閑話 はじめての誕生日プレゼント!
8/5 世界観の世界編!に一部追記をしました。
追記箇所は、『種族紹介』の犬人族と猫人族・『兵士階級』となります。
『兵士階級』の追記位置は『爵位』の下となります。
□□□□ ~守るべき大切なもの~ □□□□
ご主人様とお別れしてから結構経ちました。
最初は大変だったお仕事も、今では大分慣れてきたと思います。
今は今で閉店後のお店の掃き掃除をしている最中です。
───きゅるるるる。
とその時、どこからともなく聞こえてくるかわいいお腹の虫。
「お姉ちゃん。お腹減った......二ャ」
「もう少しで夕飯にゃ。我慢するにゃ」
どうやらお腹の虫の正体は妹のねここでした。
この子は『ねここ』。
血は繋がってはいないけれど、私の守るべき大切な妹です。
元々、ねこことは同じ里の出身でした。
でした、と過去形になっているのは、もうその里は存在しないからです。
ある日、私達の里はハンターと呼ばれる人間達に襲撃されて壊滅。
多くの同胞が奴隷として捕まってしまいました。
私やねここもその内の一人です。
そして、捕まった私達は必要に応じて分類されていきました。
若い者や珍しい者は王都に送られ、その他の者は各都市へと送られていく。
当然、それによって、私やねここは親と強制的に別れさせられることになりました。
そこで、ねここの母親にこう頼まれたのです。
まだ幼いねここをよろしく頼みます、と。
幼い頃より実の姉妹のように共に過ごしてきたねここです。
それに、同胞であるねここの母親からの頼みでもあります。断れるはずがありませんでした。
だから、私にとってねここは守るべき大切な妹なのです。
ねここをいつまでも見守ること。
それが私の願いであり、ねここの母親と約束を交わした私の義務でもあるのです。
だから、ねここと一緒に購入してくれたご主人様には本当に感謝しています。
その上、ご主人様は人間族だというのに私やねここに対して殴ったりなどの酷いことは一切されず、きれいな服やおいしい食事を与えてくれるといった、まるで一人の人間のように扱ってくれる破格の待遇まで......。
ご主人様には感謝してもしきれません。
本当に良いご主人様に購入されたと思っています。
故に、ご主人様には精一杯恩返しをしようと思います。
そして、私ができる精一杯の恩返し。
それは私やねここに与えられたお仕事である『お店のお手伝いをすること』。
これを精一杯頑張ろうと思います。
「ほら、頑張るにゃ。後もう少しにゃ」
「もうダメ......ニャ。お腹が減って動けない......ニャ」
「そんなことないにゃ。いつも同じこと言ってるにゃ」
「本当にもうダメ......ニャ。後はお姉ちゃんに任せる......ニャ」
手に持っている箒にもたれ掛かって、ようやく立っているといった感じのねここ。
このままでは食べ物と勘違いして、箒にかじりついてしまわないか心配になります。
「ハァ......。分かったにゃ。後はお姉ちゃんに任せるにゃ」
「わーい! お姉ちゃん、ありがと......ニャ!」
手に持っている箒を掲げ嬉しそうに万歳するねここ。
「ほら! 動いてるにゃ!!」
「ニャニャ!?」
もう、この子ったら......。
今日も私は妹であるねここの分まで一生懸命働きます。
□□□□ ~頑張れ! セラフィナイト様!~ □□□□
「ふ、ふた、二人ともちょっと来てくださいでしゅ」
夕飯の片付け後、私とねここはセラフィナイト様に付いて来るよう言われました。
今や王都一の武器鍛冶師である『セラフィナイト』様。
このお方はご主人様の武器の専属マイスターであり、吃音という日常生活すらも支障をきたす大病に患われているとかなんとかで、ご主人様が特に気に掛けておられるお方でもあります。
そして、私とねここを一人の人間として雇ってくれているお方でもあるのです。
私とねここのお仕事は、そんなセラフィナイト様のお店のお手伝いをすること。
それがご主人様ひいては雇い主であるセラフィナイト様への恩返しに繋がっていきます。
さて、そんな雇い主であるセラフィナイト様が私とねここに用があるようです。
セラフィナイト様とは普段なにげなく会話する程度で特に親しい関係を築いている訳ではないのですが、それでもセラフィナイト様の奴隷であるエルフさんと同じく遜色ない扱いをして頂いております。
故に、私とねここにとって何か良いことなのは間違いないでしょう。
(それにしても......私とねここになんの用にゃ?)
お給金はこの間貰ったばかりですし......。ちょっと思い当たる節がありません。
でも、ご主人様同様にお優しいセラフィナイト様のことです。ちょっとわくわくします。
「は、はい、入ってくださいでしゅ」
さて、セラフィナイト様に促されるまま部屋に入りますと、そこにはエルフさんの姿も。
「み、みん、みんな、揃ったでしゅね?」
「はい」
「はいにゃ」
「はい......ニャ」
一様に頷く私達を見て、にっこりと微笑むセラフィナイト様。
気のせいかもしれないですが、セラフィナイト様はどこか嬉しそう。
これは......余程何か良いことがあったに違いありません。期待値が増していきます。
「じ、じつ、実はお客さんから手紙が届いていたでしゅ」
「おぉ! セラフィナイト様、それはおめでとうございます。良かったですね」
「あ、あり、ありがとうございましゅでしゅ」
なるほど。
セラフィナイト様がご機嫌だった理由が分かりました。
数ヵ月に一度ですが、ご主人様からセラフィナイト様に届くお手紙。
どうやらそれが原因だったようです。
とは言え、武器も一緒に送られてくるので、メンテナンスが主な理由ではあるのですが......。
それでも、セラフィナイト様はいつも頬に手をあて「ほぅ......」と嬉しそうに溜め息を吐きながら、一言一句逃すまいと喰い入るように手紙を読んでいらっしゃいます。
それはまるで恋する乙女のように。
いや、実際に、ご主人様に気があるのは間違いないのでしょう。
セラフィナイト様の様子を見ていれば誰だって分かります。
「セラフィナイト様からも、手紙をもっと送られてはいかがでしょうか?」
「で、で、でしゅが......。な、なに、何を書いたらいいのか分からないでしゅ」
「なんでもいいんですよ。たわいないことでもなんでも書いたらいいんです」
「そ、そう、そうなんでしゅか?......お、お、お客さんの迷惑にならないでしゅか?」
「内容なんかどうでもいいんです。セラフィナイト様が手紙を送られることに意味があるのです。......竜殺し様のことがお好きならもっと積極的にいきませんと!」
ボフッと音をたてて真っ赤になっているセラフィナイト様と、そんなセラフィナイト様にもっとグイグイいくよう発破をかけている同僚のエルフさん。
エルフさんの気持ちも分からなくはありません。
優しい主人であるセラフィナイト様に、少しでも恩を返そうと思っているのでしょう。
そして、その主たるものとして、ご主人様との仲を取り持とうとしている、と。
セラフィナイト様がご主人様に気があるのは明らかです。
ですが、セラフィナイト様はあまりにも消極的過ぎます。
例えるのなら......物陰からこっそりと、ご主人様の様子を窺っているだけのようなもの。
そんなことではいつまで経っても恋は成就するはずがありません。
ご主人様とセラフィナイト様は現在一緒にいらっしゃらない訳なのですから。
(エルフさんの言う通りにゃ! セラフィナイト様はもっと積極的にいくべきなのにゃ!!)
......っと、私もついつい熱くなってしまいました。
でも、仕方がないですよね?
だって、私は───。
「......お姉ちゃん。結局、ねここはなんで呼ばれた......ニャ?」
「もう少し待つにゃ。きっと何かあるはずなのにゃ」
どうやら、セラフィナイト様の事情を知らないねここにはちょっと退屈だったみたいです。
それに夕飯後ということもあってか、眼をコシコシとこすって眠そうでもあります。
(......花より団子なんて、ねここはまだまだ子供にゃ)
「......ニャ......ニャ......ニャ」
既に夢の彼方へと舟を漕ぎつつあるねここ。
「ねここ、ここで寝るんじゃないにゃ」
「......ニャ?」
「わざわざ呼んで頂いたセラフィナイト様に失礼にゃ。もう少し頑張るにゃ」
「......もう眠い......ニャ」
そんなねここに喝を入れつつ、私はセラフィナイト様とエルフさんのほのぼのとした主従のやりとりを邪魔することもなくただただ見つめていました。
ご主人様に恋する者同士、セラフィナイト様にはぜひ頑張って欲しいところです。
□□□□ ~あれから1年~ □□□□
さて、眠そうにしているねここに気付いたセラフィナイト様はあわあわと慌てふためきながら、早々に本題に入ってくれることになりました。
(......と言うか、本当に申し訳ないですにゃ。妹のねここがご迷惑をかけますにゃ)
「て、てが、手紙なんでしゅが、ボ、ボ、ボクだけじゃなく、ね、ねこ、ねこみさん達にも来ていたんでしゅ」
「!?」
「......ニャ? お姉ちゃん、どういうこと......ニャ?」
妹のねここが疑問に思うのも無理はありません。
ご主人様から私やねここ宛てにお手紙が届いたのはこれが初めてだからです。
(それにしても......ご主人様はどういう心境の変化にゃ?)
いつもはセラフィナイト様宛てのお手紙に、私やねここの様子を尋ねる旨が少しだけ記載してあるぐらいなんですが......。
「セラフィナイト様、お願いしますにゃ」
とりあえず、セラフィナイト様にご主人様のお手紙を読んでもらうことにしました。
そうそう。私もねここも話せはしますが、読み書きは全くできないんですよ。
里の者でも読み書きができたのは長老と極少数の者だけで教わったことはないですから。
「わ、わか、分かったでしゅ。『こうしてお前達に手紙を送るのは初めてだな。とりあえず、元気にしているか?』」
「ねここは元気元気......ニャ!」
「ね、ねこ、ねここちゃんはいつも元気でしゅね」
「そうですね。ねここさんを見ていると癒されます」
ご主人様の手紙の内容に「はーい......ニャ!」と元気良く手を上げて反応するねここ。
そんなねここを見て、目を細めながらほっこりとしているセラフィナイト様とエルフさん。
まぁ、元気なところと素直なところが、ねここの良いところでもありますしね......。
「つ、つづ、続けるでしゅ。『ナイトさんからは、お前達が良く働く働き者だと聞いていてるぞ。俺が居なくてもちゃんと言ったことを守っているなんて偉いじゃないか』」
「ご、ご主人様に誉められた......ニャ! ねここは偉い......ニャ!」
「何言ってるのにゃ! 頑張っているのはお姉ちゃんにゃ!」
「そんなことない......ニャ! ねここはお姉ちゃんよりも頑張っている......ニャ!」
「ねここは掃き掃除をサボっていたにゃ!」
「まあまあ。二人とも同じぐらい頑張っていますよ」
そんなことはないですよ、エルフさん!
どう見ても、私のほうがねここよりも頑張っているじゃないですか!
とは言え、ねここも頑張っているのは確かですが......。
姉として大人げないのは分かっています。
それでも、同じ頑張りだと評価されるのはなんだか釈然としません。
そこに降りかかる鶴の一声。
「け、けん、喧嘩しゅるなら、も、も、もう読まないでしゅよ?」
「......申し訳ありませんにゃ」
「......ごめんなさい......ニャ」
私とねここの様子を見て、うんうんと満足げに頷いた後「や、や、やっぱり姉妹は仲良しが一番でしゅ」と、そう仰られたセラフィナイト様は再びご主人様のお手紙を読み始めました。
「な、な、なになに......『思えば、お前達を購入してからもう1年以上が経つんだよな。その間、お前達の姉であるアテナ達には色々としてやってはいるんだが......お前達にはご主人様らしいことは何一つしてあげてないようにも思う。ナイトさんに任せっきりだしな。本当に済まない』」
そこまで読み上げると、セラフィナイト様は私とねここに向かってぺこりッとお辞儀を一つ。
「セラフィナイト様!?」
「にゃにゃ!?」
「ニャニャ!?」
突然の出来事に、私達は驚きの声を上げてしまいました。
そもそも、セラフィナイト様に謝られる......(?)謂れは全く無いのですが......。
と言うか、感謝の念でいっぱいなんですけどね?
「お、お、お客さんの気持ちを代弁していたら、つい......」
そう言って、たははと恥ずかしそうに笑いながら頬を掻いているセラフィナイト様。
(セラフィナイト様......)
ご主人様もご主人様ならば、セラフィナイト様もセラフィナイト様です。
私達奴隷に対して、どこまでこのお二人は人が良いと言いますかお優しいのでしょう。
ですが、ご主人様がご主人様で、雇い主がセラフィナイト様で本当に良かったと、心からそう思える瞬間でもありました。
「......私達は本当に幸せ者ですね」
「......全くその通りですにゃ」
「みーんな優しくて嬉しい......ニャ!」
本当に恵まれた環境であることに感謝しつつ、ご主人様のお手紙の続きを聞いていきます。
「え、え、えっと......『そこでだ。今回は特別なものを贈ることにした。ご褒美......というといつもと一緒だから、お前達の誕生日祝いということにしよう。お前達の生まれは分からないが、1年経っていることだし問題ないだろ? 気に入ってくれたら嬉しい。最後に、体を壊さないようにな。また手紙を送るよ』だそうでしゅ」
そして、セラフィナイト様より手渡されたのは・・・。
①今、セラフィナイト様より読み上げられた『ご主人様のお手紙』
②ご褒美といって、いつもご主人様より送られてくる少なくない『お小遣い』
③誕生日祝いということで贈られてきた『四角い箱』
の3つでした。
とりあえず、『ご主人様のお手紙』に関しては厳重に保管しなければなりませんので、私が責任を持って管理することにしました。ねここにも異存はないそうです。
と言うよりも、全く興味が無さそうです。まぁ、手紙は食べられないですしね......。
ただ、私に宛てたご主人様からの初めてのお手紙というだけで、その付加価値は計り知れないものがあります。命とねここ、ご主人様の次ぐらいには大切なものです。
次に、『お小遣い』に関しては───。
「い、いつ、いつもよりも多いでしゅね」
手渡されたのは、いつもの金貨よりも更にキンキンに輝いている見たこともないお金。
そのお金には変なおじさんの絵が描かれていて、お金自体もずっしりと重い気がします。
いや、本当に、このお金はなんなんでしょうか?
「お姉ちゃん、このお金はなんなの......ニャ?」
「......お姉ちゃんも知らないにゃ」
「お、お、お客さんの金銭感覚を疑うでしゅ......」
ただ、セラフィナイト様の口ぶりから、この見たこともないお金がいつも送られてくる金貨よりも更にすごいものだということはなんとなくですが理解できました。
「良かったですね。ねこみさん、ねここさん」
「あ、あな、あなたの分もあるでしゅよ? 『ねこみやねここがいつも世話になっている。少ないけれど、これは礼だ』だそうでしゅ」
「えぇ!? わ、私の分もですか!?」
「良かったですね、エルフさん」
なんという心憎い演出。
さすがは私のご主人様です。
(......いつの間にか、こういう心配りもできるようになったのにゃ)
そして、エルフさんにも私とねここと同じお金が渡されました。
それを見て、腰を抜かさんばかりに驚き慌てているエルフさん。
(これは......もしかして、このお金を知っているのにゃ?)
高価なお金を渡されても、その価値が分からないとどうしようもありません。
セラフィナイト様に尋ねても良いのですが......エルフさんが知っているのなら話は早いです。
「こ、これは......『王金貨』ですよ」
『『王金貨』にゃ? それは金貨よりもすごいのにゃ?』
「すごいもなにも......金貨100枚分です。100万ルクアですよ」
「にゃにゃ!?」
100万ルクアといったら、いつもの10倍じゃないですか!
セラフィナイト様が金銭感覚を疑うといった訳がようやく分かった気がします。
いつもの10万ルクアでさえ奴隷という身分では破格だというのに、100万ルクアとは......。
こ、こんな大金を頂いてしまっても本当に良いのでしょうか?
「金貨100枚分......ニャ!? わーい! これでお肉食べ放題......ニャ!」
「価値を知って、この喜びよう......。ねここさんって、大物ですね......」
「......ねここは食い意地だけは一人前なんですにゃ」
王金貨を手に、一人喜びはしゃぐねここに呆れ果てた眼差しを向ける他はありませんでした。
・・・。
その後、ねここのお金に関しては私の管理下に置かれることが決まりました。
当然ですよね?
無駄遣いする未来がハッキリと見えている訳なのですから。
「安心するにゃ。『お母さん貯金』ならぬ『お姉ちゃん貯金』には絶対にしないにゃ」
「お姉ちゃんズルい......ニャ! ねここはお肉食べ放題をしたい......ニャ!」
あぁ、この子は欲望に正直過ぎる......。
きっと、お姉様の一人であるアテナお姉様の影響を強く受けているのかも。
アテナお姉様は私やねここをかわいがってくれてましたし。
「......貯金するのにゃ。もっと有意義にお金を使うのにゃ」
「じゃあ、お姉ちゃんは何に使う......ニャ?」
「お姉ちゃんは勉強にお金を使うのにゃ。読み書きできるようになるのにゃ」
これは前々から思っていたことです。
自分で読み書きができるようになれば、ご主人様にいつでも手紙を送れるようになります。
そればかりか、いつでもご主人様のお手紙を読み返すことができるようにもなりますしね。
その為には、本などを購入して勉強に励もうと思います。
ちなみに、セラフィナイト様やエルフさんに教わるという手もあるのですが、お二人方はなにかとお忙しい身であったりします。
セラフィナイト様は本業である鍛冶仕事が、エルフさんは私達の身を守る為、将来へ向けての準備の為、鍛練に勤しんでいたりします。
だから、可能な限りお手間を取らせないようにしたいのです。
「勉強でお腹は膨れない......ニャ! 勉強するならお肉をくれ......ニャ! 勉強するならお肉をくれ......ニャ!」
「ダメなものはダメなのにゃ!」
地団駄踏んで喚いているねここを一蹴して、この話は終わりにしました。
ねここの母親に頼まれた以上、私がねここの教育を責任持って見ないといけないですからね。
「......ニャニャー。お姉ちゃんは鬼畜......ニャー。お肉いっぱい食べないから、いつまで経ってもアテナお姉ちゃんのようになれない......ニャー」
「......ほほぅ? ねここ、いい度胸なのにゃ? 何を言いたいのかにゃ?」
「お姉ちゃんはいつまで経ってもぺったんこだと言っている......ニャ!」
「ねここもぺったんこにゃ! お姉ちゃんのこと言えないにゃ!」
「ねここはお姉ちゃんぐらいになったら、アテナお姉ちゃんのようになる......ニャ!」
「無理にゃ! 無理にゃ! ねここもお姉ちゃんのようにぺったんこにゃ!」
「......ニャー......ニャー......ニャー」
「......にゃー......にゃー......にゃー」
さて、いつまでもねここに合わせてバカ騒ぎをしている訳にはいきません。
それに、セラフィナイト様の私とねここを見つめる眼差しがやや鋭くなっていたような気もしましたので、ここは気を取り直して誕生日祝いで贈られてきた『四角い箱』に視線を飛ばしました。
触ってみると、なんだかひんやりしているような......?
「ほ、ほれ、保冷便でしゅか。た、たぶ、多分、た、たべ、食べ物でしゅよ」
「お肉......ニャ!?」
「ねここ、しつこいにゃ」
「この箱の大きさだと......お肉じゃないでしょう。仮にお肉だとしても相当小さいかと」
エルフさんの言う通り、箱自体はそこまで大きくはありません。
短剣が入るよりかは大きく、ロングソードが入るには小さい箱。
ショートソードがちょうど良いぐらいか、それでも少し大きいといったところでしょうか。
(この大きさだと......果物にゃ?)
とりあえず、開けてみれば分かるだろうということで、早速開けてみることに。
「では、セラフィナイト様。よろしくお願いしますにゃ」
「こ、これ、これはねこみちゃんとねここちゃんのものでしゅ。ふ、ふた、二人で開けるといいでしゅよ」
「セラフィナイト様......。ありがとうございますにゃ」
「ありがとうございます......ニャ!」
ねここと二人で手を掛け箱の蓋を開けると、ひんやりとした空気が一斉にぶわっと外に。
「にゃにゃ!?」
「ニャニャ!?」
そのあまりの冷たさに、思わず尻尾が縮こまってしまいました。
中を覗くと、白い煙のようなもやもやとしたものが箱の中に充満していて、それはまるで中にあるモノを包み隠すベールのよう。ちょっと神秘的だと思ってしまったのは内緒です。
そして、しばらくして姿を見せたそれは───。
『魚』
でした。
「「「「......」」」」
一同、唖然としていました。
いや、魚も食べ物と言えば食べ物ではありますが......。
(......えっと? なんで魚なのにゃ?)
そして、この沈黙を破ったのは、この状況下でなら当たり前の質問でした。
「え、え、えっと......ね、ねこ、ねこみちゃんとねここちゃんは魚が好きなんでしゅか?」
「これといって特には......ですにゃ」
「ねここは魚嫌い......ニャ。お肉のほうが好き......ニャ」
「どういうことなんでしょうか? これが二人への誕生日祝いなんですよね?」
みんなして、「うーん?」と頭を捻る始末。
それにしても、私とねここへの誕生日祝いが『魚』ですか。
これは......ご主人様からの何かしらのメッセージだとでも捉えるべき?
「も、もし、もしかしてでしゅが......」
すると、セラフィナイト様が何かを閃いたようです。
この中のメンツでは、ご主人様と一番付き合いが長いお方です。
ともすれば、ご主人様の狙いをいち早く察したのでしょう。さすがです。
「ね、ねこ、ねここちゃんの好き嫌いを無くしゅ目的でしゅかね?」
「なるほど。さすがはセラフィナイト様です。そうかもしれませんね」
「い、嫌......ニャ! 魚嫌い......ニャ! 食べたくない......ニャ!」
「ねここ、ご主人様の誕生日祝いなのにゃ。食べないことは許されないのにゃ」
「ニャニャァァアアアアア!」
こうして、ねここの断末魔が轟く中、ご主人様から頂いた誕生日祝いである『魚』は、セラフィナイト様の手によって見事なリゾットへと変貌することになりました。
(ご主人様、ごちそうさまにゃ。とてもおいしいお魚でしたにゃ。......だけど、次からはお肉でお願いしますにゃ)
これにて6章の全てのお話が終了となりました。
この後は恒例の『キャラクター紹介』と『キャラクターステータス』を掲載後、7章へと突入致します。
よろしくお願い致します。
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今日のひとこま
~なんで魚?~
「ほぅ。あやつらにも手紙を出すのかの?」
「まぁな。一応、俺はねこみ達の主人である訳だしな」
「ふむ。良い心掛けじゃの。主人が奴隷を想い、奴隷が主人に忠を尽くす。まさに主従関係においてあるべき姿なのじゃ」
「お、おぅ。そこまで大層な話になるとは思わなかったがな」
「......うむ? 王金貨とな? あやつらの小遣いにしては多過ぎではないか?」
「多いとは思う。だけど、お前達もそうだろ?」
「しかしのぅ。それでは姉妹のけじめがつかぬではないか」
「けじめよりも、みんな平等であるべきだ。納得できないなら選べ。0かみんな一緒か」
「ぐぬぬぬぬぬ。......まぁ、良いわ。小遣いが無いと着飾れぬしのぅ」
「いや、別に、ドールは着飾らなくても十分かわいいと思うけど?」
「じゃが、美しく着飾った妾を見たいであろう?」
「......ま、まぁ、見たくないと言えば嘘になるな」
「くふふ。主はもう妾に首ったけなのじゃな。良い、良いのじゃ」
「はいはい。首ったけ、首ったけ」
「っと。主よ、待つのじゃ」
「どうした?」
「何を送ろうとしておるのじゃ?」
「何って......魚だけど? あれ? 食べ物も送れたよな?」
「そういうことを言うておるのではない。なぜに魚なのじゃ、と問うておるのじゃ」
「はぁ? 猫と言えば魚だろ? ねこみ達がいくら猫の人獣とは言えさ」
「なんなのじゃ、その偏見は?」
「偏見......だと!? 犬は骨、猫は魚で、狐には油揚げ。もはや定番だろ!?」
「そんな訳なかろう。動物はどうか知らぬが、獣人は全く違うのじゃ。獣人の好物は基本的に肉じゃぞ?」
「そ、そんなバカな......。ちなみに、ドールは油揚げは嫌いなのか?」
「どっちかと言えば、好きなほうだがの?」
「......おぃ。結局、好きなんじゃねぇか!」
「どっちかと言えばなのじゃ。肉のほうが好きなのは変わらぬ」
「それはドールが、もしかしたら妖狐族が特別なんじゃないか?」
「なにをバカなことを......。疑うならトカゲにでも聞いたら良かろう?」
「なるほど。そうするかって......待て待て。モリオンは竜族であって獣人族じゃないだろ」
「竜族も獣人族も大して変わらぬ。尻尾があれば、みな獣人族なのじゃ」
「それはいくらなんでも極論だろ......」
「とりあえずの、あやつらは魚を好まぬと思う。特にねここはの」
「そんなの分からないだろ。肉が好きかもしれないが、魚も!ってこともあるだろうし」
「あやつはまだ子供じゃぞ? 魚を好むはずがなかろう」
「いやいや、子供って......。俺からしたらドールも子供だぞ?」
「なッ!? だ、誰が子供じゃ! 妾はもう子を為すことができるのじゃぞ!!」
「そういう意味じゃないんだよなぁ......。とりあえず魚は送ることにする」
「ふんッ! あやつらに何も分からぬ愚かな主人であると蔑まれるがよい!」
「そこまで言うか......。なんだ? ドールも俺をそう思っているのか?」
「そんな訳なかろう! 主は妾にとって最高の主なのじゃ! 妾を侮るでないわッ!!」
「お、おぅ。ありがとな。ドールも最高の奴隷だぞ?」
「ふ、ふんッ! 分かれば良いのじゃ!......ちなみに、最高というのは姉さまよりもであろうな?」
「それ、随分と久しぶりだよなぁ」
本当、こういうところは忠義バカというかかわいいというか。
とりあえず、ねこみ達が魚を喜んでくれたら嬉しいな。




