第282歩目 想いを伝えられるのは......!
前回まであらすじ
愛するよりも愛されたいのー(。´・ω・)?
ふーん。私はねー、どーしても愛されちゃうからー、愛したいねー( ´∀` )
「......歩様? 私は......私は本当に歩様を信じても良いのですか?」
ニケさんが俺をジッと見つめる。
その表情は無機質なもので、奥に隠された感情はまるで読み取れない。
(ここが勝負どころか)
絶対に選択肢を誤ってはいけないシーンだ。
ここで対応を誤れば、恐らく二度とニケさんは俺を信用してはくれないだろう。
それは所謂破局を迎えることに等しい。絶対に避けたいところだ。
ただ、慎重になる必要はどこにもない。
答えなど、最初から一つに決まっているからだ。
「えぇ、信じて頂いていいですよ───いや、信じてください!」
「信じられません!!」
今の疑心暗鬼なニケさんでは、懸命に説いたところで恐らく時間の無駄だろう。
むしろ、余計に拗れる可能性すら有り得る。一途過ぎるが故の弊害と言ってもいい。
では、時間を置くか?───『否』だ。最悪の結果になりかねない。
結局、説き続けるしかないのだが、堂々巡りをしている余裕も恐らくないはずだ。
それほど事態は逼迫している、と想定しておくぐらいが望ましい。
となれば、ここは『アテナ式』の出番だ。
「分かりました。では、ニケさんが決めてください」
「え?」
「俺には「信じてください」とかしか言い様がありません。それでも「信じられない」と言うのでしたら、ニケさんが俺を信じられるかどうか決めてください」
「!?」
まるで「予想外なことを言われた」みたいな表情で目を丸くしているニケさん。
さすが『アテナ式』だ。目には目を、神(の思考)には神(の思考)をってか?
逆転の発想というか、思考そのものを丸投げしていくそのスタイル......素敵やん?
「今からここで何があったのかを正直に話します。その上で、ニケさんが判断してください」
「......ッ!」
端から見ても、ニケさんの身体が一瞬にして強張ったのが分かる。
知りたくもないと嫌悪感を示していたのだから当然の結果だろう。
それと同時に、真実を知る恐怖感にも苛まれているのだと思う。
「い、嫌です......」
それはニケさんの怯えた表情からも一目瞭然だ。
「では、俺を信じて頂けるのですね?」
「......」
ニケさんは黙ったまま俯いてしまった。
身体も痛々しいぐらいにギュッと抱き締め、ぶるぶると震えている。
(......ごめんね、ニケさん)
正直、見ていて辛い。断腸の思いだ。
俺が原因なのに、ニケさんを脅迫しているようで気分が悪い。
(でもね、ニケさんがどんなに嫌がろうとも止めるつもりはないよ?)
モラハラ上等! カップル間のことに他者が余計な口出しするんじゃねぇ!
俺とニケさんはもうそういう段階を乗り越えなければならない時期に来ている。
嫌だ嫌だと現実から目を背けてばかりもいられないのだ。そう説教されたばかりだしな。
それに、ここで退く訳にもいかない。
だって、ニケさんの答えは依然として変わっていないのだから。無言が良い証拠だ。
「話しますね?」
「や、止めてください! お願いします!」
悲痛な叫びとともに、耳を覆い隠そうとするニケさん。
「止めません!」
俺はそれを全力で防いだ。一切の躊躇もなく全力の全力で。
相手は女神様だ。俺よりも遥かに格上の相手である。
多少乱暴であろうと、それぐらいやらないと防ぎようがない。
いや、本来はそれでも防げないものだ。
では、どうして防げてしまったかと言うと、それはひとえに『(ニケさんの無意識からくる)愛の成せる業』だからだろう。表では拒絶反応を見せられても、裏では本能的に従ってしまうのだと思う。......俺は本当に愛されてるなぁ。
「ど、どうして......」
「ニケさんを愛しているからです! そして、俺を信じて欲しいからです!!」
「!!」
愛には愛で応える。俺も必死だ。
その上で、ニケさんに最終確認を迫った。
「話を聞く聞かないはニケさんにお任せします。ですが、最後には必ず決断して頂きます。それを承知の上で、後悔のないようにお願いします」
「......」
ニケさんからの返事は無い。
依然、俯いたままで表情も読み取れない。
だが、耳を覆い隠そうとしていたニケさんの腕からはスーッと力が抜けていった。
つまりは、そういうことなのだろう。
「では、始めますね。実は───」
俺はニケさんの頬を優しく一撫でした後、ゆっくりと事の顛末を語り出した。
■■■■■
「本当に、本当ですね?」
「本当です。というか、これで信じて頂けないようなら完全にお手上げです」
俺の胸の中で甘えるように顔を埋めているニケさんに対して、俺は力強く返事をした。
俺がニケさんに話した内容は───。
○秘密の小部屋でアルテミス様と密会をしていたこと。
○内緒にしていたのは、ニケさんに余計な心配を掛けたくなかったから。
○何をしていたかについては、俺達の今後についてアドバイスを貰っていたこと。
○その際に、アルテミス様より「アユムっちのわがまま」だと、お説教を喰らったこと。
などなど、こんな感じだ。
ちなみに、アルテミス様とキスしたことは話していない。
今のニケさんには話す必要性がないと判断したからだ。余計な心配させちゃうからな。
......え? それだと正直に話していない?
いやいやいや。俺は一切嘘など吐いてはいない。神に誓おう。
俺は確かにこう言った。
今からここで何があったのかを正直に話します、と。
そして、ニケさんに話した内容は全て真実のことだ。嘘ではない。
ただ、一つ言わせてもらうなら、俺は全てを話すとは一言も言ってはいない。
だから、アルテミス様とキスした話は伝えなかったに過ぎない。
屁理屈でも何でもない。これが『アテナ式』なのだ。
それに、ニケさん本人が『勝利』の力で本当かどうか確認するつもりもないようなので都合も良かった。それだけ俺の真剣さが、熱意が伝わったからだろう。
「まだ不安ですか?」
「......」
無言のまま、コクリと頷くニケさん。
どうやら全てを納得するには至らなかったようだ。
というか、これぐらいで解決するなら最初から苦労など全くない。
そこで、俺は嫌われるのを覚悟で、今現在ニケさんが不安に思っていることを無理矢理にでも聞き出した。
一歩踏み込むには丁度良い機会だということ。
最早、嫌われるのを恐れている時期ではないのだと思ったからだ。
いや、嫌なこと・厳しいこと・耳を背けたいことだからこそ、俺とニケさんの明るい未来の為にも話し合っておかなければならないのだと改めて痛感したからである。
「え? 俺とアルテミス様が......?」
「......はい」
その結果、得られた答えは案の定嫉妬によるものだった。
俺とアルテミス様の間に並々ならぬ絆を感じた。
仲良しなどでは到底納得できない強い信頼感で繋がっているようにも見えた。
と、ニケさんは不満たっぷりな上、非常に憎々しげに語っていた。
「ニケさんは俺のことが本当に大好きなんですね」
「仰る通りです。私は歩様のことを本当に愛しています......ご迷惑ですか?」
「迷惑だなんてとんでもない。俺もニケさんと同じですから───いや、ニケさんのことを愛していますから」
「ふふふ」
にへらと相好を崩したニケさんは、恥ずかしそうに俺の胸の中へと顔を埋めた。
こういった仕草一つ一つに幸せを感じる。本当に愛されている実感を得る。
俺はきっと独占欲が強いのだろう。だからこそ、ニケさんぐらい重い愛がしっくりくる。
さてと、幸せな気分に浸れたところで、ニケさんの不安を一気に払拭してしまいますか!
「ニケさん。ニケさんが感じたことはあながち間違いではないんですよ?」
「......ッ!」
バッと勢いよく顔を上げたニケさんの表情には「信じられないものを聞いた」との驚きの色がありありと浮かんでいる。瞳の奥には「嘘であって欲しい」との怯えの色も窺えた。
そんなニケさんに、俺は「大丈夫ですから」との意味を込めてにこりと微笑んだ。
「俺とアルテミス様は名実ともに親しい関係になりましたからね。だから、そういうふうに見えても何ら不思議ではないんですよ。むしろ、それに気付けたニケさんはさすがだと思います」
まぁ、『実』のほうはともかく『名』のほうは怪しいものだけどさ?
ただ、周りが勝手に盛り上がっている以上、それを利用しない手はどこにもない。
問題はニケさんがそれをどう思っているかだが......そこは当人達で解決して欲しい。
「名実......? ど、どういうことでしょうか?」
「良~い質問ですね~。つまり、こういうことです」
ともかく、ニケさんの関心は引けたようだ。
ここで一気に俺とアルテミス様の関係性について決着を付けてしまおう。
「『実』に関しては言うまでもないですよね?」
「はい。理解しております」
「話が早くて助かります」
さすがはニケさんだ。賢い!
改めて説明するまでもないだろうが、俺とアルテミス様は良きビジネスパートナーだ。
互いの利益の為に契約を交わす。これが名実の内の『実』の部分に当たる。
ニケさんもアルテミス様と契約を交わしているらしいので、それに対しての理解は早い。
「では、『名』についてなんですが......俺がアテナの婚約者になっていることはご存知ですよね?」
そう、問題はこれだ。
ニケさんがこの件についてどう思っているのかが、俺には分からない。
俺は恐る恐るニケさんの反応を窺った。
「当然存じております。神界内では知らぬ者などおりませんから」
「......あれ?」
「どうされました?」
「い、いえ......」
ニケさんは何てことはない、いつものお澄まし顔。
歓迎しているようには見えない。
不満を抱いているようにも見えない。
というか、まるで関心がないようにも見受けられる......そんな微妙な表情。
その予想外の反応に俺は戸惑った。
少しは不快感を表に出すと思っていただけに、余計に......。
(相手が自分の主人であるアテナだからか?)
謎は深まる。
アテナとニケさんの関係性はよく分からないことだらけだ。
とりあえず、ニケさんに先を促されたので、話を続けていく。
「俺とアテナが婚約者である以上、俺とアルテミス様もまた一応親族となります。だからですね」
「はぁ......それが何か?」
本当に分からないといった様子で、コテンと首を傾げるニケさん。
(......ん? 説明が足りなかったか?)
そういえば、ニケさんも一人っ子だったことを思い出す。一応義妹ということでドールやモリオンなども居るが、ニケさんは必要な時に声を掛けるぐらいで姉妹という形では積極的に親交を深めてはいないようだ。
それでは、俺の言いたいことが伝わらないのも仕方がない。
モデルケースはたくさん居るのだから、きちんと説明すべきだろう。
「アテナにとってのドールのような、ヘカテー様にとってのモリオンのような......そんな関係です、俺とアルテミス様は。つまりアテナと婚約したことで、俺はアルテミス様の義弟となったんです」
「なるほど。姉弟の関係になられたと言う訳ですね」
「はい。その上で、弟妹ってのは可愛くて可愛くて仕方がないみたいですよ?」
「経験はあります。かつてモリオンにそのような感情を少しだけ抱きましたから」
「あの時ですか。懐かしいですね......え? かつて?」
まるで今は何とも思っていないような物言い......き、気のせいだよな?
仮にモリオンがその事を知ったら泣くぞ、きっと。あの子は繋がりを強く求めるからな。
「......こほん。アルテミス様の場合、上には何柱か居られるようですが、弟は俺が初めてですからね。だから、余計に悪戯してくるんですよ。アルテミス様らしいですよね」
仕方がない姉さんだと、少し戯けてみせる。
すると、ニケさんはニケさんで苦笑しつつ、とんでもない結論を出してきた。
「そういえば、ご幼少時のアルテミス様は御兄君であるヘパイストス様にとても懐いておりました。私はてっきり、ヘパイストス様のことがお気に入りなだけだと思っていたのですが......そうですか、歩様にも同じように懐かれているのですね。納得しました。アルテミス様は実は単なるブラコンだったと、そういう訳ですよね?」
「ぶふぅ!?」
風評被害もなんのその。アルテミス様はブラコンとされてしまった。
いや、まぁ、ニケさんがそれで納得したなら、この際何でも良いのだが......HAHAHA。
ただ、アルテミス様にこの事が知られれば、俺が真っ先に疑われる可能性が非常に高い。
「え、えっと......この事は内密にお願いします」
「もちろんです。口外するつもりはありません」
ならばよしッ! ニケさんが納得したなら、それで良いじゃないか!
俺にとってはニケさんが第一で、アルテミス様は二の次だしな。これにて一件落着!
とはいえ、ここで満足してしまうのが、今までの俺とニケさんなのだ。
それでは何も変わらない。
何かを変えたいと願うのならば、まず先に俺が変わらなければならない。
今日はここからもう一歩踏み出してみるぞ!
■■■■■ (side -ニケ-)
私が落ち着いたところで、歩様からは改めて今後についての話し合いを提案されました。
歩様は普段からとても凛々しいお方なのですが、本日はいつにも増して真剣なご様子。アルテミス様との密会で色々とアドバイスされたというのは本当なのでしょう。ひしひしと気迫が伝わってくるようです。
「ということで、俺はですね───」
それからはたっぷりと時間をかけて話し合いました。
事前に腹を割って話せた効果も大きいのでしょう。
私と歩様の間では忌憚のない建設的な意見が飛び交いました。
そこで改めて感じたのは歩様からの大きな愛───こんな私ごときをとても大切に想われているということでした。
私は幸せ者です。
アテナ様のように美しくも賢くもなければ、アルテミス様のように素直でもありません。
そんな半端者な私に過分なまでのご配慮......私は本当に愛されているんですね。
「今まで俺の理想を押し付けていて、本当にすいません」
歩様は本当に申し訳なさそうに頭を下げられました。
「とんでもございません! 頭をお上げください、歩様!」
私はそれを全力で否定しました。
今の今まで不満に思ったことなど一度もありません。
むしろ、それだけ真剣に想われていたことに心が温まる思いです。
「清い交際、大いに結構です。歩様がそれを望まれるなら、私は快く受け入れます」
そう、今まで通りでも十分過ぎるほどなのです。
分相応という言葉があるように、これ以上を求めるのは身の丈に合わない気がします。
焦る必要はどこにもありません。
歩様はきちんと先の事まで考えられておられるのですから。
(今のままで良いのです。今のままで......)
私は歩様の胸の中へと顔を埋めました。
嬉しい時も悲しい時も、これで全て乗り越えられます。
(ふふ......本当、私は素直じゃありませんね)
しかし、歩様は首を横に振って『否』を示しました。
「それがダメなんだと思います」
「......え?」
「ニケさんのその気持ちは嬉しく思います。ですが、それでは今までと何も変わりません」
「それはそうですが......私は何も望むことはありません。今でも十分に幸せですよ?」
「ニケさん、嘘は良くないですよ? 俺にそういう言いましたよね?」
「!?」
歩様の言葉にはどこか確信めいたものが込められていました。
私の事なら何でもお見通しだと言わんばかりの強い語気に惚れ惚れしそうです。
まるで心を見透かされたようなこの感覚......これが相思相愛というやつでしょうか。
(歩様、私をどこまで惚れ死にさせるおつもりですか!?)
私が惚気ている間にも、歩様のお話は続いていました。
「せっかく、こういう機会を設けられたんです。心の内を、思っていることを全部晒け出しちゃいましょうよ? 俺はそれを受け止めますから。ありますよね? ニケさんのやりたいこと、願いが。降臨初日に言っていたじゃないですか、お願い事があると。俺はまだそれを聞いてはいないですよ」
「......ッ!」
勢いよく顔を上げた私と目が合うと、歩様はにこりと微笑んで頷いてくれました。
まさか覚えておられるとは思いもしませんでした。
本当に歩様は私の事をよく見ておられます。嬉しいやら恥ずかしいやら......。
確かに私には願いがあります。
叶えるのは容易いことだと思っていましたが、諦めてしまったものが。
というのも、バットの提言通り良い雰囲気を作ろうと努力してみましたが、どれもこれも失敗ばかり。結果、良い雰囲気を作るどころか、歩様の寵愛を失しないかねない事態だったので今回は諦めてしまったのです。次回こそは、と。
しかし、歩様はそれではダメだと仰いました。
そして、私の為にも歩様の為にもぜひ話して欲しい、と。
「ほ、本当に宜しいのですか?」
「えぇ、お願いします」
「......」
歩様の優しい笑顔には救われますが、それでも躊躇われます。
私としても、歩様との間に誰にも負けることのない強い繋がりが欲しいです。
何があっても不安な気持ちにならないぐらい、歩様にとって私が特別な女であるという確かな愛を求めたいです。
ですが......。
「まだ不安ですか?」
「歩様......」
あぁ、自分が嫌になるぐらい情けない声を......。
私は今どんな表情を歩様の前で晒しているのでしょうか。
藁にも縋るような、救いを求めるような、そんなみっともない姿でしょうか。
本当なら全てを晒け出してスッキリしたいです。
お優しい歩様ならば、もしかしたら笑って受け入れてくれるかもしれません。
ですが......ですが......。
私が何よりも恐れるのは歩様の寵愛を失うこと。
わがままを言い過ぎた結果呆れられ、私から離れていってしまうことです。
私の中には既に歩様がいらっしゃいます。歩様なしの人生など考えられません。
だからこそ、どうしても躊躇われてしまいます。
いっそ、このまま黙って遣り過ごしたほうが良いのではないかとも思ってしまいます。
しかし、本日の歩様は一味違いました。
「言ってくれるまで逃がしませんよ?」
「!?」
私の肩をガッシリと掴み、真正面から私の目をジッと見つめてくる歩様。
そこには言葉通り「話すまでは逃がさない」という強い意思が伝わってきます。
そして、歩様はそのまま───。
「ニケさんに勇気をあげます」
「え? それはどういう───!?」
感じるは暖かくも優しい感触。
「ふぅ..................どうでしょう? 勇気出ました?」
「はぁ..................歩様ぁ♡」
またしても歩様の前で情けない声を出してしまいました。
ですが、今回のは仕方がありません。
なんたって、歩様からいきなりキスをされてしまったのですから。
見つめ合った時点で期待しなかった訳ではないですが、不意打ちはいけませんよね。
(歩様......大好きッ!)
更に、歩様は勢いそのままで熱い思いをぶつけられてきました。
「安心してください。俺はどんなニケさんも受け入れます。ですから、ニケさんの思いを、願いを教えてください。なんでも叶えてみせますから!」
歩様の熱き思いは、不意打ちのキスでふわふわと幸せな気分に浸っていた私の琴線に激しく触れました。
「......今、なんでもと仰いました?」
「はい。どんと来てください」
「本当になんでも良いのですね?」
「うッ......や、やっぱり、俺が出来る範囲でなら、でお願いします」
「もう、歩様ったら......ふふ」
強引なんだか謙虚なんだか分かりません。
ですが、そんな歩様もとても愛おしいです。
(ふぅ......歩様を信じると決めましたものね)
私も覚悟が決まりました。勇気を貰い、背中も押して頂けたのです。
これで決断を下さないのは、ここまでして下さった歩様に対する裏切りに他なりません。
それは私が最も恐れることであり、あってはならないことなのです。
だから、私は───。
「歩様? 歩様は以前こう仰いましたよね。言葉にしてもらわないと想いは伝わらない、と」
「その通りです。今でもそう思っていますよ」
確かに仰る通りなのでしょう。
それで私も何度も救われましたから。
「ですが、私はこうも思うのです」
私はそう言うと、歩様の胸をトンと軽く押しました。
その影響で、よろけるような形でベッドへと吸い込まれていく歩様。
「おっとっと......ニ、ニケさん?」
「想いを伝えられるのは言葉だけではありませんよね?」
「!?」
私の突然の行動に目を丸くしている歩様はなんだか可愛らしいです。
それと同時に抱いた、少し不思議なこの気持ち......。
(これが好きな人を独占する、支配するということなのでしょうか?)
ベッドに埋もれ困惑している歩様を前に、私ははしたなくも興奮気味に馬乗りになってしまっていました。




