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歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~  作者: なつきいろ
第7章 躍進 -乙女豹アルテミス編-
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第281歩目 本当に信じても良いのですか?


 前回までのあらすじ


 こらー! アルテミスお姉ちゃーん、歩は私の下僕だからねーヽ(`Д´#)ノ



「はぁ!? 1階(した)で朝食を作っているんじゃないのか!?」


 ニケさんが秘密の小部屋に接近中。

 その情報は俺とアルテミス様の心胆を寒からしめた。


 実はニケさんには内緒で、アルテミス様を秘密の小部屋へと案内している。


 当然だ。

 ここは俺とニケさんだけの秘密の場所。何人たりとも侵すことが許されない聖域である。

 それに「アルテミス様と秘密の小部屋に行ってますね」などと言えるはずもないのだから。


「そ、それがですがねぇ、既に作り終えたみたいなんですよぉ。ずぅっと、ますたぁ達を呼ばれていましたぁ」

「え? じゃあ、そのことをなぜ教えてくれなかったんだ?」


 サクラは魔動駆輪そのものだ。

 誰がどこに居て、何をしているのかは全て網羅している。

 当然、俺とアルテミス様の今までの経緯も全て把握していることだろう。


 だから、ニケさんが呼んでいたことを俺とアルテミス様に伝えようと思えば、いつでもそれは可能なはずなのだが......。


「......」

「サクラ?」


 サクラが押し黙ったことに違和感を覚える。

 いくら相手が機械だろうと、言い辛そうな雰囲気というものは伝わるものだ。


(なぜ、ここで黙るんだ......?)


 しかし、そんな俺の疑念などどこ吹く風といった調子で、サクラは再び口を開いた。


「だ、だってぇ、ますたぁ達が良い雰囲気でしたからぁ、邪魔したら悪いなぁ、とぉ......」

「そんな気遣い要らないから! それのせいで緊急事態迎えてるから!」

「そぉいう訳にはいきませんよぉ。人の恋路を邪魔するものはぁ、馬に蹴られて死んじゃうんですよぉ? 怖いじゃないですかぁ」

「いやいやいや。サクラは(機械だから)馬に蹴られたぐらいで死なないから」


 粋な心配りはありがたいのだが、今はそれが恨めしい。

 この少しズレた感覚......さすが女神様を親に持つKYっぷりだ。


(それにしても、人の恋路を邪魔するものは、なんて知識をどこから仕入れてきたんだ?)


 可能性があるとすれば、最近読書にハマっているモリオン辺りだろうか。


 モリオンとサクラの仲は非常に良好で、お菓子とお風呂ばかりで全然構ってくれない(アテナ)と、研究漬けで姉妹を放置気味な(ドール)の代わりに、一緒に遊んでいる姿をよく見掛けるぐらいだ。


 なんにせよ、学習型AIの素晴らしさを改めて垣間見た瞬間だった。


「アユムっち、機械と遊んでる場合じゃないだろ。何とかしておくれよ」

「いつ遊んでるように見えました!?」


 ここにも居たよ、KYさんがッ!


 とはいえ、アルテミス様の仰る通りだ。

 この場を何とかしないと、神vs神の修羅場を迎えそうで非常に怖い。

 そうなったら、俺の魔動駆輪(マイホーム)が第二のパ○クハザードと化すのも時間の問題だろう。


 だから、俺は───。



 ■■■■■  (side -ニケ-)



 朝食の支度は誰にも譲ることの出来ない私の重要な仕事の一つです。

 朝から歩様に「おいしいですよ」と誉めてもらえる素晴らしい仕事ですからね。


 ですので、本日もいつものように朝食の支度を終え───いえ、昨日の酒宴は何とか酔い潰れるのを回避出来た為、酒の肴の余り物を少し融通して頂くことが叶いました。それをアレンジして調理した為、普段よりは随分と早めに支度を終えることが出来たのです。


 雑誌にも、こうありました。

 昨日の余り物を上手く活かせてこそ料理名人だ、と。

 昨日の余り物ご飯は彼氏に小さな幸せを感じさせる、とも。


 ざっと見たところ、酒の肴は味の濃いものが比較的多いようでした。

 それをそのまま朝食として出すには、朝は和食派な歩様にはさぞ不評なことでしょう。

 ですので、逆に味の濃いものを好むアテナ様や、その他大勢から不満が出ない程度には上手くアレンジ出来たかと思います。


(ふふ。今日も「ニケさんの料理は絶品だなぁ」と誉めて頂けるでしょうか?)


 私は期待に胸を膨らませ、サクラに支度が整ったことを皆に伝えるよう頼みました。


 ですが、アテナ様を始め、多くの面々がリビングに勢揃いする中、一向に姿を現そうとしない歩様とアルテミス様。サクラにお二人のことを尋ねてみても要領の得ない答えが返ってくるばかりでした。


 明らかにおかしいです。

 この魔動駆輪の管理者であるサクラが、お二人の所在地を知らないはずがありません。

 仮に外出されているのであれば、要領の得ない答えなど返ってくるはずもありません。


(一体、お二人で何をされているのでしょうか?)


 心がざわめきます。

 不安な気持ちが押し寄せてきて胸が張り裂けそうです。


 最近の私は些細なことでも不安な気持ちを抱くようになりました。

 理由は様々ありますが、決定的となったのが歩様とアルテミス様の()()()()()()です。


 アルテミス様は普段から女神としてはだらしない面が多々見受けられるお方でした。

 また、難儀な性格も相まって、親密になられる方は非常に限られていたのです。


 たとえば、アテナ様はそのお一人です。他には......ヘスティア様ぐらいでしょうか?

 アテナ様は生来の懐の広さと天真爛漫さ故に、それらを物ともしておりませんでした。

 来るもの拒まず、全てのものを平等に愛する博愛精神、さすがと言わざるを得ません。


 ただ、私は正直アルテミス様は苦手なお方です。

 最高神として敬うことはあっても、互いに分かり合えることは決して無いかと。

 まぁ、アテナ様が慕っておられる以上、苦手などと言ってる場合では無いのですが。


 当然、歩様も当初はアルテミス様に対してどこか一歩引いた感じがありました。

 敬意はあっても油断しない、深く関わり合わないよう浅く狭くと。


 そのように見受けられたので、アルテミス様が『私の』歩様に節操無くベタベタベタベタされておりましても、私はどこか余裕をもって笑って許せていたのです(※ニケはそのつもりでした)

 むしろ、「歩様も大変ですね」などと憐れみを感じていたぐらいです(※ニケはそのつもりでした)


 ですが、降臨初日に見た、歩様とアルテミス様の非常に仲睦まじい御姿。


 それは「とても親しげな」とは少し異なる、何とも言い様のない雰囲気でした。

 親密を越えた何か。たとえるなら、私と歩様の関係に近いとも言えなくないような......。

 少なくとも、歩様がアルテミス様のありのままを受け入れられたことだけは確かでした。


 つまり、お二人の間で何かがあったはず......正直、胸騒ぎを覚えたほどです。


 そして、それは今もです。不安で不安で仕方がありません。歩様が『私の』歩様で無くなってしまうような、どこか遠くに行かれてしまうような、そんな例えようのない不安感に苛まれてしまいました。


 結局、居ても立っても居られなくなった私は───。


「......サクラ、私は今から歩様とアルテミス様の元へと赴きます」

「えぇ!? そ、それはぁ......」

「この事は歩様とアルテミス様には内密に......分かっていますね?」

「は、はぁい......」


 問答無用の内密さんを発動です!


 私の予想では、お二人が別々の場所に居る、とは到底思えません。

 その事は、サクラの反応から見てもまず間違いはないでしょう。


(歩様......歩様......歩様! 私は......私は歩様を信じても良いんですよね?)



 ■■■■■

 


「こちらに居らっしゃったのですね、歩様」

「え、えぇ」


 とりあえず、可能な限りの手段を尽くして、ニケさんを出迎えることに成功した。


 アルテミス様はサクラの転移機能を利用して魔限酒造へ。

 また、サクラのサポート機能を駆使して、秘密の小部屋の換気と清浄を速やかに行った。

 アルテミス様を送り出したところで、アルテミス臭が部屋中に充満していたら意味が無いからな。


 ひとまず、アルテミス様との密会の事実───ニケさんを悲しませるような原因の完全排除は出来ただろう。ホッと一安心。


 しかし、ニケさんの反応は俺の予想したものとは全く異なるものだった。


「......アルテミス様はどちらでしょうか?」

「さ、さあ? 魔限酒造(いつもの場所)じゃないですかね?」

「......そう、ですか」

「うん?」


 ニケさんの声のトーンが、いつもより少しか細いようにも感じる。

 いや、そう感じるのは、声が若干震えているようにも思われるからだろうか。


 俺がニケさんの異変に戸惑っていたら、彼女の美しい双眸からツーと一滴の涙が───。


「えぇ!?」


 事態の急展開に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 今までも不平や不満、文句を言われたことは何度かあるが、こんなことは初めてだ。

 いや、非常に情けない話だが、互いのすれ違いの結果、泣かれたことだってあるよ?


 しかし、(俺に対して)こんな静かな悲しみは......こんな静かな怒りは本当に初めてだ。


 事ここに至って、俺は初めて恐怖を覚えた。

 それは「このままではニケさんを失ってしまうかもしれない」というある種の絶望だ。


「あ、あの、ニケさん?」


 恐る恐るニケさんに声を掛ける。

 俺にはニケさんと話す覚悟があるよ、と示すかのように。


「......どうして」

「はい」


 ニケさんが少しずつ言葉を紡いでいくのを焦らず待つ。

 俺にはニケさんの話を最後まで聞く覚悟があるよ、と示すかのように。


「......どうして......どうして」

「はい」

「......どうして......どうして......どうして」

「はい」

「......どうして......どうして......どうして............歩様は嘘を吐かれるのですか?」

「え? 嘘?」

「..................はい。私が来るほんの少し前まで、この部屋にてアルテミス様とご一緒されていましたよね?」

「!!」


 か、完全にアルテミス様との密会がバレている。


 心臓がバクバクと異様に高鳴る。空気が重い。息苦しい。

 目の前が真っ暗になり、立っていられないほどの目眩もする。


 それでも、俺は懸命に声を絞り出した。


「ど、どうして、そう思うんですか?」


「......造作も無いことです。私はサクラの産みの親なのです。ですから、子供であるサクラに出来ることが、どうして親である私に出来ないことがあるでしょうか?......歩様、サクラの管理下にあるということは、それ即ち私の管理下にあるということでもあるのですよ?」


 俺はガクッと頭を垂れた。


 考えるまでも無かった。

 ()()()()ニケさんに隠し事など出来るはずが無いということを。

 神の力である『勝利』の前では小細工など通用するはずが無いということを。


「......では、ニケさんは全てを承知なのですね?」


 ここは観念すべきだろう。

 往生際が悪いのは美しくない。余計、ニケさんを悲しませる悪手ともなる。


 そして、今考えなければならないのは『どのように謝れば良いか』だ。

 どうすれば『ニケさんと破局を迎えずに済む』かである。非は全て俺にある。難問だ。


 しかし、ここでもニケさんの反応は俺の予想したものとは全く異なるものだった。


「......いいえ、私は存じません。存じ上げているのは、私に内緒で歩様とアルテミス様が密会をされていた、ということぐらいです」

「え?」


 予想外の答えに面喰らってしまった。


 ニケさんの『勝利』の力を使えば、密会の詳細を知ることなど容易いはず。

 というか、その力を使ったからこそ、俺が嘘を吐いたと断定したものとばかり思っていた。


「......それぐらいのこと、サクラの反応を見れば誰にでも分かります」


 サ~ク~ラ~!


「......そんなことよりも、私は歩様に嘘を吐かれたことがとても悲しいです」

「うッ......」


 ごもっとも。


 というか、サクラを責めるのは筋違いだった。

 元はと言えば、全ての原因は俺とアルテミス様にあるのだから。


 すまんな、サクラ!


「......歩様? 私は......私は本当に歩様を信じても良いのですか?」

「も、もちろんです!」

「信じられません!!」

「うひッ!?」


 当然といえば当然だが、ニケさんの強い拒絶反応に心が慄く。

 ニケさんから伝わる悲哀感が、やりきれない思いが、俺の胸を締め付ける。


「......ごくッ」


 これは、いよいよもってマズい展開になってきた。

 間違った選択肢を選べば、俺とニケさんの間には深い溝が出来かねない。

 二度と修復されない深く険しい深淵な溝が......そんなのは真っ平ごめんだ!


「......私はですね。あの時、歩様が正直に仰って頂けたなら信じるつもりでいました」


 あの時とは、恐らくニケさんがアルテミス様の所在を尋ねてきた時のことを指すのだろう。


「......ここでアルテミス様と何をされていたのかも............気になりますけどね? それでも問わないつもりでした............気になりますけどね? 歩様のお言葉を全て信じて、そっくりそのまま自分の心の奥底に不満を押し込めるつもりでいたのです............気になりますけどね?」


「お、押し込める? どうして、そんなことを?」


 正直、不満をぶつけてもらったほうが遥かに良い

 自分勝手な話だが、罪悪感に押し潰されずに済むからだ。


 ただ、ニケさんからは「信じたい」という強い想いがひしひしと伝わってくる。


(......ニケさんがそうすると決めたんだ。俺に裁量権は無い。ニケさんの判断に従うのみ)


 しかし、それと同時に「なぜそこまで?」という疑念も沸いてくる。くどいようだが、『勝利』の力を使えば、ニケさんは密会の詳細など容易く知ることが出来るというのに......。


 そんな俺の疑問に、ニケさんは首を横に振った。


「......知りたくなかったからですよ、歩様」

「知りたくなかった?」


「......はい。この部屋で───私と歩様にとって特別なこの部屋で、歩様とアルテミス様がされていたことなど知りたくもなかったのです............気にはなりますどね?」


 秘密の小部屋は何人たりとも侵すことが許されない聖域だ。

 それは「夫婦の寝室にも等しい空間」だと言えば、より理解しやすいだろう。

 ニケさんが「知りたくもない」と嫌悪感を表すのは当然の結果だ。


 ふッと自嘲気味に笑ったニケさんは、更に首を横に振った。


「......いいえ、違いますね。何かをされていたなどと信じたくはなかった、というのが正しいでしょうか?......ですから、それを信じる為にも、歩様には嘘を吐かれたくなどなかったのです。正直に仰って頂ければ、多少は不満を示したでしょうが、信じることは出来たのです。......ですが、嘘を吐かれたということは......つまり、そういうことなのですよね?」


「......」


 失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。

 どうやら(日本人お得意の)初動対応の時点で躓いてしまっていたようだ。

 HAHAHA。己の愚かさに笑えてくる。笑ってくれて構わない。笑えよ、俺。


「......歩様? 私は......私は本当に歩様を信じても良いのですか?」




 シリアスっぽいのがちょいちょい出てきて申し訳ありません。

 今章はアルテミスがメインとなっていまして、ニケとは水と油のような関係ですからね。

 どうしても片方が出てくれば、もう片方は面倒臭い展開になりがちな傾向となります。悪しからず。


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