第213歩目 譲らないこだわり!彼女ニケ⑧
8/11 タイトルを変更しました。
(変更前)譲らないこだわり!彼女ニケ⑱ → (変更後)譲らないこだわり!彼女ニケ⑧
なお、本文の変更はございません。
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前回までのあらすじ
失敗ぐらいするよ、ニケさんだって。
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7/9 第212歩目の次回予告を修正しました。
修正前 『譲れないこだわり』 → 修正後 『譲らないこだわり』
よろしくお願いします。
□□□□ ~変わるものと変わらないもの~ □□□□
馬車に揺られること数十分、ようやく市街地へと戻ってきた。
冒険者ギルドにて依頼完了の報告を手短に済ませ、依頼達成報酬をいただくことにする。
今回の指名依頼報酬は【5000万ルクア】だった。
所持金:658,452,200ルクア【↑50,000,000ルクア】
うん。多いのか少ないのか全く分からん。
ただ、手持ちが少なくなってきていたので、これはこれでありがたいかも。
(案外、相場はこんなものなのかもしれないな)
ちなみに、指名依頼自体は今回で3度目となる。
但し、ちゃんとした指名依頼は今回が初めてだ。
1度目の指名依頼はナイトさんの王都行きの護衛で、報酬は武器のメンテナンス代(100万ルクア)の免除だった。
一応、それ以外にもお金が幾ばくか振り込まれていたが、それらはナイトさんとの酒代(旅お疲れ様会)にて全て消えたので実質0となる。
2度目の指名依頼はアニマールのたまちゃんから奴隷を王都まで護送する依頼で、報酬はアニマールでお世話になったこともあって男らしく断った。
一応、たまちゃんとちゅんから最高のおもてなし(内容は......言えません!)を受けたので、報酬を貰ったことになるのかもしれないが。HAHAHA。
(そう言えば、アニマールの支部が王都にもできたって風の噂で聞いたな。......旧都にもできないかな?)
理由は不明だが、嫌われものであった獣人族が、ここ最近ようやく日の目を浴びるようになってきたらしい。
当然、奴隷としての扱いはそうそう改善されるものではないが、アニマールを始め、獣人族というものが徐々に市民権を得つつあるという。
(うん。良い傾向だよな。世界が、人々が、変わり始めようとしているのかも)
なんて柄にもないことを考えていたら、現実に戻される内容を聞かされるはめに・・・。
「「微妙なところですね。通常の指名依頼であれば破格の報酬なのですが......。大貴族様からの指名依頼という点を鑑みますと、明らかに少ないと思います」」
「へー。そうなんですか。ちなみに、普通だといかほどに?」
「「私達の経験上ですと、貴族様は最低でも1億は出されます。ですので、大貴族様ともなればそれ以上かと」」
「お、おぅ......」
全然ありがたくもなかった!
と言うか、あのブタ貴族! 大貴族のくせにケチり過ぎでは!?
(いやさ? 指名依頼だし、断ることができなかったから仕方がないんだけどさ......)
でも、普通の貴族が1億出すところを、大貴族がその半分というのはさすがに酷い。
足元を見られ過ぎというか、なめられ過ぎというか、俺の中で貴族というものの価値が無価値になった瞬間だった。
(でも、あれか? ただの招待状だったことを考えれば、逆に5000万も貰えてラッキーと考えるべきなのか?)
いやいやいや。こういう、なんでも善意的に捉えてしまう平和ボケした日本人的思考が、貴族を増長させる原因に繋がるものなのかもしれない。
あくまで今回は依頼だったのだから、依頼内容うんぬんは置いといて毅然とした態度に出るべきだろう。まぁ、今更そうしたところでって話だが。
(ハァ......。もう二度と貴族なんかとは関わらないようにしよう)
そんなことを考えていたら、思わぬところから凄まじい怒気が発せられた。
「......ということは何ですか? あの貴族は歩様を謀った、そういうことですか?」
「ニケさん!?」
「......答えなさい。そこの受付嬢。そういうことなんですよね?」
「「ひ、ひぃ!? は、ははははいッ! そ、そういうことなんですッ!」」
「ちょっ!? ナシーネさん、ニシーネさん!? 今のニケさんにそんなことを言うと......」
「そうですか。私の歩様を謀ったのですか。そうですか」
ちらっと隣を見やると、そこには何やらぶつぶつと呟きながら能面の表情を浮かべているニケさんの姿が・・・。
(あー。これは怒ってますわー。今から何をしようとするのか丸わかりですわー)
俺はニケさんをソッと抱き締める。
止められるとは思わない。
だが、止めないといけない戦いが、そこにはある。
───ピクッ!
すると、ニケさんの体に反応あり。
どうやら、怒り心頭になっていたニケさんが現実に戻ってきたようだ。
───ぎゅッ!
俺は可能な限り精一杯ニケさんを抱き締める。
端から見ると情熱的なシーンの一幕に見える程に力強くしっかりと。
「歩様!?」
「......行かせませんよ?」
「歩様離してください! 貴族を始末できませんッ!!」
「S○月宮みたいなことを言わないでください!」
と言うか、俺を引き剥がそうと思えばいつでもできるというのに、一向にそれをしてこようとしないニケさん。その表情にはどこか笑みらしきものが・・・。
「離してくださいー(棒)」
「棒読み過ぎでしょ!?」
でも、そんな欲望丸出しなニケさんも、俺はかわいいと思ってしまった。
結局、世の中は徐々に変わりつつあるというのに、ニケさんは相変わらずなままだった。
いや、俺もニケさんのことを言えたものじゃないのかもしれないな。
□□□□ ~こだわりたいです!~ □□□□
「しょ、しょうがないですねー」
照れた表情で嬉しそうに微笑むニケさん。
勘違いしないでもらいたいのだが、別にそういう行為をお願いした訳ではない。
第一、そういうことをしたいのなら、目の前に彼女が居るのだから直接───って、俺は何を言っているんだ!?
とりあえず、ニケさんの意識をブタ貴族から俺に戻すことには成功した。
どうやったのかって?
そりゃあ、強権を発動させた訳ですよ。もうイチコロだったね。ハァ......。
そんなこんなでやっと落ち着いたニケさんとともに、俺はデートを始めることにした。
「───♪」
恋人繋ぎをしながら、俺の隣で楽しそうに歩くニケさん。
まだ何もしていない訳なのだが、ここまで楽しそうにされると俺も嬉しくなる。
「歩様。今からどちらに行かれるのですか?」
「ショッピングセンターに行こうかな、と。買いたいものもありますしね」
別に市街地のお店でも良かったのだが、敢えて品揃えの豊富さで決めさせてもらった。
買いたいものについては、料理中のニケさんを見て思い付いたものだ。
「あっ! でしたら、私も寄りたいところがあるのですが、よろしいですか?」
「珍しいですね。いいですよ。どこですか?」
「服を買える場所がいいですね」
「およ?」
奇しくも、目的地は同じ場合だったようだ。
(あれ? 俺が求めるものも服飾店にあるよな?)
・・・。
服飾店に着いた。
お店の雰囲気は日本のそれとあまり変わりがない。
モダンな雰囲気で、服にあまり興味のない俺にとっては居心地が悪いぐらいだ。
つまり、良いお店だということになる。
ただ、店内に入るや否や、スーツらしきものをビシッとした着込んだ店員さんが近寄ってきたところをみると、もしかしたら高級仕様のお店なのかもしれない。
(これは......入る店を間違えたか?)
それは今は置いとくとして・・・。
「さぁ! 早速選びましょうか!」
ニケさんのテンションと張り切りようが凄まじい。
まるで俺に良いところを見せようと、まるで汚名を注ごうと、躍起になっているようにも見える。
と言うか、事実そうなのだろう。
それと言うのも、俺とニケさんがショッピングセンターに到着した時、たまたまアテナ達と遭遇した。
とは言え、『デートはニケさんと二人きりで』と決めているので、俺がアテナ達と行動をともにすることはない。
ただ、丁度良かったので、指名依頼の結果を報告することにした。
と言うか、ドールが「報告せいッ!」とうるさかったので、報告せざるを得なかった。
すると、ニケさんが取った殺気は悪手だったことが判明。
結果、ニケさんはドールにぐちぐちぐちぐちと、お説教(?)嫌味(?)を散々言われてしまったという訳だ。
ただ・・・。
「ヘリオドール......恐ろしい子」
なんて言って、しょんぼりしていたニケさんは、もの珍しさとあまりのかわいさで一見の価値ありだった。
ちなみに、その様子をカメラでこっそりと撮影しようとしたら、烈火の如く怒られた。
(ううむ。さすがはニケさん。なかなかに鋭い。残念だ)
そんな訳もあって、異常なハイテンションで俺にあれこれと服を当てては、「うーん。イマイチですかね?」「歩様の魅力を最も引き立たせる為には......」とか言っちゃっているニケさん。
と言うか、なんで俺なの!?
「私がここに来たかった理由は『歩様のお召し物を選びたかったから』ですから」
「俺の、ですか?」
「はい。歩様は召喚されて以降、毎日同じものを着ておられますよね?」
俺が着ているのはトレーニングウェアだ。
趣味であるウォーキングの時にいつも着ていたやつだな。
そして、ニケさんの言う通り、俺は毎日同じトレーニングウェアを着続けている。
理由は単純だ。
【浄化魔法】で、いつでも新品同様になるからである。
それに、トレーニングウェアはいいぞ。
外行きの普段着としても違和感はないし、部屋着としても優秀だ。
更には寝間着にも利用できると、スウェットの上位互換版みたいなものだしな。
そもそも、トレーニングウェアで支障が出るのは、仕事と冠婚葬祭ぐらいなものである。
「そういう問題ではありません! それに雑誌にも書いてありましたよ!」
「な、何をですか?」
「『オシャレもデートを楽しむ為の重要なスパイスだ』、と! それとも───」
「?」
「歩様は私とのデートなんて楽しむつもりはないと、そうお考えなのですか?」
「うぐっ!?」
俺にそんなつもりは毛頭ない。
ただ、ニケさんがマジ泣きな様相を見せ始めたので、さすがに言葉に詰まった。
(......と言うか、ニケさんの言う通りなのかもしれないな)
考えてみたら、トレーニングウェアと着物のカップルとかミスマッチもいいところだ。
実際、異世界の人々が俺達を見てどう思っているのかは分からないが、普通を自称している身としては絶対に有り得ないものだと思う。
日本でそんなカップルを見たら思わず、「あれはないわー」と言ってしまうこと間違いなしである。
ちなみに、後日ドールにそのことを尋ねてみたら一言、「今まで気付かなんだとは......主は阿呆なのか?」とのこと。もうやめてくれ! 俺のライフはゼロだから!!
(うーん。ニケさんの着物に合う服となると......着物はないな。となると、背広か?)
あんまり趣味ではないが、この際背広の一つや二つぐらいは用意すべきだろう。
そうそう。日本に居た時の(トレーニングウェア以外での)普段着は、シャツにパンツスタイルだった。
余談だが、後輩である須藤さんが、俺のと全く同じデザインとサイズのトレーニングウェアや普段着を持っていたことを知った時は思わず、「すごいな......」と感心したものだ。
中には地元である茨城にしかないものや生産中止になっているものもあったことだし。
そんな訳で、覚悟を決めた俺はニケさんの着せ替え人形に徹することにした。
あれはダメ、これもダメ、と悩んでいるニケさんを見るのはまた乙なものだ。
そう思っていたのだが・・・。
「うん。これなんかかわいいですよね」
「ちょっと待った!」
「どうされました? かわいくないですか?」
「え? じょ、冗談ですよね?」
開いた口が塞がらない。
ニケさんが選んだのは、まさかのプリント付きのシャツだった。
背広とは全く対照的な、猫がドーンと中央に描かれたかわいいシャツ。
(いやいやいやいやいや。悪くはないし、かわいくもあるんだけどさ......)
その......なんというか意外過ぎるし、恥ずかしいったらありゃしない。
いくら猫好きの俺でも、これを着て外を堂々と歩くにはハードルが高すぎる。
「そうですか? アテナ様やモリオンなんかは喜びそうですが......」
「基準おかしくないですか!? いや、確かに喜びそうではありますが......」
確かにアテナやモリオンは喜ぶと思う。ヘカテー様も喜ぶかも?
ドールはどうだろうか? 「ふん!」と呆れられたように鼻で笑われる可能性が......。
「それに雑誌にはこうも書かれていましたよ?」
「な、なんですか?」
「『かわいいは正義』、と」
「それ、女性に対してですからね!?」
いや、間違ってはいないが、男の場合はショタに限るとの注釈が必要なのではないだろうか。
少なくとも、成人した男性が『かわいいは正義』を体現していたら、俺は目を背けると思う。
そういう趣味の人を否定するつもりはないが、俺は......ごめんなさい!
「そうですか......。歩様がそこまで嫌だというのなら諦めます」
「うぐっ!?......で、では、ペアルックでどうでしょうか? 外行きというよりかは部屋───」
「なるほど。一緒なら恥ずかしくないと......。それは名案です。さすがは歩様ですね!」
「あ、あの、聞いています? ペアルックはあくまで部屋着で───」
「では、さっそく着替えて参ります。歩様もこちらをどうぞ」
「えー......」
嬉しそうに試着室に駆け込んでいくニケさん。
その後ろ姿を、俺はただただ見送る他はなかった。
───数分後。
「ふふっ。こういうのも存外良いものですね」
「ソ、ソウデスネ」
そこには、『かわいいは正義』を体現化した一組のバカップルが誕生しましたとさ。
次回、本編『譲れないこだわり』!
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今日のひとこま
~ニケの悪手~
「殺気を放った、じゃと?」
「そうです。なかなか勇者が動きませんでしたからね。こちらから動くよう仕掛けた訳です」
「俺もニケさんの策はなかなかなものだと思うぞ。できる範囲ではベストかもな」
「ハァ......。やれやれなのじゃ。主もニケ様も考えが足らぬ」
「ほう?......ヘリオドール。どういうことですか?」
「ニケさん、落ち着いてください!」
「殺気を受けた魔勇者がどう感じるか、よくよく考えてみよ」
「本気ではないとは言え、ニケさんの殺気だしなぁ。......怖い、とかか?」
「まぁ、そう感じるであろうな。ならば、魔勇者がその後取る行動も分かるというもの」
「恐怖に駆られたのあれば、仲間と合流するのでは? 助けを求める為にも」
「俺もそう思うけど......。違うのか?」
「違うであろうな。貴族のバカどもをわざわざ利用する小賢しい者なのじゃぞ? 妾ならば逆に警戒して仲間の元には行かぬな。殺気を放れたということは、己の動向が筒抜けであると考えるものじゃ」
「!!」
「あー。なるほど。そうも考えられるのか」
「と言うかの。ニケ様はなぜ殺気を放ったのじゃ?」
「!?」
「どういうことだ?」
「仲間と連絡を取る手段ならばいくらでもある」
「伝書バトみたいなやつだな」
「それに、真っ先に向かった場所が一時的な潜伏場所だと言うのなら、他の連絡手段を用意していた可能性は高いと見るべきじゃ」
「言われてみれば......確かにその通りだな。用心深い奴ほど準備は念入りなもんだ」
「だからの、待っておれば良かったのじゃ。そうすれば勝手に連絡を取り合おうとするからの。それをニケ様の力で追えば、魔勇者が動かずとも仲間の居場所は知れよう?」
「......」
「故に、わざわざ殺気を放つ必要性は全くなかったという訳なのじゃ」
「なるほどなぁ。ドール、お前賢過ぎだろ」
「くふふ。大したことはないがの? じゃが、もっと誉めるが良いッ!」
「はいはい。ドールは賢いお狐さんだな。───それで、ニケさんはなんで殺気を放ったんですか?」
「ぐぬぬ! 誉め方が適当過ぎるのじゃ、全く!───それで、ニケ様はなぜ殺気を放ったのじゃ?」
「うぅ。......も、申し訳ありませんでしたぁ!」
「ニケさん!? ど、どうしたんですか!?」
「やはりのぅ。何か隠し事をしておるとは思うておったのじゃ」
「隠し事!? え!? どういうこと!?」
そこには、きれいな土下座をして、ひたすら何度も謝るニケさんの姿があった。




