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第196歩目 頼れる相談役!忠隷ヘリオドール①


8/11 タイトルを変更しました。


(変更前)頼れる相談役!忠隷ヘリオドール⑪ → (変更後)頼れる相談役!忠隷ヘリオドール①


なお、本文の変更はございません。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


前回までのあらすじ


えちえちなお風呂で鋭気を養った主人公!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ヘリオドールのサブタイトルを変更しました。


【変更前】 妖狐と二人っきり → 【変更後】 忠隷(忠実な奴隷)ヘリオドール


以前のサブタイトルは変更しません。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ニケとのいちゃいちゃの中休み回です。

□□□□ ~言わせんなッ!~ □□□□


「主の悩みを一挙に解決できる心当たりが1つだけあるのじゃ」


 そう自信満々に宣うドールの2本の尻尾は、それはもう嬉しそうにぶんぶんと振られていた。


 ・・・。


 本日、ニケさんとのデート2日目を過ごしてみて、俺達には色々と問題があることが発覚した。

 それも、割と緊急性の高い問題であって、できることなら早い段階で解決しておきたい案件でもある。いや、ニケさんとの快適で、ラヴラヴなデートを満喫する為には是が非でも解決しておきたいことだった。


 それはもう、かつて王都の酒場にて、ニケさんに会いたいが為に大衆の面前でアルテミス様に土下座した時と同じ要領で、俺のちっぽけなプライドなんて捨て去ってもいいぐらいに.....。


「なに? 妾に相談じゃと?」

「頼む! 相談に乗ってくれ!」


 お風呂後、アテナ達を寝かせ終えた俺はニケさんも交えて、ドールにそう切り出すことにした。

 相談内容は言わずと知れた、【誰の目も憚ることなくキスができる場所】及び【みんなで仲良くゆったりと入れるお風呂】の、この2つである。


「風呂はともかく、なぜ接吻の件も妾に尋ねるのじゃ? 普通は隠さぬか?」

「あのな? こういう時に頭数を揃えるのは基本なんだ。それに、信頼できる相手が相談役にいる場合は、つまらないプライドは二の次で包み隠さず話した方が、よりベターな解決策が見つかったりするものなんだよ」


 かつて営業マンでいた時、毎期ノルマを達成していたコツはこれにある。


 基本的に、悩んで悩んで悩み抜いた結果己の実力にあまりそうな案件は、そのまま考えていても良案は浮かばないものである。

 だったら『三人寄れば文殊の知恵』という諺があるように、頼れる相手にはさっさと相談してしまったほうが結果的に良かったりもするものだ。


 当然、良いことばかりではなかったが、それは勉強代だと思うようにしている。

 それに、やはり相談することで俺自身では絶対に考え付きそうにもない案がしばしば出たりすることもあるので、結果的に素直に頼ることは悪いことばかりでもなかったりする。


「殊勝な心掛けじゃな。.....しかしの? 主のことじゃ、恥ずかしくはないのかの?」

「恥ずかしいに決まっているだろ? でも、俺のそんな安っぽい感情よりも、ニケさんのほうがよっぽど大事だ」

「歩様.....」


 キリッ!とお澄まし顔で雄弁に語る俺に、ニケさんは既にメロメロだ。俺を見つめるきれいな灼眼の瞳がハートマークになっているような気がする。おっと。そんなに見つめられても、今はドールの目があるのでキスはしませんからね?本当に油断も隙もないんですから。


「そこまで言うのなら、妾達のことは気にせずに接吻すればよいではないか」

「いや。いくらニケさんの為とはいえ、さすがにそこまでの度胸は俺にはない」

「歩様!?」


 今の発言で、ニケさんのきれいな灼眼からハートマークが消えてしまったようにも思えるが、こればっかりは仕方がない。お付き合いにはTPOを弁えた節度というものも時には必要だしな。.....あっ。ジト目は止めて!?癖になるぅ!


 それに、人前での度を超えたいちゃいちゃはアテナ達の教育上にも良くないだろう。


「男らしいのかヘタレなのか、よく分からぬのぅ.....」

「うるせぇやいッ!」

「ヘリオドールは何を言っていることやら.....。そういうところも含めて、歩様はかわいいのではないですか」


 結果、相談したことは大正解で、ドールの示した心当たりは俺自身も納得のいくものだった。



 さすがはドールさん!

 さすが俺の頼れる相談役だ!!



□□□□ ~男の熱い友情~ □□□□


「今日は歩とニケもいっしょなんだねー( ´∀` )」

「はい。よろしくお願いします。.....それと、私が側にいる以上、アテナ様の身の回りについては厳しく管理させて頂きますね?」

「ひぃぃいいい(||゜Д゜)」


 アテナがニケさんの鋭い視線に晒されている中、俺とニケさん、アテナやドール、モリオン、テディにな"ーの大所帯はとある場所へと向かっている。


 ちなみに.....。


「おいおい。なんだありゃあ.....」

「ぬいぐるみが歩いている.....だと!?」

「なんだ。よ~く見りゃ、竜殺し様の一行かよ。なら、さもありなん」

「え? なにあれ!? 今ってあんな魔道具もあるの!? かわいいんですけど!」

「見たこともない魔道具を所持しているなんて、やっぱり竜殺し様はお金持ちなのね~」


「きゅ、きゅ、きゅ! (人間どもの熱い視線を感じる.....。ふっ。モテるぬいぐるみは辛いぜ!)」

「.....」


 ごく自然にトコトコと歩いているぬいぐるみ(テディ)に、すれ違う人々の視線が釘付けになっていることは想像に難くはないだろう。

 ただ、テディのことをそういう魔道具だと勝手に思い込んでくれている点は、いちいちめんどくさい説明をする必要がないので気楽ではある。


 ・・・。


 そうそう、目的地は言わずと知れたショッピングセンターだ。

 ここで、ドールが昨夜言っていた心当たりを購入するつもりである。


 では、その心当たりとは何かというと.....。


「主の城を持てば良いのではないか?」

「俺の城.....? 家か?」


 これは昨夜の相談の一部ではあるが、さすがに家はないと思った。

 そもそも、俺とアテナが異世界に来た目的である異世界旅行と持ち家を持って腰を落ち着けることはあまりにも相性が悪すぎる。確かに、持ち家ならば色々と問題を解決できるので良い案だとは思うが、それにしてもだ。


「家などではない」

「違うのか? だったら、城とは?」

「主も前から言うておったではないか、魔動駆輪が欲しいと。それじゃ、それ」

「キャンピングカーか!」


 と言うことで、前々から検討していた旅のお供兼マイホームである魔動駆輪キャンピングカー型を見に来たという訳だ。まずは下見を.....という軽い感じではあるのだが、これ!というものがあったら迷わず購入つもりでいる。


 早速、魔動駆輪コーナーへと場所を移す。


 馬車。馬車。馬車。馬車。馬車。馬車。馬車。馬車。馬車。馬車。馬車。馬車。

 船。船。船。船。船。船。船。船。船。船。船。船。船。船。船。船。船。船。

 バイク。バイク。バイク。バイク。バイク。バイク。バイク。バイク。バイク。

 車。車。車。車。車。車。車。車。車。車。車。車。車。車。車。車。車。車。


 すると、そこには馬車や船、バイクに車などなどの機械達の巣窟もとい機械達の海が見渡す限りに広がっていた。


 さすがに、フランジュ程の品揃えがあるとは思えない(今までトランジュのどこもかしこもそうだった!)が、それでも俺の心をときめかせる程には十分な数の品揃えは確実にある。いや~。大人ながらに心が踊るね。わくわくし過ぎて興奮を抑えきれない!


「まぁ、歩様ったら。子供みたいにはしゃいじゃって。ふふっ」

「うっ.....」


 ニケさんは着物という姿も相まってか、手を口に当て静かに笑っている様はとても上品で魅惑的だ。美しい!

 いや、俺のお惚気話はいいとして、この高揚感、このわくわく感を全て理解して欲しいとまでは言わないまでも、少しでも分かってもらいたいところではある。


「ご安心ください。十分に分かっているつもりですよ」

「ニケさん.....。ありがとうござい.....」

「歩様がかわいい、ということをですが」


 うぉい!

 全然分かってもらえてなかった!


 まぁ、いいさ。いつの世も、男のロマンを理解できる女性なんてそうそういないのだから.....。


「うぉぉぉぉぉおおおおお! きた、きた、きたぁぁぁぁぁあああああ! これじゃ! 妾をこれを待っていたのじゃ!!」


 あっ。男のロマンを理解している奴が1人いたな、そう言えば。


 それはともかく、ドールもときめきを隠しきれないでいるようだ。顔がほんのりと赤みがかっている。なんか妙にえっちぃな.....。

 そして、今にも千切れそうな勢いで尻尾をぶんぶんと激しく振っているドールと見つめ合う。


「ドール!」

「主!」


───ガシッ!


「「ふっ.....」」


 男に、男のロマンに言葉はいらない。

 気持ちさえ通じあえば、それでいい。固い(あくしゅ)さえあれば、それでいい。


 それが男の友情というやつだ!


「盛り上がっているところ申し訳ないのですが.....。ヘリオドールは女ですよね?」



 こまけぇこたぁいいんだよ!!

 


□□□□ ~いざ!解決へ!!~ □□□□


 さて、ドールと肩を組み熱い友情を交わしたところで、「じゃあ、早速魔動駆輪キャンピングカー型を見るかッ!」ということにはならない。そんな無粋は許されない。それは男のロマンに対する冒涜だ。


 例え、購入する意思がなくとも、他の魔動駆輪も見て回るのがマナーである。

 女性に分かりやすく例えるのならば、ウインドウショッピングみたいなものだ。


「えー。つまんなーいr(・ω・`;)」


「だまらっしゃい! なぁ、ドール?」

「なのじゃ♪」


「.....」


 かわいい。

 ドールがますます良い女の子になって、俺は嬉しいよ。


 ただ、何やら後ろで「私の歩様を.....。許すまじ!ヘリオドール!!」と呪言めいたようなものが聞こえてきた気もするが.....。うん。俺は何も聞こえなかったことにしよう。


 ・・・。


 そんなこんなで適当に見回っていると、当然といえば当然なのだろうが、商人特有の揉み手をしつつ、それはもう素晴らしい営業スマイルをした従業員さんがシュバババ!と抜け目なく擦り寄ってきた。


「これはこれは竜殺し様。ようこそいらっしゃました。よろしければ、私がご案内させて頂きます」

「.....」


 さすがに、ショッピングセンタークラスの規模ともなると城下町とは異なり、竜殺しとしての俺の顔もしっかりと知れ渡っているようだ。ハァ.....。


 それに、俺はこういうすぐに声を掛けて(でしゃばって)くる従業員さんはどうにも苦手である。

 第一、用があるならこちらから声掛けをするつもりなので、それまではにこにこと営業スマイルを振り撒きつつ大人しく待機していてもらいたいものだ。まぁ、従業員さんも仕事だから?気持ちは分からなくもないんだけどさ。ハァ.....。


 そんな俺の憂鬱な気持ちに気付いたのか、ニケさんがこそっと耳打ちを1つ。


「迷惑でしたら、私が(はいじょ)()ましょうか?」

「HAHAHA」


「冗談ですよね?」と確認したいところではあるが、ニケさんのきれいな灼眼が「それこそ冗談ですよね?」と雄弁に語っているような気もしたので、ただただ渇いた笑いしかでない。愛が激しいよ!


 とりあえず、このままでは従業員さんがニケさんに排除されてしまうので、ここは従業員さんの好意に甘えることにした。

 もしかしたら、「迷惑なら断ればいいじゃん.....」と思っている方も少なからずいるのではないだろうか。


 しかし、仮にここで従業員さんの案内を断ろうものなら、俺が迷惑だと思っていると勘違いしている(正確には勘違いじゃない!)ニケさんに目を付けられた従業員さんの命は風前の灯となってしまう恐れがある。


 故に、従業員さんの好意に甘えることで「俺は迷惑に思ってはいないんですよ~」ということを、ニケさんに暗に分かってもらう必要があるのだ。


 そして、こんなことをしなくてはならないぐらい、ニケさんの愛は激しいものなのである。

 少なくとも、『俺の仲間(ドールやモリオン)を除いた他の人間は俺に迷惑を掛けた時点で排除の対象となる』といった感じで、それはもう激しい愛の形なのである。


 だから、ここは俺(ついでに従業員さん)の為にも甘えることにする。


 ・・・。


 さて、俺は命を助けてあげただけだというのに、してやったりな笑顔で何かを勘違いしている従業員さん。そんな勘違いも甚だしい従業員さんの案内のもと、俺達はズラリッと立ち並ぶ【魔動駆輪キャンピングカー型コーナー】へとやってきていた。


「う~ん.....」


 思った通り、フランジュと比べると些か品揃えは良くない気がする。

 少なくとも、ドールが絶賛していた30億の魔動駆輪キャンピングカー型を越える品は見つかりそうにはないだろう。いや、同等品ですら難しいかもしれない。


「だから妾は言うたのじゃ。「買える時に購入しておけ!」とな」

「はいはい。悪うござんしたね」

「じゃが、さすがは見栄にしか拘っておらぬ旧都なのじゃ。でざいんだけは王都よりも良いかのぅ!」


 これには従業員さんも苦笑い。

 ただ、言葉にはしなかったが、実は俺もそう思っていた。


 フランジュのはどちらかと言うと実用仕様で、デザインはいまいちなものが多かった。ほぼ単色ばかりで、デザイン?なにそれ?おいしいの?と言わんばかりだったのだ。

 一方、ここトランジュはドールの言う通り、実用度外視のデザイン重視が目立っている。派手なものからシックなもの、果てはレトロなものとマニア心を擽る品々の数々だ。


「えっと.....。仕様第一なのは当然のことではないのですか?」

「違います。仕様も大事ですが、デザインもそれに劣らず大切なものなんです。なぁ、ドール?」

「うむ! 主の言う通りなのじゃ! 形は人の品性を写す鏡。そこは譲れぬのじゃ!」


「は、はぁ.....。そういうものですか。使えれば、何でも同じようにも思えますが.....」

「違うんです!」

「違うのじゃ!」


 これはあれだ。「車なんて、乗れればどれも一緒ですよね?」と言われている、あれに等しいものである。しかし、こればっかりは何事も効率第一であるニケさんにはなかなか理解しづらいことなのかもしれない。


 そもそも、全く興味のないニケさんからすれば、『車=移動に使う物』ぐらいの認識しかないのだろうから.....。


 そして、そんなニケさんの認識で車を当てはめてみると、移動に使う物という観点だけ見れば、確かに車は皆同じようなものだ。うん。ニケさんは何も間違ってはいないな。間違ってはいないんだけどさ.....。全然違うんですよ!ニケさん!!


 だが、当のニケさんは車などには全く興味を示さないばかりか、「またしてもッ! ヘリオドールの分際で生意気です!」とご立腹であるようだ。うん。俺は何も聞こえなかったことにしよう。聞こえなーい。


 と言うことで、色々と見て回っていると、俺の目に飛び込んできたある一台のキャンピングカー。


「主、どうしたのじゃ?」

「いや。なんか懐かしいものに似ているなって思ってさ」


 俺がいま目にしているキャンピングカーは全長5m程のもので、全体を赤と白.....そう、まるで函館市交○局30形電車、通称『函館ハ○カラ(ゴウ)』を彷彿とさせる、それはもうなかなかレトロなデザインのものだ。


 ちなみに、この『函館ハ○カラ號』は函館名物の1つで、街中を悠々と走っている路面電車でもある。降りる時にベルを2回鳴らすのだが、その時の音がちんちん♪と鳴ることから『チンチン電車』とも呼ばれ、親しまれてもいる。


「ほぅ。なるほどのぅ。となると、この魔動駆輪もそのように鳴るのかの?」

「どうだろうな? これを造った勇者が、そこまで粋な計らいをしているかどうか.....」

「まぁ、それは確かめてみるのが早かろう。それにしてもじゃ.....」

「どうした?」

「『ちんちん』とは、また卑猥な響きであるのぅ」

「!?」


 うっ.....。嫌な思い出が.....。

 あれは、俺がまだ大学生の頃、サークル仲間と一緒に北海道旅行に行った時のことだ。


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「おい! あれが有名な『ちんちん電車』か!?」

「そうみたいだな。正式には『函館ハ○カラ號』って、言うらしいぞ」

「ふ~ん。別に『ちんちん電車』で良くないか? そのほうが有名だろ?」

「やだー! 舞日君、いきなり下ネタとかやめてよー! 女子もいるんだからさー。空気読んでよー」

「ちょっ!? い、いや、下ネタとかじゃなくてさ!? そういう.....」

「なんかさー。そういうので喜ぶのって、小学生までだよねー。大学生にもなってー、って感じー?」

「うぅ.....」

「.....おつかれ、舞日。夜に、こっそりと抜け出して飲みにでも行くか?」

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 俺の数少ない友達の優しさに救われた瞬間だった。

 その後、飲み屋にて「『ちんちん電車』は『ちんちん電車』なんだから仕方がないだろぉ!」と盛大に叫んだことだけはよく覚えている。HAHAHA。ハァ.....。


 そんな魔動駆輪キャンピングカー型に、めんどくさいので【ハイカラ號】に、俺達は早速試乗してみた。


挿絵(By みてみん)


 ふむ。悪くはないのではないだろうか。

 広さはバッチリ。従業員さんの説明ではバスルームとトイレが別々に付いているらしい。


「ねぇー。お風呂見てきてもいいー(。´・ω・)?」

「あぁ、いいぞ。あんまり騒ぐなよ?」


「わーい! コンちゃん、モーちゃん、いっくよー(`・ω・´) 」

「やれやれ。姉さまは本当に仕方がないのぅ」

「じゃー、我も行ってくるのだ! お風呂に入ってくるのだ!」


 俺の許可を得ると同時に、元気良く駆け出していくちびっこ3人組。


 鬼番頭アテナからすれば風呂は一番気になる所だろうし、「やれやれ」とか呆れているような様子を見せているドールの2本の尻尾は嬉しそうに勢いよくぶんぶんと振られている。こいつはこいつで本当に素直じゃないな。モリオンは.....。うん。とりあえず、裸にだけはならないよう注意をしておいた。


 俺としても、アテナ達と一緒にバスルームを見に行きたいところではあるのだが、従業員さんが張り切って説明している最中なので、それを無下にする訳にもいかない。ハァ.....。説明長いんだよなぁ。


「.....()りましょうか?」

「何をヤるの!?」



 愛の激しいニケさんはいつだって俺の(怖い)味方だ。



□□□□ ~悪くはないんだけど.....~ □□□□


 俺がいまだ従業員さんのなっがい説明に拘束されていると、もうバスルームの観賞を終えたのか、アテナ達がこちらへトボトボと戻ってくるのが見えた。


「歩.....」

「どうした?」

「お風呂がちっちゃいー(´;ω;`)」

「えぇ.....。そんなことかよ.....」

「むきー! そんなことって、なにーヽ(`Д´#)ノ」


 はいはい。アテナかわいいよアテナ。


 怒っているアテナは放っておいて、異様にしょんぼりしているドールに改めて詳しく尋ねてみる。

 すると、お風呂は体を倒して入る、所謂現代日本式のもので、大きさは詰めていいとこ3人がやっとこのものであるらしい。


「.....」

「なんじゃ? 主はさして驚いているようにも見えぬが?」


 アテナ達はかなり落ち込んでいるみたいが、俺は正直予想の範囲内だ。


 日本にいた時でもキャンピングカーの内装を見たことはあるのだが、まずバスルーム自体がないキャンピングカーだって当然ある。

 仮にバスルームがあってもシャワーだけだったり、浴槽があってもビジネスホテル並みの大きさだったりするのがほとんどだからだ。


 だから、心当たりを自信満々に示してくれたドールには悪いが、バスルーム自体にはそれほど期待してはいなかったのである。もっと言えば、無くてもいいとさえ思っていた。


「どういうことじゃ? 風呂に悩んでおったのであろう?」

「それはそうだが、最悪【ハイカラ號】を俺が造る風呂場の隠れ蓑にしちゃえばいいかなってさ」


 どういうことかというと、いま俺達が利用している宿のある貴族区では、いつも使用している即席の風呂場を造ることが非常に困難なのである。と言うのも、さすが貴族区とも言うべきか、それなりの頻度で衛兵の見回りがあったりする。その時に見かけない建物があったりすると大問題になりかねないのだ。かと言って、貴族区の外に出ると、アテナとモリオンが虫を嫌がるので貴族区を出ることは端から論外である。


 それに、俺としても貴族とは色々あったりするので、『可能なことなら弱味を握られたくはない』というのが本音なのである。まぁ、貴族とのうんぬんは別の機会に話すとしよう。


 そういう訳で【ハイカラ號】を隠れ蓑にして、いつも通りの風呂場を造ることを目論んでいた。

 ただ、唯一の欠点は、毎日毎日風呂場を急造しなければいけないということだが.....。HAHAHA。


「なるほどのぅ。ならば、魔動駆輪に求めるは機能とデザイン.....それと『場所』だけなのじゃな?」

「そ、そうだな.....」


『場所』の部分でニマニマしているドールが非常に鬱陶しい。

 ドールはなんの想像をしているんですかねぇ!?まぁ、ご想像の通りなんですが.....。


「では、これで良いのではないか?」

「いいのか?」

「気に入っておるのであろう?」

「な、なんで分かったんだ!?」

「何を今更.....。主のことで、妾に分からぬことなど何もないのじゃ」


 さすがはドール.....。


 別に、この【ハイカラ號】を凄い気に入っているとかでもなんでもない。

 ただ、懐かしいものに似ていたせいか、ふと故郷である日本のことを思い出していただけだ。柄にもなく、感傷に浸っていただけなのである。


 そんなところを、ドールに抜け目なく見破られてしまっていたようだ。


「むぅ! 私だって、歩様のことならば何だって分かります!」

「.....」


 ありがとうございます、ニケさん。

 ですが、ちょっとだけ静かにしていてもらえると助かります。今はドールが何かを言いたそうにしていますので.....。


「.....ご、ごほん。商品の選別方法にこれといった決め手がないのであろう?」

「そうだな」

「だったら、そういう理由のもとで選んでも良いのではないか? 購入するのは主なのだしの」

「そう.....だな。そうだよな」


 この子は本当に12歳なのだろうか。

 言葉の1つ1つに重みがあり過ぎる。


 感謝の念に包まれた俺は、その気持ちを態度で表すことにした。


「耳、触ってもいいか?」

「む? 良かろう」


───もふもふ


「相談に乗ってくれてありがとな?」

「くふふ。主の奴隷として当然の務めを果たしたまでなのじゃ!」


 耳をもふもふされたドールは、尻尾を嬉しそうにたなびかせながら両手を口にあてる仕草でかわいく微笑んだ。かわいい。ちゃんとしてれば可愛い子なんだよな~。もふもふだし。


「むぅぅ!」

「.....」


 どこからともなく、ニケさんの不満たらたらな声が聞こえてきた。

 なぜ怒っていらっしゃるのか、これは恋愛経験値が低い俺でも、さすがにその原因ぐらいは分かったりするものだ。


 だから.....。


「ニケさん」

「あ.....」


───ぎゅっ!


 ニケさんの全てを一人占めするかのように強く、そう、強く、優しく、愛おしく抱き締めた。


「ニケさんも相談に乗ってくれてありがとうございます」

「やっぱり歩様は私をちゃんと見ていてくれましたね。嬉しいです」


 抱き締められたニケさんは嬉しそうに、でもどこか恥ずかしそうに頬を赤く染め、少女のようなあどけない笑顔ではにかんだ。美しい


「.....ですが! で~す~がッ! 私の前で、私以外の女性といちゃいちゃするのは禁止です!」

「は、はい。すいません.....」


 ただ、盛大な注意とともに.....。



 さすがはニケさん。

 いくらハグで照れていても、やっぱりお姉さんなんだよな~。



□□□□ ~その人物は!~ □□□□


 そんなこんなで色々とあったが、ドールの後押しもあったので、この【ハイカラ號】にしようと思う。

 そういう雰囲気が流れていたその時、空気を読まずにその雰囲気をぶち壊していったのは当然こいつだった。


「ダメぇぇえええヽ(`Д´#)ノ」


 そう、みんなご存知こと駄女神であるアテナだ。

 そして、何をとち狂ったのか、既に【ハイカラ號】の購入の意思を固めた俺に対して異を唱え出したのである。


 これには、ちゃっかりと俺達の話を盗み聞きしてほくほく顔になっていた従業員さんも含め、みんな唖然としてしまっていた。


「ダメって.....。何がダメなんだよ?」

「お風呂がちっちゃいって言ったでしょー!」

「いや、だから、それは何とかするからさ」

「私は温泉にはいりたいのーヽ(`Д´#)ノ」

「温泉.....だと!?」


 このクソ駄女神。異を唱えるだけでは飽き足らず、無茶な要求までしてきやがった。

 温泉.....。温泉か.....。さすがに温泉ともなるとかなり厳しいなぁ.....。と言うよりも、この世界に温泉があるのかどうかすら不明だ。


 結論。


「うん。無理」

「ふぇぇえええ(´;ω;`) ニケー.....」


 お、おまッ!ニケさんに無茶振りしてんじゃねぇよ!!

 ニケさんにだって、できることとできないことぐらいはあるはずなんだからさ!.....え?あるよね?


 そう思って、ニケさんの様子を伺うと.....。


「そうですね.....」


 顎に人差し指を当てて、「う~ん」と何やら考えて込んでいるようだ。

 そして、考え込むということは、何かしらの方法があるということなのだろう。神様は本当に無茶苦茶だな.....。


 ・・・。


 しばらく、ニケさんの答えを待つ。

 そして、その美しい唇から出た言葉は意外なものだった。


「アテナ様からのお願いでは断る訳にもいきませんね。私でも何とかなりますが、ここは専門の方にお願いするのがベストでしょう。.....本当は嫌なのですが」


「嫌.....? と言うと?」


「お仕置き中だったのですが、さすがにもう頭が冷えた頃でしょう。アテナ様からのお願い(おんしゃ)ということで、今回は特別に解放することに致します」


 微妙に俺が尋ねた内容と違う回答が来てしまったが、何やらお仕置き中だった誰かを解放するらしい。

 そして、その人物はアテナのお願いを叶える為には、ニケさん以上に適役なんだとか。


 ただ、「解放するのは嫌なんです」と言っていた辺りからも、本当は解放したくはないのだろう。

 だが、自分の主人の願いを叶える為に最も効率に適しているのがその人物なので、嫌々ながらも解放するらしい。


 その理由がいかにもニケさんらしくて、思わずクスッときてしまった。


「なんでしょうか?」

「い、いいえ。別に」

「そう.....ですか?」


 ニケさんは、俺の不審な態度にどこか(いぶか)しみつつも流してくれた。

 ただ、「解放するのは嫌なんです」と言う割には、どこか余裕すら感じる。もしかしたら、今から解放される人物のことも、そこまで嫌っていないのではないだろうか。


「□★〇▽◆!」

「!?」


 突如、言葉にはならない言葉で何かを唱え出したニケさん。

 もの凄く早口で何かを唱えているので、全く聴き取れそうにない。せっかくの美声が聞き取れないことに俺はガッカリだ。


───ブッ。


 そもそも、これは何をしているのだろうか?

 先程言っていた解放と何かしらの関係があるのだろうか?


───ブブッ。


「これは神語だよー( ´∀` )」

「神語?」

「神だけが使える言葉だねー。これを使うってことはー、よっぽどのことなんだよー!」


 アテナ曰く。


 レベル5(神級)までのスキルや呪文は、その全てが人語に翻訳されているらしい。

 故に、覚えられるかどうか使えるかどうかは一旦置いとくとして、レベル5までのスキルや呪文は一応人の身でも使えるものなんだとか。


───ブブブッ。


「つまり何か? 今からニケさんがやろうとしていることはレベル6(天上級)クラスの何かってことか?」

「そだねー! なにするのかたのしみーo(≧∇≦)o」

「なにするのかたのしみーo(≧∇≦)oじゃねぇんだよ! おい! これ本当に大丈夫なのか!?」

「だいじょぶー。だいじょぶー。攻撃性のあるやつじゃないよー。世界がふっとんだりはしないはずー!」

「そうか。なら安心だ.....って、うぉい!?」


 そう気安く世界を吹っ飛ばされても非常に困る。

 全てのダメージを1で抑えられるアテナとは異なり、俺は、俺達は巻き添えを食うのだから。


───ブブブブッ。


「の、のぅ。主?」

「どうした?」

「せ、世界が泣いておるのじゃ.....」

「世界が泣いている.....?」


 なんのこっ茶。


 しかし、ドールの言いたいことは、なんとなくだが分かるような気がする。

 先程から世界が.....、いや、これは次元が軋む音がずっと聞こえてくるのだ。それをドールは「世界が泣いている」と表現したのだろう。.....ふっ。この詩人さんめッ!


 なんて、バカなことを言っている場合ではなかった。これ、想像以上にやべぇやつなのではないだろうか。

 そもそも、【異次元転移】ですら無詠唱で為したニケさんが、最強の女神であるニケさんが、呪文?呪文なのかな?を唱えている時点で相当やべぇのだ。



 レベル6とはそれほどのものだということか.....。


 ・・・。


 その後、しばらくすると世界が泣き止んだ。

 そして、ニケさんの詠唱が終わると同時に現れたる一つの黒球。


───ブブブブブッ。


 何とも異様な光景だ。

 その黒球自体も、まるでブラックホールのようにどこまでも吸い込まれていきそうな雰囲気を醸し出しているのだが、その黒球に絡まるように巻かれている12本の鎖がその異様さを余計に際立たせている。


「.....ふぅ。お待たせしました。さすがに、これを下界で使うのは骨が折れますね」

「えっと.....。これは?」

「私のスキルの1つ【無限監獄(死が二人を分かつまで)】です」


 何やらきれいな?名前のスキルが出てきたが、その内容はなかなかにエグいものだった。

 まず、鎖の数で監獄の強度が変わるみたいなのだが、鎖の数は最高で12本らしい。つまり、今がそのMAX状態であり、この強度の場合はレベル6を扱う神ですらも逃れる術はないものなんだとか。


「と言うことは、この中にいるのは余程の大罪人ということですか?」

「そうですね。大罪も大罪。とても許しがたい罪を犯した者です」

「そ、そんな者を解放してもいいんですか? もし、暴れられでもしたら.....」

「大丈夫でしょう。仮にそのようなことがあったら、私が責任を持って対処(しょうめつ)致します」


 俺が言いたいのはそういう事態にならないことなのだが、ニケさんには微妙に伝わらなかった。まぁ、この場はニケさんに任せる他はないだろう。


「□★〇▽◆!」


 再び、ニケさんが神語とやらで呪文を唱え出すと、黒球に絡まっていた12本の鎖が1本1本外れていく。

 ただ、それらが外れていく度に、背筋がゾワッとするのは気のせいだろうか。


「!?」

「どうした、ドール?」

「.....(ぶるぶる)」


 いや、どうやら気のせいではないようだ。

 強さを計る天然スカ〇ターをその身に宿すドールの様子が、その異様さを雄弁に語っていた。


 全身の毛をぶわっ!と逆立たせ、かわいらしいもっふもふな耳や尻尾が今やピーンとなってしまっている。そればかりか、体がぶるぶると小刻みに震え、その見目麗しい双眸からはうっすらと涙らしきものが見える。この全身警戒モードはどこか既視感がある.....。


「.....やばいんだな?」

「.....(ぶるぶる)」


 ドールからの返事はない。

 いや、首を横にふるふるとわずかに振っている。


(違うのか.....? いや、まともな返事すらもできない程に錯乱している.....?)


 これは相当やばい人物が収監されているようだ。

 事実、その片鱗らしきものは、俺にもひしひしと確実に伝わってきている。


 それと言うのも.....。


───ガンッ!

───ガンッ!

───ガンッ!


 鎖が1本1本外れていく度に収監されている人物が、この【無限監獄(死が二人を分かつまで)】を中からぶち破ろうとあがいているのだ。それに、その衝撃1つ1つが、先程の世界の泣き声に非常に近しいものだけに余計怖い。


 その後、鎖がどんどん外れていき、残りが3本になった辺りだろうか、遂にニケさんの【無限監獄(死が二人を分かつまで)】が破られることに.....。


 そして、【無限監獄(死が二人を分かつまで)】から出てきた人物は、俺もびっくりな意外な人物(かみさま)だった。



「ふぇぇえええん! 人間くーん! こわかったよー!」



次回、本編『深淵と漆黒』!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


今日のひとこま


~女というより気の合う(ともだち)?~ 


「むぅ! なんか歩様とヘリオドールの距離が近い様に感じます!」

「と言いますと?」

「繋がっているというか気心が知れているというか.....とても不満です!」

「あぁ、それは仕方がないですよ」


「えぇ!? ど、どういうことですか!?」

「ニケさんとドールでは、そもそも立ち位置が全く違うんですから」

「立ち位置.....ですか?」

「はい。明確な違いがあります」


「詳しい説明をお願いします。それで納得できないようならキスして頂きますからね?」

「おぉう.....。わ、分かりました。まずはニケさんですが、れっきとした俺の彼女です」

「ふふっ。彼女...../// 私は歩様の彼女.....///」

「.....。(あれ? もう説明いらないんじゃないか、これ?)」


「ふふっ。彼女...../// あっ! 説明の続きをお願いします!」

「あっ。はい。彼女ということなので、男と女として、なかなか分かり合えないことも多いと思うんです」

「そんなことはありません! 私は歩様の全てを知りたいですし、分かち合いたいです!」

「そういうことですので.....って、うぇぇえええ!?」


「どういうことなのですか? 全然納得できません!」

「えっと.....。とりあえず、ドールのことを先に話しますね」

「どうぞ」

「あいつは女性と言うか男友達みたいなもんなんですよ。だから気心が知れているというか、近しい感じになるのかもしれません」


「そうなのですか? では、女としては見てはいないと?」

「うっ.....。そ、そういう訳ではないのですが.....」

「.....つまり、女として見ていると?」

「いえいえいえ! 俺の彼女はニケさんだけですから!」


「結局、歩様は何を仰りたいのですか?」

「男と女は違って、ドールは女性だけど男友達みたいなもので、それが原因かな~と.....」

「私は女ですが、歩様の全てを分かりますし、分かりたいです! おかしいですか?」

「.....キスさせて頂きます」

「ふふっ。やった♪」



当然、トイレでキスさせて頂きましたです。


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