第202歩目 不可解な指名依頼!②
前回までのあらすじ
どうやら俺に指名依頼が入ったようです。
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6/16 世界観の世界編!に一部追記をしました。
追記箇所は、『爵位』となります。
( https://book1.adouzi.eu.org/n0913em/1/ )
追記場所は【称号】の下となります。
□□□□ ~相変わらずな日常~ □□□□
「いや、ニケ様は主とともに行って欲しいのじゃ。
もしくは、ニケ様が否と言うのなら妾が主とともに行く。
どちらにせよ、ニケ様か妾のどちらかは必ず連れていくのじゃ」
「は?」
待ったの内容があまりにも驚くべき内容だったので、思わず変な声を上げてしまった。
そう、変な声を上げてしまったのだ。
そうなると、暇で暇でしょうがない奴が動かないはずがない。
「───は?Σ(・ω・*ノ)ノ だってー! 変なこえー! あーははははは( ´∀` )」
「.....」
そう、みんなご存じの駄女神ことアテナだ。
しかも、どうやってかは分からないが、見事なまでの俺の声真似を披露する始末。
(これが『智慧の女神(笑)』たる力量か.....。下らなさすぎる!)
「おぉ! ア.....。ア.....。───お、お姉ちゃん、アユムにそっくりなのだ! 凄いのだ!」
「ねー! 歩君にそっくりだよねー! アーちゃん、もう一回やってー☆」
「にへへー(*´∀`*) 芸はねー、請われて見せるものじゃないんだよー! 魂が命じるとき自ずから披露しちゃうものなんだよー!」
「お姉ちゃん、もう一回なのだ! もう一回見せて欲しいのだ!」
「アーちゃん、おねがーい! あと一回でいいからさー!」
「仕方がないなー。───は? Σ(・ω・*ノ)ノ」
「「おぉ!」」
───パチパチパチパチ。
───パチパチパチパチ。
「むふー(`・ω・´)」
「「「.....」」」
モリオンとヘカテー様の拍手が雨霰のように降り注ぐ中、アテナはまるで「ふぃー。いい仕事したー!」とでも謂わんばかりにとてもご満悦な表情である。
それを死んだ魚のような遠い目で見つめる俺とニケさん、そしてドール。
「さてと───」
とりあえず、俺がやることは決まっている。
俺は盛り上がる3人の側に静かに忍び寄って、その柔らかそうな頬っぺたにそっと手を添える。
そして.....。
「うるせえんだよ! このちびすけどもがッ!!」
───ぎゅむ!
───ぎゅむ!
───ぎゅむ!
怒濤の頬つねり3連単をお見舞いするのだった。
頬つねりの奥義である『左手は添えるだけ』の精神は外さずに。
「ふぇぇえええん(´;ω;`) い、いたいよー! ごめんなさーい」
「うぐ、うぐぐぐぐぐ.....。痛い、痛いのだ! ご、ごめんなさい、なのだ!」
「ちょっ、ちょっ、いたーいのー! 歩君、いたいのー! ご、ごめんねー!」
俺につねられたことで、ひぃひぃ喘ぐちびっこ3人組。
暇なのは仕方がないとしても、大事な話をしている最中なので、もう少し静かにして欲しいところだ。
□□□□ ~不可解な指名依頼②~ □□□□
さて、バカとおバカと寂しがり屋を黙らせたところで───。
「誰がバカよーヽ(`Д´#)ノ」
「我はおバカじゃないのだ! 良い子なのだ!」
「はいはい。アーちゃんも、モーちゃんも、静かにしようねー」
お利口さんの活躍で、バカとおバカが静かになったので、早々に本題に移ろうと思う。
話すべき内容は、ドールが先程言った件そのものである。どういう意味なのだろうか?
「どういう意味も何も、そのままの意味なのじゃ。
ニケ様か妾のどちらかを連れて行くが良い。でなければ、主の安全を図れぬ」
「いやいや、安全って.....。指名依頼とはいえ、たかが招待状だろ? 何もそこまでする必要は───」
「いえ、歩様。恐らくですが、ヘリオドールは何かに勘付いているのだと思われます」
「ですが、ニケさん───ッ!?」
ニケさんの真にも迫る真剣な表情に思わず息を飲んでしまった。
なんというか、危険を察知する嗅覚とでも言うべきか、ニケさん自身はドールの言っている内容を全て把握してはいないようだが、それでも真剣に聞くに値するものだと判断したらしい。
ともすれば、俺も居ずまいを正して、その理由とやらに耳を傾けなければならないだろう。
「ヘリオドール、話を続けなさい」
そして、そんな俺の様子を見て、満足げににっこりと微笑むニケさん。かわいいな、もうッ!
「うむ。これはあくまで推測なのじゃが、主を欲しておるのは貴族ではないと思うのじゃ」
「「?」」
意味が分からない。
俺とニケさんも互いの顔を見やるが、その表情は困惑げだ。
とりあえず、ドールに話を続けさせていく。
「よいかの? 貴族でないと断定する証拠は指名依頼にある。こんな形振り構わぬ形で面会の希望を出している時点で、依頼主は貴族ではないのじゃ」
「いやいやいや。それはさすがに暴論だろ」
「ヘリオドール。私もさすがにそれはどうかと思いますよ?」
「二人とも、貴族というものを分かっておらぬな。貴族とはおおよそそういう生き物なのじゃ。己の見栄や外聞が大事な生き物だからこそ、貴族という地位に就いておる者なのじゃぞ? それなくして貴族などにはなれぬものなのじゃ」
「「.....」」
随分と偏見───いや、恨み辛みが混じった考え方だが、ドールがされてきた境遇を考えれば致し方なしだろう。
全ての貴族がそうだとは言わないが、事実そういう貴族も存在するのだから.....。
「第一、おかしくはないかの? 貴族が何故に指名依頼なのじゃ?」
「それはドールがさっき言った通りのことだろ? 俺に断らせない為に───」
「それもある。だがの? 妾が聞きたいのはそういうことではない。
何故いきなり指名依頼で出してきたのか、ということなのじゃ」
「あー。確かに」
「それの何がおかしいのですか? 一番効率的だと思うのですが?」
ニケさんが疑問に思うのは仕方がない。
確かに効率的なことで考えたら、招待を断りまくっている俺に面会を希望するのならば、指名依頼を出すのが一番手っ取り早いのは間違いないだろう。
でも、それは俺やニケさんのような根が元から貴族では無い者の考え方だ。
そして、ドールの言う通り、貴族には貴族のものの考え方や面子などがあったりする。
だからこそ、今までの貴族は全て【召し出し】又は【晩餐にかこつけた招待】及び【お茶会】だったりしたのだ。
それに貴族ならば招待をするにしても、いきなり指名依頼などを依頼せずに部下を遣いにやらせたりするものらしい。
つまり、貴族には貴族としての面子があるので順を追う必要性があり、またそのように対応していくものなんだとか。特に、爵位が上であればあるほど、それは顕著になっていくようだ。
(なるほどな。そう言われると、そのような感じがしなくもない)
「しかもの? 今回の貴族は初めての招待なのであろう?
それでいきなり指名依頼などと、どうにもこうにも怪しいというものじゃ」
「なるほど。つまり、歩様のことを調べている愚か者がいる、と?」
「あー。そうなるのか」
「十中八九、そうであろうな」
ドールの言う通り、カイライ侯爵というのは初めて聞く貴族だ。いや、もしかしたら、以前にもお誘いがあったのかもしれない。
なにしろ、俺は招待主など気にせずに片っ端から断っていたしな。と思っていたら、ナシーネさん、ニシーネさんからは「初めてですね」との回答が.....。
どうやら、本当に調べられているらしい。
でなければ、ドールの言う通り、いきなり指名依頼で俺を招待してくることはないだろうしな。
「あくまで推測だがの。しかし、主を招いておるのは貴族ではない、と妾は思う」
「貴族の側近が入れ知恵した可能性は?」
「そうじゃの。だから、妾は主の安全の為にも、ニケ様か妾を連れて行けと言うておるのじゃ」
「んん? なんでそうなるんだ? それのどこに危険性があるんだよ?」
いや、指名依頼を出してまで俺に会おうとしてくる知恵者だ。
その知恵者に、俺が言いくるめられてしまう危険性がないとは言えない。
しかし、ドールの言う「安全」という言葉はそういった類いのものではないようにも思える。
「主に問う。主の言う、その側近とやらはどんな者だと思うのじゃ?」
「そりゃあ、貴族に仕えているんだから貴族───ではないな。だったら、指名依頼とはならないか」
多少賢しい貴族という線も考えられなくはないが、貴族は貴族故に貴族だと考えれば、いきなり指名依頼を出してくるとは考えにくい。
「となれば、取り上げた平民か?」
「平民が指名依頼などというものを知っておるかの?」
「それもそうだ。となれば、商人───は絶対にないな」
「だろうのぅ。最も有り得ぬ人種なのじゃ」
言葉にしてしまった俺もドールに釣られて苦笑してしまった。
この世界の人々にとって、金は命よりも価値が高い。
故に、利に敏い商人ならば指名依頼などというものを弄せず、直接俺に会いに来るはずなのである。
「すると、冒険者が残る訳だが───冒険者はなぁ」
「学が無いからの。恐らく、指名依頼で主を呼び寄せようとは考えも付かぬであろうな」
「だろうなぁ.....」
それと言うのも、この世界の教養レベルはお世辞に言ってもあまり高くはない。
特に冒険者は腕っぷしが重視される世界なだけに、他の職種に比べると余計それが際立つ傾向がある。
一応、魔法を扱う職業の人達は賢くはあるのだが、絶対数があまりにも少ないという欠点がある。
しかも、人によって教養レベルもマチマチなので、何とも言えなかったりする。
例えば、王都フランジュに向けて一緒に旅をした護衛仲間を覚えているだろうか。
その中に胸の小さいお姉さんが居たのだが、彼女は歴とした魔法使いだった。但し、教養レベルについてはそこまでといった感じだったのだ。
恐らく魔法職であっても、宮廷に仕えるレベルの魔法職でないと教養レベルはあまり高くはないのだと予想される。
そういう意味では、侯爵家ならば宮廷に仕える魔法職がいても何らおかしくはないのだが.....。
(果たしてどうだろう? そう都合良く居たりするのかな?───いや、侯爵家のような大貴族なら居るには居るだろうが、貴族の権勢を無視した提案をこの世界の人々がするだろうか?)
ともかく、冒険者の教養レベルは大したものではないということだ。
あとは───ギルド嬢辺りなら有り得そうではあるのだが、その場合は指名依頼の内容を伏せるという愚行は冒さないだろう。
「と考えると、残すは───って、おいおいおい。ま、まさかな?」
「そのまさかであろうな」
「あっ! なるほど。私にも分かりました」
恐らく、ドールの推察は正しいものだと思う。
少なくとも絶対数の少ない魔法職よりも、こちらの方が明らかに確率的には高いと思われる。
そもそも、人間族の国では積極的に懐柔しているみたいだし。
「だからの。何度も言うておるが、ニケ様か妾を連れて行くべきなのじゃ」
「えっと? それこそ意味が分からないのですが.....」
「ニケさんもですか?.....俺もです。と言うか、むしろ安全も安全だと思うんだが?」
当然、皆が皆、友好的とは限らないだろう。
ただ少なくとも、俺に敵対する意思は全くない。と言うか、敵対したくはない。
だから、争いになるようなことは決してないと思う。
今回ばかりはドールが心配しすぎなように思えてならない。
「もう少し、よく考えてみよ」
「どういうことだ?」
「よいか? 何故に指名依頼を出したのじゃ? 別に改めて呼び出す必要はなかろう?
そもそも、主に用があるのならば直接会いに来れば良いのだからの」
「た、確かに!」
貴族はともかく、別に俺だって好んで事を荒げようとは一切思ってはいない。
だから一言、「会いたい」とギルドなりにでも言伝さえしてくれていたら喜んで会っていたとは思う。
少なくとも、指名依頼などという回りくどいことをする必要はどこにもないはずだ。
(いや、俺を調べていたとするのなら、確実な方法を取ったということも───いやいや。でも、直接会いに来ればいい訳なのだし、うーん? どういうことだ?)
しかし、悩んでいる俺をよそに、ニケさんが驚きの発言をする。
「つまり、歩様には会いたいけれども自分の素性を晒すつもりはない、ということですか?」
「分からぬ。だがの、当たらずとも遠からずかもしれぬ」
「ちょっ!? マジか!?」
「だから、妾は初めから臭いと言うておるのじゃ」
「.....」
「こ、これは驚きました。───いえ、さすがはアテナ様が認められた妹と言うべきでしょうか」
開いた口が塞がらない。
まさか大貴族からの指名依頼という情報だけで、そこまで推察できるとは.....。
正直、それだけでも驚愕に値するものだったが、更にドールが追い打ちをかけてきた。
「よいか? そやつは堂々と会えるくせに、何故かこそこそと隠れようとしておる。
しかも、貴族をわざわざ隠れ蓑にしようとしておる点がどうにも胡散臭いのじゃ」
「お、おぅ」
「故に、何を企んでおるのか皆目見当が付かぬ。
だから、ニケ様か妾を連れて行くべきなのじゃ」
「そう.....だな。そうするよ。ありがとう、ドール」
「主、決して油断するでないぞ? 恐らくだがの、そやつは───」
「なん.....だと!?」
そこで伝えられた驚愕の事実。
おいおいおいおいおい。じょ、冗談じゃないぞ!?
俺、まだ正統勇者どころか勇者ですらないんだが!? 勘弁してくれよ!!
次回、本編『訪問 貴族邸』!
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今日のひとこま
~どっちを連れていく?~
「ありがとう、ドール。いつも色々と済まないな」
「くふふ。良いのじゃ。主人の至らぬところを補うのが奴隷の役目。妾は当然のことをしたまでなのじゃ」
「では、私が付いていき、歩様の身の安全を守りますね」
「よろしくお願いします、ニケさん」
「主とニケ様。何があるかも知れぬから気を付けるのじゃぞ?」
「大丈夫だろ。ニケさんも居ることだしな」
「馬鹿者。油断するでない。相手が相手なのじゃ、何も揉め事だけとは限るまい」
「どういうことですか?」
「こそこそ裏で画策してくる者なのじゃ。奸智に長けておる可能性は非常に高いであろう」
「うっ.....」
「よいか? 何を仕掛けてくるか分からぬ以上、即答は控えよ。のらりくらりと誤魔化すが吉なのじゃ」
「お、おぅ。(うーん。自信無いなぁ。正直、ドールも一緒に連れて行きたいところではあるが.....)」
それと言うのも、ニケさんは察しはかなり良い方なのだが、賢いという程ではない。
いや、俺よりも賢いのは間違いないのだが、俺以上ドール未満といった感じで、少々不安が残る。
「だったらー、ドーちゃんも連れていけばー?」
「そういう訳にはいかな───って、心を読まないでくださいよ、ヘカテー様」
「だいじょーぶ! アーちゃん達の面倒は私がちゃーんと見るよー☆」
「.....却下で」
「えぇー!?」
「ありがとうございます。気持ちだけ受け取らせて貰いますね?」
「くふふ。なんじゃ? 妾の力が必要なのかの?」
「まぁ、本音を言えば、居ては欲しいな」
「申し訳ありません。私が至らないばかりに.....」
「ちょっ!? お、俺は誰よりもニケさんのことを信頼していますから!」
「ふふっ。冗談ですよ。ちょっと拗ねてみただけです」
「そ、そうですか。.....と言うか、拗ねる?」
「はい。本来なら「私さえ居れば大丈夫です!」と言いたいところなのです」
「なるほど。それなのに、俺がドールの力を求めたから拗ねた、と?」
「仰る通りです。とても悔しいです。腸が煮えくり返りそうな思いです。ですが、ヘリオドールの実力は認めておりますれば.....」
「そこまで!?」
「明らかに人材不足じゃな」
「だなぁ.....。前々から思っていたんだよ。アテナ達の面倒を見れる大人が少ないとさ」
「だから、姉さまの面倒を見るのは主の仕事であろう? ともかく、PTにはまだ空きがあるのじゃから、誰か雇えば良いのでは?」
「誰でも良いって訳じゃないだろ。少なくとも、アテナを受け入れてくれる人でないとな」
「そんな者、たくさんおるであろう」
「あのな? 受け入れるというのは、手を出さないという意味も含まれるんだぞ? お前達は特にかわいいんだから、心配する俺の身にもなれ」
「ッ! ふ、ふん! わ、妾がかわいいのは当然じゃな。.....ごほんっ。ならば、女を雇えば良いのじゃ」
「ダメです! それは私が認めません! 歩様に近寄る女など認めようはずがありません!」
「う、うむ。そ、そうじゃな.....」
「そ、そういうことだ。それに女性ともなると、相当信頼関係が無いと厳しい」
「なぜじゃ?」
「下心ありきかもしれないだろ? この世界の女性はそういう面が積極的だしさ」
「だからの? 妾は「さっさと交尾せよ!」と何度も言うておろう? 主が耐性を付ければ良いだけの話なのじゃ」
「ちょっ!? お、おまッ!?」
「.....(ちらっ)」
ちらっ。じゃないですからね、ニケさん!?
あー、もう! この話はこれでおしまい! さっさと依頼主の元にでも行きますか!!




