私を好きなおキツネさま 第1話 祠できちんと拝んだのに知らない男の人が部屋にいます!?
「おにぎり、テーブルに置いといたからちゃんと食べてね! いってきます!!」
青い空。気持ちのいい風を受けながら玄関のドアを閉めると、少女は紐のついた鍵を首にかけ服の下に入れる。
背中には六年ほど相棒をしている水色に薄ピンクの縁取りのついたランドセル。今日はお道具箱を持って行く日だから、左手には水色で薄ピンクのリボンがあしらわれた手さげ袋を持っている。
沿道の木々はまだ青々した葉の出始めで、どこか頼りないけれど、春の予感でいっぱいだ。たんぽぽが、黄色く可愛い花を咲かせて揺れている。
少女は、ショートボブのちょっと寝癖がついたところを直しながら、その道をてくてくと学校へと歩いていた。
「あ、おはようハルカ!」
「おはよー、ヒナタ」
彼女は風町遥、この春六年生にあがったばかりの十一歳だ。今彼女に挨拶をしたのは、同じ二組の川上日向で、五年生からの持ち上がりだからかれこれ一年友達をしている。
「ウェーイ!」
「ウヒョー!」
「きゃっ!!」
「あっ、コラー!!」
今「ウェーイ」とか情けない声を出しながら、日向のスカートをめくって逃げていったのは、彼女たちのクラスの高元大吾。いじめっ子のガキ大将とその子分たちだ。
(腹立つ!)
遥が自身の吊りがちな目をさらに吊って追いかけようとしたら、日向に止められてしまった。
「いいの?」
「うん、黒パンはいてたし」
「もうっ、高元ったらちょーしのりやがるんだから。シネ」
「ハルカったら」
死ねは言っちゃダメだよ、と遥は日向になだめられながら歩き、学校へとついた。
これが彼女の日常だ。
※
放課後。
遥は近所の男の子数人と、山の沢を登って秘密基地を見つける遊びをすることになった。
そこは彼女たちが住む団地の裏の山すそで、たまに石積みの古墳の朽ちたような穴などがあり、みんなのお気に入りの場所。
勝手知ったるなので友達は結構なハイペースで進んでいくのに対し、遥は沢のそばでぬかるんだ足元に気を取られすぎて、少し遅れてしまっていた。
「おーい、早くしねーと置いてくぞ!」
「ちょ、待ちなさいよ!」
前まで簡単に追いついていたのが、最近少し追いつけないことが増えた。遥はぎゅっと唇をかむ。
(なんで女の子は男の子みたいに体力底なしじゃないんだろう)
そんなことを考えながら進んでいると、友達の気配が消えた。慌てて周りを注意深く見る。どうやら、一人遅れすぎてはぐれてしまったらしい。沢も、遠くの方にあり、ルートを遥が外れてしまったようだ。
流石に山の中で道がわからなくなったら遭難してしまうから、慌てて元来た道に戻ろうとした、その時。
(今誰か、呼んだ……?)
誰かに呼ばれたような気がして。振り返ると、そこに、古ぼけた小さな祠がたたずんでいた。
その祠は、遥の百五十センチある身長くらいしかなかった。七十センチくらいの四本足で支えられたその祠は、格子などではなく一枚板の木戸がついており中は見えない。素材は木で、その木材も苔むしたり虫食いがあったりとボロボロになっていて、お世辞でも綺麗とは言えなかった。
(忘れられた神様かな?)
祠には、神様がいるとお母さんから教えられていた遥は、なんの気負いもなくポケットをガサゴソ手であさると、おやつにと入れていたチョコレートの包みをその祠の前に置いた。ついで、手を合わせて目をつぶり、頭を下げる。
一連の動きを済ませると満足して、沢の方へと足を向けるのだった。
沢に戻って登っていき、友達と遊んでくたくたになって団地へと戻ってきた遥は、お腹をグゥと鳴らせながら玄関のドアを開けた。
「ただいまー!」
「……お帰りなさい、今日はご飯できてるから手を洗って……ってあらあら、泥だらけじゃないの。着替えてらっしゃいね」
「はーい」
元気のいい返事をしながら、遥は言われたとおり脱衣所で汚れた衣服を脱ぐと、そのまま二階の自室へとあがっていく。
そうしてついた部屋のドアを開けると、
「やぁ」
なぜか動物の耳を頭につけ、尻尾をつけた大人の男の人が、部屋の真ん中にあぐらをかいて座っていた。
「ぎ」
「しっ! 静かに。怪しいものではない。母を心配させたいのか?」
(十分怪しいし)
叫ぼうとした遥は怪しみつつも、気の弱くちょっと病弱な母親を人質のように話に出されて、押し黙る。けれど、反抗しないわけにはいかなく、また、言いなりにもなりたくなくて、ドアを閉めて部屋に入ると口を開いた。
「あんた、誰?!」
全四話です!




