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歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~  作者: なつきいろ
第7章 躍進 -乙女豹アルテミス編-
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第224歩目 依頼からのけじめ!


 前回までのあらすじ


 かっけぇジジイなモートマ伯爵の依頼を受けた!



「準備ができたら迎えの者を寄越す」


 そう言われた俺達はモートマ伯爵邸を後にした。


 色々と準備をしないといけないのだろうが、俺達は何もしなくて良いそうだ。

 必要な物はモートマ伯爵のほうで全て揃えてくれるとのこと。


(まさに至れり尽くせりだなッ! 助かる!!)


 そうなると、迎えの者が来るまでは自由時間ということになる。

 自由時間がどれぐらいあるのかは分からないが、ここは有意義な時間を───。


「じゃー、フロッグ饅頭を買ってー( ´∀` )」

「そうなのだ! 買ってくれる約束なのだ!」


 案の定、有意義な時間を過ごせる訳がなかった。


「まだ食べるのかよ......。伯爵のところで、たくさん食べただろ?」

「ちがうよー? コンちゃんの分だよー(・ω・´*)」

「ド......ド......お姉ちゃんだけ食べてないのだ! かわいそうなのだ!」

「お前ら......」


 ちょっとジーンときた。

 血は繋がっていなくとも、姉妹は姉妹ということなんだろう。

 いまだすやすやと寝ているドールに、今の言葉を聞かせてやりたかった。


「分かった! ここはドールの為にも───」

「でねー、コンちゃんと一緒にフロッグ饅頭を食べるんだー(*´μ`*)」

「なのだ! みんなで食べるともーっとおいしくなるのだ!」

「お前らも食べるんかい!?」


 アテナとモリオン(の食い意地)は相変わらずだった。



 ※※※※※



 フロッグ饅頭を購入しつつ、俺は必要なことを順次済ませていった。

 冒険者ギルドへの顔出しと、ゲルゴナにおいての魔動駆輪の使用許可申請。


 それと、食料の買い出しなのだが───。


「......おい。ドールと一緒に食べるんじゃなかったのか?」

「もぐもぐもぐー!」

「むぐむぐむぐー!」

「食べながら話すな!」


 こいつら、「ドールへのお土産だ」とか言っていたくせに、早速食べてやがる。

 いや、確かにアテナ達も食べるとは言っていたが......。


「せめてドールと一緒に食べろよ」

「ケチケチしないのー! また買えばいいじゃなーい┐(´ー`)┌」

「アユム! アユム! また買ってくれるのだ!?」

「......」

「迷わず買いなよー! 買えば分かるさーo(≧∇≦)o」

「そうなのだ! ア......ア......お姉ちゃんの言う通りなのだ!」


 こいつらの魂胆は分かっている。

 フロッグ饅頭を新たに買わせて、またいけしゃあしゃあと食べる腹積もりなのだと。


(ドールをダシに使った無限ループじゃねぇか!)


 もはや我慢の限界だった。

 モリオンはアテナにのっかっているだけだろうが、アテナには明確な悪意がある。


「......そうか。そんなに饅頭が欲しいのか?」


 俺はソッと、アテナのもちもちな饅頭(ひだりほお)とモリオンのむにむにな饅頭(みぎほお)に手を添える。


「ふぇ?」

「のだ?」


───ぎゅむ!

───ぎゅむ!


 そして、力の限り饅頭(ほお)をつねった。


「誰も迷ってなんかいねぇんだよ!!」


 アテナは女神のワンピース効果があり、モリオンは竜族だ。

 例え、女の子であろうとも、手加減や遠慮する必要などどこにもない。


「ふぇぇえええ。ごめんなさーい(´;ω;`)」

「のだぁぁああ。ご、ごめんなさい、なのだ」


 駄女神とおバカが喘ぐ中、俺のおしおきは続いていった。



(駄女神饅頭とおバカ饅頭の出来上がり! おあがりよッ!!)



 ※※※※※

 


 そんなこんなで食料の買い出しも終えた俺は次なる目的地へと足を向けた。


 ちなみに、「買ってー! 買ってー!」と、ぎゃあぎゃあうるさいアテナとモリオンにフロッグ饅頭を追加購入したことは言うまでもないだろう。


「どこ行くのー(。´・ω・)?」

「神殿」

「なんで神殿なんかに行くのー?(・ω・´*)」

「なんかって......言葉に気を付けろ。神殿には治療の手伝いに行く。怪我の原因は俺達なんだしさ」


 けじめとして、モートマ伯爵の依頼は受けた。

 しかし、いまだ怪我が原因で苦しんでいる人々が居るのもこれまた事実。


 だったら、依頼とは別に治療の手伝いもするのは加害者としての義務である。

 特に、俺にはその力があるのだから尚更だ。


「じゃー、私はお風呂に入っていてもいいよねー( ´∀` )」

「おまっ!? ほ、本当に自由な奴だな」


 アテナは居ても居なくてもいいから別にいいんだけどさ?

 いや、むしろ居ないほうが治療が捗る可能性すらあり得る。


「我はどうすればいいのだ?」

「好きにしろ」

「じゃー、我はお昼寝するのだ!」

「......本当に自由だなぁ」


 まぁ、モリオンも居ても居なくてもいいから別にいいんだけどね?


 ・・・。


 神殿に着いた。

 神殿前には多くの人々が列をなして治療を今か今かと待っている。


「これ全てが治療待ちか......」


 ざっと見ただけでも100人以上は居るんじゃないだろうか。

 ちなみに、全員が全員、魔動駆輪暴走時の被害者という訳ではない。


「じゃー、行ってくる。サクラ、アテナ達のことを頼んだ」

「はぁい。ますたぁ、いってらっしゃぁい」


 魔動駆輪を神殿の脇に止め、俺は神殿長への挨拶にと向かう。


───ざわざわざわ。

───ざわざわざわ。

 

 諸悪の根源たる魔動駆輪が姿を見せても、人々からは嫌悪の視線を感じられない。

 きっと、冒険者ギルドへの顔出しと衛兵さん達の頑張りが功を奏した結果だろう。


「さぁて、いっちょやったりますか!」


 治療の手伝いを申し出ると、神殿長からは大変喜ばれた。

 なんでも魔物の襲撃が行われるようになってから怪我人が増加したとかなんとか。


 当たり前だと思うだろう?


 だが、魔物の被害で怪我人が増加した訳ではないらしい。

 いや、それ自体の被害も無くは無いらしいのだが、大元は別のところにあるらしい。


 俺は人々の治療をしつつ、同じく治療にあたっている神官の話に耳を傾けた。


「【ヒール】! いかがですか?」

「おぉ!? な、なんか元気になった!?」

「はい。怪我だけではなく衰弱状態も治ったと思います。今回は本当に申し訳ありませんでした」

「ありがたや~。ありがたや~」

「それ本当にやめて!?」


 まるで神にでも拝むかのように手を合わせて感謝する壮年の男性。


 いや、本当にそういうのは止めて欲しい。

 それに、あくまでけじめとして治療を行っているだけなのだから感謝される謂れはない。


「さすがは竜殺し様ですな」

「いえいえ。それで、怪我人が増えた原因とやらはなんなのですか?」

「......山賊です」

「山賊?」


 曰く、魔物の襲撃が行われるようになってから国内の治安が悪化したらしい。


 というのも、魔物の襲撃に対処する為に、多くの有能な冒険者が幾つかの都市に集中的に集められるようになったのが治安悪化の原因なんだとか。


「有能な冒険者の移動はそれだけでも治安の維持に役立っておりましたから」

「なるほど。そういう側面もあったんですね」


 一応、魔物の襲撃を担当していない冒険者達が巡回をしてはいるらしい。

 ただ、どうしてもランクの低い冒険者である以上、返り討ちにあうことも多いのだとか。


「どこの神殿も怪我人を多数抱えていて困っているという話です」

「それほどの状況なのですか!?」


「はい。ですので、竜殺し様がお手伝いして頂けると聞いた時には神に感謝を致しました。今日の素晴らしきご縁にありがとうございます、と」

「HAHAHA」


「大袈裟だとお思いですか? ですが、私達にもなにぶん魔力に限界があります。その結果、治療できない人々が出ていたことを考えれば感謝してもしきれないのです」


(あぁ、そういうことになるのか)


 先程、俺は調子に乗って状態異常も併せて回復してしまったが、怪我を治療するだけでも戦時下の人々にとってはとてもありがたいことなのかもしれない。


 となると、先程の壮年男性の感謝もあながち大袈裟ではないのだろう。


「つまり、神官さん達は毎日魔力が尽きる限界まで治療し続けていると?」

「それが我々の仕事ですから」

「しかも、無料で?」

「本当はお布施を頂くのですが......今は戦時下ですから」


 そう言って屈託なく笑う神官さんの笑顔には神が宿っていた。


 本当に頭の下がる思いだ。思わず拝みたくなった。

 何の役にも立たない『竜殺し』なんかよりも、よっぽど敬われて然るべき人達だと思う。


 そして、同時にこう思うようにもなった。


(この魔物の大軍勢による頻発的な襲撃の一件は、思った以上に根が深いんじゃないのか?)


 頻発的な魔物の襲撃による国力の低下は言うに及ばず。

 国際問題の危険性や治安の悪化、聖職者の人員不足などなど。

 下手したら、これらが切っ掛けで国民の不満が増大し、反乱が起きるなんてことも......。


(これら全てが偶発的に起こった......と考えるのはさすがにお気楽過ぎるよなぁ)


 俺は「ハァ..................」と大きい溜め息を一つ吐いた。


「さすがにお疲れですかな、竜殺し様?」

「あ、いえ、そういう訳じゃないんですけどね?」


 まだたかだか十数名程度しか視ていない。

 疲れたなんて言ってはいられないレベルだ。


「何かお悩みでしたらお話を聞きますよ。それも神官としての務めですから」

「ありがとうございます。でも、大丈夫ですから」


 まぁ、こちらにはその聖職者の頂点とも言うべき存在である女神様(笑)が居るんですけどね? 

 怪我や病で苦しんでいる人々を放っておいて、自分だけ優雅にお風呂を満喫している駄女神様(笑)が。


(ハァ..................)


 俺は再び心の中で大きい溜め息を一つ吐いた。


 正直、けじめとしてモートマ伯爵の依頼を意気揚々と受けたのは良いものの、襲撃の件の背後に見える不穏な動きを考えれば考える程に「少し早まったかな?」と後悔の念に駆られてしまう。


(ドールの存在って本当に貴重だよなぁ......)


 しみじみ思う。頼りになるドールに相談できないのは本当に痛い、と。

 なかなか臭そうな案件だけに、考えられる限りの可能性は知っておきたいものだ。


(しゃーない。一度引き受けた以上は仕方がないか)


 俺は自分にそう言い聞かせるように心を入れ換えて治療に専念することにした。

 それに神官さん達の頑張りもあって、治療待ちは後半数ぐらいだろうか。もう一息だ。


 とその時、不意に声が掛かる。


「もしかして、貴殿が噂の竜殺し様でしょうか?」


 声を掛かけてきたのは4人組のリーダーらしき青年だ。

 歳のほどは俺と同じぐらいで、やたらさわやかな笑顔を振りまいている好青年。


「そうですが......あなたたちは?」


 当然、知り合いでも何でもない。

 恐らくだが、『竜殺し』の信者(ファン)という訳でもなさそうだ......?


 となると、この人達はもしかしたら───。


「初めまして、竜殺し様。我らはSランク冒険者『紅蓮の蒼き戦斧』です」

「紅いのか蒼いのかどっち!?」


 随分とツッコミどころのあるPT名だな!


「それ、差別発言に繋がりますよ?」

「なんで!?」

「どちらの色をどう連想されても良いのですが、二色揃えることで男女平等なのです」

「意外と深かった!?」


 ここパルテールは完全に男女平等な世界。

 以前、ドールにも「女性を特別扱いするなッ!」と怒られたことがあったものだ。


 しかし、まさかPT名にも気を遣わないといけないとは......。


(め、めんどくせぇぇえええ!!)


「竜殺し様、お迎えにあがりました。ご同行をお願い致します」

「あッ。治療が済み次第でお願いします。お手伝いを申し出たものですから」



 その後、治療を終えた俺は『紅蓮の蒼き戦斧』の方々と共に、最前線のサーマルへと赴くことになった。

 



 次回、本編『嵐の前の静けさ』!


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