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第112歩目 再びの指名依頼!

前回までのあらすじ


トキオさんの魔勇者疑惑が生じたが、何も知らないことにした。

□□□□ ~意外な依頼元~ □□□□


フルールに到着して、早1ヶ月。

無事目的のダンジョンをクリアすることができた。


到着した当初はEもDも両方健在だったのだが、ちょっと羽目を外し過ぎたせいか、Eは他の冒険者にクリアされてしまった。

その為、思ったよりもダンジョン攻略に時間がかかってしまったという訳だ。


「これで良し。では、頼みますね」

「承りました。当サービスをご利用頂き誠にありがとうございます」


さすがにこれだけ長期間離ればなれになっていると、アテナやドールも寂しがっているかもしれない。

だから無事ダンジョンをクリアした報告と、明日王都に向けて出発する旨の手紙を送り、安心させてあげることにした。


さて、やることもやったし、明日に向けて鋭意を養っておくかと思っていたら.....


「あっ.....。そう言えば、竜殺し様に指名依頼がきていましたよ」

「指名依頼?」


どうやら俺に指名依頼がきているようだ。


このフルールも二つのダンジョンが閉鎖してしまったので、パレス同様、空前の旅ラッシュに沸いている。

その為、各商人が少しでも優秀な冒険者を雇おうと躍起になっているのだ。


当然俺もその対象の一人になり得るのだが、俺の場合は他の冒険者とは違って少し勝手が異なる。


俺は竜殺しという大層な称号を持っている上、一応SSランカーだ。

世間一般では超超優秀な冒険者であり、それこそ下級や中級程度の貴族では、ましてや商人ごときでは依頼を出すこと自体が恐れ多い存在となっている。


当然、俺にはそんな自覚はない。


自覚はないのだが、世間はそう見ているらしい。

だから余程の理由がないと、そんな恐れ多い冒険者には依頼を出してはこないのだという。


例えるなら、救急車がいい例だと思う。

たかが微熱程度の風邪で、わざわざ救急車を呼んだりしないし、呼んではいけない。

もっと緊急性の高い用件で救急車は呼ばれるべきだ。


今、それと同じことが目の前で起きていると思って欲しい。


ここの領主が中級貴族ということを鑑みれば、フルール程度の町では『俺』という冒険者に依頼を出すこと自体が恐れ多いということになる。世間一般的な考えでは。

とは言うものの、俺としてはきちんと報酬を出してくれるのなら、どんな依頼だって引き受けるつもりだ。


「緊急ですか?依頼元はどこです?」

「緊急ではなく、護衛の依頼みたいですね。依頼元は『アニマール』のたまちゃんさんみたいです」


「引き受けましょう!」

「え?仕事内容を確認しなくてもいいんですか?」


「大丈夫です。彼女は信頼できるキャバじょ.....じゃなくて、女性ですので」

「はぁ.....?では、先方にはそのようにお伝えしますね」


「それも結構です。今からそこを訪れる予定ですので、俺が直接伝えます」

「そうですか?では、よろしくお願いします」


オシーネさんが怪訝な表情を向けてはいるが、別に他意はない。

俺としてはきちんと報酬を出してくれるのなら、どんな依頼だって引き受けるつもりなのだから。



こうして俺は指名依頼を受諾し、依頼元である『アニマール』へ向けて喜び勇んで向かうのだった。



□□□□ ~謎の少女~ □□□□


翌日。

俺は王都に向けて出発した。


『アニマール』のたまちゃんからの依頼内容は奴隷達の護送だった。

なんでも武器フェスティバルに向けて、奴隷を出品する為なのだとか。


武器フェスティバル自体には奴隷は関係ないのだが、盛大なお祭りらしく、同時にオークションも開催されるらしい。

それに出品する奴隷を護送して欲しいというものだった。


なんてことはない普通の依頼だ。

別に俺でなくとも務まりそうだが、いつもお世話になっていたたまちゃんからの依頼だ。喜んで引き受けた。


そう、喜んで引き受けたのだが.....


やはり不憫でならない。


奴隷ということもそうなのだが、何よりもこれから向かう先は王都。獣人には差別的な場所だ。

当然、この奴隷達を購入していくのは獣人に特に排他的な人間族がほとんどだろう。


「「「「・・・」」」」


奴隷達もそれが分かっているからだろうか、()()全員の目が死んでいる。

正直、ちょっと怖い。生きた屍。生けるゾンビみたいで.....。


(ドナ ドナ ドナ ドナ 奴隷を乗せて

 ドナ ドナ ドナ ドナ 荷馬車が揺れる)


俺の頭の中ではこんな感じでずっと、ド○ドナの歌が延々とリピートされていた。


と、そんなお通夜状態の中、


「これ、そこのお前」

「?」


一人だけ場違い、そう例えるなら、まるでピクニックにでも出掛けていると勘違いしていそうな明るく弾んだトーンで声を掛けてきた少女がいた。


「なにか食べるものはないのだ?我は腹が減って死にそうなのだ」


死にそうと言う割には、全然そんなふうには全く見えない。

むしろ、元気が有り余りすぎているといった感じだろうか。


一応、奴隷商人に了解を取って、アテナ用のお菓子を与えてみたところ、


「うまっ!?な、なんなのだ、これは!?」

「お菓子。.....てか、急いで食い過ぎ」


驚き、感動し、誰にも取られまいと急いで頬袋に目一杯詰め込む勢いで食べ出した。

その様がどこかリスっぽく見えたので、ちょっとほんわかしてしまった。


ちなみにこの子のお陰なのか、他の奴隷達もお菓子に興味を持ってくれたようで全員にアテナのお菓子を与えることにした。

生きた屍だった奴隷達が、この瞬間だけは生きた奴隷に戻っていた。すぐ戻ってしまったけど.....。


やはり奴隷の闇はとても深いようなのだが、


「これ、もっとよこすのだ」

「いやいや、お前食い過ぎだろ。どんだけ食べるんだよ?」


この子だけは闇なんてものは一切抱えておらず、むしろ自由だ。


「よこすのだー!よこすのだー!よこすのだー!」

「・・・」


自由どころかわがまま過ぎて、どこかの駄女神を彷彿とさせる。

コロコロ表情が変わったり、欲望に忠実なところもよく似ている。

まるで、どこかのお姫様とかお嬢様と言ったほうがしっくりくるような清々しいまでのわがままぶりだ。


とりあえず、のだー!のだー!うるさいので、別のお菓子を与えてみたのだが.....


「うまっ!うまっ!うまっ!」

「だから急いで食い過ぎだっての!」


またしても、誰にも取られまいと急いで頬袋に目一杯詰め込む勢いで食べ出した。


奴隷という身分上、お菓子を食べる機会なんてなかったのだろうから気持ちはわかる。

わかるのだが、食べ方が下品というか.....、品性の欠片も感じないというか.....。


どうやら、まるでお姫様とかお嬢様とかみたいだ、と思ったのは気のせいだったみたいだ。

そもそも、こんな下品なお姫様がいたら嫌だ.....。


それにしても、この子は態度からしても、どこか他の奴隷達は一線を画しているようでどうしても気になる。

実は、お姫様とまではいかなくとも貴族のお子さんだったり.....。


(.....いや、さすがに無理があるか。

 だって角あるし、羽あるし。どう見ても獣人にしか見えないもんな。

 じゃあ、獣人の国の貴族.....?だけど、獣人の国はないって聞いているしなぁ.....)


「この子なんなんです?奴隷なんですよね?」

「もちろんですよ」


いろいろと謎が多い中、確認のため奴隷商人に訊ねてみたらやはり奴隷だった。


のだが.....


「我は奴隷などではないのだ」


本人は否定をしてくる。.....どういうことだ?


「奴隷なんですよね?」

「奴隷ですよ」

「奴隷ではないのだ」


「.....?奴隷なんですよね?」

「奴隷ですよ」

「奴隷ではないのだ」


「.....え、えっと?ど、奴隷なんですよね?」

「奴隷ですよ」

「奴隷ではないのだ」


全く意味がわからない。

俺はからかわれているのだろうか。


仮に本人に奴隷としての認識がないとしても、それならば、なぜ奴隷商人は注意をしないのだろうか。.....それともできない?なぜ?


「.....奴隷じゃないなら、お前はなんなんだよ?」

「我はお前ではないのだ。モリオンなのだ」

「え?モリオ.....」


と、そこまで言い掛けた時に奴隷商人から待ったがかかった。


「竜殺し様、その奴隷に『名前を与える』なら購入してくださいね?」

「あっ!す、すいません.....」


(あぶな!危うく俺の奴隷にするところだった。なんなんだよ、この子は.....)


この世界では『名前』がとても大切な意味を持つのだと言う。

だから多くの人々に、『愛名』と『愛称』が同時に存在する。


例えばドールの場合は、愛名は『ヘリオ』で愛称が『ドール』となる。

『愛称』は親しい間柄なら誰でも気軽に呼んでいいものだが、『愛名』はお互いの了承が合って初めて呼べるものになるらしい。また、その過程で特別な何かが発生するのだとか。


そしてその『愛名』と同じ形態を取っているのが、『奴隷に名前を与える』行為だ。

実は奴隷のほとんどが名前がない。だから『奴隷に名前を与える』ということは非常に特殊なケースとなる。

この世界ではたった3人しか名前持ち奴隷がいないらしいので、それだけでも十分にわかってもらえると思う。


そして今、この『モリオン』という子が自ら名前を明かしたことで本人の了承がおりたことになる。

そこに、俺がそのまま『モリオン』という名前を告げてしまったら.....。


(これも新手の売り込みか!?名前を与えさせて無理矢理にでも買わせる的な.....)



そんな俺の思いとは裏腹に、当の『モリオン』こと謎の少女はおいしそうにお菓子をパクついていた。



□□□□ ~危険な少女~ □□□□


謎の少女の策略から数日が過ぎた。


「これ、早く食べ物をよこすのだ」

「ダメ。さっき食べたばかりだろ」


今ではすっかりとあしながおじさんならぬ、食べ物お兄さんとして懐かれてしまった。おじさんではないぞ!


しかも.....


「はーやーくーよーこーすーのーだー!」

「あ~、もう!鬱陶しいな!」


わがままなだけではなく、俺の回りをくるくるとまとわりついて離れようとしない。

ほぼ24時間俺に.....、いや、食べ物にずっとベッタリ状態だ。


この『モリオン』という少女は、身長120㎝あるかないかくらいで完全に幼児体型。

紫紺色の髪で、ショートながらもツーサイドアップに結っている。見た目は普通よりちょっとかわいいぐらいだ。

そして頭部にちょこんと生えているかわいらしい二本の角。背中にはこうもりのような羽が慎ましく生えている。

更には体の割には太く大きな尾。肉食獣を連想させる鋭くギザギザな歯は噛まれたらかなり痛そうだ。

いつも元気いっぱいで、かわいいというよりかはちょっと危なっかしい印象。

名前の通り、暗くて深い黒眼が特徴的だ。


そして何よりも顕著なのが、箱入り娘か?、と思わせる程の世間知らず。

何も知らない、何も教えられていない。そんなシーンに何度も出くわした。


ある時、モリオンに奴隷になった経緯を訪ねてみた。


「我は奴隷などではないのだ」

「もうそのネタはいいから。なんで奴隷になったんだ?」


「奴隷ではないのだー!」

「わかった、わかった、お前は奴隷じゃない。.....それで?」


むきー!と怒っていてもかわいい.....と思いたいのだが、ギザギザな歯がちょっと怖い。

あの歯でガブリっとやられると、シャレにならないぐらい痛い。早く斬撃耐性が欲しい.....。


「我は腹が減っていたのだ」

「それで?」


「だから食べたのだ。そうしたら捕まったのだ」

「あぁ.....、なるほど。無銭飲食したのか」


詳しく聞くと、お金の存在を知らないようだ。

今までどういう生活をしてきたのだろうか。親は何をしていた?


「全員殺しても良かったのだ。でも食べ物がある場所に連れていくと言われたのだ」

「.....それがここだったと?」


「そうなのだ。三食昼寝放題なのだー!」

「・・・」


なのだー!と万歳してきゃっきゃと楽しそうにしているが、全然ほんわかできる状況ではない。

いろいろとツッコミ所が満載だ。


まず奴隷が三食昼寝放題という考え方が異常だ。

確かに奴隷は商品なので、奴隷商に於いては奴隷の体調管理などしっかりと行うだろう。

三食しっかり出るみたいだし、誰かに買われなければ何もすることはないだろうから昼寝放題でもある。


しかし、奴隷はどこまでいっても奴隷に過ぎない。

この子はちょっとお気楽過ぎる。


それに、「全員殺しても良かった」という言葉が気になる。


見た目はまだ年端もいかない少女、それこそドールと同じぐらいに見える。

それなのに、こんな物騒なことを言っている.....。


あまりにも不審に思ったので鑑定してみたら、


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『モリオン』 レベル:ーーー 危険度:ーーー


種族:ーーー

年齢:ーーー

性別:ーーー


職業:ーーー

称号:ーーー


体力:ーーー

魔力:ーーー

筋力:ーーー

耐久:ーーー

敏捷:ーーー


【一言】でないと思ったー?ざんねーん!でちゃいましたー!あーははははは( ´∀` )

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(ちょっ!?なんだこれ!?.....てか、名前持ちじゃねえか!)


いろいろと驚かされた。


まず一番驚いたのが、アテナの【一言】が一緒にいなくても、離ればなれでも有効なことだ。

「え?一番驚いたのがそこなの!?」とツッコミたい方もいるだろうが、普通に驚くと思う。


よくアテナがふざけて、「夫婦~?」とか「永久にー?」とか聞いてくるが、まさかこんな形で実現してくるとは思わなかった。

と言うか、いつも見られているんじゃないかと思うと気が気でない。羽目を外していたのも見られた!?


と、まぁ冗談はほどほどにして.....。


実際問題、これは相当ヤバいと思う。

このステータスが全く見えない件は以前にも経験がある。


一つはレベル不足。

鑑定のレベルが低いと見える範囲が限られてしまうのだ。

現にレベル3の鑑定スキルでは、ステータスは確認できるものの、相手のスキル構成は見ることができない。


もう一つは確認することができないもの。

アテナのゴッドシリーズ(笑)なんかはいい例だ。

あれは取得すれば鑑定できるのだが、取得する前は全くの謎に包まれている。


つまりは未知のもの扱いとなっている。

役に立たないスキルではあっても、一応、神のスキル。そういうことなのだろう。


では、全てが見えていないこの『モリオン』という子はどちらなのだろうか.....。


正直、どちらであってもヤバい存在なのは間違いない。

レベル3よりも上だとしたら脅威だし、未知の存在だとしたら困惑でしかない。



(この『モリオン』って子は本当になんなの!?)



謎は深まるばかりだった。



次回、匂いの原因!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


今日のひとこま


~アニマール~


「いらっしゃいませ、アユム様」

「昨夜ぶりです。いつもの()達をお願いできますか?」

「畏まりました。こちらへどうぞ。.....『たま(※1)』と『ちゅん(※2)』に指名入りま~す!」


───ざわざわ

───ざわざわ


「おいおい、あいつ昨日も来てなかったか?」

「なに言ってるんだ?お前。あいつはここ最近毎日見かけるぞ」

「そうそう、それで毎回同じ()達を指名していくんだよ」

「店もそれがわかっているから、あいつが来たら嬢ちゃん達が接客中だろうと切り上げさせるんだよ。

 実際羽振りもいいしな。店にとってはあいつは上客中の上客って訳だ。.....それに俺達にとってもな」


しばらくすると.....


「また来たの。全然嬉しくなんかないんだからねっ!でも.....仕方ないから相手してあげる」

「あ~。いつ来ても、その王道のツンデレはいいものだ。よろしく、たまちゃん」

「ぱぱ~!今日も来てくれたの~?ちゅんうれしい~!」

「たまちゃんとちゅんに会えるなら、ぱぱは毎日来ちゃうぞ!」


「では、皆さん。今からは全て俺の奢りとします。思う存分、派手にやってください。.....乾杯!」

「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」

「「「「アニマール!アニマール!アニマール!アニマール!アニマール!アニマール!」」」」

「「「「竜殺し!竜殺し!竜殺し!竜殺し!竜殺し!竜殺し!竜殺し!竜殺し!竜殺し!」」」」


「なんかバレてる!?」


こうして俺は羽を伸ばしすぎた結果、夜の帝王としてその異名が轟くことになった.....。



(※1)源氏名。猫人族の奴隷。現在人気No.1のキャバ嬢 (完全に主人公のお陰)以前はNo.3。

(※2)源氏名。雀人族の奴隷。現在人気No.2のキャバ嬢 (完全に主人公のお陰)以前はNo.8。


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