第262歩目 リトール・シスター!
前回までのあらすじ
歩のはじめてのちゅーは私とだよねー(*´∀`*)
「アユム様......」
「ニケさん......」
晴れて大団円を迎えることができた俺とニケさん。
「もっとギュッと抱き締めてくれないと嫌です」
「こうですか?」
「もっと......もっとです」
「急に甘えん坊になっちゃいましたね?」
もはや大した時間が残っている訳ではない。
それでも、残りの時間を惜しむかのように再会の喜びを分かち合っていた。
と、そんな和やかなムードをぶち壊す存在が突如現れる。
「たっだいまー( ´∀` )」
「......」
「......」
言わずと知れた駄女神ことアテナだ。
バットを始め、あのな"ーですら空気を読んで控えていたというのに、この駄女神ときたら......。
いや、これぞアテナクオリティ。
元より諦める他はないだろう。
「......おい、駄女神。俺を放っておいて、今までどこに行っていたんだ?」
「おかえりなさいませ、アテナ様」
「ニケー、ちゃーんと仕事したー?(o゜ω゜o)」
「万事滞りなく」
「んー。ごくろー( ´∀` )」
「ごくろー( ´∀` )じゃねえ! お前は何様だよ!?」
「神様だよー(`・ω・´)」
やかましいわッ!
それに、俺を無視して普通に会話すんな!
「うるさーい! パパのところにいたよー、もーヽ(`Д´#)ノ」
「逆ギレ!? と言うか、俺を放っておいての部分は華麗にスルーかよ!?」
いやいや、これこそがアテナクオリティ。
怒るだけ無駄なことだ。うん、無駄無駄。HAHAHA。
「それで? なんで急に戻ってきたんだ?」
「だってー、パパが戻れって言うんだもーん(´-ε -`)」
「お、お前......何も言われずにいたら、ずっと居座るつもりだったのか?」
「とーぜーん! パパのところにいればー、お菓子食べほーだいだしねー! さいこーのお菓子場なんだよー! あーははははは( ´∀` )」
「お、おぅ。そうか......」
アテナにとって父親の部屋は最高のお菓子場らしい。
ゼウス様に同情など一切しないが、憐れみだけは覚えてしまう。
(ぷぷ。ゼウス様ざまぁ!......ふぅ)
それにしても、アテナは神界でもやりたい放題である。
ゼウス様も、こんなどうしようもない娘のどこが良いのだろうか。
(いや、まぁ、外見だけはかわいいけどさ?)
それでも、俺はいまだにバカ笑いしているアテナに白い目を向けざるを得なかった。
一方、ニケさんはそんな俺とアテナのやりとりを温かい眼差しで見つめている。
それは敬愛する人と主人の仲良き姿を見て満足しているかのような......。
いや、もっとこう、母親目線で見守られているような錯覚を受けなくもないような......。
この女神様も、俺とアテナには本当に甘い。
「アユム様。アテナ様は恐らく件の───特典の件で、お戻りになられたのではないでしょうか?」
「あー、なるほど。さすがはニケさん」
「ありがとうございます。お誉めに与り光栄です」
「そーなのー(。´・ω・)?」
「お前は知っておけよ!?」
どこまでいってもアテナはアテナ。
本当に俺がしっかり見ておかないと不安で不安で仕方がない。
「......おっと。ほら、そろそろだから行くぞ」
引っ張られるような、抗い難い負荷が体に掛かってきた。
「はーい( ´∀` )」
「では、ニケさん。また明日」
「はい。また明日。楽しみにしておりますね」
「ニケー、バイバーイ(o゜ω゜o)」
こうして、俺はアテナの手綱───もとい、手をしっかりと握って、最後となる神様の元へと向かうのだった。
「にへへー(*´∀`*)」
「手を握られたぐらいでニヤニヤすんなッ!」
■■■■■
まず始めに「暑い」という印象を受けた。
確か、これと似たような経験を以前したことがある。
そして───。
「うげー (´ε`;)」
「お、おま!? 女の子がなんて声を!?」
アテナのこの反応。
この、心底嫌がっている反応も以前見たことがある。
あれは確か───そう、アレス様の神の間に初めて訪れた時に見た反応だ。
しかし、どう見ても、どう考えても、ここはアレス様の神の間ではない。
と言うか、期待した特典が仮にアレス様だったとしたら、俺は泣く。
(それにしても、この雰囲気......ヘパイストス様のそれに近い気がするな)
ただ、ヘパイストス様の神の間とも違うような気がする。
暑いという一点においては同じなのだが、明確に異なる部分がある。
それは───臭いだ。
ヘパイストス様の神の間は一言で言うのなら、金属臭かった。
実に鍛冶場らしい金属の臭いで、神の間が存分に満たされていた。
俺としては別に嫌いな臭いでもなかったので、そう気になることもなかった。
だが、この神の間は───。
(う、うーん? 何の臭いだ、これ? 嗅いだことのある臭いだとは思うんだけど......)
正直言うと、非常に臭い。
アルテミス臭も大概(俺にとっては美臭)だが、この臭いは別のベクトルで酷い。
なんというか、その......あまり長居したくはない臭いだ。
「ねぇー、帰ろー?(´;ω;`)」
「帰れる訳がないに決まってんだろ......って、そんなに嫌なのか!?」
「嫌じゃないけどー、帰ろー? 早く帰ろー?(´;ω;`)」
どうやらアレス様と違って、ここの主を嫌っている訳ではないようだ。
ただ、アテナのこの反応を見るに、嫌いというよりは苦手といった辺りか。
ともかく、ここで立ち往生している訳にも行かない。
俺は心苦しくなりつつも、嫌がっているアテナを引き摺って歩を進めることに。
すると───。
「───! ───! ───!」
「な、なんだ?」
「ひぃぃ(||゜Д゜)」
何かがしきりに聞こえてくる。
金属を打つ音とはまるで違う、何かが。
音の正体が気になるも、更に歩を進めていく。
「ガーッハッハッハ! ガーッハッハッハ!」
「これは......笑い声だよな?」
「((( ;゜ Д ゜)))」
今度はしっかりと分かるものだった。
しかし、先程聞こえてきた音とは全く違うようだ。
俺はこの場から逃げ出そうとしているアテナを引き摺って、更に奥へと歩を進めていく。
それにしても、この神の間は暑いばかりではなく視界も悪い。
煙で......まるで温泉で沸き立っている湯気のようなものが視界を遮っているのだ。
(な、なんだ? 臭いも一層濃くなってきたぞ?)
鼻をつまみたい。
だが、アテナに逃げられる恐れがあるので、ここは我慢。
更に更に歩を進めていくと、ぼんやりとだが何かが見えてきた。
それは恐ろしい速度で上下に動く何か。
そして、それとともに聞いたこともない音で異様に鳴り響く何か。
「ふんッ!......(キンッ!) ふんッ!......(キンッ!) ふんッ!......(キンッ!) ふんッ!......(キンッ!) 筋肉が、大腿四頭筋が喜んでおるわ! ガーッハッハッハ!」
思わず、足を止めてしまうには、引き返そうかなと思うには、十分な理由がこの先にはあった。
「......アテナ、帰るか」
「うんー、そーしよーr(・ω・`;)」
しかし───。
「そこにいるのは誰だ!」
どうやら、逃げ道は完全に塞がれてしまったようだ。
■■■■■
「おぉ! 小妹ではないか! 久しいのぅ!」
「そ、そだねーr(・ω・`;)」
まるで孫をかわいがるお爺ちゃんのような表情を見せる男神様。
俺とアテナが訪れた最後の神様は男神様だった。
と言うか、声質からして既に分かってはいたけどさ?
ただ、なんというか───。
「相変わらず、小妹は小さいのぅ。ちゃんと食べておるのか? ほれ、筋肉増強剤飲め」
「それ、飲ませちゃいけないやつ!」
「ううんー。それ、おいしくないからいらなーい(´-ε -`)」
「飲んだことあるのかよ!?」
おっと、思わず兄妹水入らずの会話に突っ込んでしまった。
と言うか、兄妹でいいんだよな? シスターとか言っているし。
ともあれ、この男神様がアテナを───妹をかわいがっているのは見ていれば分かる。
すぐ上の姉であるアルテミス様とさえ、アテナは二万歳も年が離れているという。
となれば、他の兄弟姉妹とは相当年が離れているとみるべきだろう。
俺は一人っ子で兄弟姉妹が居ないからよく分からない。
だが、年の離れた末妹というものは、それだけでかわいいものなのではないだろうか。
たとえ、それがこんな駄妹であるアテナであったとしても。
「いかん。いかんぞ、小妹。好き嫌いはいかんな。いいから飲め」
「うきゃああああああああああ(||゜Д゜)」
「問答無用かよ!?」
そして、アテナがこの男神様を苦手としている訳も何となくだが分かった気がする。
「あ、歩ううううう(´;ω;`)」
とりあえず、これ以上はアテナの身が持たなそうだ。
仕方がないので、そろそろ助け船を出してやろう。
「あの、それ以上は止めてあげてください。泣いてますし」
「ぬ? 小僧、お前は?」
そう言えば、挨拶がまだだった。
呆気に取られていたというか、タイミングが掴めなかったというか。
ともかく、相手はアテナの兄にあたるお方だ。
ならば、礼を失することがないようにしなければならないだろう。
にっこり営業スマイル発動ッ!
「お初にお目にかかります。私は『舞日 歩』。お妹君の付き人を───って、あれ!? 居ない!?」
驚きを禁じ得ない。
軽く一礼をし、顔を上げたら、男神様の姿はどこにもなかった。
今まさに挨拶の最中だったというのに。
だが、男神様の行き先は直ぐにでも分かった。
「うひっ!?」
「小僧。なかなか良い筋肉をしておるな」
「ちょっ!? なんなんですか!?」
「特に腓腹筋の辺りは素晴らしい。生半可な鍛え方をしておらん証拠だ」
俺のふくらはぎを断りもなく興味深く、遠慮なく揉みしだく男神様。
それに、筋肉がどうのとか言うだけのことはある。
マッサージされているような触り方で、くすぐったいやら気持ちいいやら。
「ふーむ。腓腹筋だけではないな。腸腰筋や広背筋も鍛えられておる」
「は、はぅ......」
「むむ? 上腕三頭筋も素晴らしいではないか!」
ふくらはぎから腰へ。
腰から背中へ。そして、腕へ。
男神様の侵略は止まるところを知らなかった。
俺はされるがままに、体の隅々を男神様に侵略されていった。
「ちょっ!? もう止め───」
正直、我慢の限界だった。
これ以上は自分が自分で居られなくなる。
だが───。
「ふむふむ。ふむふむ」
「あッ......。あッ......。」
ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ。
ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ。
「良い。良いぞ、小僧! 素晴らしい筋肉だ!」
筋肉を見つけた男神様は決して許してはくれなかった。
それは、まるで愛する筋肉を愛でるように無我夢中でなで続けた。
その結果、俺は───。
「ああぁぁぁ♂ 知らないいいぃぃ! こんな優しいタッチ知らないいいぃぃ!」
今日のひとこま
~オシャレアイテム?~
「歩様。もう少し一緒にいたかったです」
「俺もですよ、ニケさん。三十分って意外と短いですよね」
「明日会えるでしょー(´・ω・`)」
「それはそれ、これはこれだ。久々に会えたからこその喜びというものがあるんだよ」
「歩様に大いに賛同致します。とても不思議な......とても温かい感情なんですよ、アテナ様」
「ふーん。よくわかんなーいr(・ω・`;)」
「分からなくてもいい。と言うか、どうせ興味すらないんだろ?」
「だねー! さすが歩、わかってるじゃーん! あーははははは( ´∀` )」
「それはそうと、歩様?」
「何でしょう?」
「歩様の頭のことなのですが」
「あ、頭が何か?......(ごくッ)」
「その布......お怪我でもされたのですか? 何でしたら治して差し上げますが」
「い、いやだなぁ、ニケさん。これは『バンダナ』という、地球のヤングに大人気のオシャレアイテムなんですよ。今一番ナウいやつです」
「ナ、ナウい? そ、そうなんですか。帽子みたいなものですかね? それにしては妙にヒラヒラしているような?」
「そ、そういうデザインなんですよ。えっとですね......トレンドカラーの黒とブルーを合わせたもので、フリルのようにヒラヒラをあしらったデザインがおしゃかわらしいです」
「お、おしゃかわ......? は、はぁ......? 申し訳ありません。まだまだ勉強不足ですね、私」
「良いんですよ。少しずつ一緒に頑張っていきましょう。ね、ニケさん」
「歩様......」
「いつまでもいちゃいちゃしてないでー、いくよー、歩(´・ω・`)」
ふぅ......。なんとかバレずに済んだか。
隠そうとするから挙動不審になるものだ。
だったら、敢えて見える位置にて勝負するのも一つの手。
死地に生あり、だったかな?
それにしても、意外となんとかなるものだ。
ハンカチと○○○○の即席バンダナも。




