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歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~  作者: なつきいろ
第7章 躍進 -乙女豹アルテミス編-
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第247歩目 りゅっころ団の余波!①


 前回までのあらすじ


 ちゃんと前を見て歩いてよねーヽ(`Д´#)ノ



「ラズリ! ラズリ! ねぇ、ちょっと聞いた!?」

「えぇ、聞きました。『あれ』のことですよね?」

「そうそう! あれよ、あれ!......というか、知ってたかー。残念」

「いやいや。私は早番なんですから知っていて当然なんですが?」


 出勤するなり、話したくて話したくて堪らないといった様子のアシーネさん。


 内容は聞かずとも分かります。

 私も出勤した際に、ギルド長から教えられて驚いたものですから。


 ちなみに、ギルドは24時間開いています。

 ですので、今日は私が早番(6時~18時)で、アシーネさんが遅番(18時~6時)となっていました。


「それはそれよ」


 アシーネさんはそう言うと、早速「お仕事、お仕事」と机に腰掛けました。


 お喋り好きではありますが、これでも一応ギルド職員。

 なんだかんだ言っても、お仕事には真面目な姿勢で取り組む同僚なのです。


 と言っても、文字通り、一度開いた口が塞がることはなく───。


「にしてもさ、本当に驚いたわ。目玉が飛び出るかと思ったもの」

「ですよね。なにしろ前代未聞のことですから」

「計画して実行に移した竜殺し様も凄いけど、それをあっさりと認めちゃったシンフォニア側も大したものよね」

「なんで上から目線なんですか......いや、まぁ、本当に凄いことですが」


 聞くところによると、実際は勇者姫様の独断とのこと。

 となると、本当に驚嘆されるべきは、シンフォニアというよりかは勇者姫様のほうでしょう。


「それによ? なんでも実務者(リーダー)は元山賊だっていうじゃない?」

「みたいですね。アユムさんが旅の途中で捕らえ、真心を込めて改心を促した結果、心を入れ換えた山賊だとか」

「それも前代未聞ものよね。山賊なんて、さっさと処分するものだと思っていたわ」

「ですね。それが常識というか当たり前のことですしね」


 ですが、今になって思えば、そういう傾向は以前からもあったような気がします。

 山賊とは違いますが、奴隷に対する考え方が私達とは全く違うというようなことが。


「きっとアユムさんにとっては、山賊も奴隷もそう大差はないのかもしれませんね」

「さすが勇者様! 私達とは出来が違うわね!......と言いたいところだけどさ。竜殺し様だけなんだよね、そんな奇特なことしているの」

「き、奇特なことって......アユムさんに失礼ですよ?」

「奇特なことは奇特なことじゃない。でも、ラズリが惚れる気持ちも分かった気がするわ。なんか自分の信念を貫き通しているようでカッコいいもの。まぁ、竜殺し様の行動自体は理解できないけどさ」

「そ、そうですか? えへへ」

「それにさ、こうとも言えるでしょ? 人としての器がデカいともね」


 まるで、「でしょ?」とでも言いたげに、ウインクするアシーネさん。

 私はそれに「我が意を得たり」とばかりに、机をバンッと叩いて高速反応しました。


「その通りなんですッ!」

「う、うん......ちょっと落ち着いて、ね?」

「落ち着いてなどいられません! アユムさんの本当の魅力を知ってもらう良い機会なんですから!」

「仕事をしろ! この色ボケ娘!」

「アシーネさんが、それを言いますか!?」


 何はともあれ、アユムさんは本当に器の大きい人なんです。


 そして、それこそ私がアユムさんに惚れた理由であり、アユムさんには好きな人がいると分かっていても諦め切れずに、ずっと頑張れている訳でもあるのです。


 ありのままの自分を受け入れてくれる心地好さ。

 ありのままの自分を抱き止めてくれる懐の大きさ。


 そんなアユムさんの人柄や優しさに、私はもう首ったけなんです。


「たださ、今まで数多くの勇者様の話を聞いてきたけども」

「はい」

「ここまで変わった勇者様は初めてよね。というか、女に甘いだけだったりして」

「......あはは」


 アシーネさんのズバリな指摘に、自然と渇いた笑いが出てしまいました。


 実際、アユムさんが女性に甘いことは確かでしょう。

 いや、この場合は「女性の扱いに慣れていない」と言ったほうが正しいでしょうか。


 例え相手が何者であろうと、(アテナさんを除く)女性に対しては鬼になれない。

 私はアユムさんをそういう人だと見ています。


 ただ、問題はそこではなくて───。


「団員のほとんどが女なんでしょ? 実務者(リーダー)も女だって言うしさ」

「そうらしいですね。しかも、アユムさん直々(たって)の任命とか」

「ふーん......惚れたわね」

「はい......惚れた、でしょうね」


 彼女なりに気遣ったのか、ウインクしてきた先程は異なり、今度は私のほうを見ずにポツリッとそう漏らすアシーネさん。


 その声には憂いというか、どこか呆れの感情も含まれているような気がしました。


「そっか。ラズリもそう思うんだ」

「......はい」


 恐らく、私達の見解は間違っていないでしょう。

 その女性がアユムさんに対して、決して淡くはない感情を抱いたことは......。


 先程も述べましたが、その女性の気持ちが痛いほどによく分かるのです。


 過去には一切囚われない上で、全権を任せるといった清々しいまでの信頼。

 そこには、男性としての懐の大きさや器のデカさがハッキリと見てとれます。


 そして、そんなものを間近で見せられようものなら......。

 もっと言えば、目的はどうあれ自分の為にされようものなら......。

 女として、思わずコロッと来てしまうのは致し方ないことだと思うんです。


 ただ、先程からずっと気にはなっていたのですが、アシーネさんの言葉の節々にはどこかトゲのようなものが含まれているように思えてなりません。


「なんかさー、こう言っちゃなんだけど......竜殺し様は行く先々で女を作ってない?」

「......」

「別に悪いことではないんだけどさ。こう、「もうちょっとラズリの気持ちも考えろ!」って言いたい訳よ」

「アシーネさん......」


 ちょっと、うるっと来てしまいそうになりました。

 色々と問題のある方ですが、やはり持つべき者は同僚なんですね。


「じゃないとさー、私に仕事の皺寄せが来るんだもの。堪ったものじゃないのよね」

「アシーネさん!?」

「冗談よ、冗談......てへッ」

「......本当に冗談なんですよね?」

 

 やっぱり、ただ問題のある方なようです。

 結局、同僚は同僚に過ぎないということでしょうか。


「それで、肝心のラズリはどうなの?」

「どう、とは?」

「新しい女が増えたことよ。ライバルが増えた訳なんだしさ」

「私は───」


 それはともかく、仕事の手を止め、私を気遣うように見つめてくるアシーネさん。

 その姿から心配してくれているのは確かなようで、同僚として友達として嬉しくなります。


「私は羨ましく思います」

「うんうん。そうよね。竜殺し様に文句の一つぐらい言いたくもなる───って、羨ましい!?......え? どういうこと?」

「え? その女性が羨ましいな、と素直に思いますが?」

「ちょっと待って。竜殺し様に「私に会いに来ない癖に(女を作るのは)いい加減にしろ!」だの、「私だけを見ていて欲しい!」だの、なんかこう言いたいことはないわけ?」

「アユムさんにですか?......うーん、ないですね。強いて言うなら「会いたい」、ただそれだけです」

「あ、そう......」


 私の答えが予想外だったのか、ポカーンとした表情を見せるアシーネさん。


 まぁ、アシーネさんが言っていることも分からなくはありません。

 一人の女として、好きな男性を独占したい、そういう気持ちは私にだってあります。


「で、でしょ? なのに、どうして?」

「それをすると、アユムさんの側に居れなくなるからですね」

「どういうこと?」

「アユムさんには既に心に決めている人がもう居るんです。だから、私が無理に独占しようとすると、きっと突き放されると思うんです」


 アユムさんが女性に慣れていないのは確かでしょう。

 だからと言って、それが優柔不断だということには繋がりません。


 僅かの間しか一緒に居れませんでしたが、それでもアユムさんには変なところで頑固な一面があることを感じ取ることができました。


 それはきっと、アユムさんにとっては譲れない何か。

 

 だとすると、押すところは押して、引くところは引く。

 その判断を見誤ると、アユムさんは間違いなく離れていくような気がしてならないのです。


「それが竜殺し様を独占したいと思わない訳なの?」

「はい。というか、そもそもそれを望めるのは私ではなく、心に決められたお相手の女性だけだと思うんです」

「あー......言われてみればそうね。竜殺し様の世界って、こっちとは事情が違うんだっけ?」

「はい。付き合えるのは一人、結婚できるのも一人だけらしいです」

「となると......ラズリの今の立場は愛人? 現地妻?」

「彼女ですッ! そんなものと一緒にしないでください! 失礼な!」

「いやいやいや。まだ彼女ではないでしょ」


「ラズリさんが好きです」とアユムさんに言われたから、私はその日から彼女気分。


 そう思っています。

 そう思わせてください。

 会えない分、そうさせてください。お願いします!


「何のネタよ、それ」

「知りません。とりあえず、私がアユムさんの側に居るためには『アユムさんのハーレム化』は大賛成であり、必須条件でもあるんです」

「ふーん。ラズリはそれで本当に良いの?」

「嫌われるぐらいなら......一緒に居られなくなるぐらいなら......それぐらい全然構いません! 私はアユムさんに愛してもらえさえすれば、それで満足なんです!」

「そ、そこまで言い切るか......」


 私の力説に、ピクピクと頬を引くつかせるアシーネさん。

 それが普通の反応だとは理解していますが、それでもちょっと傷付きます。


 つまり、アユムさんとはそういう人であり、アユムさんとお付き合いするにはそれぐらいの覚悟と心構えが必要だと、私はそう言いたい訳なのです。


「だから、アユムさんと一緒に居られるその女性は羨ましいな、と思いました」

「なるほどねー......ごめん、全く分からないわ」

「いいですよ。別に理解して欲しいとは思いませんから」


 そもそもの話、アユムさんは私達とは異なる異世界の人です。

 となると、こっちの物差しで測ろうと思うこと自体無理があって当然だと思います。


 私は私で、出来ることをただひたすら頑張るのみ!


「まぁ、でも、ラズリが以前言っていた『竜殺し様の側に居るための資格』ってやつ? あれ、少しだけ分かった気がするわ」

「どういうことですか?」

「『特別な人と一緒に居るためには普通ではダメ』ってことでしょ?」

「そう......ですね。まぁ、その普通に一番拘っているのはアユムさん自身なんですが」

「それはないわー。さすがにそこまで謙遜が過ぎると、逆に嫌味に聞こえてくるわね」

「ですよねー」


 こればっかりはアシーネさんに同意せざるを得ません。


(特別な人は自分が特別な存在だと気付きにくいのでしょうか?)


 いや、だからこそ、特別な存在なのかもしれません。

 所謂、普通である私達とは何もかもが違うのでしょうから。


「となると......あの話、どうするのかはもう決めたの?」

「お母さんの件ですよね?」

「そうそう。スカイさんの件。以前、「どうしようか悩んでる」って言ってたじゃない?」

「はい。ようやく決心しました。このままだと、いつまで経ってもダメだと分かりましたから」

「それで? どうするの?」


 お母さんとの話の件もあり、私の決心を促すには絶好のタイミングだったのかもしれません。

 世界でも、アユムさんだけが保有する個人騎士団『りゅっころ団』設立の報告は。


(......うん。もう決めた。もう決めたんだから、絶対に迷わない!)


 普通である私が『停滞』していたのでは何も解決はしません。

 常に『前進』する道を選び続けないといけないのだと、改めて分かりましたから。


「アシーネさん。私は───」


 私の心に一片の曇りなし。

 私は今、新しい一歩を歩みだそうとしていました。



 さてさて、世界を驚愕させた『りゅっころ団』の余波はまだまだ広がりつつあるようです。



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