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第104歩目 はじめてのイベント!女神アルテミス⑦

前回までのあらすじ


アルテミス様は本当に甘いものには目がなかった。

□□□□ ~ぐ~たら女神~ □□□□


時は16時を少し過ぎた頃、俺は酒場へと向かっていた。


「アルテミス様。アルテミス様。もういい加減起きてください。そろそろ酒場に着きますよ?」

「ふわぁ.....。いや~、すっかり寝ちまったようだね」


そして、俺の腕の中で気持ち良さそうに寝ていたアルテミス様を同時に起こしてもいた。


スイーツに満足してもらったあの後、俺は宿屋でアルテミス様にマッサージを施した。

いろいろとからかわれはしたが、それでもマッサージには満足してもらえたらしく、そのままアルテミス様は寝入ってしまわれたのだ。


マッサージは資格こそ持ってはいないが、サークルで培った数少ない俺の特技だ。

「マッサージなら下心がバレずに色んなことができるんじゃね?」と思って習得したのだが、結果は.....。


そんなこんながあって、俺の腕の中でこんこんと静かに眠っている眠り姫を起こしている訳だ。

宿屋でも一度起こしたのだが、どうやらこの眠り姫は寝起きがあまりよろしくないらしい。なかなか起きてこない。

そんな理由もあって、俺がお姫様抱っこで酒場まで運んであげている次第だ。


(運ぶことじたいはいいんだが.....、いい加減起きてほしい。さすがに少し恥ずかしいぞ?)


道行く人々からの何ともにやけた視線が妙に恥ずかしい。


「酒場に着いたら起こしておくれ」

「だから!もう着くんですって!」

「ぐぅ~.....」

「・・・」


そして、そのまままた寝入ってしまった。


寝顔はそれこそまだ少女らしき面影があるのに、寝姿はおっさんそのものだ。

鼾はかくし、だらしなく涎は垂らすし、恥じらう様子も微塵にも感じられない。


(はぁ.....。神界でのお世話役は確か神獣達だったか?相当苦労しているんだろうなぁ.....)


溜め息をつきながらも、


「アルテミス様。もう本当に着きますよ?起きてくださいって」

「後5分~」


俺はひたすら起こし続けるのだった。


(後5分~じゃねぇんだよ!もう着くって言ってんだろ!いい加減起きろっての!)



アルテミス様がなかなか起きない中、目的地の酒場はすぐそこまで迫っていた。



□□□□ ~イベント~ □□□□


酒場に着いた。

入り口前は大勢の人々でごった返している。


「なんであんなに人が集まっているんだい?」


人間など眼中にないアルテミス様でもさすがに気になったようだ。


「お店が開くのを待っているんですよ。

 普段は24時間営業なんですが、今日だけは17時からの営業なんです」

「ふ~ん」


あら、意外とあっさり。


アルテミス様の関心は既になくなってしまったようだ。

普通なら営業時間が変わっている理由を尋ねたりしそうなものなのだが.....。


とりあえず、アルテミス様とともに店の入り口前まで歩いていくと、


「お、お、お客さん。こ、こん、こんばんはでしゅ!」

「ナイトさん、こんばんは」


ナイトさんが声を掛けてきた。


当然、待ち合わせをしていた訳なのだが、妙にそわそわというか落ち着きがない。

お酒を早く呑みたいという気持ちも当然あるのだろうが、それよりも、こんなに大勢の人々に囲まれているという状況が慣れないのだろう。


「お~!ドワーフじゃないかい!あんたも呑みにきたのかい?」

「ア、アテ、アテナちゃんのお姉さんでしゅね?は、はじ.....」

「あ~、いいよ、いいよ。

 あんたのことは知ってるから挨拶なんていらないよ。それよりも一緒に呑もうじゃないか!」


アルテミス様はそう言うと、おっさんみたいにガハハと笑いながら、ナイトさんの小さい肩をバシバシと叩いてる。

すごく痛そうだ。ナイトさんだから平気なものの、俺だったらきっとあまりの痛さに叫んでいたことだろう。


そして.....


「は、は、はいでしゅ!よ、よろ、よろしくお願いしましゅ!」

「あんたはなんでも負け知らずなんだってね?今日は敗北を知ることになるよ?覚悟しな!」

「ボ、ボク、ボクが負けることなんてありえないでしゅ!か、かえ、返り討ちにしましゅでしゅ!」

「あひゃひゃひゃひゃひゃw世の中にはどんなに頑張っても勝てない存在がいる。それを思い知るがいいさ」


そんなアルテミス様のあけすけで屈託のない態度が、どうやらナイトさんの緊張をほぐしたようだ。

更には、数年来の呑み友達みたいな雰囲気すらも作り出している。


(お酒効果って偉大だなぁ.....。人見知りするナイトさんと、こうも一瞬で親しげになるとは.....)


アテナもそうだが、こういう馴染みやすさというか、人と一瞬で親しくなってしまう辺りはさすがだと思う。

ただアルテミス様の場合は『興味を持った対象にのみ親しくなる』という点が、『万人と親しくなる』アテナとは大きく異なるぐらいだろう。


・・・。


17時。開店だ。

多くの人々が一斉に店に雪崩れ込む。


その光景は端から見たら奇妙に映っていることだろう。

何をそんなに慌てる必要があるのかと.....。


当然、理由がある。


俺はマイクを握りしめ、


「皆さん。本日は私が主催するイベントにご参加頂き、本当にありがとうございます。

 本日この酒場は私が貸しきっておりますので、ご参加頂いた皆さんの飲食代は全て無料となります。

 ですので、どうぞ思う存分派手に飲み食いをして頂ければと思っております」


大勢の客、もとい参加者に向かって挨拶をした。


「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」

「「「「「竜殺し!竜殺し!竜殺し!竜殺し!竜殺し!竜殺し!竜殺し!」」」」」

「「「「「土下座!土下座!土下座!土下座!土下座!土下座!土下座!」」」」」


酒場全体から沸き起こる大歓声。

まさに本日の主催者である俺を英雄かの如く讃える声援に満ち溢れている。


「かかかか貸し切りでしゅか!?お、お、お客さん、しゅしゅしゅしゅしゅごいでしゅ!」

「へ~。貸し切りとは気が利くね。これならシラけた野郎がくることもないし、好きなだけ呑めるってもんだ」


どうやらアルテミス様もご満足頂いているようだ。

ナイトさんなんて、もはや神を奉るかの如く尊敬したような眼差しを俺に向けている。


「さて、ここにお集まり頂いた皆さんには確認するまでもないでしょうが、念の為申し上げておきます。

 本日の飲食代は全て無料となっておりますが、それを満たす為にはある勝負をしていただきます。

 その勝負をして頂くことが、このイベントの目的であり、参加資格となりますのでよろしくお願いします」


「「「「「ぶぅー!ぶぅー!ぶぅー!ぶぅー!ぶぅー!ぶぅー!ぶぅー!」」」」」

「「「「「どケチ!どケチ!どケチ!どケチ!どケチ!どケチ!どケチ!」」」」」

「「「「「土下座!土下座!土下座!土下座!土下座!土下座!土下座!」」」」」


酒場全体から沸き起こる野次。

さっきまでとは違って、俺を度量の狭いクズ野郎かの如く詰る罵声に塗り変わってしまっている。


参加者のレベルもなかなか高いようだ。


「では、気になるその勝負の内容とは.....」


参加者全員が固唾を飲んで俺を見守っている。

全員がその勝負の内容を知った上で、参加しているのにも関わらず.....。


本当に参加者のレベルはかなり高い。

もはやエキストラを疑うレベルだ。劇団『歩』一座と名乗ってもいいだろう。


「し、し、勝負でしゅか?ボ、ボク、ボクも参加していいんでしゅよね?」

「いいねぇ!腕が鳴るよ!当然あたしも、その勝負とやらに参加させてもらうとするかね!」


一方、何も知らされていないアルテミス様とナイトさんはやる気に燃えている。

酒場での勝負と言えば、大体は決まっているようなものだが、その勝負の内容に興味津々といったところだろうか。


すると.....


突如、酒場のライトが落とされ、酒場全体が真っ暗となった。


「ひ、ひ、ひぃ!。ま、ま、真っ暗で怖いでしゅ!」

「あひゃひゃひゃひゃひゃwアユムっちのくせになかなか凝った趣向をするじゃないかいw」


(ちょっ!?なにこれ!?俺は何も聞いていないんですが!?)


───ざわざわ

───ざわざわ


思わぬ演出に俺も驚いたが、しかし、これ以上ないぐらいに舞台は盛り上がっているようだ。

このライトを落とした演出も、どうやら俺のマイクパフォーマンスに合わせてくれているのだろう。


そして、全てのお膳立てが揃ったところで、


「勝負の内容とは.....こちらにいらっしゃるアルテミス様と呑み比べをして頂くことです!」


俺は高々に宣言した。

それと同時にアルテミス様がライトアップされる。


「へ?」


ライトアップされたアルテミス様は一瞬きょとんとした表情を見せるも、すぐさま全てを理解し、そして悪戯心をくすぐられた悪魔の如く獰猛な笑顔を見せ始めた。


とりあえず勝負を始める前に、参加者には軽くアルテミス様について説明しておくべきだろう。


「こちらにいらっしゃるアルテミス様ですが、詳しくは言えませんが、とても高貴な身分の方となります。

 と言いましても、ご安心ください。何も畏まる必要はありません。本日は無礼講なのです。

 なぜなら、アルテミス様ご本人が「身分の壁など取っ払って、楽しく呑んでみたい」と仰せだからです」


───ざわざわ

───ざわざわ


所々で、アルテミス様に対して賛辞を送る言葉が聞こえてくる。


参加者の多くは、やんごとなき人など身分に拘るゴミばかり、と思っている人が多いようだ。

そんな中、「無礼講で気軽に呑みたい」と言っているのだから感心ひとしきりなのだろう。ただそういう設定なだけなのだが.....


ここで、俺もボルテージを少しずつあげていく。


「さて、こちらのアルテミス様なのですが、

 なんと呑み比べにおいてはいまだに無敗!負け知らずとなっております」


───ざわざわ

───ざわざわ


酒場がざわつく。

驚きと動揺、そして、信じられないといった様々な感情が酒場全体を包んだ。


さもありなん。

アルテミス様は女神ではあるけれど、見た目だけなら少しヤンチャに見える美女そのものだ。

故に、「そんな美女が酒豪?いまだに無敗?ちゃんちゃらおかしいぜ」みたいな空気が漂い始めた。


いい傾向だ。

俺はこれを待っていた。


だから.....


「.....なぁ、お前ら!それでいいのかよ!お前らは悔しくないのかよ!?

 お貴族様だから偉い?お貴族様だから強い?あぁ、それはお貴族様だから仕方がないだろう。

 でもだ!でも、酒はどうなんだ!?酒は人を選ぶのか!?お貴族様だからって酒豪なのか!?」


───!?


先程までざわついていた酒場がシーンと静まり返った。

紛れもなく俺の変調が原因だろう。突然どうした!?的な。


俺は更に吼えた。


「違うだろ!酒の前ではみんな平等だろ?平民も貴族も関係ない!あるのは下戸か酒豪なだけだ!

 それがどうだ?平等であるはずなのに、結局お貴族様に勝てないでいるじゃないか。情けない。

 俺は情けないよ!所詮平民はお貴族様に勝てないってか!?本当にてめえらは情けないやつらだよ!

 平民の維持を見せてみろや!雑草魂を見せてみんかい!この負け犬どもが!」


盛大に煽った。

盛大に盛り上げた。


そして.....


「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」

「「「「「平民!平民!平民!平民!平民!平民!平民!平民!平民!」」」」」

「「「「「打倒貴族!打倒貴族!打倒貴族!打倒貴族!打倒貴族!打倒貴族!」」」」」


俺の熱き平民魂は参加者全員に伝わったようだ。

今までは、どこかテキトー感漂う浮わついた雰囲気を醸し出していた参加者達が、今では打倒貴族、打倒アルテミス様にその執念を燃やしている。


これこそが俺の待ち望んだ理想の結果だ。

そもそも普通に呑み比べをしたところで、アルテミス様が完勝するのは火を見るに明らかだ。

しかし敵わないにしても、相手が命を、執念をかけて挑んでくるならば、勝負をしているアルテミス様も楽しめるというもの。


そして、俺はボルテージが最高潮に上がった参加者(ハイエナ)どもに、褒美を与えることにした。


「てめえら!命懸けで呑めや!呑んで、呑んで、呑みまくれ!死ぬまでとことん呑めや!

 そして、見事アルテミス様を討ち取った野郎には褒美をくれてやる!喜べ!

 賞品はアルテミス様だ!アルテミス様をてめらの好きなようにしていい!脱童貞のチャンスだろ!?」


「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」

「「「「「童貞!童貞!童貞!童貞!童貞!童貞!童貞!童貞!童貞!」」」」」


童貞コールが酒場全体を揺るがしながら、俺の主催者挨拶は幕を閉じた。


もはや酒場は異様な空気に支配されている。

酒場というよりかはまるで戦場。そう、戦場に立っているかのような雰囲気だ。


参加者全員の瞳がギラギラとしている。

ある者は打倒貴族の執念。ある者はアルテミス様目当てのハイエナ。

様々な人の思惑が、酒場全体を包み込んでいる。そこにいるだけでも背筋がゾッとする思いだ。


「こ、こんな感じなんですが.....。そ、その、勝手にいろいろ決めてしまってすいません.....」

「あひゃひゃひゃひゃひゃw最高に面白かったwいや~、人間達の面構えもいい感じじゃないか。

 これでこそ叩き潰しがいがあるってもんさ。この際、多少の不敬ぐらいは大目に見てあげるよw」


挨拶を終えてすぐアルテミス様の元へ飛んでいき、平身低頭に謝罪していた俺に神様からの慈悲が言い渡された。

ある程度は大丈夫だろうとの予想はあったが、それでも不安なことは不安だった。


日本では『幹事の舞日さん』と恐れられた(※誰にも恐れられていない)この俺だが、ついつい調子に乗る癖がある。

故に、アルテミス様に対して不敬を働いたのではないかと内心ビクビクしていた。


しかし、蓋を開けてみれば大成功だった。

アルテミス様も、参加者達もやる気に満ちている。あー、良かった.....。



こうして、神と人の壮絶な戦い(呑み比べ勝負)が、今ここに繰り広げられることになった。



□□□□ ~はじめての敗北!~ □□□□


時は深夜4時。


───ばたんっ!


最後の挑戦者が息絶えた(気絶した)


「.....ひっく。なんだい、なんだい、だらしがない連中だね。

 酒ぐらい1日ぶっ通しで呑めないようじゃ、このあたしに勝てる訳がないだろ?あひゃひゃひゃひゃひゃw」


そして、アルテミス様の悪魔の如き高笑い(勝利宣言)が酒場に木霊する。

17時から今の今までずっと呑み続けているのに、さほど酔った印象を受けないのはさすがの一言だ。


ちなみに俺は途中抜け出したりしている。

アテナ達のお風呂や寝かし付け、挑戦むなしく敗れた参加者達を介護する必要があったからだ。


「アルテミス様って、そもそも酔うんですか?」

「当たり前だろ?今だって微酔いなぐらいさ。あひゃひゃひゃひゃひゃw」


───バシバシ!


「痛い、痛いですから!叩かないでください!.....と言うか、全然酔ってないですよね?」

「そうかい?じゃあ、酔ってないかも。あひゃひゃひゃひゃひゃw」


───バシバシ!


(痛いって言ってんだろ!肩を叩くんじゃねぇ!この酔っ払いが!)


酔っているかどうかはわからないが、ご機嫌なのは確かだ。

肩を叩く力に遠慮がない。気遣いもない。優しさもない。.....本当に痛い。


一方、素面に近いアルテミス様に対して、ナイトさんはと言うと.....


「お客さん!アテナちゃんのお姉さんはすごいですね!ボクとここまで呑めた人は初めてですよ!」


「お前誰だよ!?」と思わず思ってしまう程、めっちゃ饒舌になっていた。


ナイトさんは酔えば酔うほど饒舌になる体質らしいが、ここまで饒舌なナイトさんは初めてだ。

俺と呑み比べをした時でも饒舌にはなっていたが、それでも、『す』は『しゅ』のままだった。


それが.....


「さぁ、勝負はここからですよ!アテナちゃんのお姉さん、負けないですからね!」

「もはやあたしとドワーフの一騎討ちみたいだね。望むところだ!一気にペースをあげていくよ!」


今ではこんなにもペラペラと滑舌良く言葉を発している。


「もうずっと酔わしておけば良くね?」と思うのだが、そうもいかない事情がある。

ナイトさんは酔っていると武器と話せる加護『刀鳴』が使えなくなるらしい。

使わなくとも超一流の腕前なのだが、ナイトさんの真髄は『刀鳴』にある。そういう訳にはいかないだろう。


と言うよりも.....


「ナイトさん、本当に大丈夫なんですか?相当酔っているんですよね?」

「いやだなぁ。まだまだ全然いけますよ!今からお客さんと勝負をしても勝てると思います」


(そう?そうなのかな?今のナイトさんなら、勝てると思うんだがなぁ.....)


俺がそう思うのにも根拠がある。

ナイトさんは口は饒舌なのだが、少し体が揺れている。多分相当酔っている。

対して俺は、事あるごとにヒールで回復していたので、ほぼ素面に近い。多分勝負にはならないだろう。


「こう言ってるんだ。やらせてやりなよ。と言っても、あたしの勝利なのは覆らないけどさw」

「やってみないとわからないですよ?そもそもこのボクが人間族に負けるはずがありません!」


「その人は人間族じゃないですよ、神様ですから!」とのツッコミを入れたいが、我慢して、この勝負を見守ることにした。

多分無理だろうが、ナイトさんが、いや人類が、どこまで神に抗えるのかが非常に興味がある。



苦境に立たされたナイトさん。

人は神にどこまで抗えるのだろうか。

そして、人は神に勝てるのだろうか。


その結末はいかに!?














───ばたんっ!


「ナイトさん!?」

「あひゃひゃひゃひゃひゃw」


あれから更に4時間が過ぎた。

時は8時。この貸し切り終了時間は9時なので、終了ギリギリまで善戦していたことになる。


正直、ナイトさんをナメていた。

あんな泥酔状態から、ここまで善戦するとは予想もしていなかった。

仮に4時間前に勝負を挑んでいたとしても、俺の敗北は濃厚だっただろう。


それだけに疑問が残る.....


「どうして俺とナイトさんはここまで開きがあるんでしょうか?」


俺とナイトさんの状態異常耐性は同じレベル3。

ステータスはまだ若干ナイトさんが高いものの、それでも近しいものにはなっている。


それなのに、ナイトさんに勝てるビジョンが全く見えてこない。

例え、ステータスを越えたとしても勝てる気が全くしない。

これだと『スキルレベルが同等ならステータスの高い方が絶対有利』の世界の理から逸脱しているように思える。


俺の言葉は、答えを求めた訳ではなく呟きに近いものだったのだが、その呟きに意外にもアルテミス様が反応してくれた。


「あ~、そのドワーフは確かにレベル3だけど、既にレベル4になっているようなものだね。

 ただレベルが上がっていないだけだよ。アユムっちや勇者のようにレベルは簡単には上がらないんだ」

「どういうことですか?」


「アユムっちや勇者達がゲームのようにレベルが上がるのは、あたし達神がそういう設定にしているからなんだ。

 そのほうがアユムっち達もわかりやすいし、勇者業にも役立つだろ?

 でも、その世界に住む人々にはその設定は活かされてはいない。.....全員に設定するのは大変だしね」

「そんな理由ですか!?」


「そんな理由なんだよwだから勇者達は特別な存在として崇められているんだろ?神の使いだっけ?w」

「.....つまり俺や勇者達は、神様達がプレイするゲームキャラみたいなものだと言うことですか?」


「それだよ、それ!その世界に於いては特別な存在であり、あたし達神にとっては重要な駒ってところだね」

「駒.....」


おおぅ.....。

普通そういう事は隠すものじゃないのだろうか。

それがここまでオープンにされてしまうと逆に拍子抜けだ。怒るにも怒れない。


「じゃあ、この世界の人々はどのようにしてレベルが上がるんですか?」

「以前アテナっちが言ってたろ?長い修練が必要だって。それだよ。修練をした上で、自然と上がるものなのさ」


「.....え?自然と?それじゃ、ずっと上がらない時もあるんですか?」

「当然あるだろうねぇ。条件を満たしていても、何年も上がらないってこともあると思うよ」


「ええええ.....。この世界の人々って大変なんですね.....」

「だから勇者は特別なんだろ?一般人と同じだったら、それこそそこらじゅうが勇者だらけだよ」


なんという理不尽。

俺は日本にいた時のくそ雑魚ステータスのまま連れて来られたので、その時は唖然とし、憤慨したものだ。


だが.....、


勇者にも勝るとも劣らない特権である付き人の性能によって、スキルレベルなどは簡単に上げることが出来ている。

そして、この世界はステータスよりもスキルレベルがものをいう世界。


そう考えると、この世界の人々よりもはるかに恵まれているのは確かだ。

くそ雑魚ステータスぐらいで憤慨するのは大人気なかったようだ。.....サーセン。


俺が世界に対して、心の中で謝罪していたら、


「ドワーフも潰れちゃったし、そろそろお開きにするかい?」

「そうですね。時間もちょうどいいですし。アルテミス様は楽しんで頂けましたか?」


「あぁ、十分楽しませてもらったよ。.....あ、ありがとう。アユムっち」

「ふぁ!?ど、どうしたんですか!?

 あのアルテミス様が.....、傍若無人で他人なんてまるで眼中に無しなアルテミス様が.....、

 一切感謝なんてしなさそうなアルテミス様が俺に感謝をするなんて.....。明日は天変地異でもあるんですか!?」


まさかのお礼を言われる事態に驚いた。

驚き過ぎて、ついつい本音が出てしまうぐらいに気が動転していた。


「.....あんた、あたしを何だと思っているんだい?」

「ひぃ!?す、すいません.....」


アルテミス様の猛禽類かのような縦に細長い瞳に射竦められる。

でも、何故か以前のように背中が凍り付くような思いはしない。.....?


「まぁ、いいよ。ほら、帰るんだろ?あたしは酔っているんだから、抱っこしておくれよ」

「.....え?アルテミス様は少しも酔っていないですよね?それにナイトさんを.....」

「.....なんだって?」

「いえ!抱っこさせて頂くであります!」


なんだかお姫様抱っこが気に入られてしまったようだ。

俺の腕の中ですやすや、いや、ぐぅぐぅ寝るのが余程気持ちいいらしい。


ただ、俺も俺で結構満更でもない。

えっちぃ理由もさることながら、意外にも微睡みかけたアルテミス様の瞳は獰猛さがなくなり、愛嬌ある可愛らしいものになるその瞬間が結構好きだ。


こうして、アルテミス様をお姫様抱っこしたまま帰路に着くことになった。

ちなみに、ナイトさんはこの後迎えにきたフェンリルによって、自宅まで送迎されることになった。



長い長い接待の1日が終わり、ようやく俺は念願の『ニケさんのクリスタル』を手に入れる『権利』を得たのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『アテナ』 レベル:3 危険度:極小


種族:女神

年齢:ーーー

性別:♀


職業:女神

称号:智慧の女神


体力:50

魔力:50

筋力:50

耐久:50

敏捷:50


装備:殺戮の斧


女神ポイント:81540【↑1000】


【一言】パパにこの前のスキルを強化してもらってきたよー( ´∀` )

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

アユムの所持金:3351052200ルクア【↓55000000】

冒険者のランク:SS(クリア回数:5回)


このお話の歩数:約15600歩

ここまでの歩数:約25244200歩

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『アユム・マイニチ』 レベル:7105【↑3】


種族:人間

年齢:26

性別:♂


職業:凡人

称号:女神の付き人/竜殺し(ドラゴンスレイヤー)

所有:ヘリオドール


体力:7115(+7105)【↑3】

魔力:7105(+7105)【↑3】

筋力:7110(+7105)【↑3】

耐久:7110(+7105)【↑3】

敏捷:7365(+7305)【↑3】


装備:旋風の剣(敏捷+200)


技能:言語理解/ステータス/詠唱省略


Lv.1:初級光魔法/初級闇魔法


Lv.2:浄化魔法


Lv.3:鑑定/剣術/体術/索敵/感知/隠密

   偽造/捜索/吸収/治癒魔法/共有

   初級火魔法/初級水魔法/初級風魔法

   初級土魔法/ 物理耐性/魔法耐性

   状態異常耐性


共有:アイテムボックスLv.3

   パーティー編成Lv.1

   ダンジョンマップLv.3

   検査Lv.3

   造形魔法Lv.3

   奴隷契約Lv.2


固有:ウォーキングLv.7105 130/7106

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次回、4.5章!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


これにて、4章は終了となります。


次は、以前予告した通り『勇者編』となります。

二人の勇者が登場する予定です。

どちらもユニークな加護を持っていますので、お楽しみに!


これからも『歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~』をよろしくお願いします。


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今日のひとこま


~イベント準備~


「コシーネさん。クエストを発行したいのですが.....」

「これはこれは竜殺し様。何なりとお申し付けください」

「.....その呼び方やめてもらっていいですか?」

「では、大英雄様がよろしいですか?」


「.....竜殺しでいいです。それでクエストなんですが.....」

「畏まりました、竜殺し様。どういった内容でしょうか?」

「イベントをするので、その参加者を集めたいんです」

「はぁ.....?それなら『中央区』のステージでもいいのではないですか?」


「いえ、今回はいろいろと事情がありまして.....。参加者も無条件という訳ではないんです」

「なるほど.....。詳しくお話をお聞かせください」

「あれこれこういう訳でして.....」

「貸し切り!?しかも有名なお店じゃないですか!?」


「金でものを言わせました」

「ち、ちなみにおいくらだったか伺っても?」

「5000万です」

「ご、5000万!?さ、さすが竜殺し様ですね.....。スケールが大きすぎます.....」


「それで参加者の条件とはなんでしょうか?」

「とにかくノリがいい人と酒が好きな人ですね。種族、男女は問いません」

「ノリ.....ですか?」

「空気読んじゃう人とか、その場の雰囲気に流されない人はNGです。

 とにかくバカ騒ぎを一緒にできて、まるで子供のようにともに酒を楽しめる人が理想です」


「それはいいのですが.....。どうしてそれをギルドへ?」

「冒険者に勧めて欲しいんです。開催日も近いことですし、可能な限り参加者を集めたくて」

「そうなると、もの凄い数の参加者が予想されますが?」

「構いませんよ。金でものを言わせますから」


「畏まりました。クエストを発行させて頂きます」

「ありがとうございます」

「当日、私も行きますね」

「なんで!?」


「クエストの進捗を確認するのも、職員の仕事ですから」

「はぁ.....?呑みたいだけですよね?」

「ま、まさか!さすがに仕事中は呑みませんよ!」

「そうですか?まぁ、別に呑んでもいいですが.....」


当日、集まった参加者は約1000人。

全ての参加者が、アルテミス様に敗れた訳なのだが、その中の一人にコシーネさんが.....。


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