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第184歩目 ドールの奴隷道!ヘリオドールの3つの願い①

前回までのあらすじ


ヘスティア様との別れは寂しいなぁ.....。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


長くなったので分割します。



 side -ヘリオドール-


□□□□ ~奴隷の目覚め~ □□□□


「───!」


 んぅ.....。

 何かが聞こえる.....。


───ゆさゆさ


 んんぅ.....。

 何かが揺れている.....。


 ハッキリとはしない混濁した意識の中、それはひたすら続けられていた。

 何かが必死に叫んでいる音と何かが激しく揺さぶられる音の同時メドレー。



「───る!」


 だれ.....じゃ?

 誰かが妾を呼んでいる。


───ゆさゆさ


 やめ.....よ。

 誰かが妾の体を揺さぶっている。


 少しずつ、少しずつ、自分の意識がハッキリとしてくる。

 すると、先程からずっと続けられていたこの謎のメドレーは、自分が対象だったのだとなんとなくだが分かるようになってきた。


「.....」


 正直、鬱陶しい。

 このなんとも言えない夢遊感は、なんとも言えない気持ちにさせてくれる。


 心地好いとまでは言わない。

 しかし、だからと言って、手放すには惜しい心地好さ。.....鶏肋。鶏肋。


 思わず、隻眼の将軍が「は?鶏肋でございますな?」と確認を取ってしまいそうになる程の鶏肋ぶりだ。

 思わず、行き過ぎた文官が「では、鶏肋とはどういう意味でございますか?」と尋ねたくなる程の鶏肋ぶりである。


 つまり、結果は『この夢遊感に溺れていたい』ということなのだが.....。

 何故か、溺れたいという欲求と溺れてはならないという本能が、いまだハッキリとはしない意識の中で同時にせめぎ合っている。


 妾のことだ。

 妾の好きなようにすればいい。


 夢遊感に溺れていたっていいのだ。

 この謎のメドレーを無視していたっていいのだ。


「.....」


 でも、何故か無視できない。

 でも、何故か本能が強く訴える。


 早く起きろ!、と。

 決して無視をしてはいけない!、と。


「───どーる!」


 とても優しい声。

 とても温かい声。


 妾はこの声をどこかで.....。


「ドール!」

「!?」


 急速に妾の意識が戻っていく。

 戻ってきたのではない。無理矢理に戻したのだ。


 忘れていいはずがない。

 無視していいはずがない。


 だって、この声は.....。


「主.....」

「あぁ、おはよう。どこかおかしいところはないか?」


 優しく微笑みかけて、妾の体調を気遣ってくれる主。

 そう、先程までの謎のメドレーは全て主に依るものだった。


 だから、妾の本能が強く訴えていたのだ。

 だから、無視などしていいはずがないのだ。


 だって、愛しい主人が愛しい声で妾を呼んでいるのだから.....。


 ならば、愛しい主人の奴隷として、愛しい主人の求めに応じるのは当然のこと。

 それが主の奴隷であることを望み、主の奴隷であることに誇りを持つ妾の努め。



 例え、この身が地獄に堕ちようとも、主の呼び掛けにはきっと応えてみせるのじゃ!



□□□□ ~奴隷の違和感~ □□□□


「二時間.....じゃと!?」


 驚いた。

 神への祈りを捧げてから、既に二時間が経過していたらしい。


 こんなこと聞いたことがない。

 妾も人から聞いた程度でしかないが、神への祈りはものの数分程度で終わることがほとんどらしい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ちなみに、以前主が説明し忘れていたことがあるので、ここで妾が補足しようと思う。


 神への祈りは教会で行われる。

 そして、祈っている最中は意識が祈りへと捧げられるので完全に無防備状態となる。


 これを一般的には『抜け殻状態』という。


 当然、『抜け殻状態』では何もすることはできない。

 それこそ、悪戯し放題され放題となってしまう。


 それは倫理的にも、道徳的にも、色々な面で問題がある。


 そこで、神への祈り専用である『祈り部屋』というものが、教会には用意されている。

 内側から鍵が掛けられる簡易的な部屋で、イメージ的には懺悔部屋に似たようなものである。


 通常、神への祈りはごく僅かな時間で済むとされているので、『祈り部屋』は無料で使用することができる。

 しかし、妾達の場合は祈りに時間が掛かることが多いので、お布施にてある程度融通を利かせてもらっている。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「二時間.....」


 いや、主と出会い、初めて神への祈りを見た時もそれなりの時間は掛かっていた。

 その時は、何がものの数分程度なのじゃ?所詮噂に過ぎぬな、などと思っていたが、それでも精々三十分程度だった。稀にもう少し掛かることもあったが、平均的にはそれぐらいだ。


「い、いや、今回は十回まとめてだったしさ!?

 普段よりも時間が掛かってもおかしくはないだろ!?」


 主の言う通り、いつもよりかは多少時間が掛かるものだと覚悟はしていた。

 しかし、それでも、二時間はさすがに掛かり過ぎではないだろうか。


 そもそも、三十分程度なら「忙しかった」と言われても納得はできる。

 しかし、二時間ともなると、逆に忙しいの範疇とは言えないような気がしてくる。


 そう、これではまるで、何かをしていたような時間だ。


 誰が?

 神様であろう?


 それとも.....。


「か、神様だって忙しいんだろ!?

 何たって、世界中の人々の相手をしているんだからさ!」


 それでも、それでもだ。

 こんなに時間が掛かるものなら、もっとそういう噂が広まっているものなのではないだろうか。


「じゅ、十回もまとめてやる奴が、そこまでいないってことだ。うん、絶対そう!」

「それはそうであろうが.....」


「はい!この話はこれでおしまい!!」


 怪しい.....。


 何故、主がそこまで慌てるのか。

 何故、逃れるようにして話を打ち切るのか。


 妾は基本的に噂など話半分程度にしか気には留めない。

 己の目で見たもの、己で体験したもの以外は基本的に信じないからだ。


 しかし、仮に、本当に噂通りだとしたら.....。


「ド、ドールさん?」

「.....」


 妾の頭の中がフル回転を始める。


 まず、姉さまは『女神様』なのだという。

 (にわか)には信じ難いことではあるが、これは敬愛する主が言っていたことだし、姉さまの得体の知れない雰囲気からもきっとそうなのだろう。


 そして、主は『勇者』ではなく、姉さまの旅行のお供をする『付き人』であるという。

 これはステータスで確認させてもらったことだから、ほぼ間違いはないだろう。まぁ、偽造されていたら話は別なのじゃがな.....。


 ただ、『付き人』という聞いたこともないような職にする理由は敢えてないだろうから、これは信じてもいいはずだ。

 特に、目立つことを嫌う主の性格からしても、間違いなく『付き人』なんだと思う。


 女神様と女神様の付き人。

 そして、神への祈り。


 妾は、たられば、の話は好きではない。

 意味がないし、そんな無駄なことに時間を費やすのはもったいないからだ。


 しかし、もしもだ。

 

 もしかしたら、主は何か知っているのではないだろうか。


 いや、ここは簡潔に言おう。


 もしかしたら、主は神への祈りに関与している可能性が───。



 そんなことを考えていたら、ある音が妾の耳に届いた。

 まるで妾の考えを「ぷーwくすくすw残念でしたーw」とでも言わんばかりに.....。


───くるるるるる。


「くー.....。くー.....」

「.....」


 音のするほうに視線を向けると、そこには気持ち良さそうに寝ているトカゲの姿があった。

 体の割りには大きな尻尾をかじかじと口に咥えて.....。か、かわいいのじゃ。


 主曰く。

 主が目覚めた時点で、トカゲは既に寝ていたらしい。


 当たり前のことだが、神への祈りを捧げている最中に眠ることなど到底不可能だ。

 それは、異世界人である主や女神様である姉さまでさえ、意識を祈りへと捧げているのだから。いわんや、トカゲをや、というやつだ。


 そうなると、最初から寝ていた可能性がある。

 つまり、まともに祈っていない可能性があるということだ。


『神様からの恩恵は祈る必要がある』


 これは神への祈りという儀式において、もはや常識中の常識である。

 しかし、トカゲの前には8個のたわしがちゃんとある。


 祈っていないのに恩恵はある.....。


 なんというか、あまりにも杜撰過ぎる。

 ここまで真剣に考えていたことが、あまりにもバカらしく思えてきた。


 そもそも、姉さまが女神様だという時点で最初から気付くべきだった。

 きっと他の神様も、姉さまのようにいい加減なのだろう、と.....。


 主の言う通りだ。

 恐らく、神様は(仕事がいい加減なのだから)忙しかったのであろう。


「済まぬ。なんでもないのじゃ」

「お、おぅ?

 とりあえず腹も減ったことだし、モリオンを起こして昼食にでもしようぜ?」


 疑って済まぬ、主よ.....。


「起きんか!バカトカゲ!!」


───バシッ!


「ふがっ!?」

「祈らず寝ておるとは何事じゃ!不敬であろう!だから、全部たわしなのじゃ!!」


 まぁ、ちゃんと祈った妾も全部たわしだったのじゃがな.....。


 妾は気持ち良さそうに寝ているトカゲを文字通り叩き起こした。

 祈らずに寝ているとか、このダメ妹はあまりにも自由過ぎる。ふん、所詮はトカゲということか。


 それしても、今回も全て『たわし』という結果に、なんとも言えない気持ちになる。

 十回まとめて祈ったので、一回ぐらいは!と秘かに期待していたのだが、そう簡単なものではないらしい。はぁ.....。


 しかし、ショックではあるが、その姿を主に見せる訳にはいかない。


 以前、迂闊にもその姿を見られてしまった時に、何故か申し訳なさそうにしていた主の姿を、妾は今でもハッキリと覚えている。

 そして、主に謝られる度に、心が締め付けられるような切なさと苦しさを感じたものだ。


 主人に心配を掛ける奴隷など奴隷に非ず!


 ただ、何故、主は申し訳なさそうにするのだろうか。

 神様からの恩恵は神様が決めること。主は全く関係ないであろうに。


 もしかしたら、やはり.....。


「どうした?どこか具合が悪いのか?」

「.....」


 あ、主.....。


「ドール?」

「.....(はっ!).....す、済まぬ。大丈夫なのじゃ」


 いかん!いかん!

 主人に心配を掛ける奴隷など奴隷に非ず!!


 妾を心配してくれる主の気持ちが素直に嬉しかった。

 この瞬間だけ、妾だけを見てくれていた主にうっかりと惚気てしまっていた。ゆ、許さぬ!主は本当に罪な主人なのじゃ!!


「おなかぺっこぺこだよーr(・ω・`;)」

「アユム!ご飯なのだ!ご飯なのだ!ご飯なのだ!」

「はいはい。飯のことになると、相変わらずうるさい連中だな。.....行くぞ?ドール」


「なのじゃ!」


 愛しい主人の求めに応じ、妾は目の前にある8個のたわしを急いで拾い上げ、主の許へと駆け付ける。

 今回の結果は()()と残念ではあったが、主と一緒ならまだまだチャンスはあるだろう。


 さて、昼食を摂りながら、主の結果でも聞くとしようか。

 若干、主の口元がニヤけているのを見ると、イライラして仕方がないが.....。



 ・・・。



 ん?

 おかしい。

 

 なぜ、たわしが8()()なのじゃ?




次回、本編『打ち明け②』!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


今日のひとこま


~油断も隙もないな!~ 


───バシバシッ!


「───!」

「───」

「───!おきてー!」

「ん.....んぅ.....」


───バシバシッ!


「おきてー!」

「う.....」

「おーきーて!あーははははは( ´∀` )」

「う.....うぅ.....」


───バシバシッ!


「んー?おきないのー(。´・ω・)?」

「うぅ.....」

「おきないんだねー?」

「うぅ.....うぅ.....」


───バシバシッ!


「んー(人´3`)」

「うぉい!?」

「びっくりしたーΣ(・ω・*ノ)ノ」

「びっくりしたーΣ(・ω・*ノ)ノじゃねえよ!」


何をしようとした!?

ねぇ!?今、何をしようとしたの!?


「ちゅー(。´・ω・)?」

「なんで疑問形!?.....と言うか、何故キスをしようとした!?」

「だってー、歩がおきないんだもーん(´-ε -`)」

「ふざけんな!起きないだけでキスをしようとすんな!!」


「しらないのー?歩おっくれてるー!」

「.....なにをだよ?」

「眠り姫はねー、ちゅーでおこすんだよー!」

「童話の話だろ!?それ以前に俺が姫ってどうなの!?」


「きにしないのー!じゃー、んー(人´3`)」

「やめんか!もう起きてるわ!!」

「ぶー(´-ε -`)」

「ぶー(´-ε -`)じゃねえ!俺はニケさんと初めてのキスをするんだ!」


「え.....(・ω・´*)」

「な、なんだよ?」

「なんでもなーい!あーははははは( ´∀` )」

「はぁ?」


アテナの最後の態度が微妙に気になるが.....。

まぁ、いいか。


ニケさーん!貴女の為に貞操を守り切りましたよ!!


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