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第194歩目 スタンピートなキス!彼女ニケ③


8/11 タイトルを変更しました。


(変更前)スタンピートなキス!彼女ニケ⑬ → (変更後)スタンピートなキス!彼女ニケ③


なお、本文の変更はございません。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


前回までのあらすじ


俺のファーストキスはニケさんだ!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


Aパートの【これもお泊り会の定番だよね】は感想を元に急遽作らせて頂きました。

感想、誠にありがとうございます!

□□□□ ~これもお泊まり会の定番だよね~ □□□□


 ニケさんとしあわせな時間を過ごしていた俺は、専属メイドさんが朝食の案内で起こしに来たのを切っ掛けとして、ニケさんとの甘い時間を惜しみつつも終えることにした。

 ちなみに、ニケさんとのラヴラヴなシーンはモロに見られてしまったのでとても恥ずかしい。


「ふふっ。そうですね」

「!?」


 え?なに?そのステキな笑顔は.....。

 ま、まさか.....。おのれ孔明(ニケさん)!謀ったな.....!?


 ニケさんは仲達(おれ)もびっくりな策略家だった。

 考えてみれば、昨夜の晩酌時点で専属メイドさんに相当警戒を.....いやいや、そんな生易しいものではないか。相当激しい敵意を向けていたことからして、敢えて見せつけるつもりでやったのだろう。


「今回は()()()()しまったので仕方がない、ですよね?」

「.....」


 キスは人の目のないところでする。

 これはキスをする際に俺が出した条件ではあるが、確かに今回は人の目のないところでしていた結果、見られてしまっただけなので約束を破ったことにはならない。


 ものは言い様である、ということだ。

 ハァ.....。困った彼女(ニケさん)である。



 それはさておき、朝食に向かう前にこんな事件があったんだった。


「.....おい。シーツが濡れているな? まさか、お前ら.....」


「わ、私じゃないよーr(・ω・`;)」

「わ、妾でもないのじゃ」

「わ、我でもないのだ!」


 朝食ということなので、当然のようにちびっこ3人組を起こそうと思ったら、日本地図とのまさかのご対面である。

 そもそも異世界に来て、いや、異次元世界にまで来て、初めて目にする故郷の姿がベッドのシーツだとは思いもしなかった。.....まぁ、なんというか、所謂おねしょというやつである。


「正直に言え? そうしたら、きつ~いおしおきがきついおしおきになるだけだからな?」


「ひぃぃいいい(||゜Д゜)」

「ぐ、ぐぬぬ.....」

「おしおき嫌なのだ.....。おしおき嫌なのだ.....。おしおき嫌なのだ.....」


 俺の菩薩も顔負けな優しいにっこりスマイルに怯える3人。


 当然のことながら、現地勇者にこの有り様を報告するのは俺の役目だ。

 故に、犯人へのおしおきは決定である。後は犯人が素直に名乗りさえ出れば、情状酌量の余地があることぐらいだろうか。....そう、本当に名乗りさえ()()()()()()


「(歩様。歩様。恐らくですが.....)」

「(し~ッ! 分かっていますから)」


 正直なところ、誰が犯人なのかを俺は知っている。知っているが故に、敢えてとぼけているのだ。

 さすがに、ここでおねしょの真相を明かすのは、本人ひいてはちびっこ達の()()()()()()よろしくないからである。


「私はほんとーにちがうよーr(・ω・`;)」

「わ、妾も知らぬのじゃ!」

「我は本当に違うのだ! 信じて欲しいのだ!」


 当然、犯人が名乗り出ることはない。

 いや、今更名乗り出られても困るんだけどさ?俺の計画が台無しになるし。


 だから俺は.....。


「うるせぇんだよ! ちびすけどもが! 3人仲良く連帯責任だ!」


───ぎゅむ。


「ふぇぇえええん(´;ω;`)

 なんでー! ほんとーに私じゃないのにー!.....って、あれ?」


 まずは一番上のお姉ちゃんであるアテナからだ。

 そのもちもちぷるぷるな頬をそれなりの力でつねる。


 ふむ。さすが容姿だけは女神級のアテナだ。

 そのもちぷる頬はとてもきもちゅーございましたマル



───ぎゅむ。


「なんで、なのだ!? なんで、なのだ!? なんで、なのだ!?.....って、あれ?」


 次はドール.....と言いたいところだが、ちょっと順番を変えてモリオンだ。

 その子供らしい(と言っても、661歳だがな!)すべすべで柔らかい頬をアテナ同様それなりの力でつねる。


 悪いな、モリオン。

 後で、ちゃんと連帯責任の意味を教えてあげるからな?



 そして、最後は当然のことながらドールである。


「.....」

「な、なんじゃ? するならするで早うせんか!」


───ぎゅむ。


「ふぐぐぐぐ~~~~~。い、痛い、痛いのじゃ!」


 そんなこと、エロ狐(ドール)に言われるまでもない。

 その()()()()()()()()()をおもいっきりつねる。


「ハァ.....」


 俺から言えることは何もない。

 それでも敢えて言うのなら、「ほどほどにしろよ?」と、ぐらいにしか.....。



 その後、朝食の席にて日本地図の件を報告したら、「昨日はお楽しみでしたかw」とだけからかわれたことは言うまでもないだろう。ハァ.........................。



□□□□ ~スタンピートの前兆~ □□□□


 おいおいおいおいおい。

 冗談だろ?やめてくれよ.....。


 いま、俺の目の前にて繰り広げられている壮絶な光景に対しての率直な感想である。



 では、何が繰り広げられているかというと.....。



 日本地図の報告後、楽しい楽しい朝食が始まろうとしていた。

 朝食の内容は一言で表すなら和食である。


 ほかほかな白いご飯に、ワカメと豆腐のお味噌汁。

 ほのかに塩の香りが漂う焼鮭に、見事に巻かれただし巻き卵。

 召喚されて以降、久しぶりに見るたくあんに、ただならぬ拘りが見えるほうれん草のお浸し。


 誰が見ても、どこからどう見ても、THE・和食である。いや~。心踊るね! 

 それに、ここまで見事な日本の和食は実家を出て以来本当に久しぶりだ。なんとも現地勇者が羨ましい。こんな和食を毎日食べられるのもそうなのだが、作ってくれる嫁さん達がいることも.....。


 とりあえず、現地勇者への僻みは一旦置いといて、早速皆で「いただきます!」をしようとしていたら、それは起こった。


「「んっ.....」」


 何の前触れもなく、いきなり現地勇者と美人なお姉さんがキスをし出したのだ。

 それも、俺達を初め、現地勇者の家族一同が見ている前で堂々と.....。


「ふぁ!?」

「まぁ!」

「おー(o゜ω゜o)」

「ト、トカゲは見てはならぬのじゃ!」

「お姉ちゃん? なんで我はダメなのだ?」


 いや、美人なお姉さんとだけではない。

 美人なお姉さんを始めとして、専属メイドさんやサキュバスなお姉さん、やたらえっちぃ幼馴染さんにギルド職員のお姉さん。それに、「うぉい!? その子達はさすがにアウトだろ!?」とツッコミを入れたくなるような子達とも、ごく自然とキスを始めている。


「.....」


 唖然。呆然。開いた口が塞がらない。

 何が行われているのか全く分からない。理解が追い付かない。


「あ~。ごめんなさいね。それ、いつものことなんですよ。

「お客さんの前では止めなさい!」って、いつも言ってはいるんですが.....」


 そう語るのは、眼鏡をかけた地味な女の子だ。

 この子もまた日本からの転移者らしい。今は訳あって現地勇者とともに暮らしているのだとか。


 そして、眼鏡っ子曰く。


 これは毎日の恒例で、所謂『おはようのキス』に相当するものらしい。

 当然、「そんなもの寝室でやれよ.....」とツッコミを入れたいところだが、現地勇者側にも色々とあるようだ。故に、朝食前にするのが習慣化したのだとか。しかも、皆の前で.....。


「まぁ! それは素晴らしいですね!.....(ちらっ)」

「.....」


 ちらちら見ても絶対にしませんからねッ!


 例え、今が『いただきますのキス』の条件に当てはまるとしても、人の目がある以上は絶対にキスをしない。

 これだけは譲れない条件である。と言うか、眼鏡っ子の言う通り、現地勇者一行は少し自重しろ!せめて小さい子達が見ていないところでしろって!


「むぅ!」


 むぅ!じゃ、ありません!


 こうして、なごやか?に朝食が始まったのだった。



 ・・・。



「ちょっと失礼」


 飯時の方には申し訳ないが、少し催した。

 久しぶりのお味噌汁に、なんとも言えない絶品のお味噌汁に、そして極めつけは、よそいでくれる専属メイドさんの優しい笑顔に舌鼓を打ち過ぎた。


 俺は一言告げてから、トイレへと向かう。


 一応説明しておくが、この屋敷のトイレはなんとも豪勢の一言に尽きる。

 トイレの様式は一般的な現代家庭のそれとは異なり、デパートやショッピングセンターのそれと同じであって男女別に分かれている。ただ、初めて利用した時に、小のほうの便器がマーライオンの陶器だったことには驚かされた。


 ここだけの話、それを見て、俺のお息子様がひゅん!と縮こまってしまったことは内緒である。

 弱肉強食の世界において人間は弱者である。そんな弱者である俺が、強者であるライオンを前にして怯えてしまうのは仕方がないというものだ。


 もう一度言うが、飯時の方は本当に申し訳ない。



 さて、用を足し、スッキリー♪(日本テ○ビ風味)した気持ちでトイレを出ると、こちらに向かってくる1つの影。


「あっ! こちらにいらしたのですね」

「はい。ちょっとお味噌汁を食べ過ぎてしまいまして」


 俺の姿を見つけるなり、満面の笑顔を花開かせるニケさん。

 そんなニケさんの笑顔はプライスレス!


 先程スッキリー♪したばかりだが、更にスッキリー♪してしまった。


「まぁ、歩様ったら。ふふっ」

「ニケさんもお手洗いですか?」

「.....歩様? それは少しばかりデリカシーに欠けますよ?」


 す、すいません.....。


 トイレに来たのだから、トイレなのである。

 改めて尋ねる必要はないし、女性に尋ねることでもなかった。ニケさんとキスをしたせいか、どうにも気持ちの上で弛んでしまっているようだ。


 ニケさんに謝罪をして、急いでその場を立ち去ろうとすると待ったがかかる。


「なんでしょう?」

「あ、あの.....」


 キョロキョロと辺りの様子を窺うニケさん。

 おもいっきり挙動不審だ。一体、どうしたというのだろうか。


「ここで『いただきますのキス』をお願いします。今なら問題ないですよね?」

「今!? しかも、ここで!?」


 確かに『いただきますのキス』はしていない。

 てっきり、今日は無しになったとばかり思っていたのだが.....。


「むぅ! 無しとか酷いです!

 それに、あんなものを見せられては我慢できるはずがありません!」


 あんなものとは、恐らく現地勇者一行の『おはようのキス』群を指すのだろう。

 ニケさんはそれを見て、どうやら当てられてしまったようだ。「お願いしますッ!」と少女のようなキラキラした瞳で請い願われてしまった。


「ん.....」


 ニケさんが目を閉じ、いつものキスの態勢に入る。


 そして、俺に残された選択肢はというと.....。


 → キスをする。

   キスをする。

   キスをする。


 HAHAHA。


 どうやら俺には、『キスをする』という選択肢しか残されていないようだ。

 ならば、ここは男らしく(迷った時点で男らしくはない)覚悟を決める他ない。


 覚悟を決めた俺はニケさんを軽く抱き寄せる。

 せっかく人の目がないのだから、キスだけだなんてもったいない。


「で、ではいきます」

「はい。お願いします.....」


 そして───。


「「んっ」」


 何度目になるか分からないキスを.....いや、『いただきますのキス』としては初めてのキスを、トイレの前で熱く交わしたのだった。


「ふふっ。頂きました♪

 次は『ごちそうさまのキス』ですね。楽しみにしています」


 そう言って、嬉しそうな笑顔で走り去っていくニケさん。あれ!?トイレは!?

 どうやら『いただきますのキス』をする為だけに、わざわざ俺を探していたようだ。なんというか.....、ニケさんの積極性というか獰猛性には頭が下がる思いである。


 そんなニケさんの一途な想いに当てられた俺は.....。


「トイレには~♪ それは~♪ それはキレイな~♪ 女神様が~♪ いるんやで~♪」


 ある有名な歌を陽気に口ずさみながら、皆が待つリビングへと戻っていくのだった。



 あっ。トイレの女神様だとヘスティア様になっちゃうのか?



 盛大なオチとともに.....。



□□□□ ~キス!キス!キス!キスキスキス!(Shan〇ri-La風味)~ □□□□


 朝食を済ませた俺達は現地勇者一行にお礼と再会の約束を交わし、元の世界であるパルテールへと戻ることになった。

 言うまでもないと思うが、『ごちそうさまのキス』はちゃんとした。どこで?そりゃあ、トイレの前ですよ!


 さて、ここからは通常のデートの再開だ。

 俺とニケさんは城下町に、アテナ達は貴族区にあるショッピングセンターへと向かうことが決まった。


「ニケさんは虫とか大丈夫なんですか?」

「はい。全く問題ありません。お気遣いありがとうございます」


 ニケさんも虫は苦手なのでは?と配慮してみたが、全く問題ないらしい。

 むしろ、「お任せください! 歩様を脅かす害虫は、このニケが全て処分致します!」と張り切ってしまってさえいる。.....と言うか、俺は虫苦手じゃないし!ちょっと驚いちゃうだけだし!


 そんなこんなで、ぶらりと散策を開始する。

 目的地は特にない。


 そもそも、アテナとモリオンが虫を嫌がるせいで、城下町自体にほとんど来ないのである。その為、何があるのかなど全く分からない状態だ。

 それこそ、勝手知ったる王都の時とは異なり、ニケさんをちゃんとエスコートできるのかどうかさえ不安なぐらいである。


「歩様?」

「.....」

「歩様?」

「あっ.....。す、すいません」


 どこか心配そうな表情で俺の顔を覗き込むニケさん。

 不安な気持ちに押し潰されていた影響か、ニケさんの呼び掛けに全く気付くことができなかった。


 デートはまだ始まったばかりだ。

 彼女に心配されるようではあまりにも情けない。しっかりしないと!


「何か、お悩みですか?」

「大したことではないですよ。大丈夫です」


「無理は良くありません。どうぞお話ください。

 私でも、歩様の為に何かお力になれることがあるかもしれませんよ?」


 あぅ.....。


 ニケさんのデキるお姉さんな雰囲気についつい甘えたくなる。と言うか、甘えたい!

 ここで「男の矜持はどうした?」と言われそうだが、「何それ? おいしいの?」と答えておく。


 矜持なんてものは些細なことに他ならない。

 それよりも、男だったらお姉さんに甘えたいものだろう?そのほうが間違いなくおいしいしな!


「実は───」


 と言うことで、俺の心情を吐露することに決めた。

 男として、彼氏として情けなくはあるのだろうが、このまま気負ってデートするよりかはずっとマシだ。


「そういうことでしたか」

「はい。ですので、上手くエスコートできなかったらすいません」


「何を仰いますやら。歩様は既にエスコートできておりますよ?」

「.....え? どういうことですか?」


「私は歩様と一緒にいられるだけでもしあわせなのです。その上、歩様と二人っきりでのデートだなんて嬉しすぎます。.....歩様? これに勝るエスコートが存在するのでしょうか?」

「ニケさん.....」


 あまりの嬉しさに、その場でニケさんを抱き締めてしまった。

 周囲からは「リア充爆発しろ!」「おい! バカ、やめろ! あれは竜殺し様だぞ!」とかなんとか色々と聞こえてくる。.....やっちまったぜ。HAHAHA。


 そんな『後悔先に立たず』な気分の俺に追撃の一手が.....。


「歩様? キス、しませんか?」


 甘く蕩けきった表情とうるうるな上目遣いで、そうお願いしてくるニケさん。

 気持ちはよく分かる。すごくよく分かる。ニケさんをそんな気持ちにさせてしまうほど、俺は強く愛おしく抱き締めてしまったのだから.....。


「それはごめんなさい」

「むぅ!」


 しかし、ここは天下の往来だ。

 いくら俺に原因があったとはいえ、さすがに群衆の目があるところでのキスは勘弁願いたい。ほ、ほら、恥ずかしいしさ?ニケさんのジト目が非常に怖いが、ここは諦めてもらおう。


 そう思った瞬間.....。


「.....では、歩様? こう致しましょう」

「なんでしょ.....んむぅ!?」


 一瞬の隙を付かれ、ニケさんから小鳥がついばむようなかわいらしいキスをされてしまった。

 おのれ孔明(ニケさん)!またしても謀ったな!?


 二回目の仲達(おれ)登場である。

 と言うか、そんな恋愛漫画みたいなテンプレとかどこで覚えてくるのか.....。雑誌?雑誌かな?GJ!雑誌!!


───ざわざわざわ

───ざわざわざわ


「お、おい。あの女性が本命なのか? 俺はてっきり、いつも連れてる嬢ちゃん達かと.....」

「お前、バッカだなぁ。竜殺し様ほどの方の本命が1人な訳ないだろ? 全員、コレだコレ」

「えー。竜殺し様って、もっとストイックな方だと思ってたのにショックー」

「何言ってるのよ。むしろロリコンじゃないことが証明されたじゃない。チャンスよチャンス」

「むりむりー。あの人を見てみなよ。いつの子達よりかは劣るけど、それでも美人じゃない」


 そして、そんな俺とニケさんの一部始終を見て沸き上がる野次馬ども。


 まず、アテナ達を俺の囲いのように言うのは止めろ!俺は保護者だ保護者!

 それに、何となくは察していたが、どうやら俺はロリコンだと思われていたらしい。.....ハァ。仕方がないか。俺のPTはロリロリしているしな。HAHAHA。


 そんな気落ちしている俺とは対照的なのが、キスをしてご満悦な様子のニケさんである。


「ふふっ。キスしちゃいました♪ 一応言っておきますが、これでお相子ですよね?」

「.....お相子?」


「はい。決して、歩様との約束を反故にした訳ではないですよ」

「と言うと?」


「歩様が先に『人前でのいちゃいちゃは禁止』との約束を反故にされましたので、私も反故にしただけでございます。だから、これでお相子です。それでよろしいですよね?」


 うぐぐ.....。筋は通っている。いや、通っているのか?

 だが、お相子だと言われてしまったら、言い返す手段がこれと言って見つからない。


 結果.....。


「ま、まぁ、今回は仕方がないですね」

「ありがとうございます! 歩様! 愛しています!!」


───ちゅッ♡


 油断していたところに、更なる追撃の一手(キス)

 そして、それを見て、再び沸き立つ野次馬ども。


「ちょっ!? ニケさん!?」

「申し訳ありません。嬉しすぎてつい」

「ついって.....。それ絶対わざとですよね? 確実に狙ってましたよね?」

「あっ。バレちゃいましたか? では.....ノーカンということで」


 一切悪びれる様子もなく、かわいくてへぺろー☆しているニケさん。かわいいな、もう!

 と言うか、「ノーカンということで」じゃねぇんだよ!恥ずかしいから本当に止めて!!



 ニケさんによるスタンピートなキスはまだまだ続く.....。



□□□□ ~YOU、KISSしちゃいなYO!~ □□□□


 さすがに往来の邪魔になるということで、俺とニケさんは早足にて沸き立つその場から離脱することにした。

 後ろから「結婚式は呼んでくださいよ、竜殺し様!」とか「性奴隷でもいいので、囲ってください!」とか様々な野次?声援?が聞こえてきたが、聞こえなかったことにしよう。と言うか、本当に勘弁してくれ!


 そんなこんなで、再び城下町をぶらりと散策し始めた。

 フランジュ同様、ここトランジュでも色々な屋台が出ている。


 おいしそうな匂いに釣られ、向かった先の屋台にはトランジュの名産品が.....。


「おぅ。兄ちゃん。お1つどうだい?」

「これは?」


 俺の視線の先にあるのは串に刺さった黒い肉?の塊だ。

 おいしそうな匂いからして旨そうではあるが、何の肉だろうか。見たことないな。


「ここトランジュの名産品さ。

 こいつは旨くてな。それに美容にも良いらしいぜ? 

 そこのべっぴんさんの為にも、ぜひ買っていってくれよ!」


 なぜ「美容にも良いらしいぜ?」と疑問系なのだろうか。

 あれか。売り付ける為に適当な法螺でも吹いてしまったのだろうか。誇大広告ならぬ誇大宣伝ってやつ?


「どうします? 食べますか?」

()()()()()()()()()()()()、ぜひ食べてみたいです」

「そ、そうですか.....」


 またか.....。

 まぁ、別にいいんだけどさ?


 実は、この屋台に立ち寄る前にも同じようなことが何度かあった。

 ちなみに、フランジュでのデートの時のニケさんはどうだったかと言うと、普通だった。当然だ。俺が勝手知ったる土地だっただけに、オススメのものを購入していたのだから。


 でも、ここトランジュではそうはいかない。

 それに、アテナ達なら我先にと駆け寄っていってしまうだけに単純で楽なのだが、ニケさんはあまり『食』に興味がないらしい。


 つまり、「これ食べたい!」「あれ食べたい!」という主張が皆無なのだ。

 決まって、「俺が望むなら.....」「俺と一緒のもので.....」と返事が返ってくる。


「何食べたい?」「なんでも」級の困った回答である。


 故に、この屋台が初の購入場所となりそうだ。名産品にも興味があるしな!

 それに、あまり冷やかしばっかりというのも目を付けられそうで怖いという理由もなきにしもあらず。なんか、こういう屋台の連中って、裏で繋がってそうじゃん?俺の地元はそうだったし。


 とりあえず、美容にも良いらしいので、2つほど購入してみる。


「あいよッ! 【こうもりの姿焼き】を2つだな! ありがとさん!」

「ちょっ!? こ、こうもり!?」


 失敗した。ちゃんと確認するべきだった。

 どうやら、トランジュの名産品は【こうもりの姿焼き】らしい。おぇぇ。


 いや、匂いからして間違いなく旨いのだろうが、元となった材料は知りたくなかった。

 かと言って、購入してしまった以上は責任を持って食べなくてはならない。いくら嫌悪感を抱いたからと言っても、食べ物を粗末にするのだけは許されない。


 意を決して【こうもりの姿焼き】にかぶりつく。

 ほどよく焼かれているおかげか、肉はとても柔らかく、骨も噛み砕き易くなっている。

 肝心の味はと言うと、匂いからなんとなくの予想は着いていたが、縁日の屋台でよく見かける『イカ焼き』そのものである。


 海岸部ではそのままイカを使っての『イカ焼き』を販売し、内地ではイカの代わりにこうもりを使った『こうもり焼き』を売っているのだろう。

 そもそも、同じような味なら、わざわざイカを取り寄せる必要もないだろうしな。


 とにかく、旨いことは旨い。

 元の材料さえ知っていなければ、もっと楽しめたことだろう。


「どうです? おいしいですか?」

「.....」


 しかし、ニケさんからの返事はない。

 いや、返事がないどころか、何が不満なのか仏頂面をしている。なんで!?こうもりだから!?


 しかし、根本的に違ったようだ。


「『いただきますのキス』.....」

「えぇ.....」


 それはもう恨み辛みの籠った瞳なんですよ。

 ニケさんの燃え盛るきれいな灼眼が、どこか黒く濁ったような色に見える訳ですよ。こわいぃ!


 そもそも、『いただきますのキス』自体がおかしくはないだろうか?

 いや、『いただきますのキス』がおかしいのではなくて、この場面での『いただきますのキス』がおかしいということだ。あれって、朝食・昼食・夕食の前にするものじゃないの?


「歩様はものを食べる時に「いただきます」と言わないのですか?」

「いや、それは言いますけど.....。でも、場合によっては言わない時だってありますよ?」


 屋台での買い食いやちょっとした食事などでは言わない人の方が多いような気がする。

 そうだな.....。家屋内というか、人の目があるところでは言うと思う。一応、それが食に対するマナーだしね。


「でも、言わないだけで、思っていないだけで、本質のところは「いただきます」で合っていますよね?」

「えっと.....。まぁ.....」


 やばいよ!やばいよ!やばいよ!


 これは反論できない。正論中の正論である。

 これを否定することは『いただきます』そのものを否定することに繋がる。


 たかがキスごときで.....ひぃ!睨まないで!

 よもや『おキス様』で哲学的な部分までツッコまれるとは思いもしなかった。


「なら、『いただきますのキス』は必要なのではないでしょうか?」

「.....」


 ハイ。ソウデスネ。

 オレガマチガッテマシタ。スイマセン。


 つまりは、そういうことだ。


「ふふっ。やったッ! では、お願いします」


 胸の前で小さくガッツポーズをしたニケさんが、そのまま目を閉じ、キスの態勢に入る。

 と言うか、ここで!?.....あれ?屋台の親父さんの目の前なんだが?


「ん.....」


 しかし、ニケさんは意地でもここでキスをして欲しいらしい。

 まるで某ゲームの不動の構えのような感じで、今か今かとキスを待っている。えぇ.....。そりゃあ、ニケさんのふっとびガードは80%UPしたのだろうが、俺のふっとびガードは80%減である。


 ・・・。


 う~ん。これは困った。


 ここでキスを断ることは簡単なのだが、それだとニケさんに恥をかかせてしまう。

 下手したら、「かの高名な竜殺し様にアプローチを断られた娼婦w ぷぎゃーm9(^Д^)」とか笑い者にされてしまう可能性すら有り得る。

 だって下界では、本物の女神であると信じてもらうことが困難なニケさんよりも、本物の竜殺しであると認められている俺の方がずっと立場が上なのだから.....。


 別に、俺がヘタレだという噂がトランジュ中に広まることについてはなんてことはない。

 もはや、フランジュでの土下座の一件で慣れたものだ。むしろ、見下してもらったほうがめんどくさい厄介事に巻き込まれない分、気楽でもある。


 しかし、愛しい彼女であるニケさんが、他人からバカにされるのは我慢がならない。

 ニケさんは俺の最高の彼女なのだから、他人からバカにされるようなことがあってはならない。


 ・・・。


 う~ん。これは困った。

 と言うよりも、『ニケさんの名誉を守る』及び『ニケさんへの愛を貫く』のなら、答えは最初から決まっているのだ。


 この場でキスをする。


 これ以外の選択肢は存在しない。

 最初から、悩む必要など、考える必要など、どこにもないのである。


 ・・・。


 ふぅ~。腹を括るんだ、俺!


 ・・・。


 意を決した俺は、ひたすらキスを待つニケさんを軽く抱き寄せる。

 そうそう、俺とニケさんの【こうもりの姿焼き】は一時的に屋台の親父さんに預かってもらった。今から店先でキスしようとするわ.....商品を預かってもらうわ.....うん、これ軽く営業妨害だわ。HAHAHA。


「えっと.....。では、いきますね?」

「はい。お願いします」


 そして───。


「「んっ.....」」


 再び、何度目になるか分からないキスを.....いや、デートでの初めての『いただきますのキス』を、屋台の店先で、屋台の親父さんの目の前で熱く交わしたのだった。

 但し、「ちゅッ♡」と軽く触れる程度のフレンチなキスだった点は許して欲しい。ほ、ほら、屋台の親父さんの目もあることだしさ?


「おいおいおいおいおい。兄ちゃんさぁ? ここは宿屋じゃないっての。そういうのは宿屋でやってくれよな? ごちそうさまってか。.....おまけだ。あと2本持っていきなッ! べっぴんさんを大切にするんだぜ?」


 テレテレテッテッテ~。

 俺は追加で【こうもりの姿焼き】を2本手に入れた。


 やかましいわ!


「ありがとうございます。歩様と【こうもりの姿焼き】の味がしますね」

「俺の味って、なんですか!?」


 キスを終えたニケさんの笑顔は格別だった。

 うん。この笑顔が見れたのなら、頑張った甲斐があったというものだ。


「ふふっ。内緒です」


 ニケさんはそう言うと、キスをした際に付着した【こうもりの姿焼き】のタレを味わうように.....。いや、これは.....俺の味とやらを味わうように、自身の唇をペロッと軽く舌なめずりをした。


「.....(ごくっ)」


 そんなニケさんの何気ない仕草に心が跳ねる。

 思わず息を飲んでしまうほど、ニケさんの潤った唇に視線を注いでしまう。いや、もはや魅了されていると言っても過言ではないだろう。


「では、『ごちそうさまのキス』も期待していますね?」

「.....」


 妖しく微笑むニケさんは、この後もきっと人前でのキスを要求してくるに違いない。

 でも、それもなんか悪い気がしないでもない。いいや。ニケさんとキスができるのなら、むしろ喜んで!



 結局、ニケさんによるスタンピートなキスは、この後も、これからも、ずっと続いていくのだろう───。




次回、本編『夜と言ったらあれ』!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


と言うことで、ようやく異次元世界から戻ってきました。


ちなみに、デート場所をショッピングセンターにしなかったのは、アテナ達と遭遇する恐れがあるからという理由です。

ショッピングセンターなら、もしかしたら上手くエスコートできる自信が主人公にもあったのかもしれません。


また『スタンピート』とはよく『魔物氾濫』という意味で使われておりますが、ここでは『何かを起因として突発的または散発的に起きる事柄のこと』を指しています。


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