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第201歩目 不可解な指名依頼!①


前回までのあらすじ


うつ伏せ状態の膝枕も捨てたものじゃない!


□□□□ ~まさかの呪い!?~ □□□□


「「竜殺し様。冒険者ギルドへようこそ」」


「こんにちは。ナシーネさん、ニシーネさん」

「お姉さん達、やっほー( ´∀` )」

「.....」

「世話になるのじゃ」

「こんにちは、なのだ!」

「へー。ここが冒険者ギルドなんだー。.....あ! こんにちはー☆」

「な"ー!」

「キュ、キュ、キュ!」


 それぞれ思い思いに挨拶をするアテナ達。うん、挨拶は大事だからな。みんな偉いぞ。

 ただ一人、ニケさんだけは鋭い視線でナシーネさん、ニシーネさんを睨んではいるが.....。HAHAHA。


 そうそう。冒険者ギルドはペット同行も可だ。

 なんたって、魔物使いの魔物も同行可能なぐらいなのだから。


「「こんにちは。みなさんもようこそ冒険者ギルドへ。

  それにしても、本日は随分と大勢でいらっしゃ───ひっ!?」」


 そんなアテナ達に営業スマイルとは違うごく自然な笑顔を返すナシーネさん、ニシーネさんだが、ニケさんの視線に気付いて一瞬にして顔を強張らせてしまった。


 しかも.....。


(ん? なんだあれ?)


 そんな二人の顔にはうっすらと何かの文字さえ見える。


「んー? お姉さん達、死相がでてるよー(・ω・´*)」

「し、死相!? ちょっ、ニケさん!? このお二人は()()()受付嬢さんですからね!?」

「はい。存じ上げております。.....ですが、私の歩様に少し馴れ馴れしかったので、つい」

「そ、それが二人のお仕事ですから。.....すいません。ナシーネさん、ニシーネさん」

「失礼しました。謝罪します」


「「ほっ.....。い、いえ、お気になさらずに」」


 ニケさんからの無言(しっと)の圧が解けたことで安堵するナシーネさん、ニシーネさん。


 ずっとニケさんに睨まれていれば、ビビってしまう気持ちは分からなくもない。

 ただ、さすがに、二人の顔に死の文字が───死相が見えていたのは驚きもしたが.....。


 ・・・。


 さて、朝食を済ませた俺達は冒険者ギルドへとやってきた。

 別に、これからダンジョンに潜るという訳ではない。


 そもそも、今日はニケさんの為にある物を購入する予定だったのだが、その前にどうしてもやらなければいけないことがあるからだ。


 それは.....。


「「はい。魔動駆輪の登録ですね。承りました。少々お待ちください」」

「よろしくお願いします」


 魔動駆輪を所持、使用する際にはギルドにて利用許可の申請をする必要がある。(世界編! 『魔動駆輪』参照)

 理由は魔動駆輪自体が【シンフォニア共和国】を除く他国では一般的に普及しているものでは無い為である。


 その為、ニケさんとのデート前に魔動駆輪の手続きをしにギルドに立ち寄ったという訳だ。


「ねぇー。終わったー? 遊びに行ってもいいー(。´・ω・)?」

「あぁ、いいぞ。行ってこ───」

「まだじゃ。全ての手続きが終わるまで我慢せい」

「お、おぅ。そ、そうだな。.....アテナ。もう少し我慢しろ」

「ぶー(´-ε -`)」


 アテナが駄々をこねることは最初から分かっていた。

 この駄女神は興味の無いことに関しては一分とすら我慢できないわがまま女神であるからして.....。


 そもそも魔動駆輪の手続きをするだけなので、みんなをぞろぞろと連れてくる必要性は全く無かった。

 そう、ニケさんと二人でギルドに立ち寄って素早く手続きを済ませ、そのままデートに直行で良かったのだ。


 そんなことは分かっていた。分かりきっていたのだが.....。


「ダメに決まっておろう。以前のようなことがあるかもしれぬからの」

「でも、今回はニケさんも居ることだし.....」


「それは分かっておる。だがの? それはそれ、これはこれなのじゃ。妾は主の奴隷。ならば奴隷として、主人の安全を確認できるまでは決して離れることはできぬ」


 ちなみに、ドールの言っている『以前のようなこと』とは、海都ベルジュにおいての竜族襲撃事件のことを指す。


 あの時、緊急の招集とはいえドール達を宿屋に残して一人でギルドに出向いてしまって以降、ギルドに赴く際には必ず付いてくるようになってしまった。

 また、必ずそうするよう約束させられてしまってもいる。


 まぁ、それはそれで多少めんどくさいと感じることもあるのだが、それでも俺を心配した上での行動なのだろうから、今では良しとしている。


 そんな経緯があって、みんなでぞろぞろと連れ立ってきたという訳だ。

 それに、さすがにドール抜きでアテナ達を先に遊びに行かせる訳にはいかない。


「そうなのですか?

 テディやヘカテー様が居りますので、アテナ様の身の安全は問題無いと思いますが」


「それはそうなんでしょうが.....」


 ニケさんに言われずとも、それは十分に理解している。

 神獣であるテディの強さはそこらの冒険者ではどうこうできるレベルではないし、下手したら勇者ですら苦戦する強さでもある。その上、モリオンの実力も折り紙付きだ。


 特に、異次元世界でとんでもない実力を示したあのニケさんとタメを張れると言われているヘカテー様がアテナ達と一緒ならば問題は無いだろう。


 ただ、ヘカテー様に限らずモリオンもそうなのだが、二人ともお子様な点がどうにも頂けない。

 それと言うのも、喧嘩(いざこざ)方面なら安心して任せられる二人なのだが、ちょっとした(ゆうわく)方面ではどうしても不安を拭い切れない感があるからだ。


 故に、賢く信頼できるドールは自動的にアテナ達とセットとなる。


「勝手に妾を姉さまのお守り役にするでない。

 そもそも、姉さまのお守りは付き人である主の仕事であろう?」


「他に頼める人が居ないんだから仕方がないんだよ。.....な? 頼む!」


 もしくは、ドールの代わりともなる信頼できる人が他に居さえすれば、その人にアテナのお守りを一時的にとはいえ任せるという手もある。

 そう考えると、俺の周りにはちびっこ達ばかりが集まってきて、そのちびっこ達の面倒を見れる肝心の大人が少ないようにも思える。


(HAHAHA。ま、まさかちびっこに好かれる呪いにでもかかっていたりして.....)



□□□□ ~不可解な指名依頼①~ □□□□


 さて、色々あったが、魔動駆輪の登録自体は30分少々で無事終えることができた。

 もうギルドには用が無いのでこのまま立ち去っても良いのだが、せっかく来たのだから情報でも聞いていこうと思う。


「「ここフランジュは問題無いのですが、他国ではどうやら不穏な動きが見られますね」」

「と言いますと?」


「「魔物が活発化しているとかなんとか。特にダンジョンの奥深くで見られる魔物や新種とも見られる魔物が、地上にてよく見られるようになってきているらしいです」」

「マジですか.....」


 これは由々しき事態なのではないだろうか。

 それと言うのも、この世界の理の一つとして、『地上の魔物は(竜族などを除いて)ダンジョンの魔物よりも遥かに弱い存在』となっている。


 それは『魔物も夜になったら寝る』という理と同じように、自明の真理となっているぐらいだ。

 それが、フランジュを除く他国では、世の理に反する現象がちらほらと散見されるようになってきているとか.....。


「ニケさん。どういうことか分かりますか?」

「なんでニケー? 私には聞かないのー(。´・ω・)?」

「.....じゃあ聞くが、アテナは知っているのか?」

「そんなの知る訳じゃないじゃーん! あーははははは( ´∀` )」


 こ、こんのくそ駄女神がッ!

 だったら、最初から名乗り出るんじゃねえよ!!


「.....ニケさん、どうでしょう?」

「いえ。申し訳ございません。世界のことは人間に委ねておりましたから」


 それもそうか。人間のことは人間に任せる。そういう決まりだ。

 だから、ニケさんや神様が必要以上に世界のことに干渉しないのは当然のことだ。


 故に、神様の代わりに勇者という存在が送り込まれている訳なのだし。


「それもそうですが.....」

「まだ何か他の理由が?」

「私は歩様にしか興味がありませんでしたので、特にこの世界のことに目を向けてはおりませんでした」

「この世界の管理者なんですよね!?」

「それも含めて勇者の仕事ということで───ダメ、ですかね?」


 バツの悪そうに、でも甘えるかのように上目遣いでそう尋ねてくるニケさんに、俺は思わず「じゃ、じゃあ、仕方がないですね。.....ぐへへへ」と答えておく。

 だって、こうも彼女にかわいくお願いされてしまったら、それこそ彼氏として断るに断れないから仕方がない。


(よし! 頑張れ、勇者! 俺は勇者じゃないから頑張らないけどなッ!)


 とりあえず、最短で【シンフォニア共和国】に向かうには、最低でも【カルディア王国】と【トルガスト王国】の2ヶ国は経由しなければならないので、気を付けるに越したことはないだろう。


 とは言え、今の俺達には全く関係無い話なので、現状では心に留め置く程度でしかないが.....。


挿絵(By みてみん)


「「今のところは以上でございます」」

「そうですか。ありがとうございます」


 これで本当にギルドには用が無くなったので、情報を提供してくれたナシーネさん、ニシーネさんに礼を述べて()()()立ち去ることにする。


 しかし.....。


「「あっ、竜殺し様。お待ちください」」

「うっ.....」


 ()()()、そうは問屋は卸さなかった。

 ナシーネさん、ニシーネさんからは、それはもう「どちらに行かれるおつもりですか? 逃がしませんよ?」とでも謂わんばかりのにっこにこな営業スマイルが向けられている。


(いや、分かっていたけどさ? 呼び止められることぐらいは。でもさ、ハァ.....)


 俺が心の底から嫌がっているのには理由がある。


「「本日は【お召し出し】が3件、【晩餐会のご招待】が5件、【お茶会のご招待】が4件となっております」」

「ふむ。相変わらず、主の人気は凄いのぅ。妾も主の奴隷として鼻が高いのじゃ」


「.....」


 これら全ては貴族からの招待状となる。


【召し出し】とは俺よりも上の地位である貴族からの招待状───というよりは、出頭命令に近いものである。

 故に、相手もその地位を笠に着て、俺を従わせる気満々なのだろう。


【晩餐会の招待状】はそのままの意味で、主に俺と同等の地位又は低い地位の貴族からの招待状となる。

 こちらは交渉次第で俺を傘下に収めたい腹積もりなのだろう。


【お茶会の招待状】もそのままの意味で、こちらは貴族のご令嬢方が地位うんぬんに限らず出してくるものとなる。

 これは所謂お見合いみたいなものだ。お茶会を通して俺という品物(じんぶつ)を見定め、気に入れば俺の嫁にとなるつもりなのだろう。


 ちなみに俺は竜殺しなので、その地位は中級貴族相当となる。

 そうそう。聞いた話によると、正統勇者も竜殺しと同等の地位で中級貴族相当となり、十傑ともなると上級貴族相当になるらしい。


 では、この世界の貴族位について簡単に説明しよう。


 この世界では、【大公】・【公爵】・【侯爵】・【伯爵】・【子爵】・【男爵】・【準男爵】などといった、中世などではよくある爵位が用いられている。

 この内、【大公】は王族や帝族の一族しかなれない爵位なので省くとする。


 上級貴族は主に【公爵】・【侯爵】のことを指す。

 爵位順は【公爵】>【侯爵】となる。


 中級貴族は主に【名誉侯爵】・【準侯爵】・【名誉準侯爵】・【伯爵】・【名誉伯爵】・【準伯爵】・【名誉準伯爵】・【子爵】のことを指す。

 爵位順は【名誉侯爵】≧【準侯爵】>【名誉準侯爵】≧【伯爵】>【名誉伯爵】≧【準伯爵】>【名誉準伯爵】≧【子爵】となる。


 下級貴族は主に【名誉子爵】・【準子爵】・【名誉準子爵】・【男爵】・【名誉男爵】・【準男爵】・【名誉準男爵】のことを指す。

 爵位順は【名誉子爵】≧【準子爵】>【名誉準子爵】≧【男爵】>【名誉男爵】≧【準男爵】>【名誉準男爵】となる。


 この内、竜殺しである俺は【名誉伯爵】相当となり、正統勇者は【伯爵】、十傑ともなると【侯爵】又は【公爵】になる者もいるらしい。



 閑話休題。



 つまり、貴族が俺を取り込もうと色々と画策してきているという訳だ。


 それと言うのも、俺は生ける伝説である竜殺しであり、世間一般では勇者ということになっている。

 しかも、海都ベルジュにおいての竜族撃退にも成功しているので、名実ともに真なる竜殺しとして認知され始めてさえいる。


 ともすれば、貴族達が黙っているはずがないのだ。少しでも王国内での自分の勢力を拡大する為にも俺を取り込み、その力を大いに利用しようと目論んできているらしい。


 実はこれ、今に始まったことではない。

 俺が竜殺しとなった王都フランジュに居た時からずっと、このような招待状は毎日来ていた。


「「いかがなされますか?」」

「.....全てお断りの方向でお願いします」


 そして、その全てを断っている。

 理由はめんどくさいからと絶対に騒動に巻き込まれるからだ。


 よく小説やラノベなどでは貴族と接触したが最後、ロクでもない騒動に巻き込まれているのがもはやお約束となっている。


 確かに、貴族と接触することで得られるメリットは大きいだろう。

 だが、ほとんどの場合はそのメリットを上回るデメリットが発生していることが多い。


 ましてや、トラブルメーカーであるアテナがいる以上、絶対に騒動に巻き込まれるのは約束された未来だとも言える。

 故に、俺は絶対に貴族とは接触を図らない。図りたくない。図らせない。


「「.....ハァ。畏まりました」」

「本当にすいません.....」

「主は相変わらずだのぅ。まぁ、気持ちは分からぬでもないが───となると、またいつもの手かの?」

「そうなるな。.....すいません。いつもで申し訳ないですが、アレでお願いします」

「「アレ、でございますね。承りました」」


 ふぅ~。これで一件落着だ。

 召し出しを含め、煩わしい招待状全てを断ることができた。


 ちなみに、中には「俺よりも上の地位の貴族の招待状は断れないのでは?」と思っている方も少なからずいることだろう。


 結論から言えば、その通りである。

 いくら俺が竜殺しとはいえ、所詮【名誉伯爵】程度でしかない俺が【伯爵】以上の貴族からのお誘いを断れば、その貴族の面子を潰すことにもなりかねない。


 故に、本来は参上しなければならないのだが───俺はそこを敢えて断る。

 断るに足る秘策が俺にはあるのだ。


 それが.....。


「「では、時尾様の御名の元に、全てお断りの旨を先方にお伝え致します」」

「よろしくお願いします」


 名付けて『時尾さんに丸投げ作戦』。


 これで今の今まで全て断ってきた。

 そう、このフランジュ王国の王である王様の招待状すらも断ったことさえある。


 それと言うのも、この国の王や貴族は時尾さんに頭が上がらないらしい。

 それはそうだろう。一応廃業したとは言え、時尾さんは勇者であり、しかも元正統勇者。


 更に言えば、元十傑の一人でもあり、このフランジュにおいては新進気鋭のダンジュンマスターでもある。

 所謂、フランジュにおいて時尾さんは金の卵を産む鶏のようなもの。


 その時尾さんのご機嫌を損ねることは絶対にあってはいけないことだし、例え王様といえども時尾さんの意向を無視することはできない。

 だって、時尾さん曰く「ダンジュンマスターをやるのは、別にフランジュで無くともいい」とのこと。


 故に、時尾さんの発言や意向は王さえ凌ぐとも言われている。

 そして、その権勢を大いに利用しても良いと許可を貰ってもいる。


 だったら、使う他はないだろう?

 貴族がその地位の権勢を利用するというのなら、俺だって俺の持てる権勢(すべて)を使うまでである。ざまぁ! 貴族、ざまぁ!!


「やれやれ。まさに『虎の威を借る狐』ならぬ『時の勇者様の威を借る主』だのぅ」


「いいんだよ。どうせ会うつもりは微塵もないんだからさ。

 むしろ何回も断っているんだから、こちらの気持ちを汲み取って欲しいところだな」


「それは無理じゃな。貴族のバカどもは己のことしか頭にないからの」

「なんでしたら、私が全て始末(おことわり)してきましょうか?」

「それは本当に止めてください!」


 せっかく事が穏便に済みそうなのに、余計なさざ波を立てないで欲しい。

 第一、時尾さんの名さえ出せば王は元より大貴族すらも黙らざるを得ないのだから、これ以上のベストな解決策はないと言っても過言ではないだろう。


 とは言え、さすがに王様の招待にすら断りを入れた件については、時尾さんも苦笑いしていたことだけは今でも鮮明に覚えてはいるが.....。HAHAHA。


 さて、これで本当に全ての用事が済んだことだろう。

 そう思っていたら、この話にはまだ続きがあることが判明した。


「まだ何かあるんですか?」

「「はい。招待状とは別に緊急の指名依頼が届いております」」

「え? 俺に、ですか?」

「「その通りです。竜殺し様にたってのお願いだと伺っております」」


 ここでまさかの指名依頼。

 しかも、どうやら緊急を要するらしい。.....何か問題でもあったのか?


「「いえ。ギルド側では特にこれといって何も報告は受けておりません」」

「はぁ.....? でも、緊急の指名依頼なんですよね? ちなみに依頼主はどなたですか?」

「「カイライ侯爵様です。王子様の側近の方となります」」

「侯爵.....大貴族からの依頼ですか。となると、国家機密的な依頼ということでしょうか?」

「「仮にそうであっても、依頼内容の詳細をギルド側に伝えることは約定で定められております」」

「あっ。そうなんですか? だとすると、この指名依頼はどうなっているんですかね?」


 ギルドは国の機関ではなく、全勇者特別機構の機関である。(世界編! 『冒険者ギルド』参照)

 故に、国とギルドが互いの信頼を元に成り立っている以上、その間での定められた約定ならば、例え大貴族といえども、それには従わなければならない。


(それが詳細不明の指名依頼か.....。どういうことだ?)


「.....のぅ、主」

「どうした?」


 そんなこんなで俺が困惑していると、頼れる相棒であるドールが進言を呈してきた。

 さすがは俺の参謀役だ! いつも世話になって済まないな!!


「これは臭いのじゃ」

「臭い? どういうことだ?」

「恐らくだがの.....これは依頼に見せ掛けた招待状である可能性が高いのじゃ」

「はぁ? 指名依頼なのに招待状?」

「「竜殺し様、私達もヘリオドールさんと同意見でございます」」

「え!? ナシーネさんとニシーネさんもそう思うんですか!?」


 ドールだけだといまいち信憑性に欠けるが、ナシーネさんとニシーネさんもドールと同じ意見だというと一気に信憑性が増してきた。


 それと言うのも、ナシーネさんとニシーネさんはあの五十音姉妹の一族だからだ。

 五十音姉妹とは世界各国に展開している冒険者ギルドに受付嬢として働いている大家族で、そのいずれの姉妹も皆優秀とぶっとんだ一族なのである。


 ただ、どの受付嬢さんも必ず欠点というか何かしらの問題点を抱えていたりはする。

 このナシーネさんとニシーネさんもまた例外に漏れなく変わり者で、二人は一人で一心同体、ナシーネさんの彼女はニシーネさんであり、ニシーネさんの彼女はナシーネさんであるという。


 そんな変わり者なナシーネさんとニシーネさんではあるが、二人は一人で一心同体な部分を除けば間違いなく優秀なギルド受付嬢なのである。

 そして、そんな二人までもがドールの意見に同調するとなると、これは───いや、しかし、なぜ指名依頼?


「ヘリオドール、どういうことですか?」

「主の貴族嫌いは有名なのじゃ。故に、主の退路を絶つ為の依頼であろうな」


 あー。そういうことか。

 となると、相手側には相当頭の良い奴がいるな。


「歩様の退路を絶つ? 依頼など断れば良いだけではないのですか?」

「いや、ニケさん。指名依頼は───特に緊急の指名依頼は断れないんですよ」


 正確には断ってもいい。

 ただ、その場合は信頼を大きく損なうこととなる。


 それは依頼側の信頼だけではなくて、当然ギルド側のも.....。

 正直、侯爵側はどうでもいいのだが、ギルド側の信頼を損なうという点があまりにも代償が大きすぎる。


 それと言うのも、ギルドは全勇者特別機構の管轄機関である。

 即ち、ギルドの信頼を損なうということは全勇者特別機構の信頼を損なうに等しい。


 ましてや、正統勇者を目指している俺にとっては、全勇者特別機構の信頼及びご機嫌を損ねることはなんとしてでも避けたい。

 とは言え、もしかしたら十傑であるキャベツさんが便宜を図ってくれるかもしれないが、ここ最近は竜族襲撃の後始末や名産品、村民大移動と少し(?)頼りきりなので自重したいところではある。


「.....なるほど。そうなると、受けざるを得ないということですね」


「指名依頼で出された以上はそうなりますね。

 .....すいません、ニケさん。緊急なので、デートは戻ってからになりそうです」


「本当はそのまま歩様に付いていきたいところではありますが.....。

 分かりました。事情が事情なだけに仕方がありませんね。お気を付けくださいませ」


「ニケさん.....」


 誰が見ても、凄く落ち込んでしまっているニケさん。

 きっと、俺とのデートを楽しみにしていたのだろう。本当に申し訳ない。


 ただ、大貴族の指名依頼な以上、依頼主の許可なくニケさんが勝手に付いてきてしまうのは問題だろう。これが俺と同等又は下の貴族ならば、ニケさんの同行も全く問題ないのだろうが.....。

 そして、瞬時にそこまで理解してくれたニケさんはさすがであると謂わざるを得ない。


 そう結論付けたところで、ドールから待ったがかかる。


「いや、ニケ様は主とともに行って欲しいのじゃ。

 もしくは、ニケ様が否と言うのなら妾が主とともに行く。

 どちらにせよ、ニケ様か妾のどちらかは必ず連れていくのじゃ」




次回、本編『不可解な指名依頼②』!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


今日のひとこま


~料理を学びたいニケ~


「いただきます」

「いただきまーす( ´∀` )」

「いただきます、なのじゃ」

「いただきます、なのだ!」

「いただきまーす☆」

「はい。おあがりなさい」


食前の挨拶を済ませ、一斉に朝食に群がる俺達。

本日の朝食はニケさんの手作り料理となっている。(第200歩目)


「歩様、いかがでしょうか?」

「うん。美味いですよ。というか、これってもしかして.....」

「お気付きになりましたか?」

「はい。あの時と全く同じメニューですし」


目の前にあるメニューは、ご飯にあさりのお味噌汁、ほうれん草のお浸しに、鮭の塩焼き、出し巻き卵に大学芋、きんぴらごぼうに肉じゃが、ロールキャベツ、かぼちゃの煮物である。


少し多い気もするが、これ全て現地勇者の好物というやつだ。


「ちょうど、あの世界に行ったときに料理の指南をお願いしたんです」

「なるほど。だからメニューだけではなくて、味も似ているんですね」

「普段は雑誌でしか学ぶ機会がなくて.....。ですから、良い経験となりました」

「なるほど。神界では料理の神様とかは居ないんですか?」


「居なくはないのですが.....」

「?」

「料理というよりかは家庭の女神様でヘスティア様がいらっしゃいますね」

「あっ.....」


「ですので、独自に学んでおります」

「な、なるほど。というか、ニケさんならば勝利の力を使えば料理もお手の物なのでは?」

「それはそうなのですが、料理時には勝利の力を使わないようにしております」

「へー。どうしてですか?」


「バットが言っておりました。力で作った料理など、例え美味しかったとしても、不味い手作り料理の足元にも及ばない、と」

「な、なるほど(.....GJだぞ! バット!!)」

「それに───泥棒猫などには負けたくはありませんから」

「泥棒猫?」


「あっ。いえ、こちらの話です」

「はぁ.....? でも、現地勇者の好みというのは癪ですが、凄く美味しいですよ」

「ふふっ。ありがとうございます。今度からは歩様のお好みを教えてくださいね?」

「もちろんです。楽しみにしていますね」


「お任せください! ちなみに、歩様の好物は何ですか? 明日作ろうと思います」

「和食なら何でもいけますが.....そうですね。久しぶりに豆腐ハンバーグが食べてみたいですね。お袋の得意料理だったんですよ」

「と、豆腐ハンバーグ.....ですか?」

「あれ? もしかして、ニケさんは洋食派なんですか? 俺としては豆腐を使っていることですし、豆腐ハンバーグは和食だと思うんですが.....」


いや、「ハンバーグだから洋食だ!」という意見も分からなくはない。

ただ、豆腐を使っているしなぁ。言うなれば、和洋折衷といった感じかな?


「いえ、そうではなく、豆腐ハンバーグなるものの知識がなくてですね.....」

「あー、なるほど。ニケさんの見ていた雑誌にはありませんでしたか。でしたら、仕方がないですね」

「も、申し訳ありません.....」

「いえいえ。お気にせず。作ってくれるだけでも嬉しいですから」


「歩様.....。このニケ、もっと精進しますね!」

「今のままでもニケさんはステキですよ」

「そ、そんな...../// 歩様は口がお上手なんですから。.....それにしても、料理を師事してくれる人なり機会なりが欲しいところですね」

「.....」



ふーん。ニケさんの一番の関心事は料理か。

となると、この世界にも料理教室みたいなところはあったりするだろうのか? 一緒に行ってみるのも案外いいかもしれないな。



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