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第154歩目 vs.兄貴竜!正統勇者の実力②

前回までのあらすじ


キャベツさん、大活躍!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


2/12 世界観の世界編!に一部追記をしました。

   追記箇所は、『正統勇者十傑』の王・張雛と『血の契約』と『世界の倫理観』の⑪・⑫となります。


□□□□ ~キャベツさんの加護!~ □□□□


───ガキィィイイイン!


 戦場に響く金属音。


【『‎normal!』キャベツさんがダメージを50%軽減しました】


 脳内でアナウンスされる衝撃の事実。


「.....くっ!」


 初めて歪んだ表情を見せるキャベツさん。



 いま俺達の目の前では、5匹の青き水竜と1匹の()()海竜が怒り狂ったように暴れている。

 そして、その全ての攻撃を一身で懸命に防いでいる鉄壁の勇者。


『『『『『GAAAAAAAAAA!』』』』』


 そんな忙しいキャベツさんの状況などお構いなく、苛烈に攻め立てる5匹の青き水竜。

 その動きは先程まで見事に統率されていたものは異なり、ただただ我を忘れて暴れているようにしか見えない。


───ガキィィイイイン!


【『perfect!』キャベツさんが完全防御に成功しました】


 しかし、ここは見事に攻撃を防いだキャベツさん。さすがだ!

 キャベツさんの表情からは余裕さえ見てとれる。


 だが───。


『GAAAAAAAAAAAAAAA!』


 今度は自分の番だとでも言っているかのように咆哮をする1匹の赤き海竜。

 とは言え、正確には言っていることは違うのだが.....。


───ゴォォオオオオオ!


 光り輝く白きブレスが猛然とキャベツさんを襲う。

 当然、キャベツさんの加護『Ridicule(嘲笑)』、所謂ヘイト管理の御技によって攻撃対象が俺からキャベツさんに変更されたものだ。


 そして、キャベツさんはなんてことのないように完璧にこれを防ぐ.....。


───ガキィィイイイン!


【『‎normal!』キャベツさんがダメージを50%軽減しました】


「.....くっ!」

「キャベツさん!」


 いや、完璧に防ぐことは出来ずにダメージを負ってしまった。

 どうやら水竜達の攻撃は完全にいなせるようだが、海竜の攻撃はそうもいかないらしい。


「だ、大丈夫さ。そこまで深いダメージではないよ」

「やはり厳しいですか?」

「ほぼ同等ともなると楽にはいかないものだね」

「ま、まぁ、誰でも初見はそんなものですからね.....」


 キャベツさんの加護である『Action(リズム)』は、キャベツさん曰く、まんま音ゲーのそれらしい。

 問題ないと思うが、もし音ゲーを知らない人がいたら、ゲームセンターにある太鼓の達人を想像してもらえればいい。あれと同じようなものだ。


 つまり、キャベツさんは戦場でドラゴン相手に音ゲーをしているということになる。

 但し、失敗するとダメージを伴う嫌な音ゲーだが.....。


 5匹の水竜は明らかに格下となるので、よそ見さえしなければ完全に防げるらしい(berry easyモード)

 しかし、海竜だけは同等または格上らしく、リズムを取るのに苦戦しているようだ(berry hardモード)

 それでも全く防げないようではないので、後は「(体を張った)練習あるのみさ」とキャベツさんは悠然に語っていた。きつい練習だなぁ.....。


「僕のことよりも君の方はどうなんだい?」

「いえ.....。何度も話し掛けてはいるのですが、全く耳を貸してはくれなくて.....」


「そうか.....。残念だ。

 君の言葉を信じるなら、もしかしたら話し合いで解決できるかもと思ったんだがね」


 キャベツさんがハァ.....と溜め息を一つ。その表情も本当に残念そうだ。

 キャベツさんに体を張った協力までしてもらったのに力不足で申し訳ない。


 そう、俺は今までドラゴン達に、.....いや、赤き海竜に話を聞いてもらえるようずっと説得を試みていた。

 なぜそんなことをしているかというと、あの時の海竜の悲痛な叫びがどうしても気になったからだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『やっと見つけた.....。お前だ。お前達だな?我が弟を殺したのは!!

 我が弟の無念、恨み。そして.....親父ィの悔しさを今ここで晴らす!覚悟しろォ!人間(ゴミ)どもがァ!!』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 始めは俺が倒したドラゴンのことかもと思ったが、どうやらそうではないような気がする。

 もちろん、俺が倒したドラゴンのことについても怒っているかもしれないが.....。HAHAHA。


 そこで、この真実をキャベツさんに伝えたところ.....。


「君はドラゴンの言葉が分かるのかい!?」

「.....あっ!」


 迂闊だった。

 普通の人間がドラゴンの言葉を理解できるはずなどない。


 俺だって最初はそうだった。

 モリオンと『血の契約』をして、始めて理解できるようになったのだから。


 だから、キャベツさんには大層怪しまれた。

 申請魔法の件でもポカをやらかしてしまっているので、それはもうものすごく.....。


 だが───。


「さすがは竜殺し君といったところだね。相手を知らずして竜殺しの異名は名乗れないか」

「あ、ありがとうございます.....」


 キャベツさんがアホの子で助かった。

 勝手に納得して持ち上げてくれる分には不都合はない


「.....とは言え、君がどうやってドラゴンの言葉を得たかについては今は敢えて詮索しないようにしよう」

「.....」


 全然アホの子じゃなかったぁぁあああ!


 キャベツさんの興味津々な視線が痛い。

 俺は冷や汗で背中がびっしょりだ。


 とりあえず、キャベツさんの恩情に甘えつつ事情を再度説明する。

 すると、意外なところから海竜の悲痛な叫びの原因が判明することになった。


「その弟?のことかは分からないが.....。

 君も城壁が何者かに破壊された件については知っているだろう?」

「はい。そのことならばセシーネさんに聞きましたが、それがなにか?」


「なら君も知っているはずだ。破壊された城壁の側に巨大な生物がいたことを」

「えぇ。それも聞いています。.....え?ま、まさか.....」


「詳細は定かではない。

 でも、もしかしたらその巨大な生物というのが、君とドラゴンの言う弟だったのかもしれないね」


 モぉぉおおおリオぉぉおおおン!


 思わず、そう叫びそうになってしまった。

 きっと、あの時のブレスが原因に違いない。(※第149歩目参照)


 下手したら、今回のドラゴン襲撃の一連の原因は全て俺達にあるのではないだろうか。

 もし俺達がドラゴンの弟さえ殺さなければ、或いはドラゴンの襲撃そのものが無かった可能性すらあり得る。


(お、俺達が原因なのか?俺達のせいで多くの人が亡くなってしまったのか?

 俺達が.....。俺達が.....。俺達が.....。俺達が.....。俺達が.....。俺達が.....。俺達が.....)


 まだ俺達が原因だと確定した訳ではないが、それでも罪悪感に(さいな)まれてしまった。

 犠牲になってしまった人達や傷付いたり迷惑をかけてしまった人達、そして弟を失ってしまったドラゴン達にも申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


 救国救民を掲げる俺達の正義は間違ってはいない。

 しかし、弟の仇を討ちたいという正義を掲げるドラゴン達の気持ちもまた間違いないではない。


 だから俺は決意した。


 この不毛な戦いを一刻も早く終わらせようと.....。

 俺達が原因で始まってしまった(かもしれない)悲しい連鎖を平和的に断ち切ろうと.....。


「俺がドラゴンを説得してみようと思います!」

「正気かい!?」


 驚くキャベツさんだが、俺の意思は固かった。

 俺達が原因かもしれないなら、俺が責任を持って解決すべきだ。


 ゆえに、俺はキャベツさんの協力のもと、ドラゴン達に説得を試みた。


「話を聞いて欲しい!」



 ・・・。



 そして、結果は失敗に終わったということだ。



□□□□ ~正統勇者の特権!~ □□□□


 説得を試みるも効果はなく、ドラゴン達の攻撃はますます激しさを増していく。

 これを一手に引き受けているキャベツさんの苦労を鑑みれば、説得行為自体を考え改める必要があるだろう。


「例え原因が人間側にあるとしても、迫り来る脅威をそのままにしてはおけない。

 例え敵討ちだからと言っても、それで無関係な人々が巻き込まれるのは放ってはおけない」

「はい」


「僕達勇者はただ迫り来る脅威を払うことに専念すればいい。

 正義とは平等ではないように公平でもない。理不尽だろうが、ドラゴンどもは僕達の敵だ」

「.....」


 キャベツさんがハッキリと「ドラゴンは敵だ」と宣言した以上、この戦いはどちらかが倒れるまで続くことが決定した。

 そして戦う以上は、例え俺達に非があろうとも負ける訳にはいかない。


「君がそこまで気にかけることではないよ。君は一度は誠意を見せたんだからさ。

 いくら暴走しているとは言え、全く話を聞こうともしないドラゴンどもも十分に悪い」


 そう、キャベツさんの言う通り、一匹の()()海竜は現在『暴走』状態にある。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『兄貴竜』 レベル:4000(SS) 危険度:特大


 状態:暴走(※全ステータス1.5倍)


 体力:63000(通常時:42000)

 魔力:67500(通常時:45000)

 筋力:69000(通常時:46000)

 耐久:61500(通常時:41000)

 敏捷:57000(通常時:38000)


【一言】.....にへへ.....コーンチャーン.....(^-ω-^)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 もともとこの海竜は、姿を現した時点では深い青色の鱗に覆われていた。

 しかし、弟の仇が俺達だと判断した途端に、鱗が赤みを帯びていき、しまいには一匹の赤き竜へと変貌を遂げてしまった。


 所謂、逆鱗に触れてしまったというやつだろう。

 それも『暴走』という初めて見る状態のおまけ付きで.....。


 これにはさすがのキャベツさんもびっくりしたようで、息を飲んでいる音がハッキリと聞こえた程だ。


「それにしても.....。あれは美しくないものだね。例え怒ろうとも、あぁはなりたくないものだ」

『GAAAAAAAAAAAAAAA!』


 暴れ回る赤き竜を見て、呆れたような、憐れむような、そんななんとも言えない視線を向けるキャベツさん。


 この『暴走』状態は読んで字の如く暴走している状態を指す。

 つまり、海竜は完全に自我を失ってしまっているということだ。


 なので俺の説得に耳を貸さないばかりか、水竜達への指示すらも疎かになり、結果、海竜だけではなく水竜までもが好き勝手に暴れ回ってしまっているという訳だ。


 だから説得は困難、.....いや、不可能に近い。

 事ここに至って、俺も覚悟せざるを得なくなってしまった。


「では、当初の予定通り、僕が全ての攻撃を引き受ける。

 その間に君はドラゴンの数をどんどん減らしていって欲しい」

「分かりました」


「これを君に渡しておこう。役立ててくれ」

「これは?」


 キャベツさんから渡されたのは、かわいらしいリボンであしらったおしゃれな瓶だ。.....くっ!センスいいな!!

 中にはなにやら無色透明な液体が入っている。


「これは魔力回復薬だよ」

「ちょっ!?マジですか!?」


 俺は腰を抜かさんばかりに驚いた。

 渡された()()()()()()()()()を危うく落としてしまいそうになるほど、それはもうかなり.....。


 キャベツさんはその様子を見てしたり顔。


(は、初めて見た.....。

 い、いや.....。ま、まさか存在するものだとは正直思わなかった.....)


 この世界には、なぜかファンタジーものなら定番の回復薬というのが全く売られていない。

 勇者が作った物を多数扱う、あの高級店である魔道具店ですら売られていない程だ。


 だから『体力の回復』は自然回復または食料摂取、もしくは回復魔法で行い、『魔力の回復』は自然回復のみで今まで過ごしてきた。


「こ、ここここれが回復薬.....」

「いやいや。回復薬ぐらいで、ちょっと大げさじゃないかい?」


 な、なに言ってるんですか!


 感動で、感激で、興奮で、アドレナリン全開で、俺の手が震える。

 今もなおドラゴンの苛烈な攻撃が続いているが、そんなことは頭からスパーンと抜け落ちてしまった。.....とは言え、俺が防いでいる訳ではないが。


 俺は俺自身の弱点をよく理解している。

『付き人』であるおかげで勇者とは異なりスキルの取得に制限がない一方、『勇者』ではないせいで魔法の仕様に重大な欠陥がある。(※第94歩目参照)


 ゆえに強力な魔法を得ても、それを十分に使いこなせていない。

 いい例がレベル3魔法で、本来俺のようにステータスが10000近くもあれば、勇者は余裕で十発以上撃てるらしい。


 しかし、俺はかなり無理をしてなんとか5発撃てるかどうか.....。通常は4発が限界だ。

 更にレベル4魔法ともなると、魔力全快状態で1発撃てるかどうか怪しいレベルにまでなる。


 だから俺は様々なスキルを取得できるゆえに便()()()()()()()()()()()


 そこで考えたのが、所謂『ポーション無双』ならぬ『回復薬無双』だ。

 魔力が尽きたなら補充しまくればいいじゃない!の精神でとにかく回復薬を探し回った。


 探して、探して、探しまくった。

 足が棒になるほど探し回って、そして絶望した。どこにも売っていないからだ。


 だから、この世界には存在しないものだと思っていた。

 管理者がいい加減な女神だから、こういうこともあるのだろうと勝手に納得して.....。


 これは後にラズリさんの手紙で知ることになるのだが、実は回復薬は作ってはいけないものらしい。

 正確には専売ものとなっているらしく、製造できる人が限られていて、しかも入手できる人も制限されているのだとか。


「ど、どうして、これをキャベツさんが!?」

「正統勇者だからさ。まぁ、それに十傑でもあるしね」

「ど、どういうことですか?」

「回復薬は正統勇者のみ持つことを認められた特別な薬なんだよ」


 キャベツさん曰く、『全勇者特別機構』にて、そう決められているらしい。

 そして、正統勇者としての活動をしている者のみに支給され、特に十傑に関しては優先的に融通されるものなのだとか。


 しかし、なぜそのような取り決めがなされているのか。

 とても便利なものだし、生産できる目処がついているのなら、どんどん生産すべきだと思うが.....。


 俺のその疑問を、キャベツさんがドラゴンの攻撃を防ぎながら答えてくれた。

 よそ見さえしなければ防げるなんて、キャベツさんの加護は本当に優秀だなぁ.....。羨ましい!


「簡単に言えば、世界のバランスを保つ為だね」

「世界のバランス.....ですか?」


 おおぅ.....。

 たかが回復薬のことなのに、話が一気に大きくなった。


「もともと、この世界にはなかったものだからね。

 逆に言えば、なくてもなんとかなっていたのがこの世界だ」

「はぁ.....?」


「要は『働きすぎるな!』ということさ。君ら日本人は働きすぎるからね」

「うっ.....」


 耳が痛い。


 確かに日本人が働きすぎているというのはよく耳にする。

 イギリス人であるキャベツさんがそう言うのだから事実なのだろう。


 しかし、それとこれとは話が違うような.....。


「同じことさ。君も知っているだろうが、魔物だって夜は寝る。

 となれば、魔物が寝ている間に僕達も体力や魔力を回復することができるという訳だ。

 だったら、回復薬なんてものはいらないだろう?あれはそういう機会がなかなか取れない時に使うものだし」

「それはそうでしょうが.....。こういう強敵戦の時とかにも使ったりしますよね?」


「それこそ正統勇者の出番だろ?」

「いえ、正統勇者に限らず、冒険者ならばそういう機会があると思いますが.....」

「それは自業自得だね。己の力量も(わきま)えずに強敵に挑むのが悪い。戦いはゲームじゃないんだ」


 音ゲーの加護を持つあなたが言いますかぁ!?

 盛大なブーメランのような気もするが、キャベツさんは至って真面目だ。


「十分な安全マージンを取って戦うことは、冒険者にとっては当然の責務だ。

 そして、その目算を見誤ったのならば覚悟を決めるのもまた、冒険者にとっての当然の心構えでもある」

「厳しいですね」


「でも、そうだろう?」

「その通りです」


 キャベツさんの言葉を借りるなら、戦いはゲームじゃないということだ。

 死んだらそこまで。リセットはできない。勇者であっても死にはするのだから、十分に注意することは当然の責務となる。


 つまり、キャベツさんはこう言いたいらしい。


 自前の体力や魔力だけで出来ることをやればいい。

 そもそも、回復薬を使わないといけないような場面に首を突っ込むな。

 仮にそういう場面に出くわしてしまったら、それはお前が悪い。その時は覚悟を決めろ、と.....。


 正論だ。

 あまりにも正論過ぎる。ぐぅの音も出ない。


 そして、確かに回復薬なんてものがあったら、多少無理をしてでも稼ぎに出たり、レベル上げに勤しんでしまうかもしれない。

 これは日本人ならそうするだろう(現に俺はしようとしてた!)し、もしかしたら現地人であってもしてしまう可能性がある。


(.....なるほど。だから世界のバランスを保つとはそういう意味なのか.....)


「わかったかい?だから回復薬を持つ者は限られるという訳さ」

「分かりました。.....でも、それなら俺に渡してもいいんですか?」

「僕にはもともと必要のないものだし、なによりも君の方が必要だろう?」


 仰る通りで.....。

 調子に乗ってレベル3魔法を連発してしまったせいで、実は少しふらふらする。


「そういうことなら遠慮なく頂きます」

「そうしてくれ」


 キャベツさんのお言葉に甘えて、早速魔力回復薬を頂く。


───キュポ!


 かわいらしいリボンであしらったおしゃれな瓶の蓋を開けると、鼻をくすぐる柑橘系の爽やかな匂い。

 この匂いからしてオレンジかな?ちょっとわくわくする。


───ごくごくっ。


 そして、中身を一気に飲み干す。


 うまい!

 喉越しはスッキリで、実においしい()()()()でした。


 ・・・。


「なんでリンゴ味!?匂いはオレンジなのに!」

「はっははははは!その反応を彼女は見たかったんだろうね。彼女はどっきり好きだからさ」

「彼女?」

「そうさ。それを作ったのは回復薬製造の第一人者であり、十傑の一人でもある王・張雛(ワン・チャンスー)なのさ」


 ほほぅ~。


 さすがは十傑と言うべきか。

 この世界にないものを作り出すあたりがなんともすごい。


 そう十傑に感心していたら.....。


「まぁ、僕の奥さんなんだけどね」

「あんた、そればっかりだな!?」


 一気に萎えた。

 せっかく十傑に憧れていたのに、こういうところで落としにくるのは本当に勘弁してもらいたい。


「好きな味があるなら、(チャン)に伝えておこう」


 どうでもいいわっ!


「.....ちなみに、どんな味があるんですか?」

「大体のものなら用意できるはずさ。仮になくとも、僕が頼めば張は頑張るだろうしね」


 うわ.....。

 ラヴラヴアピールがウザすぎる.....。



 とりあえず、俺の好みを伝えて今後に期待することにした。

 それとは別に、キャベツさんからは計50本の魔力回復薬をもらうことに.....。と言うか、多過ぎ!


「はっははははは!張が心配してね。

 いつもこっそりと多めに渡してくれるんだよ。僕は使わないと何度も言っているのにさ」

「.....」


 奥さん、職権濫用では?


 しかし、少なすぎて困ることがあっても、多すぎて困ることはない。

 ここはありがたく頂戴しよう。


 そして、一区切り着いたところで、それはきた。


───ガキィィイイイン!


【『perfect!』キャベツさんが完全防御に成功しました】


「よし。ようやくコツを掴んだ。.....そろそろこの戦いも終わりにしようか」

「さすがです!キャベツさん!!」


 どうやら、暴走状態にある海竜の攻撃すらも完璧に凌げるようになったようだ。

 会話中もずっと挑戦し続けてきた成果がここにきてようやく実ったらしい。お疲れ様です!


「愛するセシーネが待っている。竜殺し君、頼んだよ?」

「張さんはどうした!?」



 こうして回復薬無双を始めた俺の快進撃が続き、この不毛な戦いはようやく最終局面へと突入していくことになった。



次回、本編『決着 兄貴竜』!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


今日のひとこま


~張さんはどんな人?~


「それにしても、十傑の中にも奥さんがいるなんて驚きました」

「はっははははは!当然だろう?僕は全ての女性の味方なんだからさ」

「はぁ。そうですか。まさか他にもいるんですか?」

「十傑の中にかい?十傑の中なら張だけだ。他にも女性はいるのだが.....。

 みんな照れ屋さんみたいで、サキちゃんのように一筋縄ではいかないんだ」


みんな照れ屋って、どんだけ前向きだ!?


「チャ、張さんはどんな感じの人なんですか?」

「美しいよ。そして、とても研究が好きだ。まぁ、僕の次ぐらいだがね。はっははははは!」

「(う、うぜぇ.....)ど、どれほど美しいんですか?気になります」

「そうだね。クレオパトラや楊貴妃も顔負けなぐらいかな?」


昔の美人と比べられてもわかっんねぇ~。


「あぁ、ただね。美しくなったのは最近のことなんだよ」

「どういうことですか?」

「出会った当初の張はそれはもうみすぼらしかったんだ。研究以外には興味がないって感じでね」

「へ~。研究肌な人なんですね」


「髪はボサボサ、シャワーも浴びず、衣服も汚れ放題で驚いたね。そうそう、体臭も酷かった」

「そ、それはまた.....。よくそんな人とお付き合いできましたね?」

「女性だからだよ。僕からすれば、女性というだけで付き合う価値がある」

「.....」


究極の女好きと言えばいいのか。

究極の誠意者と言えばいいのか。


「プロポーズした後は張の用事などお構いなくデートに誘ったね」

「いきなりプロポーズっ!?」

「はっははははは!当然だろう?僕はいつでも真剣に付き合っているのだからさ」

「す、すごいですね.....」


「始めは張も照れていたようで、かなり苦労したよ」

「それ照れていたんじゃなくて、嫌がってませんでした?」

「そんな訳ないさ。僕が好意をぶつけていたんだ。張もそれに応えてくれていたに違いない」

「.....」


あぁ、これは完全に人の嫌悪を感じ取れない人ですわぁ.....。


「その後、張も恋の研究に勤しんだみたいで、気付いたら美しい女性に変貌していたよ」

「恋の研究ってなに!?.....と言うか、気付いたら変貌っておかしくないですか?一緒にいたんですよね?」

「いやいや。僕はこれでも忙しくてね。張とは5日ぐらいしか一緒にいれなかったんだ」

「5日で張さんを落としたの!?あんた、凄いな!?」


「愛を育むのに時間は関係ないさ。お互いの心と心が通じあえば、それこそ1日でも十分だ」

「い、1日?それだとお互いのことを知れないのでは?」

「何を言っているだい?お互いを知っていくのは後でもいい。いや、むしろ後がいい」

「ど、どういうことですか?」


「だって、そうだろう?お互いを知っていく楽しみを共に共有できる訳だ。こんな素晴らしいことはないよ」

「お、お互いの嫌な点とかが見つかったらどうするんですか?」

「嫌な点?なんだいそれは?愛すべき点の間違いでは?」

「.....」


究極の愛とはこういうことをいうのだろうか.....。

例え女性好きであっても、ここまで極めているのであれば、むしろかっこよく見える。


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