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第152歩目 はじめての正統勇者!

前回までのあらすじ


複数のドラゴンが攻めてきた!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


2/8 世界観の世界編!に一部追記をしました。

   追記箇所は、『正統勇者』と『正統勇者十傑』となります。


□□□□ ~新たな敵現る!?~ □□□□


「はっははははは!」


 一人の青年の笑い声がギルド内に響く。


 本日未明より、ここ海都ベルジュに複数のドラゴンが襲撃してきた。

 一体でも苦戦が予想されるドラゴンが複数ともなると勝算は限りなく低い。

 ゆえに避難を提案したのだが、避難したくとも港の船は全て壊され、しかも王命にて冒険者一同は退却することも敵わない状況となっている。


 そんな絶望的な状況の折、俺を含めた冒険者一同でドラゴンを迎え撃とうと決死の覚悟を決めている最中での笑い声.....。


 例え、どんな意図があろうとも不謹慎すぎる。

 この圧倒的不利な状況の中、死地ともとれる戦場に赴く戦士達を讃えこそすれ、笑い者にすることなどあってはならないことだ。さすがに少しばかりカチンッときた。


 そう、少しばかり頭に来たのだが、それを吹き飛ばす出来事に遭遇する。


「いやいや。I'm sorry。そんなつもりで笑ったんじゃないんだ。Please forgive me」

「英語!?」


 まさかの英語翻訳に驚いた。

 これは以前にも説明したと思うが、『言語理解スキル』はお互いが発した言葉をお互いが認識できる言葉に自動で変換してくれるご都合主義設定となっている。


 つまり、『I'm sorry』=『失礼』と『Please forgive me』=『許してほしい』の部分だけは、俺でも英語で理解できたということになる。とは言え、その他の部分は理解できなかったので、この世界の言葉に変換されているのだが.....。HAHAHA。

 英語の成績なんていいとこ4だったし、英語検定も3級までしか持っていないので英語が苦手でも仕方がない。


 要するに何が言いたいかというと、謎の青年が発した言葉全てが英語だったということだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(※これ以降はめんどくさいので、全て日本語表記にします)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 この世界に英語なんてものは存在しない。


 そんな存在しない言葉を流暢に話す謎の青年。

 それに頭に来ていたのでよく見ていなかったが、この青年は姿形からしてこの世界の住人とは少し違う。

 線が細いというか、濃くはないというか、清潔感があるというか。


 以上のことから、この謎の青年は.....。


「失礼ですが、あなたはゆう.....」


 と、そこまで言い掛けたその時。


「キャベツ様!?どうしてあなた様がここにいらっしゃるのですか!?」

「キャベツ!?」


 セシーネさんが驚いた声をあげた。

 それに対して、俺も別の意味で驚いた。


 セシーネさんは今なんて言った?

『キャベツ』と確かにそう言ったように聞こえたが.....。


 俺が困惑している中、セシーネさんとキャベツ疑惑のある青年の会話が続く。


「キャベツ様はどうしてベルジュに?」

「はっははははは!困っている市民あるところに僕ら正統勇者あり!

 僕は正統勇者の名の元に、ただ正義を執行しに来ただけさ。

 安心したまえ。君らは正統勇者の保護下に入った。僕の命尽きるまで、君らを守ってみせよう」


 やっぱりキャベツで間違いないようだ。と言うか、キャベツってお前.....。

 それにさっきからキャベツさんが言っている正統勇者とはなんだろう?勇者とは違うのだろうか?


 よくわからないが、端的に言うと味方が増えたということだろう。

 キャベツさんの全身から漂う圧倒的な強者のオーラ。まさしく勇者のものだ。

 以前、時尾さんに感じたものと同じぐらいの緊張感がひしひしと伝わってくる。


 俺は対ドラゴン戦において頼れる味方の登場に意気が揚がっていた。

 そう、揚がっていたのだが.....。


「それに.....」

「あ.....」


 キャベツさんが片膝を付いて、おもむろにセシーネさんの手を取る。

 それも少しも恥ずかしがることなく平然と.....。くそっ!かっこいいじゃねえか!!


「あなたのような美しい女性がドラゴンなどに蹂躙されるなどあってはならないことだ。

 僕にあなたを助けさせてください。あなただけは必ず守ると正統勇者の名にかけて誓います」

「キャベツ様..... ///」


 そして、そのままセシーネさんの手の甲にそっとキスを交わすキャベツさん。

 まるでお姫様に誓いのキスをする騎士のように様になっている。


「.....♡」


 セシーネさんの瞳が熱を帯びている。

 誰から見ても、既に恋に落ちていることは明白だろう。


(や、やりやがったああああああああああ!このキザ勇者がああああああああああ!

 お前いい加減にしろよ!?セシーネさんは人妻だぞ!?いいのか!?口説いちゃっていいのか!?)


 俺にできないことを、なんてことのないように行ってしまうキャベツさん。


 心の中は嫉妬でいっぱいだった.....。

 憎くて悔しくて仕方がなかった.....。

 殺してやりたいぐらい憎かった.....。


 いや、正直に告白しよう。


 スマートに女性を口説けるその姿勢に感銘すら覚えた。

 出来ることなら、ぜひそのテクニックを伝授してもらいたいと思った。なお、俺の容姿では.....。


 だから───。














 こいつは敵だ!



 さぁ、始めようか。俺達の戦争を.....。



 □□□□ ~正統勇者!~ □□□□


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 『正統勇者』


 この世界に召喚された勇者の中で、いまだ勇者業をやめずに魔王討伐に精を出している勇者を指す。

 現在は魔王が存在しない為、魔王の代わりに魔勇者と化した勇者達を討伐していることが多い。

 数こそ多くはないものの、各地で絶大なる人気と信頼を得ており、神の使いだと信じている民衆も多い。

 普通の勇者とは異なり、一つの国が正統勇者を抱えることは原則タブーとされている(正統勇者雇用条約)

 正統勇者として任命されるには勇者が立ち上げた特別な機構にて承認される必要がある(全勇者特別機構)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 以上が、セシーネさんから教わった『正統勇者』なるものの実態だ。


 要は、時尾さんやサキのように勇者業を廃業した勇者ではなく、現役で活躍している勇者となる。

 だからだろうか、キャベツさんから発せられるオーラが特に濃密に感じるような気がするのは.....。


 とりあえず時間もないので軽く自己紹介を交わす。


「よろしくお願いします。俺は『舞日 歩』です。日本人です」

「よろしく頼むよ。僕はCaswell・Baerwaldt・Zeisler。イギリス人さ」

「はい?」


 名前の部分が思った以上に流暢に流れたのでほとんど聞き取れなかった。

 かろうじて分かったのは、キャベツさんがイギリス人だということぐらいだ。


「はっははははは!やはり君もか!

 いや、僕が自己紹介をすると、みんな決まって君と同じような反応をするんだよ」

「で、でしょうね.....」


 さすがにあまりにも流暢すぎて聞き取れる人なんてほぼいないだろう。

 現地の人は絶対に無理だろうし、勇者側だって外国語に慣れ親しんだ人でないと無理だ。


()()スウェル

 ()アウォルト

 ()ァイスラー。

 これが僕の名前さ。気軽にキャベツとでも呼んでくれ」


「縦読みかよっ!?」


 あまりにもくだらなさすぎて思わずツッコんでしまった。

 キザったらしい人ではあるが、どうやら悪い人ではないようだ。いや、正統勇者だし、悪い人ではないか。


「竜殺し様。キャベツ様はただの正統勇者ではございません!」

「と言いますと?」

「正統勇者の中でも特に認められた十人の英傑の一人でございます!」

「は、はぁ.....」


 そう語るセシーネさんの鼻息は荒い。

 まるで意気揚々と彼氏自慢をしている乙女のそれだ。


(あなたは既婚者でしょう?旦那さんを自慢しなさいよ.....)


 そんなセシーネさんに白い目を向ける俺とは対照的に、髪をかきあげるイケメン仕草でつらつらと語り出すキャベツさん。時尾さんの眼鏡クイッもそうだったが、キャベツさんも絵になるなぁ。


「その通り。僕は正統勇者十傑の一人さ」

「正統勇者十傑?」


 なにそれ!?

 ちょっとカッコいいんですが!?


「機構や世界から認められた十人という意味さ。

 少し自慢っぽくなるが、その道の頂点に立っている勇者とも言える」

「その道の頂点!?」


 俺の驚く姿にちょっと気を良くしたキャベツさんが饒舌となる。


「そうさ。一人一人が何らかの技能において世界一の技能を習得しているよ」

「と言うと、キャベツさんも?」

「もちろん。それはきっと、この戦いでも活躍できるものだろう」


 この人、基本的におだてられるのが好きな人と見た。

 ペラペラペラペラと色んな情報を次から次へと話してくれてとても助かる。


(営業の時にもいたなぁ、こういうお客さん.....)


 とりあえず、キャベツさんがすごい勇者だということは十分によく分かった。

 それは己が実績を少しも恥じることなく堂々と語る姿や、ギルド職員であるセシーネさんが一目見ただけでも、キャベツさんだと分かるぐらいに知名度が高い点からでも容易に判断できる。


「知名度という点では君も僕達十傑に劣らないものだよ。

 とは言え、まだ世間的には名声と顔が一致されてはいないがね」

「HAHAHA」


 むしろ俺的にはそのほうが嬉しい。

 俺は別に有名になりたくて竜殺しになった訳ではない。強制的かつ便利そうだからなっただけだ。


 しかし、俺が思っている以上に、竜殺しの異名は鳴り響いているようで.....。


「最近、僕達十傑の間では君を僕達の中に迎え入れようと議題が上がっているほどさ」

「はぁ!?俺.....をですか!?」

「そうさ。勇者でもあり竜殺しでもある。十分になる資格はあるということだ」


 あ、あの.....。

 俺は勇者ではないのですが.....。


 しかし、そう言える雰囲気ではない。


 それに、この世界にいる異世界人は基本的に勇者であるというのが常識だ。

 付き人である俺が単にイレギュラーな存在に他ならない訳だし。


「そういう意味では、ここで君に出会えたのは幸運だと言ってもいい」

「ど、どういう意味ですか?」

「この戦いで、君が十傑の一人に足り得るかどうか見極めさせてもらうつもりさ」


 冗談じゃないぞ!?


 俺の意思とは関係なく、何やら勝手に正統勇者十傑とやらの試験が始まってしまう模様。

 それも十傑の一人であるキャベツさんのお墨付きを得られるということで.....。


「まぁ!では、このギルドより新しい十傑様がお生まれになるというのですね!!」


「「「「おいおいおい。すげえ瞬間に出くわしちまったな!ついてるぜ!!」」」」

「「「「全くだ!これはオチオチ死んじゃいられねえ!俺は生き残るぜ!!」」」」

「「「「竜殺し様万歳!キャベツ様万歳!竜殺し様万歳!キャベツ様万歳!」」」」


 セシーネさんを始め、冒険者一同が歴史的瞬間に立ち会えるのだと大歓声を上げている。

 それはドラゴンに立ち向かおうと決死の覚悟を決めた時と同じぐらい、いや、もしかしたらその時以上の盛り上がりを見せている。


 更には全員の瞳に一筋の光が.....。

 それは生きた瞳。絶望とは違う、覚悟とも違う、生きた光。


「.....」


 このあまりにも凄まじい盛り上がりに、熱量に、俺はただただ呆気に取られてしまった。

 そして、この時初めて分かってしまったことがある。


 これが人の力なのだと.....。

 生きる希望の力なのだと.....。


 そんな盛り上がる冒険者一同を見て、満足げに頷くキャベツさん。


「覚えておいてくれ。勇者とは勇気のある者ではない。勇気を与える者でもない。

 真の勇者とは人に生きる目的を、生きる楽しさを与えることができる者を勇者と言うんだ」

「キャベツさん.....」


 正統勇者、更には選ばれし十人の偉大さというものを見に染みて感じてしまった。

 大きい、あまりにも大きすぎる.....。これが本当の勇者.....。


「とは言え、ここまでみんなを鼓舞することができたのは君の功績が大きい」

「え?」


「みんなに覚悟を決めさせたのは君だ。

 ただただ生きる目的や生きる楽しさを与えても意味がない。

 覚悟を決めさせた(現実に向かい合わせた)上で与えたからこそ、今回のような盛り上がりに繋がったという訳さ」


 これってヨイショされているのだろうか。

 俺を正統勇者十傑とやらに迎え入れるために.....。


「いや、俺は別に.....」

「謙遜しなくてもいい。君は既に正統勇者足り得る資格を十分に得ている。僕はそれが嬉しくてね」

「.....はっ!!も、もしかして、さきほど笑っていたのは.....」

「なかなか鋭いね。ご明察。君を見定める前から、君自身が十傑らしい行動を取っていたからだね」


 いやああああああああああ!

 キャベツさん!それは俺を買い被りすぎですよ!!


 しかし、キャベツさんは更に勢いづく。


「僕達十傑には鉄の掟がある」

「て、鉄の掟.....ですか?」

「『不惜身命』。己が信じる正義の為には命を惜しまないこと」


 うへぇ.....。

 バカにするつもりは微塵もないが、なんか急に宗教くさくなった。


「例え、正統勇者であろうと、それに見合うだけの実力があろうとも.....。

 この掟を守れない者は十傑に足る資格はない。迎え入れる気も全くない」

「.....」


「そういう意味では、君はこの圧倒的不利な状況の中でも市民を見捨てなかった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()のにだ。これこそまさに『不惜身命』の境地だと言えるだろう?」

「!!」


 え!?見捨てられたの!?


 キャベツさんがにやりっと笑った。

 どういう意味かは分からないが、正統勇者または十傑にしか知り得ない何かを知っているということだろう。


 俺としては完全に退路を絶たれてしまったがゆえに参戦したというのも理由の一つだ。

 当然、一番の理由は冒険者達の意気に感じ入ったからだが......。


 しかし、もし逃げることが可能だと知っていたら迷わず逃げることを選択していたかもしれない。

 だって死にたくないし?こういうのは勇者の役割だし?



(.....あれ?.....ちょっと待て!

 そうなるとキャベツさんの完全な勘違いということになるのでは!?)



 □□□□ ~キャベツという人は.....!~ □□□□


 キャベツさんの勘違いで始まってしまった正統勇者十傑試験。

 俺はこのよくわからない試験を全力で不合格になろうと決めた。


 但し、勇者としてではなく一個人として、ここ海都ベルジュを救いながらだが.....。


 そんな俺達の元へ、一つの報告がもたらされる。


「.....ハァ。.....ハァ。ほ、報告します。

 .....ハァ。.....ハァ。ぜ、前線の防衛部隊が.....か、壊滅しました。し、至急、援軍をお願いします」


───ざわざわざわ

───ざわざわざわ


 息絶え絶えながらに報告される戦況にざわつく冒険者一同。

 もはや一刻の猶予もない差し迫った状況となった。


「皆さん。聞いた通りです。ここにドラゴンが侵攻してくるのも時間の問題でしょう。

 これはギルドからの正式な依頼となります。どうかベルジュをよろしくお願いします」


「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」

「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」

「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」


 セシーネさんの言葉を皮切りに、勇ましい雄叫びを上げる冒険者一同。


 その雄叫びからは、その表情からは、少しも悲壮感などは感じられない。

 誰もが勝利を信じて疑わず、誰もが生還を果たすのだと希望に満ちている。


「私は無力で戦えませんが.....。

 それでも!ここで最後まで皆さんの無事をお祈りさせて頂きます!

 どうか皆さんに女神様のご加護がありますように.....」


「「「「任せろや、ギルドのねーちゃん!俺達には竜殺し様や十傑様がいるからな!!」」」」

「「「「おうともさ!新たな十傑様の誕生をこの目で見るまでは死んでも死にきれねぇ」」」」

「「「「それにギルドのねーちゃんの新たな慶事だ!俺達にもパァと祝わせてくれや!」」」」


 そして、次から次へとギルドを飛び出していく戦士達(冒険者一同)

 一人一人が踏み出すその一歩に、力強さが、未来が見てとれる。


 しかし、そんな冒険者一同を見て俺は思った。


(.....あれ?俺の指示に従うんじゃないの?

 こんなバラバラで戦場に行っても、腹を空かせた虎の前に餌を差し出すようなものでは?)


「うんうん。いいね。これは期待できそうだ」

「.....」


 一方、そんな冒険者一同を見送るキャベツさんはとても満足げだ。

 むしろ笑顔が爽やかすぎる。


 セシーネさんがホの字になってしまう気持ちもわからなくはない。

 だって、この人.....。カッコよすぎるんだもん!なんだろう?白人補正だろうか?



・・・。



 そして、俺とキャベツさんもセシーネさんに見送られながら、遂に戦場へと向かうことになった。


 ちなみに見送りの際、キャベツさんとセシーネさんの間で、それはそれは熱~い抱擁(キス)があったことは今更言うまでもないだろう。

 ズバリ言うと、セシーネさんは既にキャベツさんの虜になっていると言っても過言ではない。


 正直、俺はドン引きだ。

 セシーネさんに対しても、キャベツさんに対しても.....。


「.....本当にいいんですか?」

「なんのことだい?」

「セシーネさんのことです。彼女は人妻なんですよ?」

「あぁ、彼女はセシーネというのか。教えてくれてありがとう」

「あ、いえ。どうもです」


 そういうことを言いたいんちゃうわ!


「セシーネさんの名前すら知らずに口説いていたんですか?」

「愛の前に名前なんてものは些細なものさ。要は僕が彼女を、彼女が僕を愛していればいいのだから」

「.....」


 正直言うと、俺はそういうのはあまり好きじゃない。

 上手くは言えないが、そういうのはなんか違うと思う。とは言え、所詮童貞の戯言なのかも知れないが.....。


「君は本当にピュアなんだね。それもまた一つの愛の形さ。

 そして同様に、君に無理に僕を理解してほしいとは思っていないよ」

「.....」


 キャベツさんも非難されるのは覚悟の上ということか。

 まぁ、愛の形は十人十色。当人同士の問題に他人がとやかく言うことではないだろう。


 但し!


 セシーネさんにはお世話になっている以上、これだけはハッキリとキャベツさんに言っておかなければならないことがある。


「セシーネさんを幸せにしてあげてくださいね?」

「あぁ、それは誓おう.....」


 ふぅ。これで一安心。

 

 この世界では経済的余裕があれば重婚が認められている。

 つまり、セシーネさんとキャベツさんの関係は不倫ということにはならないはずだ。だとすれば、後はセシーネさんの幸せを願うばかり。


(キャベツさんはキザな人ではあるが正統勇者。誓いを無下に破ることなどは決してないだろう)


 そう思っていたら、キャベツさんの言葉にはまだ続きがあったようだ。


「あぁ、それは誓おう。正統勇者の名にかけて、そして愛しい50人の妻達の為にも」

「はぁ!?ご、50!?」

「そうさ。僕には愛すべき50人の妻達がいるんだよ。今度、君にも紹介しよう」

「ちょっ!ちょっと待ってください!ご、50人って.....」


 あまりにも意外な告白に度肝を抜かされてしまった。

 別に経済的余裕があるのなら、奥さんを50人(めと)っても別に問題ではないのだろうが.....。いや、でも50人は.....。


「み、皆さん、喧嘩とかしないんですか?」

「はっははははは!夫婦円満の秘訣を聞きたいかい?」

「.....」


 う、うぜぇ.....。


 それでも走りながら髪をかきあげる仕草がカッコいい。

 これだからイケメンってやつはっ!!


 とりあえずセシーネさんの幸せの為にも、夫婦円満の秘訣とやらを聞いてみる。


「君は猫を飼ったことがあるかい?女性と言うのは例えるなら猫だ」

「猫?」


「彼女らは猫のように気まぐれで、猫のように甘えてくる。

 だから、あまり構いすぎることは毒だし、逆に放置しすぎなのもタブーだ。

 その見極めをしっかりとしてあげれば、意外と嫉妬に狂うこともないものさ」


 うおおおおおおおおおお!

 ハイレベル過ぎて全くわからねえええええ!


「そ、その見極めが難しいものなのでは?」

「なんでだい?愛があるのならできることだろう?」


 お前は愛の求道者か!?


 俺の問いにキャベツさんがハテナといった表情をしている。

 この人、マジで見極めて接しているらしい。


「だから、セシーネとか言ったかな?あの彼女は」

「.....はい。セシーネさんです」

「ありがとう。うん、覚えた。もう二度と彼女の名前を忘れることはない」


 そう語るキャベツさんの横顔はどこか嬉しそうだ。.....なぜ?


「どうしたんだい?」

「いえ、キャベツさんがなんか嬉しそうだなと思いまして」

「はっははははは!当然だろう?愛すべき女性の名前を知ることができたんだ。

 そして、僕のメモリーに彼女の名前が刻まれた日でもある。こんなに嬉しいことはないさ」


 く、くっさあああああ!

 よくもこんなクサいセリフを真顔でいけしゃあしゃあと言えるもんだ。


 しかし、確かにクサいセリフなのだが.....。


 そこにあるのは女性に対して確かな真心。

 この場合、誠意と言ってもいいのか非常に迷う(奥さん50人だしなぁ.....)が、誠意に近いものだ。


(キャベツさんのこういう部分にセシーネさんや50人の奥さんは惚れたのだろうか?)



 キャベツさんについての疑念は晴れないが.....。


「さぁ、急いでドラゴンどもを討伐しようか」

「そうですね。被害がこれ以上、拡がらない為にも」


「それもあるが.....」

「他に何か?」


「一刻も早く彼女の元へと帰ってあげたい。そして、彼女の名前を呼んであげること。

 これが彼女にできる、僕からの最初のプレゼントだからね」

「名前を呼ぶこと?無事に帰ってあげることじゃないんですか?」


 それでも一つだけ分かったことがある.....。


「はっははははは!君は面白いジョークを言うんだね」

「ジョーク?」

「そうさ。ジョークさ。

 彼女が僕の帰還を信じて疑わない以上、僕が帰還しないなんてことはあり得ない」


 それは───。


「言っただろう?真の勇者とは.....」

「『人に生きる目的を、生きる楽しさを与えることができる者』ですか?」

「その通り。だから僕は負けないし、帰還することがプレゼントにはならない。

 だって、そうだろう?僕が帰還するのは当たり前のことだからね。はっははははは!」


 キャベツさんが本当に正統な勇者であること。

 そして、知り合って間もないというのに、本当にセシーネさんを愛しているということだ。



「さぁ、急ごう!セシーネが僕を待っている!!」



次回、本編『vs.兄貴竜』!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


今日のひとこま


~キャベツさんの信じる正義とは?~


「そう言えば、鉄の掟でしたっけ?正義がなんちゃらかんたらってやつ」

「あぁ、『不惜身命』。己が信じる正義の為には命を惜しまないことだね」

「それです。キャベツさんの信じる正義ってなんですか?やはり救国救民とかですか?」

「まさにそれだ。それこそが勇者本来の役目だろう?」


うへぇ.....。やっぱり俺には無理だな。

国や市民を救う前に、俺を救って貰いたいぐらいだし。


「僕は全ての女性の味方さ。老婆から赤子まで全ての女性を救うと決めている」

「.....は?」

「聞こえなかったかい?僕は全ての女性の味方さ。老婆から.....」

「いえ、そういうことではなく.....。え?どういうことですか?」


「言葉の通りさ。僕は分け隔てなく、全ての女性を救うと決めている。これが僕の信じる正義さ」

「えぇ.....。じゃ、じゃあ、男はどうなるんですか?」

「当然、助けるよ?.....但し、優先順位は女性が上だがね。正義とは常に平等とは限らないものだよ」

「は、はぁ.....」


単なる女好きなだけじゃねぇか!

俺の憧れを返せ!!


「あっ!もしかして、セシーネさんを口説いたのも.....」

「その通り!僕は全ての女性の味方だからね。全ての女性に求婚するつもりでいるよ」

「そ、そうですか.....。(それはさすがにないわぁ.....)」

「安心してくれたまえ。彼女は必ず幸せにしてみせるさ」


「それは信じます。しかし、キャベツさん自身の幸せはどうなんですか?」

「ん?どういう意味だい?僕は今でも十分幸せだが?」

「いえ、なんと言うか、一人の女性だけを愛したりしないのかなって.....」

「はっははははは!それも一つの愛の形だね。それはそれで美しいと思うよ。

 ただ僕の場合は誰が一番なのではなく、みんなが一番だから、誰か一人を特別に愛したりはしないものさ」


ほほぅ。


さすがは50人の奥さんを持つハーレム野郎の言うことは一味違う。

結局、キャベツさんが多くの女性に慕われている理由はこういうところにあるのだろう。



全員を平等に愛すか.....。

なるほど。そういう考え方もありっちゃありなのかな?


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