第278歩目 私に恋、されちゃった感じですか?
前回までのあらすじ
ドレス着ろとかーr(・ω・`;)
歩とニケ、うざーいヽ(`Д´#)ノ
舞日家会議を終えたその日の午後。
俺達一行は受付嬢さんおすすめの服飾店へと向かっていた。
理由は言わずもがな、宮廷午餐会用のドレスなどを新調する為だ。
「なんかすいませんね。お仕事の途中でしたのに」
「いえ、お気になさらず。竜殺し様は冒険者代表としてお城に招かれたのですから、私共が責任を持って送り出すのは当然の務めです」
こう語るは、冒険者ギルドの受付嬢ミシーネさん。
登城する以上は、それに見合ったドレスコードは必要となる。
故にドレスの選び方などを相談したところ、付いてきてくれることになった。
なんでも、ミシーネさんは趣味が高じてコーディネーターの資格を有しているんだとか。
それはそれで大変素晴らしいことだと思うが......。
きっと、それが原因なのだろう。
ミシーネさんがいまだに独身なのは。まぁ、余計なお世話か。
俺はチラリと横目でミシーネさんを見遣る。
(うーん。センスは良いと思うけど......)
受付嬢ならフォーマルな服装で十分だと思う。
しかし、ミシーネさんの今の格好はとてもそうには見えない。
出るところに出れば、貴族のご令嬢と見紛うばかりの派手な服装だ。
(コーディネートの前に、TPOを先に学ぶべきだったのでは?)
まぁ、五十音姉妹がどこかおかしいのは始めから分かっていたことだ。今更か。
「先程から私をちらちらと見られているようですが、どうされました?」
「いえ、随分と気合いの入った服装だな、と思いまして」
「ありがとうございます。さすがは竜殺し様ですね。お目が高い」
別に誉めた訳ではないんですけどね?
意外とポジティブなミシーネさんだった。
いや、五十音姉妹は謝り癖のあるオシーネさんを除いて、みんなこんな感じだったな。
「普段からそうなんですか?」
「もちろん、普段からこうですよ。最新の流行を常に追っていますからね。これも素敵な殿方と出会う為の先行投資なのです」
「そ、そうですか」
「もしかして......私に恋、されちゃった感じですか?」
「あ、それは無いです」
勘違いされると困るので、はっきりと否定しておく。
というか、男側からしたら、ミシーネさんは意識高過ぎて逆に声を掛けづらい。
(頑張ってはいるんだろうどさ?)
これは全ての女性に言えることだが、金のかかる女性は敬遠される。
趣味は趣味の範囲内で留めてこそだ。それを早く理解したほうが良い。
そんな俺は彼女と必要経費の為ならば、いくらでも出費は惜しまない派だ。
「そうですか。残念です。それで、ドレスの選び方なのですが───」
この感じ、断られ慣れている......?
へこたれないミシーネさんのドレス講座が始まった。
「なるほど。参考になります」
興味を示しているのはニケさんのみ。真面目だなー。
俺を始め、その他の面々はまるで興味が無さそうだ。
頼んでおいて失礼だとは思うが、こればっかりは仕方がない。
(うーん。みんなに見合ったドレスを選んでくれるだけで良いんだけどなー)
■■■■■
服装店に着いた。
早速、店内へと足を踏み入れる。
(あー......うん。これは良い店だな。さすがミシーネさん)
店内の匂いというか雰囲気というか、営業で培った直感がそう告げる。
良い店というのは、店内の匂いや雰囲気だけで分かるものだ。
いくら外観を立派に見せても、それらはそう簡単には誤魔化せないからな。
これは良い店を紹介してもらった。ミシーネさんには後でお礼をすべきだろう。
「竜殺し様。私はちょっと」
どうやら、ミシーネさんは店員さんと知り合いらしい。
何やら話し合いたいことがあるようだ。
せっかくなので、ミシーネさんを待っている間に俺達はドレスを見ていくことにする。
「ヘカテーお姉ちゃん! 早く、早くなのだ!」
「モーちゃん。お店の中ではしーだよ、しー☆」
一番に反応を見せたのはモリオンだった。
意外といえば意外だが、実はそうでもない。
モリオンは本を読み聞かすようになってから、様々なものに興味を示すようになった。
特にいつも一緒にいるドールの影響を強く受けていて、服飾関係には結構うるさい。
そういう意味では、服飾店というのは体が疼いて疼いて仕方がないのだろう。
「我がヘカテーお姉ちゃんのも選んであげるのだ!」
「ありがとー! モーちゃん、お願いねー☆」
まぁ、騒がしくしない以上は好きにさせてあげよう
モリオンにとっては久方ぶりの外出でもあるので、多少は大目に見るつもりだ。
さて、モリオンとヘカテー様がきゃっきゃうふふと楽しんでいる一方───。
「ニケー。ドレスなんてなんでもいーよー(´-ε -`)」
「そういう訳には参りません。私がアテナ様の魅力を完璧に引き立たせてみせます」
難しい顔をしているのが、アテナとニケさんだ。
ミシーネさんより知識を得たニケさんが異様に張り切っている。
それにアテナが振り回されているといった構図だ。もはや着せ替え人形と化している。
「アテナ様の晴れ舞台ですからね。妥協は一切許されません」
「めんどくさーr(・ω・`;)」
この場において、適当なアテナと生真面目なニケさんの組み合わせは最悪に近い。
特に「アテナ様の御為に!」と忠誠心に駆られているニケさんは止めようがない。
巻き込まれるととても面倒臭そうなので、ソッとしておこう。
となると、俺の相手は当然───。
「ドレスなんてひらひらしたもの、あたしは好かないんだけどねぇ」
アテナ同様、ドレスになど全く関心を示さないアルテミス様となる。
「そういう『契約』ですよ? 絶対に着てもらいますからね」
「分かってるよ。いちいち念を押されなくてもさ」
その点は一応信用している。
だからこそ、宮廷午餐会への同行を許可したのだから。
それにしても、面倒臭がらずに真剣に選んでみて欲しい。アルテミス様ほどの美貌の持ち主なら、絶対にドレスは似合うと思うんだけどなぁ......もったいない。なんとかならんかね?
「とりあえず、気になったものでも手に取られてみてはいかがですか?」
「そんなものはないね」
「まさかの即答!?」
「当然だろ? 今のこの格好が一番さ」
この格好とは、デニムのショートパンツとタンクトップのことだ。
初めて降臨された際に購入したもので、動きやすいと大変気に入っているらしい。
というか、気持ちは分かるけど、それドレスじゃないし!
「その格好はダメですからね?」
「それぐらい分かってるっての。本当にしつこいんだよ、アユムっちは」
「だったら、ちゃんと選んでくださいよ」
「ったく。面倒臭いねぇ......あ! そうだ! だったらさ、アユムっちが選んでおくれよ。あたしはそれを着るからさ」
「え?」
この女神様はまた無理難題を......。
そもそも、その選び方が分からないから、ミシーネさんに同行してもらったのだ。
それを、俺に「見合うドレスを見繕え」というのはあまりにも無茶苦茶過ぎる。
恐らく、アルテミス様もそれを分かった上で......。
「あたしにドレスを着ろと言ったのはアユムっちだよ? だったらさ、そのドレスを選ぶのはアユムっちの仕事じゃないのかい? 下界では、そういうのを責任と言うんじゃないのかねぇ? そこんとこどうなんだい、アユムっち? あひゃひゃひゃひゃひゃw」
「そ、それはそうですが......」
この女神様、絶対に分かってる!
分かった上で、この状況を楽しんでるよ!!
きれいな弧を描くように口角を吊り上げているアルテミス様。
俺はその姿に、ただただジト目で反抗する他ない。
本当、弁が立つというか悪知恵に長けた女神様である。
(助けて! ミシえもん!!)
救いを求めるようにミシーネさんに視線を投げ掛けるが、俺に救いの手が差し伸べられることはなかった。
「アテナちゃんには、こちらの暖かい色合いのほうが宜しいかと」
「うーん。アテナ様の威厳を周囲に示すには、その色合いでは少し弱くはありませんか?」
「威厳......(?)よりもかわいさを求めましょう。注目を集めれば、自ずと目立つようになりますよ。アテナちゃんはとってもかわいいですからね」
「なるほど。注目を集めさえすれば、アテナ様の内から溢れ出す高貴な威厳をわざわざ周囲に示す必要などない、そういうことですね」
「なんなのこのふたりー(´・ω・`)」
「ミシーネさぁん......」
考えるまでもなく当然か。
誰だって、自分の話を真面目に聞いてくれた人に好意を抱くのは。
いや、俺だって、ニケさんほど真面目とはいかないまでも話は聞いていたよ?
ミシーネさんのドレス講座は、興味なくとも知識としては有りだったからさ。
それに営業マンとして、人の話をしっかりと聞くのは基本中の基本だからね。
(あれでしょ? アテナみたいなちびっこは、黄色や赤、ピンクなどの暖色系ドレスが良いんでしょ? しかも、淡い色合いではなく原色により近い感じのさ)
どうよ? 俺はミシーネさんの話をちゃんと聞いてはいた。
しかし、ニケさんほど真面目に......というか、真剣に耳を傾けてはいなかっただけだ。
少し前の俺をぶん殴りたい。ミシーネさんの話をちゃんと聞いておけ、と。
とはいえ、順番から言って、次は俺の所へとやってくるに違いない。
「あ、モリオンちゃんとヘカテーちゃんは、それよりもこちらのドレスのほうが宜しいかと」
「そうなのだ?」
「そうなのー?」
「はい。お二人はアテナちゃんと違って幼児体型ですからね。こちらのミニ丈ドレスのほうがよりお似合いかと。それにミニ丈なら種類も豊富で、お揃いにできますよ?」
「おぉ! お前、凄いのだ! 我はヘカテーお姉ちゃんと一緒がいいのだ!」
「そだねー! 私もモーちゃんと一緒が良いかもー! お姉さん、ありがとー☆」
「ミシーネさん!?」
いや、これも考えるまでもなく当然か。
誰だって、自分の興味あるものを楽しそうにしている人に好意を抱くのは。
いや、俺だって、モリオン達ほど浮かれてはいないまでも楽しんでるよ?
元々素材が良い娘ばかりなのだ。更にかわいくなっていく姿には感動すら覚える。
それに1人の男として、女の子達がきゃっきゃうふふする光景を見逃せるはずがない。
(まぁ、あれだな。モリオンとヘカテー様は姿形が似ていなくとも、本当の姉妹のように見えるからな。二人のお揃いのドレスをコーデするのは楽しそうだ)
どうよ? 俺もこの状況を十分に楽しんではいると思う。
しかし、俺はともかく、アルテミス様が全く楽しんでいるように見えないだけだ。
しきりに「早く帰って酒が呑みたいねぇ」と呟いてる。連れてきたのは失敗だったか?
とはいえ、さすがに今度こそは俺の所へとやってくるに違いない。
「では、ニケ様のドレスも選ぶとしましょうか」
「ある程度絞ってはいるのですが、あなたの目から見てどうですか?」
「とても良いかと思います。ただ......そうですね。少しシンプル過ぎると思います」
「それで良いのです。私はアテナ様の影───日陰のような存在です。目立たないほうが丁度良いのです」
「いえいえ。『目立つ』と『映える』は違うものです。ニケ様は目立たずとも映えるドレスを召されるべきかと。意中の、それこそ竜殺し様の為にも。きっとお喜びになられますよ?」
「!!」
「ちょっ!? ミシーネさん!? どういうこと!?」
なんでこうなった!?
まさか、まさかの放置プレイとは思いも寄らなかった。




