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第178歩目 はじめての神剣!類友神②

前回までのあらすじ


ヘパイストス様はなんだか人間臭い神様だった!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


4/5 世界観の世界編!に一部追記をしました。

   追記箇所は、『三大美神』と『神剣と聖剣』となります。


□□□□ ~意外な秘密~ □□□□


 義兄さん(仮)への誤解が解けた俺は、再び気になっていることを尋ねてみた。

 それは、どうしてアテナにそこまで肩入れするのか、これに尽きる。


 ヘパイストス様とアテナには交友歴が全くない。

 更に言えば、ヘパイストス様はアテナのことを愛していなければ、異性としてすらも見てはいない。


 所謂、赤の他人に近い関係(一応家族ではあるが)とも言える。


 しかし、実際は有効的ではなかったとは言え、ゼウス様の魔の手からアテナの身を守ってくれていたり、今後もできる範囲でアテナを見守ってくれるらしい。

 

 普通、赤の他人に近い者の面倒をそこまで見たりするものだろうか。

 実は、口では愛していないとか言っているが、本当は想いを寄せていたりして.....。


 俺もニケさんに一目惚れしたという経験がある以上、ヘパイストス様の一目惚れ疑惑についてあれこれ言える立場にはない。

 但し、仮に本当にアテナに想いを寄せていた場合、ロリコン神認定は避けられないが。さすがに、赤ちゃんに一目惚れともなるとなぁ.....


 ただ、これはどうやら俺の見当違いだったようだ。


「そうだね。僕なりの恩返しというやつかな」

「恩返し?アテナに、ですか?」

「いや、アルテミス嬢に、だね」


 なんでアルテミス様!?


 意外な名前が出てきたことに驚いてしまった。


 なぜアルテミス様への恩返しが、アテナの面倒を見ることに繋がるのか。

 いや、それ以前に、ヘパイストス様とアルテミス様の間に何があったというのか。


「僕が家族に嫌われている話はしたろ?

 でもね、アルテミス嬢だけは違ったんだ。.....あっ。アルテミス嬢ってのは僕の妹なんだけどね」


 えぇ、知っていますとも!


 ヘパイストス様は、まるで昔の思い出話を懐かしむかのように静かに語り始めた。

 そんなヘパイストス様の表情は、どこか穏やかで優しげな印象を受ける。そういう表情もできるんじゃないですか!


「彼女は『狩猟の女神』なんだけどね.....」

「はい。何度かお会いしたこともあります」

「何度も?どうやって.....あぁ、そういうことか。君はアルテミス嬢にも気に入られているのか」

「え!?」

「クリスタルだろ?安心してくれ。誰にも言う気はないからさ」


 今ので全部分かっちゃったの!?


 さすが最強の諜報神だ。

 いや、アルテミス様の管理が杜撰なだけなのかもしれない。.....色々バレてますよ!?アルテミス様!!


 とりあえず、ヘパイストス様は黙認してくれるようなので一安心だ。

 但し、アルテミス様側には不安が残る。


 恐らく、秘密裏に行われていることだと思われるが、こうも簡単に露見しているとなると不安で仕方がない。だ、大丈夫かな.....。


「そこは大丈夫だと思うよ?」

「な、なぜです?」


「僕にしか知り得ない情報だからさ。

 彼女のペットである九十九尾が使っている実験機材もまた、僕のお手製なんだよ」


 どんだけ無双状態なんですか!?


 そう言えば、確かに「神界にあるあらゆるものを創った」と、ヘパイストス様は言っていた。

 となれば、実験機材もまた然りということになる。と、盗聴し放題とか.....。


 ヘパイストス様は小市民っぽい神様ではあるが、やはり神様なんだな、と思い知らされた。


「アルテミス嬢がまだ小さい頃の話なんだが、彼女は小さい頃からやんちゃな性格でね。

『狩猟の女神』を司っている影響もあってか、特に狩りが大好きだったんだよ」

「なんだか分かる気がします。その姿が簡単に想像できますよ」


「ははは。.....と言うことは、今もそうなんだね?彼女は変わらないなぁ」


 そこには、妹を想う兄の姿があった。


 ちょっと羨ましい。

 俺は一人っ子だったから.....。まぁ、くそ生意気な甥や姪はいたけどさ?


「それで、これも『狩猟の女神』の特徴だったんだろうね。

 武器に興味を持っていたらしくてさ、しょっちゅう僕の所に遊びに来ていたよ。

 当時は、「ヘパイストスにぃ!ヘパイストスにぃ!」って、結構懐かれていたっけかな」

「へ~。意外ですね」


 ふむふむ。

 アルテミス様はお兄ちゃんっ子だったと。.....いや、もしかしてブラコンか?


 ヘパイストス様の呪いは生まれつきだと先程言っていたので、そこから考えても、アルテミス様はヘパイストス様の外見については気にしていなかったのだと推測できる。

 なんとなくだが、俺もアルテミス様はそういうのを気にしない女神様だと思っていたので、なんだかホッとした。


(ふぅ~、良かった。やっぱり、知人が見た目だけで差別するような人だったら悲しいもんな)


 そして、同時に思う。


(アテナも絶対に気にしないはずだ。俺が知っているアテナはそういう子じゃない)


 確信を持って言える。

 俺の考えはきっと間違っていないはずだ。


 ただ、少し気になることがある。


「でも、失礼ですが、アルテミス様はよく注意されなかったものですね?」


 両親がヘパイストス様の存在自体を忌み嫌っていたのなら、ヘパイストス様との接触を注意するのは当たり前だろう。

 しかし、ヘパイストス様の話を聞くに、そんな印象は全く受けない。


「いやいや。毎日のように、父さんには怒られていたみたいだよ?

 でも、そんなことは一切気にせずに、少しも隠すことなく堂々と遊びに来ていたね」


 お、男らしすぎる.....。


 結局、アルテミス様があまりにも言うことを聞かないせいで、罰として、ヘパイストス様と同じく付き神を付けてはもらえなくなったらしい。

 故に、アルテミス様はペットを付き神代わりにしているのだとか。


「それでは、今もアルテミス様はこちらに来られるんですか?」

「いやいや。本当に小さい頃だけだよ」

「そう.....ですか」


 なぜ?


 今は謹慎中だから仕方がないとはいえ、小さい頃ならともかく、今のアルテミス様が注意をされたぐらいで大人しくしているものだろうか。

 仮にヘパイストス様の言うように、本当にアルテミス様がヘパイストス様に懐いていたというのなら、それこそ堂々と遊びに来ていてもなんらおかしくはなさそうなのに.....。どうにも解せない。


 しかし、俺が納得しようとしなくとも、ヘパイストス様の話はどんどん続いていく。


「でも、こんな僕に家族としての思い出をくれたんだ。感謝してもしきれないよ。

 だから、僕はアルテミス嬢に大きな恩がある。それこそ、僕の一生を掛けるにふさわしい恩さ」


 一生って.....。

 ちょっと大袈裟過ぎないか?


 俺はそう思ったのだが、案外そうでもないらしい。

 それは、俺が先程疑問に思った件の答えにも繋がっていた。


 結論から言えば、ヘパイストス様は二度と両親以外の家族とは接することができないらしい。

 いや、正確にはできなくなったらしい。


 どういうことかと言うと.....。


 アルテミス様にどんなに注意をしても無駄だと考えたゼウス様は、逆転の発想を考えたらしい。

 それは、『アルテミス様に注意をするのではなく、注意をしなかったヘパイストス様に処罰を与えればいい』と。


 その後、ゼウス様の怒り(神罰)を受けたヘパイストス様は、死ぬことのできない神界で何万年もの間ずっと、死に勝る痛みを受け続けていたらしい。

 しかも、監獄とも言えるような特別製の神の間へと幽閉されるおまけ付きで。.....ど、どんだけクソな神様なんだよ!ゼウス様は!!


「最初に言ったはずだよ?僕はここで神具を創り続けるよう言われているってね。

 だから、本来ここには、父さんや母さん以外には誰も来れないはずなんだけどね」


 ちなみに俺のウォーキングの奨めに、ヘパイストス様が「神界でもうろついてみようかな」と返したきたのは、彼なりのブラックジョークだったらしい。そんなもの気付けるかっ!


 ただ、これで全てに合点がいった。

 恐らくだが、ヘパイストス様の言う通り、ここの神の間には両親以外誰も来れないのだろう。


 だから、ヘパイストス様が俺の姿を見た時に、神様らしからぬコントばりの驚きをしていたのはそういう理由があったからに違いない。

 それに、あのアルテミス様が、ヘパイストス様の所に遊びに来れない理由もまた、特別製なる神の間というのが原因なはずだ。


 そして最後に、ヘパイストス様が「一生を掛けるに値する恩だ」と言った意味も、ようやく理解することができた。

 もう二度と会うことの叶わない家族との思い出をくれたともなれば、ヘパイストス様の言葉は大袈裟どころか、心打たれるものがある。


 では、そんな大恩あるアルテミス様に報いることが、どうしてアテナの面倒を見ることに繋がるのか.....。

 それは、とても簡単な答えだった。


「アルテミス嬢はアテナ嬢を、それはもうとても気に入っているみたいだからね。

 だから、彼女が気に入っているアテナ嬢を僕が見守るのは、恩だけではなく兄としても当然のことだろ?」

「.....」


 マ、マジか.....。


 開いた口が塞がらないとはこのことだ。

 家族に疎まれている神様が一番家族思いとか、あまりにも皮肉過ぎる。


(あなたはどこまでお人好しな神様なんですか.....)


 俺は、そんなお人好しなヘパイストス様に尊敬の念を捧げずにはいられなかった。



□□□□ ~聖剣と神剣~ □□□□


 アテナと結婚する気は今のところ全くないが、一応検討中ということになっている。

 それはつまり、ヘパイストス様は仮の義兄さんとなる訳で、例え仮であっても、こんな素晴らしい義兄さんを持てたことは誇りでもある。


「止してくれ。誉められるようなことじゃないよ」


 ヘパイストス様は謙遜するも、どこか嬉しそうだ。

 ぜひ、妹だけではなく義弟にも優しくして欲しいところである。


 そんな照れ顔のヘパイストス様が、ある一点をジッと見つめている。


「さっきからずっと気になっていたんだが.....」

「なんでしょう?」

「お、おとう.....いや、君が携えている、その剣をちょっと見せてもらってもいいかな?」


 別に、義弟(おとうと)って呼んでくれても構わないのに.....。


 俺は恥ずかしがっているヘパイストス様の様子に苦笑しながら、腰に差していた『竜墜の剣』を差し出す。

 会話中、ちらちらとヘパイストス様の視線をずっと感じてたので、職人として気になるのだろう。


「これは.....やはりそうか。これをどこで?」

「アルテミス様より頂きました。なんでもふよ.....」


 そこまで言い掛けて、急いで口をつぐんだ。

 危なかった。ヘパイストス様の前で『不要』だなんて言えるはずがない。


 この『竜墜の剣』はアルテミス様から貰ったのだ。

 それはつまり、神器であり、その神器はヘパイストス様が創ったものだと思われる。


「どうしたんだい?」

「い、いえ.....」


 どういう意図でヘパイストス様がアルテミス様に渡したのか分からない以上、ここは迂闊なことを言わないに限る。

 ヘパイストス様の想いを踏みにじるようなことはできないし、したくはない。


「そうか。アルテミス嬢から.....。これはね、僕が彼女にプレゼントした護身用の剣なんだよ。と言っても、あの頃とは随分と姿形は変わってしまったけどね」

「すいません。そんな大切な剣を勝手に.....」


「いやいや。責めているんじゃないよ。むしろ誉めているんだ。

 おかえり。我が娘よ。.....どうだい?大切にされているかい?」


───フィイン


「!?」

「そうか。そうか。良い主人に巡り会えたようでなによりだ」


 ヘパイストス様が『竜墜の剣』に話し掛けたと思ったら、突如淡い光で輝き出した『竜墜の剣』。

 ナイトさんが『竜墜の剣』と会話をしている光景は何度も見たことがあるが、こんな現象は初めてだ。ファンタジーらしい現象に、思わず心が踊ってしまいそうになる。


「とても素晴らしい鍛冶師と知り合いみたいだね。

 まさか、ここまで立派になっているとは思いもしなかったよ」


 立派.....?


 意味が分からない。

 ヘパイストス様が創ったのは間違いないらしいので、この『竜墜の剣』もまた神具の一つであり、神剣ということになるのではないのだろうか。


「いやいや。この子は神剣ではないよ。聖剣だね」

「聖剣.....。神剣とは違うのですか?」

「似て非なるものだね」


 ヘパイストス様が言うには以下だ。


 神が創りし最高峰の剣を神剣、人が作りし最高峰の剣を聖剣と呼ぶ。

 違いは色々あるが、一番の違いは武器の最大レベルが異なることで、神剣はレベル5、聖剣はレベル4となる。

 ちなみに、俺の『竜墜の剣』は既にレベル4となっているので、これ以上の強化は()()()不可能らしい。


 そして、もう一つ。


 神剣と聖剣では、同じ名称のものが同時に存在するらしい。

 つまり、神剣『エクスカリバー』と聖剣『エクスカリバー』が同時に存在するのだ。.....うん。紛らわしいけど、心踊るね!


 ・・・。


 ヘパイストス様の説明で、神剣と聖剣の違いはよく分かった。

 しかし、ここで一つの疑問が起こる。


 なぜ、『竜墜の剣』は聖剣なのか。

 なぜ、『竜墜の剣』は神剣ではないのか。


 繰り返すが、『竜墜の剣』はヘパイストス様が創られた剣である。

 ならば、神剣であって、聖剣ではないはずなのだが.....。


「簡単な答えだよ。この『竜墜の剣』は.....いや、元『疾風の剣』は、神の力を使わずに作った剣だからさ」

「と言うことは.....。普通に鍛冶をして作ったということですか?」


「その通り。下界の人間と同じように作ったものだ。

 それを優秀な鍛冶師が聖剣にまで鍛え上げた。これを立派と言わずしてなんて言うんだい?」


 なるほど。

 確かにヘパイストス様の言う通りだ。


 立派。立派。ナイトさんはとても立派だと思う。

 だって、人類の最高峰である剣、聖剣を作り上げたのだから。


(そうだ!後でナイトさんに感謝の手紙を送ろう。

 そうそう、手紙だけではなくて、何か喜びそうなものも一緒に.....)


 まぁ、それはいいとして.....。


「なんで普通に作ったんですか?プレゼントなら神剣のほうが良いような.....」


 家族想いのヘパイストス様が、一生を掛けるに値する恩だと言っていたヘパイストス様が、なぜ妹であるアルテミス様に神剣ではなく普通の剣をプレゼントしたのかが全く分からない。

 実用性や気持ちを込めるという観点からも、普通の剣よりかは神剣のほうが絶対に良いと思うのだが.....。


「仮に、子供にナイフが欲しいと言われて、君は本物のナイフを渡すのかい?」

「!?」


「渡さないだろう?危ないしね。そういうことだ。

 でも、どうしても欲しいとねだられたら、おもちゃのナイフでも渡すんじゃないのかい?」

「つ、つまり.....、アルテミス様にはおもちゃの剣をあげたということですか?」


「そうなるね」


 いやいやいやいやいや!

 剣だから!本物の剣だから!!


 確かに神剣に比べれば、普通の剣なんておもちゃみたいなものだろうが、それでも本物の剣には違いない。

 それを幼少期のアルテミス様に渡すとか.....。


(あれ?その理屈からだと.....。

 最初から、神剣だろうと普通の剣だろうと渡さなければいいのでは?)


「いつの世も、妹に弱いのが兄の宿命なんじゃないのかい?」

「いきなりリアル!?」


「それに、アルテミス嬢も神の一人だ。

 使い手が神ならば普通の剣であっても、そこらの聖剣よりも遥かに強力な力を出せていたはずだよ?」


 聖剣よりも強いって、物騒な子供だなぁ.....。


 そんな物騒な子供から巡り巡って俺の元へとやってきた聖剣『竜墜の剣』。

 ヘパイストス様の想いとアルテミス様の想い、そして、ナイトさんの想いが詰まった大切な剣だ。


「これからもよろしく頼むよ、相棒」


───フィイン


 聖剣『竜墜の剣』がなんて言ったのかは分からないが、それでも、どこか嬉しそうに光り輝いたような気がした。



□□□□ ~神の謝罪~ □□□□


「これは驚いた!」

「どうしました?」


 久々に帰省した(聖剣『竜墜の剣』)と楽しそうに会話をしていたヘパイストス様が、突如驚いた声を上げた。


 そうそう、ヘパイストス様が娘とお話しされている間、俺は気を遣ってヘパイストス様の工房見学をさせてもらっていた。

 父娘の感動の再会を邪魔するのも無粋だしね。


 では、工房見学とはどういうことなのか、簡単にだが説明しよう。


 基本的に、『神の間』または『神の部屋』と呼ばれる場所は真っ白で何もないつまらない空間である。

 恐らくだが、これがデフォなのであり、アテナの部屋やアレス様の部屋も皆そういう感じであった。


 当然、ヘパイストス様がいらっしゃるここ神の間でも大部分がそういう状況なのだが、一部だけ全く異なる。

 それが『工房』と呼ばれる、俺とヘパイストス様が現在居る場所であり、その工房には一般的な鍛冶設備である炉、(ふいご)金床(かなどこ)などがズラッと勢揃いしている。


 まさに、ヘパイストス様の城ならぬ職場というやつだ。


 それだけではない。

 

 この工房には、なんとヘパイストス様の作品というか娘さん達が一堂に会していて、その美しさに思わず目を奪われてしまう。


 神剣『エクスカリバー』を始め、神剣『グラム』、神剣『クラウソラス』、神剣『レーヴァテイン』、神剣『デュランダル』などなど.....あっ。デュランダルって、さっき生まれた子か。


 それに剣だけではない。

 

 神槍『グングニル』や神弓『ミストルティン』、神鎚『ミョルニル』、神杖『ケリュケイオン』などなど、幅広い分野の娘さん達がところ狭しと、それでも、大切に保管されている。


 しかも、俺が娘さん達の前に立つと、それぞれ違った魅力的な挨拶(輝き)を上品にかつ華麗にしてくれるもんだから、男の子のロマンである武器魂に火が着かない訳がない。


 まさに宝の山、至高の宝物殿に来ているようで、いつまで眺めていても飽きがこないという訳だ。



 閑話休題。



 さて、ヘパイストス様が驚いたところに話を戻そう。


「いやね、いまこの子に【神威解放(セイクリッド・パージ)】を掛けようとしたんだが、断られてしまったんだ」

「【神威解放】とは?」


「成長限界突破のことだね。聖剣は通常聖剣以上にはなれないんだ。

 だが、僕が【神威解放】をすることで、聖剣は神剣になることができる」


 なるほど。

 と言うか、一応持ち主である俺の確認を取ってからにしてくださいよ.....。


「うん?娘には確認を取ったよ?」

「またそのパターンですか!?」


 この、俺の意思を無視した善意のやり取り.....。懐かしすぎる。

 以前、ナイトさんが、俺の『旋風の剣』を『竜墜の剣』にレアリティーアップする際にもあったような気がする。(※第117歩目 参照)


 そして、【神威解放】とは、これ以上の強化は『()()()』不可能らしい。

 先程、神剣と聖剣の違いを説明してもらった時に出てきたこの部分のことを指すのだろう。一種の裏技みたいなやつだと思う。


 まぁ、今よりも強くなるのならありがたいことなので、勝手にやろうとしたことは不問にしようと思う。

 しかし、なぜ『竜墜の剣』はそれを断ったのだろうか。


「【神威解放】をすると神格化されるんだが、この子はそれが嫌らしい」

「神格化が嫌.....?どうしてです?」

「友達と対等にいたいらしいよ。記憶がなくなる訳ではないんだが、そういうことじゃないらしい」


 あぁ.....。

『竜墜の剣』の言っていることが、なんとなくだが分かってしまった。


 そう言えば、ナイトさんは相当信心深い性格の人だった。


 勇者というだけで、見事なDO・GE・ZAをする人だ。

 それが例え友達であろうとも、神などというものが出てきてしまったらどうなってしまうのか、全く予想ができない。下手したら、その場で泡を吐いてぽっくりなんてことも.....。


「お前は本当に友達思いだな?」


───フィイン


 相変わらず、聖剣『竜墜の剣』がなんて言ったのかは分からないが、それでも、どこか自慢げな輝きだったようにも思える

 それにしても、父親の前だと表情?輝き?が豊かなような気が.....。う、羨ましくなんてないんだからね!


「本当にいいのかい?【神威解放】をすれば戦力の大幅な向上だけではなく、会話は無理でも、今の娘のように輝きで反応を見れるようにはなるよ?」


 なん.....だと!?

【神威解放】は最高かよ!?


「.....な、なぁ?【神威解放】をしてみないか?」


───フィイン!

───フィイン!


『竜墜の剣』は先程の淡く優しい輝きではなく、今は激しく眩しいぐらいに点滅を繰り返している。

 当然、何を言っているのかは分からないが、恐らくは怒っていらっしゃるような気がする。.....じょ、冗談だって!


「冗談?本気なようにも聞こえたが?」

「は、半分ぐらいはほん.....」


───フィイン!

───フィイン!


 ちょっ!?

 分かった!分かったから怒るなって!!


 どうやら、『竜墜の剣』とナイトさんの絆は相当なものなようだ。

 まぁ、俺としても相棒に無理強いなんてさせたくはないので、ここは一旦引くと.....。


───フィイン?


 ひぃ!?


 いや、諦めるとしよう。

 案外、【神威解放】しないほうが良いような気もしてきた。知らぬが仏ってやつ?


「まぁ、君と娘がそれでいいなら構わないが.....。

 それにしても、娘がそこまで気に入る友達というのが非常に気になるね」

「あれ?聞いていないんですか?」

「それが聞いてくれよ。尋ねても教えてくれないんだ。なんでも女の子同士の秘密とやらでさ」


 いっちょまえに女の子気取りかよ!?


───フィイン?


「.....」


 す、すいませんでした。

 失言を撤回させて頂きます。


 例え、疑似生命体であろうとも、女の子は女の子だ。

『竜墜の剣』の言っていることのほうが正しいだろう。まぁ、何を言っているのかはさっぱり分からないのだが.....。


 とりあえず、俺は『竜墜の剣』の監修のもと、女の子の秘密に抵触しない範囲で、ヘパイストス様にナイトさんのことを教えることにした。


 ドワーフであることや有能な鍛冶師であること。

 ちょっと人見知りで寂しがり屋だが、仕事に関してはバカが付くほど真面目であることなどなど。


「なるほど。鍛冶師の女の子か」

「覚えていませんか?『刀鳴』という加護を持っていたので、恐らくですが、ヘパイストス様が授けらたものかと思うんですが」


「う~ん。確かに最近人間に加護を授けたような気もするが.....。

 やはり思い出せないな。人間となると、君とその他大勢という感じだ」


 こればっかりは仕方がないか.....。


 ヘパイストス様は神様の中ではかなり良識的な神様ではあるが、だからと言って、人間に興味があるかというとそれはまた別の話だ。

 むしろ、駒や遊び道具のように思っていたり、無関心だったりするよりかはよっぽど良い。


 だからだろうか、俺はついうっかりと失言をしてしまった。

 あくまでも、軽口というか軽いお笑い話のつもりだったのだが.....。


「でも、ヘパイストス様から授かった加護なんですが、鍛冶師として大成した半面、ぼっちをより加速させたみたいなんですよ」

「どういうこと、だい?」


「加護の力を使っての会話が周囲からは気持ち悪がられたみたいで、師匠からも距離を置かれたみたいですよ?酷いですよね、たかがそれしきのことで.....」


 そこまで言って、ようやくヘパイストス様の表情が沈んでいることに気付くことができた。


 そもそも、ナイトさんがぼっち気味なのは、先天性の吃音症が主な原因だ。

 もちろん、『刀鳴』もそれを加速させた一因なのは否定できないが、それでも、ナイトさんが鍛冶師として自信を持った一因でもあるので、プラマイ0どころか大幅なプラスだったりする。


 しかし、俺の今の言い方だと、一方的にマイナスであるような印象を.....。


「そうか。人間というものはなかなかに複雑なものなんだね。

 力があればいい、という訳ではないのか.....」

「い、いえ。ナイトさんは加護の力自体にはすごく感謝しているんですよ?

 実際、その力のおかげで『竜墜の剣』と友達になれたんですから」


「ははは.....。ありがとう。そう言ってもらえると幾分か気が楽になるよ」

「う、嘘じゃないですよ?」


 ヘパイストス様は一言「ありがとう」と言って、再び昏く笑った。完全に失言だったなぁ.....。

 どうにもヘパイストス様は少しネガティブ過ぎる。いや、俺もヘパイストス様のことは言えないんだが。


「済まない。下界に戻ったら、僕の代わりに、その鍛冶師君に謝罪してもらえないだろうか?」

「え!?」


「本当は僕が謝罪すべきなんだろうが.....。僕はここから出られないからね。

 いや、これも単なる言い訳に過ぎないか.....。面倒な役を押し付けるようで済まないが、よろしく頼む」


 そう言うと、ヘパイストス様は俺の前で深々と腰を折った。

 どこで習ったのかは知らないが、ビジネスマナーの一種である90度の角度で深々と.....。


「!?」


 さすがに、これには驚いた。


 いくら小市民っぽい神様とはいえ、まさか絶対的存在である神様が、人間の前で謝罪をするとは思いもしなかった。

 しかも、これはナイトさんだけではなく、俺にも謝罪の気持ちを込めていることがありありと伝わってくる。


「あ、頭を上げてください!先程も言ったように、ナイトさんは感謝をしているんですから!」

「それはありがたいことだが、それとこれとは別の話だ。謝罪は謝罪として受け入れて欲しい」

「.....」

「それと、当然君にも謝罪をさせて欲しい。僕の代わりを押し付ける形になるんだからね」


 あぁ、もう!

 この神様はどんだけ人間臭い神様なんだよ!!


 その後もヘパイストス様の謝罪は、本人の気が済むまでずっと続くことになった。



□□□□ ~まさかの事態!?~ □□□□


 なんとかヘパイストス様の頭を上げさせることに成功した俺は、その後ヘパイストス様の愛娘達の自慢話を延々と聞かされることになった。

 愛娘のことを語っている時のヘパイストス様はとても幸せそうで、この人が本当に神様なのかさえ疑いそうになるほどの親バカっぷりだった。


「.....ん?どうしたんだい?」

「いえ、娘さん達のことを語っている時のヘパイストス様は、親というよりもまるで恋人のように見えまして」


「そりゃあ、そうだろう。だって、僕の恋人は娘達だけなんだからね」


 娘は父親にとって永遠の恋人というやつだろうか。

 相手が創作物ということもあるせいか、若干、俺の嫁!みたいな感じもするが、差別は良くないよな。


 と、その時。


───フィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイン!

───フィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイン!

───フィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイン!


 うお!?

 びっくりした!


 ヘパイストス様のその言葉を受け、一斉に光り輝く娘さん達。

 当然、何を言っているのかは分からないが、それでも、喜んでいるということぐらいはハッキリと分かる。


 どうやら、娘さん達も満更ではないらしい。

 もしかしたら、「将来パパと結婚するんだ!」とか言ってそうで、非常に羨ましい。例え、相手が創作物であってもだ。


(はぁ.....。将来、俺もニケさんと結婚して娘が産まれたりしたら.....)


 絶対、親バカになる自信がある。


 それがかわいい娘だったりしたら、例えばアテナのようなかわいい子だったりしたら.....。

 それこそ、ゼウス様のように暴走してしまうかもしれない。まぁ、さすがに娘を強姦したりはしないけどね?


「いいね。夢が広がりそうないい話だ。応援するよ。

 それと、アテナ嬢のこともよろしく頼む」

「ありがとうございます。

 それと、ちゃっかりとアテナのことを頼まないでください。あくまで検討中なんですから」


 満更でもないくせに~、みたいな顔でニヤニヤしないでください!


 兄として妹の心配をする気持ちはよく分かるが、それでも、アテナとなるとちょっと考えさせて欲しい。

 なんたって、あいつはどうしようもない駄女神だしなぁ.....。


「結婚のことはともかく、アテナ嬢がアテナ嬢らしくいられるように、それだけは頼むよ」

「はい!それだけはお約束します!」

「それだけ、というのもなんだかね.....」


 それだけでお願いします!


 苦笑しているヘパイストス様に、そう懇願するよう視線でお願いした。

 ヘパイストス様の言う通り、『アテナがアテナらしく』、これだけは絶対に守っていきたいと、俺は心からそう思った。



 ・・・。



 気の合う人との会話というものはとても楽しいものだ。

 特に、類友という訳ではないが波長の合う人だと、ついつい時間が経つのを忘れてしまう程だ。.....え?時間が経つのを忘れる.....?


「あぁぁぁぁぁあああああ!」


 血の気が引いていくのをハッキリと感じることができる。

 俺がここにきてから、どのぐらいの時間が経ったのだろうか.....。


「ど、どうしたんだい?」

「時間です!」

「時間.....?あっ.....」


 どうやら、ヘパイストス様も俺の言葉の意味を理解したようだ。

 こちらはハッキリとは分からないが、俺同様、顔が青ざめているようにも思われる。


 そして───。


「!?」


 今まで感じることのできなかった引っ張られる謎の感覚を、ここにきてハッキリと感じることができるようになった。.....急に、とかお約束過ぎるだろっ!

 それも、これはタイムリミット級のものすごい吸引力だ。


「もしかして.....。かなりヤバそうかい?」

「.....はい。正確には分からないですが、今すぐにでも強制転移されそうです」

「そう.....か。本当に済まない。今からだと、さすがに報酬の準備は間に合いそうにないんだ」


 マ、マジか.....。


「今回のお詫びという訳ではないが.....。

 再び、運良く僕のところに来れたなら、その時は君の希望を受け入れよう」

「ほ、ほんと.....」


「約束しよう。そうそう、君のお供.....いや、仲間かな?

 彼女らの希望も叶えてあげるから、彼女らともよくよく相談してくるといい」

「.....」


 マジか!

 ヘパイストス様は神様かよ!!


「えっと.....。済まない。一応、神様なんだけどね」


 ツッコミありがとうございます!


 気まずそうに苦笑しているヘパイストス様に、俺は最大の笑顔を送った。

 本当は謝辞を述べたいところではあるが、俺の体は、俺の意識は、既に自分の意思では制御できないものになっていた。


 次の神の間へと、俺の存在が徐々に流れていく───。


 とうとう、ヘパイストス様と、義兄さん(仮)とお別れの時だ。

 別れの挨拶ぐらいはちゃんとしたかったが、既にタイムリミットらしいので、それは叶わない。


 せめて笑顔で別れを、なんてことを考えていたら.....。


「お、おとう.....こ、これを持っていきたまえ!

 彼女が自ら望んだことだ!アテナ嬢ともども娘をよろしく頼む!!」


 強制転移の次元の波に投げ込まれた一本の剣(一人の娘)



(最後ぐらい、ちゃんと義弟(おとうと)って呼んでくださいよ......)



 こうして、俺は十連ガチャ最後となる神の間へと強制転移していった。

 手には、ヘパイストス様の愛しい娘である神剣『デュランダル』をしっかりと携えて───。




次回、本編『ぽわぽわ』!


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今日のひとこま


~父娘の突然の別れ~ side -デュランダル-


『まぁ、驚いた。お父様があんなに楽しそうな顔をするなんて』

『お姉様、どういうことですか?』

『貴女はまだ生まれたばかりだから知らなくて当然ね。お父様は愛というものを知らないお方なのよ』

『愛を知らない.....?』


どういうことでしょう?

私はお父様の想いで、愛で生まれたのですが.....。


『両親からは疎まれ、存在をなかったものとされているの。

 お父様は確かにここに存在してはいますが、その存在はここ以外ではないものとされているのですよ』

『なっ!?ど、どうしてですか!?』

『全ては忌まわしき呪いのせいです。あれさえなかったら.....』

『な、治らないものですか!?お父様ならきっと!』


『.....』

『そ、そんな.....』

『お父様は全てを受け入れているの。だから、私達が何を言ってもどうしようもできないわ。

 でも、だからこそ、お父様のあんな楽しそうなお顔は久しぶりに見ます』

『お父様の笑顔.....』


私やお姉様方の視線の先にいるのは、お父様と楽しそうに会話をしている一人の人間。

私の生まれたばかりの知識では、ここ神界に来れる人間は勇者と呼ばれる一握りの人間だけ。


ということは、あの人間は勇者ということでしょうか?


『悔しくはありますが、嬉しくもありますね。私達ではあの笑顔は引き出せないものですから』

『どういうことですか?お父様はいつも私達には笑顔だと思いますが』

『こればっかりは口で言っても分からないでしょう。笑顔の質が違うのです』

『質.....ですか?』


『バカにするつもりはありませんが.....。

 貴女には経験というものが不足しています。いずれ理解できる日がきますよ』

『くっ.....!』

『それにしても、あの人間は本当にお父様の色々なお顔を見事引き出してくれています。

 こんなに嬉しい日、楽しい日は、アルテミス様がいらっしゃっていた日以来でしょうか』

『アルテミス様.....?』


ここでも、お姉様の言う『経験』というものの差がモロに出てしまっています。

アルテミス様というと、とても偉い神様である、ぐらいの認識しか私にはありません。


悔しい。悔しい。悔しい。

経験というものは、どうやったら手っ取り早く積むことができるのでしょうか?


『それはなんと言っても旅に出ることよ。

 お父様にべったりでは、いつまで経っても一人前のレディーになんてなれませんわ』

『ねー!私達も昔はよく勇者とともに魔王退治に出かけたものだわ』

『まぁ、私達が相手だと魔王なんて楽勝なんだけどねw』

『なに言ってるの。お父様が素晴らしいからに決まっているでしょ。自惚れないの!』


お姉様方が口々に仰っている『旅』と『勇者』という単語。


よくは分からないですが、勇者というものは旅をするみたいです。

そして、経験を積むのなら旅が一番であると.....。


だったら、ここは旅に出るしかないですね!

でも、お父様と離れ離れは少し嫌かも.....。


「もしかして.....。かなりヤバそうかい?」

「.....はい。正確には分からないですが、今すぐにでも強制転移されそうです」

「そう.....か。本当に済まない。今からだと、さすがに報酬の準備は間に合いそうにないんだ」

『!?』


しかし、私には考える時間すら与えてはもらえなさそうです。

なんでも、勇者と思しき人間の時間?とやらがもう終わりそうなのだとか.....。


もうっ!なんでこうタイミングが悪いんですか!?


だから、私は決心しました。


『お父様!お願いがあります!

 私をあの者とともに下界に行かせてください!!』

「いいのかい?一応、彼が君の主人になる訳だが」

『構いませんわ!お父様の為ですもの!』

「僕の為.....?よく分からないが、君がいいのなら許可しよう。気を付けて行ってくるんだよ?」


お父様、ありがとうございます!


ふふふ。全てはお父様と私の為に.....。

勇者にはその踏み台になってもらいましょう。


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