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オカルト探偵・須世理琴音の不可思議事件覚帖  作者: 硯見詩紀
第二章 翡翠の姫、襲来
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第1話

 俺こと杵築出雲はオカルトを信じない人間だった。そんなものは存在しない。そう思っていた。


 でも、オカルトは存在する。俺の世界観はそういう風に書き換えられた。須世理琴音によって。


 俺は、妹の結祈の一件を通じてオカルト探偵である須世理の助手となった。おかげさまで、まあいろいろと聞かされた。


 この世界には魔術というものが存在すると、須世理は言った。結祈の部屋に起こったポルターガイスト現象は、英語圏の民間伝承であるクイックシルバーを基にした魔術だし、俺たちが中学校に侵入した際に使った透明化の魔術はソロモン七二柱の一柱であるグラシャ=ラボスの人を透明にする力にちなんだものだったらしい。


 須世理曰く、魔術とは意志の力により神話や伝承などに登場する超常現象を現実世界で実現させるものだそうだ。そもそも、有り得ないと思うから有り得ないので、有り得ないことを有り得ると思える意志があれば、不可思議現象は有り得るらしい。実現可能になるらしい。


 それじゃあ、俺にもできるんじゃないかと思ったが、彼女曰く「あなたの世界観はすでに固定されている。頭で、魔術やオカルトが存在すると認識しても、あなたの無意識がそれを認識していないの。だから、あなたには魔術が使えない」とのことだった。実際、魔術というものを行使してみようと思ったが、無理だった。


 その人の常識や世界観というものは、幼少期に確立されるもので、その幼少期の過ごし方がネックになる。須世理は魔術師の家系らしく、幼少のときから魔術が身近にあった。故に、須世理は根柢のところで魔術やオカルトは存在すると認識している。だから、魔術が使える。一方の俺はと言うと、幼少のときから普通な環境で過ごしてきた普通の人間だ。だから、根本的なところでオカルトや魔術を信じられていない。だから、魔術が使えない。


 でも、三枝咲絵は使えた。魔術を使って結祈に嫌がらせをしたのは紛れもなく一般人の三枝だ。


 それを須世理に訊くと、彼女は「自身の世界観を変えるほどの意志を持っていたからよ。魔術を使ってでも、嫌がらせをしたい。それほど結祈ちゃんを憎んでいた。その憎しみが魔術なんて存在しないという根柢の世界観を魔術は使えるという風に変化させた」と言った。


 つまり、三枝は結祈を無茶苦茶憎んでいたわけだ。それこそ、呪いたくなるほどに。


 そして、俺はそんな魔術が原因となる不可思議事件(オカルト)を専門とする探偵の助手をすることになったわけだが、具体的には何をすればいいのだろうか?


 俺は、須世理にそれを訊いた。すると、彼女はこう答えた。


「探偵の助手の仕事なんて、昔から決まっているでしょう。あなたは、ただワトソン君であればいいのよ」


「は?」


「ホームズのお話は、ほとんどがワトソンの記録という体を取っているでしょう? だから、あなたは私の活躍を記録すればいいのよ。……まあ、つまりはあれね。事件の覚帖を執筆すればいいのよ。あとは適当に雑用」


「要するに、雑用か?」


「そういうことになるわね」


 というわけで、俺は須世理の助手……つーか、雑用をすることになった。事務所の掃除をしたり、須世理にコーヒーを淹れたり、須世理の荷物持ちをしたり、須世理の肩を揉んだり、須世理の命令に服従したり……雑用と言うか、奴隷みたいだった。


「この扱いは、助手っつーか、雑用っつーか、奴隷だよな?」


 と、須世理の助手であるというあり方に疑問を抱いたとき、俺はそう訊いた。須世理は、嗜虐的な笑みを作り、こう言った。


「これが、私の助手であるということなのよ。ワトソン君は黙って私の言うことを聞いてなさい」


「いやいや、実際のワトソン君はこんな扱い受けてないよね?」


「あなたは、ジョン・H・ワトソン本人ではないわ。だから、いいのよ。私のワトソン君は、それでいいの」


「……そうですか」


 というわけで、俺は須世理の奴隷みたいな助手となった。


 俺が須世理の助手となって一週間くらいが経った。天気予報では、そろそろ梅雨入りですなんて言っている。


 そんな矢先だった。俺は、また不可思議事件(オカルト)に遭遇する。


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