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第175歩目 最悪の結末!双子神③

前回までのあらすじ


ヘカテー様の登場で不穏な雰囲気に.....。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


※登場人物が登場人物なだけに、下品な表現が出てきます。

 苦手な方はご注意ください。


 

「.....(すー).....(すー).....」


 言葉がうまく出てこない。

 呼吸するのだけでも一苦労だ。


「ゾクゾクするわね。

 やっぱり人間が苦しむ姿ってのは何度見ても愉快だわ」


 そして、車に轢かれたカエルのように地面に這いつくばっている俺の前で、美しくも醜く歪んだ表情を見せる一柱の女神様。あ、あの、パンツが.....。

 その表情は妖しく愉悦にまみれている。


───ツンツン


「これはどうかしら?」

「.....(すー).....(すー).....」


 いてぇぇぇぇぇえええええ!!

 や、やめてください!お願いします!!


 涙目になりながらそう訴えるも、やはりうまく言葉にならない。


 軽く小突かれたに過ぎないが、それでもこの有り様である。

 恐らく、声帯()やられてしまったに違いない。


「きゃははははは!そう、その苦悶の表情!面白いわ!!

 ふぅ。人間、いい顔するわね。見てて飽きないどころか、感じちゃうぐらいだわ」


 感じてないで、助けてください!


 そう心の中で叫ぶも、快楽でうっとりしているこの女神様には届かない。だから、見えてるんですってば!!


 俺は現在、ニケさんで言うところの『死に勝る恐怖と苦痛』をその身に浴びながら、目の前にいる女神様になんとか視線だけで.....黒色。(ごほんっ)。救いを求めているところだ。


 では、どうしてこんなことになっているのか.....。



 時は少し前まで遡る。



□□□□ ~男の矜持~ □□□□


 ニケさんとへカテー様がぶつかり合う直前に強制転移という、ある意味、お約束と言えばお約束のような勘弁して欲しい展開になってしまった俺は、次なる神の間へとやってきていた。


───ブゥン


「へぶっ!?」


 ちょっと!?

 いくらなんでも扱いが雑過ぎないか!?


 まるで中身が空になった空き缶をゴミ箱に放り投げるかのように、俺はポイッとその場に投げ出されてしまった。

 いかにも、人間なんかの扱いはこんなものでいいだろ?みたいな思惑が透けて見える杜撰な対応だ。


 ただ実際は、人間だと俺だけしか来られないようなので、こんなものでも仕方がないのだろう。

 しかし、欲を言えば、「茶菓子を出せ!」とまでは言わないので、もうちょっと普通な扱いをして欲しいところではある。アテナに言えば改善してもらえるのだろうか。


 いや、今は俺の待遇に不満を漏らしている場合ではない。


(あの後どうなったんだ!?

 ニケさんとへカテー様は無事なんだよな!?)


 俺の心は、思いは、それでいっぱいだった。

 とにかく、あの後がどうなったのか、気になって気になって仕方がない。


「き、貴様.....」

「!?」


 しかしながら、俺のそんな態度は、ここ神の間におわします神様に不快な感情を抱かせるだけだった。


 当然だ。俺はもう新しい神様の御前にやってきているのだ。

 その上で、その神様を無視するような態度をとっていれば、神様ではなくとも誰だって不快に思うのは当たり前だろう。


 いや、それ以前に、ここにおわします神様は最初から俺に不快感しか抱いていなかった。


「またしても、俺様の享楽を邪魔するとはいい度胸だな?.....えぇ?人間が!!」

「ひぃぃ!」


 俺は神様の、アレス様の雷のような怒号で怯んでしまった。


 そう、今回訪れた神の間におわしましたのは『戦争の神』アレス様だった。

 と、同時に苦い記憶が甦る。


 前回訪れた時は、アテナの制止が入ったことで事なきを得たが、それでも殺される一歩手前寸前にまで追いやられてしまった。

 理由はよく分からないが、不興を買ってしまったことだけは間違いないだろう。いや、恐らくは兄妹の不仲が原因なんだと思う。はぁ.....。俺を巻き込まないでくれよ.....。


 しかし、今回はそれの比ではない。


 明らかに、アレス様が激怒されている。

 目を赤く血走らせ、憎悪の籠った表情で俺を睨み付けている。


 一方、俺はというと、蛇に睨まれたカエルとは良くいったものだ。

 怖くて、恐ろしくて、体がぶるぶると震えている。金縛りにあったような感じで微動だにすらできない。


 では、何故ここまでアレス様が激怒されているのか。

 その理由は、なんとなくだが推し量ることができる。


 元々、俺自体に良い印象を持ってはいなかったということもあるだろう。

 毛嫌いしている(アテナ)の付き人が俺だということは、アレス様には既にバレているのだから。


 ただ一番の原因は、アレス様の今の姿が盛大に物語っている。


 アレス様は現在真っ裸だ。何も身に付けてはいない。

 それに身体中から湯気みたいなものを出し、全身汗だく状態となっている。おまけに息も荒い。

 そして、極めつけはいきりたった.....(ごほんっ)。大きく膨張したとある一部分だ。とても元気でいらっしゃる。


 つまりは、アフロディーテ様とお愉しみの最中だったのだろう。

 いや、アレス様の膨張部分がヒクヒクしているところを見ると、もしかしたら果てる寸前だったのかもしれない。


 ・・・。


 こんなん、アレス様でなくとも怒って当然だ。

 俺だって、途中で邪魔されたら怒るに違いない。.....まぁ、俺は童貞だけどさ?HAHAHA。


 しかし、なんと言うか.....。


「.....ふっ」

「き、きさまぁ!!」


 勝った!


 何が勝ったのか、その詳細は敢えて伏せよう。

 しかし、神様だからといって、必ずしも人間より優れているという訳ではないようだ。っしゃあ!俺のほうが僅かに大きいぞ!!


 別にBLの趣味はないのだが、どうしてもそこに目がいってしまうのは人間の性というやつだ。

 男性が、女性の胸やお尻に自然と視線がいってしまうのと似たような理屈である。


 それは男の矜持というか、戦いというか、動物界の縄張り争いに近い。

 経済力とは異なる、もう一つの戦いの場なのである。男として譲れない戦いの一つなのである。.....ちょっと自信ついた。


「俺様の享楽を邪魔するばかりか侮辱までするとは.....。その罪、万死に値する。.....死ね」


───ドンッ!


「ぐはっ!?」


 アレス様のお言葉?神託?とともに降りかかる謎の重圧(プレッシャー)

 頭上から問答無用で地面に押し潰そうとしてくるこの重圧に、俺はその場に膝を付き一切の抵抗ができないでいる。


「抵抗など無意味。さっさと死ね。.....『神圧(エンドプレス)』」


───ドドンッ!


「.....か.....はっ.....!?」


 アレス様の『神圧』が発動したことによって、俺に更なる重圧が襲い掛かる。

 気のせいか、呼吸すらまともにできない気がする。ぐ、ぐる"じい".....。


「はっははははは!愉快!愉快!

 俺様を侮辱したものなど生きている価値などない!もっと苦しめ!.....『多重(マルチプル)神圧(エンドプレス)』」


───ゴゴンッ!


「.....(すー).....(すー).....」


多重(マルチプル)神圧(エンドプレス)』とやらが発動した瞬間、頭上から襲ってくる重圧の音が明らかに異質なものへと変化した。


 いや、違う。

 最後に、正確に聞き取れたのが、俺の頭蓋骨が砕ける音だっただけに過ぎなかった。


 その後、メキメキ、バリバリと音を立てることもなく(本当は立てているが聞き取れていない)崩れていく俺の白き屋台骨達。

 屋根(頭蓋骨)を始めとして、()もろとも中の住人(内臓)すらも巻き込んでの派手な倒壊作業だ。当然、屋台骨が崩れてしまった時点で、俺はその場に這いつくばるような形となってしまった。


「.....おかしい?何故死なない?

 人間ならば死んでいてもおかしくはないはずだ」

「.....(すー).....(すー).....」


 そんなこと知るかっ!

 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。


 考えることはできるのに、言葉にはならない。

 そればかりか、全身にかつて味わったことがないほどの激痛が襲ってくる。


 更には、ヒールを施そうにも重圧がのし掛かったままで体の自由が効かない。

 いや、それ以前に、手を始めとして体全体に力が入らない。感覚そのものすら感じることができない。


 それはまるで、俺の体や体中全てが粉々に粉砕されてしまったような、そんな印象さえ受ける。


 あるのはいつ終わるとも知れぬ激痛のみ。

 その激痛が「お前は生きているのではない。生かされているだけだ。死ねないだけなのだ」と、まるで俺にそう語りかけるように容赦なく襲い掛かってくる。


「そう言えば、神界では殺すことが出来ないんだったな。

 チッ!運のいいやつだ。せいぜい俺様の慈悲に感謝することだな」

「.....(すー).....(すー).....」


 慈悲.....だと!?

 これのどこが慈悲だよ!!


 もはや生きた屍でしかない俺に、そう吐き捨てるアレス様。

 何やらマニュアルみたいな物を読んでいたが、もしかして神界のルールを知らないのだろうか。


「.....いや?このままにしておけば、下界に戻った瞬間には死ぬのか?

 それならば、貴様の鬱陶しい顔など金輪際見ずに済むのだがな」

「.....(すー).....(すー).....」


「.....ん?そう言えば貴様、前回はどうやって戻った?」

「.....(すー).....(すー).....」


 いや、前回も何やら調べていたようだし、アレス様は案外神界のルールを知らないのかもしれない。

 アテナもそうだが、ルールすら知らない神様が神界を治めているとか、本当に大丈夫なのだろうか。


「俺様を無視するとは不敬なり」


───ドドンッ!


「.....(すー).....(すー).....」


 俺に更なる重圧が襲うが、もはや砕けるものは何もない。

 ただひたすら、死ねない恐怖と死に勝る激痛が延々と襲ってくるのみ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『 死ねるって とても素晴らしい ことなんだね 』

                      歩 心の俳句 (ぽぽんっ)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「早く答えろ。殺すぞ?」

「.....(すー).....(すー).....」


 答えられないんだよ!

 誰のせいで、こうなってると思ってんだ!!


(もうやだ。この神様。バカ過ぎる.....。

 今後、二度と会いたくない!当たって欲しくない!!)


『たわし』2個(ドールとモリオンの分の報酬)を俺に投げつけ、アフロディーテ様の元へと向かうアレス様の背中を見つめながら、俺は心からそう願った。



 女神様!アテナ様!

 今後は(可能な限り)優しくするので、何卒、何卒、お願いします!!



 そして、冒頭に戻る。



□□□□ ~最悪の結末~ □□□□


「た、助かりました。ありがとうございます、エリス様」


 しばらくエリス様のおもちゃにされていた俺は、無事生還?を果たすことができた。


 エリス様より渡された『神薬』の効果は抜群で、重圧によって粉々に粉砕されていた俺の骨や内臓、その他もろもろがあっという間に完治してしまった。

 いや、以前よりも強靭な体になったようにすら思える。.....これが薬とか、神様は無茶苦茶だな。


 ちなみに、どうやって『神薬』を体内に摂取したかというと.....。


 当然、口移し.....ではない。

 俺も(泣いて)猛抗議したし、何よりも、エリス様がそれを許さなかった。


「身の程を知りなさい。わたくしの唇はアレスお兄様だけのもの。

 いくら慈悲を恵んであげるとは言っても、人間なんぞとキスをしてたまりますか」


 しかし、体の全てが粉砕され機能していない俺では、自ら『神薬』を摂取することなど不可能に近い。

 だから、エリス様がとった行動というのが.....。


「何も体内に流し込める場所は口だけに限らないでしょ?穴さえあればいいのだから」


 あ、穴!?

 しゅ、淑女にあるまじき発言ですよ!?


「特別に、わたくしがやってあげるから感謝しなさい。.....あら?意外と大きいのね」


 な、なにが!?

 何を見ているの!?


「それじゃ、いくわよ」


───ぶすぅ!


「.....あひぃ!?」


 後ろから、じんわりと伝わる生温かさと程よい痛み。

 気を抜くと一瞬で病み付きになってしまいそうな不思議な感覚だ。.....あひぃ!?って、男のアへ顔とか誰得だよ!?


「きゃははははは!かわいい声出るじゃない!」


『神薬』は即効性でした。


 この日、俺は『初めて』をエリス様に奪われた。ど、童貞のほうじゃないぞ!?

 もう恥ずかしいやら、意外と気持ちよかったやらで、エリス様の顔をまともに見ることができない。


「ちっちゃい男だこと。

 たかが、ピー!(自主規制)を見られたことぐらい、どうってことないじゃない」

「.....」


 うぅ.....。

 も、もうお嫁に行けない.....。


 どうやって『神薬』を体内に摂取したのか。

 ここまで言えば、なんとなくは分かってもらえたと思う。後は察して欲しい.....。HAHAHA。



 閑話休題。



 さて、俺が完全回復したのを確認したエリス様は、開口一番こんなことを言い出してきた。

 そうそう、回復したのは俺の体であって、俺の心はいまだHPが0寸前である。


「人間。まずは誉めてあげるわ」

「い、いきなり、どうしたんですか!?」


 な、なんのことだ?


 詳しく聞くと、アレス様とアフロディーテ様の逢瀬を邪魔する、例の計画のことだった。

 あまりにもくだらなすぎて、すっかりと忘れていた。.....ひぃ!?そんなに睨まないでくださいよ!?


「正直、期待はしていなかったんだけど、こんなにも早く成果を出すとは思わなかったわ」

「.....早い?」


 エリス様に会ったのはニケさんの前となるから、ゆうに2年以上は経っている。

 だから、「遅い!」と叱られることはあっても、「よくやった!」と誉められることはないと思っていた。いや、別に叱られたい訳じゃないぞ?


「あぁ。貴方達人間と私達神とでは時間に対する認識が全然違うのよ。

 そうね.....。大袈裟に言えば、人間の1年は私達で言えば、100年.....いえ、1000年くらいになるかしら」

「せ、1000年!?」


 スケール、デカすぎ!


 いや、思い当たる節がある。

 だからあの時、ニケさんの言葉に違和感を感じたのか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「歩様の仰る通りです。私も歩様と一日でも長く一緒に居たいと思います。

 それに、寂しい.....かもしれませんね」

「?」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ニケさん達神様からすれば、たかが1年や2年なんて、そう大した時間でもないのだろう。

 もちろん、ある程度の寂しさはあると思うが.....。あ、あるよね?


 エリス様曰く、1年や2年なんて昼寝すらまともにできない時間だと言う。

 ほんの少しの時間というか、それはまばたきをするのと同程度のささやかな時間らしい。


「分かったかしら?

 だから、人間が思ったよりも使える駒で安心したわ」

「は、はぁ.....。ありがとうございます.....」


 駒って.....。


 いや、アルテミス様も以前人間を駒扱いしていたから、神様からすれば人間なんてそういうものなのだろう。

 それはある意味仕方がない。神様とはそういうものなのだ。理解したくはないが、一応納得はしよう。


 ただ面と向かって、俺を駒だと言うのはやめてもらいたい。

 せめて思うだけにして、言葉にはしないで欲しいものだ。思うだけなら俺のガラスハートは傷付かないからな!


「それに、私があげた加護もしっかりと育てているみたいじゃない?」

「.....」


 使ってはいませんけどね?


 エリス様から貰った加護というと『NTR』に他ならない。

 現状は権能をOFF設定にしてあるが、発動させると老若男女関係なく寝取ってしまうという曰く付きの加護である。


 この加護の恐ろしいところは、所謂カップルや夫婦にしか効かないところである。

 俺に惚れさせやすくする加護ということではなくて、カップルや夫婦の仲をぶち壊し、どちらか一方(想いの弱いほう)の気持ちに俺への想いを刷り込ませるという最悪なものだ。


 例えるなら、傷心中の異性に優しく接して心につけこむ、あれに近い。


 特に、強烈な想いで結ばれているカップルや夫婦にほど効力があるので、なおタチが悪い。

 授けてくれた女神様の底意地の悪さがよく分かる史上最低な加護だ。


 ちなみに、この加護の最初の犠牲者は時尾夫婦で、俺は時尾さんの心を寝取ることに成功した。なんでやねんっ!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「くっそー!一足遅かったかーヽ(`Д´#)ノ」

「なんだよ、いきなり」

「ちがーうー!歩のセリフは「あの方は何も盗んではいません。私の為に戦ってくれたのです」でしょー!」

「ダ、ダメに決まっているだろ!怒られるわっ!!」

「いやー、歩はとんでもないものを盗んでいったよねー」

「そのまま続行!?」

「私の心です(`・ω・´) キリッ!!」

「(`・ω・´) キリッ!!じゃねえ!誰もそんなもん盗んでねえよ!」

「にへへー(*´∀`*)ありがとー!私も歩の心を盗んじゃうねー!」

「話を聞け!(.....くそ!かわいいな、もう!!)」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そうそう、加護『NTR』は権能をOFFにさえすればその効力を失うので、ちゃんと時尾さんの心はゼオライトさんに返却しておいた。

 そのままにしておくと、ゼオライトさんに殺されかねないからな。


 どちらも互いにお互いの事を強烈に想いはしていたが、『NTR』の結果、ゼオライトさんのほうが時尾さんのことをより想っていた事が判明した。

 後日、その事を時尾さんに伝えたら、それはもう大喜びしていた事をここに付け加えておこう。



 閑話休題。



 ともかく、俺の『NTR』はエリス様の言う通り、かなり育っている。

 レベルも10000を越えてしまったので安易に発動させてしまうと、世のカップルや夫婦の片割れはみんな『俺LOVE状態』になってしまう、まさに恐ろしい『加護(神の力)』なのである。


「有能な駒で、私の加護も大切にする.....。人間、貴方のことが気に入ったわ。名乗りなさい」

「ま、『舞日 歩』です」

「ふーん、変な名前ね。まぁ、名前なんてなんでもいいわ。人間、貴方にはご褒美をあげなくちゃね」


 名乗らせた意味はっ!?


 マイペース過ぎるエリス様には苦笑しか出ない。

 それよりも、ご褒美という単語に思わず興味が沸いてしまう。な、なんだろう.....。


 エリス様は絶対に深く関わり合いになりたく女神様だ。それは間違いない。

 関わったが最後、面倒ごとに巻き込まれるオチなのが目に見えている。


 だが、そんなエリス様でも美しいことには変わりない。見た目が貞子であってもだ。

 それに、どことなく漂う危険なお姉さん臭。俺を常に掌の上で転がしている手腕はさすがと言わざるを得ない。


 俺の見えない尻尾は、エリス様の「ご褒美」という単語に、先程からぶんぶんと勢いよく振られっぱなしである。


「何がいいかしらね?希望はあるかしら?」

「.....」


 ある!あります!あるであります!

 膝枕に、耳掻きに、よしよしなど、希望をあげたらキリがないほどに!!


 しかし、ここはグッと我慢。

 その願望はニケさんに叶えてもらうのだ。


「ふざけんじゃないわよ。人間なんかにする訳ないでしょ」

「こ、心を読まないでくださいよ!?」

「わたくしの優しさはアレスお兄様だけのものよ。調子に乗らないで」

「.....」


 怒ってはいる.....?と思うものの、そこまで冷たくあしらわれた気がしない。

 意外と気に入れられているみたいだ。そんなに忠実そうに見えるのか、俺は?


「人間の希望もなさそうだし、力でいいわよね?そのほうが簡単だし」

「.....え?じ、辞退は.....」

「.....何か言ったかしら?」

「い、いえ!あ、ありがたく頂戴します!!」


 エリス様の黄金色の瞳が妖しく光ったので、思わず心にもないことを言ってしまった。

『不和と争いの女神』であるエリス様の力とか、絶対に『NTR』みたいな碌でもないものに違いない。.....ほ、欲しくないなぁ。


 しかし、当のエリス様はノリノリで.....。


───ストッ!


『加護』


 で、ですよねー。


 億が一にもないことだが、外れることを期待しても結果は変わらなかった。

 俺はまたしても不本意な加護を頂戴しないといけない運命らしい。とほほ.....。


「人間。貴方に授ける加護はこれよ」

「こ、これはどういう効果があるんですか?」

「わたくしと人間を強く結び付ける効果があるわね」

「.....む、結び付ける?」


 意味は分からないが、凄く嫌な予感がする。

 特に、エリス様がニヤニヤしているのが余計気になる。


「人間は先程言っていたわよね?2年も掛かってしまったと」

「は、はい。それは確かに言いましたが.....」

「わたくしからすれば大した年月でもないけれど、人間のその心意気に感激したわ!」

「は、はぁ.....?」


 心意気?

 心意気ってなんだ?


「何って.....。もっと、わたくしの計画に積極的に関わりたいのでしょう?」

「はい!?」

「もしかして.....。人間はあばずれ売女狙いなのかしら?」

「はぃぃいいい!?」


 何を言っているの!?

 この女神様は!?


 エリス様の都合の良いように解釈し過ぎる。

 エリス様は一度俺の記憶を覗いてるのに、何故俺がアフロディーテ様を狙っていると思うのか。


「なるほど。なかなか侮れない駒ね。

 わたくしは人間を利用していたようで、実はわたくしも人間に利用されていたと、そういうことね。

 人間のくせに生意気な.....。いいわよ?お互いの利害が一致していることだし、協力してあげるわ」


 サスペンスドラマの見すぎだろっ!?


 その素敵な協力者が出来た!みたいな嬉しそうな表情はやめて欲しい。ちょっとドキッとした。

 なんだろう?この『初めて出来た協力者!』みたいな軽いノリは.....。エリス様って友達少ないのかな?少ないんだろうなぁ。


「結局、効果はどんなものなんですか?」

「簡単よ。アレスお兄様の割合をグンッと上げるものだわ」


「.....え?」

「とは言ってもね?

 わたくしの力では1回が限度だから、十連の場合なら残り9回は通常通りになってしまうわ」


 嘘.....だろ!?

 最悪じゃねえか!


 ちなみに、単ガチャの場合はその効力が発揮されないらしい。

 なんでも、十連ガチャのようなシステムが甘いものだからこそ、付き神であるエリス様でもシステムに悪戯(介入)出来るものなんだとか。


 と言うか、単ガチャより十連ガチャのほうがシステムが甘いって大問題だろ.....。責任者は出てこいよ!説教してやる!!


「十連なんて、貴方専用みたいなものなんだから当然でしょ」

「え!?俺専用なんですか!?」

「正確には、付き人専用なんだけどね」

「な、なるほど.....」


 妙に納得してしまった。

 あまり使用されないほうのガチャだからこそ、システムの穴が多いということらしい。すいませんでした!責任者さんはお帰りください!!


「とりあえず、十連ならアレスお兄様が高確率で1回は当たるようになっているわ」

「ソ、ソウデスカ.....」


「そんなに嬉しそうにされると困るわね。

 わたくし、あまり感謝されたことがないから、どうしたらいいのかわからないのよ」


 感謝してないし!

 全然、空気読めてないですよ!!


 どこまでも自分に都合の良いように解釈しているエリス様。

 きっと他人の気持ちというものを考えたことがないのだろう。.....まぁ、兄があんなんだし、仕方がないか。


 その後も俺は残り時間いっぱいまで、エリス様の自己中心的な話に付き合わされることになった。

 そして、30分後。


「またすぐに来なさい。歓迎するわ」

「で、できれば、アレス様とお会いする前にエリス様とお会いしたいのですが.....」

「諦めなさい。わたくしの心はアレスお兄様ただ一人のもの。人間が入り込める余地なんてないわ」


 そんな話してねぇぇぇぇぇえええええ!!



 結局、エリス様は最後までエリス様だった。

 こうして、俺は新しい加護『不協和音』を手に入れて、次なる神の間へと旅立っていった───。



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 加護『不協和音』


『不和と争いの女神』エリスより授かりし神の力。

 権能は十連ガチャのみ1回限り、アレスの割合を大幅に上げるもの。

 正確には1回限り最低レアになるというもので、必ずしも当たるものではない。

 他の加護とは異なり、権能をOFFにしても効力は途切れない。所謂、パッシブ系加護に分類される。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



次回、本編『小さなプライド』!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


今日のひとこま


~その後のアテナは・2~ side -アルテミス-


これは主人公とエリスが話している頃のお話。


「アルテミスお姉ちゃん、やっほー( ´∀` )」

「アテナっち?どうしたんだい?.....いや、来てるってことはそういうことだったね」

「うんー。十連ガチャで来たよー」

「十連か。なら、あたしにもチャンスはありそうかね?」


「どーだろー?ニケが7回だったってのは知ってるんだけどねーr(・ω・`;)」

「まぁ、当たってなかったら諦めるからいいよ。.....フェンリル、お菓子を持ってきな」

「ありがとー!それとねー、歩がこれをアルテミスお姉ちゃんに、だってー(・ω・´*)」

「なんだい、これは?」


アテナっちから貰ったのは赤みを帯びた一つの人参。

鑑定結果は『キャロベリー』と出た。


なんだい?この変な名前の人参は。


「人参だねー(o゜ω゜o)」

「それは見れば分かるよ。あたしが聞いてるのは、何で人参を?ってことだよ」

「えっとねー、「肉ばかりではなく、野菜もキチンと食べましょう」だってー( ´∀` )」

「アユムっちめ~。余計なお世話だよ!」


「そーそー!人参もらう前にねー、「何かあったそうですが、大丈夫ですか?」って言ってたよー」

「そっちを早く言っておくれよ!?」

「忘れてたー!あーははははは( ´∀` )」

「アテナっちは相変わらずだね。そうかい、アユムっちがあたしの心配を.....」


な、なんだろう.....。

ちょっと嬉しいような、恥ずかしいような不思議な感じがするよ。


「し、心配されるような身じゃないんだけど、心配されるってのも案外いいもんだね」

「もぐもぐもぐー!」

「そ、そうかい?そんなに心配してたのかい?なんだか照れ.....って、アテナっち!?」

「.....(ごくんっ).....なにー(。´・ω・)?」


「ど、どうしたんだい!?

 あのアテナっちが野菜を食べてるなんて.....。何か悪いものでも食べたのかい!?」

「食べたのは人参だけどねーΣヾ(´∀`*」

「それは分かるけど、本当にどうしたんだい?」

「んー?アルテミスお姉ちゃんもたべてみてー!あまいよー!」


甘いって言われてもね~。

野菜はあまり好きじゃないんだよ.....。


「.....おや?本当に甘いね。なんだい、この人参は?」

「もぐもぐもぐー!」

「そうかい。下界の.....。やっぱり下界は面白そうだね」

「.....(ごくんっ).....おもしろいよー!アルテミスお姉ちゃんもおいでよー!」


「そりゃ~、行ってみたいけど、パパがね~」

「パパがどーしたーのー(。´・ω・)?」

「あたしのことをずっと監視してるんだよ。だから、行きたいけど行けなくてね」

「ふーん。私が言ってあげよーかー?」


「い、いいのかい!?」

「うんー!なんて言えばいいのー?」

「そうだね~。このセクハラ野郎、かな?」

「このセクハラ野郎ー!、これでいいー(。´・ω・)?」


「もうちょっと怒った感じで頼むよ」

「このセクハラ野郎ーヽ(`Д´#)ノ」

「あひゃひゃひゃひゃひゃwそれでいいよwそれならパパもアテナっちの勢いに負けるだろうねw」

「このセクハラ野郎ーヽ(`Д´#)ノあーははははは( ´∀` )」


「いい感じwいい感じwあたしを散々虐めたんだ。パパには地獄を見てもらわないとねw」

「たのしー!早速言ってくるー( ´∀` )」

「あっ!アテナっち!アユムっちに伝言いいかい?」

「なにー(。´・ω・)?」


「次かその次でもいいから一度会いに来い、と伝えておいてくれ」

「わかったー!忘れてなかったら言っとくー!」

「忘れるんじゃないよ!?」

「はーい( ´∀` )ばいばーい!アルテミスお姉ちゃーん!」

「あぁ、気を付けて行っておいで」


あひゃひゃひゃひゃひゃw思わぬ収穫ができたよw

それにしても、アユムっちがあたしをね.....。意外と脈ありなのかね?


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