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特別編 ライバル登場!?後輩 須藤澄香②


前回の特別編のあらすじ


やっぱり主人公周りの女性陣はどこかおかしい!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


既に、須藤澄香のバレタインデーは失敗に終わると明言してありますが.....。

それでも、須藤澄香の涙ぐましい努力(じゅんび)と、やっぱり須藤澄香はやべー奴であるという事実をご笑納ください。


□□□□ ~行動だけじゃない!?~ □□□□


 2月14日。St. Valentine's Day。

 遂に、この日がやってきてしまいました。舞日先輩に想いを告げるこの日が.....。


 そして、この日の為に、それはもう真心込めた手作りチョコを作ってきました。

 元々、料理を始めお菓子作りはうちの趣味でしたので、手作りチョコを作ること自体は全く問題ありませんでした。

 ですが、『どんな手作りチョコにするのか』という、この一点だけはなかなか決まらなかったのです。


 だって、仕方がないですよね。

 このチョコの出来映えによって、告白の成否が決まってしまうのですから.....。


「チョコで決まる訳がないでしょ。メインは告白で、チョコはあくまで切っ掛けなのよ?」

「で、ですが、もし舞日先輩に渡したチョコでうちの想いが伝われば、告白しなくても済むかもしれませんし.....」

「無理。無理。舞日君がそういうのに疎いことぐらい、澄香ちゃんなら知っているでしょ?」

「うぅ.....」


 詩子先輩の言う通りです。

 先日の舞日先輩とのディナーデートでも、それとなく帰りたくないアピールをしてみましたが、結果は惨敗でした。

 いいえ、惨敗どころか「やっぱり、須藤さんと一緒に食べるラーメンが一番旨いよ」との言葉と笑顔を頂きましたので、うち的にはむしろ大成功でした。


「舞日君は甘いものもイケるみたいだし、そこまで悩む必要はないんじゃない?」

「あっ。いえ。舞日先輩は食べられるだけで、そこまで甘いものは好きではないんですよ」

「あら、そうなの? 良いこと聞いたわ。さすがは澄香ちゃんね」

「いつも見ていましたから、これぐらいは.....」


 舞日先輩は、例えばチョコにしても、スイートやミルクのような甘さたっぷりなものよりかは、ビターのような甘さ控えめなものを選ぶ傾向が強いです。

 そうそう。チョコと言えば、舞日先輩の最近のお気に入りは【メンタルバランスのGOBA】がお気に入りみたいです。ストレス低減のやつですね。当然、味はビターですよ。


「へ~。でも、なかなか見掛けないやつよね?」

「そうですね。だから、舞日先輩()アモゾンで購入していますよ」

「ちょっと待って。なんで澄香ちゃんが、舞日君のアモゾンの利用状況を知っているわけ?」

「えっと.....。うち、また何かやっちゃいました.....?」

「今すぐやめなさいッ! 取り返しのつかないことになるわよ!」


 だ、だって、知りたくて知りたくて体が疼くんですよぉ.....。


 ・・・。


 と、なんやかんやありましたが、最終的にはオーソドックスなハート型のチョコにすることに決めました。

 これなら、いくら鈍感な舞日先輩であろうとも、うちの想いに気付いてくれるはずですよね。


 あっ! でも、告白はしますよ!


 覚悟は決めてきました。

 詩子先輩曰く、「大丈夫よ。間違いなく成功するわ」とのことなので、気合いは十分です。


 いいえ、気合いだけではないです。

 舞日先輩と晴れて恋人同士になれた時の事を考えて、その後の覚悟(じゅんび)もしてきました。


 では、その準備は何かと言いますと.....。


 告白成功後、舞日先輩をうちの家にご招待するつもりです。

 それと言うのも、うちがどれだけ舞日先輩を()()()()のかを知って欲しいからです。


「あ~。少しだけ澄香ちゃんのことが分かってきた気がするわ。.....いい? 絶対に片付けておきなさいよ?」

「え!?」

「本気で引かれるわよ? 私はアドバイスしたからね?」

「そんな~.....」


 結局、なにやら勘づいた詩子先輩のアドバイスのもと、舞日先輩の写真やグッズなどは全て目の届かない場所に片付けることになりました。

 これも、うちなりの愛情表現のつもりなのですが、昨今の現代社会は厳しいようです.....。


 さて、うちの『舞日先輩で満たされたお部屋大公開作戦』は未遂に終わった訳なのですが、なにも舞日先輩をうちの家にご招待する目的はそれだけではありません。本来の目的は別にあるのです。


 その目的の為に、奮発して舞日先輩の好きなお酒を用意しました。事前調査済みですッ!

 そして、更には勝負下着、所謂舞日先輩の好みに合わせた下着を用意しました。事前調査済みですッ!

 もっと言うのなら、舞日先輩がもの凄い方である可能性を十分に考慮して、その準備は念入りに、そうとても念入りにしてあります。ま、まだしばらくは二人っきりでいたいですしね.....。


 当たり前ですが、さすがのうちでも、こればっかりは事前調査をできませんでした。

 ただ、一つ分かったことは、()()舞日先輩にはそういう経験が無いということぐらいでしょうか。それに、そういうお店に通った経験が無いと分かった時はとても嬉しかったです。


 つまり、何を言いたいかといいますと.....。


 舞日先輩に大本命チョコを渡すつもりでいるということです。

 手作りの本命チョコとは別に、大本命チョコという名の『うち』を舞日先輩に食べてもらうつもりなのです。.....引かれました? でも、いいんです!


 だって、舞日先輩がそういうシチュエーションを好むのは事前調査済みですからねッ!


「だ、大胆ね。.....と言うかさ、なんで告白は消極的なのに、そういうことは積極的なのよ」

「告白は恥ずかしいじゃないですか。それに、断られたら.....と思うと怖いですし」

「いやいや。普通は逆でしょ!」

「そうですか? だって、舞日先輩にはうちの全てを知ってもらいたいですし」

「.....う~ん。それでもどうなの?」


 詩子先輩の言いたいことはなんとなく分かります。

 きっと、『軽い女はダメ!』とか『もっとお互いをよく知ってから』という類いの心配なのでしょう。


 でも、ちょっと待って欲しいです。


 うちは舞日先輩のことを誰よりも知っているつもりです。

 それこそ、「うち以上に舞日先輩のことを知っているのはご両親ぐらいしかしか居ないのでは?」と思える程に、舞日先輩のあらゆることを知っているつもりです。


 それはつまり、『もっとお互いをよく知ってから』の、うち側の土台は既に出来上がっていると言っても過言ではないはずです。


 ともすれば、後は舞日先輩側の土台を固めてもらえさえすれば、詩子先輩の言う『もっとお互いをよく知ってから』の条件が全て揃うのではないでしょうか。

 そして、その為には、うちの全てを知ってもらうのが一番の近道だと思うのです。


 だから、『軽い女』ということでも無いと思うのです。

 うちはうちの目的の為に、そして、うちと舞日先輩の将来の為に必要なことをしているだけなのですから。ただ、そういうことをしたいというだけでは無いのですよ。


「つまり、『鶏が先か、卵が先か』ってこと?」

「そうですね。それで間違いないと思います」

「ハァ.....。あのね、澄香ちゃん。それ、ストーカー的思考よ」

「詩子先輩!?」

「行動だけじゃなくて、考え方までストーカー的とか、あんた本気でヤバいわ。.....でもさ、そういうことをするには早いとは思わないの?」


 ス、ストーカー的思考って.....。

 いやいや。それは一旦置いとくとして、詩子先輩に言われるまでもなく、「さすがに少し早いかな?」とは思っています。


 でも、でもですよ! 


 舞日先輩と会話をするだけで、舞日先輩に微笑んでもらうだけで、うちの心は満たされていくのです。

 そして、これが「もし舞日先輩に触れてもらえたら.....」とそう思うだけで、うちの心は色めき立つのです。少しでも早く舞日先輩と触れあっていたいという欲求が抑えきれないのです。


「そ、そう。.....澄香ちゃん。あんた、一刻も早く舞日君に引き取ってもらいなさい。それが世の為人の為よ。私も全力で応援するわ」

「世の為人の為!? あははは.....。それはさすがに大袈裟過ぎですよ」


 でも、ありがとうございます! うち、頑張りますよ!

 さぁ、舞日先輩! いつでもOKです! うちの(おもい)を受け取ってください!!



□□□□ ~ライバル登場!?~ □□□□


 2月15日。

 St. Valentine's Dayの翌日。


「ハァ.....」


 結論から言いますと、チョコもうちも、どちらも舞日先輩に渡すことはできませんでした。

 いいえ、渡すことができなかっただけなら良かったのですが.....。


「大きい溜め息ね。まぁ、気持ちは分からなくもないんだけどさ。私も心配だしね」

「詩子先輩.....」


 昨日、舞日先輩は出勤してきませんでした。

 そして、今も.....。


 当然、会社側としては舞日先輩に何かあったのかと思い、何度も何度も連絡を入れました。

 一応、これも経理二課のお仕事ですしね。言うまでもないと思いますが、個人的にも何度も連絡はしました。


 ですが、いずれも音沙汰無し。


 結局、昨日は舞日先輩の無断欠勤ということで処理されることになりました。

 そして、このままでは本日も無断欠勤となってしまいそうです。.....信じられますか!? あの無遅刻無欠勤が当たり前だった舞日先輩が無断欠勤ですよ!? うちは信じられません! 


「で、実際どうなの? 澄香ちゃんのことだから、確認してきたんでしょ?」

「はい.....。うちの知る限り全ての場所を当たってみましたが、ダメでした」


 まずは、なんらかの事故に遭った可能性を考えて、舞日先輩が普段利用している病院に確認を取ってみましたが、該当無しでした。


 そこは、そこそこ大きい病院で施設もそれなりに充実していることから、救急搬送もされる有名なところです。

 そして、そこに該当しないとなると、舞日先輩が事故に遭ったという可能性は限りなく低いのではないかと思われます。


 当然、病院以外で舞日先輩がよく利用している場所全てにも確認はいれてあります。

 舞日先輩の趣味であるウォーキングのルートもバッチリです。.....あっ。でも、公園によくいるおでぶな猫ちゃんの姿がどこにも見当たらなかったんですよね。前日(2月13日)(※会社公休日)にでも保護されたのでしょうか?


「事故じゃないとなると、風邪.....とか? 確か、舞日君は一人暮らしだったわよね? だったら、連絡もできない程の重い症状ってことかしら? でも、2日間も連絡を寄越してこないってのも、舞日君にしては変よね.....」

「いえ、うちが()()限りでは、舞日先輩はお部屋には居ないようなんです」


「え? 見たって、どういう意味.....。ま、まぁ、それはいいわ。そうなると、事件に巻き込まれたとか? それにしては、澄香ちゃんは落ち着いているようにも見えるけど.....」

「一応、警察にも確認してはありますので.....。でも、心配はしていますよ」


 昨日(2月14日)の夜、舞日先輩のお部屋に明かりが灯らなかったことからしても、帰宅していないのは確かだと思うんです。念のため、お部屋を(のぞ)いてみましたが、人の気配は感じられませんでしたし。


 そうなると、詩子先輩の言う通り、事件に巻き込まれたと考えるのが普通なのでしょう。

 ですが、警察にはこれといった情報は無いようですし.....。


(.....舞日先輩。何があったというんですか?)


───プルルルル。


 とその時、一本の電話が鳴り響きました。

 別に、電話が鳴ること自体は扱っている商品の都合上、珍しいことでも何でもありません。取引先であったり、お客様であったりなどしますから。


 そして、その電話対応もまた、うち達経理二課のお仕事の一つでもあります。


「お電話ありがとうございます。市柳(いちりゅう)商事、経理二課の有楽山と申します」


 うちが息を付く間もなく、颯爽と受話器を取る詩子先輩。

 今の今まで、うちと会話中だったというのにとても素早いです。それに、電話は3コール以内に取るというのは基本中の基本ですが、1コールで取る辺りはさすが詩子先輩です。


 さて、舞日先輩のことは気が気ではないですが、うちにもお仕事がある以上、頑張らないといけません。

 ちょうど相談できる相手もいなくなったことですし、お仕事に精を出していきたいと思います。そして、少しでも早く上がって、今日もまた舞日先輩の行方を探しに行くのです。


 ・・・。


 ですが、うちがお仕事に精を出せる機会は巡ってはきませんでした。

 それというのも.....。


「え!? 舞日君の.....し、失礼しました。舞日さんのお母様ですか?」

「!?」


 なんと、詩子先輩の電話口のお相手が、舞日先輩のお母様だというじゃないですか。

 そして、この状況下でのお母様からのご連絡.....。まず間違いなく、舞日先輩ご自身に何かがあったに違いありません。


(舞日先輩.....。舞日先輩.....。舞日先輩.....)


 うちとしては、早急に詩子先輩と電話を変わってお母様に事情を伺いたいところですが、それは色々と失礼にあたるのでやきもきしながらも電話が終わるのを待つことにしました。


「.....はい。.....はい。.....そうでしたか」

「?」


 ちらちらと、こちらに視線を投げ掛けてくる詩子先輩。

 うちに何かを伝えたいのでしょうか。いいえ、何かを見せたい.....? 


 そして、走り書きだというのに、詩子先輩の手元の紙にはきれいな文字で綴られていく一つの住所。


 そこには───、


【アイーナ特別総合病院。501号室】


 との文字が.....。


「!!?」


 くっ! うちの知らない病院です!.....いいえ、今はそんなことはどうでもいいです。

 舞日先輩が病院の個室に居るということは、それ即ち、舞日先輩の身に何かがあって入院せざるを得ない状況にあるということではないでしょうか.....。


「.....(こくりっ)」


 そして、それはうちに視線を投げ掛けてきている詩子先輩からの反応を見ても確かなようです。


(うぅ.....。詩子先輩。早く! 早く! 早く!)


 一刻も早く事情を知りたいうちは電話が終わるのをひたすら待ちました。

 もう既に気が気ではありません。お仕事なんて手に付きません。


 ですが.....。


「おや? 須藤さん。電話が鳴っているよ?」

「知りませんッ!」

「えぇ.....」


「須藤さん。書類のコピーを頼みたいんだけどいいかな?」

「お断りしますッ!」

「えぇ.....」


「須藤さん。お茶、お願いね」

「自分で淹れてくださいッ!」

「えぇ.....」


 こういう時に限って、お仕事が舞い込んでくる始末。いい加減にして欲しいです。

 いまうちは舞日先輩のことが気になって気になって、お仕事なんてやってられる気分ではないのです。第一、それぐらいのこと自分でやって欲しいものです。


「.....はい。.....はい。.....分かりました。それでは失礼致します」

「詩子先輩ッ!」


 くわッ!と喰い掛かったうちに対して、受話器を静かに置いた詩子先輩。

 その後、「ふぅ~」と一息。その、どこか気持ちを落ち着かせるような素振りが少し気になりましたが、それよりも、うちとしては一刻も早く電話の内容を知りたいのです。


 そして、詩子先輩から語られた内容は衝撃的なものでした。


「.....澄香ちゃん。落ち着いて聞いてね」

「.....(ごくっ)」

「舞日君なんだけど.....、()()()()で入院しているみたいなの」

「い、()()()()()()()!?」


 そ、そんな.....。舞日先輩の命が明日をも知れないなんて.....。


 うちの目の前が真っ暗になりました。

 思わず、椅子から転げ落ちそうになってしまいました。


 それほど、うちにとっては衝撃的な内容でした。

 信じたくはない悲しい事実(しらせ)でした。


(舞日先輩が意識不明の重体.....。舞日先輩が意識不明の重体.....。舞日先輩が意識不明の重体.....。舞日先輩が意識不明の重体.....。舞日先輩が意識不明の重体.....。舞日先輩が意識不明の重体.....。舞日先輩が意識不明の重体.....。舞日先輩が意識不明の重体.....。舞日先輩が意識不明の重体.....。はっ!)


 こうしてはいられません。

 舞日先輩の命が危ないというこんな危機的状況で、お仕事なんて悠長にやっている暇は、道理はありません。そんなことよりも、一刻も早く舞日先輩の元へと行かなくては!!


「え? いや、別に重体とは.....」

「詩子先輩! 申し訳ありません! うちは舞日先輩のお見舞いに行きたいので早退します! 課長にはよろしくお願いします!」


「あっ! こらッ! 澄香ちゃん!? ちゃんと話を.....」


 こうして、詩子先輩の制止を振り切ったうちは急いで舞日先輩が入院しているという【アイーナ特別総合病院】へと向かうことにしました。


 そして、その病院先で出会ったのが.....。


「あら? どちら様?」

「え、えっと.....。先輩の後輩で、須藤澄香といいます」

「そう、会社の後輩の方ね。.....ふーん」

「な、なんでしょうか? それと.....」

「あっ。挨拶が遅れてごめんなさいね。私はあっくんの母、舞日桂子です。よろしくね、()()()()後輩さん?」

「あ、あっくん!?」


 うちの生涯の強敵(ライバル)の一人、舞日先輩のお母様だったのです───。




次回、特別編『後輩 須藤澄香③』!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


今話の時系列はこんな感じです。



2月12日・・・『須藤澄香』と『有楽山詩子』の会話の大部分。(※主人公の観察は通常運転)


           ↓


2月13日・・・会社公休日。ここで主人公が失踪。(※告白準備の為、珍しく主人公未観察)


           ↓


2月14日・・・主人公無断欠勤。告白作戦失敗。(※告白当日の為、()()主人公未観察)

       

           ↓


2月15日・・・主人公が入院発覚。『須藤澄香』が主人公の母親『舞日桂子』に遭遇。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


今日のひとこま


~帰りたくないアピール~ 


「舞日先輩。ラーメン、ご馳走様でした」

「いやいや。こんなもので良ければ、いつでも奢ってあげるよ」

「ほ、本当ですか!?」

「さすがに毎日は無理だけどさ。でも、須藤さんと一緒に食べるラーメンは一番旨いんだよなぁ」


「じゃ、じゃあ、今後もよろしくお願いします」

「OK。じゃあ、帰ろうか。須藤さんも電車通勤だったっけ?」

「はい。そうですよ。同じ電車です。そればかりか、舞日先輩と住んでいる場所も一緒なんです」

「へ~。それは奇遇だね。じゃあ、通勤の時に須藤さんを見掛ける機会があるかもね」


うちはいつも舞日先輩を見掛けていますよ!

いいえ! いつも舞日先輩と一緒に通勤しています! そう、もはや付き合っている彼氏彼女のように.....。


おっと、悦に入っている間にホテル街が目に入るようになってきました。


「ま、舞日先輩.....。うち、まだ帰りたくない気分です.....」

「あ~。そうだよね」

「はい。そうなんです。.....(キ、キター!)」

「夕食がラーメンだけじゃ、なんかもの足りないよね」


「.....え?」

「かと言って、何かをたくさん食べられる訳でもないし.....」

「あ、あの、舞日先輩?」

「確か、俺と住んでいるところが一緒だったっけ? なら、俺の行きつけの居酒屋でいいかな? 須藤さんは酒飲めたよね?」


くッ! この状況で、帰りたくないの意味に気付かないなんて.....。

でも、まだまだチャンスはあります!


「舞日先輩。お酒までご馳走になってしまって、なんかすいません」

「いやいや。誰かと一緒に飲む酒は久しぶりだったからさ。それに須藤さんはいい飲みっぷりで、一緒に飲んでいて気持ちよかったよ」

「えへへ。ありがとうございます。あっ.....」

「おっと。ふらついているようだけど、大丈夫?」


うちを支えるかのように抱き止めてくれた舞日先輩。

ぬふふ~。作戦成功です! このまま一気にいきますよ!


「.....ちょっと酔ってしまったかもしれません」

「一人で帰れそう?」

「うちの家はここから近いのですが、無理.....かもしれません」

「へ~。ここから近いのか。となると、俺のアパートとも近いのか。だったら.....」


「ありがとうございます。う、うちは(うちの家でも、舞日先輩の家でも)どちらでもいいですよ?」

「そう? じゃあ、少し待っていて」

「はい!.....え? 待っていて?」

「うん。今タクシー会社に連絡してくるからさ」


えぇ.....。さすがにそれはないですよ、舞日先輩.....。



こうして、うちの『帰りたくないアピール』は失敗に終わってしまいました。


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