第228歩目 ジェットストリーム〇〇〇!?
前回までのあらすじ
きんたまー(。´・ω・)?
「いやー、これだけの大軍ともなると壮観だなぁ......」
「あーははははは! まるでゴミのようだねー(o゜ω゜o)」
俺の首にぶら下がって、某悪役のようなゲス顔で大笑いしているアテナに、俺は「はいはい、アテナ大佐、アテナ大佐」と投げやりな言葉を叩き付けた。
智慧の女神(笑)らしく、しょうもない知識だけはあるようだ。
「にへへー! ありがとー(*´∀`*)」
「いや、誉めてないからな?」
「なんかー、天空の城創りたくなっちゃうよねー(〃ω〃)」
「ならねぇよ!......というか、創るなよ? いいか、絶対に創るなよ?」
「わーかってるってー! そーいう振りなんでしょー?( ´∀` )」
「振りじゃねぇよ! 絶対にやめろ!!」
いくらオリンポス12神の1柱とは言え、アテナごときが天空の城を創れるとは到底思えない。
しかし、ニケさんやヘカテー様ならば容易く創れそうだから本当に困る。
アテナの「お願ーい( ´∀` )」攻撃の前には、二人共無力に等しいのだから......。
「じゃー、創らなーいヽ(o・`3・o)ノ」
「......」
「どうぞどうぞはー!? Σ(・ω・*ノ)ノ」
「振りじゃねぇって言ってんだろ!」
雲霞の如く押し寄せる魔物の大軍を前に、俺とアテナのコントはしばらく続いていく。
※※※※※
時は少し前に遡る。
作戦会議は驚くほどに意外なものだった。
要点をまとめると───。
①魔物の大軍が攻めてきた。
②数はなんとなくだが、いつもよりも多いかも?
③とにかく精一杯頑張ろう。
④敵の指揮官は俺に任せた。
と、いったものだ。
つまり、作戦会議ですらなかった、ということである。
「いやいやいや。いくらなんでも、これは酷すぎませんか?」
なんか思っていた作戦会議とは全く違う。
俺が知る戦の作戦会議とはこういうものじゃない気がする。
まぁ、雰囲気だけは十分緊迫していて重厚なものではあるけれどさ?
「と言いますと?」
「せめて、押し寄せてきた魔物の数ぐらいは把握していませんと......」
「これは異なことを仰せられますな。そんなもの分かるはずがありませんよ」
「......え? 斥候隊とか出されていないんですか?」
「もちろん、出していたからこそ襲撃を知ることができたのですが?」
「ん?」
どうにも副都督との話が噛み合わない。
斥候隊を出していたというのなら、数の把握ぐらいは可能なのではないだろうか。
(それが「なんとなくだが、いつもよりも多いかも?」とか、どういうことだ?)
よく戦ものの漫画や小説などでは、「2000の軍勢が攻めてきました!」みたいな報告が斥候隊からもたらされるものなのだが......。
「えっと......いつもはどれほどの数が?」
「とにかく多いです。大地を埋め尽くすほどの数です」
「いや、そういうことではなくてですね。具体的な数を......」
「それは分かりません。確認のしようがありませんからね」
「んん?」
本当に意味が分からない。
副都督は何を言っているのだろうか。
押し寄せてきた魔物の数が分からなければ、作戦を立てようにも立てられないと思うのだが......。
「竜殺し様、いかがなされました?」
「......」
しかし、副都督のほうも、そんな俺の様子を見て困り顔だ。
───ざわざわざわ。
───ざわざわざわ。
いや、よく見ると、一部を除いてみんなが俺を見つめている。
まるで「何を言ってるんだ、こいつは?」みたいな、常識を疑うといった表情を添えて。
(......え? 俺がおかしいのか?)
正直、予想すらしていなかった展開に戸惑ってしまった。
「責められるべきは仕事をしていない斥候なのでは?」と、陣営を中心に叫びたくもあった。
そんな戸惑っている俺に、膝上から救いの手が差し伸べられる。
「ねーねー(o゜ω゜o)」
「ど、どうした?」
「歩はさー、見ただけで正確な数がわかるのー(。´・ω・)?」
「!?」
まさに青天の霹靂だった。
考えもしなかったことを指摘されて、雷を体に浴びた衝撃を受けた気分だ。
確かにアテナの言う通り、見ただけで正確な数の把握など至難の技である。
これが、きっちりと四角型の隊列を組んで綺麗に前進しているというのならともかく......。
(さすがにそれはないよなぁ)
となると、正直な話、100ですら把握するのは難しい。
それが、大地を埋め尽くすほどの大軍ともなると、最早不可能に近い。
「あれ? でも、漫画や小説などでは───」
「それ、作りものじゃーんΣヾ(´∀`*」
「いやいや! 実際は慣れや経験とかもあるだろうしさ!」
「そもそもさー、そんな大軍を見る機会なんてそーそーないでしょーヽ(o・`3・o)ノ」
「妙にリアル!? じゃ、じゃー、昔の人はどうしていたんだ?」
「忍者や間者なんかで作戦内容でも盗み聞きしてたんでしょー! まー、それも怪しいもんだけどねー! あーははははは( ´∀` )」
「えー」
なんだか夢を壊されたというか、現実を突き付けられた気分だ。
少なくとも、斥候隊レベルが推し量れるようなものじゃないらしい。
それに、昔はほぼ全軍出撃していたのが普通なんだとか。
故に、出撃数の確認などはそう難しいものではなかったとのこと。
(......ということは、あれだな)
事ここに至っては認めざるを得ないだろう。
「......全て俺がおかしいんだな?」
「そだねー(・ω・´*)」
「ハァ..................」
「また一つ賢くなってー、良かったじゃーん( ´∀` )」
「......」
周りの、まるで俺を変人でも見るようかのような痛い視線に晒される中、アテナのフォローと言っていいかも分からない優しさに心が絆された瞬間だった。
───ぽふっ。ぽんぽん
「ありがとな?」
「にへへー(*´∀`*)」
頭をぽんぽんされたアテナは、いつものように八重歯を覗かせながらにぱー☆と微笑んだ。
(ちゃんとしてれば可愛い子なんだけどな~。胸大きいし)
とにかく、魔物の大軍が攻めてきた。詳細は不明。
そして、おかしいのは俺だったということが判明した。
(もう絶対に口を開かないからなッ!)
そう固く心に誓って、作戦会議を遣り過ごすことに決めたのだった。
※※※※※
当然、俺が口を開かない間にも作戦会議は続いていく。
というか、実際はご老人の寄合みたいに茶を呑んで寛いでいるだけなんですが!?
しかも、しかもだ!
「竜殺し様には正面から突っ込んで頂き、『紅蓮の蒼き戦斧』と『漆黒の疾き金鎌』、『白蓮の燃ゆる桃蕾』の各メンバーにはそのフォローをして頂く、ということでよろしいですかな?」
「異議なし」
「......了解」
「それでいいんじゃないかい?」
「いやいやいや! 作戦もクソもあったもんじゃないなッ!!」
ドールが聞いたら鼻で笑いそうなレベルのお粗末な作戦を敢行しようとする始末。
ここで勘違いしないで欲しいのだが、副都督が無能だという訳ではない。
現状で伝えられている情報量では、それぐらいの作戦しか立てようがないということだ。
(分かっている。分かってはいるんだけさ?......え? マジでこれでいくの?)
驚愕を禁じ得ない。
情報皆無での神風アタックとか、失敗する未来しか見えないんですけど?
「ちょっと、よろしいかな?」
そんな無謀ともいえる作戦会議の最中、今まで沈黙を保っていた”いかにも”といった風貌の人物達がようやく口を開くこととなった。
───ざわざわざわ。
───ざわざわざわ。
俺を除く、この場に居る全員が居住まいを正して傾聴している。
それを見ただけでも、この”いかにも”といった風貌の人物達が余程の大物なのは察しがつく。
(というか、こいつらはもしかして......)
いや、恐らくはそうなのだろう。【鑑定】を使うまでもない。
身に纏っている雰囲気が、あの人と非常にそっくりだ。
「さすがに、このままでは竜殺しも困ってしまうと思うのですよ」
「だよねぇ。こちらの最大戦力は竜殺しな訳だしさ」
「貴重な戦力こそ、ここぞという時の為に温存しておくべきですな」
もっと情報を揃える必要性があると訴える、”いかにも”といった風貌の三人組。
自信の表れか、その姿はまさに威風堂々。
着ているノーマルスーツともマッチしていて、無頼漢な風貌とは違ってどこか渋い。
いや、見た目からして40代っぽいし、カッコイイ親父達とでも言うべきか。
「副都督、彼らは?」
「ご紹介が遅れましたな。彼らは『紫の三連星』様で───」
「黒○三連星ー(。´・ω・)?」
「......紫な?」
色々と問題があるから、マジで止めて欲しい。
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『紫の三連星』
今は空席となっている元十傑の一人、第七席次の『キャリア・ザビ』の部下達。
主に偵察・通信・防衛に優れた加護を有していて、その力は裏方役に特化している。
偵察に優れた加護を有する『飛翔の勇者』であるガイヤ。
通信に優れた加護を有する『伝達の勇者』であるムッシュ。
防衛に優れた加護を有する『防壁の勇者』であるコルテガ。
第一席次である『鳳凰寺 姫華』より、「正義感に溢れ、義侠心に富み、貧しい者には優しいといった勇者の鑑でもある」と称賛された『キャリア・ザビ』こと『マザー・キャリア』の遺志をきちんと受け継いだ、正統勇者らしい正統勇者の三人組である。
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「此度の戦に参戦されるべく、シンフォニアから派遣されてきたとのことです」
「それはそれは......」
思った通り、どうりで身に纏う雰囲気がキャベツさんのそれに近いはずだ。
自信満々なところとか、高潔なところとか、そういうもの引っくるめて色々とな。
「して、『紫の三連星』様はいかがなされると?」
「竜殺しの懸念事項でもある情報を我らが調べるとしよう」
そう、したり顔で自信たっぷりに語るは『飛翔の勇者』こと、ガイヤさん。
その髭面の風貌は一見怖そうにも見えるが、仲間思いの頼れる親父だ。
状況判断に優れ、的確な指示を出せる『紫の三連星』のリーダーでもある。
「おぉ! それは助かりますな!......しかし、できますので?」
「なぁに、我らの力を持ってすれば容易いことだよねぇ、コルテガ?」
副都督の不安をピシャリと封殺したのは『伝達の勇者』こと、ムッシュさん。
栗毛に隻眼と、ガイヤさん同様風貌は怖そうに見えるが、大の子供好きだ。
何かと衝突することが多いガイヤさんとコルテガさんの仲を取り持つ『紫の三連星』の調整役でもある。
「いかにも。我らのジェットストリーム───」
「それ知ってるー! ジェットストリームアタ○クだよねー(o゜ω゜o)」
「本当にやめて!? 訴えられるから!」
「ご、ごほん。改めて......我らの【ジェットストリームディフェンス】は最強ですからな」
「あんまり変わってない!?」
アテナのジェットストリームアタ○ク発言に、俺と共に肝を冷やしているのは『防壁の勇者』こと、コルテガさん。
巨漢に面長といったどこかのほほんとした風貌だが、実は一番の熱血漢だ。
最善よりも正義を優先する為、常に冷静で最適な指示を出すガイヤさんとは衝突が多い『紫の三連星』の良心役でもある。
「その【ジェットストリームディフェンス】とやらがなんなのかは存じませんが、お力添え頂けるならこちらとしても大いに助かります。竜殺し様もそれでいいですかな?」
「えぇ。よろしく頼みます、『紫の三連星』の皆さん」
「「「うむ! 任された!」」」
こうして、『紫の三連星』に全てを任せて作戦会議という名の寄合は幕を閉じた。




