第6話
用意された晩御飯はフレンチだった。俺は、ままならないテーブルマナーでぎこちなくそれを食べた。正直、食った気がしなかった。うん、もし可能ならあとでコンビニにでも出掛けよう。
晩御飯を食べた後はお風呂だ。この家には浴場が二つあった。男湯と女湯だ。おかげで、うっかり女子のお着替え現場に遭遇なんて目に遭うことはなかった。いやー、よかった。
そして、風呂を上がってからは、訊き込みを再開――なんてことはせず、八上に半ば押し切られながらポーカーやらウノやら挙句の果てには『大乱闘ナントかナントカーズ』とか言うテレビゲームをして、遊んだのだった。
そして、時刻は一一時三〇分。都鳥さんから「そろそろお眠りになられませ」と宥められ、そこで遊技は終了した。
部屋に戻ると、須世理はばたんきゅーとベッドに倒れ込むようにして眠りについた。おいおい、無防備だな、おい。俺が目の前にいるのにも拘らず、俺の目の前でぐーすかぴーと寝息を立てて、まるで人形のように眠っている。そうやって気持ちよさそうにすやすやと眠られると俺の中にある狼的な部分が……あれ? 湧いてこない。あー、なるほど。なるほどなるほど。うむうむ。分かったぞ。何故、須世理の寝姿を見て、狼になれないのか。それはずばり! こいつの胸が寂しいからだ! 男たる者、欲情するのは巨乳オンリーなんだよ。別に須世理に魅力がないと言っているわけではない。こいつにも魅力はある。人形的な美しさという魅力が。でも、それ故なのかどうなのか、理性が飛んでどうにかしてやろうという感情には至らない。
まあ別にどうでもいいや。どうせ、俺にはそんな度胸はない。目の前に巨乳がいたって、そんな度胸がないから何もしない。俺はそういうヘタレ人間だ。
それよりも、腹が減った。食った気になれなかったフレンチの所為と、いろいろと遊んだ所為だ。……コンビニへ行こう。夜遅いが、たまには夜食もいいだろう。
そう思い立ち、俺はスマフォと財布をジャージのポケットに突っ込んで部屋を出た。
部屋を出て、玄関の方へ向かう。……と、そこであることを思う。勝手に抜け出していいものなのだろうか? 誰かに一言、言っておいた方がいいだろう。よし、使用人を捜して、そいつにちょっと外に出たいんだけどと言おう。
誰かいないかと見回していると、
「どうかなさいましたか」
と、背後から声を掛けられた。薄暗い廊下でのことだったので、ちょっとビクッと肩を揺らして、振り返る。そこには一人の男がいた。青年だ。服装から見るに執事だろう。年齢おそらく俺よりも少しだけ上。言うなればメイドの都鳥さんくらいの年齢だ。
「あ、あの、ちょっと、外出してもいいっすか?」
「外出、でございますか? どのような用件で?」
「いや、ちょっとコンビニに」
「さようですか。何かお買い求めで? 内容によってはこちらで用意することも可能かと」
そうは言っても、何か食べるものとか言って俺の口に合わない無駄に豪華で高価なものを出されてもあれだしな。庶民は庶民らしくコンビニのおにぎりとかカップめんの方が割に合っているし、口にも合っている。おにぎりはどうか知らないが、さすがにこの家にカップめんは置かれていないだろうな。
「いや、外の空気も吸いたいし、お気遣いは結構です」
「さようですか。では、こちらへ。玄関はすでに施錠を済ましております。申し訳ありませんが、裏口の方から外出なさってください。案内いたします」
そして、俺は執事の案内で裏口まで連れていかれた。でも、裏口は正門とは反対の所にあった。無駄にデカい敷地だ。俺は家の裏から正門までの行き方を知らない。
「正門まで案内いたしましょう」
結局、俺は執事に正門まで案内された。途中、池とかバラ園とかが見えた。改めて、ここのデカさを思い知る。
「お帰りは大丈夫でしょうか?」
と、正門で執事にそう問われる。
「あ、はい。大丈夫です。道、憶えたし」
「さようですか。では、お気を付けて行ってらっしゃいませ。夜も遅いので、お帰りはできるだけ早くお願いします」
「あ、はい。お手数掛けました」
言うと、執事が「いえいえ」と言うように頭を下げた。俺も軽く会釈してその場を去った。
……あ、どうせならコンビニがどこにあるか聞いとけばよかったな。まあでも大丈夫でしょう。ここらの地理には詳しくないが、道はさほど複雑ではない。一本道だ。そこら辺を歩いていればコンビニだって見つかるだろう。
俺は、夜の街へと消えていった。




