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歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~  作者: なつきいろ
第7章 躍進 -乙女豹アルテミス編-
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第284歩目 私のどこが一番好きですか? 前編


 さすが、私o(≧∇≦)o

 アテナちゃんがナンバー1だねー(`・ω・´)


 

 夜、魔天温泉にて───。


 明日の宮廷午餐会に向け、俺達は相手に失礼がないよう身を清めるつもりだ。

 当然、参加するメンバーは強制入浴で、風呂嫌いのアルテミス様も例外ではない。

 多少揉めたので「ゴネるようなら連れていかない」と、少し脅してやったらイチコロよ。


「へぇ、開放感があって良いねぇ。思ったよりも良い感じのところじゃないか」


 魔天温泉を一目見て、感嘆の声をあげるアルテミス様。


 そうでしょう。そうでしょう。

 なんたって、当方がおすすめする自慢のお風呂ですからね。

 食わず嫌いは良くないと身をもって知ることができましたね、アルテミス様?


「いえーい☆」

「いえーい、なのだ」


 ほら、見てご覧なさいな。

 モリオンはともかく、創造主であるヘカテー様も誉められたことでとても嬉しそう。


 しかし、最も喜びを体で表現していたのはヘカテー様ではなかったようだ。


「でっしょー( ´∀` )」

「あぁ、アテナっちが自慢したくなる気持ちがわかったよ。これは凄いねぇ」

「にへへー(*´∀`*)」


 にぱー☆と微笑むアテナは本当に嬉しそう。

 その笑顔を見て、ついつい頬が緩んでしまうのはお約束だ。


 まぁ、ここで「なんでお前が喜ぶんだ?」との突っ込みはしないでおこう。

 創造したのはヘカテー様だが、この温泉はアテナたっての希望でもあったことだし。


「私が案内してあげるー! アルテミスお姉ちゃーん(`・ω・´)」


 実姉に誉められた実妹は有頂天の最中にあるようだ。そのまま「早く早くー(o゜ω゜o)」と、半ば強引にアルテミス様の腕を引っ張る形で魔天温泉案内ツアーを開始してしまった。


「やれやれ。仕方がないねぇ、アテナっちは」


 さすがのアルテミス様もやや苦笑気味だが、可愛い実妹からのお誘いだからか、断る様子は微塵もなく言われるがままに付き合ってあげる模様。


(というか、いつでも入れるように服を脱いでからにしろよ! 二度手間になるだろ!)


 本当、あの駄女神は考えなしである。

 みんなの脱衣は俺の仕事なのだから少しは考慮して欲しい。


 ただ、アテナとアルテミス様を除いたメンバー全員(=ニケさん、ドール、モリオン、ヘカテー様)をすっぽんのぽんにしている時に、あることに気付いた。


(......あ、そういうことか)


 アテナの配慮に、思わずポンと手を打つ。


 現在、俺は非常にムラムラしている。

 原因は朝のあれだ。ニケさんとの中途半端な行為が発端である。

 消化不良というか、健在な男に対してお預けという状況が生殺しに近い。


 それと、ニケさんとは「夜に続きを」との約束を交わしている。

 今からそのことを想像するだけで、俺の脳汁はブシャーと溢れ出しそうだ。


 そんな危機的状況な様子の俺を考慮した上で、アテナは敢えて服を脱ぐ前に魔天温泉案内ツアーを開始したのだろう。


 だって、みなをすっぽんのぽんにした後は我慢出来そうにないしな。

 可能な限り一秒でも早くみんなの体を堪能───もとい、隅々まで洗ってあげたい。


(うん。そういうことにしておいてやるか。感謝しろよ、アテナ?)


 俺が自己完結している間に、アテナとアルテミス様が戻ってきた。

 いや、正解にはサクラの転移機能により、戻らされてきたというほうが正しいか。

 それはアルテミス様のどこか呆れ気味な表情からも読み取れる。


「どうしました?」


 なんとなく理由はわかるが、念の為に尋ねてみた。


「迷子だよ、迷子。アテナっちが案内してくれるっていうから付き合ってやったらさ、まさかの迷子ときたもんだ。さすがのあたしも驚いちまったよ」


 魔天温泉は全高15mのドラゴンモリオンが3人分ゆったり寛げるほどの広さがある。

 故に、お風呂大好きアテナは温泉内で迷子になるという痴態を度々やらかしている。

 一度や二度なんてものじゃない、しょっちゅうだ。大袈裟に言えば、ほぼ毎日である。


 まぁ、その為のサクラによる24時間フルサポートシステム、緊急事態(まいご)用の転移機能付きなのだが......まさか自ら案内ツアーを強行しておいて迷子になるとは、この俺の目をもってしても予想出来なかった。


「お前、またかよ......」

「えへへー(*´∀`*)」

「いや、誰も誉めてないから」

「本当、アテナっちは相変わらずだねぇ」

「 Σ(・ω・*ノ)ノ」


 こいつ......強い!


 俺とアルテミス様から白い目を向けられるも、アテナは全くの無傷。

 この図々しさというか鋼のメンタルは見習って───いや、素直に羨ましい。


 しかし、鋼のメンタルの持ち主は何もアテナだけには限らなかった。


「んじゃあ、見るもんも見たし、あたしはこれで失礼するよ」


 アルテミス様はそう仰ると、何食わぬ顔で魔天温泉を立ち去ろうとしていた。

 そのあまりの自然な流れに、思わず「わかりました」との言葉が喉まで出掛かる。


「いやいやいや。何を仰っているのですか、アルテミス様?」

「ちッ......やっぱり入らないとダメかい?」

「ダメに決まっています。本当に置いていきますよ?」

「あぁ、もう! わかったよ! さっさと済ませておくれよ!」

「なんで逆ギレ!?」


 本当、この妹にしてこの姉ありだな!



 ■■■■■



「ふぃー。温泉ってのも、入ったら入ったで悪くないもんだねぇ」

「疲れが取れて癒されますよね」

「そうだねぇ......まぁ、今後も入るつもりはないけどさw」


 あ、そっすか......。


 全員の体をピカピカに磨き終えた後は、温泉に浸かってまったりタイムを満喫中。

 グチグチと文句を仰っていたアルテミス様も何だかんだでリラックスされているようだ。


 ちなみに、逆ギレというあまりにも理不尽な行為に苛まれた俺は、その怒りをバネにアルテミス様にささやかな復讐を果たした。えぇ、弄んでやりましたとも。秘技【ゴッドフィンガー】を駆使して、アルテミス様の美しい肢体を隅々とな。げへへへへへ、大変おいしゅう───いや、満足しました。


 そんな訳で、俺は()()()()()()()アテナを膝の上に乗せてまったりしていた。

 それを見て、アルテミス様は驚いたように目を見開いた後、不思議そうに首を傾げた。


「どうしました?」

「い、いやさ、あたしが知らない内に、アテナっちとはそういう関係になっていたのかい?」

「......? そういう関係とは?」

「なんのことー(。´・ω・)?」


 アルテミス様が何を仰っているのかがわからない。

 俺とアテナは顔を合わせて、二人して「なんのこっ茶」と首を傾げた。

 あれかな? アルテミス様は久々のお風呂でのぼせちゃった的な?


「あれ? あたしがおかしいのかい?」

「少なくとも、アルテミス様は普通ではないかと」

「あ"ぁ"? それは聞き捨てならないねぇ。どういう意味だい、アユムっち!」


 ヒェ!? つい本音が!


 アルテミス様の凍てつく視線に、俺の心胆が震え上がる。

 温泉に浸かっているというのに、まるで冷水の中にいる気分だ。


 だが、アテナの「アルテミスお姉ちゃんは元からおかしーでしょー! あーははははは( ´∀` )」とのフォロー(?)を得て、危機一髪何事もなく無事に済んだ。アテナ、マジ感謝!


「し、失礼しました。......それで、何が不思議なのでしょうか?」

「それだよ、それ。何だか当たり前のように触っていないかい?」


 アルテミス様が顎でしゃくる先には、俺とアテナのスキンシップの光景が───。


「これ、ですか? アテナ、何かおかしいところあるか?」

「んー? いつものことだよねー(・ω・´*)」

「いつもだって?......ふーん。童貞のくせに(アテナっちには)随分と大胆じゃないか。ねぇ、アユムっち?」

「ど、童貞は関係ないですし!」


 何だか「ねぇ、アユムっち?」の部分にトゲのようなものを感じられたが、今は一旦置いておこう。


 そう、改めて言うが、童貞は関係ない。

 俺がアテナの体を好き放題に色々とまさぐってしまうのは。


(童貞は童貞でも、今夜脱童貞する予定だからな! 今の俺は非童貞予備軍さ!)


 そもそも、アテナの体がむちむちぷにぷにしているのが悪い。

 膝の上に乗せていてもそれらは感じられるし、だからこうして自然とまさぐってしまうのだ。


 俗に言うあれだ。「どうして山に登るのか?」と尋ねられて「そこに山があるから」と答えるやつと一緒で、「そこにアテナが居るから」つい触ってしまうのである。意識なんてものは全くしていない。理屈ではなく本能的なものだ。


「へぇ。じゃあ、あれかい? あたし達の体を洗っていた時もそうだって言うのかい?」

「!?」

「なぁんかさ、やらしい手付きだったんだよねぇ。視線もどこかねっちょりしていた気もするしさ」

「ねっちょり!?......い、嫌だなぁ、それはとんだ誤解ですよ」

「ふーん。そうかい。まぁ、こう言っちゃ何だが、久しぶりにアユムっちのことを気持ち悪いと思っちまったよ」

「HAHAHA」


 申し訳ありません! 意識しまくりでした! 思いっきり欲望的なものです!


 やはり、アルテミス様は色々と鋭い。

 手付きについては復讐的な意味合いも兼ねていたからバレても仕方がないだろう。


 しかし、ねっちょりした視線(───アルテミス様に言われるまでもなく、自分でも気持ち悪いと思う)に関しては、自分自身のことなのに指摘された今の今まで全く気付いてはいなかった。仮にそれが事実だと言うのなら、我が目を疑いたくもなる。


(......待てよ。まさか他のみんなも、そのことに気付いていた上で、敢えてスルーしてくれていたのか?)


 俺は確認する意味合いも込めて、アルテミス様を除くメンバー全員に視線を投げ掛けてみた。


「どしたのー(。´・ω・)?」

「あ、お前はいいや」


 アテナは......うん、想定内です。

 わざわざ視線を投げ掛けた俺が悪かった。

 こいつは興味ないことには鈍感どころか無関心だしな。


 となると、ここは───。


「私は歩様の全てを愛しておりますから。むしろ、もっと私を見て欲しいとさえ思っています」


 俺と目が合ったニケさんはにこりと微笑んだ後、そう語った。


「そ、そうですか」

「はい。私はいつも歩様を見ていますよ」


 ニケさんも想定内といえば想定内かな?

 ただ、肝心の『ねっちょり感』については言及されなかった気もする。


(うーん。全肯定彼女というのも悪くはないが......)


 こういう時はハッキリと言ってくれたほうが嬉しいまである。


 女性の体をやらしい目で見てしまうのは男の性なのでどうしようもない。

 それについて責められる謂れも全くない。一動物としての基本的な本能だしな。


 ただ、やらしい目で見るにしても『ねっちょり感』だけはさすがにマズい。

 どう考えても、女性の好感度爆下げのマイナス要因にしかならない悪い癖だ。

 まぁ、そのことに気付けただけでも、アルテミス様には大いに感謝したいかな。

 俺に好意がありつつも、ある一定の距離感があるからこそのアドバイスなんだと思う。


(......ということにしておきますからね、アルテミス様? これで俺のことを「気持ち悪い」と、さらっと仰ったことは水に流します)


 しかし、今の俺に必要なものは情報であって、それはまだ得られていない。

 認めたくないだけかもしれないが、本当にねっちょりしているのかどうかを確かめたいのだ。


 俺はその答えを求めるべく、視線を遥かなる時の彼方へと向けてみた。


「ふぅー。ヘカテーお姉ちゃんのお風呂は気持ちいいのだー」

「ありがとー! 私もモーちゃんと一緒に入るお風呂は楽しいよー☆」


 何をする訳でもないが、それでもピタッと寄り添うモリオンとヘカテー様。

 その光景は、まるでお互いの肌の温もりを確かめ合っているようにも見える。


(本当、この二人は尊いなぁ)


 ......あ、はい。答えを求める先が間違ってました。

 モリオンとヘカテー様に尋ねたところで時間の無駄だろう。

 この二人に関しては、男の下心という感情そのものがわかってなさそうだし。


 とはいえ、全く徒労に終わった訳でもなかった。


 二人の純真無垢な姿が、俺のささくれ立った心を癒していく。

 きゃっきゃうふふしている百合百合しい光景が、明日への活力として補充されていく。


 それは、これから立ち向かわねばならない試練への大いなる餞別だ。

 俺は二人に答えを求めていた訳ではない。

 勇気を、やる気を、一歩を踏み出す活力を求めて、ここに来たのだ。


 そして───。


「さぁ、どんと来い! ドール!」


 気合い十分、俺は試練へと立ち向かった。


 この場で最も客観的かつ頼りになる意見を貰えるのはドールを置いて他にはいない。

 こいつこそ真の魔王、俺をどん底へと突き落とすに違いない大いなる試練そのものなのだ。


「ハァ..................。主は何を言うておるのじゃ?」


 眉間に皺を寄せ、まるで奇っ怪なものでも見るような眼差しを向けてくるドール。

 そこには主人への忠誠心はあっても、尊敬の念などまるで無い冷めたものしかなかった。


「いや、実際にどうなのかと思ってさ。忌憚のない意見を求む」

「仮にそれを知ってどうしようというのじゃ?」

「どうって......さすがに気を付けようとは思ってるけど? それが原因で避けられても困るし」

「別に妾は困らぬ」

「俺が困るんだよ!」


 お風呂タイムは俺にとって最大の楽しみ───いや、女性に慣れる為の貴重な修業場だ。

 大事なコミュニケーションの場でもあることだし、失いたくはない。失う訳にもいかない。

 それに、どうせやるからには女性にも満足してもらいたいとも思う。


 そもそも「男性が苦手だから」とか「お風呂が嫌いだから」とかの理由なら、俺だって無理強いするつもりはないが、「ねっちょりした視線が嫌だから」なんて目も当てられない理由で避けられでもしたら、俺は立ち直れそうにもない。


 だからこそ、真実がどうなのかを知りたい。教えて欲しい。

 というか、主人がこんなにも困っているんだから、はよ言わんかいッ!


「やれやれ、仕方がないのぅ。心して聞くが良い」

「よろしくお願いします、ドール先生!」

「ふんッ! 調子の良いことを言いおって......おだてても何も出ぬのじゃ」


 相変わらずのポーカーフェイスだが、2本の尻尾は優雅にゆったりと振られている。

 俺は「素直に嬉しいと言えば良いのになぁ」と思いつつも、それを目で慈しむことに。


「アルテミス様の言うねっちょりかどうかは知らぬが......ねばねばとしたようなもの、ドロドロとしていてベタベタするような下心満載のもの───まるで子種に近いようなものは確かに感じられるのじゃ」

「余計に酷くなってるんですけど!?」


「真実故に仕方がなかろう。妾は別に気にはならぬが、それを気持ち悪いと感じる者は確かにおろうな......いや、気持ち悪いどころか、吐き気を催す者もおるかもしれぬ」

「お前、本当に遠慮が無いな!?......でも、ありがとうございます!」


 もう止めて! 俺の体力は0寸前だから!


 求めていた現実(こたえ)が、そこにはあった。

 だが、予想していた通り、完膚なきまでに打ちのめされてしまった。


(HAHAHA。そうか、俺の視線はそんなに気持ち悪いものだったのか......)


 自然と溜め息が出る。

 このままではガックリと項垂れそうだ。


「安心せい。他の者はともかく、妾は全く気にせぬからの」

「俺が気にするんだが?」

「小さい、小さい。なんだったら、視線だけではなく直接注いでくれても良いのじゃぞ? 主のこだ───」

「はい。ドール、アウトー!」


 それが言いたかっただけだろ、お前は!?


 ダメだ、こいつ。

 敢えてスルーしていたのに無理矢理触れてきやがった。

 頼りになる娘なのは間違いないが、そっち方面に意欲的過ぎて結構しんどい。


(癒しだ。今の俺には癒しが必要だ......。となると、ここは!)


 思い立ったら吉日という言葉がある。

 何か物事を始めようと思ったら、日を選ばずに着手するのが良いという教えのことだ。


 だから、俺は膝上のアテナを向かい合うように座り直させて───。


「どしたのー(。´・ω・)?」

「Go to heaven......天国に行く」


 ぽふっと、そのまま至福の地へとダイブした。


「ハァ..................。またしても(主が最終的に安寧を求めて行き着く先は)姉さまなのじゃな。もはや付き合いきれぬ」


 再び眉間に皺を寄せ、つまらなさそうな表情を見せるドール。

 若干、眉間の皺が先程よりも険しく見えるのは気のせいだろうか?


 その後は、まるで俺のことなど関心が失せたようにそっぽを向いてしまった。


(すまんな、ドール。お前のでは......その、なんというか役不足なんだ)


 心の中でドールに謝罪しつつ、俺はアテナの感触を楽しむ。


 ここはまさに理想郷。神の園だ。

 頬に触れるは羽毛のごとき柔らかさと心地好さ。

 押しては弾かれ、潜ればどこまでも沈んでいく底なし沼。


 ビー○クッションをして、人をダメにするソファーとはよく言ったものだ。

 まさにアテナの(ソファー)は人をダメにする凶器そのものである。


 ......けしからん! 実にけしからん! もっと俺を満足させろッ!


「ふがふがふが」

「歩、くすぐったいよー( ´∀` )」


 アテナが変に色気付いていないのも、実は高ポイント。

 ここで、どこかの発情娘のように年中盛られても困ってしまう。

 だからこそ、俺も遠慮なくアテナを癒し要員として見ることが出来るのだ。


 当然、日頃から俺とアテナの関係性を知っているメンバーは、その光景を当たり前のように受け入れている───いや、もはや見慣れていると言ったほうが正しいだろう。


 事実、あのニケさんでもあっても、特に目くじらを立てるようなことがないのが良い例だ。


 とはいえ、俺とアテナがスキンシップを図り始めると対抗心からか、はたまた寂しいからか、無言でピタッと寄り添ってくる辺りは可愛いものだ。今も俺の肩にコテンと頭を乗せてきている姿にはグッとくるものがある。


 しかし、この場に居るメンバーの中で見慣れていない人もいる訳で───。


「驚いたねぇ。アテナっちとアユムっちが、そこまで進んでいるとは思わなかったよ」


 再び、アルテミス様も驚愕で目を大きく見開いていた。

 その反応が、いちいち新鮮に思えてならない。


 俺達にとっては当たり前の光景も、アルテミス様にとってはそうではない。

 この認識の差は、ひとえに俺達の動向を確認出来ていたかどうかによるものが大きい。

 それは同じ女神であり、同じ神界を生活基盤にしているニケさんと比較しても明らかだ。


 そもそもの話......。


 謹慎によって、アルテミス様が俺達の状況を知り得なかった期間は僅か数年でしかない。

 そう、神様達にとっての数年間など、ほんの一瞬の出来事にしか過ぎないのだろう。

 たが、俺達人間側からすれば、数年間というのはとても大きい。

 その僅かな期間で、周囲の取り巻く環境や状況、事態などは大きく変化するものなのだ。


 ここが神様と人間の大きな───そして、明確な違いとなる。

 そのことをアルテミス様も身をもって知る良い機会になったのではないだろうか。


「あれかい? そこまで自然体でいられるってことは、アユムっちもアテナっちとの婚約は満更でもないってことかい?」

「ふがふがふが?」


 なんでそうなるのだろう。

 甚だ疑問に思えてならない。


 俺は単なる人間でしかない。それ以上でも以下でもない。

 常識的に考えて、女神の婚約者として相応しいとは思えない。

 まぁ、ニケさんは必ず娶るがな! そういう約束だし!


(それとも......アテナはそんなに貰い先がないのだろうか?)


 俺はアテナの(ソファー)からは顔を離さず、視線だけ上に向けてみた。

 すると、そこには温泉効果でアホ面を恥ずかしげもなく晒している駄女神の姿が───。


「ほぁー(*´μ`*)」

「......」


 あー、これはダメですわー。

 こんなアホ面を人前で晒すようなやつ、貰い手なんておりませんわー。


 だからと言って、アテナなんぞを俺に押し付けられても困るというもの。

 ここはしっかりと否定しておこう。


「ふがふがふが」

「なに言ってるかわからないよ。ちゃんと喋りな。これ以上、あたしに手間掛けさせるんじゃないよ」

「!?───ぷはッ! す、すいません!」


 再び凍てつく視線に晒されたので、急いで顔を上げた。上げざるを得なかった。

 いくらニケさんが側に居るとはいえ、アルテミス様の怒りを不用意に買うのはよろしくない。


 それにしても......さらば俺の楽園よ。また逢う日まで。


「わかればよろしい。それでなんだって?」

「はぁ......アテナとの婚約うんぬんは周りが勝手に盛り上がってるだけですから、俺はなんとも」

「ふーん。まぁ、どうでもいいよ」

「......」


「なら聞くなよ!」とは突っ込めず、にっこり営業スマイル。

 アテナが何か物申そうとしたが、こちらも「黙れ!」と一喝スマイル。


 お前ら理不尽姉妹にこれ以上付き合ってられるかッ!


「というかさ、アユムっちはいくらなんでもアテナっちの胸にご執心過ぎはしないかい? さっきもそうだし、アテナっちの体を洗っていた時もそうだったろ? ずっと胸ばかりじゃないか」

「うぐッ......」


 アルテミス様は本当に良く見ていらっしゃる。


 いや、別に言い訳をするつもりはないが、胸ばかりではなかったと思う。

 肉付きの良い腹をぷにぷにしたり、安産型のデカい尻をなでなでしてもいたはずだ。

 ただ、その比重というか、愛でていた時間が大幅に異なるだけである。

 具体的には『胸8:腹1:尻1』の感覚でさ。


 どうよ? 胸ばかりではないだろぉ?......え、ダメ?


「なんだかアテナっちじゃなくて、アテナっちの胸が好きなんじゃないかと思えてきたよ」

「それは否定しませんよ」


 そこだけは自信を持って言える。

 世界を中心に(胸への)愛を叫べる。


「Σ(・ω・*ノ)ノ」

「否定しないのかい!? あひゃひゃひゃひゃひゃw 本当、アユムっちは面白いねぇw」

「えぇ。否定はしません。実際、胸に関してはアテナが一番ですからね」


 しかし、この発言がマズかった。

 正確には「アテナが一番」の部分が、なのだが。


 それでも、これが新たな起爆剤となってしまったことだけは確かだった。


「......」


 バカ笑いしているアルテミス様を横目に、ふとニケさんの姿が視界に入った。

 ただひたすらジーっと、俺を一心不乱に見つめているニケさんの姿が。

 その瞳の奥では何かを必死に訴え掛けてきているようにも見受けられる。


「どうしました、ニケさん?」

「胸に関してはアテナ様が一番、というのはお間違いないですか?」

「えぇ、そうですね。間違いはないです」

「そう、ですか......」


 少し寂しそうな笑顔とともに俯くニケさん。


 一体どうした、とはさすがに思わない。

 いくら鈍感な俺でも、その原因ぐらいはわかるつもりだ。


 但し、それでもアテナの王座は揺るがない。

 ニケさんが最高の彼女であっても、評価は公平であるべきだ。

 きっとニケさんなら、その事を理解してくれるだろう。だから、譲らない。


(いよいよ、きてしまったか......)


 それと同時に、俺はある覚悟を決めた。

 この後、必然的に訪れるであろうイベントについてのだ。


「でしたら───」


 そして、それは予想通り訪れた。

 何かを決意した表情で、バッと顔を上げたニケさん。


「でしたら、歩様は私のどこが好きなんですか?」


 やはり来たか、と思った。今まで「好きです」「愛しています」と度々言ってはきたが、具体的に「どこが好き」とは一度も明言したことはなかった。言わなくとも、ニケさんがそれだけで満足していたからだ。


「......いいえ、私のどこが一番好きですか?」


 しかし、今回の起爆剤が、ニケさんに新たな境地を目覚めさせてしまったようだ。

 それは「どこが一番好き?」と、改めて言い直してきた所からでも容易に窺い知れる。


 ニケさんの表情から、瞳から、纏うオーラからも、真剣さがヒシヒシと伝わってくる。


(これは......マジなやつだ)


 だが、しかし、既に覚悟は決めている。何の問題もない。

 そう、俺のほうの問題は全くないのだが......。


 こういう一大局面時に、この人がしゃしゃり出て来ないはずがなかった。


「へぇ。なんだか面白いことになってるじゃないか。あたしにも聞かせておくれよ、アユムっちw」

「......」


 この時アルテミス様の、まるで「良いことを思い付いた!」みたいな底意地悪そうな笑みが溢れた瞬間を、俺は見逃さなかった。


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