第???歩目 胎動......
前回までのあらすじ
え......ニ、ニケ?r(・ω・`;)
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ちょい短めです。
「い、いやぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!」
頭を抱え、悲しみに暮れたニケさんが絶叫する。
その悲鳴の波動だけで、教会のガラスというガラス全てが盛大に割れていく。
それにしても、誰がこれを弁償するんだろうか......?
「......」
「......」
「......」
しかし、非常事態だというのに、祈りを捧げている信者達には動揺の色が全くない。
そればかりか、まるで何事もないかのように祈りを捧げ続けている。怖ッ! 狂信者、怖ッ!
「ちょっ、ちょっと! ニケさん、落ち着いて! 落ち着いてください!!」
「いや、イヤ、ぃや、いゃ、ィや、いャ、厭、嫌、いやぁぁぁぁぁあああああ!」
「う、うぉ!?」
宥めようとするも、ニケさんは狂乱状態。
時同じくして、世界全体がグラグラと不気味に震え始めた。
それはまるで、ニケさんの苦しみに、悲しみに共鳴しているかのように。
「な、なんだ!?」
「一体何事だというのだ!?」
「揺れている!? 教会が、世界が揺れている!?」
事ここに至って、ようやく信者達も慌て始めたようだ。
彼らは右往左往するばかりで、非常時の動きとしては決して誉められたものではない。
しかし、段々と統一された動きと変わっていき、やがて───。
「「「おぉ! 神よ! 敬虔なる子羊である我らをどうか救いたまえ!」」」
「また祈るんかーい!」
ダメだ、こいつら。
こんな時にでも祈りを捧げるとか、もう放っておこう。
今は狂信者達よりもニケさんだ。
「だ、大丈夫ですから! 俺の彼女はニケさんですから! だから、落ち着いてください!!」
「ああぁぁぁあああああぁぁぁぁぁあああぁぁあああああ!」
「お、おい! アテナ! なんとかしてくれ!」
想像以上の狂乱ぶりに、異常事態に、俺もなりふり構ってなどいられなかった。
猫の手も......それこそ駄女神の手すらも借りたいほどに。
「r(・ω・`;)」
しかし、さすがのアテナも目が点となっている。
こんなに取り乱しているニケさんを見たのは初めてのことなのだろう。
気持ちは分かる。分かるのだが......肝心な時に使えねぇ女神だな! おい!
だが、俺の怒りはアテナだけに向いた訳ではなかった。
「あちゃー。こりゃ、少しやり過ぎたかねぇ」
まるで他人事のようなことを宣うアルテミス様。
その態度、その発言、こればかりはさすがの俺も頭に血が上った。
俺は語気を強めて、アルテミス様を非難する。
「何を呑気なことを言ってるんですか!? ニケさんを宥めるの手伝ってくださいよ! こうなったのもアルテミス様のせいでしょうが!」
「やれやれ、しゃーないねぇ。ニケちゃん、さっきのは冗談だよ、じょーだん」
一瞬、しかめっ面になったアルテミス様。
だが、俺の本気の態度に思うところがあったのだろう。
渋々といった感じだが、ここは素直に従ってくれる気になったようだ。
「ニケさん、聞こえましたか? 単なる冗談ですから落ち着いてください」
「ニケちゃん、聞こえていないとは言わせないよ? 冗談なんだから落ち着きな」
「ああぁぁぁあああああぁ! あっ......。あっ......。あっ......ほ、本当、ですか?」
「あぁ、本当さ。からかって悪かったね。放置された仕返しのつもりだったけど、やり過ぎたよ」
「放置された仕返しって......少し度が過ぎませんか?」
「そう思うなら、アユムっちもニケちゃんも、あたしを放置するんじゃないよ。自業自得ってやつだろ? あたしは神だよ? 最高神だよ?」
ギロリと向けられた獰猛な瞳には、微塵も悪びれた様子などなかった。
というか、また怒られた!?
理不尽───いや、立場をわきまえろということか。
「そ、それは反省しますが、それでも......」
「反省するぐらいなら最初からするんじゃないよ。全く、何度言ったら分かるんだい?」
「うぐッ......も、申し訳ありません」
「......あ、あの、歩様?」
「は、はい。なんでしょう?」
おっと。ひとまず、アルテミス様の相手は後だ、後。
今はニケさんを優先せねば。また拗ねられでもしたら大変だしな。
「......私が歩様の彼女でいいんですよね?」
「そうですよ。俺の彼女はニケさんです。他の誰でもないニケさん自身ですよ」
「......本当ですか? 本当に私が歩様の彼女でいいんですか?」
「本当です。本当に俺の彼女でいてください。あなたがいいんです」
俺はオウム返しのように返事をしていく。
それはまるで少し前のアテナとのやり取りみたいでクスッとくる。
(ペットは飼い主に似るというけど、付き神も主神に似たりするのかな?)
そう言えば、人間に対して寛容というか辛辣でないところは似ている気がする。
ぜひ、このままアテナの良い部分だけ似ていって欲しいものだ。
(......待てよ。アテナの良い部分、だと?)
考えてみたところで、むちむちッとした体ぐらいしか思い付かない。
うん。(体以外は)似なくていいな。はい、この話は終了、終了。
ホッと一息付いた俺とは対照的に、ニケさんの確認は続いていく。
「ずっと......これからもずっと、お側に置いて頂けますか?」
「それは俺からお願いしたいところです。ニケさん、俺の側にずっといてくれますか?」
「もちろん! もちろんです! 生ある限り、ずっとお側に!!」
「ありがとうございます。......あの、少しは落ち着きました?」
「お恥ずかしいところをお見せしてしまいました。申し訳ありません。もう大丈夫です」
ふわっと花開いた乙女の笑顔。
そこにはいつものニケさんの姿があった。
うん。これなら、もう安心しても大丈夫かな。
「歩様」
すかさず、ギュッと腕を組んでくるニケさん。
それは「デートに行きたいです!」との、ニケさんなりのかわいいサイン。
「デートにいきましょうか、ニケさん」
「はい! 楽しみです!」
こうして、ようやくお待ちかねのデートが始まったのだった。
しかし、この時の俺は気付いていなかった。
ニケさんの瞳の奥が微かに揺れていたことに───。




