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特別編 後輩と先輩の秘密!後輩 須藤澄香④


前回までの特別編のあらすじ


一難去ってまた一難!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


5/23 世界観の世界編!に一部追記をしました。

   追記箇所は、『アイーナ特別総合病院』となります。


□□□□ ~決意を新たに~ □□□□


「澄香ちゃん。知ってる? 舞日君がね、()()告白されたんだってさ」

「.....知っていますよ。それも()()()()()()()ことも」


 舞日先輩が()()されてから、既に1ヶ月が経ちました。

 季節的には既に春分の日を迎え、これから一日一日が過ごしやすくなっていくのだと思われますが、まだ少し肌寒い日々が続いている今日この頃です。


 いいえ、寒いのは日々だけでは無いかもしれません。うちの心も.....。


「そうよね。澄香ちゃんなら知っていて当然よね」

「.....言っておきますが、今は舞日先輩のことを付け回したりしていないですからね?」

「嘘ッ!? あの澄香ちゃんが!?」

「だから、どういう意味ですか!?」

「.....と言うか、驚いちゃったけど、それが普通だからね? 良かったじゃない。ようやく普通に戻れて」

「.....」


 うちの心が寒い原因の一つはこれです。

 もはや愛情表現の一つになっていたうちの【舞日先輩観察日記】が、舞日先輩帰還以降1ページも綴られなくなってしまったのです。


 ごめんなさい。言い回しがあれでしたね。

 舞日先輩が帰還以降、うちは日課となっていた、詩子先輩曰く【ストーキング(不本意ですが.....。不本意ですが!)】をしなくなりました。.....いいえ、正確には()()()()なりました。


 それと言うのも、舞日先輩の(()())彼女の一人である仁菜さんから「次、歩様へのストーキングが認められた場合は覚悟してくださいね?」と警告(おど)されたからです。


「仁菜さんというと.....。確か、舞日君を毎日会社の前まで送り迎えしている着物の人だっけ?」

「はい。そうですね」

「まぁ、その仁菜さんも舞日君といつも一緒に居る訳なんだし、いつかは澄香ちゃんのストーキングには気付くわよね」

「いつかと言うか、すぐだったんですけどね.....」


 本来のうちであれば、仁菜さんの理不尽な要求なんて無視するものなんですが、なぜかその時は首を縦に振ることしかできませんでした。

 うちの第六感が、女の感が、いいえ、もっと根底にある何か.....。そう! 生存本能みたいなものが、「首を縦に振れ!」と「絶対に従え!」と、強く訴え掛けてきたのです。


「生存本能って、あんたね.....。殺伐としすぎでしょ。仁菜さん、きれいな人じゃない」

「詩子先輩は知らないだけですよ。あの人、何とも言えない怖さがあるんですから.....」


 そういう事情がありましたので、朝の待機や部屋から望遠鏡による舞日先輩の観察その他諸々を、不本意ですが止めざるを得なくなりました。

 ただ、せめてもの抵抗として、出勤時に()()舞日先輩と遭遇できる確率を上げるよう、舞日先輩の()()()()()近くに引っ越しし直したり、同じ時間帯に出勤するよう心掛けています。


 うちが仁菜さんに注意されたのは、あくまでストーキングだけなのであって、偶然遭遇する件については何も言われてはいないですからねッ!


「ハァ.....。本当、涙ぐましい努力ね。と言うかさ?」

「涙ぐましい言わないでくださいッ! うち、これでも必死なんですよ!.....それで、なんでしょうか?」


「舞日君のこと、まだ諦めていないの?」

「.....」


「一応ね、私も舞日君の事情についてはそれなりに知っているつもりよ? 特殊な関係だってこともね。だから、澄香ちゃんが諦めきれない気持ちも分からなくはないんだけどさ.....」

「諦めきれるはずが.....。諦めきれるはずがないじゃないですか!」


 以前にも説明しましたが、これまでうちは男性とお付き合いした経験は一度もありません。

 ですが、それでも人並みに恋はしてきました。


 そういう意味では、今回のこの恋も、きっとうちの長い人生における数多くある恋の内の一つにしか過ぎないのでしょう。


 だから、詩子先輩の言う通り、舞日先輩を諦めてしまえば、恐らく次の恋が見つかる可能性は十分にあります。

 いいえ。常識的に考えたら、そうしたほうが良いはずですし、そうするべきなのでしょう。


 しかし、なんか嫌なんです。


 舞日先輩が、うち以外の誰かに奪られてしまうことが.....。

 舞日先輩が、うちの目の届かないところに行ってしまうことが.....。

 舞日先輩が、うち以外の誰かに微笑んでいるその姿を見ることが.....。


 そして、舞日先輩を諦めて後悔しているうち自身を見つめることが.....。


「なるほどね。恋は恋でも、本気の恋をしちゃったのね」

「そう.....なのでしょうか?」


「それはそうでしょ。普通、相手に彼女が、それも複数いたら、呆れるか怒って諦めるところよ。それでも、いまだに澄香ちゃんの心を縛っているだなんて、舞日君は本当に罪な男ね」

「うちの心を舞日先輩が.....」


 なんだか凄く嬉しいです。

 今でもうちの心は舞日先輩のものだと思うだけで、体の奥底から力が、勇気が沸いてきます。


 誰かに、好きな人に束縛されるって、こんなにも気持ちが良いものなんですねッ!


「そ、そう。.....澄香ちゃん、あなた真性のストーカー気質なのね。束縛したいし、されたいとか.....。それも話を聞くに、過度なやつが気持ち良いとか.....。ちょっと引くわ」

「し、真性ッ!? ちょっと酷くないですか、詩子先輩!?」

「少しも酷くないわよ。普通よ、普通。.....でもね? ふふっ。澄香ちゃんらしくなってきたじゃない」

「あ.....」


 あれ? もしかして励まされたのでしょうか?

 そう言えば、ここ最近色々とあって、ずっと気持ちが沈んでいたような気がします。もしかして、詩子先輩にそれを見透かされていたとか?


「澄香ちゃんはね、ヤバい人ぐらいが一番元気があって良いのよ」

「ヤ、ヤバい人って.....。でも、詩子先輩、ありがとうございます」

「いいのよ。気にしないで。ほら、澄香ちゃんに元気がないと、私の仕事量が増えるから本当に困るのよ」

「.....詩子先輩。台無しですよ! うちの感謝を返してくださいッ!」

「はいはい。それで、どうするの? 強敵(ライバル)は多いわよ?」


 先程までのお気楽なモードから一転して、いつになく真剣な表情でそう尋ねてくる詩子先輩。

 普段、暇さえあればうちをからかってはきますが、それでも、いつもうちの味方でいてくれる詩子先輩です。ここは包み隠さず全てを打ち明けようと思います。


「実は舞日先輩の退院祝いをするということで、舞日先輩のご自宅に招待されているんです」

「あら、そうなの? いつ?」

「今日です。そ、それでですね.....(ちらっ)」

「はいはい。分かっているわよ。但し! 結果を報告すること!」


 うっ.....。し、仕方がないですね。

 一応、それも込み込みで、詩子先輩に仕事を頼むつもりでいましたから。


 そして、うちは決意を新たに、詩子先輩にこう宣言しました。


「うち、そこで舞日先輩に告白しようと思いますッ!」


 結果がどうなるかは分かりません。

 仮に成功した後、どうなるかも全く分かりません。父のこととか、結婚のこととか.....。


 でも、この想いだけは、舞日先輩を好きだというこの気持ちだけは、どうしても伝えたいのです。

 想いを、気持ちを伝えないまま諦めて、ずっと後悔していく人生だけは絶対に嫌なのです。


 だから、うちは今日舞日先輩に告白をします。



(舞日先輩、待っていてください! あなたの、あなただけのうちが、いま想いを告げに行きます!!)



「直接対決とか面白そうね。澄香ちゃん、対決シーンの動画をお願いしてもいいかしら?」

「しませんからね!?」



□□□□ ~うちの好きな先輩の帰還~ □□□□


「「.....」」


 開いた口が塞がらないとはこのことでしょうか。

 それはうちだけではなく桂子さんも同様で、目が飛び出しそうな勢いで驚愕しているところです。きっとこの場に舞日先輩がいたら、「須藤さん。変な顔」と言って微笑んでくれることでしょう。


 と言うよりも.....。


「須藤さん。それは女の人がして良い顔じゃないよ」


 実は居たりするんですけどね。

 それに、ほら。多少言葉は異なりましたが、やっぱり舞日先輩はうちに微笑んでくれました。


 そして、舞日先輩の久しぶりの言葉を聞けて、笑顔を見れて、うちの心は温かくなりました。

 ずっと思っていたのですが、どうやら舞日先輩の言葉は、笑顔は、うちにとっての栄養(カンフル)剤だったのかもしれません。



 ・・・。



 そうそう。舞日先輩のいきなりの登場に驚いた方も多いでしょう。

 当然です。うちだって驚いたんですから。


 では、どういうことかと言いますと.....。


 うちもよく分からないんです。

 今、この状況すらもよく分からないのですから。


 それと言うのも、愛菜さん.....でしたでしょうか。

 その方が突如「どーーーーーん!」と掛け声を掛けた瞬間、病室が異様な光に包まれました。それはもう目を開けてはいられない程に.....。

 愛菜さんが何をしているのかは分かりませんが、一言ぐらい注意はしてほしかったです。


 そして、まばゆい光が収まり、ようやく目が慣れてきたと思ったら、それは起きました。


「「えぇ!?」」


 うちと桂子さんは目の前のあまりな事態に、同時に驚きの声を上げてしまいました。

 それもそのはずです。だって.....。


「.....すぅ。.....すぅ」

「なぁ? これって必要あるか? 俺もみんなと一緒に戻っても良かったんじゃ.....」


 うちと桂子さんの目の前には、()()()()()()()もいるのですから。


(こ、これはどういうことですか!? なんで舞日先輩が二人も!? まさか、日頃の行いが良いうちへのご褒美タイムだとでも言うんですか!?)


「あらやだ。どうしましょ。あっくんが二人も居るとか、なんだか興奮しちゃうわね」


 そんな錯乱しているうちと、あたかも当然のように恍惚な表情を浮かべている桂子さんを他所に、舞日先輩達の日常とも取れるような会話が続いていきます。


「もう! アユムさんは分かっていないですね! よくアユムさんが言っているじゃないですか。シチュエーションが大事だと。ここは『彼氏を出迎える彼女』というシチュエーションが重要なんですよ」

「出迎えるって、さっき別れたばかり.....。まぁ、別にいいか」


───なでなで。


「えへへ。おかえりなさい、アユムさん」

「ただいま、ラピスさん」


 舞日先輩に頭をなでなでされ、飛びっきりの笑顔を見せている瑠璃さん。

 とても幸せそうで、とても羨ましいです。.....いいな~。うちも舞日先輩になでなでされたいです。


 ・・・。


「おかえりなさいませ、歩様。無事の帰還おめでとうございます。お待ちしておりました」

「ただいま、ニケさん。それと、アテナの補助お疲れ様です」


───なでなで。


「あっ.....。キス.....が良かったです」

「うっ.....。ほ、本当、ニケさんは相変わらずですね」


 瑠璃さん同様、舞日先輩に頭をなでなでされて飛びっきりの笑顔.....ではなくて、心底残念そうな表情をする仁菜さん。

 いくら舞日先輩の(自称)彼女だからと言っても、うちの目の前で舞日先輩とキスをするとか許せませんし、認めませんからね!


 ・・・。


「歩~! ちゃーんと召還できたよー! ねぇー? えらいー(。´・ω・)?」

「はいはい。偉い偉い」


───ぽふっ。ぽんぽん。


「にへへー! ありがとー(*´∀`*)」

「ただいま、アテナ。それと、ありがとな?」


 瑠璃さんや仁菜さんとは異なり、舞日先輩に頭をぽんぽんされて、にぱー☆と八重歯を覗かせながらかわいらしい笑顔を見せる愛菜さん。

 あれ? 今度はなでなでじゃないんですね? でも、頭ぽんぽんもいいですよね.....。うぅ.....、非常に悩みます。うちはどっちをしてもらおうかな? それにしても、.....この子胸が大きい!?


 ・・・。


「主、おかえりなのじゃ。どこも異常はないかの?」

「ただいま、ヘリオ。ニケさんの補助もあったし、問題はないな」


───もふもふ。


「くふふ。今日は帰還祝いなのじゃ。妾に存分に構うが良い」

「これこれ! ヘリオの耳と尻尾は病み付きになるんだよなぁ。もっふもふ~!」


 こちらは舞日先輩に耳と尻尾をもふもふされて、尻尾を嬉しそうにたなびかせながら両手を口にあてる仕草でかわいく微笑む妖子さん。

 と言うか、耳と尻尾!? 妖子さんはいつの間にコスプレに着替えたんですか!? そもそも、見るからに中学生っぽいのに、実はレイヤーだったんですね.....。


 ・・・。


「アユム! おかえりなさい、なのだ!」

「ただいま、モリオン。うん。ちゃんと言えたな」


───さわさわ


「聞けて良かったのだ! みんなどうもなのだ! 我、みんなのこと好きなのだ!」

「うぉい!? 誰だ!? モリオンに、こんな下らないことを教えたのは!?」


 なにがなんやら、訳が分からないことで絶叫している舞日先輩に体の割りに大きい尻尾をさわさわされて、のだー!と気持ち良さそうに万歳をしている森音さん。

 もはや、森音さんもレイヤーだったことには驚きません。ですが、この子.....。なんだか元気いっぱいでとてもかわいらしいです。保育士にでもなった気分です。


 ・・・。


「歩君。おかえりなさーい☆」

「ただいま、ヘカテー様」


───ぽふっ。ぽんぽん。


「にへへー! ありがとー! ねー? この()()、もらってもいいー?」

「人形?.....って、うわ!? び、びっくりした.....。な、なんだこれ?」


 ベッドに横たわっている舞日先輩(にんぎょう)? を見て驚いている舞日先輩に頭をぽんぽんされて、愛菜さん同様、にぱー☆と犬歯を覗かせながらかわいらしい笑顔を見せる紫緑さん。

 う~ん。この子、なんだかちょっと怖いです。瞳が沈んでいるというか死んだ魚のような瞳をしているというか.....。とにかく、何を考えているのか全く分からない不気味な瞳です。


 ・・・。


 それよりも、紫緑さんの言葉の中に気になる文言がありました。

 早速、うちはそれを確かめようとしたのですが、この人がそれを許しませんでした。と言うか、あなたですか!?


「あっくん。おかえりなさい」

「うぉ!? お、お袋、居たのか.....。と言うか、あっくんは止めろって、いつも言っているだろ?」

「いいじゃない。親子なんだし、照れないの。それと、お母さんには彼女さん達みたいになでなでとかしてくれないの? お母さん、すごーく心配したのよ?」

「はぁ? する訳ないだろ.....」

「えー。じゃあ、お母さん、ここから飛び降りる」

「ちょっ!? 待て! 分かった! 分かったから!」


───なでなで。


「あっくん、ありがとう。もう! 本当に素直な子じゃないんだから! でも、そんなあっくんもかわいいんだけどね♡」

「ハァ...............」


 舞日先輩に大きい溜め息を吐かれながら頭をなでなでされて、母親から一人の女性へと変貌している桂子さん。

 正直、さすがのうちもドン引きです。恐らくですが、(自称)彼女さん達と舞日先輩とのいちゃいちゃを見て触発されたと思うのですが、本当にドン引きです。


 うん。桂子さんがこんな様子じゃ、舞日先輩が実家に帰省したくはならないですよね。


 ・・・。


 それよりも、そんなことはどうでもいいんです。

 と言うか、桂子さんは邪魔しないでください! むしろ、なんでこの状況に順応しているんですか! まったく、桂子さんときたら.....。


 うちはずっと気になっているんです。

 先程、紫緑さんがベッドで横たわっている舞日先輩を指差して「人形」と言っていたその訳を.....。


「舞日先輩!」

「うわ!? す、須藤さん!? 須藤さんがなんでここに!?」

「お見舞いです! それとも、うちがお見舞いに来たらいけないですか?」

「.....あ~。ごめん。ありがとう、嬉しいよ」


 だから、うちは舞日先輩に問い詰めることにしました。


 紫緑さんが言っていた『人形』とはどういう意味なのかを.....。

 それと、この(自称)彼女さん達と舞日先輩の関係はなんなのかを.....。


「おかえりなさい、舞日先輩」

「ただいま、須藤さん」

「う、うちもなでなでしてもらえたら嬉しいです」

「須藤さんも何言ってるの!?」


 こうして、晴れてうちも舞日先輩になでなでしてもらうことができました。

 そして、舞日先輩の男らしいゴツゴツとした手の感触.....。(自称)彼女さん達及び桂子さんが幸せそうな表情になるのも頷けます。



 まずは挨拶。

 挨拶は何よりも重要ですよね!



□□□□ ~うちの好きな先輩の彼女達~ □□□□


 舞日先輩との待ち合わせは会社のエントランスホールです。

 既に舞日先輩は業務を終えて待っているとのことですので、うちも詩子先輩に仕事を任せ、急いで待ち合わせ場所へと向かいました。


 ちなみに、言うまでもないと思いますが、これから決戦の場へと向かうのです。

 手早くではありますが、おめかしはバッチリとしてきました。と言っても、うちは元からナチュラルなほうなので、一目見ただけでは分からないと思いますが.....。


 それでも、舞日先輩は気付いてくれるでしょうか?


「はぁ.....。はぁ.....。お、お待たせしました。舞日先輩」

「そんなに待ってないから大丈夫。と言うよりも、そんなに急がなくても良かったのに。せっかく、きれいにしてきたのが台無しになるところだったよ?」

「あっ。気付いてくれたんですね。嬉しい.....です」

「ん? 当然だけど? 須藤さん、いつもよりも気合いが入っている感じだからさ」


 そうなんですよね。

 舞日先輩が帰還後、急にモテだした一番の理由が、こういう部分なんですよね。


 舞日先輩は元から優しい方ではありましたが、帰還後、優しい上にちょっとしたことでもよく気が付くようになりました。

 そればかりか、いつも余裕があり、沈着冷静なだけではなく英断即決、有言実行と自分に自信を持ち、男らしさというものが兼ね揃ったようにも見受けられます。


 その上で、仕事は優秀、誠実でたばこやギャンブルなどをせず、(多分)お金も持っているという以前の要素も加わり、舞日先輩の株はいまや(社内中)うなぎ登りとなっています。

 なんでも、日々女性社員からの告白が絶えないというのですから納得です。.....とは言え、全て断っているようですが。


 当然ですよね。ミーハーな女性社員の告白なんて断られて当然です。

 せめて、うちぐらい真剣に舞日先輩を想うぐらいでないと告白する権利ですら無いのですから。女性社員(男に飢えたハイエナ)の方々はもっと自重してください!


 さて、舞日先輩に挨拶が済んだところで、舞日先輩の傍らに目を向けて見ますと.....。


「お姉さーん、やっほー( ´∀` )」

「須藤.....と言ったかの? こんばんはなのじゃ」


 そこに居たのは愛菜さんと妖子さんの二人でした。

 いつも送り迎えに来ている仁菜さんが居ないというのは非常に珍しいです。


「ニケさんはラピスさんと一緒にお祝いの料理を作っていますよ。ニケさんはいつも「ラズリには負けていられません!」とか言って、料理の腕を競っているんです」

「はぁ.....? ニケさん? ラピスさん?」


 話の流れからして、誰が誰なのかはなんとなく分かります。

 恐らく、ニケさんというのが仁菜さんで、ラピスさんというのが瑠璃さんあたりかと。


 ただ、なぜか舞日先輩はいつもうちの知らない名前をあげるんですよね。

 あれですか? 本名というか外国のほうの名前とかでしょうか? 仁菜さんはともかく瑠璃さんは外国人っぽいですし。


「それは追々説明するってことで。じゃあ、行こうか」

「はい! よろしくお願いします!」

「おー! しゅっぱーつ(o゜ω゜o)」

「ほれ、姉さま。手を繋ぐのじゃ。もし、姉さまが迷子になったことをニケ様に知られでもしたら、妾がニケ様に叱られるのじゃ」

「はーい! じゃー、お姉さんもつなごー?(・ω・´*)」

「え?」

「繋いでやってくれないかな? そいつ、言うこと聞かないとうるさくてさ」


 こうして、四人仲良く手を繋いで舞日先輩のご自宅に向かうことになりました。

 ただ.....。(うち)・(愛菜さん)・(妖子さん)・(舞日先輩)という繋ぎ方はおかしくないですか!? 普通は(妖子さん)・(愛菜さん)・(うち)・(舞日先輩)なのでは!?


「ダメに決まっておろう。何処の馬の骨とも分からぬ者に、主と手を繋がせる訳にはいかぬ」

「.....あはは。うちが何処の馬の骨.....ですか」

「何処の馬の骨って、お前な.....。須藤さんは俺の後輩だぞ?」

「知らぬ。ダメなものはダメなのじゃ。主は妾と繋げば良い」

「くっ.....!」


 どうやら、うちの恋における大きな障害となりえるのは仁菜さんだけではなかったようです。

 まさか、「所詮は中学生」と歯牙にも掛けていなかった妖子さんすらも、うちに敵対姿勢を見せるとは思いもしませんでした。.....え? 桂子さんですか? 桂子さんはほら、一応、舞日先輩とは親子ですし。



 ・・・。



 ところ変わって、退院祝いパーティー。


 舞日先輩のお祝いパーティーはそれはもう豪華でした。

 いいえ、豪華なのはパーティーだけではありませんでした。舞日先輩の住んでいる部屋も.....。


「え? 部屋だけではなく、このマンション自体が舞日先輩の所有物なんですか?」


 すいません。言葉の綾ですね。

 舞日先輩が()()()()()()マンションそのものも、また豪華なんです。


「そうですよ。マンションだけではありません。この土地も全て歩様の物です」

「嘘.....でしょ。し、信じられません」


 当然、舞日先輩が凄く高級そうなマンションに移り住んだことは知っていました。

 うちも舞日先輩のお部屋が眺められる場所(アパート)へと引っ越しましたし。


 ただ、舞日先輩がこのマンション自体を買い上げたとは予想もできませんでした。

 でも、そう言えば.....。舞日先輩達以外で、ここのマンションの住人が出入りしているところを一度も見たことがないんですよね。.....え? まさか!?


「私達以外、住んでいる者などおりませんよ。居る必要もないですしね」

「HAHAHA。須藤さん。一応言っておくけど、俺の貯金で買える訳はないからね?」

「で、ですよね.....。このマンションと土地も.....でしたっけ? 軽く見積もっても億は余裕で越えそうですし.....」

「全部ニケさんのおかげだね。ニケさんは見た目通り、仕事ができる人でさ」

「お誉めに与り光栄です。このニケ、歩様の為ならば寝食惜しんで働く所存でございます」


 あは、あはは.....。こ、このマンションはそうですね。所謂パークシティと呼ばれるものに相当します。

 セキリュティ万全な塀にぐるりと囲まれた、世帯数が何百件と可能な大型のマンションが3つ程連なっており、豊かな自然と小さな公園もあります。そういう形態のパークシティです。


(これを全て仁菜さんが舞日先輩の為に.....)


 いくら東京近郊だからと言って、このマンション全てと土地までも買い上げるなんて並の実力者ではありません。仕事ができる、できないの範疇を越えています。


 これが仁菜さんという、舞日先輩の彼女その人なんですね。

 とてもじゃないですが、うちでは到底仁菜さんには敵いません。


 ・・・。


 しかし、今日告白を決意したうちはここで肩を落とす訳にはいきません。

 仕事面で敵わないのであれば、家庭面で、料理で、勝負に出ればいいのです。


 これでも、うちは小さい頃から母のお手伝いを積極的にしてきましたし、小学校に上がった辺りからはお菓子作りだってやってきました。腕前的には、プロ級とまでいかなくとも準プロ級.....。そう、セミプロ級の腕前ぐらいはあるはずです。


 そう自分に言い聞かせつつ、目の前の料理を口に運んでみました。

 これは舞日先輩のお口に入るものですし、うちが厳しくチェックしますからね!


 しかし.....。


「なにこれ.....。凄く美味しい.....です」


 結果は、今まで食べたことのない程のおいしさでした。

 プロとかそんなレベルの美味しさではないです。昔、家族で食事に出掛けたどのお店の料理よりも格段に上の味でした。三ツ星.....いいえ、そんなちゃちなレベルではありません。と言うか、これ、嫌いな人いないのでは.....?


「ありがとうございます。それ、アユムさんの好物なんですよ」

「え!? で、でも、うちも結構というか、かなり好きな味なんですが.....」


 ここで「うちと舞日先輩は嗜好が一緒なんですね!」とか、有頂天になれないところが非常に悲しいです。


 それと言うのも、うちとしてはもう少しさっぱり系の味付けのほうが好みなんです。

 対して、舞日先輩は男性らしく濃い目系が好きなことは、一緒にラーメンを食べに行っている内に知り得ました。


 つまり、うちと舞日先輩は好みの味が違うということになります。


 しかし、いまうちが口にしている料理は、うちでも好みの味だと言って差し支えのないものです。

 仮に点数をつけるのならば、10点満点中9点の出来映えです。これでさっぱり系の味付けだったのなら、文句なく10点満点だと言えましょう。


「私は長年研鑽を積んできましたので、アユムさんの好みに合わせつつ、万人の口にも合う料理を作ることができるようになりました。今では好き嫌いの激しい人であろうと、嫌いなものでも「美味しい!」と言わさしめるどころか、好物にさせてしまえるぐらいなんですよ」

「なんですか!? その神技は!?」


 ちなみに、様々な料理に箸を伸ばしてみましたが、どれもこれも10点満点もしくは9点台のものばかりでした。

 いいですか? どんなに厳しい目で見てもこれらの点数なのです。それと言うのも、ちょっと甘く見てしまうと、全てが10点満点台になってしまいますから.....。


「ラピスさんは出会った当初から抜群の腕前だったけど、今はそれ以上ですもんね。なんというか、俺の胃袋はがっちりとラピスさんに掴まれちゃいましたよ」

「えへへ。ありがとうございます。私の料理でアユムさんが、皆さんが幸せになる。こんな嬉しいことはありませんよ」

「歩様! 私だって、ラズリに劣らず、日々研鑽を重ねていますよ!」

「分かっていますよ。ニケさんの料理も俺は好きです」


 そう.....なんですよね。

 どれだかは分かりませんが、この料理の中には仁菜さんが作ったものも含まれているんですよね。それで、ほとんどの料理が10点満点及び9点台のものばかり.....。


 しかも、仁菜さんの態度から察するに、現時点では瑠璃さんのほうが仁菜さんよりも料理上手ということらしいじゃないですか。舞日先輩自身が瑠璃さんに胃袋を掴まれたとか言っていますし.....。


 それはつまり、仁菜さんはうちよりも料理上手で、瑠璃さんに至っては雲の上の人であるということです。


(あはは.....。こんなのってないですよ.....)


 先程の仁菜さんの件と同様に、舞日先輩の好みに合わせつつ、万人の好みにも合わせられる料理の腕前を持つ瑠璃さんは並の実力者ではありません。料理が上手、下手の範疇を越えています。


 これが瑠璃さんという、舞日先輩の彼女その人なんですね。

 とてもじゃないですが、うちでは到底瑠璃さんには敵いません。


 ・・・。


 だんだん自信が無くなってきました。お花を摘む回数も増えましたし.....。

 言うまでもないと思いますが、『仕事面や家庭面で敵わないのであれば、女の魅力で勝負!』ということにはなりません。それこそ圧倒的に不利、敵うと思っていたら頭の中を疑うレベルです。


 それと言うのも、当然瑠璃さんや仁菜さんはとてもきれいな方なのですが、その二人を嘲笑うレベルで圧倒的にかわいいのが、愛菜さんその人なんです。

 と言うか、「この子、本当に人間なんですか?」と疑いたくなる程かわいすぎます。


「んー? 私は人間じゃないよー(。´・ω・)?」

「え!?」

「それは本当だね。こいつはアテナ。一応、女神」

「だれがいちおーよーヽ(`Д´#)ノ」

「はいはい。アテナかわいいよアテナ」

「め、女神様.....?」


 普通だったら、「舞日先輩、さすがに漫画やアニメに影響されすぎですよ!」とか指摘してしまうところですが、病室での様々な怪奇現象を見た後では疑いようもなく.....。

 それに、愛菜さんの人間では到底到達し得ないかわいさは女神様というのに相応しい貫禄があります。少なくとも、化粧で若さを保ったり、美しさを表現しようと努力している人間とは明らかに一線を画しています。


 かと言って、愛菜さんは女神様だからノーカンとしましても、その次は妹? である妖子さんが出てくる訳なのですが.....。

 この子もまた冴え渡るようなかわいさなんですよね。.....あっ! もしかして、この子も?


「妾は女神様ではないのじゃ。れっきとした人間なのじゃ」

「え、えっと.....。と言うことは、その耳や尻尾は.....まさか本物なんですか?」

「あ~。コスプレではないよ。ヘリオは狐の獣人なんだ」

「じゅ、獣人.....?」


 これはさすがにズルくはないでしょうか。

 男性というのはすべからくコスプレが好きだと聞いたことがあります。その一例として、あの真面目な舞日先輩でさえ好きなんですから。


 そこに、生来からコスプレのような姿をしている獣人とか.....。


 しかも、愛され動物の一匹である狐の獣人とか、もはや愛される為に生まれてきたと言っても過言ではないですよね!? 生まれつきの勝ち組と言っても間違いではないですよね!? その上、かわいいとかズルすぎます!


「う、うむ? ここまであからさまに羨ましがられると、怒るに怒れるのぅ.....」

「どういう意味ですか?」

「ま、まぁ、落ち着いて。須藤さん。ヘリオにも色々とあったのは確かだからさ」


 それはそうでしょう。誰にだって、苦労の一つや二つぐらいはあるものです。

 でも、人生勝ち組の苦労や悩みなんて、負け組の苦労や悩みに比べたら案外ちっぽけなものなんですよね。だから、聞く価値もありません。


(もし、うちが勝ち組だったら、今頃舞日先輩と幸せな家庭を築いていたのになぁ.....)


 その後、元気いっぱいのかわいらしい森音さんも、妖子さんと同じように獣人であることを教わりました。はいはい。人生勝ち組、人生勝ち組。


 そして、もう一人の紫緑さんは説明されるまでもなく女神様だと分かりました。

 見た目となんとも言えない雰囲気が愛菜さんとそっくりですし、ここまでくれば話の流れ的にも「そうなんでしょうね」と思うところはありましたから。



 結局、ただの人間であるうちは、舞日先輩の(自称)彼女さん達に何一つ敵うものはありませんでした。

 ただただ自信を、ただただ告白する決意を削り取られるだけでした。



(ハァ.....。こんな悲しい事実を知るぐらいなら、今日のパーティーなんて来なきゃ良かったなぁ.....)



□□□□ ~うちの好きな先輩は、想像以上にうちの好きな先輩でした!~ □□□□


 舞日先輩の退院祝いパーティーは盛大に盛り上がった後、お開きとなりました。

 そして、いまうちは舞日先輩に送ってもらいつつ、夜遅く帰宅の途についている最中です。


 本来なら、舞日先輩と二人っきりのこのシチュエーションに喜ぶべきなんでしょうが.....。


 既に、うちの心はボロボロになっていました。

 言い様の知れない敗北感や絶望感、喪失感や虚無感、自信喪失、戦意喪失、自己嫌悪など、多くの負の感情に支配されていました。


 それと言うのも、結局舞日先輩の彼女さん達には何もかも敵わなかったのです。

 仕事面も、家庭面も、女としての魅力も、そして、舞日先輩のことについても.....。


 そんなうちが、舞日先輩に告白?.....無理無理。

 体よく断られるのがオチです。他の女性社員同様、「気持ちは嬉しいけど、ごめんね」と言われてお断りされるのが関の山です。


 所詮、うちもミーハーなその他大勢の一人に過ぎなかったということでしょう。.....泣きたいです。


───パサッ。


「.....え?」

「まもなく4月だと言っても、まだ夜は少し冷えるよね。遠慮なく使って」


 すると、突如舞日先輩が自分のコートをうちに羽織ってくれました。

 別に、うちは寒くはなかったのですが.....。もしかしたら、悔しくて、悲しくて、情けない自分に打ちひしがれていた姿を見て、うちが寒さで体を震わせていると勘違いしてしまった的な.....。


 やだ。そんな舞日先輩がちょっとかわいいです。

 それに羽織ってくれたコートから、舞日先輩の暖かい温もりと優しい香りが.....。くんくんっ。


「あ~。遠慮なく使ってくれとは言ったけどさ。できれば、あんまり匂いは嗅がないでね?」

「ひゃうッ!?」

「あはは。変な声。須藤さんってさ、()()()()()()()よね」

「うぅ.....」


 とても恥ずかしいです。

 入院前の舞日先輩だったら絶対に気付かなかったと思うのですが、今の舞日先輩には隠し事なんかできそうにありません。いいえ。そもそも、入院前の舞日先輩だったらコートを羽織ってすらしてくれなかったでしょう。


 前から舞日先輩のことは素敵だと思っていましたが、今の舞日先輩は素敵過ぎます。眩し過ぎます。

 だからでしょうか。今も舞日先輩を好きだという気持ちが溢れてきて堪りません。


 いっそのこと、この想いを、この気持ちを全て吐き出せたら、どんなにスッキリとするでしょうか。どんなに幸せなことでしょうか。


 でも、現実が重くのし掛かってくるのです。


 当然、フラれることは怖いです。

 でも、何よりも、フラれることで『うちは舞日先輩の側に居る資格がない』とか『うちが舞日先輩の側に居て良い理由がない』とか現実を突き付けられることの方が、現実を直視しないといけなくなることの方が怖いんです。そんなこと考えたくはないんです。


 だったら、いっそのこと舞日先輩への淡い想いを秘めるという手も.....。


「.....」

「.....」


 結局、考えがまとまらないまま、うちのアパートの前まで来てしまいました。

 このまま告白もせずに別れるのが一番無難なのかもしれません。例え、それが問題の先送りであったとしても.....。


 そう思っていたのでしたが、舞日先輩からは意外な言葉が届きました。


「須藤さん。良かったら、少し歩かない?」

「え!?」

「安心して。急に襲ったりはしないからさ。本当にちょっとだけ歩くつもりだよ」


 あれ? もしかしたら、舞日先輩はうちのことを襲いたい.....?

 た、確かに? 愛菜さんには劣りますが、それ以外の方達ならうちの圧勝.....じゃなくて! 過分な期待はしない方が賢明でしょう。恐らく、本当に歩くつもりだけなのでしょうから。


 ・・・。


 うちは舞日先輩の後を追うようにして、しずしずと付いていきます。

 う~ん? 話をしたいと言う割りには無言が続いているようですが.....。


 そして、うちと舞日先輩が来たのは人気の無い小さな公園。

 そこから、うちと舞日先輩の物語は急速に動き始めることになるのです。


「えっと。須藤さん。俺に何か話したいことがあるんでしょ?」

「!?」

「あれ? 違った? 恐らく、そうなんだろうなとは思ったんだけどさ」

「ど、どうしてそう思うんですか?」

「さっき言ったよね? 「須藤さんは結構態度に出る」って」


 確かに言われはしましたが、それが何だと言うのでしょうか。

 でも、舞日先輩の瞳は、表情は、全てを分かっているとでも言わんばかりに雄弁に何かを物語っています。まるでうちの全てを見透かしてでもいるかのように.....。


「須藤さん。意識して俺の目に映ろうとしているよね。朝の出勤時とか帰宅時とか。後、報告の時もか。それと、同じ昼食にしたりとかね。そうそう。なぜかは分からないけど、コンビニでは変装して俺の側に居る時もあるよね」


「し、しししし知っていたんですか!?」


「こっちの世界に戻って来て以降はね。だから、会社のエントランスホールで須藤さんの気合いの入った顔を見て、これは何かあるなと思ったんだ」


 えー。舞日先輩、ちょっと気が付きすぎませんか?

 ただ、うちのストーキング(愛情表現)については、「全然気にしないよ。それよりも、もっと凄いのを経験しているからさ。HAHAHA.....」と遠い目をしながら、笑って許してくれたことについては本当に嬉しかったです。


 と言うか、舞日先輩の彼女さん達は、うち以上に舞日先輩に迷惑を掛けているみたいですね。

 彼女の特権というやつですか? 凄く羨ましいです! うちだって、四六時中24時間いつでも舞日先輩を眺めていたいんですからねッ!


「でもさ。(うち)に来てから、急に元気が無くなっていくし、仕舞いには話を諦めようとしていたでしょ?」

「そ、そんなことまで分かるんですか!?」

「伊達に76年も生きている訳じゃないからね。大抵のことは分かるよ。.....あっ! でも、コートはそのまま使ってくれていいよ。大丈夫だとは思うけど、本当に体が冷えたりでもしたら大変だしさ」

「!!」


 ぜ、全部気付かれていました!

 と言うことは、全て舞日先輩の掌の上だったということでしょうか?


 やだ。全てを見透かされたこの感じ、うちの全てを知られてしまったこの高揚感、本当に癖になりそうです。

 今すぐにでも、うちの想いを、うちの気持ちを舞日先輩にぶつけたいです。


 でも、どうしても、踏ん切りがつきません。

 なにか一押し、せめてもう一押し、うちの背中を押してくれるものさえあれば、うちだって.....。


「須藤さんが落ち込んだ原因は、もしかしてアテナ達のこと?」

「ほ、本当に舞日先輩は変わられましたよね。.....その通りです」

「じゃあ、俺に相談してみたら? アテナ達のことを誰よりも知っているのは俺なんだしさ」

「え?」


 とても不思議な感じです。

 恐らくですが、舞日先輩はうちが告白するつもりなのを既に分かっているんじゃないかと思われます。いいえ、まず間違いなく分かっているのでしょう。


 それを分かっている上で、舞日先輩にも関わることを「俺に相談してみろ!」と言っている訳なのですから、もう意味が分かりません。


(うちをからかって遊んでいる.....?)


 でも、変わられたとはいえ、舞日先輩はそんな人じゃない気がします。

 だって、いつだって舞日先輩はうちの味方なのでしたから。.....と言うことは、まさかうちの背中を押そうとしてくれている?


 考えたって答えが出るはずはありませんでした。

 それに、答えが出せたところで、今のうちが舞日先輩に敵うはずもありません。


 だったら、ここは相談する他はないですよね! 女は度胸ですッ!


「舞日先輩の彼女さん達は本当に凄いですよね。かわいいし、美人さんだし、仕事もできて、料理もできて、スタイルもいいです。何でもできて、何でも知っています」

「それについては否定しないよ。実際そうだし、俺には勿体ない子達だと本気で思ってる」


「だからですかね? 気分が落ち込んでいくんです。悲しくなっていくんです。どうにもならない現実を見せ付けられているようで.....」

「どうにもならない現実? どういうこと?」


「うちじゃ敵わないなって.....。一つも勝てるところがないなって.....」

「あ~。そういうことか。それは本当に仕方がないよね。アテナ達はあまりにも『別格』過ぎるから」


 別に、うちも既に分かっていたことなので今更気にするつもりはないのですが、改めて舞日先輩に「仕方がないよね」と肯定されてしまったことで、より一層惨めさだけが残った気がします。

 それに、愛菜さん達は別格だと強調されたことで、今後うちが愛菜さん達に追い付ける目処も、保証も全く無いとさえ言われているような気がします。うぅ.....。これは思った以上にきついです。


「ごめん。ごめん。でもね、実際のところ本当に難しいとは思うよ。そこだけは覚悟して」

「そ、そんな~.....」

「ただ、須藤さんの言葉の中で一つだけ間違いがある」

「間違い.....ですか?」

「そう、間違い。なにか分かる?」

「いえ、全く分からないです」

「じゃあ、おさらいしようか。営業の基本だ。契約の成否の8割はなにで決まる?」


 あっ.....。凄く懐かしいです。

 うちが舞日先輩に新人指導されていた時のことを思い出します。


 そして、舞日先輩との日々を思い出すだけで、うちの心が温かくウキウキとしていくのがハッキリと分かります。


「外見で、見た目で決まります!」

「その通り。じゃあ、その際、一番の武器となるのはなにか覚えている?」

「えっと。笑顔.....ですよね?」

「正解。じゃあ、最後の質問。その時、俺が言った言葉を覚えている?」

「はい! 『うちの笑顔は愛嬌があって()()好き』って言ってくれました!」

「お、おぅ!? い、一番って、言ったかな.....。まぁ、いいか。実際、その通りなんだし」

「え!? じゃ、じゃあ、うちの言葉の間違いって言うのは.....」

「そうだね。『一つも勝てるところがない』の部分だよ。俺は色々経験してきた中で、やっぱり須藤さんの笑顔が一番好きだと改めて思ったよ」


 嬉しいです。嬉し過ぎて、いまうちがどんな顔をしているのか全く分かりません。

 でも、きっと涙や鼻水で人には見せられない顔をしているのは確かでしょう。ハンカチ.....。ハンカチ.....。あっ! そう言えば、お花を摘みに行った際、悔しさのあまり噛み千切ってしまったんでした。


「俺のもアテナに汚されちゃってさ。とても貸せるものじゃないんだよ」

「あ、愛菜さん.....。余計なことを.....」


 しかし、どうしましょう。こんなブサイクな顔を舞日先輩にお見せする訳にはいきません。

 かと言って、このままと言うのは.....。う~ん。仕方がありませんね。こうなったら、舞日先輩に貸して頂いたコートでそっと顔を隠して.....。あれ?


「もしかしたら、もしかして、そういうことなんですか!?」

「し~。恥ずかしいから、その先は言わないということで」

「ど、どこまで、うちのことをお見通しなんですか!」


 ヤバいです。舞日先輩がカッコ良過ぎて、惚れてしまいそうです。.....あっ。いや、今でも惚れてはいるんですけどね? それ以上にってことです。

 それに、正直舞日先輩がここまでうちのことを見てくれていたとは思いもしませんでした。


 ぬふふ。うちが思っていた以上に、うちは舞日先輩に意識されていたということでしょうか?


(.....はっ! ちょ、調子に乗ってはいけませんよね。.....ぬふ。まずはしっかりと想いを告げないことには、.....ぬふふ。どうしようもありませんから。.....ぬふふふ)


 それに、『うちの笑顔が一番好き』という十分過ぎる程の後押しをもらったのです。

 もう、うちの心に迷いはありません。ただただ、うちの想いを、うちの気持ちを、舞日先輩にぶつけるのみです。


(す~は~。す~は~。よしッ!)


 結果がどうなるかは分かりません。

 仮に断られても、『うちの笑顔が一番好き』という事実は覆りません。


 ですので、本当はお付き合いできたら嬉しいですが、もし断られても悔いはありません。.....あっ。や、やっぱり落ち込みはするかもです。


 ですが、怖いものはもうありません!

 いざ! 勝負の時です!!


「舞日先輩! 大事なお話があります!」

「はい。()()()()。なんでしょうか?」

「!!」


 あー! 舞日先輩!

 ここで、それはズルいですよ!!


 舞日先輩のいきなりの先制パンチに意表を付かれましたが、うちの勢いは止まりません。止められません。止めることなど誰にだって不可能に近いです。それこそ、仁菜さんや妖子さんにだって!!


 だから、うちはこのまま突っ切ります!


「うちは───舞日先輩のことが好きです! 付き合ってください!」


 こうして、全ての状況を受け入れたうちは、ようやく悲願の告白を果たしたのでした。



 結局、うちは今後も愛菜さん達には色々と敵わないのでしょう。

 それでも、舞日先輩が『うちの笑顔が一番好き』だというのなら、うちには舞日先輩の側に居ていい資格と理由が十分にあります。後は舞日先輩の承諾(へんじ)さえあれば.....。



 そして、舞日先輩の答えは───。











 それは、うちと歩先輩の二人だけの秘密にしておこうと思います。



                                後輩 須藤澄香  完



次回、異世界編『異世界さん、こんにちは①』!


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これにて、『後輩 須藤澄香』編は終了となります。

お楽しみ頂けたでしょうか?


次話は更に特別版『異世界編』へと続いていきます。

本編を楽しみに待たれている方はもう少しお待ちください。


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今日のひとこま


普通(うち)が一番!~ 


「歩先輩! 歩先輩! うちの笑顔が一番好きって本当ですか?」

「ん? 本当だけど.....なんで?」

「だって、愛菜さんや瑠璃さんがいますし.....」

「あ~。確かにアテナの笑顔は群を抜いてかわいい。それは間違いない」


「ですよね.....。でも、うちが一番なんですか?」

「ズルい言い方かもしれないけれど、かわいさ部門ではアテナが一番かな」

「かわいさ部門.....ですか?」

「そう。かわいさ部門」


「では、瑠璃さんはなんなんですか?」

「きれいさ部門かな」

「分かります。瑠璃さんはかわいいと言うよりかはきれいですもんね」

「そうそう。アテナとはベクトルが違うんだよ。犬と猫のようなもの。比べようがないんだ」


「では、きれいさ部門では瑠璃さんが一番なんですね」

「いや? それはどうだろう?」

「え? 違うんですか? では、仁菜さんとかですか?」

「でもないかな」


「そうなんですか? でも、妖子さんや森音さん、紫緑さんはかわいい系ですよね?」

「そうだね。.....と言うか、彼女の中から必ず一番が出るという訳でもないしさ」

「えぇ!? そ、そうなんですか!?」

「言っちゃ悪いけど、彼氏彼女が一番!というのは完全な補正ありきの話だよね? 俺はそういうところは厳正に判断する主義なんだ。所謂、完全平等主義ってやつ?」


「歩先輩ッて、冷めているというかリアルなんですね」

「そう? と言うか、俺の周りにはリアリストが多いからなぁ.....」

「仁菜さんとか妖子さんですか? あの人達って、容赦ないですよね.....」

「だからこそ、こんな俺でも異世界で生き抜いてこられたんだけど。.....それにさ?」


「なんですか?」

補正(おせじ)無しな上で一番になったほうが嬉しいものじゃない?」

「まぁ.....。それはそうですかね?.....と言うか! うちは何の一番なんですか!  かわいさでもきれいさでもないんですよね?」

「そんなの決まってるじゃん」


「.....(ごくっ)」

「澄香さんは【俺部門で一番】」

「あ、歩先輩部門!?.....ほ、補正無しなんですよね?」

「当然。補正で見る必要がない程、一番だよ」


「.....ぬふ。.....ぬふふ。.....ぬふふふ」

「.....それは気持ち悪い」

「歩先輩!? でも、うちの笑顔のどこがいいんですか?」

「見ていて落ち着けるところ。いつまでも見ていたいところ。一緒に居て幸せになれるところ」


「歩先輩.....」

「まぁ、ぶっちゃけると、普通なところかな?」

「歩先輩!?」

「普通が一番なんだって。かわいすぎもきれいすぎも、普通な俺には荷が重くてさ」



う~ん。普通というのが微妙ですが.....。

それでも、歩先輩の『特別な普通(いちばん)』なら別にいいかな?


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