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歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~  作者: なつきいろ
第7章 躍進 -乙女豹アルテミス編-
295/349

第237歩目 天翔る勇者!


 前回までのあらすじ


 姫華と久しぶりのデートに出掛けることになりました!



「風が気持ちいいですの!」

「ええ、本当に」

「文乃、寒くはありませんの? 寒かったら言うんですの」

「姫華、ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」


 大空はどこまでも蒼く澄み渡り、()()()()()()微風(そよかぜ)がとても気持ちいいです。



 私と姫華がデートに出てから早数ヶ月が経ちました。

 姫華との久々のデートは、混迷を来す嫌な現実を忘れさせてくれるには十分です。


 それこそ、姫華とは『おはよう(の───恥ずかしくて言えません!)』から『おやすみ(の───恥ずかしくて言えません!)』まで、何をするにもずっと一緒な訳なのですから。


 最近、姫華とは二人してよくこう言い合っています。

 お互い、シンフォニアに居た時と比べると格段に綺麗になった、と。


 綺麗になった秘訣ですか?

 ふふふ。それは私と姫華の二人だけの秘密です。



 ※※※※※



 さて、今回のデートの目的は主に二つです。


 一つ目は、竜殺し様に直接お会いすること。

 二つ目は、竜殺し様に会ってくると言って出ていった真人様をお止めすること。


 そもそも、姫華には竜殺し様を正当勇者、ひいては十傑に誘う気持ちがあります。


 となると、いまだに招待を断り続けている頑固者の竜殺し様と直接お会いするのは勿論のこと、竜殺し様にご迷惑を掛けないよう真人様の暴走を食い止めることの、どちらも必要不可欠な条件となります。


 ですが、物事はそうそう上手くはいかないようで───。


「それで、真人は見つかったんですの?」

「......いえ、そういう報告はまだですね」

「そう......ですの」


 全く困ったものですの、といった表情を見せる姫華。


 そこには、いくら血の繋がった実の弟と言えど、自分の気持ちを分かってもらえない寂しさをどこか孕んでいるようにも見えました。


(姫華......)


 そんな姫華の辛そうな顔を見るたびに、私の心は締め付けられる思いです。

 今はただ、そっと姫華に寄り添ってあげることが、私にできることなのかもしれません。


 以上のことから、二つ目の目的を先に達成させるのは非常に困難となっています。

 そこで、比較的情報を得やすい竜殺し様から先に会うことを当面の目標としました。


 そういう訳で、最後の目撃情報である『フランジュ王国・旧都トランジュ』を目指していたのですが───。


「姫華! あれを見てください!」

「あれは......」


───ドドドドド。

───ドドドドド。


 遠くからでも伝わる、大地を揺るがすほどの大行進。

 押し寄せる波のように、赤黒く大きなうねりを見せる大軍勢。


 そして───。

 

「「「ア"ア"ア"ア"ア"」」」

「「「おぉぉおおおおお」」」


 感情が伴っておらず、底冷えするかのような気持ち悪い咆哮を上げる魔物達。

 一方、自分を、仲間達を奮い起たせるかのように勇ましい雄叫びを上げる冒険者達。


「これも、例のやつでしょうね」

「ここも......ですの」


 今、私と姫華の()()()()壮絶な戦いが繰り広げられています。

(主に冒険者側の)血飛沫が舞い、苦痛と悲鳴が轟く地獄絵図のような光景が......。


 と言っても、何もここだけに限った話ではありません。

 このような光景は、事態は、今世界各地で頻繁に起こっているものなのですから。


 それに対して、この魔物の大氾濫に対して、私達勇者側は各地に実力と実績のある正統勇者を派遣するなどして十分な対策を講じてはいます。


 恐らく、この戦場にも居ることでしょう。


(あ......)


 というか、居ました。

 なんだか笑顔で私達に手を振っているようにも見えます。


(ハァ......。手を振る余裕があるなら、正統勇者の務めを果たしてくださいよ)


 十傑に限らず、正統勇者は一癖も二癖もある人達が多いので本当に困りものです。

 つまり、何を言いたいのかと言いますと......。


 この戦いに私と姫華が参戦する必要性は全くないということです!


 むしろ、真人様の暴走を食い止める為にも、ここは派遣した正統勇者に任せて一刻も早く竜殺し様に会う必要性があるのですが───。

 

「戦況はあまり芳しくないようですが、正統勇者も居ますから問題はないでしょう」

「そ、そうですの......」

「ここは彼らに任せて、私達は先を急ぐべきです」

「......」

「......」

「......」


 無言の状況が私と姫華を包みました。

 そして、何やらそわそわしている姫華。


「ハァ......。姫華、行きたいんですよね?」

「で、ですの! 勇者として放っておけませんの! 姫華、出ますの!」


 戦況うんぬんに関わらず、正義の御旗を掲げる姫華が、この状況を見過ごすことはありません。

 トレードマークであるポニーテールをぴこぴことかわいく揺らして、さも当たり前のように正義を執行する気満々なのです。


(これで何度目でしょうか?)


 このようなことは、今回のデート中にも幾度となく遭遇してきました。

 その都度、姫華が乗り出しては解決するという出来事がしばしばとなっています。


(まったくもう、姫華ときたら......。これじゃ正当勇者を派遣している意味がないじゃないですか)


 私の気苦労はデート中でも絶えることはありません。

 ですが、そんな姫華が、私は誇らしくあり、好きでもあるのは事実です。


 姫華には、姫華の信じる正義(みち)をただひたすら自由に走ってもらいたいものです。

 そして、私はそんな姫華の姿をいつまでも見ていたいのです。


「時間が惜しいです。5分です。5分経ったら行きますからね?」

「了解ですの! やっぱり文乃は優しいですの! 大好きですの!」

「はいはい。私も姫華を愛していますよ。......はい、後残り4分45秒です」

「ちょっ!? あ、文乃、ずるいですの! 行ってきますの! トライアングル、文乃を任せましたの!」

『仰せのままに。勇者姫様(マイ・プリンセス)


 慌てふためいた姫華は颯爽と愛天馬(ペガサス)・トライアングルから飛び降りました。

 上空数十mという高さで羽ばたいている愛天馬から、ひらりと事もなげに───。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

天馬(ペガサス)・トライアングル』


 鳳凰寺姫華の愛天馬。姫華が『トライアングル』と命名。

 勇者の中でも『勇者姫』だけが召喚できる神獣中の神獣。

 勇者姫と盟友(霊亀川文乃)だけにしか懐かず、勇者姫の命令は基本遵守。

 但し、勇者姫の命令だろうと、男だけは絶対に背には乗せない。

 性別は♀。もとは両性だったが、姫華たっての願いで♀となった。

 戦えば強い神獣ではあるが、文乃を守護するよう命令(おねがい)されることが多い。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「こ、こら! 姫華! 危ないでしょ!!」

「だ~いじょ~ぶ~、ですの~」


 私に向かって、にへらッと相好を崩しながら落下していく姫華。


 例え、毎度のことで大丈夫だとは分かっていても、気が気ではありません。

 さすがに、そろそろ心配するほうの身にもなって欲しいものです。


 一方、姫華は───。


───たんッ!

───たたんッ!


 そんな私の心配とは裏腹に、華麗に戦場のど真ん中へと着地しました。


 怒号と殺気、苦しみと悲しみなど様々な感情が飛び交う戦場の中、この場に居る誰もが、まるでそれを強制的に聞かされるかの如く耳にせずにはいられない「たんッ! たたんッ!」という軽快な音を弾ませて。


「時間がないですの! 姫華、頑張っちゃいますの!」


 白銀の鎧ドレスに身を包み、胸の前でギュッと両拳を握り締める姫華。


 

 勇者姫、ここに見参!

 今まさに『勇者姫・鳳凰寺姫華』の無双が始まろうとしていました。


 

 ※※※※※



 突然ですが、『強者の世界』というものをご存知でしょうか?


 これは何も技やスキルといったものではありません。

 当然、神から与えられし神秘の力である『加護』のことでもありません。


 ───強者の世界───


 それは強者だけが知る世界。

 それは強者だけが存在を許された世界。


 まさにそういった世界のことを、そういった状況や状態のことを、総称して『強者の世界』と言い表したりします。


 私はそれをいつも間近で見てきました。

 本当の『強者の世界』とはどういったものなのかを、姫華の側で。



 そして、それは今も───。



 ※※※※※



 姫華が戦場に降り立ったことで世界が一変しました。

 先程までは怒号と殺気が入り交じっていましたが、今では静寂がこの場を支配しています。


「「「......」」」

「「「......」」」


 魔物と冒険者、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()固唾を飲んで見守る中、姫華が口を開きました。


「加勢しますの。冒険者(みな)さんは休憩していてくださいですの」

「「「......」」」

「「「......」」」


 魔物はともかく、声を上げることができない冒険者一同。

 その表情には疲れと驚きの色がありありと見てとれます。


 そもそも、押し寄せてきている魔物の数はざっと見ても数万匹以上です。


 それを「冒険者(みな)さんは休憩していてくださいですの」などと、まるで「この場を一人でなんとかするつもりだ」みたいなことを言われようものなら、それこそ冒険者の方でなくとも「いきなり現れておいて、この小娘は何を言ってるんだ?」と困惑してしまうことでしょう。


 特に姫華の戦いは瞬く間に終わることが多いですので、姫華の顔が冒険者にはあまり知られていないという弊害も相まって───。


「「「......」」」

「「「......」」」


 ですが、いつまで経っても、この場に居る冒険者の誰もが異を唱えずにいるのです。

 いえ、正確には異を唱えることができずにいるのです。


 だって、姫華とは立っている舞台(せかい)そのものが全く違うのですから───。

 

「では、正義を執行しますの」


 姫華が()()()()構えました。

 自然体で瞑目し、刀は鞘に収めたまま帯刀、(つか)(つば)には手を掛けた状態で。


 その姿は自然と同化し、心はさらさらと流れる水のように落ち着いてさえいます。

 姫華曰く、これを【天道一心流・泰堂流水(たいどうりゅうすい)の構え】とか言うそうです。


 正直、武道(?)にはあまり詳しくはありませんので、よく分かりません。

 ただ、なんとなくすごい技術だということは辛うじて理解できます。


 そして、そんなすごい技術とともに鳴る一つの鈴の音。


───しゃんッ!


 それは、姫華の戦装束である白銀の鎧ドレスの上に羽織っている、(私がプレゼントした)淡いピンク色のショートケープに付いている鈴の音です。


「「「......」」」

「「「......」」」


 当然、何の変哲もないただの鈴の音です。

 ですが、誰も彼もが、その鈴の音に聞き入っているかのようです。


 そして───。


「滅、ですの」


───チンッ!


 姫華の神速の抜刀術【天道一心流・陽炎(かげろう)】(私には全く見えていません!)が炸裂です!


───ドンッ!


「「「───、───、───!」」」

「「「!!?」」」


 声なき声で懸命に断末魔を上げるも、言葉すらも奪われた魔物達。

 あまりにも凄まじい光景に、驚きの声を上げることすらもできない冒険者一同。


「チンッ!」という納刀の音と、「ドンッ!」という剣閃による衝撃音の2つで戦場が様変わりしました。


 具体的には、『姫華の前に立っていた全ての魔物が冗談であるかのようにふっ飛んでいき、陽炎という名に相応しい現象(=まるで、元々そこにいたのが幻であったかのような現象)が起こって、魔物達が目の前から霧散した』といった感じでしょうか?


 当然、相手は巷で話題の死骸兵です。

 いくら勇者姫・姫華であろうとも滅することは叶いません。


 ですが、目に見えないレベルで細切りにすることで、死骸兵の復元を大幅に遅らせることができるのです


 だから霧散。

 故に霧散という言葉が相応しい状況説明なのです。


 そういう意味では、姫華の神速の抜刀術【天道一心流・陽炎(かげろう)】は、対死骸兵においては最も有効的かつ最強の一手でもあると言えるでしょう。


 そして、この「しゃんッ!」・「チンッ!」・「ドンッ!」の3つの音だけが、姫華の展開する『強者の世界』で唯一許された音であり、唯一許された行動でもあるのです。


「さて、どんどんいきますの!」


 目の前の成果には一切目もくれずに後処理を開始する姫華。


「「「......」」」

「「「......」」」


 そんな姫華を唖然とした様子で見守る、冒険者一同と(姫華の)左右に展開していた魔物達。


 後2振り、もしくは3振りほどで、ここも間もなく終戦となることでしょう。

 となると、ここは姫華に任せて、私は私でするべきことがあります。


「トライアングルさん、(正統)勇者の居る場所までお願いできますか?」

『お任せください、勇者姫様(マイ・プリンセス)()恋人殿(ラバー)

「いえ、私は姫華の恋人ではなく盟友......親友なんですけどね?」

勇者姫様(マイ・プリンセス)()恋人殿(ラバー)、どちらも同じことです』

「あ、あの、全然同じじゃないですよ?」


 当然、姫華のことは好き(限りなくLOVE寄りのLIKE)です。

 ですが、私は真性の姫華とは違って、普通に男性に興味があるので全く違います。


(私は女の子が好きなんじゃなくて、姫華が好きなんです。姫華には悪いですが、同類だと思われるのは心外です。そりゃあ、私だって年頃の乙女ですから? 色々と興味だって......ごにょごにょごにょ)



 その後、私は戦場で待機していた正統勇者に別の場所へ赴くよう指示を出し、現地の指揮官にも軽く挨拶を済ませることにしました。戦場で負傷した方々の治療も兼ねて。


 いくら手助けしたとは言え、戦場を乱したお詫びは必要ですよね。国家間の信用の為にも。

 まぁ、現地の指揮官が男性だったので、かなり緊張はしましたが......。


 それでも、戦場は姫華、後方支援及び事務処理は私、いつものことです。


「完・全・勝・利、ですの!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」

「「「俺達の勝利だ! えい、えい、おー! えい、えい、おー!」」」


 私が指示と挨拶、治療を終えた頃、大歓声に包まれた姫華が戻ってきました。

 傷一つ負うことなく、血飛沫一つ浴びることもなく、凛々しくも美しい姿のままで。


「「「嬢ちゃん、すごいな! 助かったぜ! 本当にありがとう!」」」

「「「バ、バカ! この方はあの勇者姫様だぞ! 無礼にもほどがある!」」」

「「「こ、この嬢ちゃんが、あの勇者姫様!? ど、道理でつえぇ訳だ......」」」

「「「勇者姫! 勇者姫! 勇者姫! 勇者姫! 勇者姫! 勇者姫!」」」

「「「おいおい。勇者姫様が居るってことは......もしかしたら聖女様もか!?」」」


 ですが、さすがに冒険者の中には姫華の正体を知る者も多少なりとも居るようです。

 そして、なぜか私の存在を確認しだす者もちらほらと......。


(こ、このままでは......思った以上に時間を取られてしまう事態になりかねません)


 ここは、あくまで『ついでに立ち寄った』だけなのです。

 私達の本当の目的は竜殺し様に早急にお会いすることなのですから。


「姫華、ここでの用事は全て終わらせました。先を急ぎましょう」

「さすが文乃ですの! 頼りになりますの!」


 結局、私と姫華は逃げるようにして戦場を後にしました。

 大歓声と惜しむ声を背中に一身に浴びながら。



 こうして、また一つ『勇者姫・鳳凰寺姫華』の輝かしい物語が人々の心に刻み込まれたことでしょう。

 そして、それが私の自慢になったことは言うまでもありません。



「そう言えば、挨拶を行った際に竜殺し様の新たな情報を得ました」

「なんですの?」

「竜殺し様もまた、姫華同様魔物の大軍勢を見事撃ち破ったとか。それも自主的に、らしいです」


 さすがに50万撃破というのは誇張だと思いますが......。

 もしかしたら、私のようにレベル4の魔法を使えるお方という線もあり得ます。


 となると、これは是が非でもこちらの陣営に引き入れないといけません。

 仮に竜殺し様が魔勇者の手に堕ちたとなれば、その被害は想像を絶することになるでしょうから。


「いいですの! いいですの! ますます好ましいお方ですの! ぜひ姫華の力になって欲しいですの! それで、その竜殺しさんは今どこにいるんですの?」

「カルディア王国です」

「お隣ですの? それはありがたいですの! トライアングル、カルディアに向かうですの!」

『仰せのままに。勇者姫様(マイ・プリンセス)


 どこまでも続く広くて蒼い澄み渡る大空を、「我は天空の支配者なり!」とでも言いたげに我が物顔で悠然と飛翔する姫華の愛天馬(ペガサス)・トライアングル。



 一路、カルディア王国へ!

 今、私達と竜殺し様の距離はぐんぐんと加速的に縮まっていきます。





 今日のひとこま


 ~肌を見せないでください!~


「ねぇ、姫華。いくら正式な戦装束とは言え、肌を露出し過ぎではないですか?」

「そうなんですの?」

「もっとこう、淑女たる振舞いを心掛ける必要があると思うんです」

「でも、姫華は結構気に入ってますの。かわいい───」


「かわいいで許されるものではありません。特に肩! モロ出しじゃないですか! はしたない!!」

「ほ、他の勇者さんのほうが、姫華よりも出てると思うんですの......」

「皆が乱れ過ぎているだけです。姫華にはああなって欲しくはありません」

「じゃー、どうしたらいいですの? マントは邪魔で鬱陶しいですの」


「そんなこともあろうかと作っておきました。はい、これ」

「文乃の手作りですの!?」

「一応......。すいません。私不器用なので、姫華のように上手くは作れませんでした」

「そんなことないですの! 文乃ありがとうですの! 一生ものの宝にしますの!」


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