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第98歩目 冥界の試練!女神ヘカテー②

前回までのあらすじ


女神ヘカテーとおもいっきり遊んだ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


9/28 世界観の世界編!に一部追記をしました。

    追記箇所は、『冥界系図』と『絶技』となります。


□□□□ ~命の恩人~ □□□□


ヘカテー様との遊びを終えた俺は、いよいよ生き返ることができるようだ。

普通なら泣いて喜ぶシーンなのだろうが.....、いまだ死んだ実感が全くないので、喜ぼうにもその感情が全然沸いてこない。

とりあえず空気を読むことは大切なので喜んだほうがいいだろう。.....わ~い!


「それでどうしたらいいんでしょうか?」


俺の膝の上でベッタリしてきているヘカテー様に尋ねた。


それにしても、ずいぶん懐かれてしまったものだ。

これが本当の娘だったら、俺は間違いなく親バカになる自信がある。


「えっとねー、いちおー規則で試練をうけてもらわないといけないんだー」

「試練ですか.....」


正直ちょっとうんざりだ。

実感がないとは言え、俺はその試練とやらで実際は死んでしまっているのだから.....。


(まさかヘカテー様と戦うとかじゃないよな?それは嫌だぞ?

 いくら生き返る為とは言え、こんなにもいい子なヘカテー様と戦うなんて絶対嫌だ!)


なんてことを思っていたら、


「にへへー☆ありがとー!人間君!」


当然のように心を読まれ、そして満面のにぱー☆でお礼を言われてしまった。かわいい。

うん。戦うとかは絶対無理。


「安心してー。冥界の試練はお馴染みのやつだよー」

「お馴染み.....?」


そう言われても、冥界でのお馴染みというもののイメージが全く沸かない。


「どういうことですか?」

「人間君は『三途の川』をしってるー?」


「三途の川って.....

 この世とあの世を隔てる、そこを渡ったら戻って来れないとか言われている、あの河のことですか?」

「そーそー。この冥界にも同じようなものがあるんだよー。名前はちがうけどねー」


「へ~。そうなんですか」

「人間君は元々そこにいたんだよー。それを私がここに連れてきたんだー」


なるほど。

俺は死んでいるらしいから、元々三途の川に似た所にいたらしい。

それをヘカテー様に連れてこられた為に、俺はいま冥界にいると。


(おや?ということは.....)


「俺ってまだ、その三途の川を渡ってはいないんですよね?」

「そうだねー。あー。三途の川じゃなくてー、ステュクスの河っていうんだよー」


いや、河の名前は正直どうでもいい。

それよりも、渡ってしまうと戻ってこれなくなるところだったのを渡らずに済んでいる事実が重要だ。


つまり.....


「俺が本当の意味で死ななかったのって、もしかしてヘカテー様のおかげですか?」

「そうともいうのかなー?でもー、アーちゃんもがんばったよー?」


アテナがどう頑張ったのかはよくわからないが、ヘカテー様が俺の命の恩人であることはハッキリと分かった。

恩を返せたかどうかはわからないが、ヘカテー様のお願いを聞いてあげたのは本当に正解だったと改めて思う。


───ぽふっ。ぽんぽん


「本当にありがとうございます」

「にへへー☆どういたしましてー!」


頭をぽんぽんされたヘカテー様は、犬歯を覗かせながらにぱー☆と微笑んだ。かわいい。


「ヘカテー様とお別れになるのが少し寂しいぐらいです」

「私も人間君とずっといっしょにいたいよー。でもー.....」

「?」

「いつまでも人間君を一人占めしてたらー、アーちゃんに悪いからねー。だから帰ってあげてー?」

「!」


思わず涙が出そうになった。

本当はヘカテー様も寂しいだろうに.....、それでもアテナなんかを気遣う優しさ。お利口さん過ぎる!


───ギュッ!!


俺は膝の上に座るヘカテー様を抱擁して、それを感謝の気持ちとした。



俺の娘は本当に最高だ!



□□□□ ~ステュクス河の脅威~ □□□□


(ヘカテー様)が最高だと思ったところで、本題に戻る。

先程までの話の流れから大体予想はできているのだが、確認は必要だ。


「そうなると試練ってのは、そのステュクスの河.....?のことですか?」

「そーそー。今からステュクスの河に連れていくからー、河を渡らずに現世に帰ってねー。

 いいー?絶対河を渡っちゃダメだからねー?もし河を渡っちゃったらー、本当に死んじゃうよー」


やっぱりそうだった。

でも言っている意味がよくわからない。


「そんなことを聞かされて、河を渡る訳がないじゃないですか」

「人間君はステュクスの河をしらないからそう言えるんだよー」


「どういうことですか?」

「ステュクスの河ってのはねー、憎悪の河とも言われているんだよー。

 死者の憎悪をたべるのー。だからあえて憎悪を膨らませるようなことをしてくるよー」


「憎悪を膨らませる?」

「うんー。期待させといて裏切るみたいなー?

 とにかく人間君にとっては好ましい状況をたくさん作り出してくるよー。

 だから誘惑はきりすてるんだよー?いいー?絶対渡っちゃダメだからねー?」


ヘカテー様の話をまとめると、どうやら甘い誘惑を作り出して死の世界へと誘うらしい。

確かに恐ろしい場所だと思う。


誘われて出向いてみたら「実は死の世界でした」なんて言われたら、確かに憎悪に凝り固まるだろう。

かわいいお姉さんに誘われて付いていったら「そこには怖いお兄さん達がいました」と同じぐらいの衝撃だ。俺は経験ないけど.....。


しかし.....


こんなことを教えられたら、それこそ問題ないように思うのだが。


「実際いってみないとー、その恐ろしさがわからないとおもうんだよねー」

「そうなんですか?」


「うんー。人間君がおもっている以上に大変だよー」

「.....う~ん。そこまで言われると不安になりますね。

 正直、力の欲望に溺れて死んだだけに自信がないです。

 どんなことが待ち受けているか教えてもらうことはできないんですか?」


「ごめんねー。いちおー、規則だからねー。そもそも今回のこともイレギュラーなんだよー」


ヘカテー様がこの冥界に於いてどういう位置付けなのかはわからないが、イレギュラーと言っている辺り、無理をしているのは間違いないだろう。

死にたくはないが、これ以上ヘカテー様に迷惑をかけるのは忍びない。


「人間君はふあんー?」

「えぇ、かなり.....」


「そっかー。.....わかったー!じゃー、私が人間君を守ってあげるよー!」

「え!?」


「人間君が河を渡っちゃいそうだったらー、私が止めてあげるー!」

「いいんですか?」


「いいよー!人間君のこと好きだからねー☆私が人間君を守ってあげるー!だから私のこと信じてねー?」

「・・・」


そこには幼いながらも頼れるかわいらしい少女の姿があった。

ヘカテー様にここまで言われたんだ。きっと大丈夫だろう。


きっと生き返ってみせる!



俺は決意を新たに、冥界の試練の地『ステュクス河』へと向かった。



□□□□ ~ヘカテーの守護~ □□□□


「.....?」


目が覚めると見慣れない場所にいた。

何もない空間。.....いや、目の前には大きな河とも言えるような大河と一艘の舟のみが存在している。


(.....どこだここは?俺はさっきまでバットと戦っていたはずなんだが?)


そう俺は先程まで、神の試練である強敵バットと戦っていたはずだ。

それが目覚めてみれば、河と舟しか存在しない辺鄙な場所。神界ともまた違う味気ない場所にいる。


俺が謎の状況に困惑していると、


「目覚めたかね?」


背後から不意にしゃがれた声が聞こえてきた。

びっくりして振り返ると、そこには襤褸を着た光るような眼を持つ長い髭の無愛想な老人が一人いた。


「.....えっと、どちらさまですか?」

「わしはしがない渡し守じゃ」

「はぁ.....。それでここはどこなんですか?」

「河に決まっておる」

「.....え?」


見れば分かることを堂々と言われてしまった。


こういう気難しそうなじいさんは正直苦手だ。

いろいろと尋ねたいが、怒らせるとめんどくさいことになりかねないので諦める。


・・・。


「「・・・」」


二人の間に訪れた静寂。

ちっとも嬉しくはない老人との見つめ合い。


多分それほど時間は経っていないのだろうが、それでも俺には悠久の時のように感じられた。



しばらくすると、老人がその重い口を開いた。


(.....てか、早く用件を言えや、じじい!俺の前に現れたってことは、俺に何か用事があるんだろ!)


「お前は今、運命の岐路に立たされておる」

「.....運命の岐路?」

「生きるも死ぬもお前次第じゃ」

「・・・」


なんだろう、この中二病をこじらせたような老人は.....。

何を言っているのかさっぱりだ。


「.....えっと?とりあえずこの河を渡ればいいんですか?」

「渡るも渡らぬもお前次第じゃ」


「.....てか、ご老人は渡し守なんですよね?だったらご老人が案内してくれてもいいのでは?」

「金」


「金!?」

「そうじゃ。金を寄越さんかい」


あまりにもドストレートな要求に驚いた。

いや、渡し守である以上、賃金を要求するのは当たり前なのだが.....。


とりあえず俺は34億も持っているし、問題ないだろう。

あっ。ここがどこだか知らないが、ギルドカード使えるかな?


「それで?いくらですか?」

「1オボロスじゃ」


「オボロスってなに!?どこの金だよ!?」

「.....ないなら自分で漕げ」


ヤバい。ますます訳の分からないことになってきた。

金の単位が違う以上、ここはパルテールではないのだろう。


そうなるとアテナはともかく、ドールは心配しているだろうから早く戻りたい。

戻る唯一の手掛かりとしては、「生きるも死ぬも俺次第。渡るも渡らぬも俺次第」との老人の謎の言葉だけだ。


(意味はよく分からないが「生きるも死ぬも」ってのは、

 「パルテールに戻れるかどうか」って意味なのではないだろうか?)


一応の答えに辿り着けるも、問題が残る。


(河を渡るのはいいとしても、どこを目指せばいいんだ?)


これに尽きる。

河も決して穏やかな訳ではない。

むやみやたらに出発しても疲れるだけで意味がないだろう。下手したら遭難する可能性もある。


「.....つかぬことをお聞きしますが、どこを目指せばいいかはご存知ないですよね?」


これ以上は考えても答えは出なさそうだったので、ダメ元で老人に聞いてみた。

すると.....、老人は黙して語らず、ただ指を指し示すのみだった。


老人が指し示す先は霧掛かっていてよく見えないが、それでも可能な限り目を凝らしてみる。


その視線の先にあったのは.....









この世の極楽浄土かと思えるような楽園が広がっていた。

一際明るく照らし出され、小鳥が囀り、自然豊か、四季折々の草花が華やかに咲き誇っていた。

更には温泉らしきものがあり、幾人かの天女とも思えるような美女達が、この世の春を謳歌していた。


そして、その天女達に紛れて.....


「歩~!こっちこっちー!はやくからだあらってよー( ´∀` )」


美しさとスタイルだけなら、もはや天女達ですら到底及ばないアテナが温泉で寛いでいた。

大正義であるおっぱいが湯船の中、どんぶらこ~どんぶらこ~と浮いている様は圧巻だ。



いや、よく見ると.....


「さっさと洗わんか!この至高なる体を洗えるのじゃ。どうじゃ?嬉しいであろう?」

「お、お、お客さん。ボ、ボク、ボクも洗って欲しいでありましゅ!ぎ、ぎ、ぎゅ~ってしてくださいでしゅ!」


アテナだけではなく、高慢さ全開のドールや恥じらいを見せるナイトさんまでいる。

ドールは激しく尻尾が振られかわいいし、ナイトさんはたはは~とほっこりする笑顔を向けている。



いやいや!それだけではない!


「アユムさん!私はアユムさんを洗ってあげますね。夢だったんです。旦那様のお背中を流すのが!」

「あらあらまぁまぁ。ダメよ?ラズリ。洗うのにスポンジなんていらないの。一緒にアユムさんを洗いましょう」


まさかのラズリさんとスカイさんの登場だ!

しかも人間スポンジになろうとしている辺り、二人とも相変わらずで、それこそが本人であると強く思わされた。



そして極めつけは.....


「ぶっ!!」


鼻血出た。

しかも勢いよく。


いろんな裸を見てきた俺だが、この裸だけは特別だった。

アテナみたいにナイスバディーでもなければ、ドールのように一部から絶大な人気を誇る幼児体型でもない。

普通と言ってしまうと失礼なぐらいきれいだが、だからと言って、美人の代名詞であるラズリさん程きれいという訳でもない。


そんなきれいだけど普通な裸でも、俺にとっては他の誰よりも美しい裸に思えてならないものだった。


それは.....


「あ、歩様。見つめられると恥ずかしいです。.....こんな貧相な体でも歩様は愛して頂けますか?」


恥ずかしそうに体を隠す、俺の心の女神であるニケさんその人だった。

お姉さんのようなデキる雰囲気と少女のように恥じらう、そのギャップに俺の心は暴走寸前だった。


・・・。


この時の俺は全く疑問にも思っていなかった。

アテナ達がいる場所は遠く離れているのに、なぜかアテナ達の話し声が鮮明に聞こえていたことに。

アテナ達がいる場所は遠く離れているのに、なぜか一緒にその場に居るような不思議な感覚に包まれていたことに。

アテナ達がいる場所は遠く離れているのに、なぜか今すぐにでも舟を出せば、簡単に辿り着けてしまいそうな錯覚に陥っていたことに。


・・・。


目的地が確認できた俺は異様な高揚感に包まれつつも、


「なんだ!あそこにいけばいいんですね!ありがとうございます!」

「・・・」


行き先を教えてくれた老人に感謝の意を示した。

気難しいかと思っていたが、どうやら照れ屋さんだったみたいだ。.....きもちわるっ!



早速、濁流溢れる大河へと舟を出そうとしたら、


「人間君、人間君!河を渡ったらダメだよー!」


かわいらしいアニメ声とともに、服を引っ張られながら老人のところまで連れ戻されてしまった。

見るからに少女らしき姿なのに、その力には驚嘆させられた。


「もうー!河を渡ったらダメだって言ったでしょー!人間君は誘惑によわすぎー!」


そう言いながら、ぷりぷり怒っている姿はとてもかわいらしい。

どこかアテナに似ているような気もする。ツインテールだし。でも体はドール似かな。


とりあえず確認しないといけないだろう。

この子は誰だ?てか、なんだ?妙に馴れ馴れしいが.....。


「.....えっと?ご老人のお孫さんですか?」

「・・・」


老人は答えないようだ。仕方ない。


「お嬢ちゃんはなにかな~?ここはあぶないから.....」


そして、俺は固まった。

あるものを見て、固まらざるを得なかった。

いや、正確には驚きと恐怖で体が凍りついた。


アテナにどこか似たかわいらしい少女だが、そんなかわいらしさを台無しにする程の少女らしからぬ大きな鎌を携えているのだから.....。


(.....し、死神か!?お、俺を殺しにきたのか!?)


なんてことを思っていたら、


「ざーんねん。この鎌はおしゃれだよー!」

「ふぁ!?.....てか、おしゃれ!?」


当然のように心を読まれ、しかも大鎌はおしゃれだと暴露された。


心を読めると言うことは神だろうか。

とするとここは神界?そして目の前の美少女はアテナのお姉さんなのだろうか?



様々な疑問が沸いてくるが、俺はそれをなかなか言い出せなかった。


どうしてか.....


目の前の少女がすごく美少女だったから?    .....それもある。今も緊張している。

おしゃれだと言われたが、実は大鎌が怖かった? .....それもある。今もビビっている。


でも、なによりも.....


少女の瞳が深く深く堕ち込んでいて、それが何よりも一番怖かった。

人はここまで堕ちることができるのだろうか。そう思わせるのに十分な程の深みを想わせる深い深い瞳だった。


魅力的なんかじゃない。

ただただ、ゾッとさせられる瞳だ。


「・・・」

「どうしたのー?」

「.....い、いえ。そ、それであなたは?神様なんですよね?」


でも、かわいらしいのも事実なので、顔を覗き込まれるとドキッとしてしまう。


「んー。やっぱりわすれちゃってるかー。人間君は単純すぎだよー?あんなに注意したのにさー」

「はぁ.....?」


目の前の美少女が、一体全体何を言っているのかが理解できない。

かろうじて分かるのは、人間君とは俺を指すぐらいにしか.....。


「私はヘカテー。冥界の女神だよー。.....どうー?思い出せたー?」

「ヘカテー様ですね。そして冥界の女神様であると。ただ.....」


「何も思い出せないー?」

「はい.....。そもそも何を言っているのかすら.....」


「そっかー.....」

「!?」


ヘカテー様が見るからにものすごくしょんぼりとしてしまった。

全く覚えていないのだが、それでも何かすごい悪いことをしてしまった気がする。


「人間君は私といっしょに遊んでくれたんだよー?」

「はぁ.....遊びですか?」


「そーそー。お馬さんとかすごーくたのしかったー」

「お馬さんですか?」


「そうだよー。人間君が私にのってねー、お尻もペンペンするぐらいたのしんでたんだよー☆」

「ぶふっ!?」


よく分からないが、俺は記憶を失っているらしい。

そして記憶を失う前の『俺』は、あろうことかヘカテー様のお尻をペンペンしてはしゃいでいたらしい。


(なにしてんの、『俺』は!?畏れ多いにも程があるだろ!寿命を縮めるような真似すんなよ!)


俺は『俺』に対して毒を吐いた。

お尻ペンペンも酷いが、そもそも幼女とも言えるヘカテー様に騎乗していることもナンセンスだ。


(.....てか、記憶を失う前の『俺』は何者だよ!)



しかし、どうやら『俺』はそれだけではないことを仕出かしたらしい。

ヘカテー様から語られたあらましは、俺を心から寒からしめるには十分のものだった。


「人間君はねー、おままごとで私にちゅーしてくれたんだよー?覚えてないー?」

「ちゅ、ちゅー!?じょ、冗談ですよね!?」

「ほんとだよー。うれしかったんだからー!あー!ちゅーしたら思い出すかもー!」

「いやいやいや。白雪姫じゃあるまいし.....って!?ヘカテー様!?」


善は急げとばかりに、俺はヘカテー様に拘束されてしまった。

どこにそんな力が!?と思えるほどの圧倒的な腕力に身動きできない。


ヘカテー様の唇が徐々に迫る。

小振りなかわいらしい唇だ。


本来なら、こんな美少女とキスできるのだから喜ぶべきことなのだろうが.....


(やめてくれえええええ!俺はニケさんとファーストキスをしたいんだあああああ!)


ヘカテー様なら、きっと読んでくれるだろうとの思いを込めて神様に祈った。


だが現実は残酷なもので、


───ちゅ


キスをされてしまった。

しかし、その柔らかい感触は唇ではなくて、もっと上の方に.....。


「.....え?おでこ?」

「にへへー☆人間君にまたちゅーしちゃったー!」


俺は呆気に取られていたが、当のヘカテー様は満面のにぱー☆で喜んでいた。

てか、にぱー☆までもがアテナにくりそつだ。


「じゃー、次は人間君がちゅーしてー!」


そして、かわいらしいお願いもされてしまった。


(やばい.....。すごくかわいいな。アテナがお利口さんになったみたいですごく癒される.....)


当然、そのあとはヘカテー様にでこちゅーしてあげました。

その喜びようが更にかわいらしく、ついつい娘のように思ってしまったのはヘカテー様には内緒だ。


・・・。


「あとはねー」

「まだあるのか.....」


「もうさすがにこれ以上はないやろ」とエセ関西人気取りでいたら、どうやら『俺』はそれだけでは済まなかったらしい。


「人間君はねー、私をお嫁さんに貰ってくれるっていってくれたんだよー☆」

「ちょっと待ってください!それは絶対言ってないですよね?」


これだけは絶対言っていない。

いくら記憶を無くす前の『俺』が、変態鬼畜野郎であったとしても、ニケさんを裏切るようなことは絶対言わないはずだ。


「言ってくれたよー?」

「本当ですか?じゃあ、俺がなんて言ったのか、脚色なしでそのまんま言ってみてくださいよ」


きっとヘカテー様が都合よく解釈したのか、はたまた誤解しているだけなのだろうと思っていたら.....


「『ヘカテーの全てを俺のものにする。ヘカテーの全ては俺のものだ。ヘカテーは俺だけのものだ!』

 こんなかんじだよー。一切脚色してないからねー。これってそういう意味で間違いないよねー?」


言ってたあああああ!

この際、どんな状況で言っていたとかはもはや問題ではない。『言った』という事実が重要だ。


(おいおいおいおい.....。『俺』は何を言ってくれちゃってんだよ!どうすんだよ!?

 ヘカテー様がその気になったらどうすんの!?俺のニケさんへの想いはどうなるんだよ!?)


俺が錯乱していたら、


「でもー、演技だったんだってー。つまんなーい」

「.....え、、んぎ!?」


意外にもヘカテー様から助け船を出してきてくれた。

とりあえずヘカテー様の気持ちは置いとくとして、演技として納得してもらっているのなら万事OKだろう。


・・・。


そして『俺』の悪行もこれで終わったらしい。

俺のことなのに、『俺』に対して非常に腹立たしい気持ちでいっぱいだ。後でつねってやる!


「どうー?思い出せないー?」


ヘカテー様が不安そうに尋ねてきたが、結果としては.....


「すいません.....」


全くと言っていいほど思い出せない。


「そっかー.....ううんー、覚悟はしてたんだー。

 人間君をこのステュクスの河に連れていったらー、私との思い出はなくなるかもってねー。

 それぐらい私と人間君の出会いはイレギュラーなことだったからねー」

「・・・」


ヘカテー様は気丈に振る舞ってはいるが、誰が見ても落ち込んでいるようにしか見えない。

正直、見るに堪えない。かわいそうすぎる.....。


俺にとっては散々な思い出だったが、ヘカテー様にとってはとても大切な思い出だったらしい。


「.....とりあえず私と人間君はたのしく遊んでたんだよー。それだけは覚えてもらえるとうれしいなー」

「.....はい」


なにかないか?

俺にできることは.....


「じゃー、そろそろ人間君はもどらないとねー。河は渡っちゃダメだから着いてきてもらえるー?」

「.....はい」


なにかないか?

俺にできることは.....


・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。


そして、ヘカテー様に着いていくこと数分。

やたらバカでかい門の前に辿り着いた。どうやら『生門』というらしい。


「この門をくぐったらー、人間君は元の世界(パルテール)にもどれるよー」

「.....ありがとうございます」


なにかないか?

俺にできることは.....


・・・。


考えてみたが、無力な俺にできることは何もなかった。


「元気でねー!たのしかったよー!ありがとー☆」

「.....ヘカテー様もお元気で。お世話になりました.....」


なにかないか?

俺にできることは.....


・・・。


考えてみたが、無力な俺にできることは何もなかった。


「人間君?」

「・・・」


でも.....


「ヘカテー様は女神様なんですよね?」

「そうだよー」

「なら俺の記憶を元に戻すこともできるんじゃないんですか?」

「!?」


俺にできることはなくても、できる人、できそうな人がいるのなら、その人に頼めばいいじゃない!


人任せ?大いに結構!

他力本願?大いに結構!!

神様頼み?大いに結構!!!


誹謗中傷・非難轟々なんでもござれ!

俺のやっすいプライドなんてどうでもいい!!

俺のミジンコのような小さい自尊心なんてどうでもいい!!!


どんなに批判されようが、それでも俺は.....


「い、いいのー?すごーく痛いよー?」

「構いません。一気にやっちゃってください!」

「ほんとーにいいのー?人間君が思っている以上に痛いとおもうよー?」

「.....構わないんですが、何をするのかだけ教えてください」


覚悟は決めていたが、痛いと言われると怯んでしまう。

そして俺の記憶復活方法は、どうやら大きな鎌でごっちんこするらしい。あの鎌か.....。


「構いません!さぁ!一気にどうぞ!でも.....一回で終わらせてくださいね!」


気合いを入れて頭を差し出した。


そして.....


「人間君.....ありがとー」


───ごちんっ!


ヘカテー様の消え入りそうな泣き声とともに激しくも鈍い衝撃で、俺は意識を失った。


・・・。


どれぐらい経ったのだろうか。頭痛が痛い。

そんなバカげた言葉が出てしまいそうになるぐらいの凄まじい頭痛とともに目が覚めた。


ただ頭は痛いのだが、頭の下には妙に柔らかい感触が.....


「.....どうかなー?思い出せたかなー?」

「.....えぇ、バッチリと。アルテミス様の従姉妹で、アテナと友達のヘカテー様ですよね?」


俺の瞳にはかわいらしいヘカテー様の顔がドアップで映った。

どうやら膝枕をされているらしい。幼女の膝枕とか、ある意味やばい。.....でも気持ちいい。


「ほんとにー!?やったー!人間君ほんとにありがとねー☆」


ヘカテー様は本当に嬉しいのか、俺が今まで見てきたヘカテー様の笑顔の中で、一番かわいらしいにぱー☆を微笑んできた。かわいい。



誹謗中傷・非難轟々なんでもござれ!

俺のやっすいプライドなんてどうでもいい!!

俺のミジンコのような小さい自尊心なんてどうでもいい!!!


どんなに批判されようが、それでも俺はこのヘカテー様のにぱー☆を見たかったのだから.....



こうして俺は生き返ることができた。

かわいらしい女神ヘカテー様との別れを惜しみつつ.....



次回、大きな溜め息!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


今日のひとこま


~神好き!~


「ほんとーに痛かったでしょー?ごめんねー、人間君」

「いやいや、全然。ヘカテー様との思い出を忘れる方がずっと痛かったと思います」

「うれしー!でもー.....人間君はあっさりわすれてたよー?」

「ぐっ!?す、すいません.....俺って誘惑系に弱いんですかね?」


「誘惑というよりかはー、精神攻撃系に弱いのかもねー」

「おおぅ.....。最も不安なやつじゃないですか.....」

「じゃー、私と特訓しよっかー!」

「特訓ですか?助かります」


どういう特訓なのだろうか?


「じゃー、いっくよー!.....人間君!好きー☆」

「.....え!?」

「はい、ダメー!にやけたので失敗でーす!」

「な、なるほど.....」


「次いくよー?人間君!だーい好きー☆」

「・・・(無の境地だ、無の境地)」

「はい、ダメー!聞き流してたら意味ないでしょー!」

「な、なるほど.....。も、もう一回お願いします」


あれ?聞き流すのがダメなら、どうすればいいんだ?


「いっくよー!人間君!神好きー☆」

「神好きってなに!?.....てか、これ特訓ですよね!?」

「はい、ダメー!ちゃんと答えをいってよねー!私はいつまでも待ってるからねー?」

「だからこれ特訓ですよね!?」


.....え?告白されたのか!?


それはヘカテー様のみぞ知る。


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