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歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~  作者: なつきいろ
第7章 躍進 -乙女豹アルテミス編-
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第258歩目 捨てる勇気の結末!乙女豹アルテミス①


 ようやく時間が取れるようになったので更新を再開します。



 俺は、アルテミス様より『男らしさとは』のありがたいお話を聞かされながら、さっさと目的の的である『自由』にダーツの矢を当てることに成功した。


(おいおいおい、マジか......。本当にダーツの的を見ずに当てちゃったよ、この女神(ひと)は)


 いや、正確には当てさせられたと言ったほうが正しいだろうか。

 事実、俺は何もしていないからこそ、余計にそう思う。


「ほら。だから問題ないって言ったろ?」

「......お見事。ただただ感心するばかりです」

「ふふん♪ そうだろ、そうだろ」


 素直に誉められて嬉しいのか、ドヤ顔率が飛躍的にアップしたアルテミス様。


 こんなことでドヤ顔を晒してしまうとは......。

 実にちょろいと言わざるを得ない女神様なのは言うまでもないだろう。


「ほらほら、もっと誉めてくれてもいいんだよ?」

「は、はぁ」


 さて、ちょろい女神であるアルテミス様は別にいいとして、困ったことがある。


 それと言うのも、ここまで色々とあったが、制限時間である三十分には程遠い。

 体感的にはまだ十五分を少し過ぎた辺りといったところだ。


(余った時間はどうするんだ? 会話か? それとも次の場所へ向かわされるのか?)


 これまではどの神様も制限時間ギリギリの中を過ごしてきた。

 ニケさんを始め、制限時間が余る神様などほとんど居なかったのだ。


 だからこそ、余った時間をどうすればいいのかが全く分からない。

 相手がアルテミス様である以上粗相を起こせないだけに、ここは慎重を期したい。


 つまり、制限時間のある十連ガチャであり、相手がアルテミス様だからこそ起きた初めての現象とも言える訳だ。


「どうしたんだい?」

「い、いえ。何でもありません」

「ふーん。その割には心拍数が上がっているようだけど?」

「HAHAHA」


 本音を言えば、さっさと次の神様のところに向かいたい。

 アルテミス様は良いビジネスパートナーではあるが、危険な相手でもある。


 言うなれば『毒薬』と一緒だ。

 毒は用いようによっては薬ともなるが、使い方を誤ると身を滅ぼす元となる。


 あまり近寄り過ぎず、かつ離れ過ぎず、ある一定の距離間でいる───そう、お互いがお互いを気持ちよく利用し合える良好な関係を保つことこそが精神上最も良いはずだ。


 俺はそう、心の中でそっとアルテミス様の処方を決めていた。

 すると、アルテミス様より驚きの言葉が飛び出してきた。


「さてと、これであたしの用件は済んだね。次はアユムっちの番さ」

「俺の番、ですか?」

「そうさ。どれにするんだい?」

「どれにするとは?」


 いまいち意味が分からない。

 どれにするとはどういうことだろうか。


 困惑している俺に、アルテミス様は仕方がない子を見るような眼差しでこう言い放った。


「鈍い男だねぇ。アユムっちの報酬はどれにするんだい、と聞いているんだよ」

「俺の報酬......? それなら先程アルテミス様に差し上げましたよね?」

「はぁ? アユムっちは何を言ってるんだい?」

「......」


 いや、そんなマジで呆れたような声を出されても本当に困る。

 分からないものは分からないのだ。どうしようもない。


「んー?」

「......」


 俺が本当に困惑しているのが伝わったのだろう。

 アルテミス様が怪訝な表情をしながら、俺の顔を覗き込んできた。


 そして、しばらくして後、アルテミス様は得心がいったような弾んだ声を上げた。


「もしかして......アユムっちは当選回数が分からないのかい?」

「そ、そうなんです。..................え? ということは、まさか!?」

「やっと分かったかい?」


 にんまりと笑うアルテミス様はどこか悪ガキを彷彿とさせる。


「アユムっちの報酬は全部で二つ。クリスタルの分以外にも当たっていたという訳さ」

「おぉ!」

「さぁ、望むものを言いな。最高神の名において、あたしの権限でできることなら何でも叶えてやるよ」

「おぉおおおお!!」


 心がドクンッと大きく跳ねた。

 まさかまさかのことで、こんなにも嬉しいことはない。


(いや、まだだ! 確認! そう、確認だ! 確認しないといけないことがあるよな!)


 嬉しさと緊張のあまり、体が、声が震えてしまう。


「そ、それはつまり......『付き人』のランクアップも可能ということでしょうか?」

「そんなことでいいのかい? その程度、朝飯前さ」

「ふぉおおおお! アルテミス様は最高かよ!!」


 思わず、目の前のアルテミス様を強く抱き締めてしまった。


 暴走はしていない。意識はしっかりとある。

 つまり、正常な状態で情熱的なハグを俺からしたことになる。


「ア、アユムっち!?」

「大丈夫ですからご安心を。これは俺の(感謝の)気持ちを表しているだけですから」

「き、気持ちだって!? そ、そんなに嬉しいのかい?」

「当たり前じゃないですか! 付き人のランクアップはずっと請い願っていたものですからね!」

「そ、そうかい。ちょっと予想外の喜びようで驚いたよ」


 何が予想外なのだろうか。

 よく分からないが、アルテミス様が拒んでいないようなので別にいいだろう。


 ふと、アルテミス様と目が合う。


「......」

「......」


 先程までの喧騒さとは別に、どちらともなく静かに見つめ合う俺とアルテミス様。


 言葉にならない(俺の感謝の)言葉。

 言葉にせずとも伝わる(アルテミス様の)想い。

 

 アルテミス様の美しい顔が少しずつ朱色に染まっていく。

 口から「ほぅ」と漏れるアルテミス様の吐息が妙に艶かしい。

 俺にしなだれかかるアルテミス様の体重を少しずつ感じることができる。


「そ、そんなに見つめるんじゃないよ!..................は、恥ずかしいだろ」

「す、すいません」


 尻すぼみになって聞こえた「恥ずかしいだろ」の部分が妙に乙女チック。

 こういう姿を見ると、本当に好かれているんだなぁ、と実感してしまう。


 それと同時に、どう対処していいものか迷ってしまうのも辛いところだ。


「......ふ、ふんッ!」

「アルテミス様?」


 そんなちょっと甘い雰囲気をぶち壊してきたのはアルテミス様だった。

 恐らく、こういう雰囲気には耐えきれなかったのだと思われる。

 

「な、なんだったら、アユムっちの加護もランクアップしてやるよ?」

「俺の加護、ですか?」

「あぁ、その『ウォーキング』ってやつさ。ランクアップすれば、今よりもレベルがグンと上がるだろうね。どうだい、嬉しいだろ?」

「なん......だと......!?」


 予想外の申し出に目を大きく見開いた。

 考えもしなかった案件に青天の霹靂のような衝撃を受けた。


「そ、そんなことができるのですか?」

「いやいや。むしろ、なんでできないと思ったんだい?」

「うッ......」


 言葉に詰まる。


 付き人のランクアップが可能なら、ウォーキングだってランクアップできても不思議でも何でもない。少し考えてみれば当たり前のことだった。


 そして、アルテミス様の提案はとても魅力的なものでもある。


 レベルが二万近くとなった今、一日に一レベル上がればいい状態の日々が続いている。

 そして、今後レベルが上がり続ければ、一日に一レベルも難しい状態が続くだろう。

 そう考えれば、ウォーキングのランクアップも将来を見越すと急務とも言える訳だ。


 本来なら付き人を優先するか、ウォーキングを優先するか迷うところだろう。

 それをアルテミス様は両方ランクアップしてくれるという。


「え、えっと、本当によろしいのですか? その、両方をランクアップして頂いても」

「本当はダメに決まっているだろ? 一つの報酬で与えられる権利は一つだけだからね」

「ですよね? では、なぜ今回は二つも頂けるのですか?」

「そりゃあ、あたしの気分が良いからさ。今回は特別だね」

「ちょっ!? 気分次第なんですか!? 監視は!?」

「んなもん、どうとでもなるよ」


 規定や監視なんてなんのその。

 自分の好きなように生きていく。


 これぞ、まさに神。

 以前にも思ったことだが、アルテミス様はまさに神様だと言える。


 そして、好きなように生きていく為には、生きていけるだけの勝算というか備えがあるのだろう。俺なんぞの心配なんて無用なのかもしれない。


 でも、だからこそ疑問に思う。

 自分に素直でわがままなアルテミス様だからこそ聞いておきたい。


「なぜ、俺に報酬の権利を与えるんですか?」

「......それはどういう意味だい?」


 まるで「何が不満なんだい?」とでも言いたげな神様然とした無の表情で、まるで「あたしの提案に文句でもあるのかい?」とでも言いたげな獰猛かつ鋭い眼差しで見つめてくるアルテミス様。


「......ごくッ」

「ほら、言ってみな。聞くだけは聞いてやるからさ」


 心胆ひえひえで、喉がカラカラに干からびていく。

 アルテミス様との距離が距離だけに威圧されているのか、体の震えが止まらない。


 失敗したかもしれない。

 アルテミス様の好意に素直に甘えていれば良かったのかもしれない。

 だって、全てを甘受するだけで様々なことが上手く回ったのだろうから。


 だが、どうしてもアルテミス様の気持ちを知りたかった。

 アルテミス様が何を考え、何を思って、このような行動に出たのかを。


 俺は恐怖で震える体に鞭打って、懸命に声を絞り出した。


「お、おおおおれの......」

「あひゃひゃひゃひゃひゃw 何を怯えているんだい、アユムっち? 別に取って喰ったりはしないから安心しなw」


 その言葉とともに、ふっと体が軽くなったのを感じた。

 体の震えも収まり、ざわついていた心も平穏を取り戻したようだ。


「アユムっちが何を言いたいのか知らないけど、ついイラッときちまってね。もう大丈夫だからさっさと話しな」


 前々から思っていたが、アルテミス様は大概俺に甘い気がする。

 いや、俺だけではなくアテナにもかなり甘い。


(もしかしたら、気に入った相手には甘くなる......?)


 俺は感謝の気持ちを伝え、言葉を綴ることにした。


「無礼を承知で申し上げるなら......」

「あぁ、良いよ。許すから早く言いな」

「俺の知るアルテミス様ならば、報酬の権利を取り上げるのではないかと思ったのです」

「権利を取り上げるだって?」

「はい。もう一つの権利を降臨に当てられるのではないかと......」


 たとえアルテミス様が謹慎中とはいえ、たとえ俺から命令に近い形で取り上げた権利とはいえ、ダーツで決められた権利は正当なものとなるはずだ。


 恐らく、正当な権利ともなれば、ゼウス様も文句は言わないことだろう。

 ずる賢いアルテミス様ならば、それぐらいのこと分かっていてもおかしくはない。

 となれば、アルテミス様が権利で降臨を望むのは自明の理だとも言える。


 なのに、なぜその機会を、その権利を敢えて手放そうとするのだろうか......?


「あぁ、そのことかい。いやね、最初はそうするつもりだったんだよ、本当はさ」

「最初は、ですか?」

「そう、最初はね。水晶の件をゴネられたら問答無用で貰うつもりだったのさ」

「なるほど」

「でも、アユムっちは快く受け入れてくれただろ? しかも、権利は一つしかないと思っていた中でさ」

「まぁ、アルテミス様の退屈だって気持ちは理解できますからね。俺も船旅は───ん?」


 別になんてことはない。

 俺も同じような経験があるからこそ分かるだけだ。


 そういう意味合いで言おうとしたのだが、アルテミス様の様子がガラリと変わった。


「その、なんだい..................カッコよかった♡」

「はい!?」


 アルテミス様より突如ぶわっと巻き上げった、まるで恋する乙女の甘い雰囲気。

 そればかりではなく、今はとろんと潤い、情熱的に見つめてくる獰猛(ハート)な瞳。


「うッ......」


 先程とは別の意味で体を射竦められた。


 俺も心の動揺(ドキドキ)が抑えきれない。

 顔だけではなく全身が茹で上がっていくように赤く染まっていく。


 どうやら俺は知らず知らずの内に『捨てる勇気』を、アルテミス様が求める『男らしさ』を発揮してしまっていたようだ。

 それも誇ることなくさも当然のことだと受け入れていることが、アルテミス様の琴線に激しく触れてしまったらしい。


(ヤバいよ!? ヤバいよ!?)


 ぶっちゃけ、今のアルテミス様にキスを求められたら断れないかもしれない。

 というか、ニケさんには悪いが、仮に求められたとしたらキスをしてみたい。


 そう思わせるほどに、今のアルテミス様はとても美しく、狂おしいほどに愛おしい。


「アユムっち......」


 アルテミス様が、さも準備万端だと告げてきた。

 熱の籠った吐息に、閉じられた瞳が何とも言えない情緒を醸し出す。


 いつもなら、まるで全てを掻っ攫っていくかのような狩人のアルテミス様。

 だが、今は静かに俺からのキスを待つ一人の乙女と化している。


(か、かわいい......こういう一面も持っているのか)


 正直、キスしていいものならしてみたい。

 こんな俺でもいいのなら、キスしてあげたい。


 ただ......。


 あまりにも急展開過ぎて、頭の中の理解が追い付いていない。

 嬉しいが、暴走に至るまでのプロセスを踏むにはあまりにも唐突過ぎた。

 だからこそ、ほんの少しの理性を失わずに済んだとも言えるのかもしれない。


 俺はアルテミス様を抱き締めていた力を少し弱めた。


「......アユムっち?」

「アルテミス様。お気持ちは大変嬉しいのですが、先程申し上げたように「まだ早い」と思います」

「!?」


 アルテミス様の瞳が絶望の色に染まっていく。

 だが、次第に諦めの色から納得の色へ、そしていつも通りの色へと変化していった。


「申し訳ありません」

「......いや、あたしこそ雰囲気に流された。まだ早い......まだ早いという訳か......。アユムっち、悪かったね」

「あのアルテミス様が謝った......だと......!?」

「うるさいんだよ!! 少しは空気を読みな、このヘタレ男がッ!!」


───パァン!


「ほぐわッ!?」


 強烈なビンタが俺の頬に炸裂。


「ったく。ほら、さっさと当てちまうよ。時間が無くなっちまうからね」

「ふ、ふぁい......」


 空気を読まなかった代償はあまりにも痛かった。

 アルテミス様が俺の首に手を回していなかったら、きっと吹っ飛んでいたことだろう。


(というか......。神界じゃなかったら、俺は死んでいたんじゃないのか?)


 ただ、その代償のおかげで得られたものは大きかったようだ。

 少し照れてはいるが、普段通りのアルテミス様に戻ったようである。


「じゃあ、アユムっちの希望は『付き人とウォーキングのランクアップ』で良いんだね?」


 再度「これで本当に良いのか?」と尋ねてくるアルテミス様。


 どうやら本当に俺の希望を叶えてくれるらしい。

 俺の中で、アルテミス様の好感度がグンと上がった。


 それと同時に、渇いた笑いがこみあげてくる。

 認めたくないが、俺もアルテミス様のことをとやかく言えないほどちょろいらしい。


 だからこそ、俺はアルテミス様にこう告げた。


「俺の希望は『アルテミス様の降臨』です」

「あいよ。じゃあ、とっと当てちまう───いま何て言ったんだい、アユムっち?」

「聞こえませんでしたか? 俺の希望は『アルテミス様の降臨』です」

「......」

「え? ちょっ!? アルテミス様!?」


 ポカーンとしているアルテミス様に、俺もビックリだ。

 あの傲慢不遜なアルテミス様が、こんな表情をするとは思ってもいなかった。


(そ、そんなに驚くようなことか? というか、今なら脇を舐めても怒られないかな?)


 思うは易し、行うは難し。

 実際に舐めるのは簡単だが、ここは大人しく待っていよう。


 しばらくすると、アルテミス様が再稼働を始めた。


「ど、どういうことだい、アユムっち?」

「いや、どうもこうもないですけど」

「いやいや。どうもこうもないって......。あたしはアユムっちの希望を聞いてるんだけど?」

「えぇ。ですから、『アルテミス様の降臨』を希望します」

「はぁ!?」


 心底理解できないといった表情を見せるアルテミス様。


 アルテミス様の今の心情は分からなくもない。

 俺がアルテミス様の立場だったら、きっと同じように混乱していたことだろう。


 それに俺としても、せっかく『付き人とウォーキングのランクアップ』という非常に嬉しい権利を貰えるのだから、ぜひ貰っておきたいという気持ちは確かにある。


 ただ、それについては全く当てがない訳ではない。

 まぁ、さすがに『付き人とウォーキングのランクアップ』は難しいかもしれないが。


(その時はその時だよな。うん、仕方がない)


 だから、今回はそれに執着する必要性があまりない。

 アルテミス様風に言えば、『捨てる勇気』そのものと言える。


 では、俺が『付き人とウォーキングのランクアップ』を犠牲にしてまで得たいと思ったのは何かと言うと───。


「えーと、あたしは嬉しいんだけどさ。アユムっちはそれで本当にいいのかい?」

「えぇ。構いませんよ。どうぞ降臨なさってください」

「ふーん。なんだか気味が悪いねぇ」

「き、気味が悪い!?」


 希望した結果が気味が悪いとかあまりにも酷過ぎる。

 しょんぼり街道まっしぐらだ。


 しかし、アルテミス様の尋問は続く。


「アユムっち、正直に吐きな。何を企んでいるんだい?」

「何も企んではいませんよ。俺はアルテミス様の為を思って希望したまでです」

「あたしの為だって?」

「えぇ」


 一息入れて、俺はアルテミス様の瞳を見つめることにした。


 今から言う言葉に嘘偽りは全くない。

 俺の誠心誠意の言葉であるという意味をしっかりと込めて。


「アルテミス様。俺は貴女の願いを叶えたいのです」

「ほ、本気かい?」

「えぇ。それが俺の希望であり、『捨てる勇気』をもって得たいと思った唯一の報酬だからです」

「!!」

「だから、遠慮なさらずに降臨なさってください。心よりお待ちしています」

「アユムっち!」


 この瞬間、アルテミス様が陥落した。

 それはキスという誰にでも分かる愛情表現の形をもってなされたのだから。




 今年最後の更新となります。

 よいお年を。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 今日のひとこま


 ~二人だけの秘密~


「ちょっ!? アルテミス様!? まだ早いと言いましたよね!?」

「ったく、うるさいねぇ。しちまったもんは仕方がないだろ? その、なんだい..................嬉しかったんだからさ」

「うッ、かわいい。......じゃなくて! 仕方がないでは済みませんよ!」

「なんだい、なんだい。あたしとのキスはそんなに嫌なのかい?」


「いや、そうではないんですが......」

「減るもんじゃないし、儲けものと考えればいいのさ。あたしのファーストキスだ。アユムっちも嬉しいだろ?」

「嬉しいと言えば嬉しいですが、ニケさんに悪くて......」

「ウジウジするんじゃないよ。鬱陶しいねぇ」


「いやいやいや。アルテミス様が原因ですからね?」

「安心しな。ニケちゃんには黙っておいてやるからさ」

「あの、なんか俺の弱味を握ったふうに聞こえますが、アルテミス様も当事者ですからね?」

「んなことは分かってるよ。アユムっちも言うんじゃないよ? あたしが殺されちまうからね」


「まぁ、言う気はないですけどね。俺もニケさんに怒られそうで怖いですし」

「ニケちゃんは嫉妬深いからねぇ。勝利よりも嫉妬を司っているんじゃないかと思えてくるよ」

「それ、冗談でも笑えないから怖いですよね。とりあえず、二人だけの秘密にしておきましょう」

「二人だけの秘密......。秘密、秘密か」


「どうしました?」

「いや、こうなんか何とも言えない高揚感っていうのかい? そんなものがこみあげてきてね」

「......高揚感? もしかして、背徳感のことですか?」

「それだ、それ! こうゾクゾクときて面白いねぇ! あひゃひゃひゃひゃひゃw」


「いやいやいや! 面白がっちゃマズいですって! 命を大事にしてください!」

「まぁ、とりあえず、キスしちまった以上はもう解禁済みでいいんだろ?」

「そんなボジョレーみたいなこと言わないでください。いいですか? まだ早いですからね?」

「アユムっちはヘタレだねぇ。二人だけの秘密ならいくらあろうと問題ないだろうにさ」


 乙女と女豹がくるくると入れ代わるアルテミス様。

 これ以上、二人だけの秘密が増えないよう祈るばかりだ。


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