第191歩目 女神と義妹!最強神vs最強種⑥
前回までのあらすじ
ニケの神護『勝利』は概念にも勝利できるようです。
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これにて、最強神vs最強種が終了となります。
次話より、ひたすらいちゃつき回が始まっていきます。
いつから、バトル展開になると思った!?
□□□□ ~交流から始まる異次元世界~ □□□□
モリオンが、かわいく万歳しながら「のだー!」と雄叫びをあげ、新生モリオン(敵)へと覚醒を遂げてから既に数分が経過した。
「お前、嫌いなのだ! お前、嫌いなのだ! お前、嫌いなのだ!」
「.....」
現在、モリオンはニケさんを一気呵成に攻め立てている。
いや、ニケさんがモリオンに攻め立てさせていると言ってもいいだろう。
だが.....。
「お前、嫌いなのだ! お前、嫌いなのだ! お前、嫌いなのだ!」
「.....」
どうやらお気に召す内容ではなかったらしく、ニケさんはつまらなさそうな表情をしている。
そもそも、ニケさんとモリオンでは元々の実力差が顕著である以上、こうなることは明白だったと思うのだが.....。
第一、ニケさんからしてみれば児戯に等しいモリオンの攻撃も、ドールの戦闘訓練の賜物なのか、以前とは見違えるほどの動きを見せている。
以前のモリオンは強力なブレスと尻尾による力任せな攻撃一辺倒だったのに対し、今は手足と尻尾を見事に組み合わせた軽快なフットワークだ。
パンチやキックなど全てが全力なのか多少大振り気味で隙が出来つつも、そこを尻尾で上手くカバーしている。特に、尻尾が攻防に加わることでトリッキーな動きになる点は非常に面白いと思う。
この戦闘スタイル.....モリオンの強力なステータスを見事に活かしているといっても過言ではないだろう。
拳闘士ってやつだろうか。
いや、キックや尻尾も使っていることから、闘士というべきか。モリオンは竜族だし、竜闘士ってところかな。
「うむ。なかなか良い動きをしておる。
我を失っている状態でもあの動きが出来るのなら、仕上げの日も近いであろうな」
「ドールはどっちの応援をしているんだよ.....」
「そんなもの、トカゲに決まっておろう?」
「なんで?」
「ニケ様には何をしても勝てぬのだから、せめて応援ぐらいはしてやらぬと憐れではないか」
「.....」
憐れとか言うなよ!
モリオンがかわいそうだろ!!
そんな妹に手厳しいドールの2本の尻尾は、現在俺の膝の上でご機嫌よろしくぶんぶんと勢いよく振られている。
それに合わせて耳もぴくぴくと動いているので、思わずもふりたくなる衝動に駆られる。.....いや、もふらせて頂こう。もふもふ~。
「なんだかご機嫌だな?」
「それはそうであろう。いつもは邪魔な.....ごほん。
いつもは我が物顔で主の膝の上を占拠しておる姉さまが、今はいないのだからの」
全然、言い直せていないんだが?
だが事実、アテナは俺の膝の上にはいない。
今は現地勇者一行の恐ろしく美人なお姉さんの膝の上で楽しく歓談中 (=お菓子で餌付け)なのである。
「お姉さーん。ありがとー( ´∀` )」
アテナは本当に、どこでも、誰とでも、すぐに馴染むから驚きである。コミュ力高過ぎだろ!
まさか、異次元世界の住人にも愛されるとは思いもしなかった。天賦の才『人に好かれやすい』恐るべし。
「この子、凄くかわいいよ? 私もこんな子供が欲しいかも?」
「そ、そのうちな?」
よし!
頑張れ、現地勇者!
そして、アテナを膝の上に乗せているお姉さんなのだが、ちょっと美人過ぎて話し掛けづらいというか話し掛けるのが畏れ多いというか、気後れしてしまう。
アテナをかわいいの極地と見るのなら、このお姉さんはきれいの極地にいるといってもいいほどに美し過ぎる。俺が側にいてはダメなタイプだと思う。なんか見るのすら躊躇われてしまう。
「失礼します。異世界の勇者様。紅茶のお代わりはいかがですか?」
「は、はい。お願いします」
そんな小市民モードに浸っている俺に声を掛けてきたのは、現地勇者の専属メイドだと紹介された一人の女性だ。
そして、この専属メイドさんに声を掛けてもらったことで、俺の心がちょっぴりと跳ねてしまったことはニケさんには内緒である。
ちなみに、今更説明するまでもないと思うが、現地勇者一行と楽しく歓談しているのは何もアテナだけではない。
俺達もまた、現地勇者に用意してもらったテーブルと椅子、お菓子を兼ね揃えた見学セットなるものでニケさんとモリオンの戦闘を鑑賞しながら、現地勇者一行と親睦を深めている最中だ。と言うか、現地勇者は万能過ぎるだろ!
「.....主よ。少し、にやけておらぬか?」
「に、にやけてない」
ドールは本当に鋭いな!?
しかし、ドールが訝しむのも無理はない。
だって、この専属メイドさんは俺の好みにドンピシャなのだから。
一応、注意しておくが、別に職業のメイドさんが好きなのではない。
この専属メイドさんの人柄というか、ニケさんのようにデキるお姉さんの雰囲気を纏っている辺りが堪らなく良いのである。
あと、現地勇者一行の中では一番地味というか、普通の容姿な点もポイントが高い。まぁ、それでもそれなりに美しくはあるけどさ。
そして、極めつけは、まるでたんぽぽが花開いたかのような素朴で力強い笑顔に心を絆される。
「今は妾を愛でよ。己の奴隷を愛でるのは主人の義務なのじゃ」
「はいはい。ドールかわいいよドール」
「あ、あの、異世界の勇者様。私もその子をもふもふしてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ! どうぞ! こんなやつで良ければ、存分にもふもふしてやってください!」
「主!?」
耐えろ、ドール!
好みの娘のお願いは、それこそ何物にも代え難いものなんだ!
当然、ドールとの誓いがある以上、ドールが本気で嫌がるようならお断りさせてもらう。
しかし、今は俺の膝の上を独占できている影響か、そのような気配は微塵も感じられない。
それならば、俺と専属メイドさんが仲良くなれる切っ掛け作りに協力してもらおう。持つべきものは頼れる奴隷である。
「ぐぬぬ。やはり、顔がにやけておるのじゃ!」
「にやけてない!」
「.....あくまでも、白を切るつもりなのじゃな?
ならば、ニケ様に報告させてもらうとするかの」
ごめんなさい!にやけてました!
だから、それだけはやめてください!!
こうして、俺は現地勇者一行(=主に専属メイドさん)と親睦を深めつつ、ドールの声が甘く蕩けるまで全力で愛でてあげることになった。
ちなみに、俺達と一緒に同行してきたテディとな"ーも、別の現地勇者一行と仲良く戯れていたことをここに追記しておく。
□□□□ ~ぱちんっ!から始まる痴話喧嘩~ □□□□
さて、俺達が現地勇者一行と楽しく歓談している一方で、ニケさんによる教育はまだ続いていた。
「お前、嫌いなのだ! お前、嫌いなのだ! お前、嫌いなのだ!」
「.....」
ただ、気になる点がある。
いや、ニケさんもそれに気付いているのか、いまだに受け身の状態で手を一切出してはいない。もしかしたら、それを待っているのだろうか。
では、その気になる点なのだが.....。
「なぁ。なんでモリオンは変身しないんだ?」
「そうじゃのぅ。妾もてっきり変身するものだと思うていたのだが.....」
そう、モリオンは黒蝶の繭みたいなものから出てきたのはいいのだが、ずっと人間ver.のままなのである。
元々、ドラゴンへの変身を危惧して異次元世界にまでやってきたというのに、これでは意味が全く無い。.....あっ。ニケさんとのキスに踏ん切りがついただけでも十分に意味はあるか。
当然、人間ver.のモリオンでも十分に強いのだが、どうやらニケさんはドラゴンver.のモリオンに期待しているようで、今は心底つまらなさそうな表情を浮かべている。
いや、どうしたものかと憂いの表情を浮かべるニケさんもまた魅力的である。
「はぁ.....。ニケ様といい、専属メイドといい、主は節操が無さすぎなのじゃ」
「それは仕方がない。(異性として)好きなものは好きなんだから」
「言い切ったの!?
ふ、ふん! それを少しばかり、妾にも分けてもらいたいものじゃな!」
ドールのことも(仲間として)好きなんだけどなぁ.....。
まだ、俺の愛で方が足りないのだろうか。
もふもふ道は実に奥が深い。
「歩様~! ありがとうございます! 私もあ、愛していますよ.....///」
あっ。ニケさんが嬉しそうに、こっちに手を振っている。かわいい。
どうやら、俺とドールの会話が聞こえていたようだ。
戦闘中だというのに随分と余裕があるもんだ。
ちなみに、専属メイドさんには「今すぐ存在自体を消滅させてやる!」みたいな、憎しみの籠った眼差しを向けているようにも見える。.....ひ、ひぇ~。お、俺は何も見なかったことにしよう。
そんな惚け全開なニケさんとは異なり、既に興味を失ったドールの考察は続いていく。
そして、ある答えに辿り着いたようだ。
「主よ。トカゲが変身しない理由なのじゃが.....」
「おっ! 何か分かったのか?」
さすがはドール。
戦術眼というか、状況把握の早さはピカイチである。
ちょっと奥さん!
これで12歳とか信じられます!?
「いま、トカゲは我を失っておるのであろう?」
「そうみたいだな。でも、ニケさんが嫌いだという感情は残っているみたいだが」
「それはどうでもよい。
これはあくまで推測なのじゃが.....、トカゲは変身できることを忘れておるのではないか?」
「.....は?」
いやいやいや。
忘れてるって、なに!?
しかし、ドールにそう言われると、なぜかそんな気がしてくる。
いや、改めてモリオンという娘のことを考えてみると、それしか無いように思えてくる。
モリオンは純粋過ぎるほどに単純だ。
モリオンは純粋過ぎるほどにおバカだ。
モリオンは純粋過ぎるほどに猪突猛進だ。
そして、モリオンがドラゴンver.に変身しないいま、考えられることはただ一つ。
『変身できることを忘れている』。これに尽きるだろう。
決して、温存しているとか油断を誘っているとかは無いはずだ。
そもそも、(モリオンにとっては)そんな高度な戦術を張り巡らせることなど、到底できやしないのだから.....。
「忘れてるって、かわい過ぎないか!? 俺を萌え死にさせる気かよ!?」
「主のその気持ち、分からぬでもない。トカゲのおバカさは愛でるにふさわしいものだからの」
あっ。ここにもダメ人間がいた。
モリオンのおバカさは天然ものだからこそ、ついついかわいく思ってしまう。
狙っているのか、天然ものなのか、非常に分かりづらいアテナとは雲泥の差だ。まぁ、そうは言っても、アテナもかわいいんだけどね?
「と言うことは、あれか? モリオンを正気に戻さないと変身することは無い、と?」
「あくまで推測の域を出ぬがの。だが、可能性の一つとしてはあるであろう?」
確かに.....。
ただ、正気に戻した時点で、戦闘が終わるような気もする。
なんたって、今のモリオンの戦意は『ニケさん憎し!』のもとで行われているのだから。それが正気に戻ることで、その思いも無くなるのではないだろうか。また、煽り直すとかは本当に勘弁!
だが、ニケさんは違ったようだ。
「なるほど。出かしました、ヘリオドール。そして、さすがはアテナ様ですね」
「なぜ、姉さまなのじゃ?」
「さあ.....?」
「きっと、ヘリオドールのこの頭の回転の早さを見抜かれて、わざわざ妹に迎え入れたのでしょう。
その慧眼、その行動力。このニケ、ただただ感服するばかりでございます」
「「.....」」
顔をほんのりと桜色に染めつつ胸に手を当て、ほうと息を付く様はどこか恋した少女のようでドキドキとさせられる。と言うか、どことなくえっちぃ。
そして、ニケさんに、こんな表情をさせてしまうアテナが非常に妬ましい。
ニケさんの、その恋するような表情は、恋人である俺に向けられて然るべきものなのに.....。
そんな、アテナへの嫉妬に気付かないニケさんが、ようやく行動に移るようだ。
「では、まずは正気に戻すことから始めましょう。
正直、今のドラゴンには飽きてきたところですしね」
───ぱちんっ!
そう言うと、ニケさんはおもむろに指で軽快な音を一つ鳴らしてみせた。
あれ?それだけ?
その思いは二人の戦いを観戦していた一同にあるらしく、皆一様に頭の上に「?」を浮かべるのみだった。
いや、アテナただ一人は平然としている。.....のではなく、興味無さそうにお菓子を食べている。
すると───。
「お前、嫌いなのだ! お前、嫌い.....なの.....だ.....」
「「「「「!?!?!?」」」」」
先程までニケさんを一気呵成に攻め立てていたモリオンが、突如糸の切れた操り人形のようにカクンッと、その場で崩れ落ちてしまった。
突然のことに、皆が驚いたことは言うまでもないだろう。
しかも、モリオンのその崩れ落ちた姿勢が、まるでニケさんに土下座をして謝罪でもするかのような格好だったのが、余計に印象的だ。
「.....い、今、ニケさんが何をしたのか分かったか?」
「.....わ、分かる訳が無かろう」
俺とドールは開いた口が塞がらない。
ただ、現地勇者一行は、ニケさんの行動について何やら盛り上がっているようだ。はぁ~。戦闘狂は嫌やわ~。
とりあえず、決着が着いたようなので、急いでモリオンの元へと駆け寄り、ヒールを施す。
ニケさんのことは信じているし、外傷も特に無さそうに見受けられるが、一応念の為に、だ。
だが.....。
「.....」
一向に、モリオンが意識を取り戻す気配が無い。ちょっ!?なんで!?
そもそも、気絶状態は状態異常の一つだ。
故に、ヒールで気絶状態を癒せるのは確認済みである。
それなのに、モリオンの意識が戻らない。
ヒールが効いていないという訳でもないようだ。と言うことは.....。
気絶しているのではない?
急いでモリオンのステータスを【鑑定】で確認してみるも、やはり気絶状態で間違いは無いようだ。
全く意味が分からない。ステータスは確認できる上に呼吸は整っているので命に別状は無さそうだが、目を覚まさないことにはただ死んでいないということに他ならない。
どうすればいい?
どうすればモリオンは目を覚ますんだ?
「落ち着かぬか。主が考えたところでどうにもなるまい。ニケ様に尋ねてみたら良かろう?」
「ド、ドール.....」
そうだった。俺が錯乱している場合ではない。
こうなった原因であるニケさんに尋ねてみるのが一番早い。
かわいいモリオンのピンチということで、ついつい取り乱してしまったようだ。
「のぅ。妾のピンチの時も取り乱してくれるのかの?」
「何言ってんだ? 当然のことだろ?
でも、ドールがピンチになっている状況は想像したくはないな」
「なぜじゃ?」
「いや、その時って、もう絶体絶命な状況になってそうじゃん?」
結局、そうなったところで、最後はアテナ頼りになるのが目に見えているが、そうなる前にうちの参謀であるドールさんで急場を凌ぎたいところである。
「くふふ。任せよ!」と、かわいくおどけているドールの尻尾を優しくもふる。えぇ。頼んますぜ、ドールさん!
そもそも、『ピンチ、からの~、ど~ん!』みたいなハラハラどきどきな展開はご勘弁願いたい。
それこそ、そういうのは勇者の役目であって、単なる付き人でしかない俺の役目ではないはずだ。
・・・。
さて、大分気持ちが落ち着いたところで、俺に頼ってもらえず拗ねているニケさんに事情を伺うことにした。
子供のように拗ねているニケさんもとても愛らしい。と言うか、拗ねないでください、ニケさん。ニケさんのことは誰よりも信頼していますから。
「誰よりも一番に頼って欲しいのです!」
「ニケさんと一緒に居られる時はそのようにしますよ」
ニケさんは「いつも一番に頼ってください!」と不満たらたらではあるようだが、こればっかりは仕方がない。
そもそも、ニケさんとはいつも一緒に居られる訳ではないのだから。
当然、ニケさんもそれを理解した上で、それでも敢えて拗ねて見せているのだと思う。
これ、普通は、めんどくさい女だな、とか思ったりするものなのだろうか。
そう思った貴方はリア充確定な気がする。
しかし、残念ながら、俺はそうは思わない。
なんかこう、青春してるって感じがして、若返りそうな気がする。
重いぐらいの愛のほうが、ヤンデレぐらいの愛のほうが、将来を見据えた交際相手としてはどこか安心するものだ。
「しょ、将来を見据えて頂いてありがとうございます。.....では、早速結婚致しましょう!」
「まずはお付き合いからよろしくお願いします」
なんか、ラズリさん化してないか?
と言うか、早く事情を話して欲しいものである。モリオンが心配でならない。
もはやドールも「痴話喧嘩はな"ーすらも喰わぬものなのじゃな」と呆れ気味だ。
「むぅ! 結婚してからでも、お付き合いはできるじゃないですか!」
本当に早くしてください! お願いします!
□□□□ ~ぱちんっ!から始まる姉妹生活~ □□□□
───ぱちんっ!
「くぁ.....」
「モリオン! 良かった! どこか異常はないか!?」
「.....うぁ? アユムは何を言っているのだ?
あっ! アユム、おはようございます、なのだ!」
はい、おはようございます。
再び、ニケさんが指で軽快な音を一つ鳴らすと、それを合図に意識を取り戻したモリオン。
まるで、ニケさんに操られでもされているかのように、タイミングがバッチリだった。
「さすがに、私では『操る』というところまではできません」
「そうなんですか? でも、タイミングはバッチリだったような.....」
「私が行ったのは『意識の切り替え』だけです」
「意識の切り替え.....ですか?」
ニケさん、曰く。
まず、モリオンを指定対象にすることで、モリオンの『意識に勝利する』ことができるらしい。
そもそもの話、「意識に勝利するって、なに!?」というツッコミはご遠慮願いたい。できるものはできるのである。それが神。ふぅ~。もう驚かないぞ!
「歩様は普段生活する中で、『生きている』『活動している』などといった意識をされていますか?」
「いえ、さすがにしていないですね」
「でも、体が動くのは無意識下でそう意識されているからですよ。脳がそう信号を送っているからですね」
「なるほど。.....え? ま、まさか、意識を切り替えたってのは.....」
「ご想像の通りです。無意識下の状態が、脳からの信号が、通常は『死んでいるもの』『気を失っているもの』と認識されていたら、人は、生物はそれがデフォとなるものなのです。そして、その結果が先程までのドラゴンの姿だったという訳ですね」
怖過ぎるわ!
と言うか、それを操っているというのでは!?
「いえいえ。『操る』というのは、ヘカテー様の魔術のように自由自在に操ってこそだと思われます」
ニケさんは上には上がいると言いたいのだろうが、正直どっちもどっちだと思う。
それに、意識に勝利することで意識を操ることができるのなら、恐らくは行動すらも操れるに違いない。
「できなくはありません。ですが、ヘカテー様の魔術のように完璧ではないのです。
それに、力を思ったよりも使いますので、私はあまり好みませんね。使う必要性も感じません」
そして、着物の袖を捲り、細く白い腕を曲げて二の腕部分に小さな力こぶを作ったニケさんは、「えっへん! 私、これでも物理派なんですよ!」と、胸を張って自信満々に宣った。.....かわいい。破壊力は抜群だ!
それに、その小さな力こぶをちょっとツンツンしてみたい。
「歩様ならば、喜んで」
「では、失礼をば」
───ツンツン
「く、くすぐったいです.....///」
「ぐへへへへ。.....おっと。とても素晴らしい感触でした」
力こぶだというのにこりこりせず、ぷにぷにといった感触だったのがとてもあざといが、大変美味でした。ありがとうございます!
「いつまでいちゃいちゃしておる。.....羨ましいのじゃ!」
おっ?ほれ、ドールもやってみろ!
と言うか、もう「さすがニケさん!」で、全て良いように思えてきた。
概念に勝利できるのだから、意識に勝利できても何ら不思議ではないだろう。仮に、「人の生死すらも勝利できますよ?」と言われても、「うん、さすがニケさん!」としか言い様がない。
・・・。
改めて原因が分かったところで、微妙な表情をしているモリオンに対応しようと思う。
ちなみに、モリオンが意識を戻してここまで静かだったのは、俺とニケさんのいちゃラヴな雰囲気の空気を読んで待っていたからではなく、単純にボーッとしていたからだ。
ニケさんの言う通り、確かに完璧なものではないようだ。
意識に勝利した際に生じる、しばらくボーッとするなどの弊害が少しばかり残ってしまっている。ただ、後遺症は残らないみたいので、とりあえずは一安心である。
「アユム。こいつはなんなのだ?」
人に指差すな!行儀が悪いぞ!!
それにしても、随分とストレートな質問だ。
そして、紹介したことすらも忘れているようである。さて、どうしたものか.....。
そして、俺の出した答えは───。
「女神様だな」
結局、めんどくさくなった俺は正直に答えることにした。
だが、これが意外な結果に繋がろうとは、この時の俺は思いもしなかったのである。
「めがみさま、なのだ?」
「あぁ、女神様だな」
ちなみに、モリオンは女神様というものが、どういうものなのかをよく分かってはいない。
一応、アテナも女神であることを伝えてはあるのだが、ドールで言うなら獣人族の妖狐族、モリオンで言うなら竜族の黒死竜のような、人間族の種族の一つである『女神族』だと思っている節がある。
『女神族』とかいう、とんでもないパワーワードの誕生だ。
「じゃー、お姉ちゃんと一緒なのだ?」
「そうだな。アテナと一緒だな」
「じゃー、こいつはお姉ちゃんなのだ?」
「は?」
「え?」
「ぬ?」
モリオンの唐突な質問に、俺とニケさん、ドールは思わず変な声をあげてしまった。
予想だにしない展開とは、まさにこういうことを言うのだろう。ニケさん、これは勝利できませんか?
「なにか違うのだ? お姉ちゃんと一緒なら、お姉ちゃんじゃないのだ?」
モリオンの純粋なまでの円らな瞳が答えを求めてくる。
これは非常に困った。た、助けて!ドルえもん!!
「誰がドルえもんじゃ!
そもそも、都合の悪い時だけ頼るでない!」
そんな~、ドルえもん.....。
それと言うのも、説明が非常に難しい。
以前、前述したこともあるが、モリオンの中では『好き or 嫌い』の二者択一しか存在しないのは記憶に新しいところだ。
それはつまり、『お姉ちゃん or お姉ちゃんじゃない』しか存在しないのと同じことなのである。
ここで、「ニケさんはお姉ちゃんじゃない」と言うのは簡単なことだ。
しかし、その場合、「なんで、お姉ちゃん (=アテナ)と一緒なのに、お姉ちゃんじゃないのだ?」と返しが来ることを想定しておかなければならない。
そして、それをモリオンに理解させるのは非常に困難だ。
しかも、納得できるまでしつこく付きまとわれる恐れがある。かと言って、めんどくさいからという理由で嘘を付くのは論外だ。
「.....」
結論。
もうニケさんも、モリオンのお姉ちゃんでいいんじゃないだろうか。
そもそも、アモゾンの名義上ではアテナの姉ということになっているらしいので問題はない.....はず。ちらっ。
「あ、あの、歩様?」
「.....」
ニケさん、空気を読んでください!
もう、モリオンのお姉ちゃんになる道しか残されていないんです!
「どうなのだ? お前は我のお姉ちゃんなのだ?」
俺の無言の眼差しがニケさんに突き刺さる。
あっ。顔を赤らめないでください。俺もちょっと恥ずかしいです。
そして、深呼吸後、一拍置いたニケさんが遂に口を開いた。
「お、お前じゃありません。.....あ、姉に対して失礼ですよ?」
「!!」
目を見開いて驚くモリオン。
その表情には、もはや喜悦のものしか無いように見受けられる。
ちなみに、「ニケさんに対する憎しみはどこいった?」との疑問の声には、こうお答えしよう。
「そんなもの、とうに忘れてしまっている」と。
変身できることを忘れていたモリオンだ。
そんなおバカなモリオンが、憎しみを忘れていても何ら不思議ではない。それも、気を失うというおまけ付きなのだから尚更だろう。
故に、意識を取り戻した時点で、ニケさんへの憎しみはリセットされたようなものだ。
「アユム、本当なのだ?」
「あ、あぁ。本当だぞ。モリオンの新しいお姉ちゃんだ」
嘘は言っていない。事実とちょっと異なるだけだ。
前述したが、アモゾンの名義上ではアテナとニケさんは姉妹なのだから問題はない.....はず。
俺の確認を取れて、更に嬉しそうな表情をするモリオン。
一方、ニケさんは思わぬ展開に少し困惑気で、ドールはやれやれといった表情を浮かべている。
しかし、そんな困惑気なニケさんに一大転機が訪れる。
「お姉ちゃん、ごめんなさい、なのだ」
「はぅ!?」
おや?
もしかして、やられちゃいました?
深々と頭を下げ、非礼を侘びるモリオン。
この侘びは、神であるニケさんにしたものではない。義姉であるニケさんにしたものだ。
それでも、十分にモリオンの気持ちは、義妹の気持ちは、ニケさんに、義姉に届いたに違いない。
「え、えっと.....。よろしいのでしょうか?」
「いいんじゃないですか? モリオンも喜んでいるみたいですし」
「で、ですが、妹というものはなにぶん初めてでして.....。
ど、どうしたらいいのでしょうか?.....あっ! ざ、雑誌! 雑誌に載っていますよね!?」
事実、義妹のかわいらしい真摯な態度に、義姉はあたふたと慌てふためている。
なるほど。『勝利』の神護が『絶対に勝つ』というものではなくて、『負けることがない』というものなのはこういうことを指すらしい。
とりあえず、俺がニケさんにできるアドバイスはただ一つ。
当初の目的とは少し異なるが、『モリオンと盛大に遊んであげる』ということだ。
「変身してもいいのだ?」
「おぅ。ここなら思いっきり暴れてもいいぞ。許可は貰ってある」
「うぉぉおおお! やったのだぁぁあああ!」
「のだー!」と万歳して嬉しそうに微笑んでいるモリオンはとてもかわいらしい。
実は、モリオンからドラゴンに変身できる旨を明かされて以降、しきりにドラゴンに変身したいとおねだりされていたのだ。当然、却下していた訳なのだが。
しかし、ベルジュでのドラゴン襲撃事件以降、それがめっきりと減ってしまっていた。きっと、モリオンはモリオンなりに気を遣っていたのだろう。
事情が事情だけにおいそれと認めることはできないが、こういう時ぐらいは思いっきり羽を伸ばさせてあげるのも(自称)教育親としての務めなんだと思う。
「お姉ちゃんは強いのだ?」
「え? えぇ、まぁ.....。歩様、本当によろしいのですか?」
「よろしいもなにも、ニケさんも消化不足気味なのでは?」
「歩様! ありがとうございます!」
とても嬉しそうにしている二人を見ると苦笑しか出ない。
ともに戦闘狂であるという観点からすると、とてもお似合いな姉妹なのかもしれない。
「行きますよ! ドラゴン!!」
「ドラゴンじゃないのだ! モリオンなのだ!」
「そうでしたね。行きますよ! モリオン! 徹底的に打ちのめしてあげます!」
「お姉ちゃんに負けないのだ! 勝つのは我なのだ!」
仲良く駆け出す二人を、温かい眼差しで見送る俺とドール。
いつの間にか、ニケさんがモリオンの名前を抵抗無く受け入れているあたり、やはり妹という存在は特別なものなのだろう。
仲良きことは美しきことかな。
最強の女神をもデレさせる妹はやはり最凶であった。
『妹最凶説』ここに成れり。
その後、モリオンはニケさんにこてんぱんにのされるまで、思いっきり羽を伸ばすことができたようだ。
ちなみに、お互い「ふふっ。やりますね、モリオン」「お姉ちゃんもなのだ!」みたいな、「いつ時代のヤンキーだよ!?」と思わずツッコミたくなるような友情劇を見せられた時には若干引いてしまったのは内緒である。
「ぐ、ぐぬぬ.....。トカゲをニケ様に取られた気分なのじゃ」
「.....」
安心しろ、ドール。
モリオンはなにげに、ドールのことが一番好きだからさ。
こうして、ニケさんとのデート1日目は、異次元世界にて現地勇者一行も交えながら楽しく幕を閉じるのであった。
次回、本編『素晴らしき日本の文化』!
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一つお聞きしたいのですが、異世界の人々との交流会は需要ありますかね?
有るようなら特別編で出しますし、無いようならスルーでいこうと思います。
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今日のひとこま
~一番上のお姉ちゃんはだれ?~
「あいたたたたた、なのだ。お姉ちゃん、強すぎるのだ。全く敵わないのだ」
「ふふっ。モリオンもなかなかのものでしたよ?」
「ほんとーなのだ!? お姉ちゃん、ありがとうございます、なのだ」
「はい。どういたしまして」
「なんかすっかりと打ち解けていますね」
「姉妹の間柄に言葉は不要ですからね。拳と拳で思う存分語り合ってきました」
「そ、そうですか。(だから、いつ時代のヤンキーだよ!?)」
「そうなのだ! お姉ちゃんの一撃一撃に魂の叫びを感じたのだ!」
魂の叫びって、なに!?
と言うか、お前はどこのモ○ゴルマンだよ!?
「のぅ、主。これは色々とマズいのではないか?」
「そうだなぁ.....。戦闘バカは色々と支障をきたしそうだしなぁ.....」
「ご安心ください。支障をきたす前に始末致しますので」
「いやいやいや。支障をきたす前提は止めてください。起こさないのがベストなんです」
「そうですか? 結果が同じならそう変わるものではありませんよ?」
「HAHAHA。(有能過ぎるのも問題なんだなぁ.....)」
「アユム。アユム」
「どうした?」
「我にはお姉ちゃんがいっぱいいるのだ」
「そうだな。それがどうした?」
「誰が一番上のお姉ちゃんなのだ?」
「「!!」」
モリオンの発言に、ニケさんとドールの瞳が妖しく光った。
これまで、姉妹の序列はなぁなぁで済ませてきた。まぁ、とりあえずはアテナ?みたいな。
だがそれは、俺達の間での認識であり、モリオンにはこれっぽっちも伝わっていなかったのだ。
「当然、妾であろうな。姉妹の中で一番の常識人であり、一番主に貢献しておるしの」
「何を戯れ言を.....。私に決まっているではないですか。
妹のピンチを救えない姉など長女である資格はありません」
「いやいやいや。ニケ様は普段、トカゲの側におらぬではないか」
「全く問題になりません。その気になれば神罰でも落としてみせますので」
「神罰とか非常識過ぎるのじゃ。主の迷惑にもなろう」
「それこそ問題ありません。
迷惑だと感じるものはその場で、少なくとも翌日には理解を得ていますので」
「あ、あの、ちょっと落ち着いて.....」
「「うるさいのじゃ!(です!)」」
えー.....。
なに、この理不尽感.....。
と言うか、アテナはどうなるのだろうか?
「結局、誰が一番上のお姉ちゃんなのだ?」
「妾なのじゃ!」
「私です!」
「こらー!私に決まってるでしょーヽ(`Д´#)ノ」
「「「あっ.....」」」
「ふぇぇえええ(´;ω;`)」
「だ、大丈夫だぞ、アテナ。俺はちゃんと覚えていたからな」
「ニケもー、コンちゃんもー、モーちゃんもー、みーんなきらーい!」
「も、申し訳ありません、アテナ様! どうかお許しください!」
「ね、姉さま、済まぬのじゃ。ほれ、好きなだけもふもふして良いのじゃ」
「お、お姉ちゃん、ごめんなさい、なのだ。忘れてたのだ」
「ぶー(´-ε -`) じゃー、私が一番お姉ちゃんねー?」
「「「えー」」」
「歩ー!みんながいじめるー(´;ω;`)」
「ふふっ。冗談ですよ、アテナ様。アテナ様が(賢さ)ナンバー1です」
「そうじゃぞ、姉さま。姉さまが(わがまま)ナンバー1なのじゃ」
「そうなのだ! お姉ちゃんが(食い意地)ナンバー1なのだ!」
「にへへー(*´∀`*) そうだよねー! 私が一番お姉ちゃんだよねー!」
この駄女神、みんなにいいように遊ばれてるなぁ.....。




