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7 宣戦布告

 そのまま逃げ切れず、部屋の前までついてきたレオンを私はしぶしぶ部屋の中へ入れた。


「それで、共用スペースで何かあったんだろ」


 静かに、レオンが尋ねた。無理に聞き出そうとしない辺りがちょっと憎い。ふーっと小さく息を吐いてから、私は観念したように話し出した。


「えっと、ライドさんが明日のバイトが不安だからって会いに来て、部屋に上げるのもなんだから共用スペースでお茶しながら話してたんだけど」

「……うん」

「途中からなぜかレオンの話になって、レオンは異性だし、恋人でもないのに部屋に上げるのかって言われて、信頼してるからって言ったけどあんまり納得してない感じで」

「……ほう」

「ミリアちゃんたちに、私とレオンの仲を邪魔するのはやめろって言われてるし、離れ離れになった時お互い辛くなるから異世界人とは恋をしないって私が言っていたけど、それでも別に恋人でもなくレオンのことを何とも思っていないなら、私を諦めたくない、意識させたいとかなんとか言って」

「……は」

「レオンのことをどう思っているのか、教えてくれと言われたの」


 これを聞いてどんな顔をしているのか知りたいけど、でも怖くてレオンの顔が見れない。いや、レオンのことだからきっと怒ってる。何馬鹿なこと言ってるんだあいつは、とか思って絶対怒ってる気がする。


「……それで、なんて答えたんだよ」

「それは……わからない、とにかくライドさんやミリアちゃんたちと同じように大切な人だって言って、とにかくその場から離れたくて、掴まれてた手をほどいて走って逃げてきた」

「は?手を掴まれてた?……何してんだよあいつ、クソッ」


 ドスの効いた声が聞こえてきた。怖い、やっぱり怒ってる。


「なんか、あれだよね、拾ってくれて世話してくれた相手を好きって勘違いしてるだけだと思うんだよ。それなのに、あんなこと言われてびっくりしちゃった、ははは」


 なんとなくいたたまれなくなって無理に笑いながらそう言ってレオンの顔を見てから後悔した。レオンがめちゃめちゃ真面目な顔で私を見てる。宵の明けの空のような澄んだ美しい色の瞳に吸い込まれてしまいそうで、私は思わず息をのんだ。


 レオンがゆっくりと席を立つ。そして、静かに私の横に来て机に片手を置き、少しかがんで私の顔を覗き込む。駄目だ、そんな近距離、耐えきれない!思わずうつむくけど、レオンはその場から離れなかった。


「あいつをこの部屋に入れなかったのはいい判断だ。異性でも、俺だけをこの部屋に入れてくれるのは、ノゾミの言う通り信頼関係がきちんとできているからだって思う。その関係を築き上げるために、俺はずっと頑張って来た」


 レオンの低くよく通る声が耳にスッと入って来る。


「ノゾミが異世界人と恋愛しないと決めてることはなんとなく雰囲気でわかっていたし、いつもどこか見えない線をひかれていたこともわかってる。それでも、俺はノゾミが笑顔でいてくれればいい、この世界で楽しく幸せに暮らしてくれればいい。そして、俺はノゾミの側にいられればそれでいいと、本気で思っていた。でも」


 机に置いていた手がギュッと握られる。


「あいつがやってきてから、あいつがノゾミの心を揺らすたびに、俺の胸は苦しくなる。ノゾミの心にズカズカと土足で踏み込んで、ノゾミの心を乱すあいつが許せない。ノゾミを意識させたいだ?ふざけるなよ。俺がずっとしたくでもできなかった、あえてしないできたことを、あいつは簡単にやろうとしてる。……もうやめだ。今まで俺が我慢してきたこと、全部やめだ」


 どういうこと?驚いて思わず見上げると、レオンは私の頬にそっと手を添えてニヤリと微笑む。その微笑はあまりにも妖艶で、今まで見たこともない顔で、心臓がドンッと大きく高鳴る。


「俺はもう我慢しない。俺が我慢しているうちに突然やって来た奴にあっさりノゾミを奪われるくらいなら、俺はもう遠慮しない。俺だってノゾミを意識させる。俺が、ノゾミの心を奪って見せる」


 レオンの言葉に、どんどん全身の血が激流のように流れていくのがわかるし、顔が一気に熱くなる。どうしよう、絶対に顔が真っ赤だ。


「覚悟しておけよ、ノゾミ」


 そう言ってまた妖艶に微笑むと、私の頬をひと撫でしてレオンは私の部屋から出て行った。


「な、にが、起こったの……?」



 *



「うわーい!遊園地だー!」


 ミリアちゃんの楽し気な声が青空に響く。


 ライドさんとレオンとのやりとりから二週間後。この日、私はレオンとライドさん、ミリアちゃん、ラースさんとノルンさんと一緒になぜか遊園地へ来ていた。


「ミリア、運がいいから商店街のくじ引きで一等賞当たっちゃったんだよね!遊園地への招待券、しかも六枚も!ヤバくない?これはみんなで来るしかないでしょ!」


 六枚も当たることなんてあるんだ!?商店街、太っ腹すぎる。それにしても、自分以外の異世界人はみんな絵面が良すぎる。髪の色がピンクだったり銀色だったり紫だったりするのは普通に考えるとおかしいし目立つ。だけど、髪色に違和感を持たれない魔法がかかっているみたいなので、そのままでも問題ないらしい。


 でも、髪色が目立たなくなっていたとしても、やっぱりそもそもの造形がみんな素晴らしく美しいので、目を引くのだ。しかもスタイルまで良いときてる。今も、周囲からの視線がすごい。


「えっ、めっちゃ美男美女」

「映画の撮影かなんか?」

「えーっ、誰だろ、すごくない?あ、でもなんか、一人だけふっつーな人いるね」

「モブ?あの中に一人でいるの可愛そうw」


 はい、どうもモブです。皆で集まった中にいると、こうなることは当たり前。だって私はこっちの世界の一般人ですもの。視線が痛くて辛い。わかってはいたことだけど、やっぱり耐えられないかもしれない。


「あのー、やっぱり私、帰ろうかなと思うので後はみんなで遊園地、楽しんでね」

「えっ、なんで!?だめだよ、ノゾミンいなきゃつまんない」


 ミリアちゃんがそう言って泣き真似をする。うう、そんなこと言われてもなぁ。困っていると、グイっと手を掴まれた。えっ、なに?


「ノゾミが帰るなら俺も一緒に帰る」


 レオンだ。レオンが私の手を掴んでいる。それを見て、近くにいた女の子から悲鳴が聞こえてきた。


「レオンが帰るなら俺も一緒に……うおっ」


 ガンッ!


 ミリアちゃんがすかさずライドさんに小さくけりを入れる。


「ライドさんはぁ、可愛いミリアの護衛をしなきゃでしょーお?それに二人の邪魔すんなって言ったよね?ミリア言ったよね?聞いてなかった?」


 ズゴゴゴゴ、とものすごい気迫でミリアちゃんがライドさんに詰め寄っている。ラースとノルンさんは後ろの方でしれっとした顔でライドさんを見ていて、ライドさんは顔を青ざめながら後ずさりしていた。


「どうする?」

「んーっ、わかった!わかりました!帰りません」

「やったー!あ、でもこんだけ固まって歩くとさすがに目立つもんね。ノゾミンとレオンだけ二人で行動しなよ」


 じゃーねー!と言ってミリアちゃんはライドさんの腕を引っ張りながら逆サイドの方へ歩いていく。ラースとノルンさんもやれやれと言った顔でミリアちゃんの後を追いかけていった。


「……置いて行かれちゃったね」


 ポツン、とその場に取り残された私たち。途方に暮れていると、レオンが私の手を引っ張って歩き出した。


「え?」

「二人で回ればいいんだろ。あ、そうだ、これ」


 立ち止まって何かと思えば、被っていたキャップを抜いで私の頭に被せる。少しだけ大き目なキャップは、私の顔をそれなりに隠してくれている。


「それ被ってれば周りの目線も気にならないだろ」

「あ、ありがと……」


 レオンはそういう所よく気が付くし、優しいんだよね。胸がなんだかこそばゆい。この間、宣戦布告をされてからどうしていいかわからず、なんとなくレオンのことを避けてしまっていたので、こうして普通に話せるんだ、と少しホッとした。




 二人きりの遊園地、最初は緊張しちゃうかなと思っていたけど意外にも楽しめている。レオンは絶叫系に乗っても飄々としていて、どんだけ心臓強いんだろう……?と驚いてしまった。

 ジェットコースターに乗ったあと、私がちょっと休憩したいと言ってベンチに座っている。近くにあった売店でレモンスカッシュを頼んで、ふーっと息をついた。


「レオン、ジェットコースター平気なんだね?」

「別に怖くも何ともないな。風を浴びるのは気持ちいいとは思うけど」


 えええ、何その感想。レオンは何に驚いたりするんだろうな?


「あ、あと、ノゾミの悲鳴が聞けたのは良かった。いつもなら絶対に見られないような顔もしてたし、フフッ、ノゾミはああいうの弱いんだな」

「うっ、そんなこと言わないでよ!確かに強くはないんだよね……乗った後に後悔するんだけど、でもやっぱりつい乗りたくなっちゃうんだもん」


 そう言うと、レオンは私の顔を見ながら優しく微笑んでいる。何その顔。そんな優しそうな、愛おしいものを見るような目で見られたら、どうしていいかわからない。


「レオン……」


 ふと、近くでレオンの呼ぶ声がして視線を向けると、そこには若い男女がいた。男性はふわりとした明るめの茶髪に黄緑色の瞳の少し中性的な顔立ち、隣の女性は肩にかかるくらいの濃い茶髪で眼鏡をかけた穏やかそうな女性だ。男性が、レオンを見て目を大きく見開いている。


「ディオ?お知り合い?」


 隣の女性が男性の名前を呼びながら首をかしげている。


「レオン、もしかして知り合いなの……」


 そう尋ねようとしてレオンの顔を見た瞬間、絶句した。レオンの顔はあり得ないというような表情で、青ざめ、冷や汗をかいていた。




 

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