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歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~  作者: なつきいろ
第7章 躍進 -乙女豹アルテミス編-
299/349

第241歩目 実らぬ恋に、実る恋!①


 前回までのあらすじ


 ふはははははー! 全員奴隷のようだー(`・ω・´)



 インカローズ達の恩返しが始まってから数日が経った。

 初めはどこかぎこちない姿を見せていた彼女達も今では───。


「じゃー、食べるとしようか。いただきます」

「ふぁふははひはふー(*´μ`*)」

「食べながら話すな!......というか、「いただきます」してから食え!」


「「「いただきまーす!」」」


 リビング内に響き渡るたくさんの黄色い声。


 そして、いま俺の目の前には、男性なら一度は夢見たことがある『THE・男の夢シリーズ』トップ5にも入る、楽園というか妄想とも言えるような世界そのものが広がっていた。


 そう、うら若き女性達のきゃっきゃうふふで満たされた世界を───。

 そんな幸せな場所だと思っている、『僕の考えた女子校の教師生活』の妄想そのものが───。



挿絵(By みてみん)



 当然、この黄色い声の正体は、インカローズ始め女山賊達のものだ。

 今はみんな仲良く一緒に、リビングにて食事をしている最中となる。


「はい、モリオンちゃんもどうぞー」

「ずるーい! 私だってモリオンちゃんにあげたいのにー」

「のだ? 我は自分でできるから大丈夫なのだ」


「私は断然ヘリオドールちゃんかなー」

「私はヘリオドールちゃんに食べさせてもらいたい派ー!」

「ええい! 鬱陶しいのじゃ! さっさと散らんか!」


「賑やかになったもんだなぁ」


 目の前に広がる女性達のきゃっきゃうふふな光景を見て、しみじみとそう思う。

「料理に勝ち負けなんてない。みんなでおいしく食べるのが正解」とはよく言ったものだ。


(やっぱり、インカローズ達を誘って正解だったな)


 さすがに、最初は一緒に食事をすること自体、遠慮されていた。

 まぁ、一応彼女達は捕虜の身なのだから、当然と言えば当然なのかもしれないが......。


 それでも、魔動駆輪のリビングは40人ぐらいなら問題ない広さとなっている。

 だから、「どうせ食事をするなら一緒に」ということで、()()()()()()()()()()()()


「どうしたんだい? もしかして......口に合わなかったかい?」


 考え事をしていたせいか、箸が進んでいない俺を心配するインカローズ。

 いや、この反応は俺を心配しているというよりも───。


「そんなことないさ。おいしいよ」

「そ、そうかい! よかったよ!」


 俺の答えに、インカローズは花を一斉に咲かせたような満面の笑顔を見せた。

 そして、嬉々とした様子で、目の前にある料理について語り出していく。


 そう、まるで誉めてもらいたい子供のような無邪気な表情で───。


「これね。あたいが作ったんだよ」

「へー。インカローズは料理もできるんだな」

「元々料理なんてできなかったんだけどさ、ケセラに教えてもらったんだよ。あたいが頼み込んでね」


 インカローズと『紅蓮の蒼き戦斧』のメンバーであるケセラさんは非常に仲が良い。


 恐らく、お互いに大柄で豪快な女性───所謂、似た者同士ということで気が合うのかもしれない。女山賊達を監獄から解放して後、割りと早い段階で二人は打ち解けあっていた。


(うんうん。素晴らしいね。ここにも俺が理想とする世界が出来上がっているな)


 そんな二人の姿を見て、俺がこっそりと涙を流したことは言うまでもないだろう。


 言っておくが、何も二人の百合百合しくも尊い姿を見て感動したのではない。

 山賊と冒険者という垣根を取り払って仲良くしている姿に感動したのだ。


「そうなのか。なんでまた、急に料理を?」

「......(ちらッ)」

「うッ......」


 インカローズからの直接的(本人は控えめのつもり!)な視線が突き刺さる。


 そもそも、ここ数日一緒に食事をするようになったのは良いことだが、必ずと言っていいほど俺の隣にインカローズが陣取ってくる。

 そして、妻が如き甲斐甲斐しさで、色々と世話をしようとしてくるのだ。


 まるで、「主人(おれ)の世話は首領(あたい)の仕事だ!」と主張しているかのように───。


首領(マム)、頑張って!」

「おちびちゃん達は私らが見ますから!」

「押してダメなら更に押すんですよ、首領(マム)!」


「......」


 さすがの俺も、ここまで色々とあからさまだと気付かない訳がない。

 問題は何が引き金となってしまったのかが全く分からないことだ。


(何がトリガーとなった? 何かのフラグを踏んだか?)


 ここ数日、インカローズを始め女山賊達は良く頑張ってくれている。

 まさに恩返しという言葉に恥じない働きと誠意、真心を見せてくれている。


 そんな一生懸命な彼女らに、俺は感謝の意と()()を何度か示してはきた。


 ただ、それはインカローズに限った話ではない。

 女山賊達一人一人に、公平に、平等に、接してきたつもりだ。


 だからこそ、何が引き金となってしまったのかが全く分からない。

 インカローズほどの豪の者も、一人の女にしてしまうようなことは本当に何も......。


「な、なぁ」

「な、なんだ?」


 顔を淡く赤らめ、恥ずかしいのか俺の腕に『の』の字を書き始めたインカローズ。

 更には甘えた猫なで声をも出してきたので、思わず背筋がゾクゾクとしてしまった。


(これはこれで、かわいくない訳じゃないんだけど......)


 ただ、監獄の中で話した時の「あたいは誰にも媚びへつらうような真似はしないよ!」みたいな強い女性の印象が残っているだけに、いま目の前にある姿とのギャップに戸惑いを覚える。


「あたい......良いお嫁さんになれるかな?」

「ぶふぅ!?」

「ど、どうしたんだい、いきなり!?」

「お、おまッ! それはあまりにも直球過ぎるだろ!」


 普通はこう、もう少しオブラートに包んでくるものだと思う。


 本当に恥ずかしがっているのか、疑問に感じるほどの豪胆さだ。

 いや、さすがは山賊と言うべきことなのかもしれない。


 しかし、俺に悩んでいる暇はない。


「こらー! きたないでしょー! ふいてよーヽ(`Д´#)ノ」


 俺が盛大に噴き出してしまったことで、元から駄女神が更に駄女神なことに(笑)

 お上がりよ! 『食べ滓まみれ汚女神様』の出来上がりだいッ!


「ふえええええ。ふいてよー(´;ω;`)」

「悪かったよ。今拭いて───お、おぅ!?」


 冗談はさておき、そんな食べ滓まみれの汚女神を、嫁気取りのインカローズが俺の代わりにせっせと───。


「はいはい。アテナちゃんは私らが見ますから」

「アテナちゃん、ダメだよ? 大人の時間を子供が邪魔したら」

「アテナちゃんについた竜殺しの食べ滓......。これ、食べてもいいのかな?」

「誰が子供よーーーーーヽ(`Д´#)ノ」


 せっせとはせずに、女山賊達が代わりにテキパキと処理をしていく。

 当のインカローズもそれが当然だとばかりに、興味すら示していない様子だ。


(......本当に何がトリガーとなった? フラグをいつ踏んだ?)


 インカローズが、あくまで興味があるのは、関心があるのは俺だけ。

 そこのところは徹底しているというか、瞳に映っているのは俺だけらしい。


「邪魔者もいなくなったし、もっと食べな」

「さすがに邪魔者扱いはかわいそうだろ......」

「こっちのは精がつく料理さ。じゃんじゃん食べておくれよ」

「精がつく料理って......お前な、小さい子達もいるんだぞ? なんてものを作ってんだよ」


 インカローズの好き好きアピールは止まらない。

 それは日を追うごとに、益々顕著なものへと変わっていくのだった。


(気持ちは嬉しいが......)


 俺にはニケさんが居て、ラズリさんとのことすらもまだ何も解決していない。

 ましてや、10年も待たせているジスト様達の件も控えている。


(こんな普通な俺にはありがたいことなんだろうけどなぁ。文句を言うだけでも罰が当たりそうだ。本当、女性関係()賑やかになったもんだよ。HAHAHA。ハァ..................)


 うん。これ以上はさすがに無理。

 現地勇者のように、大勢の奥さんや彼女達を仲良くまとめられる自信が全くない。


 となると、やるべきことは一つしかない訳で───。


(インカローズには悪いが......どうやって諦めてもらおうかな?)



 こうして、俺にまた一つ新たな悩みが追加されたようだ。




 ひとこま


 ~感謝の気持ちの伝え方~


「本当にありがとう。思った以上に頑張ってくれているよ」

「だから言ったろ? 絶対に損はさせないとさ」

「そうだけど、それ以上の働きに驚いているよ。ありがとう」

「別に礼はいいよ。それじゃ、恩返しにならないじゃないか」


「と言われてもな、頑張った分にはそれ相応の報酬があって然るべきだぞ?」

「だから言ってるだろ? それじゃ、恩返しに───」

「違う、違う。例えそうであっても、特別賞みたいなものは出たりするんだよ。俺の世界では」

「へー。そうなのかい。まぁ、あたいは何も望まないけどね」


「そうなのか? まぁ、何かあったら遠慮なく言ってくれ。あとさ、ずっと気にはなっていたんだけど......」

「なんだい?」

「顔の傷、それはどうしたんだ? それと、塞がっている片目はもしかして見えていない?」

「あぁ、これね。昔、しくじっちまってさ。その時の傷さ。目も見えちゃいないね」


「そうか。インカローズほどの者がなぁ」

「若さ故の過ちというものさ。まぁ、これのおかげで首領としての威厳ってやつが出ていたらしいから、今までは気にしちゃいなかったけど......もう必要のないものになっちまったね」

「あッ。別に勲章とかいう訳じゃないんだ?」

「当たり前だろ? むしろ傷持ちなんて恥ずかしいぐらいさ。妙に恐がられるしね」


「ふーん。それ、治してやろうか?」

「......は?」

「だから、それを治してやろうか、そう言ってるんだよ」

「そ、そんなことができるのかい!?」


 俺は「まあな」と答えたところで少し考える。


 傷を治すぐらいなら簡単なことだ。

 しかし、ここでちょっとした悪戯(お遊び)をしてみたくなった。


 と言うのも、インカローズは今まであまり女性扱いをされたことがないと聞く。


 だったら、女性(お姫様)(ピンチ)男性(王子様)が助ける。

 それに相応しいシーンを作ってやろう、と。


「よっと!」

「ちょっ!? い、いきなり何をするんだい!?」

「いいから、黙って抱かれていろ」

「い、一体なんだって言うんだい、全く......(あれ? こ、これはまさか!?)」


 俺は素早くインカローズの足を払うと、倒れそうになった彼女を横抱きに抱えた。

 まぁ、所謂お姫様抱っことかいうやつの再現だ。


「今から治療するぞ。いいか、大人しくしていろよ?」

「......(か、かかかか顔が近いよ!? キ、キス!? 今からキスしちゃうのかい!?)」

「なんだか急に借りてきた猫みたいに大人しくなったな。まぁ、治療しやすくて助かるけど」

「......(あ、あたいが猫だって!? 竜殺しの中では「あたいが猫みたいにかわいい女」、そう見えているのかい!?)」


 治療完了。

 結果報告の為に、手鏡をインカローズに渡す。


「どうだ? 顔の傷は完全に無くなっただろ? まぁ、失明までは治せなかったけどさ」

「す、凄い......。あんた、本当になんでもできるんだね」

「いやいや。なにもできないからこそ、失明は治せなかったんだぞ?」

「それでも、顔の傷は治せた。あんたは本当に凄い男だよ。ありがとう」


「ごほん。言うまでもないと思うが、この力のことも内緒な? それにしても......」

「あぁ、それは絶対に守る。義賊の誇りにかけてさ。それとなんだい?」

「やっぱり(女性の顔には傷がないほうが良いよな。そのほうが)きれいだ」

「なッ!?(あ、あたいがきれいだって!?)」


「ん? どうした?」

「そ、そんなに(あたいは)きれいかい?」

「あぁ、(傷がない時と比べたら見違えるほど)凄くきれいだ」

「す、凄く!? そ、そうかい......(き、きれいだなんて誉められたのは初めてだよ......)」


「そうそう。急に抱きかかえて悪い。ちょっとした悪戯心だ、許してくれ。このほうが治療しているという雰囲気が出ているだろ?」

「......(りゅ、竜殺しは本気であたいを狙ってきている? こ、こんなあたいを......?)」

「あれ? インカローズ、聞こえているか?」

「......(お、女なんてとっくに捨てちまったあたいだけど、竜殺しが求めてくれるなら......)」


 なにやら考え事に没頭しているインカローズ。


 その後も、彼女との意思疏通ができるようになるまでは、ずっとお姫様抱っこしていたことは言うまでもないだろう。



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