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歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~  作者: なつきいろ
第7章 躍進 -乙女豹アルテミス編-
310/349

第252歩目 一粒で二度おいしい町アガロス!


 前回までのあらすじ


(物理)衝撃的な出会いがあってもいいじゃなーい( ´∀` )b


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 評価ありがとうございます。励みとなります。



 ギルドでビンタを喰らった俺は、その日の内にゲルゴナを出た。

 正直、なぜこうなってしまったのかはいまだに分かっていない。


 ただ、ビンタをされた以上、相手が怒っているのは間違いないと思う。

 理由は本当に分からないが、ここは俺に非があると考えるべきだろう。


 その後、受付嬢さんからもたらされた驚愕の事実。


「えぇ!? 先程の女性が聖女様だったんですか!?」

「はい。それで、聖女様が竜殺し様とお話をされたいと申されていますが、いかがなされますか?」

「なんで指名手配されてるの!? 俺は助けただけなのに!」

「アユムは性獣だからねー! あーははははは( ´∀` )」

「さっきのが聖女様なんだろ? だったら、理由はどうあれ相手が悪いよ」

「いきなり知らない男に抱きつかれたんだからね。あたしだったらぶっ飛ばす」

「......ケダモノは死刑」


「マジか......」


 そんな盛大な勘違いもあって、俺はその日の内にゲルゴナを逃げるようにして出た。


 結局、逃げ出したところで何の解決にもならないとは思う。

 しかし、その時は犯罪者心理と言うべきか、とにかく逃げようと思う他はなかった。


 それにしても、これが俺と聖女様の初めての出会いとはなんとも悲しいものである。



 ※※※※※



 そんなこんながあってから三ヶ月が過ぎた。

 俺達は次の目的地である『備蓄の町アガロス』へと到着する。


挿絵(By みてみん)


 本来、王からの招待を受けている以上は寄り道などせずに真っ直ぐ王都を目指すべきなのだろう。


 しかし、それをできない理由があった。

 こればかりは本当にどうしようもないので、モートマ伯爵にもきちんと断りを入れてある。


 そして、その理由は非常事態だからこそと言えるようなものだった。


「ふぅ。ようやく着いたか」

「ぶー。いらないのにー(´-ε -`)」

「いらないのだ! いらないのだ! いらないのだ!」

「いらない訳ないだろ! いい加減にしろ!」


 騒ぐアテナとモリオンを一蹴して、俺は準備を開始する。

 まぁ、準備と言っても町へと繰り出すだけなんだが。


「おッ! 早速、迷宮にでも行くのかい?」


 そんな俺を目敏く見つけるインカローズ。


「違う。食材を調達しに行く」

「食材を? それならたくさんあるじゃないか」

「それは肉の話だろ? 肉以外の食材も調達しないとな」

「あー。おちびちゃん達が騒いでいるのはそれが原因かい」

「そういうこと。ドールはともかく、アテナとモリオンは野菜嫌いだからな」


 肉はいらない。最悪、旅の途中でも狩りとかで手に入るからな。

 俺が求めるのは、既に備えが尽きてしまった野菜に魚介類などだ。

 

 そう、『備蓄の町アガロス』を目指した理由はまさに食材調達の為だった。

 

 現状、カルディア王国は戦時下となっている。

 特にサーマルやゲルゴナのような前線基地ともなれば食料は欠かせないものだ。


 そういう事情もあって、今まで満足のいく買い出しができていなかった。


 これが、一人や二人分程度の食料ということなら何も問題はなかった。

 しかし、うちにはいつだって腹を空かせている食べ盛りの暴食娘達が控えている。

 ましてや、「20人近くも居る騎士団員の食料をも......」と考えると、とてもとても。


 そんな訳でモートマ伯爵に相談した結果、万が一を考えて食料を大量に備蓄してある(+軍事機密ともなっている)『備蓄の町アガロス』のことを紹介してもらったという訳だ。


「まさか、インカローズも野菜は嫌だとか言わないよな?」

「バカなこと言うんじゃないよ。子供じゃあるまいし」

「そうだよな。と言うか、今まで普通に野菜も食べていたもんな」

「そういうこと。そんなことよりもさ、あたいも付いていって良いかい?」

「え? 食材をただ調達しに行くだけだぞ?......まぁ、別に良いけどさ」

「あんたと二人っきりになれるチャンスはそうそうないからね」


 嬉しそうに「やった♪」と喜んでいるインカローズ。


 彼女の好き好きアピールはいつだって全力だ。衰えることを全く知らない。

 というか、このままではいつか俺のほうが(意思的な面で)衰えそうで怖いほどだ。


(まったく。こんな平凡な俺のどこが良いのかねぇ?)

 


 ※※※※※



「ッたく! なんでこうも温いのかねぇ!」


 押し寄せる魔物を次々と豪快に真っ二つにしていくインカローズ。


 それと言うのも、今日の分の食材調達はあっという間に終わった。

 さすがに、一度に大量に買い求めるのは色々な意味で悪目立ちし過ぎるからな。

 すぐに出立するという訳でもないので、何日かに分けてのんびりと調達する予定だ。


 小心者過ぎる?

 いいや、用心深いと言ってくれ。


 その後、「せっかくだから」というインカローズの勧めもあって迷宮(ダンジョン)へとやってきた。

 まぁ、なにが「せっかく」なのかは突っ込まないことにしようとは思う。


 というか、インカローズを連れてきて大正解だった。

 野菜や魚介類と一口でいっても種類はたくさんある。

 きっと俺一人だったら適当に選んでいたことだろう。


「野菜なんだから、基本はどれも一緒だろ。適当に食わしておけば大丈夫じゃね?」という、栄養面なんてものを全く考えもせずに。


 しかし、インカローズは違った。

 アテナ達の健康面もしっかりと考えた上で食材を選んでくれたようだ。

 ただ、「冒険者なら食材の知識ぐらいは当然だろ?」と呆れられてしまったが......。


(お前は元山賊だろ!......ふぅ)


 その時、咄嗟に突っ込んでしまったのはインカローズには内緒だ。


「オラオラオラオラオラァ! さっさと道を開けなッ!」

「清々しいまでの暴れっぷりだなぁ」


 回る、回る。インカローズが独楽のようにくるくると回る。

 それはまるで、全てを呑み込み破壊し尽くす暴風そのものだ。


 しかし、その戦いぶりは惹き付けるものがある。

 きっと多くの騎士団員達もまた、この戦いぶりに魅了されたのだろう。


「ヒール」


 だからと言って、全く無傷という訳にはいかない。

 上層(今居る迷宮は城型)に行くにしたがって、細々とした傷を負っている。


 まぁ、本当に細々としたものなんだけど。


「心配性だね。これしきのことで」

「慎重なぐらいでちょうど良いんだよ。インカローズを失うよりかはよっぽど良い」


 騎士団のことは全てインカローズに丸投げしている。

 ここで彼女を失いでもしたら、とても面倒臭いことになりかねない。


「あ、あんた......」

「だから! 油断するなっての!───ファイアーボール!」


 乙女の表情を見せるインカローズの肩を掴んで強引に俺の背後に下がらせる。

 そして、今まさに彼女を背後から襲おうとしていた魔物を片付けることに。


「さすがだね! あたいが惚れた男だけのことはあるよ、視野が広い!」

「視野が広い! じゃないだろ。今のはさすがに危なかったぞ?」

「大丈夫。大丈夫。あんたがあたいを守ってくれるんだろ? だったら、なんの心配もないよ」

「お前な......。次も守ってやれるとは思うなよ?」

「分かってるっての。そこは任せておきな。まぁ、それでも、あんたなら守ってくれるんだろうけどさ。だろ?」

「......」


「にしし」と悪戯っぽく笑うインカローズを見て、俺はガシガシと頭を掻いた。


 彼女の言う通りだ。

 次も間違いなく助けることだろう。


 そもそも、俺の考え方自体この世界では差別に当たるらしいが───。


 それでも、俺は女性が傷付く姿はあまり見たくはない。

 そればっかりはどうしても見過ごすことができない案件だ。


 男性は......うん。まぁ、頑張れ! 

 といっても、ちゃんと助けはするけどね?



 ※※※※※



 その後もインカローズとともに迷宮の探索を続けた。


「それにしてもさ」

「どうした?」


 魔物の襲来が途切れた合間を縫って、インカローズが話し掛けてくる。


「ゲルゴナの時も思ったんだけどさ。迷宮そのものが温くないかい?」

「あー。やっぱりインカローズもそう思うか?」

「まあね。といっても、あたいは言うほど迷宮に潜ったことはないんだけどさ」


 インカローズは元Sランク冒険者。

 但し、ギルドの束縛や貴族のやり方が不満で義賊になったという経歴の持ち主だ。


 だから、彼女の言う通り、迷宮の探索自体はそこまでしてはいないのだろう。


「少なくとも、あたいが潜ったことがある迷宮よりかは遥かに温いね。下層レベルさ」

「その点については俺も同意だな」

「それでも、上層だけあって魔物の数だけは多いんだから鬱陶しいことこの上ないけどね───ッとォ!」

「お見事」


 押し寄せる魔物の大群を前に、再び暴風の化身と化すインカローズ。

 どうやら先程とは違って油断してはいないようだ。


 改めて説明する必要はないと思うが、迷宮には幾つかのルールが存在する。

 例えば、十階層ごとに魔物の強さが大きく跳ね上がったり。

 例えば、五階層ごとに魔物の出現数が一匹ずつ増えていったり、などなど。

 それらは全ての迷宮の共通ルールとして知られている。


 そして、『そこにどのようにして、この迷宮だけの独自性を出していくか』というのが、迷宮そのものの醍醐味なんだと思う。


 しかし、アガロスにある迷宮は───。


 いや、ゲルゴナもそうだったことを考えると......。

 もしかしたら、カルディア王国にある全ての迷宮がそうなのかもしれない。


「これは......ドワーフだからか?」

「あー。そう言われると納得しちまうねぇ」


 どういうことかというと、迷宮のほとんどが基本ルールのみで構成されている。

 つまり、時尾さんの迷宮のようないやらしい罠などが一切設置されていないのだ。

 上層に至ってなお、罠の一つどころかその姿形すらも。


「なーんか外装ばかり立派だとは思っていたんだよねぇ」

「だよな。たかが迷宮なのに、外装は王城もかくやって感じなんだよなぁ」


 素人目で見ても、フランジュ王国の王城よりかは立派だと思う。

 さすがに、ベルジュ王国の白亜の城の美しさには見劣りするが。

 いや、美しさは確かに見劣りするが、精巧さは上回っている気がしないでもない。


「迷宮の運営よりも、そっちに力を入れていたりとかかね?」

「まさか。迷宮そのものはDP(ダンジョンポイント)で全て賄えると聞いたぞ」

「いや、そこはドワーフだからさ。こだわりとか強そうじゃないか」

「あー......さすがに冗談だよな?」

「冗談に決まっているだろ?」

「「......」」


 全く冗談に聞こえない。

 ドワーフはこだわりが強いだけに、本当に。


(迷宮の運営よりもモノ作りのほうが好きとか、ドワーフは頭大丈夫か?)


 いや、考えてみれば大丈夫ではなかったような気がする。

 だって、「呑み比べで勝利できれば結婚する」とか言っちゃっている種族だけに。


「ただ、一つだけハッキリと分かっていることがある」

「なんだい?」

「ここ『備蓄の町アガロス』は一粒で二度おいしい場所だってことさ」

「一粒で二度おいしい? どういう意味だい?」

「いいか? 食料は豊富に手に入るわ、迷宮は温くて助かるわ、まさに最高の土地だろ?」


 そして、俺は最後にこう付け加えた。

 せっかくの独演中に無粋な真似をしてきた魔物どもを魔法できれいに屠りながら。


「備蓄の町アガロス。君の名は決して忘れることはないだろう。君はどんな女神様よりも美しい」


 まぁ、ニケさんには遥かに劣るけどな(笑)


「そ、そこまでかい!? さすがに言い過ぎだろ!?」

「全然言い過ぎじゃない! むしろ、人生はこれぐらい温くても良いぐらいだぞ! 今までがハードモード過ぎる!」

「そ、そうかい......苦労したんだね、あんたも」

「そこで同情しないでくれます!?」


 何はともあれ、『備蓄の町アガロス』を存分に堪能することができた。

 もはや骨の髄までしゃぶり尽くしたと言っても過言ではないだろう。


 そして、『備蓄の町アガロス』からは何の味も出なくなったのを確認した俺達は再び王都を目指して旅に出るのだった。

 


 今日のひとこま


 ~誰を残す?~


 これはゲルゴナを出立する前のお話。


「インカローズ。ちょっといいか?」

「なんだい?」

「お前が俺に付いてくるのは別にいいんだけどさ。ここに誰を残していくのかはちゃんと決めてくれよ?」

「「「「「えー。私達も付いていっちゃダメですかー?」」」」」


「いやいや。ダメに決まってるだろ」

「「「「「そんなー。隊長(マム)と離れたくないですー」」」」」

「うッ......い、いや、全員ダメとは言わないけどさ?」

「あんたら、あたいの男を困らすんじゃないよ」


「誰がお前のだ、誰が! アテナみたいなこと言ってんじゃねぇ!」

「いずれあんたを堕とすんだから同じことさ」

「「「「「あ、あのー」」」」」

「あぁ、すまん。えっと......せめて十人ぐらいは残ってくれないか? 伯爵に騎士団の活動を見てもらう必要性もあるしさ。君らの生活面は俺が保証するから安心してくれ」


「それもそうだねぇ。......じゃあ、あんたとあんたとあんた。それに───」

「おまッ!? そんな適当に!?」

「大丈夫さ。どいつもこいつも、あたいが自信を持って推薦できる奴らばかりさ」

「「「「「マ、隊長(マム)......」」」」」


「それなら別にいいけどさ......。ただ、彼女達の気持ちはどうするんだ? お前と一緒に居たいという───」

「「「「「大丈夫です! 頑張りまーす!」」」」」

「良いのかよ!?」

「あぁ、頑張りな。いいかい? 推薦したあたいの顔に泥を塗るような真似だけはするんじゃないよ?」


「「「「「隊長(マム)の期待に必ずや応えてみせまーす!」」」」」

「お、おぅ。なんか凄いな。えっと......じゃあ、君に居残り組の隊長を任せようかな。名前は?」

「ユリです」

「分かった。ユリちゃん、よろしく頼むな」


「ユリ、ちゃん......? ちょっと待った!」

「なんだよ?」

「ユリちゃんってなんだい? ユリちゃんって!」

「なんだと言われても......そんな雰囲気の娘だしさ」


「ふざけんじゃないよ!! あたいはあんたの女だよ!!」

「それは違うと言ってるだろ!」

「そんなあたいを差し置いて『ちゃん』はないだろ!! 『ちゃん』は!!」

「俺の話を聞けよ!? というか、インカローズにも『ちゃん』を付ければそれでいいのか?」


「ふんッ! 当然さ! 自分の女ぐらい特別に扱いな!」

「俺の女じゃないと何度言えば......まぁ、今はいいか。じゃあ、インカローズちゃん?」

「......」

「......」


「......悪い。やっぱり無しの方向で頼めるかい?」

「あ、あぁ。そうだな」

「いや、むしろ、愛名(まな)で呼んでくれてもいいんだよ?」

「それは断る」


 こうして、ユリちゃんを居残り組の隊長に十人ほどがゲルゴナに残ることとなった。


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