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オカルト探偵・須世理琴音の不可思議事件覚帖  作者: 硯見詩紀
第四章 ご都合主義の神様はどうやらいるらしい
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第3話

「とりあえず、ありがとう。杵築くん」


 と、矢庭に須世理が言った。


「何? 唐突に」


 言うと、照れくさいのか何なのか、須世理は少しばかり頬を桜色に染めて、言う。


「いや、だって、あなたなんでしょう? 私を外まで運んだの」


 たぶん、この礼はあのときのことだ。火事のとき、気を失った須世理を背負って外まで運んだ、あのときのことだ。


「ああ。さすがに、華奢な八上に背負わせるわけにはいかないだろう」


 こういうのは、大体男の仕事なのだ。それに、身体の小さい八上に須世理を背負わせるのは、男としてどうなの? って節がある。まあ、須世理は貧乳ですから、胸を変に意識して欲情するなんてことはなかった。もし、これが巨乳だったら、背負ったとき、背中に押し付けられる柔らかい感触に発狂しかけたことだろう。とはいえ、貧乳だから背負いやすかった、なんて本人の前では口が裂けても言えない。言ったら、怒られる。そして、殴られる。


「だから、ありがとう」


 と、再度須世理がそう言った。微笑みを含有したその顔は、斜陽により仄かに照らされている。斜陽による照明効果もあってか、彼女の美しさを俺は再度確認させられた。


「どういたしまして。ま、当然のことをしたまでだよ」


 別に気取るつもりはない。ただその言葉しか見つからなかったので、俺はそう言った。


 不意に、コンコンと扉がノックされる。誰か来たようだ。


「どうぞ」


 と、須世理が言う。そして、扉は開く。


「また来ちゃいましたー」


 そう言って、サイドテールを揺らしながら顔を覗かせたのは――八上卯白だ。八上は、病室に入ってくる。その後続には、執事がいた。


「今日から、わたしの専属執事になった気多崎(けたさき)多聞(たもん)さんだよ」


 と、八上が執事を紹介する。都鳥さんがクビになったので、その後継なのだろう。


 執事――気多崎さんはぺこりと頭を下げて挨拶をした。


 よく見るとこの執事、火事が起こる少し前、俺がコンビニへ行こうと廊下をうろついていたときに、裏口まで案内してくれたあの執事だ。あと、火事のときに須世理と八上がまだ中にいるらしいという情報を提供してくれた人でもある。この人のおかげで、俺は二人を助けられたと言っても過言ではない。


 ――不意に。背後から服の裾を引っ張られた。グイッと、弱々しい力で。


 背後から俺の服の裾を引っ張る奴……なんて、一人しかいない。俺は後ろを見遣る。


「お、おい、須世理?」


 須世理琴音が、怯えた様子で俺の方へ擦り寄ってきた。まるで世間知らずな仔猫のようだ。


 それにしても、どうしたのだろうか。


 何故、こいつは怯えている? そもそも、何に怯えている?


 須世理は、俺の背中に隠れるような形で、身体を震わせながら、


「どうして……」


 ゆっくりと、口を開く。俺の背中越しから、誰かの方を見つめて。



「どうして、あなたが、ここにいるのよ。気多崎、多聞……」



 意外な言葉だった。……まるで気多崎多聞を以前から知っているような口ぶりだ。


「あれ? 須世理さん、気多崎さんを知ってたっけ。わたしの家に来たときに会ったの?」


 八上が言う。それに対して、


「いや……」


 と、須世理が言った。「いや」だって? なら、須世理はどこで気多崎多聞に出会ったのだ? 八上家の執事に出会う機会なんて、八上の家を訪れたあのとき以外にないはずだ。


「ずっと以前から、私は彼を知っている」


 ずっと以前、だと?


 俺は、須世理の方を向いたまま、怪訝な表情を取った。須世理は依然として、俺の背中から離れない。未だに怯えた表情をしている。


「ん? どういうこと?」


 八上も八上で、須世理の発言に疑問を抱いたらしく、首を傾げた。


 俺は気多崎さんの方を見た。さすがは執事、と言うべきか。彼はすまし顔で平静を保っていた。――が、刹那。ククと小さな笑い声が聞こえた。それと同時に、彼は口角を上げる。ニヤリと。


「くっ、ククっ……」


 くつくつ、と。何がおかしいのか知らないが気多崎さんが肩を震わせる。


「気多崎、さん……?」


 気多崎さんの隣にいた八上が訝しんで、彼に声を掛ける。俺も俺で、怪訝な顔を彼に向ける。


 何だ? 一体全体何なのだ?


 須世理琴音と気多崎多聞。一体、この二人に何がある?


 須世理は言った。ずっと前からこいつを知っている、と。そして、それを聞いた気多崎さんが笑い出した。俺には、何が何やら分からない。


 ひとしきり笑い続けた気多崎さんが、ふと無表情になった。


 何かある。そう察した刹那――八上が飛んだ。


「ぎゃっ」


 気多崎さんが手で八上を押し退けたのだ。それも結構強い力で。八上は、そのまま壁に打ち付けられ、その痛さに顔を顰めた。


「八上!」


 俺は咄嗟に八上の元に向かおうとしたが、須世理がそれを許さなかった。須世理はグイッと俺の服の裾を引っ張る。そして、耳元で言うのだった。


「不用意に動かないで。大丈夫。あの人の狙いは私だから、八上さんには必要以上の危害は加えないと思う」


 は? どういう……。


「よく分かっていますね」


 と、矢庭に気多崎さんが口を開いた。


「そうです。わたくしの狙いは、あなた、ただ一人ですよ。須世理琴音様」


 柔和な笑みを浮かべる気多崎さん。まるで執事のような口調だ。お嬢様に暴力を振るった時点で、執事としては失格なのだから、もうそんな口調をしなくたっていいのに。


 それにしても、どういうわけで、この人は須世理を狙っていたのだろうか。未だに一向に分からない。お前ら、一体どんな関係なんだよ?


「……あなたは、私をどうしたいの?」


 俺の背中越しに、須世理が問う。それに対して、気多崎さんはニヤッと笑みを浮かべて、言う。口調はガラリと変わった。


「どうって……そんなの、殺すまでだ。俺はずっと、あんたへの復讐を望んでいた。あんたの所為でどれだけ俺の人生が狂わされたと思っている。家から追い出されて、絶縁されて……途方に暮れた。とりあえず、俺の人生が狂ったのはあんたの所為だから、その落とし前、つけてもらわないといかんよな?」


 須世理琴音によって人生を狂わされた。俺は、そんな気多崎の言葉を聞いて、ふと思い出す。


 確か、沼名河歌恋が言っていた。須世理琴音の二代目の助手。そいつは、須世理の才能に嫉妬した挙句、自分の優位性を証明しようと須世理を襲ったが、結局返り討ちにされた。そして、助手を辞めて、そのまま家からも勘当されたらしい。


 もしかして……。もしかすると、もしかして……。


 須世理琴音に人生を狂わされた気多崎多聞は、もしかして――


「お前……須世理の、二代目の助手、なのか……?」


 俺がそう問うと、気多崎はさも当然というような顔で、言う。


「そうだけど? あれ、知らなかったの? ダメだなー。ちゃんと教えないとダメだろうに。なあ、須世理琴音」


 気多崎多聞はいけ好かない目で、俺を――いや、俺の背中に隠れている須世理の方を見遣った。須世理がぎゅっと俺の服をさらなる力で掴んだ。


 気多崎多聞が二代目の須世理の助手。自分の優位性を示したいがために須世理を襲ったが、返り討ちにされてしまった惨めな奴であり、彼女に《天才であることの罪》の意識を植え付けた人間でもある。


 須世理にとって、気多崎はトラウマでしかないのだろう。


 須世理は恐れている。以前、襲われたこともあって恐れている。今、襲われそうになって恐れている。どうすればいい? と恐れている。須世理ならば、今ここで気多崎をぶちのめすことは容易に可能だろう。だが、そこで気多崎をぶちのめしても、また恨まれるだけなのだ。気多崎に恨まれることを恐れているのだから、須世理は何もできない。須世理には何もできない。


 ――さあ、どうする?


 気多崎は、須世理を殺すとか言っている。こいつの復讐心がどれほどのものなのかは知らないが、殺すと言っているのだ。並大抵のものではないだろう。


 とにかく、俺は目の前の気多崎をどうにかこうにかしなければならない。理想としては、動きを止められればいいのだが、相手はなんて言ったって魔術師だ。対する俺は魔術が使えない一般人。須世理が動けない今、俺ではどうすることもできない。


「さて、」


 そう言って、ニヤリとする気多崎。


「復讐果たさせてもらうよ」


 気多崎は、右腕を俺たちに向かってかざした。俺は咄嗟に須世理を庇うように、仁王立ちをする。


「逃げろよ、三代目。そんな奴、庇う必要もないだろう。今はどうか知らないが、どうせお前もそいつに嫉妬するんだ。お前だって凡人なんだろ? なら、傷付かないうちに、さっさとそいつを見限れよ。その方が、お前のためだと思うがな」


 ――一緒にしないでいただきたい。


 自分で言うのもなんだが、俺にはお前ほどのプライドはない。俺は須世理と出会うそれ以前に、自分の限界を知っている。だから、天才を前にして、自分が傷付くことはない。嫉妬することもない。すべて無意味なのだから。


 努力だけでは天才には敵わない。もっと言えば、努力というのは天才にしか功を奏さない。努力してもダメな奴は実際にいる。俺がそうだし、沼名河がそうだし、きっとお前もそうなのだろう。


 俺たちのような努力をしても報われない凡人は、下手に天才に挑もうとしなくていいのだ。挑めば挑むだけ、自分が傷付く。よって、天才に嫉妬するのは、身の程知らずのバカがする愚行。


 俺は、冷たい目で気多崎を見た。


「なんだ? その目は? 俺と一緒にするなってか? はっ。一緒だよ。お前も俺も一緒だよ。初代の助手も、俺も、須世理琴音にぶち壊された。どうせお前も壊される。須世理琴音に壊される。……だから、そいつを庇うなよ同胞。俺は、お前まで殺すつもりはないんだぜ? 俺は、天才の敵で、凡才の味方だ」


 須世理琴音が、今日初めて会った見ず知らずの人間だったら、見捨てるだろう。だが、実際は違う。俺は須世理琴音の助手なのだ。助手である以上、ここで尻尾を巻いて逃げるなんてできない。やるからには助手の仕事は全うするぜ。そう、親に教育されてるんでね。あと、助手云々関係なく友達関係にある須世理を見捨てるわけにはいかない。それともう一つ、沼名河にも言われているのだ。――琴音になんかあったら容赦はしない、と。まあ、そういうわけであるから、俺は須世理を庇うのだ。


「お前みたいに、途中で逃げ帰ったアホな助手とは違うんだよ、俺は。大体、親に言われなかったか? やると決めた以上、責任持って最後までやれ、ってさ」


 俺は言ってやった。


「ほう……」


 気多崎は俺を睨みつける。


「そうか、そうか。そういう人間か。偽善ぶったクソみたいな奴か」


「偽善じゃねぇよ。責務だよ」


 助手としての、友達としての、あと沼名河から与えられた――責務。偽善ではない。


 とはいえ、そんなことを言っても、偽善と言う奴は言うのだ。なら別にいい。偽善でもいい。とにかく、俺は須世理を守る。守りたいから守るだけ。どういう感情から来る思考なのかは知らないが、守らなければ、という衝動に駆られてしまったのだ。だから、守る。


「ふん。どっちも同じだよ。……よし。ならば仕方ない。両方消し炭にしてやるよ」


 そう言って、気多崎は右の掌から炎の塊を出現させる。俺は一瞬でそれが魔術によるものだと認知した。


 炎――それは、あらゆる神話で取り上げられる。ギリシア神話には人間に火の使い方を教えたと言うプロメテウスなる神がいるし、北欧神話にはスルトという巨人が炎を扱う。ゾロアスター教に至っては拝火教と言うだけあって、火や炎には縁が深い。クトゥルー神話にだって、クトゥグワとかいう炎の邪神がいる。


 さて、気多崎はどんな神話に基づいた魔術を使っている? 俺の中二病時代に培った知識の中に、気多崎の使っている魔術の基となる神話はあるのか?


「なに、それ……」


 と、背後で聞こえる須世理の声。――ちょっと待て。どうして、須世理が首を傾げている? 膨大なオカルト知識を有する須世理が、どうして首を傾げている。疑問を抱いているような声を出しているんだ?


「お、おい……?」


 俺は須世理の方を見遣った。すると、彼女は徐に口を開く。


「私は、そんな魔術、知らない……。一体、何の神話を基にしているの?」


 ――須世理でも知らない魔術? そんなものが存在するのか? し得るのか? この世界に存在するほぼすべての神話・伝承を網羅しているであろう須世理に限って、知らない神話・伝承があると言うのか?


「くくっ」


 気多崎が笑った。


「そうだ。知っているはずがない。これは新たな力だ。これを知っている人間は、俺と少数の人間だけだ」


「新たな、力……? それは、つまり、私の知らない神話がどこかで発見された? ……もし、それがあり得るなら、もし今現存する神話以外の神話が新たに発見されたと言うのなら、今回の八上さんの件が解決できる……っ」


 須世理がそんなことをいきなり言い出した。


 確かに、八上に悪夢を見せるため、都鳥さんが使っていた魔術は未だに正体が不明だ。たぶん、須世理は今回の八上の一件に気多崎多聞が絡んでいると踏んでいる。都鳥さんに魔術を教えたのは気多崎で、その教えた魔術というのが気多崎曰く《新たな力》による魔術。


「あなたが、都鳥さんに魔術を教えた。その《新たな力》――《新たに発見された神話》に基づいた魔術を。そうでしょう。気多崎、多聞……?」


 俺の背中越しから須世理が恐々といった感じで言った。それを受けて、気多崎は「もう隠す意味もないか」と言う風に諦観した表情を見せ、ふっと口角を上げる。


「さすがは天才。すべてを見通すんだな。……その通りだよ。俺が今回の一件を起こした」


 あっさりと、自供。――つまり、気多崎多聞が都鳥さんに魔術を教えて、都鳥さんは八上に嫌がらせをした。都鳥さんの憎悪の念に付け込んだのは、気多崎だったんだ。


 気多崎多聞が黒幕だったというわけだ。


「そして、お前のことだ。もう何もかもすべて分かり切っているんだろう?」


 気多崎が、俺の方を向いて俺の背中に隠れている須世理へそう言った。それを受け、須世理が言う。


「三枝咲絵にも、あなたは魔術を教えたのね?」


 ――そうか。三枝も誰かからの教示により、魔術を行使した人間だった。須世理自身も、三枝に魔術を教えた奴と都鳥さんに魔術を教えた奴は同一人物だとも踏んでいた。


 気多崎は三枝にも魔術を教えていたのだ。


「おそらく、三枝さんに魔術を教えたのは実験のつもりだったんでしょう。今回の一件を起こすための。憎悪による世界観の書き換え。呪いたいほど恨んでいるという感情があれば、一般人でも魔術が使える。それを確かめるために、三枝さんに魔術を教え、杵築結祈への嫌がらせを仕向けた。そして、実験は成功。実際、三枝さんの魔術は発動され、杵築結祈の部屋はクイックシルバーによるポルターガイストに見舞われた。

 そして、それを踏まえた上で、あなたは今回の一件を実行した。おそらく、その狙いは私を八上さんの家へ誘き寄せるため。私と同じ学校に通っている八上さんに通常では有り得ない事象が起これば、八上さんは私の所に相談しに来る。それで私は、調査のために八上さんの家へ来るだろうと、あなたは思ったわけね。

 実際、八上さんは私の所に相談しに来たし、私は八上さんの家へ調査のために伺った。そして……あなたは、私への復讐を果たそうとした。おそらく、最初あなたは火事で私を殺すつもりだったのでしょう。火事なら、他殺ではなく事故死を装えるしね。でも、それは失敗した。だから、あなたは今こうやって私の前に立っている」


 条件さえ適えば一般人でも魔術が使えるということを三枝で証明し、それを踏まえた上で都鳥さんに魔術を教え、八上への嫌がらせを仕向けた。そして、それに苛まれた八上は須世理の所へ相談しに行き、それを聞いた須世理は調査のために八上宅へと伺う。


 ……と、ここまで、須世理は気多崎多聞による策略に嵌められていたのだ。しかし、気多崎の策略はそこまでしか叶わなかった。気多崎はその後、火事による須世理殺害を試みたが、それは失敗した。だから、気多崎はこうやって現在実力行使に出ているわけだ。


 そう言えば、火事の原因は事故と言われていたが、もしかすると気多崎の所為なのかもしれない。気多崎が今、掌に出現させている炎。それを使っての放火なのかもしれない。


「さすがだなぁ」


 気多崎が感嘆して、天を仰ぐ。


「だが、」


 気多崎は再びこちらを見据える。


「やはり忌々しい。その天才ぶりが忌々しい。俺はそれに壊された。それのおかげで執事なんて卑しい仕事をするに至った。ああ、忌々しい忌々しい。須世理琴音が忌々しい。――というわけで、殺します。ようやく殺せます。ありがたく思えよ。火葬の手間を省かせてやろうって言うんだからな!」


 刹那、気多崎の掌の上の炎が一気に膨れ上がる。俺はとにかく須世理を庇うようにする。


「庇っても無駄だ! みんな燃えるんだからっ!!」


 くそ! どうする! 八上は目の前の出来事に驚いているのか、腰を抜かし壁にもたれたまま一向に動く気配がない。完全に呆けている。八上は宛てにならない。


 くそ! どうする! 俺は、俺たちはこのまま焼かれて死んでしまうのか! こんなところで、死ぬ人間なのかよ!? 俺は!? どうする? もういっそのこと神頼みか!? ご都合主義の神様に願うしかないか? 


――どうか無事でいられますように、と。


「キャァッハハ八っはははははははは――――っ!?」


 狂気じみた笑い声を発しながら、気多崎が腕を振った。ボゥワッ!? と、炎が舞う。そして――その炎は放たれる。紅蓮で深紅で、見るからに熱そうな炎の塊がこちらへ無慈悲に迫って来る!


 俺は――

 俺は――!

 俺は――!!


 ――――何も、対処できなかった。


 眼前に広がる赤色、紅色、朱色。爆炎は俺たちを包み込む。ああ、燃やされる。この期に及んで、俺の抱いた感想はそんなものだった。死ぬことに焦ることなく、ただ燃やされるんだなぁと思っただけだった。


 人は突飛な死に見舞われたとき、焦燥感に駆られるのかと思ったが、そうでもない。人は突飛な死に見舞われたら、ただ死ぬんだなぁと淡白な感想を抱くだけなんだ。


 ああ、燃やされるんだなぁ。


 ああ、死ぬんだなぁ。


 死にたくないけど、死ぬんだなぁ……。


 背中に須世理のぬくもりを感じながら、俺は死――


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