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閑話 はじめての料理!

前回までのあらすじ


主人公必死の頑張りでニケとのデートを獲得。

□□□□ ~素材集め~ □□□□


side -ニケ-


バットの進言を得て、明日歩様とのデートに向けてお弁当というものを作ることになりました。

普段は料理など全く必要ない為、何気に今回が初挑戦となります。


始めは、


「下界からお弁当を取り寄せてしまったほうが早いのではないですか?」

「ダメですぞ、ニケ様。ここで重要なのは『手作り』であるということです。

 ただお弁当を持っていけばいいということではありません」


「どういうことですか?」

「『効率』や『見栄え』ではないのです。『真心』が重要なのです。

 誰かに作って貰った物を持っていくなど言語道断。嬉しくもありません。

 それをするぐらいなら、始めから持っていかないほうがまだマシなレベルですぞ」


などと、バットに注意をされてしまいました。


どうやら『私が作った』という事実が重要みたいです。

気持ち、心構えの問題ということでしょうか。


(なるほど。確かに他者が作った物を自分の物と言い張るのは、

 戦場においては他者の軍功を横取りしたのと一緒になりますね)


危うくアテナ様の御名を辱しめてしまうところでした。


「助かりました」

「いえいえ、我輩の知識がお役に立ち光栄でございます」


専門分野(お弁当)専門家(人間)に聞くのが一番いいのは、どの分野でも一緒ですね。

そういう意味では、人間について知ることができる雑誌というものの存在は非常に助かります。



バットに感謝を伝え、早速料理の準備をしていこうと思います。

まずは雑誌を余すところなく読み、全ての内容を完璧に頭の中に叩き込むところからスタートです。


バットが言うには、この雑誌に乗っているレシピ通りに作ればまず間違いないとのこと。

つまりは雑誌の内容を全て覚えれば、料理の9割は仕上がったも同然ということになります。


(物を覚えることには自信があります。

 神界規定100万言を網羅した私からすれば、こんな雑誌程度、ものの数分で覚えられます)


・・・。


数分後。

雑誌の一文字一文字まで完璧に記憶した私は、料理をするべく必要な素材を集めることにしました。


今回作る品目は、どの雑誌にもオススメされていた


『唐揚げ』

『卵焼き』

『サラダ』

『おにぎり』

『ウインナー』


以上の5品にしようと思います。


いろいろと作るのもいいようですが、なにぶん初めての料理ということで不安もあります。

それに雑誌には『相手が男性の場合は凝ったものを作るより、お肉メニューを多めにしたり、ボリュームを重視することを最優先に』というくだりがあったので、それを踏まえた上で『唐揚げ』を大量に作ることに決めました。


さて、作るものが決まったのはいいですが、ここで問題が生じました。

それは、今回のお弁当のメインとも言える唐揚げに必要な『鳥のもも肉』についてです。


(.....う~ん。鳥と一言で言われても.....、どの鳥を使えばいいのでしょうか?)


どの雑誌にも『鳥のもも肉』としか書かれていません。

私が知る限りでも、鳥という種族は500種以上はいます。


(.....どれでもいいということでしょうか?)


こういうところはしっかりと記載して欲しいものです。

雑誌は参考書としては落第点と言えましょう。


迷った私は結局、


「それは鶏ですな」


人間の知識を有しているバットに頼ることにしました。


「なるほど。鶏でしたか」

「下界の食材で『鳥』と言えば、大体は『鶏』を差します」


「助かりました。ありがとうございます」

「しかし、鳥ということは.....。もしかして唐揚げですかな?」


「そうです。なにか問題でもありますか?」

「いえいえ、きっと喜ばれることでしょう。男で唐揚げ嫌いはあまりおりませんからな」


さすがはバットです。

鳥というワードだけで唐揚げだとわかってしまうとは.....。


そして、雑誌の有用性を改めて再確認できました。

元人間であるバットが太鼓判を押すほどの唐揚げを紹介している辺りは信用に足ります。


(いろいろと不備は多いようですが、さすがは女の極意(※あくまで人間基準)が書かれた書物です)


私の中で、雑誌の評価が落第点から及第点に上がった瞬間でした。



ちなみにこの後も、卵やら野菜などで何度もバットに確認しにいったのは言うまでもないでしょう。



□□□□ ~調理開始~ □□□□


思った以上に素材集めに時間がかかりましたが、ここからが本番です。

早速、調理を開始しようと思います。


まずはメインとなる『唐揚げ』から挑戦です。


「確か.....、鳥のもも肉を3~4cm程度でしたね」


───シュバババ!


下界で使われている定規とやらを使用して、手刀にてきっちりと4cm間隔に切り刻んでいきます。


そうそう、雑誌の多くが『一口サイズ』などという曖昧な表現が多かったので戸惑ってしまいました。

一口とは、一体なにを基準にしているのでしょうか。


(.....いい加減にして欲しいものです。書物とは後世に残す物だという認識はないのでしょうか?)



その後は、数多くの雑誌を読破したおかげで順調に調理は進んでいきました。

一切の冒険はせず、ただひたすらレシピに従いつつ.....。


そしてついに、


「最後は揚げるんでしたね。『フライ』!」


───ボッ!


お弁当のメインとなる『唐揚げ』の完成です。


ただ、


「.....?」


確かに完成したとは思うのですが、どうにも見た目が.....。

雑誌では茶色だったはずが、いま目の前にある唐揚げは真っ黒です。.....失敗でしょうか?


一応口にしてみるも、美味しいのかどうかすらわかりません。

そもそも私は、『唐揚げ』というものを食べたことすらないですし.....。


(.....う~ん。人間の食べ物ですし、元からこのような物という可能性も.....)


しかし、これは歩様が食す物。

万が一があってはなりません。


なので当然のことながら、バットに確認を取ることにしました。


「揚げすぎですな。失敗だと言えましょう」

「揚げすぎでしたか.....」


そして、結果はやはり失敗みたいです。


なかなか難しいものです。

もう少し魔法の火力を落とす必要があるみたいです。


ちなみに失敗作は不要なので、な"ー達に与えてみたところ、


「(くんくん).....な"ーーーーー!!」

「キュ、キュ、キュ.....(ま、まずい.....)」

「も、もはや炭ですな.....。で、ですがニケ様の手作りである以上、わ、我輩は最後まで食べますぞ?」


どうやら反応はイマイチでした。

所詮、失敗作は失敗だということでしょう。



・・・。



その後、何度かの失敗を経てようやく『唐揚げ』というものが出来上がりました。

見た目も雑誌にある通りですし、匂いもおいしそ.....いや、油っこい気がするので、私はあまり好きではないですね。


それでも、


「(くんくん).....な"ー!(ぱくっ)」

「キュ、キュ、キュー!(おいしい、おいしい!)」

「さすがはニケ様。完璧ですぞ。これなら満足されることでしょう」


な"ー達の反応は良かったので成功と言えましょう。


「そうですか。では、これを大量に作るとしましょう」


ここまでの過程は全て把握済みです。

後はこれと全く同じものを大量に作って『唐揚げ』は終了となります。


なにやら雑誌には『同じ味は二度と再現できない』などと記載がありましたが、そんなことはありません。


材料。

切り方。

下準備。

そして、揚げ方。


全て先程と寸分違わぬ行程を行えばいいだけなのですから。


つまり、単なる作業に他なりません。

まだ、な"ーに餌を与える方が難しいぐらいです。


(では、さっさと『唐揚げ』を作り終えてしまいますか)



こうして『唐揚げ』をマスターした私は、明日のお弁当用に大量の『唐揚げ』を作るべく、山のように積み上げられた鶏に手をつけ始めました。



□□□□ ~完成!愛情たっぷり弁当~ □□□□


ようやくお弁当が完成しました。

容器に詰めるのも雑誌通りで完璧です。


「どうでしょうか?」

「完璧なお弁当だと言えますな。一時はどうなるかと心配しておりましたが.....」


それは言ってはいけません。

私のせいではなく、詳細を記載していない雑誌が悪いのですから。



例えば、『唐揚げ』を作り終えた後の『卵焼き』ではこんなことがありました。


「確か、卵を焼けばいいんでしたね」

「その通りです」

「ファイアー!」


私がそのまま卵に向かって魔法を繰り出したところ、


───パァン!


「!?」


卵は突然弾け飛んでしました。


「ニ、ニケ様!直接焼くのではありませんぞ!?割るのです!」

「そうでしたか.....」


それならば、きちんと『卵を割る』と記載して欲しいものです。


そしてその次も、失敗してしまいました。

原因はというと.....。


「ニ、ニケ様!卵はただ割ればいいのではなく、殻は取り除くのです!殻は食べませんぞ!?」

「そ、そうでしたか.....」


本当に雑誌はいい加減です。

初めて料理をやる者に対しての配慮がなされていません。


(この場合は、『卵は割り、殻を取り除いた上で容器に入れる』と記載しないと理解できない者が多いのではないでしょうか?)


その後も、大さじやら小さじといった分量で書かれていないものにも苦戦はしましたが、卵焼きはなんとかなりました。



3番目の『サラダ』については特に問題なく終わりました。

と言っても、野菜をそのまま入れようとして、バットには止められましたが.....。


そもそも、雑誌にはプチトマトというものをそのまま入れていましたし、『ボリュームを最優先に』との記載もあったので、他の野菜もそのまま入れてしまったほうが良いと思ったのです。



4番目の『おにぎり』・5番目の『ウインナー』については、もはや慣れてきたと言ってもいいでしょう。

米の中に入れる鮭を魚のまま詰めこんだり、タコをウインナーにしたりするようなことはありませんでした。



・・・。



そして完成したのが、バットに合格をもらったお弁当という訳です。

悪戦苦闘はしましたが、それでもやりきったという充実感が全身を包みます。


「歩様は喜んで頂けるでしょうか?」

「ご安心ください、ニケ様。これで喜ばない者などおりません」


元人間のバットがそう言うのですから間違いはないでしょう。

歩様の喜ぶ姿が目に浮かぶようでついつい顔が綻んでしまいます。ふふふふふ。


「では、我輩は予てよりご指示を頂いていた報告に行って参ります」

「よろしくお願いします」


バットにはすっかりと頼りっぱなしになってしまいました。

バットはバットで、どうやら仕事よりも私のことを気に掛けてくれていたようです。



・・・。



とりあえず、私もお弁当が完成したのでホッと一安心していたのですが、あることを思い出しました。

ほとんどの雑誌には記載されてはいなかったのですが、ある一つの雑誌にこんなことが書かれていました。


『最後に愛情をたくさん詰め込んで、お弁当の完成です!』


(.....?どういうことでしょうか?)


バットに聞きたいところですが、先程出掛けてしまいました。


いや、さすがに私でも『愛情』という感情は知っています。

私が歩様に抱いている感情がまさにそれなのですから。


ただ不思議なのは、お弁当にどうやったら愛情を詰め込めるか、ということです。

どう考えても不可能です。感情をお弁当に詰め込める訳がありません。


そうなると.....、


(この場合は、愛情という『感情』ではなく『材料』ということでしょうか?)


私がこう思ってしまったのも仕方がないことです。

今の今まで不備だらけの雑誌をもとにお弁当作りに悪戦苦闘していたのですから。


人間はいい加減である。

こちらがある程度考えてやらねばいけないものだと再確認して行った結果が、『おにぎり』と『ウインナー』なのです。


とにもかくにも、私は愛情という名の材料をひたすら探し始めました。

あらゆる雑誌、あらゆる書物、あらゆる媒体を駆使して。


結果、見つけた物が.....。


後はどれぐらい詰め込めばいいのかですが、これもハッキリとは書かれていないようですので困りました。

まぁ、愛情というぐらいですし、たくさん詰め込めば間違いはないのでしょう。


そして、出来上がったのが『愛情たっぷりのお弁当』です。


(歩様、お待たせ致しました。今、お側に参ります)



こうして、全ての準備を整え終わった私は下界へと降臨していきました。



次回、初デート!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


今回のお話は料理をバカにしたものではありません。


料理というものを全く知らず、更には主人公と出会うまでは人間にも全く興味のなかった『神』という存在が、実際に料理をしてみたらこんな感じなんだろうな、というのを書いてみました。


また作中でニケが言っている「作業に他ならない」という発言も、ニケだからこそ言えるものとなります。

それは勝利の女神である能力が関わってくる訳ですが、それはいずれまた。


要約しますと、『ニケからすれば料理に限らず、人間の行いのほとんどが作業に他ならない』ものということになります。



これからも『歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~』をよろしくお願いします。


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