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第157歩目 はじめてのモリオン!モリオン⑨

前回までのあらすじ


アテナに勝算あり!?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


予想よりも長くなってしまったので、本編を2つに分割します。

その為、第156歩目の次回予告を変更しました。


2/22 本編『5.5章終話』! → 本編『はじめてのモリオン』!に変更しました。


□□□□ ~孤独~ □□□□


 我はモリオン。


 生まれながらにして特異体質を持つ竜族の姫だ。

 しかし、それがゆえに、いつも寂しい思いをしていた。


「───!」

「───!」


「.....」


 窓の外を見ると、楽しそうに遊ぶ同胞達。

 我とさほど変わらぬ年だというのに羨ましい。


「じぃ」

「なんでございます?」

「我も外で遊びたいのだ。なんで我は外で遊べないのだ?」

「はぁ.....。いつも申し上げておりますが、お父君が心配されるからです。姫様におかれましては.....」

「.....」


 いつもそれ。父様が、父様が、と耳にタコだ。

 それでいて、肝心の父様はちっとも遊びに来てくれず、我はずっと1人ぼっち.....。


 我は生まれてこのかた600年以上、1度も外に出たことがない。

 部屋の中でつまらない勉強をさせられる毎日で、たまの話相手はじぃのみ。食事を運んできたり、身の回りを世話してくれる侍従に至っては、話し掛けても必要以上の返事は返ってこない。


「姫様?早速お勉強をしますぞ」

「嫌なのだ。我は遊びたいのだ」

「またわがままを.....。お勉強をしませんとお父君に怒られますぞ?」

「どうせ父様は来てくれないから怒られないのだ」


 怒られてもいいから会いに来て欲しい.....。


 どれぐらい父様とは会っていないだろうか。

 100年?.....いや、200年近くは会っていないような気がする。今では大好きな父様の顔すらもよく思い出せない。


「お父君は寝る間も惜しんで働いておられるのです。姫様もお父君を見習って.....」

「うーるーさーいーのーだー!」


「はぁ.....。では、どうしたらお勉強をして頂けますか?」

「.....我は遊びたいのだ」


「遊び相手ならいつも.....」

「そうじゃないのだ!全然違うのだ!

 友達なのだ。友達が欲しいのだ。我と一緒に遊んでくれる友達が欲しいのだ!」


 我の願いはただ1つ。

 一緒に遊んでくれる友達が欲しい。


 父様が「外に出るな!」と言うのなら、それは仕方がない。納得はできないけれど.....。

 父様が「立派なドラゴンになれ!」と言うのなら、つまらない勉強もたまにはしてもいい。本当にたまに.....。


 だけど、それらを我慢する代わりに、我と一緒に遊んでくれる友達を用意して欲しい。

 このどうやっても出られない部屋の中で、我と一緒に()()()()()で遊んでくれる友達を連れてきて欲しい。


 じぃの言う、姫の相手として義務的に仕事として遊びに来るようなつまらない者達ではなく、そう、窓の外で遊んでいるドラゴン達のような自然体で、たまには喧嘩なんてものもしちゃうような楽しい友達みたいな者達を.....。


 しかし.....。


「姫様には友達など不要でございます」

「なんでなのだ?」


「姫様に必要なのは、お父君のような立派な品格と知識、それと有能な家臣だけでございます」

「.....家臣はつまらないのだ」


「はぁ.....。今の者では役不足でしたか?

 分かりました。後程、姫様の遊び相手にふさわしい別の家臣を手配致しましょう」

「.....」


 なぜ、じぃは分かってくれないのか。

 その家臣とやらがつまらないから友達を希望しているというのに.....。


「では、早速お勉強を.....」

「ゴブリンは嫌いなのだ!」


───ドンッ!


「ぷごっ!?」


 勉強、勉強とうるさいじぃを黙らせる為に、ボディーブローを1発お見舞いする。

 我の願いである友達ですらも用意してくれないというのなら、我慢してまで勉強などをやってはいられない。


「我は寝るのだ。ご飯になったら起こして欲しいのだ」

「.....」


 調度品とともに崩れ行くじぃに伝言を託した後、我はふかふかのベッドの中に潜り込んだ。


 遊べないというのなら、残る楽しみは食べることだけ。

 だから、つまらない勉強をするぐらいなら、食事の時間まで寝て過ごすことにしよう。



(今日も1人。明日も1人。ずっと1人.....。

 我はずっと1人なのだ?このままずっと1人はつらいのだ.....)



□□□□ ~はじめての対等~ □□□□


 父様に遊んで来てもいいと言われて(※閑話 はじめてのお使い!参照)数日後、我は馬車の上で揺られていた。

 なんでも、いま我が住んでいるところよりも食べ物がおいしい場所に連れていってくれるらしい。


 そんな時に出会ったのが.....。


「ちゃんと『いただきます』と言え」

「『いただきます』、なのだ?」


 我の知らないことを教えてくれたり、おいしいものをたくさんくれる1人の人間だった。


 みんな我の力で何でも言うことを聞く中、この人間だけは我の力に抵抗できるだけの力をほんの少し持っていたので、俄然興味が引かれた。

 後、お腹が空いたので、この面白そうな人間から何か食べ物を出してもらいたいという願望もあった。


「そうだ。食材や作ってくれた人に感謝する言葉だ。お前も食べ物がない時に困っただろ?

 だから食べ物はいつでも当たり前にあると思うな。感謝しながら食べるのが俺達、人の義務だ」

「腹減って困ったのだ。いただきますなのだー!」


 言っていることが分かりやすい。

 少なくとも『ゴブリンでも分かる帝王学』よりかは全然面白い。


 ここ人間界に来て、食べ物が当たり前にあるという生活が普通ではないことに驚かされた。

 だから道端にあった物を食べたら、人間がわらわらと集まってきて、金だの何だのとしまいには訳の分からないことを言い出す始末。


 いい加減、群がる人間が鬱陶しかったので全員殺してしまおうかと思っていたら、ご飯を食べさせてくれる場所を教えてくれるという1人の親切な人間がいた。


 そして、その親切な人間に連れていってもらった先が奴隷商館だったという訳だ。

 確かに3食昼寝付きだったから良かったものの、人間界では物を食べるだけでも色々と大変なのだと思い知った。


 そこに人間から教わった『感謝』という気持ち。

 嫌いな勉強だというのに、実体験も加わっていたせいか、人間の言葉がすんなりと耳に入ってきた。


 すると───。


「よし、良くできたな。えらいぞ」


───ぽふっ。ぽんぽん


「!?」


 人間が何やら我の頭を叩いてきた。

 いや、叩くというには痛くもなく、叩いているといってもいいものかどうかよく分からない。


 初めてのことだったので、人間が何をしているのか、我が何をされているのかが全く分からなかった。


「お、お前は何をしているのだ?」

「え?何って.....。良くできたから誉めているだけだぞ?いい子いい子ってな」


 いい子いい子?


「.....あ~。もしかして、嫌だったか?それならすまん」

「嫌じゃないのだ。それより、いい子いい子ってなんなのだ?」

「何って言われると難しいな.....。とにかく、お前がえらい子だってことだ」

「我はえらい子なのだ?いい子いい子はえらい子なのだ?」


 人間がコクリッと頷く。

 今まであまり誉められたことがなかったので、えらい子だと言われて嬉しい反面、なぜえらい子だと言われたのかが全く分からなかった。


「なんでって.....。お前がちゃんと『いただきます』って言えたからに決まっているだろ?」

「そんなことでえらい子になれるのだ!?」


「そんなことじゃない。知らなかったことを覚えて実践できたんだ。

 それだけで十分にえらい。今後もちゃんと言うんだぞ?そうしたら、お前はもっとえらい」

「おぉ!分かったのだ!」


 我の返事に笑顔で答えてくれる人間。

 上手くは言えないが、なにかこう体がぽかぽかするような不思議な感じだ。


 すると───。


「えらいぞ」


───ぽふっ。ぽんぽん


「!?」


 またしても、人間が謎の行動をしてきた。

 これがなんなのかは分からないが、これをされると妙に気持ちいい。


 ただ、恐らくは誉めてくれたのだろうが、なぜ誉められたのかが分からない。


「なんでって.....。お前はどんだけ誉め慣れてないんだよ。

 いいか?お前はいま、俺と1つの約束を交わしただろ?」

「約束.....なのだ?」


 約束とは、父様と交わしたあれと同じやつだろうか。

 しかし、この人間は父様とは違う行動をしてきたような.....。


 父様はただ口だけで「するな!」と言ってきたのに対して、この人間は『指切り』という指と指を絡ませる謎の行動をしてきた。

 約束というものでも、竜族と人間ではこうも違うものなのだろうか。外は、この人間は、とても面白い!


「そうだ、約束だ。今後もちゃんと『いただきます』と言うんだろ?」

「なのだ!」


「じゃあ、お前はえらい子じゃないか。約束を守る子はいい子で、破る子は悪い子だ。

 そして、俺はいい子ならきちんと誉めてあげるし、またいい子はちゃんと誉められるべきだとも思う」

「じゃー、我がえらい子.....いい子だったから、お前は誉めてくれたのだ?」


「そういうこと。お前がもっといい子になれば、もっと誉めてあげるからな?」

「おぉ!おぉ!おぉ!!我はもっといい子になるのだ!もっと誉めてもらうのだ!!」


「ははは。喜びすぎだろ」


 その時の人間の温かい眼差しは今でも忘れられない。

 体全体が優しさに包み込まれるような、安心感や喜びにくるまれていくような、心が満たされていく充足感。


 我には母様はいない。

 だから、母の愛情というのを全く知らない。


 だが.....。


(ぽかぽかとあったかいのだ.....。母様が居たら、毎日がこんな感じだったのだ?)


 この人間がまるで母様のように思えてならない。

 一緒にいるだけで、楽しくて、嬉しくて、温かい気持ちになれる。


 ・・・。


 それからの我の日々は毎日が楽しかった。

 怒られることも確かにあったが、それ以上にたくさん誉めてもらえたし、知らないこともたくさん教えてもらえた。


 600年以上も1人ぼっちで灰色に褪せていた我の心の中を、少しずつ、でも勢いよく、様々な色で彩っていく人間と一緒に入れる日々が楽しくて楽しくて仕方がなかった。嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。


 だからこそ、人間との別れは悲しかった。


「バイバイなのだ?」

「.....そうだな。バイバイだ」


 どうやら目的地に着いたらしい。

 それは、つまり人間との別れを指す。


「一緒にいられないのだ?」

「お前は奴隷だからなぁ.....。無理だ」

「我は奴隷などではないのだ」


 この人間はあったかいけれど、おバカさんのようだ。

 我が何度も奴隷ではないと言っているのに、いまだに信じようともしない。


 でも、我はこの人間と一緒にいたい。

 もっとたくさん誉めて欲しい。もっとたくさんぽんぽんをして欲しい。


 だが、この人間は一緒に居られないと言う。

 奴隷は買えないとよく分からないことを何度も言っている。

 この人間はおバカさんだから、きっと我の気持ちなど全く分からないのだろう。


(嫌なのだ!嫌なのだ!嫌なのだ!

 我は人間と一緒にいたいのだ!!こ、こうなったら我の力を使ってでも.....)


 そう思っていたのだが.....。


「お前は奴隷じゃない、うん、奴隷じゃない。.....頑張って生きろ!」

「.....」


 人間が本当に困ったような顔をしていたので、心が抉られるような痛く悲しい気持ちになってしまった。

 怒られはしなかったが、きっと今の我は悪い子になっているのだろうと.....。


(一緒に居られないのは、我がまだまだいい子ではないからなのだ?)


 そう思うと、いつまでもわがままを言っている訳にはいかなかった。

 我が悪い子であればあるほど、いつまで経っても人間と一緒に居られないからだ。それに、いつまでもこのあったかい人間の困ったような顔は見たくない。


 だから、我は決断した。


「わかったのだ。我はまた三食昼寝放題の生活に戻るのだ。ご苦労だったのだ」


 人間との()()()の別れを。

 我が人間と一緒に居られるよう、いい子になるまでの別れを。


 ・・・。


 その後、人間から『ありがとう』という魔法の言葉を教えてもらった我は喜びの絶頂にいた。

 そして同時に、これが最後のお勉強だと思うと、悲しくもあり、惜しくもあった。人間とのお勉強だけは楽しくて仕方がないからだ。


 だからこそ、我は思った。


(この人間は我のものなのだ!もう一度、必ず我の元へと来るのだ!)


 そう強く人間に暗示をかけた。

 本来なら、もっと『あれこれをどうしろ』みたいな明確な意思を乗せるのだが、この時の我は純粋に『もう一度この人間に会いたい』という気持ちで溢れていた。


 だからだろうか。

 暗示の結果は意外な形で返ってくることになった。


「だろ?だから.....(ごくっ)、モリオンありがとう」

「我の名前なのだー!」


 この時、我の中で何かがストンっと落ちた。


 今まで600年以上も生きてきて、我の名前なんて父様にしか呼ばれたことがなかった。

 誰も彼もが「姫様、姫様」と、我の名前ではなく父様の娘としてでしか呼んでくれなかった。


 でも、この人間は違った。

 我を1人の人として認め、その上で我の名前を呼んでくれた。


 明確な意思を乗せなかったゆえのたまたまな結果なのだろうが、それでも、これほど嬉しいことはない。

 父様以外の者に名前を呼ばれることが、こんなにも嬉しくて気持ちのいいものだとは思いもしなかった。


(もしかして.....。これが友達というものなのだ?

 この人間、いや、アユムは我の友達になったのだ?)


 我を姫様ではなく名前で呼ぶ。

 まるで我と対等にでもなったかのようなアユムに、今まで母様みたいだと思っていた温かい気持ちとは別に、とても近しい親しみを感じるようになった。


 だからこそ、我もアユムを人間やお前ではなく、名前である『アユム』と呼ぼうと決意した。

 そのほうが友達っぽいし、なによりも、我とアユムが対等な関係であるという証明にもなる。


「アユムもありがとうなのだ!バイバイなのだー!」

「モリオンもありがとな。じゃあな!」


 こうして、我は母様のように温かく、そして、初めての友達であるアユムとほんの少しの間別れることになった。


 再びアユムに会えるのがいつになるのかは分からないが、それでもアユムは必ず我に会いに来てくれる。

 その日まで我はもっといい子になろうと誓うのだった。



(どうやっていい子になったらいいのだ?

 我は分からないのだ。アユムに教えてもらえば良かったのだ.....)



□□□□ ~譲れないもの~ □□□□


 初めての友達であるアユムと一緒に旅に出て結構経った。

 アユムとは毎日一緒に居られて楽しいし、その上、お姉ちゃんまで出来た。こんなに嬉しいことはない。


「よし、えらいぞ、モリオン」

「我はいい子なのだー!」

「よし。よし。(ぽふっ。ぽんぽん)」

「うーん。気持ちいいのだー」


 アユムは毎日、我に色々とものを教えてくれる。

 そして、ちゃんと出来たら誉めてもくれる。すごく嬉しい。


「モーちゃーん、一緒にお菓子たべよー( ´∀` )」

「お菓子おいしいのだ。お姉ちゃんありがとうなのだ!」

「アユムには内緒だよー?うるさいからねー┐(´ー`)┌」

「それ、悪い子なのだ!?」


 一番上のお姉ちゃんはバインバインな上にすごくきれい。そして、とにかく優しい。

 いつもアユムには内緒でこっそりとお菓子をくれる。とは言え、結局アユムにバレて一緒に怒られてしまうが、それはそれで楽しい。


「バカ者!そうではないと言うておるのじゃ!おバカなのは姉さまだけで十分なのじゃ!」

「ご、ごめんなさいなのだ。.....我はよく分からないのだ」

「はぁ.....。これだからトカゲは.....。まぁ、よい。なにが分からぬのじゃ?」

「お姉ちゃん.....。ありがとうなのだ!」


 二番目のお姉ちゃんはとにかく怖くて、とにかく厳しい。我は毎日怒られてばっかり。

 でも、我は知っている。実は二番目のお姉ちゃんが一番優しいことを。我のなんで?に最後まで付き合ってくれるのは二番目のお姉ちゃんだけだからだ。


 我はとても幸せだ。


 アユムやお姉ちゃん達と一緒に旅に出て以降、我の心の中は常に満たされている。

 色褪せていた世界はどこにもなく、見える全ての景色がきれいな色で鮮やかに彩られている。


「モリオンはえらい子だな」

「モーちゃーん( ´∀` )」

「トカゲはもう.....。仕方のないやつじゃな」


「なのだ!」


 この幸せだけは何が何でも壊させる訳にはいかない。

 再び、あの色褪せた世界に戻るのだけは絶対に阻止したい。



(この幸せを壊す者、我から奪う者には容赦しないのだ!)



□□□□ ~女神(悪魔)のささやき~ □□□□


『GYAAAAAAAAAAAAAAA!!』


 我の前に立ちはだかる1匹のドラゴン。

『フォボス』という全く知らないドラゴンだが、臭いだけはハッキリと覚えている。そうなると、昔、会ったことがあるドラゴンだろう。


 だからこそ、我は許せない。


 同族であるドラゴンが、なぜ我の幸せを奪おうとするのか.....。

 同族であるドラゴンが、なぜ我の友達であるアユムを殺そうとするのか.....。


 我は元々あることをアユム達に任されていた。

 しかし、我はお姉ちゃんから全てを聞いて、事実を知ってしまった。


「ねぇー、ねぇー。モーちゃーん。聞いてー、聞いてー( ´∀` )」

「なんなのだ?」

「アドバイスしてあげるー!みんなには内緒だよー?」

「内緒.....なのだ?」


 お姉ちゃんがアユム達に聞こえないよう、小さな声で我の耳にささやいた。

 それにしても、このお姉ちゃんは本当にきれいで、声もかわいい。我の憧れの女性だ。


「あのドラゴンちゃんはねー、モーちゃーんの敵だよー」

「敵.....なのだ?どういうことなのだ?」


 アユム達と言っていることが全然違う。

 仮にお姉ちゃんの言葉が正しいのなら、アユム達に頼まれた事は間違っているのではないだろうか。


「このままだとー、いずれ歩は死んじゃうよー?あのドラゴンちゃんが歩を殺しちゃうからねー」

「そ、そうなのだ!?.....で、でも、アユム達は大丈夫だって言ってたのだ」

「だいじょーぶじゃないからー、あのドラゴンちゃんは怒ってるんでしょー(・ω・´*)」

「.....」


 言われてみれば、フォボスというドラゴンの言葉1つ1つが非常に荒々しい。

 興奮.....と言うか、お姉ちゃんの言う通り、怒っているようにも見受けられる。


「いいー?よく聞いてねー」

「わ、分かったのだ」

「もしもだよー?もしも歩が死んじゃったらー、モーちゃーんはどうなっちゃうのー?」

「!?」


 お姉ちゃんからもたらされた衝撃の問いかけ。

 考えてもいなかったことだ。


 我はこのままずっとアユムやお姉ちゃん達と一緒だと思っていた。

 それが当たり前であり、そうなっていくものだと勝手に思っていた。


 しかし、仮にお姉ちゃんの言う通り、アユムが死んでしまったらどうなるのか.....。


「アユムが死んだらどうなるのだ!?お姉ちゃん達とは一緒に居られないのだ!?」

「そりゃー、居られないでしょー」

「!!!.....な、なんでなのだ!?お、お姉ちゃんは我が嫌いなのだ!?」

「ううんー。モーちゃんのことは好きだよー( ´∀` )」


 我のことが好きなら、仮にアユムが死んでも一緒に居ていいはずだ。

 もちろん、アユムのことも好きだから、アユムは死なないほうが一番いいのだが.....。


「あのねー、よく聞いてねー」

「わ、分かったのだ」


「みんな歩のことが好きだから一緒にいるんだよー(・ω・´*)

 でもねー、その歩が死んじゃったらー.....」

「み、みんなバラバラになるのだ?」


「そうなっちゃうかもねー」

「.....」


 愕然とした。


 我もアユムが好きだから一緒に居たいと思ったし、一緒に旅にも出ることにした。

 そして、それは何も我だけではなく、お姉ちゃん達もそうだという。


 我達の共通の繋がりは『アユム』なのである。

 そのアユムが死ねば、共通の繋がりもなくなるのは当然だとお姉ちゃんはささやく。


(アユムは死んじゃいけないのだ!アユムを殺させちゃいけないのだ!

 アユムを殺そうとするものは.....、我の幸せを奪おうとするものは.....、我の敵なのだ!!)


 そうなると、この結論に辿り着くまでにそう時間はかからなかった。

 そんな我の心を知ってか知らずか、お姉ちゃん(悪魔)のささやきはどんどんエスカレートしていく。


「ねぇー。わかったでしょー?あのドラゴンちゃんは敵だってー」

「分かったのだ!あいつは我の敵なのだ!お姉ちゃん、ありがとうなのだ!」


「いいよー、いいよー。あーははははは( ´∀` )

 それでー?敵だと分かったらどうするのー?このままだと歩は殺されちゃうよー?」

「そ、そうなのだ!ど、どうしたらいいのだ?」


 お姉ちゃんの言う通りだ。

 このままだと我の幸せが奪われてしまう。何とか手を打たないと.....。


 この時の我はそのことで頭がいっぱいで、アユム達の頼み事など既に頭から抜け落ちていた。

 そして、お姉ちゃんの言うことが全てであり、正しいとさえ思っていた。


「私の作戦覚えてるー(。´・ω・)? 」

「お姉ちゃんの作戦.....。さっき、アユムにダメって言われていたやつなのだ?」

「そーそー。それならー、モーちゃんはいつまでも幸せでいられるよー( ´∀` )」

「われ.....の.....しあ.....わせ.....」


 黒い感情が心の中を駆けめぐる。


「どうするのー?歩達の作戦を選べばー、モーちゃんはまた1人ぼっちだよー。

 でもー、私の作戦を選べばー、モーちゃーんはこれまでどーりー、みーんなといっしょー」

「みん.....な.....と.....いっしょ.....」


 お姉ちゃんの心地好い言葉が、我の体をどんどん蝕んでいく。

 我の意思など関係なく、お姉ちゃんの言葉が正しいのだと扇動されていく。


「悩む必要なんてー、考える必要なんてないんだよー┐(´ー`)┌」

「.....?」


「あのドラゴンちゃんはモーちゃんにとってなにー?」

「.....あいつは我の敵なのだ」


「モーちゃんの幸せを奪うのはだれー?」

「.....あいつなのだ。あいつがアユムを殺そうとするから悪いのだ」


 そうだ。

 全部あのドラゴンが悪いんだ。


 あのドラゴンがいるから悪いんだ.....。


「ほらー!簡単じゃーん!

 敵でありー、悪い子はどうしたらいいのー?どうしたらモーちゃんはあんしんー?」

「敵は殺すのだ!悪い子は殺すのだ!我の敵はみんな殺すのだ!!」


 そうだ。

 全部あのドラゴンが悪いんだ。


 あのドラゴンがいるから悪いんだ.....。

 あのドラゴンが生きているから悪いんだ.....。


「じゃー、殺しちゃいなよーΨ(`▽´)Ψ

 私の作戦ならー、それができるんだよー!

 他の誰でもないモーちゃんにしかできないことなんだよー!」


 お姉ちゃんの後押しをきっかけに、我の中で殺戮の意思が強固なものとなった。

 それと同時に、ドラゴンの中に眠る冷酷で残忍な血が沸々とたぎり、めきめきと体全体に力が沸いてくる。そのせいか、無性に破壊活動をしたくなった。


(我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ。我の敵は殺すのだ)


 我の頭の中はそのことでいっぱいだった。

 我の友達であるアユムを殺そうとする愚か者を、我の幸せを奪うとする愚か者を、とにかく殺してやりたい気持ちでいっぱいだった。


 そして───。


『GAAAAAAAAAAAAAAA!!』


 その感情の(たかぶ)りが、我を1匹の黒死竜(ドラゴン)へと誘うことになった。


「モリオン!?いきなりどうした!?」

「トカゲ!?いきなりどうしたのじゃ!?」

「え?え?え?.....あ、あの獣人の子がドラゴンに!?」


「あーははははは!やっぱりモーちゃんはおっきーねー( ´∀` )」



 こうして、アユム達が驚き慌てている中、我はお姉ちゃんの作戦を実行すべく、憎き敵の元へと近寄るのだった───。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『モリオン』 レベル:1 危険度:極小


種族:竜族(黒死竜)

年齢:660

性別:♀


職業:ー

称号:竜族の姫


Lv.1(人間ver.)  Lv.1(竜ver.) 

体力:20000    体力:40000

魔力:21000    魔力:42000

筋力:22000    筋力:44000

耐久:22000    耐久:44000

敏捷:21000    敏捷:42000


加護:『捕食』Lv.1 1/1

   『魅了』Lv.1 1/1

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次回、本編『次こそ5.5章終話』!


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