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第161歩目 それぞれの母親!①

前回までのあらすじ


色々あって海都ベルジュを追放された!

□□□□ ~これからの方針~ □□□□


 海都ベルジュを追放されて、既に1ヶ月が経った。


 俺達は現在、海の上にいる。

 目的地は『流通の町ヴェルナシュ』だ。


挿絵(By みてみん)


 今回の旅の目的は大きく分けて2つある。

 1つ、ドールの母親がいると噂されているアクアリオ帝国へと向かうこと。

 1つ、力を求める為に、正統勇者として認めてもらう為に、シンフォニア共和国へと向かうこと。


 まず1つ目の、ドールの母親がいると噂されているアクアリオ帝国へと向かうことについては、ドールと以前から約束していたことだったので全く問題はない。方針の転換はなく、引き続き継続していく。


 問題なのが2つ目の、力を求める為に、正統勇者として認めてもらう為に、シンフォニア共和国へと向かうことについてだ。

 今後の冒険においても必要なことなので、どうしてもやっておきたいのだが、こればっかりは俺の一存だけでは決められない。


「ドールはどう思う?」

「良いと思うのじゃ」


 特に、ドールの意向は十分に汲み取ってあげたい。

 本来、海都ベルジュの次はアクアリオ帝国へと向かう予定だっただけに、特にだ。


「いいのか?ちょっと寄り道していくことになるが.....」

「構わぬ。主の知名度が更に上がるばかりでなく、母上の説得の際にも役に立ちそうだしの」

「ありがとう。助かるよ」

「それは何の礼なのじゃ?」


 本当に良くできた12歳だ。

 頭が下がる思いでいっぱいになる。


 それと言うのも、今回の旅の経路については俺の意向を大きく反映させたことが原因となる。


挿絵(By みてみん)


 本来なら、一旦フランジュ領へと戻り、そのままドワーフが治めるカルディア王国を目指す。

 そこで海を渡り、ゴーレムが生息するというトルガスト王国に入り、エルフが治めるアルターナ神話国または人間族が治めるリンカーナ帝国を経由して、ドールとの約束の地であるアクアリオ帝国へと向かう。


 これが、アクアリオ帝国へと向かう最短の経路となる。

 そして、ドールとの約束の一件を果たしてから、シンフォニアに向かえばいいだけだ。


 そう、そのつもりでいたのだが.....。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あぁ、1つ注意しておこう」

「なんでしょうか?」

「エルフが治めるエルターナとアルターナとは、シンフォニアからでは船の往来ができないんだ」

「え?なんでですか?」

「そういう通商条約を結んでいないから、としか言えないな。僕は政治には疎くてね。済まない」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 条約を結んでいないのなら仕方がないので、キャベツさんに教わったことを元に旅の道筋を組み立てていく。

 すると、ドールの一件を優先した場合は、再びアルターナかリンカーナを経由してトルガストへと向かい、そして、シンフォニアに渡航するという流れになる。


 正直、シンフォニアに向かうまでに時間が掛かりすぎる。

 そして、アルターナまたはリンカーナを往復するという旅の経路的にも無駄が多すぎるように思えてならない。


 だったら、最初からトルガストにてゴーレムを討伐した足そのままでシンフォニアへと向かう。

 そして、シンフォニアで正統勇者として認められてから再びトルガストへと舞い戻り、アルターナまたはリンカーナを経由して、アクアリオへと向かったほうが無駄が少ないはずだ。


 ただ、これは.....。


 あくまでも効率的な旅の経路という訳であって、そこには『母親に早く会いたい』というドールの意向を汲んであげていないことになる。

 だから、ドールの意向をきちんと尋ねた上で、旅の道筋を決めていこうと思った訳だ。


「妾に気を回しすぎなのじゃ。.....忘れたとは言わせぬぞ?

 主とともにあることが妾の幸せなのじゃ。多少遅れた程度で文句など言わぬ」

「本当にありがとう」


 ドールの懐の広さに改めて感謝する。

 本当は一刻も早く母親に会いに行きたいだろうに.....。


 更に、ドールはこんな提案もしてきた。


「主は力を求めておるのであろう?」

「そうだな。竜族戦で考えることがあったからな。割と本気で取り組もうと思う」

「だったら、こういう経路をたどってみるのが一番良いのではないか?」


 俺の力UPに必要なものは『歩くことを主とした旅』と『神より得られる加護』の2つだ。

 その他にもレベル4スキルとかもあるが、現状では入手手段が不明なので一旦置いておく。


 それらを分かった上で、ドールが提案してきた内容と言うのが.....。


「カルディアの後はトルガストに渡るのではなく、そのまま北上していくのじゃ。

 そして、ゲルボルグからトルガストへと渡航すれば良かろう?」


 全国行脚でもするつもりかよっ!?


 確かに、それが俺の力UPを求める上ならば一番いいだろう。

 しかし、さすがにそこまでドールを待たせる訳にはいかない。アクアリオに着くまでに何年掛かるというのか。


「構わぬと言うておるであろう?」

「いやいや。気持ちは嬉しいが、そこまでしてくれなくていいよ」

「嬉しいのなら受け入れよ」

「う~ん.....」


 本気でそう提案してくれているのが伝わるので、余計に申し訳ない。

 それに、一旦忠誠バカモードになると、説得も困難なだけにめんどくさくもある。


 そして、みんなで話し合った結果.....。


 ①カルディア王国へ向かう。

 ②トルガスト王国へと渡航し、ゴーレムを討伐する。

 ③シンフォニア共和国へと渡航し、正統勇者として認めてもらう。

 ④トルガスト王国へと舞い戻り、リンカーナ帝国を目指す。

 ⑤アルターナ神和国を経由して、エルターナ神和国へと入る。

 ⑥エルターナ神和国から、当初の目的地であるアクアリオ帝国へと入国する。


 以上のように決定した。

 アテナの異世界旅行やドールの母親に会いたい&忠誠心の意向を汲み取った上での旅程だ。


 ただ、個人的にはエルフが治めるエルターナやアルターナは寄る必要がないと思う。

 それと言うのも、エルフは頑固で規律にうるさく、しかも、市民はともかく王侯貴族からは勇者はあまり歓迎されていないと聞くからだ。


 ちなみに、エルターナとアルターナ行きはアテナの強い意向によるものだ。


「やーだよー( ´∀` )」

「なんでそこまで拘るんだよ?」

「エルフ領はねー、あまーいものがいーっぱいある国なんだよー!はずせないよー!」


 そう言えば、エルフが住まう町フルールの名物であるはちみつをアテナは大層気に入っていた。

 自然とともに生きるエルフだからこそ、はちみつに限らず、自然の恵みに恵まれているのかもしれない。


 しかし、ここで重要なのはアテナの意向ではない。ドールの意向だ。

 アテナには適当にお菓子を与えておけばいいだけに、アテナの意向を汲んであげる必要性は全くない。


「ぶー(´-ε -`)モーちゃんだってー、あまーいものいーっぱい食べたいよねー?」

「我はどっちでもいいのだ。ご飯とおやつがいっぱいあればいいのだ」

「ぇぇえええΣ(・ω・*ノ)ノ」


 はい、アテナ、ざまぁ!


 姑息にも、モリオンを味方につけようと画策したみたいだが、その思惑が外れてしまった。

 モリオンは別に甘いものが好きな訳ではない。食べ物全般が好きなのだ。だから、こういう返答が返ってくることはあらかじめ想定しておかなければならない。


   『アテナの川流れ』 いやぁぁあああ!たすけてぇぇえええ(||゜Д゜)

  『アテナも筆の誤り』 あー。もー。またまちがえちゃったー(´・ω・`)

『アテナも木から落ちる』 ぎゃん!?ふぇぇえええ。おしりいたーい(´;ω;`)


 様々なことわざが頭の中を駆け巡る。


 理由もしょうもないことだし、アテナの意向は除外しよう。

 なんだったら、アクアリオ帝国で用事を済ませた後に立ち寄ればいいのだから。


 そう考えていたら.....。


「ゴーン"ぢゃーん"(´;ω;`)」

「泣くほどかよっ!?」


 形勢不利と見たのか、ドールに泣きついてせがみ出すアテナ。これが一番上の姉とか(笑)

 ドールお気に入りのゴスロリが、アテナにもみくちゃにされていっているので、ドールも相当困難顔だ。


「えぇい!鬱陶しいのじゃ!.....主、急ぐ旅でもないし、良いではないか」

「まぁ、ドールがそう言うなら.....。と言うか、単純にアテナを早く引き剥がしたいだけだろ?」

「やったーo(≧∇≦)oありがとー!コンちゃーん!」

「俺にも礼を言えっ!」


 色々とあったが、こうして大体の旅程が決まることとなった。



□□□□ ~アテナとドールの母親事情~ □□□□


 ヴェルナシュへ向けて旅に出てから1ヶ月。

 やはり船旅は暇なものだ。


 前回の豪華客船とは異なり、今回の船はフェリーに近いものなので娯楽施設が何もない。

 だから、日がな一日ごろごろするか、景色を眺めたり、釣りをするかのいずれかで毎日を過ごしている。


「はー。まーた釣れちゃったよー。お魚さんってバカだねー(´・ω・`)」

「「.....」」


 う、うぜぇ.....。


 現在、俺達は夕食の食料も兼ねて釣りをしている。

 ここ最近は毎日おかずの1品という名目で釣りをしているのだが、世界に愛されているアテナは釣りにも愛されているらしく、釣糸を垂らせば毎回爆釣と釣り人も真っ青な釣果をあげている。


 始めの頃はそれでも楽しんでいたのだが、毎回爆釣となると飽きが来るらしく.....。


「ぶー。つまんなーい(´-ε -`)

 あー、あー。くじらさんでもかからないかなー」


 そんなのがかかったら船が沈むだろ!

 と言うか、この世界にも鯨っているの!?


 こんなことを言い出す始末だ。

 ちなみに、俺とドールは基本的にボウズだ。きっとアテナのせいに違いない。


 そして、乗り物に弱いモリオンはというと.....。


「.....(うぷっ).....き、気持ち悪いのだ.....」


 当然のように船酔いに陥っていた。

 いつもにこにこしている血色のいい丸顔が、今はまるで絶望しきっているかのように真っ青になっている。


(はぁ.....。だから、部屋で大人しく待っていろって言ったのに.....。仕方がない)


 どうせ今日もボウズだろうから、アテナの面倒をドールに任せてモリオンとともに船室に戻る。

 横にさせておけば幾分はマシだろう。


「.....ご、ごめんなさい、なのだ.....」

「気にするな。誰にだって苦手なものはあるからな」

「.....アユムにもあるのだ?」

「当然だろ」


 最も苦手なのはリア充。

 その次に女性(特に美人)で、満員電車と続いていく。


「.....我も苦手、なのだ?」

「モリオンは女性というより女の子だから問題ない」


 いやいや。女の子も女性だろ!とのツッコミがきそうだが、当のモリオンは嬉しそうだ。

 モリオンの中では好きor嫌いという選択肢しかないのだろう。ちょろゴン(笑)


「.....どうやったらこれは直るのだ?」

「乗り物酔いか?.....う~ん。それは難しいなぁ。正直、慣れろとしか.....」


 かくいう俺も、昔は乗り物に弱かったほうだ。

 ただ、これは経験ある人も多いだろうが、車に乗るようになってから、自然と乗り物酔いにならなくなったような気がする。

 今では車酔いだけではなく、よほどの大しけが来ない限り、船酔いですら全くしないほどだ。


「.....じゃー、我もそれに乗れば直るのだ?」

「いやいや。異世界に車なんてものがあるわけ.....。あっ!」


 モリオンの子供らしい単純な質問にほっこりしつつ、やんわりと否定していた時にある物が頭に思い浮かんだ。

 これから旅をしていく上でも参考にしている例のあれだ。


「.....どうしたのだ?」

「車になるものがあるんだ。もしかしたら、それでモリオンの乗り物酔いも克服できるかもな」

「ほ、本当なのだ!?.....(うぷっ).....き、気持ち悪いのだ.....」

「いいから大人しく横になってろ」


 勢い余って飛び起きてきたモリオンを強引に寝かせつつ、どういうものなのかを簡単に説明する。

 と言っても、モリオンに難しい説明をしても意味がないので、遊び道具の1つであると伝えるぐらいだが。


「.....その魔動駆輪ってやつが欲しいのだ」

「ちょっと高いんだよなぁ.....。そうだ!モリオンがいい子にしていたら買ってあげるよ」

「.....い、いい子にするのだ!約束なのだ!」


 モリオンがキラキラした目で見つめてくるので、指切りで約束をすることにした。かわいい。

 フランジュにあったファミリータイプの大型の魔動駆輪ではなくて、一人乗り用の小型の魔動駆輪ならば、そこそこの値段で買えたはずだ。.....確か、3億とかそこらへんだったかな?


(この前助けてもらったお礼ということにするか。

 アテナには自転車を買ってあげているし、姉妹平等じゃないと不公平だよな)


 自転車と魔動駆輪では平等にならないだろ!とのご指摘はご遠慮願いたい。

 何かを与えたという時点では一緒なのだから.....。うちの教育方針はこうなんです!


 そもそも、アテナに魔動駆輪を与えたらどうなるというのか.....。

 考えたくもないことだ。


 などと納得していると、背後からただならぬ殺気?怒気?を感じた。

 恐る恐る振り向くと、そこには.....。


「.....ほぅ?妾にはあれほどダメだと言うておったのに、トカゲには随分と優しいのじゃな?」

「歩~、ただいまー( ´∀` )」


「.....」


 額に青筋を立てて、こめかみをひくひくと痙攣(けいれん)させながら俺を睨み付けているドールと、今回も爆釣を果たしてきたアテナが扉の前に立っていた。

 ドールの怒気に反応しているのか、はたまた活きがいいのか、アテナが釣ってきた魚達がピチピチと忙しなく跳ねている。


「活きがいいに決まっておろう。くだらないことを言うでない」

「ですよねー.....」


 ドールさんはものすごくお怒りのようだ。

 鋭い視線が、先程からグサグサと体に突き刺さってくる。


 ここはどうにかしてお怒りをお静めしないと.....。と思っていると、気になることがあった。


「.....それは?」

「トカゲの為に持ってきたのじゃ」


 ドールの手に、何やら湯気を立てているコップが1つ。この匂いは.....。


「.....お姉ちゃん。ありがとうなのだ」

「十分に冷まして飲むが良い。酔いにいいのじゃ」

「へ~。よく知ってんな、そんなこと」

「妾がまだ小さい時に母上が良く作ってくれたのじゃ。当時は移住に、移住を重ねたからの」


 これだ!

 過去を思い出させてしまうかもしれないが、ドールさんの怒りの矛先を他に向けるならこれしかない!


「以前、本の少し聞いたことはあるけど、ドールの母親って、改めてどんな人だったんだ?」

「母上は弱いながらも幼い妾を懸命に守ってくれた優しくも美しい、気丈な人だったのじゃ」

「.....うげー。お、お姉ちゃん、これ苦いのだ.....」


「「.....」」


 が、我慢して飲め!

 いまドールが、怒りを忘れて母親を偲んでいるいいシーンなんだから我慢してくれ!


「.....あ、あれか?ドールが成体になった時のような感じの人か?」

「妾は成体になった時の姿を見たことがないのじゃ。主から見てどうなのじゃ?」

「ん?すごい美人だったぞ?俺が今まで見てきた女性の中でも1、2を誇る容姿だったな」

「くふふ。それは何度聞いても嬉しいのぅ!.....まぁ、その1、2の中に姉さまがおるのであろうがな」


 HAHAHA。


 ドールからのジト目をソッと(かわ)す。その通りだから仕方がない。

 それぐらいアテナの容姿は群を抜いているということだ。かわいいし。


「.....そ、それで?実際はどうなんだ?」

「妾と比較はできぬが、それでも美しいのは間違いないのじゃ。村でも評判の美狐と言われていたしの」

「へ~。美人親子ってことか。それはすごいな」

「.....アユムは美人が苦手って.....」

「ごほんっ!ごほんっ!あ"ー!あ"ー!.....風邪でも引いたかな?」


 よ、余計なこと言うんじゃねぇ!

 いい子にしてないと魔動駆輪を買ってあげないぞ!?


 モリオンの口を無理矢理押さえて、俺もドール特製のショウガ汁を頂いた。

 体がぽかぽかと温まる渋い味だ。今回、モリオンとは間接キスとなるが、モリオンは娘のようなものなので全く気にはならない。


「.....う、うまいショウガ汁だな。母親は料理にも精通していたのか?」

「うむ。妾が知る限りでは一番美味しいものであったな」

「そんなにすごいなら、少しは料理を学んでおけよ。もったいない」


 ドールが知っている料理となると、宿屋とナイトさん、ゼオライトさん、そして、ベルジュの海鮮料理ぐらいだろうか。.....俺?俺はノーカンだ。

 位置付け的には、ベルジュの海鮮料理≧ゼオライトさん>ナイトさん>宿屋となる。


 と、言うことは.....。


 例え、思い出補正があったとしても、それらを抜いて、なお美味しいというのならよほどではないだろうか。

 本当にもったいない。ドールが料理を学んでいたら、旅での苦労も少なくなるというのに.....。


「何を言うておる。料理とは食べるものなのじゃ。作るものではない」

「ねー!待ってたら勝手にでてくるもんねー( ´∀` )」

「.....そうなのだ。おいしいものは食べるからいいのだ」


「.....」


 こ、このダメ姉妹は本当に.....。


 俺が呆れた眼差しでダメ姉妹を眺めていると、いつしか、それぞれの母親について話し合い始めた。

 俺の目論見通り、ドールはすっかりと怒りを忘れてしまっているようで何よりだ。.....ふぅ。良かったぁ。


「姉さまの母上はどうなのじゃ?」

「あー。そう言えば、俺も知らないな」


 確か、以前アテナにちらっと聞いたことはあるような.....。

 全ての神様の女王という立場だったっけ?


「んー?よくわかんなーい(・ω・´*)」

「はぁ?よくわかんないってどういうことだよ?」

「だってー、ほとんど話したことないんだもーん(´-ε -`)」

「.....え?マジ?」

「まじー( ´∀` )」


「「.....」」


 いやいやいやいやいや。

 まじー( ´∀` )じゃなくてさ.....。


 そんな何事もないような明るい笑顔で返答されても、こちらが困るだけだ。


 俺とドールはなんとも言えない気まずい顔でお互いを見るばかり。

 一方、モリオンは何やら頷いている。.....やめて!何の頷きか知りたくないからっ!


「.....な、なんかないのか?母親との思い出みたいなものは.....」

「んー。ちーさいころからー、ニケといっしょだったしねーr(・ω・`;)」


「小さい頃から!?神界の育児事情とんでもないなっ!?

 .....と言うか、それでよく母親が分かるな?あまり接していないなら、普通は分からなくないか?」


 アテナの言葉通りなら、アテナを育てたのはニケさんということになる。

 さすがに、生後からニケさんに引き継ぐまでは母親が面倒を見たのだろうが。.....あれ?見たんだよな?まさか天使任せだったとかないよな!?


 そもそも、1つ言いたいことがある。


 もっと、ちゃんとアテナを育てましょうよ、ニケさん.....。


 あの、できる雰囲気を醸し出しているニケさんが、小さい頃からアテナを育ててこの体たらくというのが絶望に近い。

 とは言え、ニケさんの気持ちも分からなくはない。


 神とは神界にいる以上、不死の存在だと言う。

 つまり、何万年、何十万年生きても死なないのだ。


 そんな存在に、たかだか100年ぐらいしか生きない人間と同じように、小さい頃から物事を一生懸命教える必要性は全くないだろう。

 それこそ、何年、何十年かけてでも教えていけばいいだけなのだから。焦る必要などは全然ないのだ。


 そんな状況で、教育なんてまともにやるだろうか。

 ほとんどの人が後回しにして、できることは自分でやってしまうのではないだろうか。


 特に規則バカのニケさんだと、その傾向が強いと思われる。

 仮にアテナに物事を教えた結果、遅くていい加減な仕事をされるぐらいなら、何も教えず自分で仕事をやってしまったほうが早くて正確だときたら尚更だ。

 そして、ニケさんにはそれができるだけの力があるだけに余計タチが悪い。


 つまり、以下のような無限地獄が続いていると予想できる。


 アテナが無知 → 自分で仕事をやる → アテナがおバカなまま → 自分で仕事をやったほうがマシ → 以下、延々とループ。


 普通、預けた子供がこんな調子だったら、親としては怒りそうなものだが.....。

 ただ、アテナの親に限らず、他の神々も寿命という概念がないからこそ、教育についてはなぁなぁなままなのだろう。いつか教えればいいじゃん、的な。


(そりゃあ、アテナが色々と残念なのは仕方がないよなぁ.....。

 不死の存在の成れの果てって感じだし。まぁ、後は本人のやる気次第なんだろうが.....)


 アテナをちらりっと見遣る。


「パパに会いに行くとねー、いつもママがいっしょにいるからねー。

 たぶんー、それがママなんでしょー。あーははははは( ´∀` )」

「それがママって.....。姉さまは本当に雑だのぅ.....」


 ドールが呆れているように、俺も呆れ気味だ。

 雑とかという問題ではない。もはやどうしようもないレベルだ。


 こんな状態のやつが、やる気に満ちている訳がない。

 むしろ、『智慧の女神』と称されるほどの知識?を備えられたことが奇跡に近い。さすがニケさんっ!


 と、まぁ、こういう反応が正しいのだろう。


 その後もアテナの教育事情を聞いていくと、ニケさんとアルテミス様、そして、ヘスティア様ぐらいしか携わっていないことが判明した。あれ!?神界を管理している長女はどうした!?


 万事いい加減なアテナ。

 超規則バカなニケさん。

 悪戯大好きなアルテミス様。

 ほとんど寝坊助状態なヘスティア様。


 お、おぅ.....。


 結論。

 アテナが残念すぎる子なのは、なるべくしてなったとしか言いようがなかった。



次回、本編『それぞれの母親②』!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


今日のひとこま


~そりゃー、バカ神にもなるよ~ side -ニケ-


これは数万年前のお話である。


「アテナ様、高い高ーい!」

「きゃっきゃ!きゃっきゃ!」

「アテナ様はごきげんですね」

「あぅー?あー!(にぱー☆)」


あ~。なんとかわいらしい笑顔なのでしょう。

アテナ様の育児係り兼付き神に選ばれたことは、最大の誉れと言えるでしょう。


「もう一回、高い高ーいしますか?」

「あー!あー!」

「分かりました。では、いきますよ?」

「きゃっきゃ!きゃっきゃ!」


「ニケちゃん、お邪魔するよ~」

「これはアルテミス様。いかがなされましたか?」

「いやね、アテナっちと遊びにきたんだよ。抱っこしてもいいかい?」

「えぇ、どうぞ。アテナ様もお喜びになられることでしょう」


「アテナっち~。アルテミスお姉ちゃんだよ~」

「あー!!あー!!」

「あれ?なんかアテナっちがご機嫌斜めみたいだけど?」

「申し訳ありません。高い高いの途中でしたので、それが原因かと.....」


「なるほどね。じゃ~、お姉ちゃんが代わりにしてあげるよ。高い高ーい!」

「あー!!!あー!!!」

「えぇ!?アテナっちが怒ってるよ!?」

「アテナ様は賢いお方ですからね。先程よりも高い高いが低いとお分かりになられるのでしょう」


「そういうものなのかい?じゃ~、高ーい高ーーい!」

「きゃっきゃ!きゃっきゃ!」

「おぉ、本当だ。それにしても、この笑顔は本当に癒されるね~」

「あぅー?あー!(にぱー☆)」


アテナ様が笑われるたびに、この部屋が明るくなっていくような錯覚に陥ります。

まさに天使!いえ、天使では格が落ちてしまうので、まさに女神!!


「あー!あー!」

「アテナっちはどうしたんだい?なんか言っているようだけど?」

「きっとお腹が空かれたのかと思われます。アルテミス様にたくさん遊んで頂きましたので」

「そうかい、そうかい。アテナっちはいつも何を食べてるのさ」


「神獣である神牛から取れる聖乳と、これまた神獣であるクイーンビーから取れる黄金蜜を、

 8:2でブレンドした上で人肌に温め、更にそれを3日間保存したものですね」

「どんだけ口が肥えているんだい!?しかも、取れたてじゃないのかい!?」

「アテナ様は賢いお方ですからね。一晩寝かせたカレーみたいに絶妙な味の違いを感じ取れるのでしょう」

「さ、さすが、アテナっちの育児係りは伊達じゃないね.....」


早速、準備してあった哺乳瓶をアルテミス様に渡して、アテナ様に飲ませて頂きました。

アテナ様の赤ん坊にして豪快な飲みっぷりは将来大物になる片鱗さえ窺えます。


「ちょっと飲みすぎじゃないかい?既に6本も空けているようだけど?」

「アテナ様は賢いお方ですからね。たくさん飲んだ栄養分を脳のほうへと送っておられるのでしょう」

「そんなもんかね?まぁ、アテナっちが喜んでいるようならそれでいいか」

「あぅー.....あぅー.....」


「おや?今度はなんだい?」

「お腹いっぱいになったので眠くなったのでしょう。いつもお昼寝している時間ですし」

「なるほどね~。じゃ~、アテナっちを寝かせたら、あたしも戻るとするよ」

「わざわざアテナ様の為にご足労頂きありがとうございます」


「ニケちゃんは相変わらず固いね~。それで?どこに寝かせればいいんだい?」

「専用のベッドがありますので、こちらへ」

「こちらって.....。ここはヘスティア姉さんの部屋じゃないか」

「はい。ですので、こちらに専用のベッドがあるのです」


「あー!あー!」

「ん~?あ~、アテナちゃんきたの~。一緒にねんねする~?」

「あぅー?あー!(にぱー☆)」

「はいはい~。おやすみね~」


「えっと?どういうことだい?」

「アテナ様は賢いお方ですからね。己が寝るにふさわしきベッドをここだと判断なされたのです」

「ヘスティア姉さんをベッド扱いにしたらいけないじゃないか.....」

「アテナ様は賢いお方ですからね。このニケ、アテナ様のご意向にただただ従うのみです」


このニケがいる限り、アテナ様は何も為される必要はありません。

私が全てを完璧に行い、アテナ様を立派な女神様へと導くのみです!


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