第153歩目 vs.兄貴竜!正統勇者の実力①
前回までのあらすじ
正統勇者、しかも十傑に出会った!
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結構長めです。
それと『Caswell・Baerwaldt・Zeisler』のステータスを一部掲載しています。
□□□□ ~勇者キャベツの実力!~ □□□□
「はっははははは!甘い!甘い!
その程度の攻撃じゃあ、僕の盾は貫けないよ!」
戦場にキャベツさんの笑い声がこだまする。
いまこの戦場において、キャベツさんほど輝いている存在はいないだろう。
「そっちの様子はどうだい?」
「間もなく終わります。もう少し頑張ってもらってもいいですか?」
「お安いご用さ。任せたまえ」
言葉が終わるや否や、その場から一歩も動かずに盾を構えるキャベツさん。
その背中はあまりにも自信に満ちていて、そして、あまりにも頼もしすぎる。
一方───。
『GAAAAAAAAAAAAAAA!』
襲撃してきた七匹のドラゴンの内、いまだ姿が確認できない指揮官だと思われる一匹のドラゴンが吼える。
すると、その合図とともに攻撃対象を変更する六匹のドラゴン達。
「「「「ひ、ひぃぃぃぃぃ!?」」」」
どうやらキャベツさんを難敵と判断したらしく、キャベツさん以外の冒険者を攻撃対象にしたようだ。
さすがはドラゴンと言うべきか、その一糸乱れぬ統率力に脱帽する。
『『『『『『GAAAAAAAAAA!』』』』』』
そして、六匹のドラゴンから同時に放たれる赤と青のブレス。
全てを灰塵と化す灼熱の炎。
あらゆる物を極寒の地へと誘う凍てつく冷気。
そんな氷炎一体となった凶悪なブレスがいま、冒険者達をまるで羽虫を嘲笑うかの如く飲み込むように襲う。
「「「「う、うわぁぁあああ!!」」」」
・・・。
そう、本来なら襲うはずだったのだが.....。
「安心したまえ。僕に守れぬものはなし。『Ridicule』」
キャベツさんがそう唱え終わると同時に体全体がまぶしく輝き出す。
すると、どういうことだろう。
先程まで冒険者を襲うかに見えた6つの凶悪なブレスが、全てキャベツさんに向かっていくではないか。それもとても不自然な動きをして.....。
『『『『『『GA!?』』』』』』
「はっははははは!つれないじゃないか。言っただろう?僕は全ての女性の味方さ。
それは例えメスであっても変わらない。僕に振り向いてくれないと言うのなら振り向かせるまでさ」
お前は秀吉かっ!
でも、かっけえええええ!
異常な状況に驚く六匹のドラゴンと髪をかきあげ己の正義を泰然自若に語るキャベツさん。
メスですらも女性だと言い切るあたりが本当にかっこいい。
そう、確かにかっこいいのだが.....。
ここを無事乗り切れた場合は注意しようと心に誓った。
もしキャベツさんに、アテナやドール、モリオンを口説かれたらたまったものではない。
───ゴォォオオオオオ!
俺がそんな呑気なことを考えている間に六つの凶悪なブレスがキャベツさんを襲う。
ぶっちゃけ、ドラゴン1体1体はそこまで弱くはない。
その弱くはないドラゴンのブレスが六つも一体となっているので、本来なら危機的状況ではある。
例えるなら、正義の味方がよく「みんなで力を合わせるよ!」とか言って、それぞれの技を繰り出すシーンを想像してみて欲しい。
今まさにそれが目の前に迫っていると言う訳だ。
そして、それだけドラゴンの統率が見事に取られているとも言える。
そう、本来なら危機的状況ではあるのだが.....。
───ガキィィイイイン!
【『perfect!』キャベツさんが完全防御に成功しました】
脳内でアナウンスされるシステム音。
『『『『『『GA!?』』』』』』
「おぉ!またですか!」
そして、再び異常な状況に遭遇して驚く六匹のドラゴンと危機的状況をノーダメージで回避した事実に感嘆する俺。
「はっははははは!昔から音ゲーは得意だったからね!当然の結果さ!」
先程からずっとこの繰り返しだ。
しかも、キャベツさんはその場から一歩たりとも動いてはいない。
それなのにドラゴン達の全ての攻撃をものの見事に完封してしまっている。
俺とキャベツさんが戦場に到着してからの被害は、いや、キャベツさんが戦場に立ってからの被害はここまで0だ。むしろプラスになっているとさえ言える。まぁ、これは俺の力によるところだが.....。
「ドラゴンどもは僕に任せて、君は君にしか出来ないことを優先したまえ」
「はい!もう少しお願いします!」
「はっははははは!お安いご用さ。
さぁ、ドラゴンども。嫌でも、もう少し僕に付き合ってもらうよ?」
そして再び、その場で盾を構えるキャベツさん。
正統勇者十傑の一人。席次八席『鉄壁の勇者』。
Caswell・Baerwaldt・Zeisler。通称キャベツさんの真骨頂、ここに極まれり!
□□□□ ~勇者は常に冷静であれ!~ □□□□
冒険者達に遅れること数分。
俺とキャベツさんもようやく戦場に着いた。
しかし.....。
「ッ!」
俺はあまりに酷い凄惨な光景に思わず息を飲んでしまった。
一言で例えるのなら地獄絵図。
この世の地獄とさえ言ってもいい光景がそこには広がっていた。
美しい景観を誇っていた自然が今は見るも無惨な姿となり、埃にまみれ廃墟と化した建物。
それに死屍累々と積まれ、腐臭を放つ人間だったものの成れの果て。
更には出血おびただしく、いまだ死にきれずに苦しみもがく多くの住人や冒険者達。
「.....!」
俺も山賊などで『人の死』というものに何度か立ち会ってきたが、これは.....。
「.....し君!」
これが現実。これが異世界。
異世界で暮らしていくということはこういうことなのか.....。う、うぅ.....。た、立ち眩みがする。
そんな心が弱りかけていた俺に届いた一つの声。
「竜殺し君!」
「.....はっ!す、すいません」
「意識をしっかり保ちたまえ。僕達勇者が冷静にならないでどうするんだ」
先輩勇者からの厳しいアドバイス。
確かにキャベツさんの言う通りだ。
俺が怯んでいたのでは話にならない。とは言え、俺は勇者ではないのだが.....。
「戦況をどう見る?」
「やはり不利ですね」
「違う。味方が不利なのは戦う前から君も百も承知なはずさ。
僕が尋ねているのはドラゴンどもについてだ。君はどう見る?」
キャベツさんの真面目な雰囲気にビシッと気が引き締まる。
ほんの少し前までのおちゃらけていたキャベツさんとは異なり、今はまるで別人。
これが現役の勇者の姿ということか。めっちゃかっこいい!憧れるぅ!!
キャベツさんに再度指摘される前に改めて戦場を窺う。
『『『『『『GAAAAAAAAAA!』』』』』』
我が物顔で暴れまわっているドラゴンは全部で六匹。
複数と言っていたから、これで全てだろう。
そう判断していたら.....。
『GAAAAAAAAAAAAAAA!』
一際大きい咆哮と同時に、縦横無尽に暴れまわっていた六匹のドラゴンの動きが変化した。
大きい咆哮をした物体の姿は確認できないが、どうやら指揮官みたいなものが存在することだけは確からしい。
「その通り。ドラゴンは全部で七匹。さすがだ」
「いえ、これぐらいなら俺でなくとも.....」
「はっははははは!そうだね。その通りだ。.....でも、冷静にはなれただろう?」
「!!」
なるほど。
戦況確認の真の目的は俺を落ち着かせることだったのか。
勇者としての、いや、戦いに挑む姿勢の経験値が、俺とキャベツさんではまるで違うことを改めて認識できた。
この場はキャベツさんに指揮を任せるのが最適だろう。
そう思っていたのだが.....。
「それでは君の試験にならないじゃないか」
「.....」
わ、忘れてたあああああ!
そうだった。
俺はいま、正統勇者十傑の適正試験中だった。.....よし、全力で不合格になろう!
「君はどうしたらいいと思う?」
そんな俺の気持ちとは裏腹に、期待したような表情で尋ねてくるキャベツさん。
試験のことはさておき、まず最初にすべきことは.....。
「負傷している者の手当てを優先すべきだと思います」
「実にいい判断だ。しかし、手当てはどうするつもりだい?」
「手当ては俺ができます。それかギルドに退却させるか、重症ならこの場で薬でもいいと思います」
「へぇ~。君は回復魔法が使えるのか。ちなみにレベルは?」
「3ですね。ただ、その為にはドラゴンどもの注意を他に逸らさせる必要がありますが.....」
現実的な対応策としてはこんなところだろう。
そして、ドラゴンの注意を逸らさせることが可能なのは、恐らく俺とキャベツさんだけだ。とは言え、キャベツさんの実力は未知数ではあるが.....。
そうなると、俺が回復に専念するのは当然ながら無理となる。
(ここはやはり負傷者には退却してもらうのが一番建設的か?
仮にこの場で薬を使って回復しても、また狙われたりしたらどうしようもないしな.....)
そう考えていたら、キャベツさんから驚きの提案をされる。
「3か。なるほど。了承した。僕がドラゴンどもを相手しよう。君は負傷者の治療に当たってくれ」
「え!?一人でドラゴンを複数相手にするなんて無茶ですよ!」
「はっははははは!十傑の一人である僕を侮ってもらっては困る。これしき造作もないことさ」
え?マジ!?
いや、でも.....。ドラゴンはそんなに弱くはないぞ!?鑑定!
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『水竜』 レベル:2800(SS) 危険度:大
体力:15000
魔力:18000
筋力:17000
耐久:19000
敏捷:17800
【一言】.....(すやすや).....(^-ω-^)
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お前はまだ寝てるんか~い!
これほど大騒ぎになっているというのに、いまだ起きていないアテナに戦慄する。
いや、アテナが起きていないということはドール達も.....。
・・・。
うちの子達が意外と図太い神経なのに驚かされつつも現実に直面する。
やはりドラゴンは弱くない。と言うよりも、神獣クラスの強さで正直ビビる。
恐らくはこれで下っ端なのだろうから、指揮官の強さはいかほどなのだろうか.....。
「へぇ~。君もドラゴンの強さが見れるのかい?」
「え、えぇ。一応レベル3なので」
「そうか。ならドラゴンの強さが把握できただろう?ここは僕に任せたまえ」
いやいやいやいやいや。
この人は何を言っているのだろうか?
ドラゴンの強さが分かった以上、キャベツさん一人に任せてはおけない。
俺でも不足感は否めないが、ここは共闘すべきだろう。
(くそっ!ドールさえ居てくれれば勝てるのに!!)
俺がドールを連れてこなかったことに後悔していると.....。
「はっははははは!安心してくれたまえ!」
「ど、どういうことですか?」
「君が心配するほどの相手じゃないよ。むしろ敵にすらならないね」
「!?」
キャベツさんより衝撃の事実を告げられた。
キャベツさん曰く、この程度の相手なら何匹いようと苦戦すらしないらしい。
「言い忘れていたね。僕は守りに特化した勇者なのさ。
十傑八席次『鉄壁のCaswell・Baerwaldt・Zeisler』とは僕のことさ。はっははははは!」
いちいちかっこいいな、もうっ!いいなぁ!いいなぁ!
俺も大人ながら、キャベツさんからはなにかこうときめくものを感じる。
「で、では、本当に任せてしまってもいいんですか?」
「あぁ、構わないさ。君はゆっくりと治療に当たってくれていい」
「さすがにそれは.....。なるだけ急ぎますね」
「好きにしたらいいさ。あっ!そうそう!女性を優先してくれよ?」
知らんがなっ!
キャベツさんの正義を俺に押し付けないで欲しい。
せっかくキャベツさんに憧れの眼差しを向けていたのに、こういうところで現実に戻されるのが惜しまれる。
・・・。
さてと、早速治療を開始しますか。
キャベツさんの正義はスルーして早々に治療に当たろうとすると、キャベツさんから待ったがかかる。
「どうしました?」
「悪い。これも言い忘れていた。僕を君のPTに加えてくれないかい?」
「俺の?別に構いませんが.....」
現状、俺のPTは俺・アテナ・ドール・モリオンの四人だ。
そしてスキルの仕様上、PTリーダーは人数に含まれないので、PT人数はアテナ・ドール・モリオンの三人となる。
ちなみにPTの上限は五人までだ。
つまり、PTリーダーを含めると、実質六人が一PTの最大数となる。
なので、キャベツさんをPTに入れる事自体は出来るのだが、ここである問題が出てくる。
それは───。
「申請していないですが、大丈夫ですか?」
これは以前にも説明したが、この世界のPTは申請式となっている。(※第28歩目参照)
つまり、ギルドに申請して初めてPT仲間となり、そして様々な恩恵を得ることが可能となる。
逆に言えば、申請していないとPTの恩恵は受けられないし、ただ一緒にいる人となってしまう。
今回、キャベツさんはそうなってしまう恐れがあるのだが、それでもいいのだろうか。
「はっははははは!君は本当に面白いジョークを言うね」
「ど、どういう意味ですか?」
「勇者なら、みんな申請魔法を使えるじゃないか。君もそうだろう?」
おふ.....。
こ、これはまずい。
俺が勇者ではないとバレてしまう。ここはなんとかごまかさないと.....。
「お、俺の申請魔法はレベル1なんですよ.....」
「レベル1?」
「は、はい.....」
キャベツさんの突き刺ささるような視線が痛い。
スキルの中にはレベル制ではないものもわずかに存在する。
『ステータス魔法』や『詠唱省略スキル』なんかがそれに該当して、一度取得すればいいだけの便利なスキルだ。
(し、申請魔法とやらはレベル制ではなかったのだろうか.....)
俺が勇者ではないことがバレやしないかとハラハラしていると、キャベツさんが口を開く。
「そうか.....。今まで君はあまりPTを組んで来なかったんだね。大変だったろう?」
「HAHAHA。そ、そうなんですよ.....」
ごまかせはしたが、ボッチ認定された件。
俺は異世界でもこういう扱いなのか!?
「レベル1では意味がないから3まで上げるといい。急なことだし、今回は僕が魔法を使おう」
「よ、よろしくお願いします」
こうして、キャベツさんが一時的に俺のPTに加入することになった。
早速、パーティー編成魔法でキャベツさんを誘う。
(そう言えば、キャベツさんが加入する理由を聞いていなかったな。
なんでまた加入する必要があるんだ?俺のPTに加入するメリットなんてないよな?)
疑問が解消されないまま、キャベツさんが加入を承諾する。
そこまでは良かったのだが、この後とんでもない出来事に遭遇することになる。
それは加入者を伝えるシステム音が流れた時だった。
【Caswell・Baerw.....】
───ジジジッ
「ん?」
「どうしたんだい?」
「いえ.....」
突如、システム音が乱れ始めた。
こんなことは初めてだ。
通常なら、加入者の名前を告げて終わりなのだが.....。
すると───。
【キャベツさんが仲間に加わりました】
おいっ!?システムさん!?
え?なに?システムさんでもキャベツさんの本名は対応しきれないの!?
この事実に驚愕を禁じ得ない。
管理者がいい加減だと、システムすらもいい加減なのだろうか。アテナェ.....。
「はっははははは!そうか。システムが乱れたか。君はどこまでいっても面白いな!」
「いえ、システムですから、俺がどうこうではなく、みんなこうなのかと.....」
「それもそうだね。となると.....、他のみんなは僕に気を遣っていたのかな?」
「他のみんな?」
事実を知って大笑いしているキャベツさんはさておき、気になるワードが出てきた。
そのまま言葉を読み解くと、キャベツさんは毎回誰かのPTに加入していると受け取れるが.....。
「その通り。僕は毎回誰かのPTに入れてもらっているよ」
やはりそうらしい。
なんのメリットがあるのだろうか。
正統勇者または十傑にしか知り得ない何かがあるというのだろうか。
「違う。違う。僕が特殊なのさ」
「特殊.....ですか」
「君も勇者なら加護に伴う代償を知っているだろう?」
「!!」
思い出した。
強すぎる力には代償を伴うものだとよく言われる。
それは勇者であっても例外ではない。
例えば、時尾さんは加護を使うことで、一時的にステータスが100分の1にまで落ちてしまう。
だからこそ、ゼオライトさんの支えが必要なのであり、二人揃ってこそのSSSランクであると言われている。
例えば、異常な筋力を有しているサキは、恐らくだが一人一回までの応援しか反映されない可能性が高い。
内容的には爆発的に増える加護ではあるが、俺の加護とは異なり有限であり、いずれは行き詰まることが予想される。
つまり、正統勇者であり十傑でもあるキャベツさんであっても、加護による代償は免れ得ないということだ。
そして、それが本来なら必要のない作業であるPTに加わることに繋がるらしい。
その代償というのが.....。
「僕はね、経験値が得られないんだ」
「ふぁ!?」
いきなりとんでもない代償が飛び出してきた。
(.....ん?それはおかしくないか?)
少し考えてみたら、どうにもおかしい。
それでは説明つかない点がある。
キャベツさんには確かにレベルが存在する。
経験値が得られないと言うのなら、これはどう説明するのだろうか。
「悪い。語弊があったね」
「で、ですよね」
「正解に言うと、僕は攻撃全般が全くできないんだ。だから魔物を倒すことができない」
「あぁ、なるほど。だから経験値が得られないと。
言い得て妙ですね。.....ぇぇえええ!?こ、攻撃ができない!?」
先程よりも更に驚いた。
むしろ先程のほうがまだマシまである。
だって、そうだろう?
その理屈によると、キャベツさんは.....。
「僕が守る。そして君が戦う。そういう訳だね」
「いやいやいやいやいや。じょ、冗談ですよね?」
「はっははははは!僕はあまりジョークを言わないほうなんだ。信じてくれていい」
ジョークのほうがまだいいわっ!
こうして俺は絶望に打ち沈みながら、キャベツさんの提案通り、キャベツさんに守られながら救助活動に勤しむようになった。
そして、冒頭に戻る。
□□□□ ~現れた指揮官の咆哮~ □□□□
───ガキィィイイイン!
【『perfect!』キャベツさんが完全防御に成功しました】
「はっははははは!ぬるい!実にぬるいね!これしきで僕を抜こうなんて百年早いよ!!」
またしても、キャベツさんが複数のドラゴンによる猛攻をノーダメージで防いだ。
初め、キャベツさんに「一人で防ぐ」と言われた時は半信半疑でしかなかったが、終わってみれば全ての攻撃を見事に完封してしまっていた。正統勇者十傑恐るべし。
そう、守るだけの戦いはここまでで終わりだ。
「お待たせしました。負傷者の治療、全て終了しました。キャベツさん、ありがとうございます」
負傷者を全て治療し終えたいま、ここから反撃の狼煙をあげる時。
キャベツさんの獅子奮迅の働きを見て、俺の士気がグンッと上がる。武者震いというやつかもしれない。
「ありがとう。思ったよりも早かったね」
「いえ、キャベツさんのおかげで治療に専念できましたから」
「はっははははは!そう言ってもらえると僕も頑張ったかいがあるよ!」
───ガキィィイイイン!
【『perfect!』キャベツさんが完全防御に成功しました】
会話している最中にも繰り広げられる猛攻を何事もないかのようにいなすキャベツさん。
この人、本当に凄いな.....。
鉄壁の異名を持つにふさわしい実力者だと思う。
「さて、反撃に出ようと思うが、先程僕が提案した通りで異論はないかい?」
「キャベツさんが守って、俺が攻撃をするというやつですよね?」
「その通りだ。僕は守ることしか出来ないからね。
このままでは負けはしないが勝てもしない。君に全てがかかっているよ」
えぇ.....。
勇者でもない俺に全てをかけないでくださいよ.....。
それに俺の攻撃がドラゴンに通用するのだろうか。
仮に通用したとしても、果たして俺が強大なドラゴンに勝てるものなのだろうか。そこはかとなく不安だ。
「それはあの鍛冶師君が作った武器なのだろう?だったら通用するんじゃないのかい?」
キャベツさんが指差したのは、俺が装備している竜墜の剣だ。
確かにナイトさんの腕前は超一流で信じられるものだし、使っている素材はドラゴンから得たものなので、対ドラゴン戦においても有効だとは思われる。ただ一度も使用したことはないが.....。使う機会もなかったしな!
さすがはキャベツさん。着眼点が素晴らしい。
そう、確かに素晴らしいのだが.....。
(なんでキャベツさんがそのことを知っているんだ?
これはベルジュではなく、フランジュで得たものなんだぞ?)
疑問は尽きない。
尽きないのだが、考えることを止めた。思い当たる節があるので。
「まもなくドラゴンどもが攻撃を仕掛けてくる。
僕が全てを引き受けるから、君はその隙にドラゴンどもに近付いて攻撃してくれたまえ」
「分かりました」
「焦らず、確実に数を減らしていこう。無理をせず慎重にだ。
大丈夫。君は必ず僕が守ってみせる。正統勇者の名にかけてね」
「キャベツさん.....(ポッ///)」
思わず、本気で惚れてしまいそうになった。
これほど名実ともに頼れる人はそうそういないだろう。大きな愛に包まれているようでとても安心する。
『『『『『『GAAAAAAAAAA!』』』』』』
再び六匹のドラゴンが攻撃を開始する。
それも俺に向けて一斉にだ。当然だろう、ドラゴンからしてみれば不審な人間が近付いてくるのだから。
───ゴォォ!
迫る六つの凶悪なブレス。
まだまだ距離があるものの、それでも熱く寒いものを肌にビリビリと感じる。
───ゴォォオオ!
どんどんブレスが迫ってくる。
いつもの俺なら慌てふためていることだろう。
───ゴォォオオオオオ!
遂に目の前までブレスが迫ってきた。
しかし、心はさざ波のように落ち着いている。なんの心配もない。
だって.....。
「何度も言っているだろう?まずは僕の相手をして欲しいものだね!『Ridicule』!」
俺には『鉄壁の勇者』が付いているのだから。
すると、またしても六つのブレスが不自然な動きをして、キャベツさんに吸い寄せられていく。
まるでそこに行くべきものなのだと言われているように、ごく自然と.....。
───ガキィィイイイン!
【『perfect!』キャベツさんが完全防御に成功しました】
そして、当たり前のように完封してしまうキャベツさん。
かっこよすぎ!
正統勇者十傑か.....。ありかも!?
『『『『『『GA!?』』』』』』
これにはさすがのドラゴン軍団もあんぐり。
ここまでなすすべもない戦いなど経験したことがないのだろう。
だからこそ、ドラゴンの動きが緩慢になっていた。
だからこそ、俺も余裕が持てていた。
「さぁ、今だ!ドラゴンどもに一撃を与えてやれ!」
「(うぉぉぉぉぉおおおおお!)」
キャベツさんの合図とともに、俺は竜墜の剣を斜に構える。
本当は勇ましく雄叫びをあげたいところだが、ドラゴンに気付かれたら本末転倒なので心の中でそっと叫ぶ。
狙うポイントはある一点のみ。
念のため言っておくが、俺はドラゴンの弱点なんて当然知らない。
いくらチャンスとは言え、本来ならどこを狙ったらいいのか迷っても仕方がないだろう。
しかし、俺は猛然とただある一点のみに向かう。
そして、下から竜墜の剣を突き上げるように突き刺す。
「(かぁぁぁくごぉぉぉおおおおお!)」
───ザシュ!
『ッ!?』
不意の出来事に声を上げられない一匹のドラゴン。
いや、例え不意でなかったとしても、声を上げることなど到底出来ないだろう。
だって、俺が突き刺したのはドラゴンの顎から口にかけてなのだから。
そして、これだけでは終わらない。
「(死に晒せやぁぁぁぁぁあああああ!).....ウィンドストーム」
『ッ!?』
心の中では叫び、実際はぼそっとつぶやいた風魔法レベル3が、竜墜の剣を伝ってドラゴンの頭部にどんどん入り込んでいく。
事態の急変と自身の頭部がみるみる膨らんでいく事実に驚く、.....いや、恐怖するドラゴン。
ここは最後に別れの挨拶をしてやるのが、人間としての慈悲というものだろう。
この時の俺は作戦があまりにも上手くいきすぎて調子に乗っていた。
だから.....。
「お前はもう死んでいる」
『!!』
「さらばだ。.....ウィンドストーム」
まだ指揮官含めて後六匹もドラゴンがいるというのに、後先考えずに使用回数制限のあるレベル3魔法を連発してしまった。
この状態のドラゴンなら、ほぼ制限のないレベル2魔法でも十分だというのに.....。
───バァァアアアアアン!
そして当たり前のことだが、オーバーキルの影響で吹き飛ぶドラゴンの頭部とその衝撃に耐えられない俺。
頭部を失ったドラゴンはその場で崩れ落ちたが、俺はものの見事にキャベツさんの足元まで吹き飛ばされてしまった。
「へぶっ!?」
「やぁ、おかえり。随分と荒々しい攻撃をするものだね。
君はもっとスマートな戦いをするものかと思っていたが.....。
いや、竜殺しの異名も伊達じゃないということかな?はっははははは!」
HAHAHAHA。痛いっす。
よく分からないが、キャベツさんの中で俺の評価がまた上がったらしい。
正統勇者十傑には憧れるが、このまますんなりとなってもいいものかどうか非常に悩ましい。文不相応じゃないかな?
何はともあれ、ドラゴン一匹を退治することには成功した。
これも全てアルテミス様のおかげだ。
どういうことかと言うと.....。
あの日(※第88歩目参照)、アルテミス様が大量にドラゴンを撃ち落とした時に使っていた手法をそのまま実践してみたという訳だ。
あの時の俺は、アルテミス様が弓一本でどうやって大量のドラゴンを倒していたのか非常に気になっていた。そこで、アルテミス様が酒場で機嫌のいいときにそれとなく聞いてみたのだが、それが役に立ったようだ。
「これで君の攻撃があのドラゴンどもに通用することが証明された訳だ。この調子でどんどん行くよ」
「.....ハァ。.....ハァ。が、頑張ります」
若干ふらふらする。
レベル3魔法の連発という暴挙が、ここで影響してくることになろうとは.....。
しかし、それでも、歯を食いしばってドラゴンに立ち向かう。
キャベツさんは俺以上に頑張っているのだから、ここで俺が先に音を上げる訳にはいかない。
───ゴゴゴゴゴッ!
すると、俺の決意と時同じくして鳴り響くけたたましい地鳴り音。
そして同時に感じる、まるで肌を切り裂くような激しい怒りとおぞましい殺気の渦。
分かる。俺には分かる。
遂にその時が来たのだと。
「キャベツさん.....」
「あぁ、遂にお出ましといったところか。ここからは一層気を引き締めてかかるよ」
どうやらキャベツさんも理解しているらしい。
この後に、なにが起きるのかを.....。
『『『『『GAAAAAAAAAA!』』』』』
残った五匹のドラゴンが一斉に咆哮し始める。
それはまるで泣き叫んでいるかのように聞こえるし、怒り狂っているかのようにも聞こえる。
・・・。
そして、遂にその時が来た!
───ザッパァァアアアアアン!
『GAAAAAAAAAAAAAAA!』
耳が張り裂けそうな程の大きな咆哮を上げながら、海より現れし一匹の巨大な竜。
深く青い鱗に覆われたその姿は、まさに海の王者とも言える圧倒的な威厳を放っている。
そして───!
「キャ、キャベツさん!あれは!?」
「あ、あぁ.....。これはさすがに強敵だね.....。僕もこんな経験は初めてだ」
さすがのキャベツさんでも冷や汗を掻くような衝撃が、いま目の前で繰り広げられている。
ま、まさか、こんなことが.....。
『やっと見つけた.....。お前だ。お前達だな?我が弟を殺したのは!!
我が弟の無念、恨み。そして.....親父ィの悔しさを今ここで晴らす!覚悟しろォ!人間どもがァ!!』
え?
衝撃な出来事に驚いているのも束の間、不意に俺の耳に届いたドラゴンの悲痛な叫び。
いま、『救国救民を掲げる正義』と『弟の敵討ちを掲げる正義』の悲しき戦いが火蓋を切って落とされた。
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『Caswell・Baerwaldt・Zeisler』 レベル:890(SSS) 危険度:小
種族:人間族
年齢:28
性別:♂
職業:正統勇者
称号:正統勇者十傑(席次八席)/ゴーレム破壊者
スライム討伐者/インキュバス征討者/獅死王討滅者
体力:153000
魔力:1390
筋力:1390
耐久:89000
敏捷:1390
加護:『Ironclad』 Lv.890 760/891
『Ridicule』 Lv.666 561/667
『Action』 Lv.452 401/453
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次回、本編『vs.兄貴竜 その2』!
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今日のひとこま
~続・キャベツさんの信じる正義とは?~
「それは信じます。しかし、キャベツさん自身の幸せはどうなんですか?」
「ん?どういう意味だい?僕は今でも十分幸せだが?」
「いえ、なんと言うか、一人の女性だけを愛したりしないのかなって.....」
「はっははははは!それも一つの愛の形だね。それはそれで美しいと思うよ。
ただ僕の場合は誰が一番なのではなく、みんなが一番だから、誰か一人を特別に愛したりはしないものさ」
おや?
今、何やら見てはいけないものを見てしまったような.....。
そこで、キャベツさんの腰に挟まっている数枚の紙切れを素早く抜き取る。
その紙切れには.....。
『毒舌派アイドルのトークショー! 『毒舌派アイドルのライヴショー!
集まれ!キモオタども! 刮目せよ!キモオタども!
心を抉られる快感に歓喜せよ!』 今世紀最大の美声に酔いしれろ!』
「.....キャベツさん。これはどういうことですか?」
「そ、それは!!」
「これは?.....確か『誰か一人を特別に愛したりはしないもの』なんですよね?」
「べ、別にいいじゃないか!アイドルが好きでも!サキちゃんだって女性な訳だしね!!」
「サキちゃん?.....まぁ、それは百歩譲っていいとしましょう。ですが.....」
「な、なんだい?」
「このチラシ。王都でのライヴのチラシですよね?」
「!!」
「まさかとは思いますが.....。キャベツさんって、サキの追っかけとかじゃないですよね?」
「!!!」
「どうなんですか?さすがに追っかけともなると、
『誰か一人を特別に愛したりはしないもの』が矛盾するのでは?」
「はっははははは.....。き、君は、な、何を言っているのかな?ぼ、僕は全ての女性の味方だよ?」
分かりやすいなぁ、この人。
きっと嘘とかは付けないタイプなんだろうな。
「あぁ、そう言えば.....。俺、実はサキと知り合いなんですよ」
「ほ、本当かい!?」
「え、えぇ。俺の仲間がサキのプライベートキーを.....」
「ぜ、ぜぜぜぜぜひ紹介してほしい!君と君の仲間が望むものを何でも用意するからさ!!」
「.....キャベツさん?」
「あっ.....」
「.....はぁ。サキのことが好きなんですか?」
「いやぁ.....。僕でさえどうすることもできないあの子が気になって仕方がないんだ」
「そ、そうですか.....。(手に入らないからこそ、欲しくなっちゃうやつか?)」
「このことはセシーネを始め、みんなには内緒にしてほしい。みんなを愛しているのは間違いないからね」
「分かりました。但し!セシーネさんだけではなく、他の奥さん達も大切にしてあげてくださいね?」
「恩に着る。それは正統勇者の名にかけて誓うと約束しよう」
つまり、キャベツさんがドラゴン襲撃時に都合良くベルジュにいたのは.....。
正統勇者として駆けつけた訳ではなく、サキの一ファンとして、フランジュからサキを追っかけてきたという訳か。
俺って.....ついてるぅ!




