「......おい」
「うるさいのぅ。今度はなんじゃ?」
妖しくも艶やかに、慣れた腰付きでさすさすさすと小振動を繰り返しているドール。
その絶妙な気持ちよさといったら......おふッ。ひ、筆舌に尽くしがたい。
(......じゃなくて!)
だから、こいつを膝上に乗せたくなかったんだよ。
隙あらば、何かとすぐにエロ方面へと舵を切り出すからな。
「なんじゃ、じゃないだろ! いい加減にしろ!!」
「口ではそう言うても気持ち良いくせに......ほれ、体は正直だのぅ」
「......や、止めろ」
「くふふ。本当に止めても良いのかのぅ? 遠慮せずとも良いのじゃぞ? どうじゃ? 病み付きになるであろう?」
本当に病み付きになりそうだから「止めろ」と言っているのに、こいつは!
ドールはうっとりと恍惚な表情を浮かべ、明らかに発情している様子。
妖艶な腰付きが、小振動から中振動へと更に早まる。
(う、くッ......いや、確かに俺の今の状態を見れば、ドールが発情してしまう理由もわからなくはないけどさ?)
だが、それはそれ、これはこれだ。
「......もう一度言うぞ。本当に止めろ」
「ほれ、ほれ、ほれ、ほれ。主よ、果てても構わぬのじゃぞ?」
「うぉ!? や、止めろって!」
まるで「とどめなのじゃ!」とばかりに、中振動から大振動へと加速していくドール。
「それとも、妾の女陰で───」
あ、うん。ダメだ、こいつ。
俺の声がまるで届いていない。
発情しきって、頭のネジがぶっ飛んでいるようだ。
「......」
その証拠に、思わず背筋がゾクリッとしてしまうようなハイライトを失った虚ろな瞳で、一部始終を静かに看過しているニケさんの存在にさえ気付いてもいない。
それにしても、あのニケさんがここまで我慢できているのも珍しい。
よほど自分の番がくるのを楽しみに、ならぬ堪忍するが堪忍していることがよく窺える。
「ひーw この主人にして、この奴隷ありってかいw 本当にアユムっちの周りは面白いったらないねw あひゃひゃひゃひゃひゃw」
「......」
そろそろ潮時か。
さすがの俺も色々と我慢の限界である。
いや、俺以上に、ニケさんがいつ噴火するかわかったもんじゃない。
アルテミス様も大爆笑されている以上、この事態を収めても何ら問題はないだろう。
(さてと、おいたをする小娘に鉄槌を下す時間だ)
俺はドールの頬に両手を添えてに"こ"り"と、今日一番の(黒い)笑顔を見せた。
そして───。
「止めろって言ってんだろ! くそ狐がッ! 毛ェ全部むしり取って、もふもふマフラーにしちまうぞ!!」
「い、痛い、痛いのじゃ! 痛いのじゃ! すまぬのじゃ!」
アテナにはほぼ毎日だが、ドールにはお久しぶりの必殺【マジ頬つねり】が炸裂。
発情しきっていたドールも、そのあまりの痛さからか正気に戻ったようだ。
「ハァ......浮かれ過ぎ。いい加減にしとけよ」
「いたたたたた......妾の可愛い顔が腫れたらどうするのじゃ? ほんの悪ふざけではないか。なんと了見の狭い主なのじゃ」
頬を擦りながら、ジトッとした眼差しで睨み付けてくるドール。
俺は短い溜め息を吐きながら「お前の為でもあるんだぞ?」との意味を込めて、(実質、俺は無害なはずなのに体が自然とそうならざるを得ない感じで)恐る恐る視線をとある場所へと泳がせた。......おぉ、怖ッ!!
「全く、なんだと言うの───ひぅ!?」
視線に釣られたドールは短い悲鳴をあげると同時に、一瞬にして体を強張らせる。
うんうん。そうなっちゃうよな?
今までほのぼの映画を見ていたのに、突如ホラーシーンを見せられた、その感じ。
「......な? わかっただろ?」
「う、うむ。わかったのじゃ。主よ、礼を言うのじゃ」
「わかればいいんだよ......そうだ! いちいち座り直させるのも面倒臭いから、そのままでいいぞ。但し、大人しくはしていろよ?」
「む? あれほど文句を言うておったのになぜ..................ふむ、なるほどのぅ。主もやればできるではないか! せっかくの厚意じゃ、ここは素直に甘えるとしようかのぅ」
「お、お前なぁ......」
そういうこと言うんじゃありません!
さりげなくカッコつけたことが台無しになるだろ!?
ニケさんの絶対零度視線に真っ正面から晒されないよう配慮したことがさ!!
(あぁ、やだやだ。これだから聡い娘はさ)
ドールと目が合うと、二人してクスリッと笑い合った。
主従の間柄だからこそわかり合える阿吽の呼吸というやつだろう。
まぁ、なんだかんだ言って、ドールのことは頼りにしているし、気に入ってもいる。
そんな絶妙な関係の心地好さに気分を良くしたのか、ドールが耳元でこんな提案をポツリ。
「主が望むなら、もふもふマフラーというのもやぶさかではないのじゃ。喜んで妾の体毛を進呈するのじゃ」
「いやいやいや。あれはさすがに冗談だから」
どうよ? これが、うちのドールさんよ。
主人の為に喜んで体毛を進呈するとか忠誠度が半端ねぇ!




