第264歩目 一つ、勝負をしてみませんか?
前回までのあらすじ
筋肉が夢にでるよー(||゜Д゜)
「ワシを、筋肉を喜ばせてみよ! それが報酬を与える条件だ!」
ポセイドン様より、突如言い渡された無理難題。
正直、どうしてそうなるのか意味が分からない。
と言うか、「筋肉を喜ばせてみよ!」とか分かりたくもない。
「あ、あの、確認させて頂きたいのですが」
「なんだ、筋弟よ。ワシの筋肉なら上から───」
「その確認じゃねえよ!?」
と言うか、そんなもの知りたくもないわッ!
いやいや、待てよ。
ポセイドン様の筋肉を喜ばせるつもりなら必要な情報なのかも?
敵を知り、己を知れば、うんたらかんたらともいうし......。
「しっかりしろー(((((;`Д´)≡⊃」
「......ハッ!?」
どうやら、想定外の出来事に混乱していたようだ。
アテナのビンタは全く痛くもなかったが、それでも自分を取り戻すことができた。
「た、助かった、アテナ」
「愛の成せる業だねー(*´∀`*)」
「はいはい。そうだなー」
正気に戻ったところで、改めてポセイドン様に確認する。
いや、既に方針は定められているとはいえ、一応だ。
「報酬はダーツで決めるものではないんですか?」
「それではつまらんだろ」
「いや、つまらないって......そういうルールなんですよね? いいんですか?」
「問題ない。薄小妹が何とかするはずだ」
「えー」
どの神様もデメテル様に頼り過ぎだろ!?
まだお会いしたことはないが、あまりにもデメテル様が不憫過ぎる。
(もうダーツ自体いらなくないか? 存在意義ある?)
ただ、「では、ダーツにするか?」と言われると、それはそれで困る。
ポセイドン様のダーツがどういうルールかは分からないが、まともな的を当てる自信など全くない。
(でもなぁ、それにしたって報酬を授ける条件が筋肉を喜ばせろというのは......)
言ってはなんだが、特典ということで訪れたのだから、もっとこう色々と旨味が───それこそ、無条件で報酬をくれるぐらいの旨味があってもいいのではないだろうか。
まぁ、そんなおいしい話はないとしても、期待した割にはなんだかガッカリだ。
「はぁ..................」
「そう腐るな、筋弟よ。見事条件を果たせば、筋弟の望みの報酬を一つ叶えてやるぞ」
「そ、それは本当ですか!?」
「神に二言はない。約束しよう」
「おぉ!」
キ、キタァァアアア!
ありがとうございます! ポセイドン様!
ヒャッハー! やっぱり特典はさいっこーだぜー!!
まさに掌返しの瞬間だった。
■■■■■
念のため報酬内容を確認したら、付き人のランクアップも問題ないとのこと。
これは俄然燃えてきた。やる気MAXファイアーだ。
となると、問題は『どう筋肉を喜ばせるか』に尽きてくる。
「こういうものが良いとかのリクエストはありますか?」
「何でも良いが、頭を使うものよりかはシンプルなものが良いな」
「なるほど」
まぁ、筋肉を喜ばせろという時点で、ある程度の察しはついていた。
そこで、最初に思い付いたのは『現代式のトレーニング』だ。
これでも俺は足繁くというほどではなかったが、スポーツジムには時折厄介になっていた。
そういう訳で、インストラクターほどではないにしろ、ある程度の知識なら持ち合わせている。
科学に裏打ちされた最新式のトレーニングならば、きっとポセイドン様もお喜びになるに違いない。
それに───。
「ふんッ!......(キンッ!) ふんッ!......(キンッ!)」
「......何をされているのですか?」
「ふんッ!......(キンッ!) ふんッ!......(キンッ!) 分からんか? 鍛練だ。何をするにしても時間は惜しいからな。筋肉は常に動かしておらんと使い物にならんのだぞ」
「は、はぁ......」
見ている限り、ポセイドン様は簡単なトレーニングばかりをされている。
恐らくは地上との接点が限りなく無いので、それ以外の方法を知らないのだろう。
何だったら、アテナのスキル『ゴッドつうはん』で、(出費は痛いが)最新式のトレーニングマシーンをお近づきの印ということでプレゼントするのも一興なのではないだろうか。
「ふんッ!......(キンッ!) ふんッ!......(キンッ!)」
「......」
それにしても、キンキンとうるさいのはどうやら汗が原因らしい。
ポセイドン様の体から迸る汗が硬質化して、そのような音を立てているようだ。
本当に、神様というやつは汗からして規格外である。HAHAHA。
(いやいやいや! どんな汗だよ!? 汗も筋肉でできているのか!?)
疑問は尽きないが、今は一旦置いておくとしよう。
それに、俺には急がないといけない理由が目の前にある。
「小妹よ、残り1000回!」
「ひ、ひぃぃいいい! あ、歩ぅ、早く決めてよぉぉおおお(||゜Д゜)」
どういう原理か知らないが、アテナも強制的にスクワットさせられているようだ。
この分だと、明日は筋肉痛で「ふぇぇえええ(´;ω;`)」と泣いているに違いない。
そんな訳で「現代式のトレーニングとかどうよ?」と提案してみたところ───。
「悪くはない。悪くはないが......うぅむ、せっかく筋弟もおるのだ。いつでもできる鍛練よりかは、ともに盛り上がれるものが良いな」
「あ、はい。そうですか」
あっさりと断られてしまった。
と言うか、その物言いだと、明らかに何かで競い合いたいと言われているような......。
(そういうことだったら、最初からそう言ってくれればいいのに......まぁ、いいか)
そうなると、直ぐに思い付くのは『格闘技』だ。
鍛えている以上、それの見せ場となる格闘技に興味ないはずがない。
そうだな、競技はボクシングや相撲、柔道など何でも良いように思う。
ただ───。
「仮に格闘技の場合、勝敗は報酬に影響しますか?」
「ない。勝敗などよりも筋肉が喜んでおるかどうかが重要なのだ」
「そうですか」
しめしめ、思った通りだ。
この手の筋肉バカは勝敗よりも筋肉重視。
筋肉にしかこだわりがないのは手に取るように分かるというもの。
(まぁ、筋肉の勝負となったら勝敗にこだわるんだろうけどさ?)
しかし、喜んでばかりもいられない。
もっと単純な、より大きな障害が俺を悩ませる。
「ふむ、格闘技か。腕が、筋肉が鳴るのぅ! ふんッ!......(キンッ!) ふんッ!......(キンッ!)」
「......」
いやいやいや。どう考えても無理でしょ!?
ほら、体格的なこととか、筋肉的なこととか、筋肉的なこととかさ!?
それ以前に相手は神様だ。地上の創造神様だ。陸・海・空を司る大神様だ。
試合にならないどころか、筋肉が反応してくれるかどうかさえ怪しい。
「安心せぃ。そこは対等になるよう考えとる。筋弟が不利にならないようにな」
「そうですか。とても助かります」
ポセイドン様がそう言うのなら、そう信じよう。
まだポセイドン様のことはよく知りはしないが、筋肉にだけは嘘をつかない。
そういう神様だと、俺は思っている。出会った当初から、筋肉、筋肉うるさいしさ。
まぁ、そんなこんなで俺がポセイドン様に提案したのは───。
「アテナ、ちょっと手伝ってくれ」
「は、はーい! 歩、ありがとー(´;ω;`)」
「これが終わったら、残りの時間は続きだぞ? 薄小妹のようになったらいかんのでな」
「ひぃぃいいい! あ、歩、何とか言ってよー(||゜Д゜)」
「......迷わず成仏してくれ。おっぱいだけは拾っておいてやる」
「そうじゃなーい! 歩のはくじょーものーヽ(`Д´#)ノ」
黙れ、駄女神!
神界で、いつもいつも俺を放置していく罰だ!!
それに兄弟姉妹の会話に部外者が首を突っ込むべきではない。
それはあまりにも野暮ってもんだぜ、アテナ☆
「いいから、さっさと手伝え」
アテナを軽く一蹴して実演の開始だ。
俺がポセイドン様に提案するのは至ってシンプルな格闘技。
日本人なら誰もが子供の時に一度ぐらいは経験したことがあるものだ。
それは比較的簡単に決着がつくのに白熱しやすく、それでいて怪我のリスクが低いもの。
そもそもの話、いくら報酬の為とはいえ、痛いのは嫌だしな。
俺は防御特化ではなくニケさん特化。だから、当然の選択とも言える。
早速、ポセイドン様にお願いして適当な台を用意してもらった。
「いいですか? まず始めに、台を挟んで向き合います。ほら、アテナも」
「なーんか、私と歩がお見合いしてるみたいだねー! あーははははは( ´∀` )」
「うるせえんだよ! たったこれしきのことで、普通そんなこと思わないわッ!」
「てーれちゃってー! ほーんと歩は素直じゃないよねー(*´∀`*)」
「......」
うぜー。うざ過ぎる。
この超自分本位な考え方はまさに神様そのものだよな。アテナ唯一の。
「うむ。夫婦仲良きことは良いことだ」
「どう見たら、そう見えます!? というか、説明を始めてもいいですか?」
「だがな、筋弟よ」
「な、なんですか?」
「男なら、お見合いなんぞではなく実力で、筋肉で、女を勝ち取るものだぞ」
「いちいちアテナに付き合わなくてもいいですから! というか、説明を始めてもいいですよね!?」
はぁ..................。神様の相手は色々な意味で疲れる。
自由奔放というか、相手のことなどお構いなしというか、ハッキリ言って超自己中。
俺、神界から無事に戻ったらニケさんに甘えるんだ。
「説明を続けます。向かい合ったら───」
「ちゅーするんだよねー! んー(。´3`)」
「......お前、本当にうるさい。いい加減にしろ」
「歩が怒ったー(´;ω;`)」
静かな怒りを抱えた俺はアテナと台の前で向かい合う形となった。
そして互いに片肘を台の上に置いて、それからギュッと手を握り合う。
もうお分かり頂けただろう。
所謂、腕相撲というやつだ。
正式な競技のアームレスリングではなく腕相撲。そこが今回の肝となる。
「ふむふむ。それで、この後どうするのだ?」
「『始め』の合図で互いに力を入れ、先に相手の手の甲を台につけたほうが勝利というものです。こんな感じで───えいっと」
「うきゃ(>_<。)」
アテナの無駄にぷにぷにしている、羽のように軽い腕をなんなく倒す。
それは、これから始まるであろう壮絶な戦いの前哨戦とはとても言い難い呆気ない幕切れだった。
「歩、歩! もう一回! もう一回しよー(o゜ω゜o)」
「はいはい。分かった、分かった」
その後、俺は一向に負けを認めず、何度も何度もしつこく言い縋ってくるアテナを容赦なく薙ぎ倒していった。アテナが膨れて、まるで子供のように地団駄を踏み出しても一切の手加減なくだ。
それに対して、大人気ないとは微塵も思わない。
一度でも甘い顔をしてやったら、絶対に調子に乗るからだ。
ふっふーん(`・ω・´)などと、ドヤ顔されてはたまったものではないしな。
一方、その様子を真剣に見つめているポセイドン様。
時折「これは広背筋が......」「いや前頭筋も......」などと、ぶつぶつと一人言が聞こえてくる。
仰っていることには微塵の興味もないが、どうやらポセイドン様の興味は引けたようだ。
「シンプルではあるが実に興味深い。確かに面白そうだ」
「でしょう? 実力が伯仲していると、より白熱しますよ。今はアテナがクソ雑魚ナメクジ過ぎて伝わりづらいかもしれませんが」
「クソ雑魚ナメクジーΣ(・ω・*ノ)ノ」
「だって、そうだろ? お前、下手したらナメクジにすら負けそうじゃん?」
「(´・ω・`)」
「いやいや、そこは反論しろよ!?」
とりあえず、実演は以上だ。
時間も惜しいことだし、さっさと始めたい。
「ほら、アテナ邪魔だ」
「いやー! 歩に勝つまでやるのーヽ(`Д´#)ノ」
「いいからどけって! いい加減、これ以上騒ぐなら塩まくぞ!?」
俺は喚くクソ雑魚ナメクジを台上から引き剥がした。
そして、ある考えを胸に抱き、ポセイドン様に更なる提案をすることに───。
「ポセイドン様、せっかくです。一つ、俺と勝負をしてみませんか?」
今日のひとこま
~真説・メドゥーサ伝説~
「紹介しよう。ワシの付き神で妻のメドゥーサだ」
「メドゥーサ......? メドゥーサって、あのメドゥーサですか?」
「どのメドゥーサかは知らんが───」
「いやぁぁあああ! 蛇、気持ちわるーい(||゜Д゜)」
「そう言うな、小妹よ。妻も気にしておるのだからな」
「だってー、気持ちわるいだもーん(´-ε -`)」
「やれやれ。ここにくるといつもそうだな。いい加減、慣れんものかのぅ?」
「あ、あの......」
「どうした、筋弟?」
「メドゥーサ......様というと、あれは大丈夫なんですか?」
「あれとは?」
「確か、恐ろしい呪いがありましたよね? 見た者を石に変えてしまうという......」
「おぉ、あれか。あれは呪いでも何でもないぞ。......いや、見方によっては呪いとも言えるのか」
「どういうことですか?」
「妻もな、ワシと同じで筋肉作りが大好きでの。それが高じた結果なのだ」
「いまいちよく分からないのですが」
「なんでも、だらしがない筋肉を見ると我慢できない性分らしい」
「え?」
「故に『私のように鍛え抜かれた筋肉にしてあげたい』と願うと、相手が勝手に石化してしまうという訳なのだ。まるで筋肉のようにな。ガーッハッハッハ!......許してやってくれ、悪気はないのでな」
「えー(......はた迷惑過ぎる!)」
「私もねー、最初にされたんだー。だからー、蛇はきらーいr(・ω・`;)」
「お前はされんなよ!? 仮にも最高神なんだろ!?」
「だいじょーぶ! ニケが助けてくれたからねー( ´∀` )b」
「いやいや。誰もお前の心配なんてしてないから」
いつの間にか、筋肉を語り出しているポセイドン夫妻。
それにしても、メドゥーサの石化の呪いにはそんな意味があったとは......。
どこまでもはた迷惑な夫妻だな!




