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オカルト探偵・須世理琴音の不可思議事件覚帖  作者: 硯見詩紀
第三章 悪夢を現実にしてはならぬ
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第9話

 両手が塞がっていて口元を覆えない。それは、あまりにも苦痛だった。


 一方的に煙を吸い込んでしまう。とにかく苦しい。そして、意識のない須世理を背負うのもなかなかに辛い。


 女の子は軽いものだと思っていたが、そうでもないのだ。高校二年生女子の平均体重は確か……五二キロくらいだったか? たぶん、須世理もそのくらいだろう。考えてみると、俺は今五二キロの錘を背負っているようなもの。


 とにかく外へ出ないと。八上曰く、今いる場所からなら正面玄関から外へ出るのが一番近いルートらしい。なので、俺たちは正面玄関を目指していた。


 遠くで何かが倒壊する音が聞こえる。そんな音を聞くと、早くしないと、と焦ってしまう。たぶん、この屋敷が全壊するのは時間の問題だろうから。


 ……ヤバいな。俺も若干、一酸化炭素にやられたか。息苦しくなってきた。くそ。早く、早く行かないと。自然、足早になる。八上も八上で、必死になって俺について来る。炎を突っ切ったり、燃え盛る柱の隙間を掻い潜ったり。危機を幾度も乗り越えながら、ようやく正面玄関までやって来た。


「扉はわたしが開けるよ」


 そう言って、八上は駆け足で俺の先を行く。


 ――と、そのとき、メキ、という不気味な音を俺は聞いた。ふと見上げれば、そこには巨大なシャンデリア。この屋敷へ入る際にも見上げた大きな大きなシャンデリア。そのシャンデリアは炎に包まれていた。


 不意に、俺は思い出す。


 そう言えば、八上卯白の悪夢は、燃えた何かが上から落ちてくるところで決まって終わるらしい。それは、俺が思うに八上の死を暗示しているのだろう。……もしかして!? という予感が脳裡をよぎる。


「八上! 逃げろっ!」


 俺は叫んだ。矢庭に、天井に吊るされた燃え盛るシャンデリアがガクッと揺らいだ。予感が……予感が……俺の予感が当たった!


 突飛なことで八上が動けないでいる。くそ! 何やっている! 今にもシャンデリアはその支えを失わんとしている。今、シャンデリアを支えているのは一本の鎖だけ。その鎖は、今にも切れそうだ。早くしないとシャンデリアが落下してきて、本当に潰されてしまうぞ!?


 俺は駆け出した。須世理を背負ったまま、我武者羅に駆け出した。そして、俺は八上にタックルする。八上は「きゃっ」と可愛らしい声を発し、俺に弾かれる。八上はそのまま飛ばされ、尻餅を着いた。とりあえず、シャンデリアの下からは逃れたので、八上がシャンデリアに潰される危険性は取り除けた。


 ホッと、胸を撫で下ろした刹那――またシャンデリアが音を立ててさらにガクッと揺れる。そして、そのまま鎖が――切れた。ブチン、という音が本当に聞こえた。


「杵築くん!」


 八上の叫ぶ声。俺は、ハッとなって、前へ駆ける。しかし、走ったくらいでは落下してくるシャンデリアの猛威からは逃げられない。そこで、俺は跳んだ。須世理を背負っているので、背中から着地することはできず、俺はうつ伏せのまま着地する。腹を打った。痛かった。背後で、ガラシャン! とけたたましく甲高い音が耳を劈いた。落ちたときに舞い上がったシャンデリアのガラス片が降り注ぐ。だが――俺は生きている。俺も須世理も八上も、みんな生きている! ははは。つい、口元が綻んだ。生きているって素晴らしい。


 俺は立ち上がる。先ほどの打撲が滲むように痛かった。でも気にするほどじゃない。そして、八上が玄関の扉を開けた。鍵は開いていた。


 新鮮な空気が一気に流れ込んでくる。すーはー、と。その空気を俺は吸い込んだ。スッキリした。そよ風が当たる。気持ちよかった。


 消防団員や救急救命士が寄ってきて、俺たちを介抱する。須世理は俺から引き離され、ストッレッチャーに寝かされて、救急車に乗せられた。そして、須世理を乗せた救急車はサイレンを鳴らしながら、発進。向かう先はおそらく病院だろう。いや、絶対病院じゃなきゃおかしいだろう。


 俺も八上も、大事を取ってだとか、一応だとか救急救命士に言われて、救急車に乗り込んだ。つーか、乗せられた。救急車は発進して、俺たちも須世理同様病院へと運ばれた。


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