第274歩目 いいからもう寝ろッ!
前回までのあらすじ
わーい! 私のお気に入りはねー( ´∀` )
......え、呼ばれただけー?r(・ω・`;)
「ほ、本当にいいのかい?」
「あぁ。アルテミス様のことをよろしく頼む」
「ヒャッハー!! あんたら喜びな! 宴だよ!!」
「「「あい・あい・さー!」」」
まだ昼前だが、魔限酒造の開放に狂喜乱舞する騎士団員達。
アルテミス様の面倒を押し付けるのだから、これぐらいは別にいいだろう。
街に繰り出されて飲み食いされるよりかはよっぽど安くつくので好都合だしな。
(ハァ..................)
聞いてくれよ。騎士団員達ときたら、一切の遠慮なく飲み食いするんだぜ?
確かに「奴隷だからって遠慮なんてしなくてもいいぞ」と言ったのは俺だよ?
それでも常識的な範囲ってもんがあるだろ、普通は。少しぐらい遠慮しないか?
おかげで、うちの家計は火の車さ。
ただでさえ食べ盛りな猛獣共がいるってのにさ......HAHAHA。
(気遣って! もう少し俺を思い遣って!!)
ただ、これはニケさんと安心してデートをする為には必要な処置だから仕方がない。
「と言う訳で、アルテミス様申し訳ありません。ここからは俺の代わりに騎士団員達がお相手を務めます。存分にお楽しみください」
「分かった、分かった。それでいいよ。こいつらのノリ、嫌いじゃないしね。それに───」
「それに?」
言い淀んだアルテミス様が心底嫌そうに下を見た。
俺もそれに釣られて下を見るが、埃一つ無い綺麗な床が広がっているのみ。
......なんだ?
「いい加減鬱陶しくなってきたところさ」
「鬱陶しい? 何がです?」
「分からないのかい? ニケちゃんの敵意というか殺気だよ。下のほうからビンビンと感じるのさ」
「はぁ?」
そんなこと言われてもさっぱり分からん。
恐らく、その敵意というか殺気の対象が俺ではないからだろうけど。
(うーん。考えられるとすれば、アルテミス様に対してだよな? でも、一体なぜ?)
そんな俺とアルテミス様のやりとりを見ていた騎士団員の一人が手を挙げ───。
「はい! 私、ここに来る途中で見ましたよ」
「見たって、何を?」
「お貴族様が上を睨んで、ひたすら「ごめんなさい......ごめんなさい......ごめんなさい......」と言っているところです」
「ごめんなさい......? あれ? 怒っているんじゃないのか?」
「んー。怒っているというよりかは、むしろ何かに取り憑かれていたような雰囲気でした」
「そ、そう」
こっわ! ニケさん、どうしちゃったの!?
その説明で思い浮かべるは某鉈女。雨が降りしきる中、ただ一点を見つめ「ごめんなさい......ごめんなさい......ごめんなさい......」とひたすら呟いていた姿に、当時は恐怖したものだ。その光景を想像するだけでもゾッとする。
「ワクチンつくるー(。´・ω・)?」
「ワクチンよりも女王感染者を守れ!」
「にぱー(*´∀`*)」
「自転車に乗って遊びに行くのはいいけど、トラックには気を付けろよ?」
冗談はさておき、ニケさんが怒っている理由がさっぱり分からない。
ここに来る前に誤解・冗談諸々は全て解決してきたはずなのだが......。
「鈍い男だねぇ。あたしにアユムっちを取られていることが気に喰わないんだろ」
「取られているって......。ただ魔動駆輪内を案内しているだけですし、何よりもニケさんの為でもあるんですよ?」
「それでも気に喰わないんだろ。今のニケちゃんはそれだけ脆いってことさ」
「脆い......?」
「ぐだぐだ言ってないでさっさと行ってやんな! ここまで鬱陶しいと酒が不味くなるんだよ!」
シッシッと、まるで犬を追い払うかのような仕草をするアルテミス様。
ここまでお膳立てしておいて、アルテミス様の不興を買うのは論外だ。
それに、騎士団員達の目もどこか「さっさと行け!」と語っているように見える。
(気遣って! もう少し俺を思い遣って!!)
立つ鳥跡を濁さず。
邪魔者はさっさと立ち去るに限る。ハァ......。
俺はすごすごと魔限酒造から出ていこうとした。
と、その時───。
「そうそう。アユムっち」
「......何でしょうか?」
「ここにいる奴らは喰っちまっていいのかい?」
「喰う?」
一瞬、何のことだが理解出来なかった。
当たり前だが、そのままの意味では決してないはず。
というか、仮にそうだとしたら「人喰い女神とか誰得展開?」と言わざるを得ない。
「「「きゃー!!」」」
しかし、アルテミス様の言葉に色めき立つ騎士団員達。
ちらほらと頬を赤く染める彼女達の姿を見て、概ね察することが出来た。
まぁ、察せちゃう俺も色々ヤバいんだろうなぁ......。
「ハァ..................。希望者がいればどうぞ。無理矢理だけはやめてくださいよ?」
「分かってるよ。そういうのも嫌いじゃないけど、こいつらはアユムっちの所有物だしね」
「ありがとうございま───え? 嫌いじゃない?」
本当に大丈夫かな?
多少の不安はありつつも、どっと沸き上がる騎士団員達の黄色い歓声を背に、その場を後にした。
アルテミス様はイケメン女子、イケ女だからね。
飢えた騎士団員達が舞い上がっちゃうのも仕方がないね。
■■■■■
「ニケさん、大丈夫ですか?」
「だーいじょうぶれすよー」
俺はふらふらとふらつくニケさんに肩を貸し、寝室へと向かっていた。
アルテミス様と別れた後のデートは、それはそれは楽しいものであった。
ニケさんも俺の姿が見えるなり、某鉈女からいつもの調子に戻って一安心。
そのまま街へと繰り出して、市中散策、市中観光を満喫したのだった。
そして、夕飯のため魔動駆輪に戻ったら───。
「え? 夜ですか?」
「この後は寝るだけなんだろ? だったら寝酒と思って、あたしに付き合いな」
「まぁ、それぐらいでしたら」
ニケさんの反応をちらりと窺う。
「......」
いつものキリッとしたお済まし顔なのは相変わらずだ。
ただ、端正な眉がピクリと動いたところを見ると、ご機嫌斜めなのだろう。
相当、アルテミス様を警戒しているようだ。
普段からそうだが、デート中は特に蛭のようにべったりとくっつかれていた。
そこには「歩様は決して渡さない!」という、ニケさんの強い意思が窺えたほどに。
「ニケさんはどうしますか? 俺は少しだけ顔を出すつもりでいますが」
「あぁ、ニケちゃんは別に来なくてもいいよ」
「え?」
正直、アルテミス様の言葉を疑った。
まさか、ここまで明確な拒絶をするとは誰も思わないだろう。
「あたしはね、酒を楽しくおいしく呑みたいのさ。だから、来なくてもいいよ」
そ、それってつまり......。
再び、ニケさんの反応をちらりと窺う。
「......」
あッ。これ、アカンやつや。
ニケさんの表情は相変わらずだけど、端正な眉が吊り上がっている。
一方、アルテミス様の口角は綺麗な弧を描いていた。
「あ、あの、アルテミス様? 俺はニケさんに尋ねているのですが」
「そうだったね。じゃあ好きにしたらいいさ。来られるのならねw」
「───ッ!」
こうして、アルテミス様のやっすい挑発に乗ったニケさんの同席が決まった。
そして、その結果が───。
「ニケさん、寝室に着きましたよ。大丈夫ですか?」
「もー。だーいじょうぶだってー、いってりゅじゃないれすかー」
全然大丈夫そうに見えない。
今もふらふらとふらついて安定していないし、明らかに呂律も回っていない。
(うーん。ここよりは小部屋のほうが良いよな?)
とりあえず、へべれけになっているニケさんをそのままベッドに転がすのは悪手だ。せっかく天使のような寝顔を見せているアテナ達を起こしかねない。そうなったら非常に面倒くさ───いや、かわいそうだ。
それに、こんな状態で心酔するアテナの前に姿を晒すのはニケさんの沽券に関わるはず。
「小部屋のほうに行きますので静かにしていてくださいね」
「ヒック......こべやでしゅかぁ? あー、いいれすねー......しずかにしましゅ!」
「静かにお願いします」
「あゆむしゃまにおこられちゃったー......ヒック......あははははは!」
「だから、静かにして!?」
あー、もう! ニケさんがここまで酒に弱いとは思いもしなかった!
俺は、もはや人物像が崩壊しているニケさんを【幹事の舞日さん】スキルを使用して、忍者顔負けの隠密行動───所謂、迅速かつ丁寧に音を殺して『秘密の小部屋』へと連れていった。
そして、寝室のベッドとそう大差ないほどの豪華なベッドの上に寝かせたのだった。
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【幹事の舞日さん】スキル。
それは『酔い潰れた社員達を、お店やお店に来店している他の客達の迷惑にならないよう速やかに店外へと連れ出し、あらかじめ呼んでおいたタクシーにぶっこむ早業』のことだ。
スキルの取得は高校時代。
夏休みのアルバイトで、プールの監視員をする際に教わった救護知識が役立っている。
それはそうと、社員達を無事家に送り届けるまでが幹事のお仕事。
家に着いた後はどうなっても知らん。そこからは自己責任でよろしく!
嫁さんや家族に怒られるのも、玄関の前で寝てしまうのも面倒見切れないので。
「でもー、女には最後まで優しいよねー(o゜ω゜o)」
「女性の場合は何かあったら大変だからな。出来ることは可能な限り手を尽くすのが幹事としての責任だ。男はもう大人なんだから自己責任が当たり前。絶対に甘やかさん」
「ふーん。そっかー。だから、あのときも───」
「お、おま!? やめろ! 思い出させるな! もう吹っ切れてるからいいんだよ!」
「あーははははは( ´∀` )......(´・ω・`)......あーははははは( ´∀` )」
古傷抉るとか、お前は悪魔かよ!?
閑話休題。
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チッ。嫌なことを思い出してしまった。
とにもかくにも、今は目の前のニケさんのことだ。
「う、うーん」
ニケさんの口から酒臭くも悩ましい吐息が漏れる。
当然と言えば当然だが、着物のままではどう見ても寝苦しそうだ。
それに酔っているのが原因だろう。汗を掻いている姿を初めて見た。
(汗......汗か......舐めた───いや、呼吸するのも苦しそうだな)
となると、方法は一つ。
「......ごくりッ」
息を呑む。
これ以上、ニケさんの苦しそうな姿は見ていられない。
ここは【幹事の舞日さん】スキルを駆使して介抱せずばなるまい。
となると、ニケさんを苦しめている原因であるKIMONOを脱がせるしか方法はない。
(介抱......そう、これは介抱だ! やましい気持ちなんて少ししかないッ!)
覚悟を決めた俺は、お風呂時の脱衣で既に慣れた手付きをもって着物を脱がせていく。
シュルリシュルリと着物独特の衣擦れの音が小部屋中に鳴り響く。
いや、鳴り響いているのは何も衣擦れ音だけではないかもしれない。
俺の心臓の鼓動が、高まる期待が、音という形でもって鳴り響いているようにも思う。
「おぉ!」
目の前に表れたのは白磁の体。穢れなき純白の身体である。
お風呂時に散々目で犯して───いや、拝ませてもらっているのに全く飽きることがない。
何だったら、このまま俺だけの彫刻にしてしまいたいほどの美しさだ。
当然のことながら、その美しい裸体に俺の辛抱○郎氏がうねりを上げる。
(落ち着け、落ち着け、俺。いくら何でも、酔っている時に、はさすがにマズいだろ)
理性で逸る感情を抑えつつ、汗を丁寧に拭き取っていく。
万が一風邪でも引いたら(神様が風邪を引くのかは知らないが)大変だからな。
「......う、うん」
「......」
ふきふきふきと体中を隅々まで。
胸、脇、へそ回り、局部の付け根、太股、お尻と丹念に。
「......う、うん......はぁ♡」
「ぐへへへへへ。ええんか。ここがええんか」
勘違いされがちだが、多少の悪戯は救護者の役得だ。
プールの監視員をしていた時の先輩がそう言っていた。
それが嫌なら溺れなければいいだけなんだよ、とも。
ふと、別の意味で息が荒くなってきたニケさんと目が合った。
「あ、あゆむしゃま......するんでしゅか?」
「なにを!?」
我が耳を疑ったのは本日二度目だ。
(す、する、ということはあれだよな?)
童貞の俺でも、さすがにこの状況下で鈍感系主人公を発揮することはできない。
ただ、だからと言って「するって、Hって意味だよな?」と聞き返すのも憚られる。
結局、どうしたものかとオロオロするばかり。
「あゆむしゃま、だいすき!」
「おわ!?」
そんな俺とは対照的に、ニケさんがいきなり抱き着いてきた。
そして、そのままベッドに二人して倒れ込むことに。
「あゆむしゃまのにおいー......しゅきー!」
「俺もニケさんの匂いは好きですよ」
酔っているせいか、本能の赴くままに甘えているニケさん。
まるでマーキングするかのように、俺の胸の中で幾度となくスリスリを繰り返している。
(まぁ、甘い雰囲気とは多少言い難いが......)
それでも、そういう事を行うには十分な雰囲気であることには違いない。
問題はニケさんの酩酊状態とハッキリとした意思の確認が必要なだけだ。
酒の影響でつい......なんてのは俺の望む状況ではないし、ニケさんも本望ではないだろう。
「ところで、先程のことなんですが───ん?」
「......」
ニケさんの様子がどうにもおかしい。
急に静かになった。
かと言って、寝ているようには見えない。
それどころか、体が少し震えているようだ。
......ま、まさか!?
「ニ、ニケさん?」
「..................うッ。き、きもちわるい」
「ちょっ!? ま、待ってくださいね!」
最悪の事態勃発!
急いでヒールを掛けるも効果は薄い。
俺のヒールレベルが低いせいか、はたまた神様に対しては元々効果が薄いのか。
本当はニケさん自身がヒールを行うか、この状態に勝利してしまえば問題はないのだが、今のニケさんではそれも叶わず。尋ねてみても要領を得なかった。
それに酔っぱらいとはいえ、相手はニケさんだ。
払い除ける訳にもいかないので、結局なすがままにされる他はなかった。
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恐れ入りますが、しばらくこのままでお待ちください。
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(べ、別にいいさ。浄化魔法で綺麗に出来るからさ......HAHAHA)
その後、ある程度ぶちまけてスッキリしたのか、ニケさんがポツリ。
「......ふぅ。しましゅか?」
「いいからもう寝ろッ!」
こんな状況で出来るか!
せっかくの雰囲気が台無しだよッ!!
酔いどれニケさんの珍行中はまだまだ続く───。




