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第146歩目 アイドルとの別れ!

前回までのあらすじ


モリオンと流星群を楽しんだ!

□□□□ ~最後までアイドル(サキ)~ □□□□


 モリオンとの流れ星ランデブーを楽しんでから3ヶ月が過ぎた。

 あの退屈だった船旅もようやく終わり、アテナ待望の海都ベルジュに無事着いた。


 さすが観光とグルメの都市というだけあって、船から降りると早々に漂うおいしそうな匂い。

 これは食欲をそそられる。.....じゅるり。


「ほわー(*´μ`*)いいにおーい!」

「アユム!アユム!早く行くのだ!」


 どうやら、うちの食いしん坊どもも興奮を隠しきれないようだ。

 右手をアテナに、左手をモリオンに、それぞれ別方向に引っ張られてしまっている。


(痛い、痛い、痛い。.....気持ちはよ~くわかるが少し落ち着け!)



 一方───。


「姉さまもトカゲも無粋なのじゃ。

 食べ物などよりも、この美しい景観を楽しまぬでどうする」


 ドールはというと『団子より花』派らしい。

 食いしん坊どもとは異なり、(子供だが)大人の余裕を感じる。


「ふ~ん」

「なんじゃ?」

「いや、なんでも」


 しかし、俺は知っている。

 スカートの下に隠された2本の尻尾がぶんぶんと勢いよく振られていることを。


 アテナやモリオンのような大食漢の影に隠れがちだが、実はドール自身もそこそこ食べるほうだ。

 だから、こんなおいしそうな匂いを漂わせる食べ物に興味がないなんてことは絶対にないはずだ。


(本当に素直じゃないな~。お前はもう少しはしゃげよ!)


 ・・・。


 では、みんなが待ち焦がれているようなので、早速グルメツアーにでも行くとするか!

 といきたいところだが.....その前にやっておかなければならないことがある。


 それは───。


「約束だぞ?サキさん達とはここまでだ」


 サキ達との決別である。

 そういう約束だし、手切れ金5億も既に渡しているので今更文句を言わせない。


 そう、言わせないつもりなのだが.....。


「ドールちゃん.....サキと一緒に来なぃ?欲しぃもの何でも買ってぁげるょ?」

「勇者様には済まぬが、妾は主とともに行くのじゃ」


「.....」


 俺のことは無視かよ!


 まるで俺のことなど眼中になしとの態度にイライラが募るが、我慢、我慢。

 こんな不快な気分になるのもあと僅か。


 ここで感情に任せて積年の鬱憤を晴らそうものなら、サキの怒りを買って、この約束自体がご破算になる恐れがある。そうなってしまっては今までの我慢が水の泡となる。


 普通の大人とは復讐などはせず、最後まで我慢に我慢を強いるものだ。

 立つ鳥跡を濁さず。これ大事!超大事!!


「ぉっさんと居ても楽しくなぃっしょ?時間の無駄だょ?」

「主には妾が必要なのじゃ。だから済まぬ」

「サキにもドールちゃんがマジ必要だから。.....そぅだ!今度一緒にステージ出ょ?」

「.....む!?」


 ドールさん!?

 なに食指を動かしているんだよ!?


「サキとドールちゃんでァィドルユニット組めば最強っしょ!」

「ぐぬぬ.....」

「ぉっさんとは二度と会ぇなぃゎけじゃなぃんだし.....(会ゎせる気はねーけどw)

 今は夢に向かって全力疾走するっきゃなぃっしょ!ちゃけば、サキと一緒なら必ずァィドルになれるょ?」

「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ.....」


 初めてドールの表情が苦悩で歪んだ。

 船旅中の4ヶ月のレッスンで、ドール自身も何か手応えを感じているのかもしれない。


 確かにサキの言う通り、この先俺と一緒に居てもアイドルにはなれないが、仮にサキと一緒ならアイドルになるのはそう難しい話ではないだろう。

 そういう意味では、いまドールは人生の岐路に立っていると言っても過言ではない。


 そんな人生の岐路に立たされたドールの返答はいかに.....!?


「し、しかしの.....。やはり妾は主とともに行くのじゃ」

「ぇ~.....」


 サキ、ざまぁ!!


(いかん、いかん。大人の余裕、大人の余裕。それにしても.....偉いぞ!ドール!!

 まぁ欲を言えば、悩まずにスパッとサキの提案を切り捨てて欲しかったところだが.....)


 ただ、ドールが悩むのも仕方がない側面はある。

 多感な時期に奴隷として様々なものを抑圧され、ようやく(まだ奴隷ではあるが)自由の身になった途端に突如舞い降りた憧れた世界(アイドル)への切符。


 手を伸ばせば掴めそうな位置にある(憧れ)

 もっと言えば、約束された未来なのかもしれない。


 そんな状況を前にしたら、ドールに限らず誰だって悩まない方が嘘ってもんだろう。


 しかし───。


「ドールちゃん。ょく考ぇたほぅがぃぃょ?一時の感情に流されたらょくなぃっしょ」

「.....」


 そんなドールの苦心に苦心を重ねて出した答えを「一時の感情」と一蹴するDQN(サキ)


 本当にこいつの脳みそはどうなっているのだろうか.....。

 人の想いよりも己の欲望との考えが透けて見えるので吐き気がする。


「おい、いい加減にしろよ?少ししつこいぞ」


 さすがに辟易してきたので、サキに注意を促す。

 ないとは思うが、ドールの心変わりを防ぐ意味合いも兼ねている。


 だが───。


「ドールちゃんの幸せはどこにぁるの?

 ちゃけば、サキの側にぁるに違ぃなぃっしょ!.....だから、サキと一緒にァィドルゃろ?」


 また俺を無視かよ!


 多少言葉強めにサキを挑発してみたつもりだが、それでもスルー。

 いや、正確には、ひと・える・いぬ子ちゃんからは足蹴にされたけど。HAHAHA。


(それにしても.....欲で釣り、夢で釣り、最後は幸せで釣るとか.....)


 サキも相当なりふり構ってはいられないようだ。

 それほどドールを好き.....いや、最早愛なのかもしれない。それほどドールを愛しているのだろう。


 気持ちはよくわかる。


 ドールは多少高慢で素直じゃないところはあるが.....。

 それでも、かわいいし、忠実だし、なによりも耳や尾のもふもふ具合は最高の一言に尽きる。


 そんなドールを側に置いておきたい気持ちは痛いほどよくわかる。

 だから俺も譲らない。譲らせない。譲ることなど有り得ない。


 それに、サキは説得のつもりだったのだろうが、実は言ってはならない言葉を発してしまっている。


 それは───。


「妾の本当の幸せは主とともにある。それは例え何があっても覆るものではない」

「.....」


 この言葉.....。懐かしいな。

 かつてドールが、俺に名前を付けて欲しいと願った時に言った言葉そのものだ。


 制度として、一度奴隷に身を落とした人間は名前を奪われる。

 そこに再び名前を与えると、名前を与えられた奴隷の命は主人と一蓮托生となってしまう。

 

 だから余程のことがない限りは奴隷に名前を与えることはない。また奴隷もそう簡単に名前を願ったりなどはしない。

 それはサキに心酔しているひと・える・いぬ子ちゃんや俺の奴隷であるねこみやねここがいい例である。


 しかも、一蓮托生と言っても『主人が死ねば奴隷も死ぬが、奴隷が死んでも主人は死なない』という理不尽極まるもの。

 言わば、主人に命を捧げる行為となんら変わらないものだ。


 つまり『奴隷が主人に名を求め、主人が奴隷に名を与える』と言う行為そのものは、双方の信頼関係があって初めて成立するものとなる。


 だからもう一度言うが、余程のことがない限りは奴隷に名前を与えることはまずない。

 そして奴隷もまた、そう簡単に名前を願ったりなどはしない。



 少し長くなったが、ドールが俺に名を求めた理由がまさに.....。


『妾の幸せは主とともにある』


 それなのである。

 そして俺もドールのその心意気を買い(半ば強制だったけど.....)、『ヘリオドール』という名前を名付けた。


 だからドールからしてみれば、当然夢は捨てがたいのだろうが、それでもなによりも『俺とともにある幸せ』とは代えがたいものなのであろう。


 本当に見事な忠誠バカぶりだ。頭が下がる。

 ゆえに俺にはドールを幸せにする義務があり責任がある。例え何と言われようともドールを手放すつもりはこれっぽっちもない。


「.....マ?」

「済まぬ」


 ドールの揺るがない強い意志にへこむサキ。

 事ここに至って、ようやくドールが梃子(てこ)でも動かないことを悟ったようだ。


「.....」

「済まぬ」


「.....」


 ドールが最終宣告とも取れるお辞儀をぺこりっ。


 サキはくそ生意気なJKではあるが、こうなると少し可哀想な気もしてくる。

 かと言って、ドールを譲渡するつもりは一切ない。


 では、どうしたかと言うと.....。


「何も会えなくなる訳じゃないんだ。いつかは会えるさ」


 大人の余裕を見せて、サキに慰めの言葉を贈ってあげた。

 本来なら積もりに積もった鬱憤を晴らすべく「ぷーくすくすw」と煽っても良い場面なのに.....。俺って優しくね!?


「いい加減な事を言わないでください!このごみくず!お姉様が可哀想でしょ!!」

「虫けら風情がよくも!虫けらがドールさんをさっさと渡せばいいだけでしょ!恥を知りなさい!!」

「可哀想なお姉様.....。所詮男なんてこんなものですよね.....。本当にケ・ガ・ラ・ワ・シ・イ!!」


 俺の優しさが伝わらないひと・える・いぬ子ちゃんに罵倒されつつ、サキが口を開くのを待つ。

 どんなに足掻いたところで、結果は変わらないのだから早くして欲しい。


 そして、待つことしばらく。

 遂に俺の優しさが伝わったのか、サキが.....。


「りょー↓一旦この場は引ぃてぁげるっしょ.....。ただ、サキは諦めなぃっつーの!!」

「勇者様は本当にくどいのぅ.....」


「.....」


 わかっていたことだが、当然無視された。

 ここまであからさまだと反って清々しい。


 しかも───。


「ドールちゃん。これ」

「なんじゃ?」


 サキはまるで俺の慰めの言葉への当てつけのようにあるものをドールへと手渡した。

 ドールの手元できらきらと光り輝く1つのカード。


 あ、あれは.....。


「これ、サキのプラィベートキー。ぃつでも連絡してね。

 ドールちゃんが困った時はサキが全力で助けるっしょ!!」

「勇者様.....。恩に着るのじゃ」


 そう、サキがドールに手渡したのは文通に必要なプライベートキーだった。

 俺も旅立つにあたり、ラズリさんやナイトさん、そして時尾さんから貰ったものだ。


 当然プライベートキーも魔道具の一種で決して安いものではない。

 つまり、これを渡すということはある一定以上の信頼関係があると受け取っていいだろう。

 

 そして、サキは俺に暗にこう言いたいのだ。


「慰めなんて気休めぃらねーんだっつーの。

 そんな意味のねー言葉寄越すぐらぃなら、プラィベートキーの一つでも用意しろょなー。

 マジぁりぇんてぃ↓これで社会人とかマジじゎるwぉっさんはさー、マジ使ぇねーょなーw」


 オラ、なんだかイライラしてきたぞ!


 別にサキに直接言われた訳ではないのだが、そう言われているような気がしてならない。

 俺が慰めの言葉という気休めに対して、サキが示したのはプライベートキーという実用的なもの。


 なんかこう.....。

 人としての誠意の違いというか、格の違いを見せつけられたような気がする.....。


 そして───。


「とりま、ドールちゃんまたね。手紙待ってるし!」

「うむ。勇者様も壮健での。さらじゃ」


 ついに別れの時が来たと言わんばかりにドールと熱い抱擁を交わすサキ。

 それに満更でもなさそうな表情を返すドール。


 そこにはお涙頂戴の熱い展開が.....。


「はぁ.....。はぁ.....。

 くぅ~~~~~!マジゃばたにぇん!!ドールちゃんはマジ最&高↑」

「.....」


「.....」


 アイドルとして、いや、一人の女の子として、してはいけない顔で興奮するサキ。

 今のは見なかったことにしよう.....。と言うか!よだれぐらいは拭けよ!!


 まぁサキとは色々あったが、最後ぐらいはきれいに終わらせるのが旅の醍醐味ってやつだ。


「まぁ、サキさん達も元気でな」


 だから俺も、積年の鬱憤を忘れて別れの挨拶をする。

 人として挨拶は当然だからな。ましてや、別れとなると一種のけじめみたいなものだ。


 俺はそう思っていたのだが.....。


「女神様もモリォンちゃんも元気でゃれしー」

「バーイバーイ( ´∀` )」

「ばいばいなのだー!」


 あれ?


「んじゃー、ぁんたら行くょ!ここでもサキの名前を売りまくるっしょ!!」

「「「はい!お姉様♡」」」


 あ、あの.....。


 そう言い残して、サキ達一行はグルメと観光の都市ベルジュへと姿を消していった。

 ついぞ俺には目を合わせないどころか一言の挨拶もないままに.....。


「.....」


 サキは最後までくそJKだった。

 そして、ひと・える・いぬ子ちゃんは最後まで俺をまるで汚物でも見るような目で見下していた。


「んー?歩、どうしたのー(。´・ω・)?」

「.....なんでもない」

「なら私達も早くいこー!いっしょにいーっぱいたべよーねー(*´∀`*)」


 くぅぅううう。

 アテナ!お前いいやつだな!!


 アテナの何気ない言葉(気遣い)が心に染みる。

 やっぱり最後まで俺に寄り添っていてくれるのはアテナだけなんだよな。



 この日、俺の顔には、色々意味でそれはそれは美しい虹が掛かっていましたとさ.....。




次回、本編『観光』!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


これにて、アイドル勇者サキとは一旦別れとなります。

当分は出てこない予定です。


この後は海都編をいくつかUPして、第6章へと突入します。


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